(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような有価金属の回収方法では、酸浸出されて浸出後液に含まれるマンガンは、溶媒抽出法等により回収することができるものの、この溶媒抽出等によりマンガンを回収する場合は、マンガンを溶媒抽出するための工数が必要となって、コストが嵩むという問題があった。
【0007】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、リチウムイオン電池リサイクル原料の酸浸出した後、マンガンを回収するに必要な手間及びコストを減らし、それにより、処理コストを低減させることのできるリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、対象金属を含むリチウムイオン電池リサイクル原料を、酸性溶液で酸浸出させる際に、まず、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれるマンガンが浸出し、それによって酸性溶液に存在することになるマンガンイオンが、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれる対象金属の浸出を促進させ、その後、対象金属の浸出に伴い、酸性溶液中に一旦溶解したマンガンが析出して残渣に取り込まれることを見出した。
そして、このことを利用して、浸出工程でマンガンを沈殿させ、これを分離させることにより、後の回収工程でのマンガンの回収を簡略化ないし省略できると考えた。
【0009】
このような知見に基き、この発明のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法は、リチウムと、マンガンと、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上の元素とを含むリチウムイオン電池リサイクル原料から、対象金属を回収する方法であって、リチウムイオン電池リサイクル原料を酸に接触させるとともに、過酸化水素水を添加して、対象金属を浸出させる
に際し、マンガン
を浸出させ、その後、それにより生じたマンガンイオンを酸化物として析出させて当該マンガンの酸化物を残渣
に取り込む浸出工程と、浸出工程で得られた浸出後液から残渣を分離させて分離後液を得る分離工程と、前記分離後液から対象金属を回収する回収工程とを有するものである。
ここで好ましくは、前記浸出工程でORPを、600〜1400mVvsAgClとする。また、前記浸出工程では、マンガンの少なくとも一部を残渣中に残すことができる。
【0010】
この発明の回収方法では、前記対象金属が、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上であることが好ましい。
【0011】
ここで、この発明の回収方法では、前記リチウムイオン電池リサイクル原料が、ニッケル及びコバルトを含み、前記回収工程で、コバルト、ニッケル、リチウムの順に回収することが好ましい。
この場合においては、前記回収工程で、コバルト及びニッケルを溶媒抽出により回収することが好ましい。
またここでは、前記回収工程で、コバルト及びニッケルを中和により回収することもできる。
【0012】
またここで、この発明の回収方法では、前記リチウムイオン電池リサイクル原料が、鉄、銅及びアルミニウムのうちの一種以上をさらに含み、回収工程で、前記分離後液から、鉄、銅及びアルミニウムのうちの一種以上を除去することが好ましい。
【0013】
この発明の回収方法で、前記分離後液にマンガンが含まれる場合は、回収工程で、当該分離後液からマンガンを除去することが好ましい。
【0014】
そしてまた、前記浸出工程で、マンガンを含む化合物、及び/又は、マンガンイオンを含む溶液を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明のリチウムイオン電池リサイクル原料からの対象金属の回収方法によれば、リチウムイオン電池リサイクル原料を酸に接触させるとともに、過酸化水素水を添加して、対象金属を浸出させるとともに、マンガンの少なくとも一部を残渣中に残す浸出工程と、浸出工程で得られた浸出後液から残渣を分離させて分離後液を得る分離工程とを有することにより、回収工程でのマンガンの回収を簡略化ないし省略することができる。
その結果として、処理コストを大きく低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に例示説明する。
この発明のリチウムイオン電池リサイクル原料からの金属の回収方法の一の実施形態は、リチウムと、マンガンと、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上の元素とを含むリチウムイオン電池リサイクル原料から、対象金属を回収する方法であって、リチウムイオン電池リサイクル原料を酸に接触させるとともに、過酸化水素水を添加して、対象金属を浸出させるとともに、マンガンの少なくとも一部を残渣中に残す浸出工程と、浸出工程で得られた浸出後液から残渣を分離させて分離後液を得る分離工程と、前記分離後液から対象金属を回収する回収工程とを有するものである。
