特許第6333386号(P6333386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333386
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】水晶振動子の交換方法および膜厚モニタ
(51)【国際特許分類】
   G01B 17/02 20060101AFI20180521BHJP
【FI】
   G01B17/02
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-537739(P2016-537739)
(86)(22)【出願日】2015年7月21日
(86)【国際出願番号】JP2015003643
(87)【国際公開番号】WO2016017108
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2016年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-156220(P2014-156220)
(32)【優先日】2014年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 治郎
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−160057(JP,A)
【文献】 特開2014−070969(JP,A)
【文献】 特表2005−515438(JP,A)
【文献】 特開平05−162562(JP,A)
【文献】 特開平07−183049(JP,A)
【文献】 特開2008−276998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 17/00−17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機膜用の膜厚センサにおける水晶振動子交換方法であって、
センサヘッドに装着された複数の水晶振動子のうち1つの水晶振動子を発振させ、
前記1つの水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅を測定し、
前記変動幅が所定値を超えときは、発振させる水晶振動子を前記1つの水晶振動子から他の1つの水晶振動子に交換する
水晶振動子の交換方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水晶振動子の交換方法であって、
前記変動幅を、成膜時に測定する
水晶振動子の交換方法。
【請求項3】
請求項1に記載の水晶振動子の交換方法であって、
前記変動幅を、非成膜時に測定する
水晶振動子の交換方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の水晶振動子の交換方法であって、
前記変動幅を測定する工程では、一定期間における前記発振周波数の変化率の変動幅の標準偏差が測定される
水晶振動子の交換方法。
【請求項5】
第1および第2の水晶振動子を支持するホルダと、前記ホルダを回転可能に収容するケーシングと、前記第1の水晶振動子に対向して形成され蒸着物質が通過可能な窓部とを有するセンサヘッドと、
前記第1の水晶振動子を発振させ、前記第1の水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅を測定し、前記変動幅が所定値を超えたときは、前記第2の水晶振動子が前記窓部に対向する位置に前記ホルダを回転させ、前記第2の水晶振動子を発振させる測定ユニットと、
を具備する膜厚モニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子を有する膜厚センサの診断方法および膜厚モニタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空蒸着装置などの成膜装置において、基板に成膜される膜の厚みおよび成膜速度を測定するために、水晶振動子を用いた微量な質量変化を計測する方法(QCM:Quartz Crystal Microbalance)という技術が用いられている。この方法は、チャンバ内に配置されている水晶振動子の発振周波数が、蒸着物の堆積による質量の増加によって減少することを利用したものである。したがって、水晶振動子の発振周波数の変化を測定することにより、膜厚および成膜速度を測定することが可能となる。
