(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6333670
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びその溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20180521BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20180521BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20180521BHJP
【FI】
B23K26/21 A
B23K26/082
B23K26/00 M
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-172305(P2014-172305)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-43409(P2016-43409A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】小倉 一朗
【審査官】
黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−326382(JP,A)
【文献】
特開平6−344163(JP,A)
【文献】
特開平6−285655(JP,A)
【文献】
特開2010−5668(JP,A)
【文献】
特開2003−170284(JP,A)
【文献】
特開2014−231085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ相対移動させて溶接を行うレーザ溶接装置であって、
レーザ光源からのレーザ光を前記被照射物の上に集光させるとともに、その光路を周期変化させて前記被照射物の上で周期移動を与える光学系と、
前記光学系を前記被照射物に対して相対移動を与える移動手段と、
フィラーワイヤを前記被照射物上に供給するワイヤ供給器と、
前記フィラーワイヤの供給位置及び姿勢を算出し前記ワイヤ供給器を制御するワイヤ供給制御部と、を具備し、
さらに、前記光学系は前記レーザ光の前記被照射物からの戻り光を前記レーザ光源とは異なる方向へ向けて分岐させこれを受光して光強度を測定する受光光学系を含み、
前記ワイヤ供給制御部は、前記受光光学系からの前記光強度の変化を前記周期移動に沿って取得し、前記ウィービングに沿った前記フィラーワイヤの供給位置及び姿勢を算出することを特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記ワイヤ供給制御部は、前記光学系による前記周期移動を示す周期移動ベクトルと、前記移動手段による前記相対移動を示す相対移動ベクトルとの和から前記ウィービングに沿った位置を算出することを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記周期移動は円周移動であることを特徴とする請求項2記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
被照射物に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ相対移動させて溶接を行うレーザ溶接方法であって、
レーザ光源からのレーザ光を前記被照射物の上に集光させるとともに、その光路を周期変化させて前記被照射物の上で周期移動を与える光学系と、
前記光学系を前記被照射物に対して相対移動を与える移動手段と、
フィラーワイヤを前記被照射物上に供給するワイヤ供給器と、
前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出し前記ワイヤ供給器を制御するワイヤ供給制御部と、を具備し、
さらに、前記光学系は前記レーザ光の前記被照射物からの戻り光を前記レーザ光源とは異なる方向へ向けて分岐させこれを受光して光強度を測定する受光光学系を含み、