【0018】
(リチウムイオン電池リサイクル原料)
この発明で対象とするリチウムイオン電池リサイクル原料は、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄された、いわゆる電池滓、アルミニウム箔付き正極材もしくは正極活物質、または、これらのうちの少なくとも一種、あるいは、たとえば、電池滓等を必要に応じて、後述するように焙焼し、化学処理し、破砕し、および/もしくは篩別したもの等とすることができる。但し、リチウムイオン電池リサイクル原料の種類等によっては、このような焙焼や化学処理、破砕、篩分は必ずしも必要ではない。
【0019】
なおここで、たとえば、リチウムイオン電池リサイクル原料が電池滓である場合、このリチウムイオン電池リサイクル原料には一般に、正極活物質を構成するリチウム、ニッケル、コバルト、マンガンのうちの、一種以上の元素からなる単独金属酸化物または、二種以上の元素からなる複合金属酸化物の他、アルミニウム、銅、鉄等が含まれることがある。
あるいは、リチウムイオン電池リサイクル原料が正極活物質である場合、このリチウムイオン電池リサイクル原料には一般に、上記の単独金属酸化物または複合金属酸化物が含まれ得る。また、アルミニウム箔付き正極材の場合は、当該単独金属酸化物または複合金属酸化物に加えて、さらにアルミニウムが含まれることがある。
【0020】
(焙焼工程)
上記のリチウムイオン電池リサイクル原料は、必要に応じて、既に公知の方法により焙焼することができる。これにより、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれる不要な物質を分解、燃焼もしくは揮発させることができる。焙焼を行う加熱炉としては、固定床炉、電気炉、重油炉、キルン炉、ストーカー炉、流動床炉等を用いることができる。
【0021】
なお、このような焙焼とともに所要の化学処理を施すことが可能であり、そして、一軸破砕機や二軸破砕機等を用いてリチウムイオン電池リサイクル原料を破砕することで適当な大きさに調整した後、下記の篩別工程を実施することができる。
【0022】
(篩別工程)
この篩別工程では、上述したように破砕した後のリチウムイオン電池リサイクル原料を篩別することで、アルミニウム等の一部を取り除くことができる。効果的に篩別するには、事前にリチウムイオン電池リサイクル原料に対して上述した熱処理や化学処理を施しておくことが望ましい。
このような篩別は必須ではないものの、篩別を行わない場合は、後述する浸出工程における酸浸出や中和での試薬の使用量が増加することがある。
【0023】
(浸出工程)
浸出工程では、上記のようにして得られた粉状ないし粒状のリチウムイオン電池リサイクル原料を、硫酸等の酸性溶液に添加するとともに、過酸化水素水を添加して浸出させる。
ここでは、リチウムイオン電池リサイクル原料を酸性溶液に添加した後、所定の温度の下、酸性溶液を一定時間にわたって撹拌することができるが、このような撹拌は必ずしも必要ではない。
【0024】
ここにおいて、この実施形態では、リチウムイオン電池リサイクル原料にマンガンが含まれており、かかるリチウムイオン電池リサイクル原料を酸性溶液に添加すると、はじめに、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれるマンガンが酸性溶液中に溶解する。
それにより、酸性溶液には、マンガンイオンが存在することとなる。
【0025】
その後、酸性溶液中では、上記のマンガンイオンと対象金属とが接触し、対象金属とマンガンイオンとの酸化還元反応に基き、対象金属の浸出が促進する。それに伴い、マンガンは析出して、たとえば二酸化マンガン等の酸化物として沈殿する。
その結果として、酸性溶液に、過酸化水素水を多量に添加しなくとも有効に浸出できるので、浸出に要する高価な過酸化水素水の量を減らすことができて、処理コストを有効に低減させることが可能になる。
【0026】
ここで添加する過酸化水素水は、酸浸出に用いる硫酸等の酸との体積比で、0.1倍以上かつ1倍以下の量とすることが、処理コストをさらに低減するとの観点から好ましい。過酸化水素水を添加しすぎた場合は、多くのマンガンが浸出後液中に溶解し、マンガンの沈殿がほとんど生じないことから、後の回収工程でのマンガンの溶媒抽出等による回収にコストが嵩むからである。より好ましくは、過酸化水素水の量を、0.2倍以上かつ0.4倍以下とする。なおここで過酸化水素水は、一般的に市販されている過酸化水素水、たとえば、一般に使用される過酸化水素35wt%水溶液を用いることが可能である。
【0027】
また過酸化水素を添加しすぎると、浸出工程で沈殿するマンガンの量が低下することが解かった。浸出工程でより多くのマンガンを沈殿させるとの観点からは、過酸化水素は、浸出初期(1h程度)段階で原料中に溶け残るニッケル、コバルトのモル数と、浸出初期段階で液中に存在するマンガンイオンのモル数が等しくなる程度の量を添加することが好ましい。具体的には、過酸化水素の添加量は、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれるニッケル、コバルトのモル数に対して、0倍モル量より多く且つ1.0倍モル量以下の範囲とすることが好適である。