【0003】
一方、QCMによる膜厚測定に際して、水晶振動子上に薄膜が厚く成膜されると膜の剥離や内部応力の蓄積によって水晶振動子の発振が不安定になったり、周波数測定範囲から外れるようになったりする。この状態では、もはや適正な膜厚測定を行うことが不可能であるため、上記現象が生じた時点で当該水晶振動子は寿命であると判断して、新しい水晶振動子に切り替える必要がある。
【0004】
例えば特許文献1には、複数の水晶振動子を支持するホルダを回転可能に収容し、水晶振動子の発振周波数が所定の変動許容範囲を逸脱したときは、当該水晶振動子が寿命を迎えたと判断して、ホルダを回転させて、新しい水晶振動子に切り替えるように構成されたセンサヘッドが記載されている(特許文献1、段落[0023])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3953301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の膜厚センサにおいては、成膜材料が金属材料である場合と有機物材料である場合とで、水晶振動子の発振周波数の変化が顕著に異なる。
例えば、金属膜の場合では、着膜量の増加に伴って、水晶振動子の発振周波数が徐々に低下し、所定の周波数に達すると突然、発振周波数が大きく変化する。したがって発振周波数の急変を確認するまでは比較的安定に膜厚を測定することができるため、発振周波数の急変が生じた段階で当該水晶振動子を使用できない状態(すなわち寿命)であると判断することができる。
これに対して有機膜の場合には、着膜量の増加に伴って、水晶振動子の発振周波数が低下すると同時に、もはや安定した膜厚測定を行うことができないほどに周波数の変動が大きくなる。したがって有機膜を成膜する場合は、金属膜を成膜する場合と比較して、測定可能な膜厚量が非常に少ない。このため、安定した成膜処理を実施する上では、水晶振動子の適正な寿命判定が不可欠となる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水晶振動子の適正な寿命判定を行うことができる膜厚センサの診断方法および膜厚モニタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態に係る膜厚センサの診断方法は、水晶振動子を有する膜厚センサの診断方法であって、センサヘッドに装着された水晶振動子を発振させることを含む。
上記水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅が測定される。
上記変動幅が所定値を超えるときは、上記水晶振動子は使用できないと判定される。
【0009】
膜厚および成膜レートは、水晶振動子の発振周波数の変化率に比例する。したがって、成膜レートが安定に推移することは、水晶振動子の発振周波数の変化率が安定であることを意味する。一方、水晶振動子が寿命に近づくと、水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅が大きくなる。そこで上記診断方法においては、水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅(すなわち発振周波数のサンプリングごとの差分)に基づいて水晶振動子の寿命か否かを判定することで、水晶振動子の適正な寿命判定を行えるようにしている。これにより、水晶振動子の寿命をいち早く検出することができるようになり、水晶振動子の寿命に起因する膜厚制御の悪化などを未然に防止することが可能となる。
【0010】
上記変動幅の所定値は、水晶振動子の寿命判定(使用可否の判定)の基準値に相当するものであり、目的に応じて適宜設定することが可能である。上記所定値は、例えば、寿命に達したとみなされる大きさであってもよいし、当該寿命に達したとみなされる前の所定の大きさであってもよい。あるいは、上記所定値は、変動幅の大きさに応じて、段階的に複数設定されてもよい。
【0011】
