(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の実施の形態においては、便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0021】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0022】
[実施の形態の概要]
まず、実施の形態の概要について説明する。本実施の形態の概要では、一例として、括弧内に実施の形態の対応する構成要素の符号等を付して説明する。
【0023】
本実施の形態の代表的な細胞培養装置は、流体の導入口と排出口とを持つ密閉系の培養容器(培養容器1,35,41,44)が複数あり、前記複数の培養容器が並列に接続され、1つの閉鎖培養系が形成されている細胞培養装置である。前記細胞培養装置は、前記複数の各培養容器に接続された複数の流路を切替える1つの流路切替え機構(流路切替え機構8,19)を有する。
【0024】
より好ましくは、前記細胞培養装置において、前記流路切替え機構は、前記各培養容器に分岐して接続された各々の個別流路のうち、1つの個別流路の流路抵抗を、残りの個別流路の流路抵抗よりも小さくする。
【0025】
より好ましくは、前記細胞培養装置において、前記流路切替え機構は、1つの流路切替え部材(流路切替え部材9,12,13,29,37,39)を前記閉鎖培養系内に配置し、前記流路切替え部材の向きおよび位置の少なくとも一方を変えることで、流路抵抗の小さな個別流路を形成する。
【0026】
以下、上述した実施の形態の概要に基づいた各実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、各実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0027】
また、各実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。
【0028】
[実施の形態1]
本実施の形態における細胞培養装置について、
図1〜
図17を用いて説明する。本実施の形態における細胞培養装置は、密閉系の複数の培養容器が並列に接続され、1つの閉鎖培養系が形成されている細胞培養装置の例である。
【0029】
〈細胞培養装置〉
図1は、本実施の形態における細胞培養装置の概要の一例を示す図である。
【0030】
本実施の形態における細胞培養装置は、培養容器1と、培地などが収容された供給バッグ2と、使用後の培地などを回収する回収バッグ3と、流路切替え機構8とを有する。本細胞培養装置において、培養容器1と供給バッグ2と回収バッグ3とが、流路を介して接続されている。培養容器1は複数(
図1では4個の例)あり、共通流路(上流側の共通流路4、下流側の共通流路7)から各培養容器1への分岐流路(上流側の分岐流路5、下流側の分岐流路6)で分岐されている。上流側の共通流路4から上流側の分岐流路5への分岐部分には、流路切替え機構8を持つ。このように、流路切替え機構8は、上流側の共通流路4と上流側の分岐流路5との分岐部に配置される。
【0031】
本実施の形態における細胞培養装置は、閉鎖培養系であるため、液体の駆動力は系の外から与える必要がある。その手段の一例として、弾性を有したチューブを外側からしごいて送液する、しごきポンプがある。しごきポンプを使用しての送液が可能となるように、共通流路の少なくとも一部は弾性を有するのがよい。しごきポンプの架設は、上流側の共通流路4でも、下流側の共通流路7でも構わない。また、上流側の共通流路4と下流側の共通流路7の両方でも構わない。
【0032】
図示しないしごきポンプの駆動により、供給バッグ2内の流体は、培養容器1に移送される。その際、流路切替え機構8の切替え動作によって、流体は培養容器1を変えながら移送される。それに押し出されるように、元々培養容器1に入っていた流体は、回収バッグ3に送られる。
【0033】
〈流路切替え機構〉
図2は、前述した流路切替え機構の構造の一例を示す図である。
図2において、(a)は複数の培養容器を含めた流路切替え機構の立体図、(b)は流路切替え機構の側断面図である。
【0034】
流路切替え機構8は、流路切替え部材9と、それを格納する格納室10から成る。この格納室10には、上流側の共通流路4と共に、複数(
図2では4つの例)の上流側の分岐流路5が繋合されている。全繋合流路を塞げば、この格納室10は密閉された空間を成す。流路切替え部材9は、格納室10内にあって、内部に1つの接続用流路11を持つ。この接続用流路11は、流路切替え部材9の向きを変えることで、複数ある上流側の分岐流路5のうちの1つと相対することができ、このとき、上流側の共通流路4から任意の上流側の分岐流路5まで、流路切替え部材9を介して1つの流路となる。
【0035】
図2では、流路切替え部材9が円柱形をしている。円柱形の上面中心から下に延びる穴が、円柱形の側穴と交わり、流路切替え部材9に1つの流路を成す。格納室10は、この円柱形の部材が納まるように円筒形状をしている。この中心軸上の、流路切替え部材9の上面穴にあたる位置に、上流側の共通流路4が繋合されている。また、格納室10の側面の、流路切替え部材9の側穴にあたる高さに複数の上流側の分岐流路5が、繋合されている。流路切替え部材9を中心軸回りに回転させることで、接続用流路11を任意の上流側の分岐流路5に相対させることができる。このようにして、流路切替え機構8は、閉じた系の内部で流路切替えを行っている。
【0036】
なお、
図2において、上下は逆であってもよい。
【0037】
