【文献】
Kohei Miyata et al.,Thermostable Organo-phosphor: Low-Vibrational CoordinationPolymers That Exhibit Different Intermolecular Interactions,ChemPlusChem,ドイツ,Wiley-VCH Verlag GmbH& Co.KGaA,2012年 2月14日,Volume 77 / Issue 4,P. 277-280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(1)における混合ミセル含有溶液の形成は、前記ミセル含有溶液A及びBを混合後、0〜48時間静置した後に、工程(2)における電解に供する、請求項1に記載の製造方法。
前記多座配位子は、ホスフィンオキシド基、ピリジル基、カルボン酸基及びエステル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の配位性官能基を2個以上有する化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
一つの前記希土類イオンは、当該希土類イオンに対してそれぞれ1つの部位で配位している複数の前記ホスフィンオキシド多座配位子と、当該希土類イオンに対してそれぞれ2つの部位で配位している複数の前記式(1)で表される配位子とにより、8配位以上の配位数となる配位構造を形成している、請求項9記載の製造方法。
一つの前記希土類イオンは、当該希土類イオンに対してそれぞれ1つの部位で配位している複数の前記ホスフィンオキシド多座配位子と、当該希土類イオンに対してそれぞれ2つの部位で配位している複数の前記式(1)で表される配位子とにより、8配位以上の配位数となる配位構造を形成している、請求項11〜12のいずれか1項記載の発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[希土類錯体ポリマー薄膜の製造方法]
本発明の希土類錯体ポリマー薄膜の製造方法は、以下の工程(1)及び(2)を含む。
工程(1):希土類錯体とフェロセニル界面活性剤とを含むミセル含有溶液A、及び多座配位子とフェロセニル界面活性剤とを含むミセル含有溶液Bを混合して混合ミセル含有溶液を形成する工程、
工程(2):前記混合ミセル含有溶液を電解液として電解を行い、陽極表面に前記希土類錯体と多座配位子とを含む希土類錯体ポリマーの薄膜を形成する工程
【0014】
<工程(1)>
<ミセル含有溶液A>
ミセル含有溶液Aは、希土類錯体とフェロセニル界面活性剤とを含む。
希土類錯体は、希土類元素イオン(以下、希土類イオンと呼ぶことがある)と、希土類イオンに配位した下記式(2)で表される配位子を含む。
【0015】
希土類元素は、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の元素であることかできる。希土類元素イオンは、各元素に固有の価数のイオンであり、例えば、+2価又は+3価である陽イオンが挙げられる。希土類イオンとしては、発光体を得るという観点からは、例えば、Eu
3+、Tb
3+、Gd
3+、Tm
3+又はEr
3+が好ましく、例えば、前記希土類イオンがEu
3+の場合、赤色発光を示し、前記希土類イオンがTb
3+の場合、緑色発光示す。本発明に用いる希土類錯体は、希土類イオンが単独で存在するもの、及び2種以上の希土類イオンが存在する錯体も包含する。希土類イオンの内、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuは、4f電子を有し、そのため、配位数が8〜10配位を取り得る。配位数は、希土類イオンの種類及び価数によって決定される。また、Sc、Y、Lイオンは4f電子を有さず、d及びs電子のみが配位結合に関与し、そのため2〜4配位である。
【0016】
希土類イオンに配位した式(
1)で表される配位子は、2座配位化合物であるジケト化合物である。一般式(
1)中、Aは、独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Zは水素原子又は重水素原子を示す。炭素数1〜6のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n−及びiso)、ブチル基(n−及びtert−)、ペンチル基、ヘキシル基である。
【0018】
一般式(1)で示されるジケト化合物は、より具体的には、例えば、アセチルアセトン(acac)、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン(TMHD)、1,1,1−トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、及び1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。これらの化合物は公知化合物である。
【0019】
希土類錯体は、希土類イオンを含有する化合物と、式(1)で表される配位子を含む化合物とから調整することができる。この希土類錯体は、公知であり、公知の方法で調整することができる。例えば、特許文献1に記載されている。
【0020】
フェロセニル界面活性剤は、無機粉体の薄膜形成に用いられるミセル電解法において用いられることが知られている(例えば、特開平10−310898号公報、特開平11−241198号公報、特開2006−161149号公報)。フェロセニル界面活性剤は、ミセル形成能を有し、かつ電解において電極上でフェロセニル基に含まれる鉄イオンが酸化されてフェロセン構造が崩壊してミセル形成能を失うことができる化合物であれば、特に制限はない。ミセル電解法において用いられるフェロセニル界面活性剤は、例えば、フェロセニルポリエチレングリコールである。本発明においてもフェロセニルポリエチレングリコールを用いることができる。フェロセニルポリエチレングリコールは、ポリエチレングリコールの繰り返し単位数により界面活性能が変化する。ポリエチレングリコールの繰り返し単位数は、フェロセニルポリエチレングリコールが有すべきミセル形成能に応じて適宜選択することができる。
【0021】
ミセル含有溶液Aは、例えば、水又は水溶液を溶媒(連続相)として、希土類錯体とフェロセニル界面活性剤を含有する有機溶媒からなる粒子を含むものであることができる。水溶液は、後続の電解において電解質となり得る物質を含有することができる。電解質となり得る物質としては、例えば、無機塩を挙げることかでき、無機塩としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、例えば、LiBr、LiCl、NaCl、NaBr、KBr、KCl、NaClO
4、LiClO
4等を挙げることができる。有機溶媒としては、希土類錯体に対する溶解性が高い溶媒であることが好ましく、例えば、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジクロロメタン、DMSO、THF等を挙げることができる。
【0022】
希土類錯体とフェロセニル界面活性剤の含有量は、希土類錯体とフェロセニル界面活性剤を含むミセルが形成されること、さらには後続のミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径を有することなどを考慮して適宜決定される。ミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径は、例えば、平均直径が500nm以下である。ミセル含有溶液A中のミセルの平均直径は、好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜400nm、さらに好ましくは30〜300nm、一層好ましくは40〜200nm、より一層好ましくは50〜150nmの範囲である。ミセルの直径は、主に有機溶媒の量及びフェロセニル界面活性剤の量に依存し、これらの量を調整することで、ミセルの平均直径をコントロールすることができる。
【0023】
ミセル含有溶液A中の希土類錯体の濃度は、例えば、0.01〜100mMの範囲とすることができ、後続のミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径を有することなどを考慮して適宜決定される。
【0024】