水晶振動子の寿命(使用不可)を判定したときは、ユーザへ振動子の交換を促す警報(例えば、画面への表示、ブザーの鳴動、ランプの発光)を発してもよいし、膜厚センサが複数の水晶振動子を備える場合は、自動的に新しい水晶振動子に切り替える制御を実行してもよい。
【0012】
上記変動幅の測定は、成膜時に行われてもよいし、非成膜時に行われてもよい。正常な水晶振動子(寿命に達していない振動子、以下同じ。)の発振周波数の変化率の変動幅は、成膜中でも非成膜中でも安定している。このため、成膜時あるいは非成膜時に測定された上記変動幅に基づいて、水晶振動子の寿命判定を行うことができる。
【0013】
上記変動幅を測定する工程では、一定期間における上記発振周波数の変化率の変動幅の標準偏差が測定される。これにより、演算負荷を低減できるとともに、判定結果を速やかに取得することができる。サンプル点は特に限定されず、任意に設定可能である。
【0014】
本発明の一形態に係る膜厚モニタは、センサヘッドと、測定ユニットとを具備する。
上記センサヘッドは、第1および第2の水晶振動子を支持するホルダと、上記ホルダを回転可能に収容するケーシングとを有する。
上記測定ユニットは、上記第1および第2の水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅を各々測定し、前記変動幅が所定値を超える水晶振動子を使用できないと判定するように構成される。
【0015】
上記ケーシングは、典型的には、窓部を有する。上記窓部は、上記第1の水晶振動子に対向して形成され、蒸着物質が通過可能に構成される。上記測定ユニットは、上記第1の水晶振動子の寿命を判定したときは、上記第2の水晶振動子が上記窓部に対向する位置に上記ホルダを回転させるように構成される。
これにより、膜厚測定用の振動子を、第1の水晶振動子から第2の水晶振動子へ自動的に切り替えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水晶振動子の適正な寿命判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。
図2】上記成膜装置における測定ユニットの一構成例を示す概略ブロック図である。
図3】成膜開始後、成膜レートが大きく変動し、モニタリングができなくなったときの測定データの一例を示す実験結果である。
図4】成膜中および未成膜中(基板の交換中)における水晶振動子の発振周波数の変化率の一例を示す実験結果である。
図5図4における未成膜時の測定データの一部拡大図である。
図6図4における成膜時の測定データの一部拡大図である。
図7】寿命に達したと判定された水晶振動子の発振周波数の変化率を示す一実験結果である。
図8】本発明の一実施形態に係る膜厚モニタを示す概略構成図である
図9】上記膜厚モニタの一動作例を含む成膜装置の動作手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜装置を示す概略断面図である。本実施形態の成膜装置10は、真空蒸着装置として構成される。
【0020】
成膜装置10は、真空チャンバ11と、真空チャンバ11の内部に配置された蒸着源12と、蒸着源12と対向するステージ13と、真空チャンバ11の内部に配置された膜厚センサ14とを有する。
【0021】
真空チャンバ11は、真空排気系15と接続されており、内部を所定の減圧雰囲気に維することが可能に構成される。
【0022】
蒸着源12は、蒸着材料の蒸気(粒子)を発生させることが可能に構成される。本実施形態において、蒸着源12は、電源ユニット18に電気的に接続されており、有機材料(Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム))を加熱蒸発させて有機材料粒子を放出させる蒸発源を構成する。蒸発源の種類は特に限定されず、抵抗加熱式、誘導加熱式、電子ビーム加熱式などの種々の方式が適用可能である。蒸発材料は、上記以外の有機材料であってもよいし、金属材料、金属化合物材料などであってもよい。
【0023】
ステージ13は、半導体ウエハやガラス基板等の成膜対象である基板Wを、蒸着源12に向けて保持することが可能に構成されている。
【0024】