前記ワイヤ供給制御部は、前記受光光学系からの前記光強度の変化を前記周期移動に沿って取得し、前記ウィービングに沿った前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記ワイヤ供給制御部は、前記光学系による前記周期移動を示す周期移動ベクトルと、前記移動手段による前記相対移動を示す相対移動ベクトルとの和から前記ウィービングに沿った位置を算出することを特徴とする請求項4記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記周期移動は円周移動であることを特徴とする請求項5記載のレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶加材としてフィラーワイヤを供給しつつ溶接を行うレーザ溶接装置及びその溶接方法に関し、特に、被照射物に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ相対移動させて溶接を行うレーザ溶接装置及びその溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接法は、従来のTIG溶接やMIG溶接などのアーク放電を利用したアーク溶接法と比較して、作業環境における衛生面で優れるとともに、その高いエネルギー密度から溶接部の溶け込み深さを大きくしても熱影響層の幅を小さくできて、接合部の機械的健全性を高め得る。
さらに、レーザ光を光ファイバで導くファイバーレーザ溶接法では、高い品質の安定した光が与え得るとともに、特に、耐振動性や粉塵強度に優れている。
一方で、レーザ溶接法では、レーザ光を集光させてエネルギー密度を高めた径の小さなスポットを溶接線に沿って相対移動させる必要があって、スポット径に合わせて接合部の隙間を小さくしなければならず、溶接部の機械加工やワークの移動といった溶接準備や施工行程に高い加工寸法精度及び移動精度を要求される。
【0003】
ところで、アーク溶接法では、幅広のビードを与えるように、溶接方向に対して溶接棒をほぼ直角に交互に動かしながら溶接を行うウィービング溶接法が知られている。これをレーザ溶接法に応用し、レーザビームをウィービングさせてビーム径に対してビード幅を拡大する溶接法も提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、レーザ溶接法の1つであるYAGレーザ溶接にウィービングを導入し、レーザ光の照射範囲を拡げてワークの接合部における隙間を大きくし得るレーザ溶接方法を開示している。詳細には、レーザ光源からの出射方向軸に対して傾斜させてガラス板を配置し、これを該出射方向軸の周囲に回転させると、ガラス板を通過するレーザ光は屈折し、ワーク上に集光して得られるスポットが溶接線の近傍で該出射方向軸を中心に回転移動する。さらに、レーザ光源に対して相対的にワークを溶接線に沿って移動させていくと、溶接線上に連続的に溶着ビードが形成されていく。これによれば、ワークの接合部の隙間が多少大きくとも、集光したレーザ光が全て該接合部の間に照射されてしまうことなく、接合部近傍に溶着ビードを形成できて健全な溶接部を与えるができる。
【0005】
また、特許文献2では、レーザ溶接法において、フィラーワイヤ(溶加材)を供給しながらウィービングを行うレーザ装置を開示している。一般的に、YAGレーザのビーム径は0.6〜0.8mm程度であって、接合部の隙間は0.1〜0.2mm程度しか許容されないことを述べた上で、レーザ光を螺旋状にウィービングさせながら溶接するレーザ溶接装置を開示している。詳細には、レーザ光源からの出射方向軸に回転可能にガラス板を配置し、ガラス板の出射方向軸に対する取付け角度をワークの隙間の幅に応じて設定できるようにしている。また、レーザ光を出射する加工ヘッドにフィラーワイヤを供給するワイヤ供給装置を組み込んでいる。これにより、ガラス板を回転させながらレーザ光を出射させ、これに対応してワイヤ供給装置でフィラーワイヤを供給しながら加工ヘッドを直進させると螺旋状にウィービングをさせながら溶接できるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−158170号公報
【特許文献2】特開2003−170284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザ溶接、特に、ファイバーレーザ溶接法は、溶接行程のスピードアップや、溶接製品の品質向上、例えば、溶接部の低歪み化などに適しており、複数の鋼板を接合して高機能性部材を得ようとするテーラードブランク溶接などに利用されている。一方、レーザ光のビーム径が小さく、その中心にフィラーワイヤを連続して供給することが非常に難しい。特に、多量に溶加材の供給が必要となる厚板の接合では問題となる。
【0008】