フェロセニル界面活性剤の量は、希土類錯体の量及び有機溶媒の量を考慮して適宜決定できる。有機溶媒の量は、希土類錯体の量及びフェロセニル界面活性剤の量を考慮して適宜決定できる。希土類錯体の量を基準にすると、モル比で、希土類錯体:フェロセニル界面活性剤は、例えば、1:0.1〜10の範囲とすることができる。有機溶媒の量は、希土類錯体の量を基準にすると、希土類錯体(モルmmol):有機溶媒(容量mL)は1:0.1〜10の範囲とすることができる。
【0025】
ミセル含有溶液Aは、希土類錯体、フェロセニル界面活性剤、有機溶媒を攪拌混合することで調製することができる。この操作は室温(例えば、10〜30℃)で行うことができる。攪拌混合条件には特に限定はないが、例えば、100〜1000rpmで1〜180分とすることができる。
【0026】
<ミセル含有溶液B>
ミセル含有溶液Bは、多座配位子とフェロセニル界面活性剤とを含む。フェロセニル界面活性剤は、ミセル含有溶液Aに用いるものと同様である。
【0027】
多座配位子は、希土類錯体同士を連結することができる架橋物質である。2つ以上の希土類錯体同士を連結することができる物質であれば、特に制限はない。希土類錯体同士を連結するという観点からは、希土類イオンに対する配位子であることが適当であり、かつ2つ以上の希土類錯体同士を連結するという観点からは1つの分子中に2つ以上の配位子を有する多座配位子であることが適当である。多座配位子が有する希土類イオンに対する配位子は、例えば、ホスフィンオキシド基、ピリジル基、カルボン酸基及びエステル基から成る群から選ばれる少なくとも1種の配位性官能基を有する化合物であることが好ましく、これらの配位性官能基を2以上、好ましくは2個又は3個有する化合物であることがより好ましい。
【0028】
<ホスフィンオキシド二座配位子>
多座配位子の一例としては、下記式(2)で表されるホスフィンオキシド二座配位子を挙げることができる。
【0029】
【化8】
[式(2)中、R
11は、二価の有機基、Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい一価の芳香族基を示す。Ar
12とAr
13、及びAr
14とAr
15は、互いに直接結合していてもよく、連結基を介して結合していてもよい。nは、1〜20の整数である。]
【0030】
式(2)中、R
11は、二価の有機基を示す。二価の有機基は特に限定されず、複数の基が連結した基であってもよい。R
11としては、例えば、二価の不飽和基、二価の芳香族基、オキシアルキレン基等が挙げられ、これらの基には更に他の基が結合していてもよい。また、R
11は、これらの二価の基が複数結合して構成される基であってもよく、さらにポリマー状の構造を有する基であってもよい。ここで、二価の不飽和基としては、ビニレン基等のアルケニレン基が挙げられる。芳香族基とは、リン原子との2つの結合手を有する芳香環からなる基であり、芳香環は、リン原子との結合部位以外において更に置換基を有していてもよい。この芳香環としては、ベンゼン環、チオフェン環、ピリジン環等が挙げられる。オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基等が挙げられる。また、これらの二価の基が複数結合した基としては、例えば、2つ以上の芳香環が結合した基や、両末端でリン原子と結合するポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)からなる基等が挙げられる。
【0031】
なかでも、R
11としては、少なくとも一つの芳香環を含む基が好ましく、複数の芳香環を含む基であるとより好ましい。R
11が、芳香環を含む、特に芳香環を複数含むことにより、希土類錯体ポリマーの耐熱性が更に高められる傾向にある。より優れた耐熱性を得る観点からは、R
11としては、下記式(3a)、(3b)、(3c)又は(3d)で表される基が好ましく、下記式(3b)又は(3c)で表される基がより好ましく、下記式(3c)で表される基がさらに好ましい。
【0033】
式(3a)、(3b)、(3c)及び(3d)中、R
2は一価の有機基であり、mは、0から、R
2が結合している芳香環(ベンゼン環又はチオフェン環)における置換可能な部位の数までの整数であり、Phはフェニル基である。mが2以上である場合、複数のR
2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。R
2としての一価の有機基としては、C
1からC
20の炭化水素基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0034】
式(2)中、Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい一価の芳香族基である。一価の芳香族基とは、リン原子との結合手を一つ有する芳香環からなる基であり、この芳香環は、リン原子との結合部位以外において更に置換基を有していてもよい。芳香環としては、R11において二価の芳香族基を形成し得る芳香環と同じものが挙げられる。また、置換基としては、R
2としての一価の有機基と同じ基や、ホスフィンオキシド基(−P(=)R
31R
32で表される基;R
31やR
32としては、Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15と同じ基が挙げられる。)等が例示される。Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15を構成する芳香環が、置換基としてホスフィンオキシド基を有する場合は、この部分において希土類イオンに配位してもよい。さらに、Ar
12とAr
13、及びAr
14とAr
15は、互いに直接結合していてもよく、また、アルキレン基、アリーレン基、カルボニル基等の二価の有機基からなる連結基を介して結合していてもよい。Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15としては、それぞれ独立に、下記式(5)で表される基が挙げられる。
【0035】
【化10】
[式(5)中、R
61、R
62、R
63、R
64及びR
65は、それぞれ独立に、水素原子、C
1からC
20の炭化水素基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基又はメルカプト基を示す。]
【0036】
式(1)で表される配位子の具体例としては、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン(dpb)、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビフェニル(dpbp)、4,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビチオフェン(dpbt)、3,6−ビス(ジフェニルホスホリル)−9−フェニルカルバゾール(dppcz)を挙げることができる。これらの化合物は特許文献1に記載の方法により入手できる。
【0037】
上記二座配位子を用いて形成される希土類錯体ポリマーの一例として、下記式(6)で表される構造を有するものが挙げられる。この例の希土類錯体ポリマーは、希土類イオンが、Eu(III)イオンであり、ホスフィンオキシド多座配位子が、上記R
11で表される二価の基としてAr
1で表される二価の芳香族基を有しており、Ar
12、Ar
13、Ar
14及びAr
15としてフェニル基を有しており、且つ、Eu(III)イオンにはヘキサフルオロアセチルアセトナートが配位しており、Eu(III)イオンにより8配位型の配位構造が形成されているものである。
【0039】
希土類イオンは、希土類イオンに対してそれぞれ1つの部位で配位している複数のホスフィンオキシド多座配位子と、希土類イオンに対してそれぞれ2つの部位で配位している複数の前記式(1)で表される配位子とにより、8配位以上の配位数となる配位構造を形成している。
【0040】
ホスフィンオキシド二座配位子の例として、下記一般式(7)で示される化合物を挙げることもできる。
X
1−L
1−Ar−L
2−X
2 (7)
一般式(7)中、Arは、芳香族ヘテロ炭化水素基、又は芳香族炭化水素基を示し、Arに結合するL
1及びL
2は、Arを中心に分子内で屈曲している。L
1及びL
2にさらに結合するX
1及びX
2は修飾ホスホリル基であり、陽イオンに対して配位結合し得る。本発明の化合物は後述するように、Arに結合するL
1及びL