膜厚センサ14(センサヘッド)は、所定の基本周波数(固有振動数)を有する水晶振動子を内蔵し、後述するように、基板Wに堆積した有機膜の膜厚および成膜レートを測定するためのセンサヘッドを構成する。上記水晶振動子には、例えば、比較的温度特性に優れたATカット水晶振動子が用いられ、上記所定の基本周波数は、典型的には5〜6MHzであり、本実施形態では、5MHzである。膜厚センサ14は、真空チャンバ11の内部であって、蒸着源12と対向する位置に配置される。膜厚センサ14は、典型的には、ステージ13の近傍に配置される。
【0025】
膜厚センサ14の出力は、測定ユニット17(膜厚制御装置)へ供給される。測定ユニット17は、水晶振動子の発振周波数の変化に基づいて、上記膜厚および成膜レートを測定するとともに、当該成膜レートが所定値となるように蒸着源12を制御する。膜厚センサ14および測定ユニット17は、本発明に係る「膜厚モニタ」を構成する。
【0026】
QCMの吸着による周波数変化と質量負荷の関係は、以下の式(1)で示すSauerbreyの式が用いられる。
【0027】
【数1】
【0028】
式(1)において、ΔFsは周波数変化量、Δmは質量変化量、f0は基本周波数、ρQは水晶の密度、μQは水晶のせん断応力、Aは電極面積、Nは定数をそれぞれ示している。
【0029】
成膜装置10は、シャッタ16をさらに有する。シャッタ16は、蒸着源12とステージ13との間に配置されており、蒸着源12からステージ13および膜厚センサ14に至る蒸着粒子の入射経路を開放あるいは遮蔽することが可能に構成される。
【0030】
シャッタ16の開閉は、図示しない制御ユニットによって制御される。典型的には、シャッタ16は、蒸着開始時、蒸着源12において蒸着粒子の放出が安定するまで閉塞される。そして、蒸着粒子の放出が安定したとき、シャッタ16は開放される。これにより、蒸着源12からの蒸着粒子がステージ13上の基板Wに到達し、基板Wの成膜処理が開始される。同時に、蒸着源12からの蒸着粒子は、膜厚センサ14へ到達し、測定ユニット17において基板W上の蒸着膜の膜厚およびその成膜レートが監視される。
【0031】
続いて、測定ユニット17について説明する。
図2は、測定ユニット17の一構成例を示す概略ブロック図である。測定ユニット17は、発振回路41と、測定回路42と、コントローラ43とを有する。
【0032】
発振回路41は、膜厚センサ14の水晶振動子20を発振させる。測定回路42は、発振回路41から出力される水晶振動子20の発振周波数を測定するためのものである。コントローラ43は、測定回路42を介して水晶振動子20の発振周波数を単位時間毎に取得し、基板W上への蒸着材料粒子の成膜レートおよび基板Wに堆積した蒸着膜の膜厚を算出する。コントローラ43はさらに、成膜レートが所定値となるように蒸着源12を制御する。
【0033】
測定回路42は、ミキサ回路51と、ローパスフィルタ52と、低周波カウンタ53と、高周波カウンタ54と、基準信号発生回路55とを有する。発振回路41から出力された信号は、高周波カウンタ54に入力され、先ず、発振回路41の発振周波数の概略値が測定される。高周波カウンタ54で測定された発振回路41の発振周波数の概略値は、コントローラ43に出力される。コントローラ43は、測定された概略値に近い周波数の基準周波数(例えば5MHz)で基準信号発生回路55を発振させる。この基準周波数で発振した周波数の信号と、発振回路41から出力される信号とは、ミキサ回路51に入力される。
【0034】
ミキサ回路51は、入力された2種類の信号を混合し、ローパスフィルタ52を介して低周波カウンタ53に出力する。ここで、発振回路41から入力される信号をcos((ω+α)t)とし、基準信号発生回路から入力される信号をcos(ωt)とすると、ミキサ回路51内でcos(ωt)・cos((ω+α)t)なる式で表される交流信号が生成される。この式は、cos(ωt)とcos((ω+α)t)を乗算した形式になっており、この式で表される交流信号は、cos((2・ω+α)t)で表される高周波成分の信号と、cos(αt)で表される低周波成分の信号の和に等しい。
【0035】
ミキサ回路51で生成された信号は、ローパスフィルタ52に入力され、高周波成分の信号cos((2・ω+α)t)が除去され、低周波成分の信号cos(αt)だけが低周波カウンタ53に入力される。すなわち、低周波カウンタ53には、発振回路41の信号cos((ω+α)t)と、基準信号発生回路55の信号cos(ωt)との差の周波数の絶対値|α|である低周波成分の信号が入力される。