また、フィラーワイヤを連続して供給しているうちに、レーザ光のビームスポットの中心からこれが外れてしまうと、溶接欠陥が生じてしまう。そこで自動溶接において、フィラーワイヤの位置ずれ補正機能も要望される。
【0009】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、フィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とするレーザ溶接装置及びその溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるレーザ溶接装置は、被照射物に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ相対移動させて溶接を行うレーザ溶接装置であって、レーザ光源からのレーザ光を前記被照射物の上に集光させるとともに、その光路を周期変化させて前記被照射物の上で周期移動を与える光学系と、前記光学系を前記被照射物に対して相対移動を与える移動手段と、フィラーワイヤを前記被照射物上に供給するワイヤ供給器と、前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出し前記ワイヤ供給器を制御するワイヤ供給制御部と、を具備し、さらに、前記光学系は前記レーザ光の前記被照射物からの戻り光を前記レーザ光源とは異なる方向へ向けて分岐させこれを受光して光強度を測定する受光光学系を含み、前記ワイヤ供給制御部は、前記受光光学系からの前記光強度の変化を前記周期移動に沿って取得し、前記ウィービングに沿った前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出することを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、受光光学系からの光強度の変化により光学系の周期移動に対応する溶接部位置を検出し、ウィービングに沿った溶接部位置を算出し、さらに、フィラーワイヤの姿勢を検出できるから、当該位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。また、一旦、フィラーワイヤの位置が溶接部位置からずれたとしても、また姿勢が変化しても、ウィービングに沿った理想的な溶接部位置での姿勢を戻すことが可能である。
【0012】
上記した発明において、前記ワイヤ供給制御部は、前記光学系による前記周期移動を示す周期移動ベクトルと、前記移動手段による前記相対移動を示す相対移動ベクトルとの和から前記ウィービングに沿った位置を算出することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、光学系の周期移動に対応する溶接部位置を検出すれば、周期移動ベクトルと相対移動ベクトルとから、ウィービングに沿った溶接部位置を容易に算出できるから、当該位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。また、容易にフィラーワイヤの位置ずれを補正できるのである。
【0013】
上記した発明において、前記周期移動は円周移動であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、光学系の周期移動に対応する溶接部位置を容易に算出できて、ウィービングに沿った溶接部位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。
【0014】
また、本発明によるレーザ溶接方法は、被照射物に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ相対移動させて溶接を行うレーザ溶接方法であって、レーザ光源からのレーザ光を前記被照射物の上に集光させるとともに、その光路を周期変化させて前記被照射物の上で周期移動を与える光学系と、前記光学系を前記被照射物に対して相対移動を与える移動手段と、フィラーワイヤを前記被照射物上に供給するワイヤ供給器と、前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出し前記ワイヤ供給器を制御するワイヤ供給制御部と、を具備し、さらに、前記光学系は前記レーザ光の前記被照射物からの戻り光を前記レーザ光源とは異なる方向へ向けて分岐させこれを受光して光強度を測定する受光光学系を含み、前記ワイヤ供給制御部は、前記受光光学系からの前記光強度の変化を前記周期移動に沿って取得し、前記ウィービングに沿った前記フィラーワイヤの供給位置及びその姿勢を算出することを特徴とする。