2は、Arを中心に分子内で屈曲するように結合しており、かつ陽イオンに対して配位結合し得る修飾ホスホリル基を有することから、本発明の化合物と陽イオンが交互に配置された多量体の錯体を形成することができ、かつ多量体の錯体はクラスター構造を有する錯体となり得る。Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)であることで、多量体の錯体は、2〜6個の化合物を含むクラスター構造を形成し得る。ここで、クラスター構造とは、本発明の化合物が希土類元素イオンを介して、2〜6量体化して、安定化した分子構造(錯体)を形成したものである。クラスター構造には環状構造も含む。クラスター構造を形成しても錯体は溶媒に溶解させることができる。また、その分子量はMSスペクトルより容易に測定できる。
【0041】
芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含み、縮環していてもよい5〜14員芳香族ヘテロ炭化水素基が挙げられる。
【0042】
単環の芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、置換又は無置換のアゾール基、オキソール基、チオール基、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、アゼピン基、オキセピン基、チエピン基、イミダゾール基、ピラゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、イミダゾリン基、ピラジン基、及びチアジン基を挙げることができる。これらの基をArとして有する化合物においては、L
1及びL
2は、アゾール基、オキソール基、チオール基、イミダゾール基、オキサゾール基、又はチアゾール基については、例えば、2、5位(又は2、5位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、ピラゾール基については、例えば、3、5位(又は3、5位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、ピリジン基、ピリリウムイオン基、チオピリリウムイオン基、ピラジン基、又はチアジン基については、例えば、2、6位(又は2、6位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合し、又はアゼピン基、オキセピン基、チエピン基については、例えば、2、7位(又は2、7位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合したものであることができる。これらの位置においてL
1及びL
2がそれぞれ結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0043】
多環の(縮環した)芳香族ヘテロ炭化水素基としては、例えば、置換又は無置換のインドール基、イソインドール基、ベンゾイミダゾール基、キノリン基、イソキノリン基、キナゾリン基、フタラジン基、プテリジン基、クマリン基、クロモン基、1,4−ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン基、アクリジン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基等を挙げることができる。これらの基を有する化合物においては、L
1及びL
2は、インドール基、イソインドール基、ベンゾイミダゾール基、ベンゾフラン基、イソキノリン基、フタラジン基については4、6位にそれぞれ結合することができる。キノリン基、キナゾリン基、クマリン基、クロモン基については、例えば、5、7位(又は5、7位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。プテリジン基については、例えば、2、4位(又は2、4位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。1,4−ベンゾジアゼピンについては、例えば、1、9位(又は1、9位とほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。アクリジン基、フェノキサジン基、フェノチアジン基については、例えば、1、3位、2、4位、5、7位、又は6、8位(又はそれらとほぼ等価な位置)にそれぞれ結合することができる。これらの位置においてL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0044】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素原子を6〜14個含み、縮環していてもよい芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0045】
単環の芳香族炭化水素基は、例えば、置換又は無置換のフェニレン基であり、L
1及びL
2は、フェニレン基のm位(1,3位)に結合する化合物を挙げることができる。フェニレン基のm位(1,3位)にL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Ar(フェニレン基)を中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後である化合物とすることができる。
【0046】
多環の芳香族炭化水素基は、例えば、置換又は無置換のナフタレン基であり、L
1及びL
2は、ナフタレン基のm位(1,3位)又は2,7位に結合する化合物を挙げることができる。その他の多環式の芳香族炭化水素基は、例えば、置換若しくは無置換のアントラセン基又は置換若しくは無置換のフェナントロレン基であり、L
1及びL
2は、アントラセン基の1,3位又は2,7位に結合するか、フェナントロレン基の1,3位又は3,6位に結合する化合物を挙げることができる。これらの位置においてL
1及びL
2が結合することで、上記のように、Arを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度が120°前後(例えば、90〜150°の範囲)である化合物とすることができる。
【0047】
芳香族ヘテロ炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有しもよい置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。C1−6アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。C1−6ぺルフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル、トリデカフルオロヘキシル等が挙げられる。シロキシ基としては、トリメチルシロキシ、トリエチルシロキシ、トリイソプロピルシロキシ、tert−ブチルジメチルシロキシ等を例示できる。アルコキシ基としては、例えば、C1−6アルコキシ基が挙げられる。C1−6アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基等を例示できる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等を例示できる。置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0048】
一般式(7)で示される化合物の参考例で用いた3つの例を以下に示す。さらに各化合物におけるArを中心に分子内でL
1及びL
2によって形成される屈曲の角度を示す。化合物7−1(参考例1−3の化合物4)は144°であり、化合物7−2(参考例1−4の化合物6)及び化合物7−3(参考例1−5の化合物10)は、上記屈曲の角度は120°である。
【化12】
【0049】
L
1及びL
2は、独立に、リンカーを示し、リンカーは、例えば、−C≡C−、−CH=CH−、芳香族炭化水素基又は芳香族ヘテロ炭化水素基であることができる。芳香族炭化水素基及び芳香族ヘテロ炭化水素基は前述の基と同様である。
【0050】
X
1及びX
2は、独立に、O=P(Ar
11Ar
12)−で示される修飾ホスホリル基を示す。Ar
11及びAr
12は、独立に、置換若しくは無置換アリール基、置換若しくは無置換ヘテロアリール基、又は置換若しくは無置換アラルキル基を示す)を示す。
【0051】
置換されていてもよいアリール基のアリール基としては、特に限定されず、例えば、C6〜20アリール基が挙げられる。C6〜20アリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、アンスリル等を例示できる。
【0052】