【0036】
低周波カウンタ53は、この低周波成分の信号の周波数を測定し、その測定値をコントローラ43へ出力する。コントローラ43は、低周波カウンタ53で測定された周波数と基準信号発生回路55の出力信号の周波数とから、発振回路41が出力する信号の周波数を算出する。具体的には、基準信号発生回路55の出力信号の周波数が、発振回路41の出力信号の周波数よりも小さい場合には、発振回路41の出力信号に低周波成分の信号の周波数を加算し、その逆の場合には減算する。
【0037】
例えば、高周波カウンタ54による発振回路41の発振周波数の測定値が5MHzを超えており、基準信号発生回路55を5MHzの周波数で発振させた場合には、基準信号発生回路55の発振周波数は、発振回路41の実際の発振周波数よりも低くなる。したがって、実際の発振回路41の発振周波数を求めるためには、低周波カウンタ53で求めた低周波成分の信号の周波数|α|を、基準信号発生回路55の設定周波数5MHzに加算すればよい。低周波成分の周波数|α|が10kHzであれば、発振回路41の正確な発振周波数は5.01MHzとなる。
【0038】
低周波カウンタ53の分解能には上限があるが、その分解能は、上記差の周波数|α|を測定するために割り当てることができるため、同じ分解能で発振回路41の発振周波数を測定する場合に比べ、正確な周波数測定を行うことができる。
【0039】
また、基準信号発生回路55の発振周波数はコントローラ43によって制御されており、その発振周波数を、差の周波数|α|が所定値よりも小さくなるように設定することができるため、低周波カウンタ53の分解能を有効に活用することができる。求められた周波数の値は、コントローラ43に記憶される。コントローラ43は、求められた周波数の値から、上記式(1)で示す演算式を用いて、基板W上に堆積した蒸着材料の膜厚および成膜レートを算出する。
【0040】
コントローラ43は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のコンピュータに用いられるハードウェア要素および必要なソフトウェアにより実現され得る。CPUに代えて、またはこれに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)等が用いられてもよい。
【0041】
[水晶振動子の寿命判定]
ところで、この種の膜厚センサは、有機膜を成膜する場合、着膜量の増加に伴って、水晶振動子の発振周波数が徐々に低下すると同時に、もはや安定した膜厚測定を行うことができないほどに周波数の変動が大きくなる。したがって有機膜を成膜する場合は、金属膜を成膜する場合と比較して、測定可能な膜厚量が非常に少ない。このため、安定した成膜処理を実施する上では、水晶振動子の適正な寿命判定が不可欠となる。
【0042】
一方、水晶振動子の寿命(交換時期)を判定する方法として、水晶振動子の等価抵抗を測定する方法が知られている。この方法は、等価抵抗が所定値を超えたときに水晶振動子が寿命に達したとみなすもので、例えば、基本周波数5MHzの水晶振動子における上記所定値は20Ωとされる。なお、水晶振動子に流れる電流を測定する方法も知られているが、この方法は、水晶振動子にかかる電圧は一定であるので、水晶振動子の等価抵抗を測定することと同義である。
【0043】
しかしながら、本発明者の実験によれば、水晶振動子の等価抵抗は、水晶振動子の不良や寿命とは相関がないことが確認されている。図3は、成膜開始後、成膜レートが大きく変動し、モニタリングができなくなったときの測定データの一例を示す。このときの水晶振動子の等価抵抗を測定すると15.2Ωであり、正常(20Ω以下)とみなされる範囲のものであった。
【0044】
本実施形態では、水晶振動子の寿命(交換時期)を判定するに際して、水晶振動子の等価抵抗ではなく、その発振周波数の変化率の変動幅を基準としている。すなわち本実施形態に係る膜厚センサの診断方法は、水晶振動子20を発振させ、水晶振動子20の発振周波数の変化率の変動幅を測定し、上記変動幅が所定値を超えるときは、水晶振動子20を寿命(使用できない)と判定するようにしている。
【0045】