複数の培養容器1が並列に接続され、切替えてこれらに送液する閉鎖培養系において、たとえ所望しない分岐に液の一部が流出したとしても、それは元々流すつもりのものであるから、培養品質に影響するわけではない。そのため、各培養容器1への均質な送液という目的からすると、送液を所望しない分岐を、必ずしも完全に閉塞するのではなく、送液を所望する分岐との間で流路抵抗に差をつけ、流れにくくすればよい。
【0038】
そこで、流路切替え部材9の大きさは、格納室10よりわずかに小さく、隙間を持って格納室10に入る大きさとするとよい。流路切替え部材9と格納室10との間に成すわずかな隙間から、所望しない分岐へ送液が流出しうるが、たとえ流出したとしても、前述のように品質上問題とならない。また、実際には、細胞の定着性の観点から、送液速度を上げることはあまり好ましくなく、送液圧力を大きくかけないから、ある程度、流路抵抗が大きければ、流出はほとんど起きない。
【0039】
本実施の形態の流路切替え機構8を模式的に描くと、
図3のようになる。
図3は、流路切替え機構の流路抵抗の一例を示す図である。
図3において、(a)は流路切替え機構の流路抵抗の模式図、(b)は等価回路図である。2つに分岐する流路において、分岐後の流路抵抗をr1、r2とし(ここで、分岐後の流路抵抗は均等であることが望ましいから、r1≒r2)、流路切替え部材9にある接続用流路11の流路抵抗をr、流路切替え部材9と格納室10に成すわずかな隙間からできる経路の流路抵抗をRとする。
【0040】
(r1+r)<<(r2+R) ・・・ 式1
式1の関係であれば、R側にほとんど流れることはない。r1およびr2はRに比して十分小さいものとし、流路切替え機構8において、r<<Rとなれば、上記の式1を満たす。
【0041】
本実施の形態の流路切替え機構8による流路切替え方法により、以下の効果がある。
【0042】
まず、流路切替え機構8の製造コストを下げることが可能である。所望外の分岐への送液流出をなくす、あるいは限りなく抑えるようにするためには、流路切替え部材9と格納室10の嵌合に高い寸法精度が要求される。場合によっては機械加工を必要とし、極めて高コストとなる。流路切替え機構8を含めた本実施の形態における閉鎖培養系は、培養毎に滅菌処理して再利用してもよいが、コンタミネーションのリスクを下げるため、培養毎に使い捨てるのがよい。よって、製造コストは極めて重要となる。本実施の形態のように、多少の送液流出が許容できる場合は、嵌合寸法を緩くすることができる。一般的な成型品の成形寸法精度レベルでよいとなれば、大幅なコスト低減になる。
【0043】
もう1つの効果は、流路切替え部材9の向きを切替えるための力を、多く必要としない点である。本実施の形態の流路切替え方法では、流路切替え部材9と格納室10は隙間嵌合であり、互いに強く接触していない。そのため、流路切替え部材9の向きを変えるのに大きな力を必要としない。これにより、流路切替え部材9を切替えるための機構・構造も簡単なものにできる。
【0044】
以下において、
図4〜
図11に基づいて、流路切替え機構の構造の変形例について順に説明する。
図4〜
図11はそれぞれ、流路切替え機構の構造の変形例を示す図である。
【0045】
流路切替え機構において、所望外の送液流出は、培養品質には問題なくとも無駄にはなるため、可能な限り、流路切替え部材9と格納室10の嵌合寸法をきつくすることが望ましい。あるいは、ヤング率の小さな材料を利用し、流路切替え部材9の大きさを、格納室10より大きくしてもよい。
図4(a)にその一例を示す。
図4(a)において、流路切替え部材12はゴムでできており、格納室10の大きさに合わせて収縮、密着した状態で格納されている。所望外の分岐流路はゴムにより封止されるから、所望外の流出は発生しない。
【0046】
流路切替え部材12が格納室10に強く接触していると、流路切替え部材12の向きを変えるのに大きな力を必要とするため、それを小さくする工夫があるとよい。例えば、摺動面の摩擦を減らすため、できるだけ接触面を少なくするとよい。テフロンのように、潤滑性の高い材料を使用することもよい。
【0047】
小ヤング率材料は、流路切替え部材と格納室の、どちらの側に適用してもよいし、両方でもよい。あるいは、部材全体ではなく一部に適用してもよい。
図4(b)にその一例を示す。
図4(b)において、流路切替え部材13は、一般構造用材料の内側部材13aに、ゴム13bがコーティングされており、ゴム13bの部分で格納室10と密着し、所望外の流出を抑制する。
【0048】
流路切替え部材9に形成する接続用流路は、管構造に限らず、溝のようなものでもよい。
図5にその一例を示す。
図5において、(a)は溝構造の接続用流路を持つ流路切替え部材の上面図、(b)は格納部も含めた側断面図である。円柱形の流路切替え部材9の上面に中心近傍を含めて溝14が形成されており、この部分が接続用流路となる。このような形状とすることで、流路切替え機構の縮小化が図れる。また、
図5(c)(d)のように、流路切替え部材9の溝構造は、全体を切り欠くような溝15であってもよい。
図5において、(c)は全体を切り欠いた溝を接続用流路として持つ流路切替え部材の上面図、(d)は格納部も含めた側断面図である。
【0049】
また、繋合する分岐流路5は、格納室10の側面ではなく、
図6(a)のように下面に設けたり、また、
図6(b)のように共通流路4と同一面に設けたりすることも可能である。
【0050】
流路切替え部材の接続用流路は、送液するときに流路抵抗の小さい経路が1つできればよいのであって、本数は1本に限らず、複数本であってもよい。
図7にその一例を示す。
図7においては、3本の分岐流路5a,5b,5cが流路切替え機構の格納室10に繋合されている。例えば、
図7(a)(b)のように、3本の分岐流路5a,5b,5cが格納室10に120°間隔で繋合されている場合、接続用流路11が1本だと、隣の分岐流路に切替えるのに120°、任意の位置から所望の分岐流路に相対させるのに最大180°の回転が必要である。一方、