置換されていてもよいアリール基の置換基としては、特に限定されず、例えばC1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、C6−14アリール基、5〜10員芳香族複素環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シロキシ基、ジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0053】
C1−6アルキル基、C1−6ぺルフルオロアルキル基、アルコキシ基、シロキシ基及びジアルキルアミノ基については、前記芳香族ヘテロ炭化水素基及び芳香族炭化水素基が有しもよい置換基で説明した基と同じである。
【0054】
C6−14アリール基としては、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニリル、2−アンスリル等が挙げられる。5〜10員芳香族複素環基としては、例えば、2−又は3−チエニル、2−,3−又は4−ピリジル、2−,3−,4−,5−又は8−キノリル、1−,3−,4−又は5−イソキノリル、1−,2−又は3−インドリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾ[b]チエニル、ベンゾ[b]フラニル等が挙げられる。
【0055】
アリールオキシ基としては、例えば、C6−12アリールオキシ基が挙げられる。C6−12アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等を例示できる。
【0056】
置換されていてもよいアリール基の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0057】
置換されていてもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、特に限定されず、例えば、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる原子を1〜3個含む、縮環していてもよい5〜14員芳香族複素環基が挙げられる。
【0058】
前記芳香族複素環基としては、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、チアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、インドリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、カリボリニル、フェナンスリジニル、アクリジニル等を例示できる。
【0059】
置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0060】
前記置換されていてもよいヘテロアリール基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0061】
置換されていてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0062】
置換されていてもよいアラルキル基の置換基としては、前記置換されていてもよいアリール基で述べた置換基と同じである。
【0063】
前記置換されていてもよいアラルキル基の置換基の位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0064】
X
1及びX
2は、例えば、Ar
11及びAr
12がフェニル基であるジフェニルホスホリル基であることができる。
【0065】
<化合物の製造方法>
一般式(7)で示される化合物は、実施例に例示されているように、X−Ar−X(Xはハロゲン)を原料化合物として用い、トリアルキルシリルアセチレンを触媒(例えば、CuI及びPd(PPh
3)Cl
2、PPh
3)の存在下に反応させ、得られた生成物をアルカリ処理して、ジアセチルArを得る。得られたジアセチルArと修飾ホスフィンクロライド、例えば、ジフェニルホスフィンクロライドを反応させ、その後例えば、過酸化水素を用いて酸化することで、修飾ホスフィン基を修飾ホスホリル基(例えば、ジフェニルホスホリル基)に変換して一般式(7)で示される化合物を得ることができる。各反応は適当な有機溶媒(例えば、ジエチルエーテル、THF(テトラヒドロフラン)、トルエン)中で実施できる。リンカーがエチレン基の場合には、上記トリアルキルシリルアセチレンに替えてトリアルキルシリルエチレンをもちいることで、同様の反応を経て、一般式(7)で示される化合物を得ることができる。
【0066】
X−Ar−X(Xはハロゲン)で示される原料化合物は、市販品として入手できる化合物がある他、Xが水素原子であるH−Ar−Hで示される化合物を公知の方法でハロゲン化することでも入手できる。トリアルキルシリルアセチレンは、例えば、トリメチルシリルアセチレンは、市販品として入手できる。修飾ホスフィンクロライドも、例えば、ジフェニルホスフィンクロライドであれば市販品として入手できる。その他の修飾ホスフィンクロライドも、常法に従って適宜合成できる。合成した化合物は公知の方法で適宜精製することができる。
【0067】
<ホスフィンオキシド三座配位子>
ホスフィンオキシド基を有する多座配位子の例として、下記式(8)で表されるホスフィンオキシド三座配位子を挙げることができる。式(8)のホスフィンオキシド三座配位子は、公知化合物であるか、あるいは公知の方法により調製可能な化合物である。
【0068】
【化13】
[一般式(8)中、Xは、原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子、又は化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団を表し、
Ar
1〜Ar
9はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
Ar
4とAr
5、Ar
6とAr
7、Ar
8とAr
9がそれぞれ結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。]
【0069】
一般式(8)中、Xは、原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子、又は化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団である。原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子は、例えば、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、窒素(非共有電子対を含むがC3対称となる)などを挙げることができる。前記化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団としては、例えば、1又は複数の置換基を有していてもよい1のアリール基又は1又は複数の置換基を有していてもよい1のヘテロアリール基を挙げることができる。前記原子団に含まれるアリール基及びヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、3〜6であることが好ましい。ヘテロアリール基は、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含むものであり、ヘテロ原子の数は、ヘテロアリール基の大きさに応じて適宜変更でき、例えば、単環の場合は、1〜3個であり、縮環(2以上の環を有する場合には)には、1個の環に1〜3個である。前記原子団は、化学構造式を平面視したときに3回対称性を有するという観点から、具体的には、フェニル基及び単環式の6員環ヘテロアリール基等を挙げられる。6員環ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、等を挙げることができる。
【0070】
Ar
1〜Ar
9はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基及びヘテロアリール基は、Xの例である原子団におけるアリール基及びヘテロアリール基と同様である。Ar
1〜Ar
9は好ましくは1又は複数の置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。
【0071】