膜厚および成膜レートは、水晶振動子20の発振周波数の変化率に比例する。したがって、成膜レートが安定に推移することは、水晶振動子20の発振周波数の変化率が安定であることを意味する。一方、水晶振動子20が寿命に近づくと、水晶振動子20の発振周波数の変化率の変動幅が大きくなる。そこで本実施形態においては、水晶振動子20の発振周波数の変化率の変動幅(すなわち発振周波数のサンプリングごとの差分)に基づいて水晶振動子20の寿命か否かを判定することで、水晶振動子20の適正な寿命判定を行えるようにしている。これにより、水晶振動子20の寿命をいち早く検出することができるようになり、水晶振動子20の寿命に起因する膜厚制御の悪化などを未然に防止することが可能となる。
【0046】
上述した水晶振動子20の寿命判定は、測定ユニット17におけるコントローラ43によって行われる。コントローラ43は、測定回路42において測定された水晶振動子20の発振周波数(F)の変化率(ΔF)の変動幅(Δ2F)を算出し、その変動幅(Δ2F)が所定値を超えるか否かを判定し、その変動幅(Δ2F)が所定値を超えるときは、当該水晶振動子20を寿命と判定するように構成される。
【0047】
上記所定値は、水晶振動子20の寿命判定の基準値に相当するものであり、目的に応じて適宜設定することが可能である。本実施形態において上記所定値は、例えば0.1Hzに設定される。上記所定値は、例えば、寿命に達したとみなされる大きさであってもよいし、当該寿命に達したとみなされる前の所定の大きさであってもよい。あるいは、上記所定値は、変動幅の大きさに応じて、段階的に複数設定されてもよい。
【0048】
水晶振動子20の周波数変化率の変動幅(ΔF2)を測定する工程では、一定期間における発振周波数の変化率の標準偏差が測定されてもよい。これにより、演算負荷を低減できるとともに、判定結果を速やかに取得することができる。サンプル点は特に限定されず、任意に設定可能である。この場合、上記標準偏差が所定値を超える場合に水晶振動子20の寿命と判定される。上記標準偏差の所定値としては、例えば0.1Hzとされる。
【0049】
コントローラ43は、水晶振動子20の寿命を判定したときは、例えば、ユーザへ水晶振動子20の交換を促す警報(例えば、画面への表示、ブザーの鳴動、ランプの発光)を発するように構成される。あるいは、膜厚センサ14が複数の水晶振動子を備える場合は、コントローラ43は、後述するように、自動的に新しい水晶振動子に切り替える制御を実行するように構成されてもよい。
【0050】
水晶振動子20の発振周波数の変動幅の測定は、成膜時に行われてもよいし、非成膜時に行われてもよい。図4は、成膜中および未成膜中(基板Wの交換中)における水晶振動子20の発振周波数の変化率(ΔF)の一例を示す実験結果である。蒸着材料には、Alq3(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)を用いた。
【0051】
図4に示すように、正常な水晶振動子20における周波数変化率(ΔF)は、成膜中でも非成膜中でもほぼ一定の値で安定に推移している。このため、成膜時あるいは非成膜時における周波数変化率の変動幅(Δ2F)に基づいて、水晶振動子20の寿命判定を行うことができる。
【0052】
図5は、図4における未成膜時の測定データの一部拡大図、図6は、図4における成膜時の測定データの一部拡大図である。図5および図6に示すように、非成膜時および成膜時において、発振周波数の変化率の変動幅(Δ2F)はそれぞれ0.03Hz以内におさまっている。図示の例においては、非成膜時および成膜時のいずれについても変動幅(Δ2F)の標準偏差は、0.005Hzであった。
【0053】
一方、図7は、寿命に達したと判定された水晶振動子20の発振周波数の変化率(ΔF)を示す一測定データである。このときの変動幅(Δ2F)は2Hzであり、その標準偏差は0.5Hzであった。
【0054】
以上のように本実施形態によれば、例えば成膜前あるいは成膜中に、発振周波数変化率の変動幅(ΔF2)あるいはその標準偏差を算出することで、水晶振動子20の不良や寿命(交換時期)を適正かつ容易に判定することができる。特に、比較的早期に水晶振動子が寿命に達する有機膜の成膜に際して、水晶振動子20の寿命をいち早く判定することが可能となる。
【0055】