図7(c)(d)のように、接続用流路を分岐させて2本持てば(接続用流路11a,11b)、隣の分岐流路に切り替えるのに60°、任意の位置から所望の分岐流路に相対させるのに最大90°の回転で可能である。このように、接続用流路11a,11bを複数持つことで、流路切替えに必要な回転移動量を少なくできる効果がある。
【0051】
回転により切替える流路切替え部材の場合、接続用流路を、その一端が回転の中心軸にかかるように持つと都合がよい。共通流路を回転中心軸上に配置すれば、流路切替え部材の回転が任意でも、必ず共通流路と接続用流路が相対するからである。
【0052】
一方、接続用流路の一端が、わざと回転中心軸にかからないような流路切替え部材であってもよい。
図8にその一例を示す。
図8(a)は、流路切替え部材9の接続用流路11が、回転中心軸から偏心した位置にある。共通流路4もそれと同じ偏心位置にあるが、そのままだと流路切替え部材9の回転角度によっては連通し得ない。そこで、流路切替え部材9に、環状の溝16を持たせ、この溝16を通じて、分岐流路5まで連通させる。
図8(b)は、流路切替え部材9の上面図である。環状の溝16は、流路切替え部材9側ではなく、
図8(c)のように、格納室10側に持たせてもよい。
【0053】
このような構造とすることで、以下の効果が得られる。
【0054】
接続用流路の一端が回転中心軸にかかるようにした場合、接続用流路の本数は最大でも、円柱の上面と下面に関わる、2本のみである。しかし、回転中心軸にかからなくてもよければ、理論上無数の接続用流路を持つことができる。
【0055】
複数の接続用流路を持てると、1つの流路切替え部材9で、複数の共通流路の流路切替えが可能になる。
図9にその一例を示す。
図9は、1つの流路切替え部材で、2つの共通流路に対して流路切替えを行う例である。
図9(a)において、流路切替え部材9には2つの接続用流路11p,11qがあり、それぞれ環状の溝16p,16qを持つ。格納室10には、共通流路4pと4qが接続され、それぞれ、5p1または5p2、5q1または5q2の分岐流路に切替えることができる。2系統の液が混合しないよう、
図9(b)のように、2つの環状の溝の間にもう1つ環状の溝17を設け、Oリング18で仕切ってもよい。
【0056】
このような流路切替え部材を持つことで、
図10(a)のように、2つの流路切替え機構8a,8bを、
図10(b)のように1つの流路切替え機構19にまとめることができる。
【0057】
図11は、
図8(c)の環状の溝の代替であって、格納室に入る前で共通流路を分岐している。この場合、格納室10に繋合されるのは全て分岐流路5となるが、格納室10に繋合される部分、つまり4a,4bまでを共通流路とみなせば、これまでと同様に考えることができる。
【0058】
〈流路切替え部材の切替え方法〉
次に、流路切替え部材の向きの切替え方法について説明する。以下において、
図12〜
図16に基づいて、流路切替え部材の切替え方法の一例、変形例について順に説明する。
図12は、流路切替え部材の切替え方法の一例を示す図である。さらに、
図13〜
図16はそれぞれ、流路切替え部材の切替え方法の変形例を示す図である。
【0059】
流路切替え部材は、閉じた系の内部にあるから、その切替えのために直接触れることはできず、工夫が必要である。切り替える方法の1つとして、遠隔作用力の利用がある。利用できる遠隔作用力の例として、磁力と重力がある。
【0060】
図12は、磁力を利用した流路切替え部材の切替え方法である。流路切替え部材は、磁性材料でできているか、あるいは磁性材料が埋め込まれている。格納室の外に磁界発生手段があり、磁界を変化させることで、切替え部材の向きを変える。
図12(a)において、流路切替え部材9には磁性体である磁石20が埋め込まれており、格納室10の壁越しに別の磁石21を当て、後者を回転させることで、流路切替え部材9の向きを変える。保持力の大きい磁石を用いると、より向きは定まりやすい。
図12(b)のように、円環状の磁石22を回転させてもよい。この構造だと、吸引力の向きから、流路切替え部材9と格納室10の間にほとんど摩擦が発生せず、小さな力での切替えが可能である。
【0061】
磁界発生手段として、電磁石でもよい。
【0062】
重力利用の場合は、力の向きが1方向で不変なので、磁力利用に比べて切替えは困難であるが、重心を偏心させた切替え部材を利用し、格納室側を回転させることで、流路を切り替えることは可能である。
【0063】
次に、流路切替え部材を間接的に掴んで切替える方法を説明する。
図13にその一例を示す。
図13(a)において、格納室10の一部が開口し、その開口部を塞ぐように、封止部材として弾性もしくは可撓性の膜23が接着されている。膜23で塞がれているため、閉鎖系は維持されるが、膜23は変形可能なため、膜23を介して流路切替え部材9を掴み、外力を伝達することができる。
【0064】
流路切替え部材9には、掴みやすくする工夫があるとよい。例えば、
図13(a)のように、流路切替え部材9の一部に凹部構造24を持ち、これに合う凸部構造を持つ外力伝達機構25で、膜23を介して流路切替え部材9を掴む。
【0065】
掴みやすくするために、
図13(b)のように、流路切替え部材9の一部を格納室10から突出させてもよい。突出部分を含め、膜23で覆うことによって、閉鎖系は維持される。外力伝達機構26は、流路切替え部材9の突出部分を膜23を介して掴み、回転して離す機能を持つ。
【0066】
膜23は、弾性または可撓性を備えているが、可変量に限界があるため、膜23を掴んだまま必要以上に回転させない工夫が必要である。例えば、一度で回転させるのではなく、回転量を分割し、掴み替えを繰り返す方法がある。掴み替えで膜を離す時に、弾性により膜の変形が戻り、あるいは、撓みを戻すようにすることで、繰り返しの回転操作が可能となる。前述した