一般式(8)のホスフィンオキシド化合物の具体例としては、下記(8−1)〜(8−5)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
【化14】
【0072】
一般式(8)のホスフィンオキシド化合物は、市販品として入手可能な化合物がある他、第三級ホスフィンの酸化、塩化ホスフィニル又は二塩化ホスホリルとGrignard試薬との反応、ハロゲン化アリールとジアリールホスフィンオキシドとのカップリング、ジハロホスホランの加水分解等の任意の公知の方法を用いて合成して用いてもよい。一般式(8)のホスフィンオキシド化合物の合成に関しては、以下の文献を参照できる。
[1] M. Stol, D. J. M. Snelders, H. Kooijman, A. L. Spek, G. P. M. Klink and G. Koten, Dalton Trans., 2007, 2589-2593.
[2] I. O. Koshevoy, L. Koskinen, E. S. Smirnova, M. Haukka, T. A. Pakkanen, A. S. Melnikov, and S. P. Tunik, Z. Anorg. Allg. Chem. 2010, 636, 795-802.
【0073】
前記多座配位子は、ピリジル基を2以上有する化合物、カルボン酸基を2以上有する化合物及びエステル基を2以上有する化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることができる。
【0074】
前記ピリジル基を2以上有する化合物、カルボン酸基を2以上有する化合物及びエステル基を2以上有する化合物としては、例えば、下記式(9)で表される芳香族化合物であることができる。
【0075】
式中、Arは芳香環を有する構造である。Xは2価の有機基であるか又はArとYの間を直接結ぶ単結合である。Yは配位原子を含む原子団である。Yは、例えば、ピリジル基、カルボン酸基又はエステル基である。nは2〜6の数を表す。一分子内に含まれる複数のX同士は互いに異なっていてもよく、且つ、複数のY同士は互いに異なっていてもよい。)
【0076】
ここで、式(9)において、Arは、擬平面構造を形成するπ平面を有するものである。Arとしては特に限定されず、配位子の分子サイズが原料錯体内に形成される前記第1の細孔のサイズにある程度影響することを考慮して適宜選択すればよい。具体的には、単環性の芳香環、特に6員環の芳香環、或いは、2〜5環性の縮合多環性の芳香環、特に6員環の芳香環が2〜5個縮合した縮合多環性の芳香環が挙げられる。
【0077】
合成の容易性から、Arとしては、6員環の芳香環等の単環性芳香環が好ましい。単環性の6員環の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、トリアジン環、ピリジン環、ピラジン環等が挙げられる。Arは、芳香環を有する構造であればよく、一部に脂環式環状構造を含んでいてもよいし、環内ヘテロ原子を含んでいてもよい。また、−(X−Y)以外の置換基を有していてもよい。
【0078】
式(9)において、ArとYとの間に介在するXについて、2価の有機基としては、原料錯体中に形成される第1の細孔に要求されるサイズ等によって適宜その鎖長等を選択すればよく、例えば、炭素数2〜6の2価の脂肪族基、6員環の2価の単環性芳香環、6員環の芳香環が2〜4個縮合した縮合多環性芳香環が挙げられる。ここで芳香環は、環内ヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基を有していてもよい。また、一部に脂環式構造を含むものであってもよい。脂肪族基は、分岐構造を有していてもよいし、不飽和結合を含んでいてもよいし、ヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0079】
上記2価の有機基の具体例としては、フェニレン基、チオフェニレン、フラニレン等の単環性芳香環や、ナフチル基及びアントラセン等のベンゼン環が縮合した縮合多環性芳香環、アセチレン基、エチレン基、アミド基、エステル基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが挙げられる。一分子中に含まれる複数のXは、互いに同一であっても異なっていてもよいが、通常、合成の容易性の観点から、同一であることが好ましい。
【0080】
Yは、中心金属となる中心金属イオンに配位することができる原子団であり、中心金属イオンに配位して三次元ネットワーク構造を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、下記式(10)で表される基が挙げられる。
【0082】
Yは、例えば、上記4−ピリジル基10(a)は、配位原子(N)を含む原子団である。Yの配位原子が有する孤立電子対により、中心金属イオンに配位結合する際、適度な配位力が得られる点からは、上記式のうちピリジル基(10(a)、10(f))が特に好ましい。一分子中に含まれる複数のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0083】
上記にて例示されたもののうち、Xとしては、ArとYを直接結ぶ単結合、フェニレン基等の単環性芳香環やナフチル基及びアントラセン等の縮合多環性芳香環のような芳香環、アセチレン基及びエチレン基等の脂肪族基、並びにこれらの基が任意の数及び順序で連結した構造を有するものが好ましい。−(X−Y)が芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造或いはこれらが連結した構造を有する場合には、立体障害により軸回転が制限される。さらに、芳香環、アセチレン基、エチレン基からなる構造が、π電子が非局在化した共役系を形成する場合には、立体配座のエネルギー障壁によっても軸回転が制限される。従って、上記式(9)で表される芳香族化合物配位子が一体化して擬平面構造をとることができ、安定した三次元ネットワーク構造を形成することができる。
【0084】
また、Yで表される配位原子又はYに含まれる配位原子は、原料錯体の設計の容易性の点から、上記剛直な直線状の構造を有する−(X−Y)の軸の延長方向に孤立電子対を有していることが好ましい。Arに結合する−(X−Y)の数は、Arの構造にもよるが、通常、3〜6個である。また、−(X−Y)は、Arを中心とするほぼ同一平面内に等間隔の放射状に配位原子が配置されるように、Arに結合していることが好ましい。
【0085】
以上のような、一つの芳香環含有構造Arを中心として、該芳香環のπ共役系により形成される平面の広がる方向に向かって等間隔の放射状に配位原子が配置された構造を有する芳香族化合物配位子としては、以下の式9−1〜9−4で表されるものが挙げられる。下記式に示された配位子の中でも、特に2,4,6−トリス(4−ピリジル)−1,3,5−トリアジン(式9−1)を用いることが好ましい。
【0087】
前記多座配位子としてのピリジル基を2以上有する化合物は、例えば、(1)Acc.Chem.Res.2005,38,371−380,(2)J.Am.Chem.Soc.2011,133,13317−13319、(3)特開2005−255545号公報、(4)特開2005−75751号公報、(5)特開2008−214318号公報、(6)2010−180307号公報に記載されている。
【0088】
上記文献(2)に記載の以下の化合物を具体例として挙げることもできる。
【化16】
【0089】
前記多座配位子としてのカルボン酸基を2以上有する化合物は、例えば、Chem.Soc.Rev.,2011,40,926−940に記載されている。カルボン酸基を2以上有する化合物の具体例を以下に示す。
H2bdc 1,4-Benzenedicarboxylic acid
H6bhc Benzenehexacarboxylic acid
H2bpdc 4,4-Biphenyldicarboxylic acid
H3btc 1,3,5-Benzenetricarboxylic acid
H3-1,2,4-btc Tri(methylammonium)benzene-1,2,4-tricarboxylic acid
H4btcb 1,2,4,5-Benzenetetracarboxylic acid
H3cit Citric acid
H2cmp N-(Carboxymethyl)iminodi(methylphosphonic acid)
H2damp Dimethylaminomethylphosphonic acid
H4EDTA Ethylenediaminetetraacetic acid