なお、水晶振動子20の発振周波数変化率の変動幅(Δ2F)あるいはその標準偏差を測定する代わりに、成膜レートの変動幅で水晶振動子20の寿命を判断することも可能である。しかし、成膜レートは周波数変化と蒸着材料の密度から膜厚に換算したものであり、更には基板に対するセンサ位置に関する補正係数を乗じることが多いため、水晶振動子の寿命判定という観点からでは、水晶振動子の周波数変化率の変動自体をみる方がより本質的である。
【0056】
<第2の実施形態>
続いて、本発明の他の実施形態について説明する。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0057】
図8は、本実施形態に係る膜厚モニタ100を示す概略構成図である。膜厚モニタ100は、膜厚センサ140(センサヘッド)と、測定ユニット17とを有する。
【0058】
膜厚センサ140は、複数の水晶振動子(本例では12個)201〜212を支持することが可能なホルダ141と、ホルダ141を回転可能に収容するケーシング142とを有する。
【0059】
ホルダ141は円盤形状を有し、複数の水晶振動子201〜212は、ホルダ141の周縁近傍に等角度間隔で装着される。ホルダ141は、ケーシング142の内部において図中矢印方向に上記等角度間隔で間欠的に回転することが可能に構成されている。
【0060】
ケーシング142は、ホルダ141を回転可能に支持する回転軸142aと、ホルダ141を回転軸142aのまわりに回転させる駆動機構(図示略)とを有する。駆動機構は、測定ユニット17から入力される制御信号によって、ホルダ141を図中矢印方向に所定角度ずつ回転させるように構成される。
【0061】
ケーシング142は、ホルダ141に装着された複数の水晶振動子201〜212のうち、1つの水晶振動子のみを外部(蒸着源12)へ露出させる窓部143を有する。図示の例では、窓部143を介して水晶振動子201が露出されている。
【0062】
さらにケーシング142には、窓部143の回転位置にある水晶振動子を測定ユニット17へ電気的に接続するための電極ユニット144が設けられている。電極ユニット144は、窓部143の近傍に配置されており、ホルダ141の回転により窓部143に対向する位置に移動された水晶振動子と接触するように構成されている。
【0063】
図9は、膜厚モニタ100の一動作例を含む成膜装置の動作手順を示している。
【0064】
まず成膜前に、膜厚センサ140のホルダ141に12個の水晶振動子201〜212が装着される(ステップ101)。水晶振動子201〜212には、典型的には、同種の水晶振動子が用いられる。
【0065】
続いて、全ての水晶振動子201〜212について、発振動作の良否が判定される(ステップ102)。この工程は、ホルダ141を間欠回転させることで全水晶振動子201〜212を順次電極ユニット144に接続し、測定ユニット17によって各振動子を所定時間、所定の駆動電圧で発振させる。このとき測定ユニット17は、水晶振動子の発振周波数の変化率の変動幅を測定し、これが所定値を超える水晶振動子を不良と判定する。不良と判定された水晶振動子は、別の新しい水晶振動子に交換される(ステップ103)。
【0066】
水晶振動子201〜212の良否判定は、水晶振動子201〜212の特性を確認する予備的なものであるため、必要に応じて省略することができる。本実施形態によれば、第1の実施形態で説明したように非成膜中の水晶振動子の発振周波数の変化率が安定であることを利用したものであり、当該変化率の変動幅あるいはその標準偏差に基づいて、各水晶振動子201〜212の発振動作の良否が判定される。
【0067】
次に、図1を参照して、ステージ13に基板Wが載置され、蒸着源12に蒸着材料が供給された後、真空排気系15によって真空チャンバ11が所定の減圧雰囲気に排気される。そして、シャッタ16が開放されて、基板Wへの蒸着材料の成膜が開始される(ステップ104)。このとき、膜厚モニタ100は、水晶振動子201を用いて基板Wの表面に堆積される蒸着材料の膜厚および成膜レートを監視する。
【0068】
測定ユニット17のコントローラ43は、成膜中の水晶振動子201の発振周波数の変化率の変動幅を測定することで、上述の第1の実施形態と同様な方法で当該水晶振動子が寿命に達したか否かを判定する(ステップ105)。コントローラ43は、水晶振動子201が寿命に達していないと判定したときはそのまま発振を継続させる。
【0069】