図7のように、流路切替え部材に複数の接続用流路を持ち、切替え時の回転量を減らす工夫と組み合わせることも有効である。
【0067】
図14のように、流路切替え部材9の一部を閉鎖系の外部に露出させ、その露出部分9aを直接掴んで切り替えるのもよい。露出部分9aと閉鎖系内部の境界には、何らかのシール手段を備え、閉鎖系を維持する。
図14(a)は、格納室10と流路切替え部材9の双方に、弾性または可撓性の膜27を接着し、シールしている。
図14(b)のように、Oリング28や、オイルシールを利用したシール方法もある。
【0068】
流路切替え部材9は、その接続用流路が閉鎖系の内部にあればよいのであって、必ずしも格納室10内に収まっていなければならないわけではない。
図15(a)のように、格納室と言える構造がなかったり、
図15(b)のように、流路切替え部材9がそのまま格納室の構造を備えていたりしてもよい。
図15(a)は、上面と下面に接続用流路の開口を持つ流路切替え部材9であって、側面にあたる位置が開放状態にあるが、弾性または可撓性の膜27で塞がれている。これにより、閉鎖系は維持される。
図15(b)は、共通流路4と分岐流路5が同一面にあって、流路切替え部材9は、この部分を覆い被せるような形状をしている。閉鎖系が崩れないようにシール手段を備えており、この
図15(b)ではOリング28を使用している。
【0069】
図16のように、一部を閉鎖系の外部に露出させた流路切替え部材9の、その外部露出部分から、接続用流路の一端を出してもよい。接続用流路は共通流路を兼ねることになり、そのまま供給バッグと接続できる。
図16(a)は、共通流路を兼ねた接続用流路11を流路切替え部材9の回転中心軸に位置させている。また、
図16(b)のような構造とすることで、共通流路を兼ねた接続用流路11を流路切替え部材9の回転中心軸に位置させる必要が無くなるから、理論上無数の接続用流路を持てる利点もある。
【0070】
〈細胞培養装置の変形例〉
図17は、本実施の形態における細胞培養装置の概要の変形例を示す図である。
【0071】
本実施の形態における細胞培養装置において、流路切替え機構8は、
図17のように、下流に配置してもよい。この場合には、下流側の分岐流路6から下流側の共通流路7への合流部分に、流路切替え機構8を持つ。このように、流路切替え機構8は、下流側の分岐流路6と下流側の共通流路7との合流部に配置される。
【0072】
この流路切替え機構8は、構造上、流路切替え部材と格納室の隙間に液が入り得て、これはデッドボリュームとなる。これは上流にあると無駄となるが、排液側である下流であれば無駄とならない。また、下流に配置することで、流路切替え機構8を構成する部材の、材料に対する制限が緩和される利点もある。流路切替え機構8を上流に配置する場合は、液はこれを通過して培養容器1に流れるから、構成部材の材料は培養に影響を及ぼさないことが必須であるが、排液側である下流であれば、その限りではない。
【0073】
〈実施の形態1の効果〉
以上説明したように、本実施の形態における細胞培養装置によれば、複数の各培養容器1に接続された複数の流路を切替える1つの流路切替え機構8を有することで、代表的には、コストを抑えつつ、複数の培養容器1間の均等・均質な送液が可能となる。この結果、培養容器1間の培養品質の均質化が図れる。また、複数の培養容器1で同時に細胞培養できるようになるので、培養容器1の個数を増やして収量を上げることが可能となる。また、目標収量に合わせて培養容器1の個数を変更することなどもできるので、細胞培養に柔軟な対応が可能となる。その他の効果は、本実施の形態において説明した通りである。
【0074】
さらに、その他の効果として、例えば、培養物が複数得られることから、そのうち1つを、移植用とは別に検査用に供することが可能となる。染色検査などの侵襲的な検査方法の場合、いわゆる破壊検査になってしまうため、検査後にそれを移植用に供することができない。本実施の形態のように同時に複数培養すれば、移植前にそのうち1つを検査用に取出し、品質に問題がないことを確認してから、残りを移植用に使用する、といった使い方が可能となる。
【0075】
[実施の形態2]
本実施の形態における細胞培養装置について、
図18〜
図19を用いて説明する。
図18は、流路切替え機構の構造の一例および変形例を示す図である。さらに、
図19は、流路切替え機構の構造の変形例を示す図である。
【0076】
流路切替え部材は、前述した実施の形態1のような回転運動に限らず、直線運動、ねじ運動のような往復運動でも構わない。本実施の形態では、往復運動する流路切替え部材の例を述べる。本実施の形態では、前述した実施の形態1と異なる点を主に説明する。
【0077】
図18(a)において、流路切替え部材29は格納室30の中にあって、内部に1本の貫通穴31を接続用流路として持つ。格納室30には、分岐流路5の上流と下流が対で繋合されており、流路切替え部材29が左右に動けるだけの空間がある。流路切替え部材29の位置を変えることで、いずれか1本の分岐流路5を選択する。
【0078】
図18(b)のように、接続用流路を貫通穴31と溝32を組合せた形状とし、格納室30に直接、共通流路4を繋合してもよい。また
図18(c)のように、格納室30側に溝33を持たせてもよい。
【0079】
図19のように、格納室30内での流路切替え部材29の左右の移動を円滑に行えるようにするため、左右方向に、接続用流路と交差しない貫通穴34があってもよい。
【0080】