【0015】
かかる発明によれば、受光光学系からの光強度の変化により光学系の周期移動に対応する溶接部位置を検出しウィービングに沿った溶接部位置を算出し、さらに、フィラーワイヤの姿勢を検出できるから、当該位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。また、一旦、フィラーワイヤの位置が溶接部位置からずれたとしても、また姿勢が変化しても、ウィービングに沿った理想的な溶接部位置での姿勢を戻すことが可能である。
【0016】
上記した発明において、前記ワイヤ供給制御部は、前記光学系による前記周期移動を示す周期移動ベクトルと、前記移動手段による前記相対移動を示す相対移動ベクトルとの和から前記ウィービングに沿った位置を算出することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、光学系の周期移動に対応する溶接部位置を検出すれば、周期移動ベクトルと相対移動ベクトルとからウィービングに沿った溶接部位置を容易に算出できるから、当該位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。また、容易にフィラーワイヤの位置ずれを補正できるのである。
【0017】
上記した発明において、前記周期移動は円周移動であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、光学系の周期移動に対応する溶接部位置を容易に算出できて、ウィービングに沿った溶接部位置にフィラーワイヤを安定して供給できて溶接欠陥の少ない溶接を可能とできるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明におけるレーザ溶接装置の要部のブロック図である。
【
図4】フィラーワイヤとスポットとの関係を示す上面図である。
【
図5】フィラーワイヤとスポットとの関係を示す上面図である。
【
図6】フィラーワイヤとレーザ光との関係を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の1つの実施例によるレーザ溶接装置について、
図1を用いて、その詳細を説明する。
【0020】
図1に示すように、レーザ溶接装置1は、溶接物(被照射物)50に照射したレーザ光にウィービングを与えつつ、互いに相対移動させて溶接を行うレーザ溶接装置であって、レーザ光を投射する投射部として光軸Cを有する光学系10を図示しないヘッド部の筐体内部に収容している。
【0021】
光学系10は、図示しないレーザ光源からのレーザ光を導き出射する光ファイバ11と、出射されたレーザ光を透過させつつ屈折させる透明板12と、透明板12を保持し光軸Cを中心に回転自在な円筒部材13と、透明板12を透過したレーザ光を平行光に変換するコリメートレンズ14と、平行化されたレーザ光を集光する集光レンズ15とを備える。これら光学系10は、後述する溶接物50に対してヘッド部と共に相対的に移動可能である。
【0022】
光ファイバ11は、ファイバーレーザ発振器やYAGレーザ発振器などの図示しない公知のレーザ光源(発振器)に光学的に接続され、レーザ光を光軸Cに沿って出射できる。ファイバーレーザ発振器を用いれば、溶接の溶け込み深さをより深くするとともに熱影響層の幅を小さくでき得て好ましい。透明板12は光軸Cに対して傾斜した主面を有するガラス板であり、好ましくはオプティカルパラレルを使用し得る。透明板12の詳細についてはまた後述する。
【0023】
集光レンズ15を透過して光投射部である光学系10から出射されたレーザ光は、集光レンズ15の焦点近傍において溶接物50に照射され、溶接物50の表面にレーザ光の照射によるスポットS(
図2参照)を形成するとともに、スポットSによって溶接物50の表面近傍を溶融させて溶接を可能とする。
【0024】
光学系10は、さらに、コリメートレンズ14及び集光レンズ15の間に挿入されてヘッド部の筐体に固定されたビームサンプラ16と、感光素子17とからなる受光光学系を含む。ビームサンプラ16は光軸Cに対して傾斜して設けられた透明なガラス板であり、レーザ光の入射側(上側)の面に反射防止膜をコートされている。これにより、ビームサンプラ16は、コリメートレンズ14からの平行化されたレーザ光を透過させ、一方で、溶融部の近傍からの戻り光、特に、スポットSや後述するフィラーワイヤ22からのレーザ光の反射光を光源とは異なる方向である感光素子17へ向けて分岐するよう反射させる。