一方、コントローラ43は、水晶振動子201が寿命に達したと判定したときは、水晶振動子201から新しい水晶振動子202に交換するべく、膜厚センサ140へ制御信号を出力する(ステップ106,107)。これにより、ホルダ141が図8において矢印方向に所定角度回転することで、水晶振動子201に代わって、水晶振動子202が窓部143に対向する位置に配置されるとともに電極ユニット144に接続される。以降、水晶振動子202を用いたレート測定および膜厚測定が行われる。
【0070】
水晶振動子201から水晶振動子202への交換は、典型的には、基板Wへの成膜を中断することなく行われる。交換中の膜厚および成膜レートの計測には、交換直前の水晶振動子201の測定データと交換直後の水晶振動子202の測定データとが併用される。
【0071】
基板Wへの所定厚みの成膜が終了すると(ステップ108)、シャッタ16は図1に示すように閉塞し、ステージ13に対する基板Wの載せ替えが行われる。このとき測定ユニット17は、膜厚センサ140の水晶振動子202の発振動作を継続させ、このときの周波数変化率の変動幅に基づいて当該水晶振動子202の寿命判定を行う(ステップ109)。
【0072】
そして、上記変動幅が所定値を超える場合は水晶振動子202を寿命と判定し、上述のようにホルダ141を回転させて水晶振動子202を次の水晶振動子203へ切り替える(ステップ110,107)。一方、上記変動幅が所定値を超えておらず、水晶振動子202が未だ寿命に達していないと判定したときは、引き続き当該水晶振動子202を用いた成膜が開始される(ステップ110,104)。
【0073】
以後、上述の動作を繰り返すことで、複数枚の基板Wに対して成膜処理が実施される。膜厚センサ140は、すべての水晶振動子201〜212が寿命に達するまで継続して使用される。これにより、成膜装置10のスループットが向上し、生産性の向上が図れるようになる。
【0074】
以上、本実施形態によれば、成膜前または成膜中に水晶振動子201〜212の発振周波数の変化率の変動幅またはその標準偏差を測定することで、水晶振動子201〜212の不良あるいは寿命(交換時期)を判定することができる。
【0075】
これにより、水晶振動子の寿命をいち早く検出することができるようになり、水晶振動子の寿命に起因する膜厚制御の悪化などを未然に防止することが可能となる。また、水晶振動子の交換を自動的に行うことができるため、有機膜の成膜などのように水晶振動子が劣化しやすい成膜処理を安定に行うことができる。
【0076】
また、成膜前に水晶振動子201〜212の良否を判定することで、不良の水晶振動子を用いた成膜を回避することができるため、安定したレート制御あるいは膜厚測定を確保することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0078】
例えば以上の第2の実施形態では、成膜時および非成膜時の両方において水晶振動子の寿命判定を行うように構成されたが、水晶振動子の寿命判定は、成膜時および非成膜時のうちいずれか一方のみで行われてもよい。
【0079】
また以上の第2の実施形態では、膜厚センサ140に12個の水晶振動子が搭載されたが、水晶振動子の搭載数は勿論これに限られない。
【0080】
また以上の第2の実施形態では、成膜前の水晶振動子の良否判定において、不良と判定された水晶振動子は良品に交換されたが、これに代えて、当該不良と判定された水晶振動子はそのまま装着しておき、コントローラ43において良品と判定された水晶振動子のみを選択して切り替えるようにしてもよい。
【0081】
さらに以上の実施形態では、成膜装置として、真空蒸着装置を例に挙げて説明したが、これに限られず、スパッタ装置などの他の成膜装置にも本発明は適用可能である。スパッタ装置の場合、蒸着源は、ターゲットを含むスパッタカソードで構成される。
【符号の説明】
【0082】
10…成膜装置
11…真空チャンバ
12…蒸着源
13…ステージ
14,140…膜厚センサ
17…測定ユニット
18…電源ユニット
20,201〜212…水晶振動子
43…コントローラ
100…膜厚モニタ
141…ホルダ
142…ケーシング
143…窓部
144…電極ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9