回転運動する流路切替え部材は、向きを変えるだけで切替えができ、流路切替え部材の動作域は変わらないから、格納室を小さくできる。ただし、共通流路、分岐流路、接続用流路を、三次元的に配置することが必要となる。一方、本実施の形態のような往復運動式であれば、これらを二次元的に配置することが可能であるから、もし流路切替え機構を薄く実現したい場合には後者が適している。
【0081】
なお、接続用流路の形状や本数、流路切替え部材の切替え方法などは、往復運動式であっても、回転運動式と同様に考えることができる。
【0082】
以上説明したように、本実施の形態における細胞培養装置によれば、前述した実施の形態1と同様の効果に加えて、以下のような異なる効果を得ることができる。例えば、代表的には、直線運動、ねじ運動のような往復運動する流路切替え部材29を有することで、これらを二次元的に配置することができるので、流路切替え機構を薄型化することが可能となる。その他の効果は、本実施の形態において説明した通りである。
【0083】
[実施の形態3]
本実施の形態における細胞培養装置について、
図20〜
図27を用いて説明する。
図20は、流路切替え機構を含めた一体型流路構成の一例を示す図である。さらに、
図21〜
図27はそれぞれ、流路切替え機構を含めた一体型流路構成の変形例を示す図である。
【0084】
本実施の形態では、流路切替え機構を含めた一体型流路構成の例について説明する。本実施の形態でも、前述した実施の形態1および2と異なる点を主に説明する。
【0085】
複数の培養容器を並列で接続する場合、その数だけ分岐が必要になり、流路本数が増えて複雑になる。個別の流路を1本1本接続していては、大きな手間となるだけではなく、誤配管のリスクもある。そこで、これらの流路を纏めて一体型の部材(集積流路部材)にするのがよい。
図20にその一例を示す。
【0086】
図20(a)は、培養容器と集積流路部材を、流路切替え部材も含めて組合せた状態での立体図、
図20(b)はその側断面図である。流路切替え部材は、下流側に配置してある例である。
図20のような、培養容器と、流路切替え部材を内包した集積流路部材と、を有する構成を、ここでは培養容器セットと呼ぶ。
【0087】
培養容器35は、培養面35a、流入流路35b、排出流路35cを持つ。集積流路部材36は、流入口36a、上流側共通流路36b、上流側分岐流路36c、下流側分岐流路36d、流路切替え部材の格納室36e、下流側共通流路36f、排出口36gを持つ。また、培養容器35と集積流路部材36は、互いに接続が可能なように、それぞれ接続口35d、ポート36hを持つ。培養容器35に接続口35dは1つで、集積流路部材36は複数の容器が接続できるよう複数のポート36hを持つ。また、格納室36eの内部に流路切替え部材37を持つ。
【0088】
培養容器35の接続口35dには流入流路と排出流路が繋がり、集積流路部材36のポート36hには、上下の分岐流路が繋がっている。集積流路部材36と培養容器35を接続したとき、上流側分岐流路36cと培養容器35の流入流路35b、下流側分岐流路36dと培養容器35の排出流路35cが、それぞれ相対するようになっている。望ましくは、接続口35d、ポート36hは、それぞれ1つの面を有し、その面にそれぞれ前出の流路が繋がっていることで、面同士を合わせることで、流路同士が相対する。こうすることで、集積流路部材36に対して、一方向から培養容器35の着脱が行えるため、着脱が容易になる。接続口35d、ポート36hは、位置決めや封止目的のために、複数の面を持ってもよいが、それぞれの面の法線のなす角が180°を超えないようにすべきである。そうすれば、面の配置にもよるが、複数面を持ったとしても一方向からの着脱が可能となる。
【0089】
培養容器35の培養面35aにおける液の入口35eと出口35fは、送液が全面に行き渡るように、培養面35aを挟んで正対するように配置するのがよい。一方、集積流路部材36との接続容易化のためには、前述の通り、流入流路35bと排出流路35cが接続口35dの一つの面に繋がるのがよいから、培養容器35内の流路の配置には工夫が必要である。例えば、
図21(a)のように、円形の培養面35aの接線方向に平行な2本の流入流路35b、排出流路35cを引き出して接続口35dに繋げるようにしてもよい。あるいは、
図21(b)のように、法線方向に引き出した流入流路35b、排出流路35cの、いずれかを折り返して接続口35dに繋げるようにしてもよい(
図21(b)は排出流路35cを折り返した例である)。
【0090】
培養容器35の装着において、簡単に装着できるように、スナップフィット構造を利用し、一方向に押込み、はめ込んで固定できるようにしてもよい。
図22にその構造の一例を示す。
図22(a)(b)は、集積流路部材36に凸構造36p、培養容器35側に凹構造35pを持つ。
図22(c)のように、培養容器35側に凸構造35q、集積流路部材36に凹構造36qを持させてもよい。
【0091】
集積流路部材36のポート36hと培養容器35の接続口35dの間は、
図22(a)(c)のようなパッキン38pや、
図22(b)のようなテーパ35r,36rによるシールで漏れないような工夫がなされている。
【0092】
集積流路部材36のポート36hおよび培養容器35の接続口35dの形状は、非対称にして、上下逆に取り付かないようにするのもよい。
【0093】
これらのような形状とすることで、集積流路部材36の各ポート36hに培養容器35を接続し、集積流路部材36の流入口36a、排出口36gに、それぞれ供給バッグ、回収バッグを接続するだけで閉鎖培養系が出来上がる。この結果、手間はかからず、培養容器35との誤配管も起き得ない。また、上下の共通流路と分岐流路を一体にまとめたので、コストも下げることができる。
【0094】
なお、流路切替え部材37の内包方法として、