H2fum Fumaric acid
H5hedp Etidronic acid
H2hpd 4-Hydroxylpyridine-2,6-dicarboxylic acid
H3idc Imidazole-4,5-dicarboxylic acid
H6muc Mucic acid
H3mpaa 2-[Methyl(phosphonomethyl)amino]acetic acid
H2ndc 1,4-Naphthalenedicarboxylic acid
H2nds Naphthalenedisulfonic acid
H2oba 4,4-Oxybis(benzoic acid)
H2ox Oxalic acid
H2pdc Pyridine-3,5-dicarboxylic acid
H2PhenDCA 1,10-Phenanthroline-2,9-dicarboxylic acid
H2pvdc 4,4-[(2,5-Dimethoxy-1,4-phenylene)-di-2,1-ethenediyl]bisbenzoic acid
H2pza 2,3-Pyrazinedicarboxylic acid
H2pdca 2,3-Pyridinedicarboxylic acid
H2pydc 2,6-Pyridinedicarboxylic acid
H2tart Tartaric acid
H3tda 1H-1,2,3-Triazole-4,5-dicarboxylic acid
H2tdc Thiophene-2,5-dicarboxylic acid
H4teta 1,4,8,11-Tetraazacyclotetradecane-1,4,8,11-tetraacetic acid
【0090】
前記多座配位子としてのエステル基を2以上有する化合物は、例えば、Inorg.Chem.2012,49,9300−9311に記載されている。具体例としては、1,4-diacetylbenzene (acbz), 1,4-diacetoxybenzene (acetbz), or 1,4-dimethyltherephtalate (dmtph)を挙げることもできる。
【0091】
ミセル含有溶液Bは、例えば、水又は水溶液を溶媒(連続相)として、多座配位子とフェロセニル界面活性剤を含有する粒子を含むものであることができる。多座配位子とフェロセニル界面活性剤を含有する粒子には、有機溶媒を併用することもできる。水溶液は、ミセル含有溶液Aと同様に、後続の電解において電解質となり得る物質を含有することができる。電解質となり得る物質としては、例えば、無機塩を挙げることかでき、無機塩としては、例えば、アルカリ金属のハロゲン化物、例えば、LiBr、LiCl、NaCl、NaBr、KBr、KCl、NaClO
4、LiClO
4等を挙げることができる。有機溶媒としては、多座配位子に対する溶解性が高い溶媒であることが好ましく、例えば、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジクロロメタン、DMSO、THF等を挙げることができる。
【0092】
多座配位子とフェロセニル界面活性剤の含有量は、多座配位子とフェロセニル界面活性剤を含むミセルが形成されること、さらには後続のミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径を有することなどを考慮して適宜決定される。ミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径は例えば、平均直径が500nm以下である。ミセル含有溶液B中のミセルの平均直径は、好ましくは10〜500nm、より好ましくは20〜400nm、さらに好ましくは30〜300nm、一層好ましくは40〜200nm、より一層好ましくは50〜150nmの範囲である。ミセルの直径は、主に有機溶媒の量(使用する場合)及びフェロセニル界面活性剤の量に依存し、これらの量を調整することで、ミセルの平均直径をコントロールすることができる。
【0093】
ミセル含有溶液B中の多座配位子の濃度は、例えば、0.01〜100mMの範囲とすることができ、後続のミセルの混合及び電解による薄膜形成に適したミセル粒子径を有することなどを考慮して適宜決定される。
【0094】
フェロセニル界面活性剤の量は、多座配位子の量及び有機溶媒の量(使用する場合)を考慮して適宜決定できる。有機溶媒の量(使用する場合)は、多座配位子の量及びフェロセニル界面活性剤の量を考慮して適宜決定できる。多座配位子の量を基準にすると、モル比で、多座配位子:フェロセニル界面活性剤は、例えば、1:0.1〜10の範囲とすることができる。有機溶媒の量(使用する場合)は、多座配位子の量を基準にすると、多座配位子(モルmmol):有機溶媒(容量mL)は1:0.1〜10の範囲とすることができる。
【0095】
ミセル含有溶液Bは、多座配位子、フェロセニル界面活性剤、有機溶媒(使用する場合)を攪拌混合することで調製することができる。この操作は室温(例えば、10〜30℃)で行うことができる。攪拌混合条件には特に限定はないが、例えば、100〜1000rpmで1〜180分とすることができる。
【0096】
ミセル含有溶液A及びミセル含有溶液Bを混合して混合ミセル含有溶液を形成する。ミセル含有溶液A及びミセル含有溶液Bの混合比は、ミセル含有溶液Aに含有される希土類錯体の種類と量(濃度)及びミセル含有溶液Bに含有される多座配位子の種類と量(濃度)等を考慮し、さらに目的とする希土類錯体ポリマーの種類を考慮して適宜決定される。ミセル含有溶液A及びミセル含有溶液Bを攪拌混合する。攪拌混合条件には特に限定はないが、例えば、100〜1000rpmで1〜180分とすることができる。
【0097】
工程(1)における混合ミセル含有溶液の形成は、ミセル含有溶液A及びBを混合した後、例えば、0〜48時間静置することができる。ミセル含有溶液A及びBを混合した後に静置することで、混合ミセルが形成し、かつ形成した混合ミセル中で、希土類錯体と多座配位子との反応が進行する。静置した後に、工程(2)における電解に供する。静置は例えば、任意の温度、例えば、−30〜80℃の範囲で行うことができる。静置することで得られる混合ミセルの平均直径は、通常、混合前のミセル含有溶液A及びBの平均直径より大きくなる。
【0098】
<工程(2)>
工程(2)では、工程(1)で調整した混合ミセル含有溶液を電解液として電解を行う。この電解は、陽極表面に希土類錯体と多座配位子とを含む希土類錯体ポリマーの薄膜を形成するように行う。
陽極(電極)としては、希土類錯体ポリマー薄膜を形成したい種々の基材を用いることができる。希土類錯体ポリマー薄膜は、電極及び電極表面に設けられた希土類錯体ポリマー薄膜を含む発光素子あるいはこの発光素子を含む有機ELデバイスとして用いることから、電極は、発光素子あるいは有機ELデバイスとして用いる場合に適したものであることが好ましく、例えば、透明電極であることが好ましい。陽極(電極)は、全面に希土類錯体ポリマー薄膜を形成することもできるが、既存のマスキング技術を用いて所望の領域にのみ希土類錯体ポリマー薄膜を形成することもできる。
【0099】
電解は、陽極の電位を混合ミセル含有溶液に含有されるフェロセニル界面活性剤が電気化学的に酸化されてミセルを崩壊させるのに適した電位に制御しつつ行うことが好ましい。そのため、陽極の電位を制御しつつ電解することが可能な定電位電解を採用することが好ましい。フェロセニル界面活性剤が電気化学的酸化されてミセルを崩壊させることで、電極上に希土類錯体ポリマーの薄膜を形成することができる。電解時間やミセルの濃度等を制御することで、希土類錯体ポリマー薄膜の膜厚を制御することができる。電解の温度及び時間は、薄膜の膜厚やミセルの反応性等を考慮して適宜決定できる。
【0100】
形成される希土類錯体ポリマー薄膜の膜厚は、特に制限はないが、例えば、1〜1000nmの範囲であることができる。但し、この範囲を超える膜厚を排除する意図ではない。薄膜の膜厚は、例えば、電解時間を制御することで適宜変動させることができる。
【0101】
本発明の方法で形成される希土類錯体ポリマーは、希土類錯体と多座配位子との架橋構造を含むポリマーである。ポリマーの繰り返し単位や立体構造は、使用する希土類錯体と多座配位子の種類と量比に依存し、多座配位子が二座配位子の場合には、線状のポリマーが形成され、三座以上の配位子を用いる場合には、3次元構造を有するポリマーが形成される。多座配位子が二座配位子と三座以上の配位子の混合物の場合には、一部に3次元構造を有する線状のポリマーが形成される
【0102】
[発光素子]