【0025】
感光素子17は、ビームサンプラ16からの戻り光、すなわち、溶融部の近傍からの光を受光して光強度を測定可能であり、スポットSからのレーザ光の反射光の変化を検知可能である。なお、波長選択フィルタを介在させて、レーザ光の反射光だけを検知するようにしてもよい。ここで、固定されたビームサンプラ16は、コリメートレンズ14からの平行化されたレーザ光を透過させるときに屈折させ且つ偏心させる。かかる偏心は常に一定であるので、説明を簡略化するために以降の説明においては偏心が無いものとする。
【0026】
上記したスポットSの直上近傍、すなわち集光レンズ15の焦点近傍には、フィラーワイヤ22の先端部を位置させるようにワイヤ供給部20が備えられる。ワイヤ供給部20はフィラーワイヤ22の先端部近傍をスライド可能に保持するワイヤ供給器21を含む。フィラーワイヤ22は例えば巻線の形状で送り機構24に取り付けられ、送り機構24によって先端側に向けて送出される。また、ワイヤ供給器21は移動機構23によって支持され、フィラーワイヤ22の延びる方向に交差する平面上を2軸移動可能である。例えば、
図1の紙面上において上下方向及び手前奥方向(フィラーワイヤ22の送出方向に対して左右方向)に移動可能である。送り機構24及び移動機構23はそれぞれヘッド部に取り付けられ、ヘッド部と共に溶接物50に対して相対的に平行移動可能である。
【0027】
ここで、透明板12は、両主面を互いに平行にするとともに光軸Cに対して傾斜させているので、光ファイバ11から出射されたレーザ光を光軸Cに対して偏心させるように屈折させる。また、透明板12は、ヘッド部の筐体に対して光軸Cを中心として回転可能な円筒部材13に取り付けられている。円筒部材13は回転機構25によって一定速度での回転運動を可能とし、これにより透明板12も光軸C周りに一定速度で回転運動可能である。これにより、レーザ光は光軸Cに対して所定の幅で偏心するとともに、その偏心方向を光軸Cの周りに回転可能とされる。これによって集光レンズ15を透過したレーザ光は、溶接物50上に形成させるスポットSを光軸Cの周りに回転させ得る。なお、透明板12の光軸Cに対する傾斜角度は、後述するウィービングの幅に応じて適宜設定される。
【0028】
また、円筒部材13には、円筒部材13及び透明板12の光軸Cを中心とする回転角度を測定する角度センサ26が取り付けられている。角度センサ26は後述する制御部30に透明板12の光軸Cに対する回転角度を示す信号を逐次送信できるよう接続される。角度センサ26を設ける代わりに、回転機構25にステッピングモータ等の所定の回転角度に制御できる機構を用い、後述する制御部30からの信号に基づいて回転角度を制御させるようにしてもよい。
【0029】
レーザ溶接装置1は、さらに、パターン判定手段31及びワイヤ制御手段32を含む制御部30を備える。制御部30はコンピュータによって構成され、所定のプログラムを実行することでパターン判定手段31及びワイヤ制御手段32として機能する。制御部30は、図示しない記憶手段や入出力手段をさらに備え、記憶手段に後述する基準パターン等を記憶させている。パターン判定手段31及びワイヤ制御手段32の詳細については後述する。
【0030】
制御部30は、移動機構23及び送り機構24に接続され、ワイヤ制御手段32による出力信号によって移動機構23及び送り機構24の動作を制御できる。なお、光学系10を支持する筐体やその他レーザ溶接装置1の構造部材等は公知であるので説明及び図示を省略する。
【0031】
次に、上記したレーザ溶接装置1の動作について、
図3に沿って、適宜、
図1乃至
図6を用いて説明する。
【0032】
まず、制御部30は、感光素子17によって、レーザ光の反射光を検出する(S1)。
【0033】
ここで、スポットSは、透明板12によって光軸Cに対してレーザ光を所定距離(半径r)だけ偏心させ、回転機構25によって円筒部材13に取り付けられた透明板12を光軸Cの周りで回転させる。これにより、透明板12の回転に合わせて、スポットSは光軸Cの周りに半径r(直径d)で回転移動する。また、ヘッド部の溶接物50に対する相対的な平行移動に合わせて、光軸Cは溶接物50に対して平行移動する。つまり、スポットSの位置は、初期位置から、周期(回転)移動ベクトルと相対(直線)移動ベクトルとの和で表される位置に移動する。かかる溶接物50に対して光軸Cが平行移動しつつ、その周りをスポットSが回転移動するウィービングにより、スポットSの径よりも大きな幅Wの隙間を有する接合部においての溶接を可能とする。