図23のように、集積流路部材を分割部材36sと36tに2分割し、流路切替え部材37の挿入後、2分割した分割部材36sと36tを例えば超音波溶着で接合させる方法がある。
【0095】
図24は、閉鎖系の外部から、流路切替え部材に直接外力を伝達できるように、その一部を閉鎖系の外に露出させた例である。集積流路部材38は、流入口38a、上流側共通流路38b、上流側分岐流路38c、下流側分岐流路38d、流路切替え部材の格納室38e、ポート38hを持つ。格納室38eは開口しており、流路切替え部材39が挿入される。弾性または可撓性の膜40が、集積流路部材38と流路切替え部材39のそれぞれに接合され、これにより閉鎖系は維持される。閉鎖系維持の手段として、Oリングやオイルシールを使用したシール手段でもよい。流路切替え部材39は、接続用流路39aを持つが、この一端は閉鎖系外に排出口39bとして出ている。この接続用流路39aは、下流側共通流路を兼ねていることになる。流路切替え部材39の排出口39bに供給バッグを接続すればよい。それ以外に関しては、流路切替え部材を内包した例と同様にすればよい。
【0096】
なお、流路切替えは、流路切替え部材39と集積流路部材38内の所望の分岐流路の、相対関係が合わせられればよいのであって、駆動対象は必ずしも流路切替え部材とは限らない。流路切替え部材を固定して、集積流路部材側を駆動してもよい。
【0097】
図25(a)のように、接続口の形・大きさを変えず、培養面の大きさのみを変えた培養容器を用意してもよい。培養容器35と培養容器41は、培養面の大きさは異なるが、接続口の形状・大きさは同じにしてある。そのため、培養容器が変わっても、集積流路部材はそのまま使用できる。このように、培養面の異なる培養容器35,41を混在させてもよい。
【0098】
また、接続口の形状に合わせた栓42があってもよい。栓42は、液を封止する機能だけを持たせればよいので、安価に製造できる。集積流路部材に、必要な個数の培養容器を接続し、余ったポートは栓42をすればよい。
【0099】
図25(b)は、集積流路部材36に、培養面の大きさの異なる培養容器35,41と栓42を接続した状態を示す。目的の培養に合わせ、フレキシブルな対応が可能となる。
【0100】
培養容器は取り外しも可能である。検査用に取り外す用途が考えられる。取り外した後、栓をしてもよいし、取り外しする際に、集積流路部材側と培養容器側がそれぞれ閉塞し、無菌的に分離できる仕掛けがあるとよい。
【0101】
培養容器や集積流路部材、流路切替え部材は、樹脂モールド品であることが価格の面から好ましい。材料として、一般的な培養容器に使用される材料である、ポリスチレンやポリプロピレン、ポリカーボネートなどがよい。
【0102】
図26は、流路切替え部材が往復運動する場合の集積流路部材の例である。流路切替え部材は下流側に配置してある。集積流路部材43は、大きく上流部43aと下流部43bに分かれ、これらが一体となった構造をしている。集積流路部材43は、流入口43c、上流側共通流路43d、上流側分岐流路43e、下流側分岐流路43f、流路切替え部材の格納室43g、下流側共通流路43h、排出口43iを持つ。培養容器35との接続部は、上流側分岐流路43e、下流側分岐流路43fが同一方向に開口部を持つ、ポート43jを備えており、一方向からの着脱が可能となっている。また、格納室43gの内部に往復運動型の流路切替え部材を持つ。
【0103】
図27(a)のように、集積流路部材は、上流側集積流路部材45と下流側集積流路部材46を分け、別々の部材としてもよい。
図27(b)のように、培養容器44は、培養面44aに対し、流入流路44bと排出流路44cが正対して引き出され、2箇所の接続口44d,44eを持つ構造とし、上流側集積流路部材45と下流側集積流路部材46とで、挟むようにして接続する。
【0104】
図27のような構造は、接続口が1箇所の培養容器より接続は困難になり、また、一般的に部材を分けることはコスト高に繋がるが、全体構造を薄くしたい場合などに効果がある。
【0105】
以上説明したように、本実施の形態における細胞培養装置によれば、前述した実施の形態1と同様の効果に加えて、以下のような異なる効果を得ることができる。例えば、代表的には、培養容器と、流路切替え部材を内包した集積流路部材と、を有する培養容器セットにより、複数の培養容器を並列で接続する場合に、手間がかからず、培養容器との誤配管も起きないようにすることができる。その他の効果は、本実施の形態において説明した通りである。
【0106】
[実施の形態4]
本実施の形態における細胞培養装置について、
図28〜
図31を用いて説明する。
図28は、細胞培養装置を使用した細胞培養の概要の一例を示す図である。
図29は、細胞培養装置を使用した細胞培養における制御タイムチャートの一例を示す図であり、
図30はその変形例を示す図である。さらに、
図31は、細胞培養装置を使用した細胞培養における送液の様子の一例を示す図である。
図32は、細胞培養装置を使用した細胞培養におけるカメラと培養容器の駆動制御の一例を示す図である。
【0107】
本実施の形態では、前述したような閉鎖培養系の細胞培養装置を使用した細胞培養の例を述べる。本実施の形態でも、前述した実施の形態1〜3と異なる点を主に説明する。
【0108】
図28において、複数の培養容器35−1〜35−4は、流路切替え部材37を含む集積流路部材36に接続され、一体となってインキュベータ47内に設置される。インキュベータ47内の環境は、培養の種類に合わせて設定される。例えば、温度37度、湿度95%、CO
2濃度5%といった環境設定がよく使用される。
【0109】
集積流路部材36にはまた、上流側および下流側に共通流路4,7が接続され、さらにそれぞれ供給バッグ2−1,2−2、回収バッグ3が接続され、閉鎖培養系を成している。
【0110】