本発明は、電極及び電極表面に設けられた希土類錯体ポリマー薄膜を含む発光素子を包含する。電極は、発光素子あるいは有機ELデバイスとして用いる場合に適したものであることが好ましく、例えば、透明電極であることが好ましい。希土類錯体ポリマー薄膜は、前記本発明の製造方法で製造された希土類錯体ポリマー薄膜である。
【0103】
[有機ELデバイス]
本発明は、前記本発明の発光素子、及び前記発光素子の希土類錯体ポリマー薄膜の少なくとも一部の表面に電子又はホール輸送層を有し、さらに前記電子又はホール輸送層に電極を有する、有機ELデバイスを包含する。
【0104】
EL素子は、具体的には、基体、透明電極(陽極)、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、そして背面電極(陰極)とからなるものであることができる。発光層は、本発明の希土類錯体ポリマー薄膜からなる層である。発光層の厚みとしては10nm〜5μmが例示され、好ましくは20nm〜500nmである。
【0105】
基体としては、ガラス、プラスチックフィルム、金属薄膜等が挙げられる。基体はEL素子の片側のみでも、両側でサンドイッチしてもよい。EL素子の両側に基体を配置する場合、一方の基体は透明性を有することが好ましい。透明電極(陽極)としては、インジウムスズオキシド(ITO)、In
2O
3、SnO
2、TiO
2、ZnOなどの材料が用いられ、好ましくはITOが挙げられる。これらの透明電極は通常、真空蒸着、スパッタ法又はソルゲル法にて薄膜形成する。陽極の厚みとしては10nm〜500nmが例示される。
【0106】
ホール輸送層としては、アミン化合物が用いられ、例えば、TPD(Bis-(3-methylphenyl)-N,N'-diphenylbenzidine;Appl.Phys.Lett. 57巻、531頁、1990年)、フェニレンジアミン(米国特許3180729号、同4278746号、特開平3−152897号)、トリフェニルアミン(特開昭63−295695号、特開平3−152897号)等が例示される。ホール輸送層は、通常蒸着法、スピンコート法等により薄膜形成する。その厚みとしては、20nm〜1000nmが例示される。
【0107】
電子輸送層には、通常PBD(2-[4-Biphenylyl]-5-[4-tert-butylphenyl]-1,3,4-oxadiazole)、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、アントロン誘導体等が用いられ、その厚みとしては20nm〜1000nmが例示できる。
【0108】
背面電極(陰極)としては、リチウム、アルミニウム、マグネシウム、銀等が挙げられ、コントラストを増大するため黒色電極(Al−Ge、MnO
2)等も使用できる。陰極の厚みとしては、10nm〜500nmが例示される。
【0109】
EL素子は、例えば、ディスプレイ、パイロットランプ、ELレーザー、及びリアコンビネーションランプなどの自動車用ランプなどへ応用することができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0111】
実施例1
Eu(hfa)3(H2O)2 + 4,4'-bis(diphenylphosphoryl)biphenyl混合ミセルの定電位電解
【0112】
1).Eu(hfa)
3(H
2O)
2 含有ミセルの形成
操作
水溶液20 mL(1mM-FePEG + 0.1M-LiBr)を調製し、約945 rpmで撹拌しながらEu(hfa)
3(H
2O)
2 (0.04 mmol, 32.4 mg)が溶解したジエチルエーテル0.2 mLを添加した。30 min撹拌し、溶液中に分散させた。Eu(hfa)
3(H
2O)
2は、参考例1-1に示す方法で調製した。
【0113】
2). 4,4'-bis(diphenylphosphoryl)biphenyl (dpbp)含有ミセルの形成
操作
水溶液20 mL(1mM-FePEG + 0.1M-LiBr)を調製し、約945 rpmで撹拌しながらdpbp(33.3 mg, 0.06mmol)を加えた。5日間撹拌後、遠心分離(2000rpm,1h)して上澄みを別の容器に移した。Dpbpは、参考例1-2に示す方法で調製した。
【0114】
3) 混合ミセル溶液の定電位電解
1),2)で調製したそれぞれのミセル溶液を10 mLずつ混合し約945 rpmで30分撹拌し、室温で1日放置した。この混合ミセル溶液を三電極セルを用いて次の条件下で定電位電解した。電解後のITO電極の発光スペクトルを測定した。結果を
図4に示す。
【0115】
対極(CE): Pt,
参照電極(RE): Ag/AgCl,
作用極(WE): ITO電極(8-10 Ω・cm
-2, 電極面積:1 cm
2),
電解質: 0.1M-LiBr,
撹拌速度: 約60rpm,
電圧: 1 V vs NHE,
電解時間: 18時間
【0116】
図1,2より、Eu(hfa)
3(H
2O)
2含有ミセルとdpbp含有ミセルの平均粒径はそれぞれ、102.1,112.4 nmであることがわかる。このそれぞれのミセル溶液を混合した際、得られたミセルの粒度分布は単分散を示し、混合前のミセルの平均粒径よりも大きくなっている(170.0 nm)ことがわかる。このことより、それぞれのミセル溶液を含有することで、ミセルはくっつき合い1種類のミセルとなったと考えられる。この状態で放置することでEu(hfa)
3(H
2O)
2とdpbp反応させる。
【0117】
図4に混合ミセル溶液と混合ミセル溶液電解後ITO電極、Eu(hfa)
3(H
2O)
2溶液の発光スペクトルを示す。この結果より、混合ミセル溶液からEu(hfa)
3(H
2O)
2の発光とは異なるスペクトルが得られたことがわかる。また、この混合ミセル溶液を電解した後のITO電極の発光スペクトルと混合ミセル溶液の発光スペクトルが一致していることから、ミセル内の物質がITO電極上に薄膜として形成されたと考えられる。
【0118】
図5は、Eu(hfa)
3(H
2O)
2含有ミセルを電解した後のITO電極(図中右側)とEu(hfa)
3(H
2O)
2含有ミセルとdpbp含有ミセルの混合ミセルを電解した後のITO電極(図中左側)である。この図より、混合ミセルを電解して得られた薄膜はUV照射により示す赤色発光を目視で確認できた。
【0119】
参考例
1-1.Eu(hfa)3(H2O)2の合成
酢酸ユーロピウム(5 g,15 mmol)を100mLビーカーに入れ、純水約30 mLを加え、酢酸ユーロピウムを撹拌しながら溶解させた。この溶液をナス型フラスコに移し、撹拌子を入れた。hfa(7.0 g,33 mmol)をマグネティックスターラー上で溶液を撹拌しながらゆっくり滴下した。滴下後、2時間撹拌した。沈殿物をクロロホルムで吸引ろ過洗浄し、得られた粉体を重量既知のサンプル瓶にいれ、1時間真空乾燥した。重量を測定し、錯体の収量とした(7.17 g,収率:59%)。
【0120】
参考例
1-2. 4,4'-bis(diphenylphosphoryl)biphenyl(dpbp)の合成
【化17】
【0121】
−80℃下で4,4'-ジブロモビフェニル(1.9 g, 6.0 mmol)溶液(乾燥THF(30 mL)中)にn-BuLi溶液(9.3 mL, 1.6 M hexane, 15 mmol)を滴下し、3時間撹拌した。その後、PPh
2Cl(2.7 mL,15 mmol)を-80℃下で滴下し、メタノール冷却容器を取り外し、徐々に室温にもっていき14時間攪拌した。生成物を酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で三回洗浄し、無水MgSO
4で乾燥させ、溶媒を蒸発させ、残留物をアセトンとエタノールで数回洗った。得られた白い固体とジクロロメタン約 40 mLをフラスコに入れ、0℃まで冷し、30%H
2O
2水溶液5 mLを加え、2時間攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出し、抽出物を飽和食塩水で三回洗浄し、無水MgSO
4で乾燥させた。溶媒を蒸発させると白い粉末が得られ、ジクロロメタンからの再結晶により、dpbpの白い結晶を得た。
Yield: 0.83 g (25%). IR (KBr): 1120 (st, P=O) cm
-1.
1H NMR (270 MHz, CDCl3, 25℃) δ 7.67-7.80 (m, 16H; P-C6H5, C6H4), 7.45-7.60 (m, 12H; P-C6H5, C6H4) ppm.