【0034】
感光素子17は、スポットS近傍からのレーザ光の戻り光(反射光)を検出し、電気信号に変えて制御部30に逐次送信する。レーザ光の戻り光だけを検出したい場合においては、レーザ光の波長を選択するフィルタを光路に介在させるとよい。なお、波長選択フィルタを変更し、併せて溶融部から発生する光を検出するようにしてもよい。
【0035】
次いで、制御部30は、パターン判定手段31によって反射光を基準パターンと比較する(S2)。基準パターンは、溶接を安定して行い得る理想的なフィラーワイヤ22の位置に対応して得られる反射光の典型的なパターンであり、実験的に求められる。また、シミュレーションなどによってもよい。感光素子17で受光した光量の光量変化を基準パターンと比較し、制御部30はパターン判定手段31によってフィラーワイヤ22の位置を推定し、及び/又はその姿勢を推定する。
【0036】
なお、スポットSのウィービングに沿った反射光の光量変化を基準パターンに設定するにあたって、ウィービングは上記したように周期移動と相対移動の和であり、周期移動に対する反射光の光量変化の基準パターンを設定すれば、これを相対移動させることでウィービングに沿った反射光の光量変化を基準パターンに設定できる。さらに、周期移動が光軸Cの周りでの一定速度での回転の場合、基準パターンは回転角度に対応して変化する光量変化パターンとなる。
【0037】
例えば、
図4に示すように、透明板12の回転角度がθ1のとき、安定して溶接を行い得るフィラーワイヤ22の典型的な仮想フィラーワイヤ位置22(θ1)が設定され、基準パターンはかかる仮想フィラーワイヤ位置22(θ1)とスポットSとの位置関係に対応したレーザ光の反射光の光量をあらかじめ規定しておくのである。
【0038】
図4の場合、実際のフィラーワイヤ22のスポットSを横切る面積は、仮想フィラーワイヤ位置22(θ1)のスポットSを横切る面積よりも大きく、フィラーワイヤ22からの反射光は基準パターンよりも光量が大きくなる。パターン判定手段31は基準パターンと光量を比較し、フィラーワイヤ22の位置を推定する。なお、スポットSがフィラーワイヤ22の左右どちら側にあるかは、スポットSの回転方向及び回転角度とそれまでの光量の変化の履歴からパターンとして判定可能である。
【0039】
また、
図5に示すように、透明板12の回転角度がθ2のとき、安定して溶接を行い得るフィラーワイヤ22の典型的な仮想フィラーワイヤ位置22(θ2)が設定され、その先端部においてスポットSを完全に横切る位置であるとする。このとき回転角度θ2はフィラーワイヤ22の送出方向に対して0度である。これに対し、実際のフィラーワイヤ22の位置がスポットSの一部のみを横切るとき、フィラーワイヤ22からのレーザ光の反射光の光量は基準パターンよりも小さくなる。これによってフィラーワイヤ22の先端部が仮想フィラーワイヤ位置22(θ2)の先端部に対して送出方向と反対側に位置しており、送出される長さが短いことを判定可能である。
【0040】
さらに、
図6(a)を参照すると、
図5と同じ回転角度θ2において、仮想フィラーワイヤ位置22(θ2)はレーザ光の焦点Fに近い位置であって、このときの反射光量を基準パターンとする。すなわち、安定して溶接を行い得る典型的な位置である仮想フィラーワイヤ位置22(θ2)には、直径d(θ2)のスポットが形成される。これに対し、実際のフィラーワイヤ22の位置が焦点Fから離間した位置にあると、直径d(θ2)よりも大きな直径dのスポットが形成される。このとき直径d(θ2)のスポットからの反射光に対し、直径dのスポットからの反射光は分散し光量が小さくなる。つまり、レーザ光の焦点Fからの距離の違いによっても反射光の光量差を検出でき、フィラーワイヤ22の位置を推定できる。このとき、焦点Fから上下どちら側にずれているかについては、焦点Fを上下に移動させてその変化で判定するなどの方法を採用し得る。また、溶接用のレーザ光の反射光によるものとは別に、フィラーワイヤ22の先端部の高さを測定するセンサを設けてもよい。
【0041】
また、
図6(b)を参照すると、フィラーワイヤ22の高さが上記と同様の場合、フィラーワイヤ22によってレーザ光の反射光を得られる回転角度の範囲は、仮想フィラーワイヤ位置22’に比べて広くなる。これによってもフィラーワイヤ22の焦点Fからの距離、すなわちフィラーワイヤ22の位置を推定できる。
【0042】
再び