図28のように、供給バッグ2−1,2−2は複数あってもよく、それぞれ共通流路4に接続される。例えば、細胞播種用の細胞懸濁液と、培地交換用の培地は、別々に分けられていた方がよく、別々の供給バッグに用意され、共通流路へと接続されている。
【0111】
これらの供給バッグ2−1,2−2は、切替え弁48により、送液選択ができるようになっている。この切替え手段は、流れを望まない箇所の流路は完全遮断したいから、これまで述べてきた手段とは別の切替え手段であるべきである。例えば、各流路にピンチ弁を設ける方法があるが、本発明では特に述べない。供給バッグ2−1,2−2は、内容物の品質保持のため、保冷庫49に保管するとよい。
【0112】
回収バッグ3は、排液であれば、設置場所は特に問わないが、培養期間中の劣化を遅らせるために、これも保冷庫に設置しても構わない。また、図示しないが、複数の回収バッグを接続し、複数の供給バッグの送液切替えと同様、切替え弁で回収物を分離してもよい。
【0113】
送液駆動源として、ポンプ機構であるしごきポンプ50が共通流路4に設置される。共通流路4は、例えばシリコンゴムでできており、その弾性により、共通流路4をしごいて送液することが可能である。
【0114】
流路切替え部材37の切替えには、制御機構である流路切替え部材駆動機構51があり、例えばステッピングモータやサーボモータを利用した機構であって、流路切替え部材37の向き、位置を変えることができる。
【0115】
以上のような細胞培養装置の構成において、切替え弁48、しごきポンプ50、流路切替え部材駆動機構51を、制御部52にて制御することで、所望の送液が実現される。
【0116】
次に、細胞を播種、すなわち培養容器に細胞懸濁液を送液する際の制御について説明する。この制御タイムチャートの一例を
図29(a)に示す。
【0117】
流路切替え部材駆動機構51により、流路切替え部材37を所望の培養容器(例えば35−1)へ向ける。切替え弁48は細胞懸濁液の入った供給バッグ(例えば2−1)を選択(ON)し、この状態でしごきポンプ50を駆動(ON)すると、所望の培養容器35−1への送液が開始される。この状態で一定時間送液し、培養容器35−1が細胞懸濁液で満たされたら、流路切替え部材37を駆動し、別の培養容器(例えば35−2)へ送液を開始する。これを繰り返すことで、複数設置された培養容器35−1〜35−4の全てに播種することが可能である。この
図29では培養容器が4個の例である。なお、送液時間は、一定の時間で送ってもよいし、あるいは、培養容器が液で一杯になったことを検知する何らかのセンサをつけて、送液時間を制御してもよい。
【0118】
図29(b)は、培地交換用に培地を送液する際の制御タイムチャートである。培地交換は、細胞播種後、培養期間中に、一定期間ごとに実施される。送液種として、切替え弁48により培地が選択(ON)されているが、その他の動きは細胞播種とほぼ同じである。
【0119】
本閉鎖培養系では、先に入っているものを後から入れるもので押し出すのだが、押し出すものとしては必ずしも液体である必要はない。細胞懸濁液や培地の入った供給バッグの他に、滅菌された気体が入った供給バッグを接続し、先に入っている細胞懸濁液や培地を、この気体で押し出してもよい。
【0120】
培養容器の上流側にある液体は、次の送液時に使用することはできるが、保冷庫外に置かれた状態だと劣化が早まるため、できるだけ、この分を少なくするのが望ましい。必要な液量を送り、その後ろから気体で押し出すように送り、液はできるだけ保冷庫内、すなわち供給バッグ内に留めておくと、液の劣化も少なく、無駄もなく送液することが可能となる。
図30は、必要な液量の培地を送液した後、気体で押し出す際の制御タイムチャートである。
【0121】
気体の入った供給バッグの代わりに、HEPAフィルタ経由で外気を取り込んでもよい。HEPAフィルタの径を小さくすることで、実質的に閉鎖系とみなせる。
【0122】
保冷庫から送られた液体は冷やされているので、培養容器に入る前に、培養に影響が出ない温度まで、加温してから培養容器に送液するのがよい。加熱用に専用の熱源を持ってもよいが、インキュベータ内の環境の熱を利用するのが経済的である。インキュベータに入ってから培養容器までの共通流路を長くとって、静置加温するのがよい。長い共通流路に代わる、容積型のタンク類を設置してもよい。静置加温後、培養容器に送液する前に何らかの攪拌手段を備えてもよい。
【0123】
培養容器の培養面は流入口、排出口に比べて大きいので、空の培養容器から送液する際、空気が残りやすい。培養容器内の空気が残らず抜けるように、培養容器を傾けながら送液するとよい。
図31(a)に培養容器35−1,35−3(35−2,35−4)を傾けて送液する様子を示す。培養容器を上に傾けながら送液することで、重力により液は下から埋まるように送られるから、空気を残さずに送り出すことができる。また、培養容器の液体を抜くときは、
図31(b)のように、培養容器35−1,35−3(35−2,35−4)を下に傾けながら気体を送ると、培養容器に液を残さずに抜き取ることができる。
【0124】
本実施の形態に記載の培養容器35−1〜35−4は、集積流路部材36と一体なので、集積流路部材36ごと傾ければよい。そのための傾斜機構53も、制御部52によって同時に制御されるとよい(前述した
図28に図示)。
【0125】
また、前述した
図28に示すように、インキュベータ47内にはカメラ54が備えられ、培養容器内の培養の様子を観察することができる。観察結果により、何らかの差異が認められれば、アラームを出したり、その内容により制御内容を変えたりすることができる。カメラ54にはカメラ駆動機構55が付き、これも制御部52で制御される。
【0126】
本実施の形態では、培養容器を複数個持つが、その全てを観察できることが望ましい。そのためには、