【0122】
参考例1-3. 2,5-bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]thiophene (dpet) :4 (=前記化合物7-1)の合成
【化18】
【0123】
100 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。2,5-diethynylthiophene (0.35 g, 2.65 mmol) (D. G. Whitten et al, J. Phys. Chem., 2008, 112, 14492-14499 参照)、diethylether (30.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi(3.50 ml, 5.60 mmol)を滴下しながら加えた。3時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl(1.20 ml, 6.64 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、15時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を3回行い、有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた茶色い油状の液体を300 ml容のナスフラスコに加え、dichloromethaneによって溶かした。ここにH
2O
2 (1.20 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、エバポレーターにより溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、黄緑色の油状の液体が得られた。これを放置したら15分ほどで黄色い結晶が析出した。
【0124】
Yield : 0.60 g (42.5 %)
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.47-7.62 (m, 6H, -CH), δ 7.82-7.91 (m, 4H, -CH), δ 7.35 (s, 1H, -CH)ppm. EI-MS(m/z) [M]
+ = 533.09.
【0125】
参考例1-4. 1,3-bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]benzene (dpeb) : 6(=前記化合物7-2)の合成
【化19】
【0126】
300 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。1,3-diethynylbenzene (1.80 g,14.2 mmol)、diethylether (70.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi (19.6 ml,31.4 mmol)を滴下しながら加えた。2.5時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl(5.80 ml, 31.4 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、15時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層の溶媒をエバポレーターにより留去した。得られた橙色の油状の液体を300 ml容ナスフラスコ中でdichloromethaneを加えて溶かした。ここにH
2O
2(5.00 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (dichloromethane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、濃黄色の油状の液体が得られた。これを放置したら黄色い結晶が析出した。これをchloroformとhexaneによって再結晶し、さらにethyl acetateで十分に洗浄して白色針状結晶を得た。
Yield : 2.06 g (27.6 %)
【0127】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.84-7.95 (m, 8H, -CH), δ 7.82 (s, 1H, -CH), δ 7.67-7.70 (d, 1H, -CH), δ 7.64-7.66 (d, 1H, -CH), δ 7.47-7.62 (m, 12H, -CH), δ 7.38-7.46 (t, 1H, -CH)ppm. EI-MS(m/z) [M]
+ = 526.10. Anal. calcd for C
34H
24O
2P
2 : C, 72.17; H, 4.16 %. found : C, 72.31; H, 4.37 %.
【0128】
参考例1-7. 2,7bis[(diphenylphosphoryl)ethynyl]naphthalene (dpen) : 10(=前記化合物7-3)の合成
【化20】
【0129】
100 ml容三つ口フラスコをフレイムドライした後、フラスコ内をAr置換した。2,7-diethynylnaphthalene(G. M. Whitesides et al, J. Org. Chem., 1988, 53, 2489-2496参照)、diethylether (20.0 ml)を順次加え、溶液が均一になるまで撹拌した。methanol bathに液体窒素を加えて、系を-80℃まで冷却してから1.6 M n-BuLi(0.60 ml, 0.96 mmol)を滴下しながら加えた。3時間かけて-20℃まで温度を上昇させてから、再び液体窒素を加えて-80℃まで冷却し、PPh
2Cl(0.17 ml, 0.94 mmol)を加えた。4時間かけて系の温度を室温まで上昇させ、20時間撹拌を続けた。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、有機層の溶媒をエバポレーターにより留去した。得られた薄黄色の油状の液体を300 ml容のナスフラスコに加えてからdichloromethaneで溶かした。ここにH
2O
2(1.00 ml)を加え、氷浴下で2時間撹拌した。撹拌終了後、dichloromethaneと飽和食塩水を用いて溶液の抽出を4回行い、得られた有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させてからエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣を適当な展開溶媒 (hexane : ethyl acetate = 1 : 1)を用いてシリカゲルクロマトグラフィーで精製すると、黄緑色の油状の液体が得られた。
Yield : 微量のため測定不可
【0130】
1H-NMR (270 MHz, CDCl
3, TMS) : δ 7.19 (s, 1H, -CH), δ 7.43-7.63 (m, 15H, -CH), δ 7.65-7.80 (m, 10H, -CH)ppm.
【0131】
2. Eu(hfa)
3(H
2O)
2含有FePEGミセルの形態制御
各条件下において形成されるEu(hfa)
3(H
2O)
2を取り込んだフェロニル界面活性剤(FePEG)のミセルの粒径を測定することで、ミセル粒径を制御する。
【化21】
【0132】
参考例2-1. ミセル粒径のEu(hfa)3(H2O)2濃度・溶媒量・FePEG濃度依存性
水溶液20 mL(1mM-FePEG + 0.1M-LiBr)を調製し、約270 rpmで撹拌しながら所定量のEu(hfa)
3(H
2O)
2(0.01, 0.02, 0.04, 0.08 mmol)を添加した。形成されたミセルの粒径を1時間毎にゼータ電位・粒径測定装置ELSZ-1000を用いて測定した。また、加えるEu(hfa)
3(H
2O)
2の量を一定(32.4 mg , 0.04 mmol)にし、diethyl ether量、FePEG濃度を変化させて1時間毎のミセルの粒径を測定した。
【0133】
<Eu(hfa)3(H2O)2の量変化>
撹拌速度一定(約270 rpm)でEu(hfa)
3(H
2O)
2の添加量を変化させた際のミセルの粒径変化についての結果を
図6に示す。この結果から添加するEu(hfa)
3(H
2O)
2の量により、ミセルの粒径が変化することがわかった。Eu(hfa)
3(H
2O)
2の量が0.01 mmol, 0.02mmol であるときは、撹拌時間が0時間、つまりFePEGがEu(hfa)
3(H
2O)
2を取り込む前のミセルの粒径からの変化がみられない。このことから、添加するEu(hfa)
3(H
2O)
2の量が少ないとEu(hfa)
3(H
2O)
2を取り込むことができないと考えられる。0.04 mmol, 0.08 mmolにおいては、粒径の変化より、Eu(hfa)
3(H
2O)
2の取り込みを確認でき、その粒径は添加量が多いほど大きくなっている。また、0.04 mmol添加したものは1時間程度で粒径が一定となるが、0.08 mmol添加したものについては6時間経過しても粒径が一定とならないことがわかった。
【0134】
<FePEG濃度と油層量変化>
図7、8にはEu(hfa)
3(H
2O)
2の添加量を一定(32.4 mg , 0.04 mmol)として、FePEG濃度、diethyl ether量をそれぞれ変化させた際のミセルの粒径変化について示す。これらの結果より、ミセル粒径はFePEG濃度には依存せず、Eu(hfa)
3(H
2O)
2の溶媒となるdiethyl ether 量には依存することがわかった。diethyl ether 量の依存性はEu(hfa)
3(H
2O)
2の添加量による影響よりは小さいこともわかる。
【0135】
以上の結果を次にまとめる。
・ミセルの粒径はEu(hfa)
3(H
2O)
2の量やEu(hfa)
3(H
2O)
2の溶媒であるdiethyl etherの量に依存する。
・依存性はdiethyl etherの量によるものより添加するEu(hfa)
3(H
2O)
2の量によるものの方が大きい。
・ミセルの粒径はFePEG濃度には依存しない。