図3を参照すると、制御部30はワイヤ制御手段32によって推定されたフィラーワイヤ22の位置からワイヤ供給部20の動作についての制御内容を決定する(S3)。つまり、上記基準パターンと感光素子17によって受光した光量のパターンとの差異に基づき、かかる差異を小さくするように制御内容を決定するのである。
【0043】
図4のような場合、基準パターンに比べて光量が大きいから、基準パターンに合わせるよう、光量を小さくさせる方向へフィラーワイヤ22を移動させる。スポットSがフィラーワイヤ22の左右どちら側にあるかは、回転方向及び回転角度とそれまでの光量の変化の履歴から判定可能である。このとき、感光素子17によって受光した光量は、透明板12の1回転の周期移動に亘るパターンとして基準パターンと比較し、また逐次基準パターンと比較してもよい。つまり、受光した光量は任意の時間間隔のパターンとできて、これを基準パターンと比較し得る。
【0044】
制御部30は、決定された制御内容に基づき、ワイヤ制御手段32によって安定して溶接を行い得る典型的な位置にフィラーワイヤ22を戻すよう、ワイヤ供給部20に制御信号を送信する(S4)。すなわち、移動機構23に対してフィラーワイヤ22を上下方向及び左右方向にそれぞれ移動させる信号を送信し、送り機構24に対してフィラーワイヤ22の送り速度を変化させるのである。これによってワイヤ供給器21の位置を移動させ、フィラーワイヤ22の送り速度を変化させ得る。
【0045】
以上のように、本実施例によれば、感光素子17の受けた光量変化パターンと基準パターンとの差異を小さくするよう、ワイヤ供給部20の動作を制御し、溶接欠陥の少ない安定した溶接を可能とする。また、透明板12の回転によるウィービングであれば、スポットSの回転角度、すなわち透明板12の回転角度に基づいて基準パターンとの比較が可能であり、かかる回転角度に基づいてワイヤ供給部20を制御し得る。
【0046】
ワイヤ供給部20は、送り速度を変化させ上下左右方向に移動するが、フィラーワイヤ22の巻癖などが一定しているなど、安定した供給が可能であるなら、例えば、送り速度及び左右方向の制御や、送り速度だけの制御としてもよい。
【0047】
ワイヤ供給部20の制御について、ウィービングに追従するように制御してもよい。例えば、常にスポットSの中心をフィラーワイヤ22の先端部に位置させるよう制御し、また、ウィービングの幅(直径d)に対して狭い範囲でフィラーワイヤ22を左右に振動させつつウィービングに追従させてもよい。
【0048】
また、基準パターンとの光量の比較において、例えば、
図4や
図5を参照すると、フィラーワイヤ22がスポットSを横切る(スポットSがフィラーワイヤ22上に形成される)位置の回転角度の範囲が所定の範囲に入っていれば正常と判定し、例えば90度の位置において横切っていればフィラーワイヤ22の横方向へのずれによるエラー、180度の位置においても横切っていればフィラーワイヤ22の未溶融によるエラーと判定することもできる。
【0049】
また、光学系10は、光軸に対して偏心した集光レンズを光軸の周りに回転させるようにしても同様のウィービングを行うことができる。また、ウィービングは、一定の規則性を有していればよく、例えば溶接方向に対して左右に振動させてもよい。この場合、基準パターンは振動角に基づくものとなる。
【0050】
また、ビームサンプラ16及び感光素子17からなる受光部は、ヘッド部の筐体外部に設けて光軸Cに対して角度を与えても良い。レーザ光のフィラーワイヤ22からの反射光と溶融部からのレーザ光の反射光とを区別したり、レーザ光の反射光を溶融部から発生するプラズマなどによる光から区別しやすくしたりすることもできる。
【0051】
また、溶接用のレーザ光とは別に、フィラーワイヤ22の位置を推定するための計測用の光源を追加してもよい。計測用の光源からの光は、例えばウィービングによるスポットSと常に光軸Cを挟んだ反対側(対角の位置)に位置させてもよい。さらには、溶接用のレーザ光の強度を回転角度に応じて一定の規則で変化させ、特定の回転角度でプラズマの発生を抑制すれば、フィラーワイヤ22の位置の推定の精度を向上させ得る。また、レーザ光の反射光とは別に、溶融部の発生する光を受光し、これをフィラーワイヤ22の位置の推定や、溶接状態の確認などに用いてもよい。
【0052】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ溶接装置
10 光学系
12 透明板
15 集光レンズ
16 ビームサンプラ
17 感光素子
20 ワイヤ供給部
25 回転機構
30 制御部
31 パターン判定手段
32 ワイヤ制御手段