図32(a)のように、カメラ54は、焦点合わせ用のZ方向の制御ができるだけではなく、XY方向の二次元にも移動できるようにしなければならない。ただ、カメラ54と培養容器35−1〜35−4は、相対位置が変わればよいので、カメラ54ではなく、培養容器35−1〜35−4側を動かす方法もある。その一例を
図32(b)に示す。
図32(b)のように、流路切替え部材駆動機構において、流路切替え部材37を固定し、培養容器35−1〜35−4側を動かしてもよい。このようにすると、カメラ54による観察系を高さ方向の制御(Z制御)だけにすることが可能である。全面観察のためには、水平方向の一軸の制御(X制御)を追加してもよい。これでも、3軸制御よりは簡素であり、コストを下げることができる。
【0127】
以上説明したように、本実施の形態における細胞培養装置によれば、前述した実施の形態1と同様の効果に加えて、以下のような異なる効果を得ることができる。例えば、代表的には、細胞培養装置を使用した細胞培養において、送液選択や内容物の品質保持、さらに所望の送液を実現することができる。その他の効果は、本実施の形態において説明した通りである。
【0128】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施の形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0129】
[付記]
本発明は、特許請求の範囲に記載の細胞培養装置の他、例えば、培養容器セットなどに関して、以下のような特徴を有するものである。
【0130】
(1)特許請求の範囲(例えば請求項4乃至12のいずれか1項)に記載の細胞培養装置で使用される培養容器セットであって、
接続口を持つ、複数の培養容器と、
前記複数の各培養容器を着脱可能な複数のポートを有する集積流路部材と、
を有し、
前記集積流路部材は、
上流側および下流側の共通流路、および、各々から分岐し、前記複数のポートにつながる、複数の分岐流路を持ち、
前記共通流路と前記分岐流路との分岐部または合流部に、内部に接続用流路を有し、前記複数の分岐流路のうち所望の流路と前記接続用流路との連通を移動により可能とする流路切替え部材を内包している、培養容器セット。
【0131】
(2)特許請求の範囲(例えば請求項13または14)に記載の細胞培養装置で使用される培養容器セットであって、
接続口を持つ、複数の培養容器と、
前記複数の各培養容器を着脱可能な複数のポートを有する集積流路部材と、
を有し、
前記集積流路部材は、
上流側または下流側の共通流路およびそこから分岐し、前記複数のポートにつながる、複数の分岐流路を持ち、
前記複数のポートからのびる、下流側または上流側の分岐流路を持ち、
一部が閉鎖培養系の外部に露出し、その境界に封止部を設け、内部に共通流路機能を持つ接続用流路を有し、前記下流側または上流側の複数の分岐流路のうち所望の流路と前記接続用流路との連通を移動により可能とする流路切替え部材を内包している、培養容器セット。
【0132】
(3)前記(1)または(2)に記載の培養容器セットにおいて、
前記各培養容器は1つの接続口を有し、一方向からの着脱が可能である、培養容器セット。
【0133】
(4)前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の培養容器セットにおいて、
前記培養容器は、前記接続口の大きさのみ同じで、培養面の大きさが異なる、培養容器セット。
【0134】
(5)前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の培養容器セットにおいて、
前記接続口の大きさのみ同じである栓を有する、培養容器セット。
【0135】
(6)前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の培養容器セットにおいて、
前記培養容器、前記集積流路部材、および、前記流路切替え部材は、樹脂成型品である、培養容器セット。
【0136】
(7)特許請求の範囲(例えば請求項4乃至15のいずれか1項)に記載の細胞培養装置において、
接続された培養容器の種類により、送液量を制御するポンプ機構を有する、細胞培養装置。
【0137】
(8)特許請求の範囲(例えば請求項4乃至15のいずれか1項)に記載の細胞培養装置において、
前記培養容器を含む培養容器セットを傾ける傾斜機構を有する、細胞培養装置。
【0138】
(9)特許請求の範囲(例えば請求項4乃至15のいずれか1項)に記載の細胞培養装置において、
前記流路切替え部材を固定し、前記培養容器側を駆動する駆動機構を有する、細胞培養装置。
【0139】
(10)特許請求の範囲(例えば請求項4乃至15のいずれか1項)に記載の細胞培養装置において、
水平方向一軸、高さ方向一軸の二軸制御のカメラ駆動機構を有する、細胞培養装置。
【0140】
(11)接続口を持つ、複数の培養容器と、
前記複数の各培養容器を着脱可能な複数のポート、および、上流側および下流側の共通流路、および、各々から分岐し、前記複数のポートにつながる、複数の分岐流路、を有する集積流路部材と、
を有し、
前記各培養容器は、
1つの接続口を有し、一方向からの着脱が可能である、培養容器セット。
【0141】
(12)前記(11)記載の培養容器セットにおいて、
前記培養容器は、前記接続口の大きさのみ同じで、培養面の大きさが異なる、培養容器セット。
【0142】
(13)前記(11)記載の培養容器セットにおいて、
前記接続口の大きさのみ同じである栓を有する、培養容器セット。
【0143】
(14)前記(11)記載の培養容器セットにおいて、
前記培養容器、前記集積流路部材、および、前記流路切替え部材は、樹脂成型品である、培養容器セット。