【0028】
またここで、対象金属は、たとえば、ニッケル及びコバルトのうちの一種以上の金属とすることができる。
これらの対象金属は、それよりも酸化還元平衡電位が低く先に浸出するマンガンの金属イオンと接触することにより、酸性溶液中での浸出が有効に促進されることになる。
マンガンは、異なる酸化数を取り得る金属であることから、上記の対象金属を有効に溶解させることができ、また、自らは酸化して酸化物として沈殿することができる。
【0029】
この浸出工程では、マンガンを含む化合物や、マンガンイオンを含む溶液を、酸性溶液中に添加することが、対象金属の浸出をより一層促進させるとの観点から好ましい。このことによれば、酸性溶液に含まれるマンガンイオンが増加して、対象金属の浸出反応をさらに促進させることができる。
この場合、マンガンを含む化合物としては、マンガンの塩化物、硫化物、水酸化物または炭酸塩とすることができる。
【0030】
ここでのマンガン化合物の添加量は、浸出させるリチウムイオン電池リサイクル原料中の対象金属の含有量に対し、0.1倍〜5倍とすることが好ましい。これにより、対象金属の溶解を有効に促進させるとともに、マンガンを十分に沈殿させることができる。
なお、マンガンを含む化合物や、マンガンイオンを含む溶液を添加する場合は、リチウムイオン電池リサイクル原料の浸出開始より、0時間〜12時間が経過した後に添加することが、金属浸出工程の処理時間の短縮化の観点から好ましい。
また、マンガンを酸性溶液中に添加した後、20℃〜80℃の温度の下、酸性溶液の撹拌速度を0rpm〜750rpmとすることが好ましい。
【0031】
酸性溶液に添加するマンガンを含む化合物としては、たとえば、リチウムイオン電池正極活物質の原料(いわゆる正極材前駆体)を挙げることができる。この正極活物質の原料は、リチウム、コバルト、ニッケルおよび/またはマンガン等の化合物を含むものであり、ここにはマンガン等の化合物、たとえば、塩化物、硫化物、水酸化物または炭酸塩が含まれることがある。特に、炭酸マンガン(II)を含むものであることが好ましい。
【0032】
なお浸出工程では、処理時間を短縮化するため、浸出工程におけるリチウムイオン電池リサイクル原料の浸出時間は、1時間〜24時間とすることが好ましい。
また、この浸出工程で用いる酸としては、硫酸、塩酸その他の鉱酸等を挙げることができる。
【0033】
以上に述べた浸出工程では、反応時間を短縮するとの観点からは、液温は高ければ高いほど、また撹拌速度は速ければ速いほど好ましい。但し、比較的高価な過酸化水素の添加量を減らすためには、液温は常温程度に低くし、撹拌速度は遅いほうが好ましい。
また、浸出工程における酸性溶液のpHは低いほど好ましいが、pHが低すぎると中和工程が必要となる。そのため、浸出工程でのpHは、好ましくは0<pH<4、より好ましくは1<pH<2.5とする。また、浸出工程でのORPは、好ましくは600〜1400mVvsAgCl、より好ましくは900〜1300mVvsAgClとする。
【0034】
(分離工程)
この分離工程では、上記の浸出工程で得られた浸出後液から残渣を分離させて分離後液を得る。
浸出工程を経たことにより、先述したように、リチウムイオン電池リサイクル原料の対象金属等の金属は浸出して浸出後液に含まれるとともに、マンガンは、酸化還元反応によって二酸化マンガン等の酸化物として沈殿し、残渣に取り込まれている。ここでは、濾過等の公知の固液分離法により、浸出後液から残渣を分離させる。
【0035】
ここで、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれるマンガンを、上記の浸出工程にて可能な限り沈殿させ、この分離工程で多くのマンガンを分離・回収しておくことは、後の回収工程で、マンガンを回収する手順をより簡略化ないし省略することができるので、処理コストの更なる低減の観点から好ましい。但し、分離後液にマンガンが含まれることもあるため、この場合は、後の回収工程でマンガンの回収を実施することも可能である。
【0036】
(回収工程)
上述した分離工程の後、分離後液からの対象金属等の回収工程を実施する。より詳細には、コバルト、ニッケル、リチウムの順に回収する実施形態は、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれる金属元素に応じて、たとえば、
図1または2に例示する工程を含むことができる。
図1及び
図2は、コバルト及びニッケルを溶媒抽出で回収する実施形態を示したものである。
【0037】
この回収工程では、分離工程で得られた分離後液(以下、「金属混合水溶液」ともいう。)に対し、たとえば、一般的な溶媒抽出法または電解法、中和等を用いて、そこに溶解している対象金属を含む各元素を回収する。
【0038】
<
図1の実施形態の回収工程>
図1では、対象のリチウムイオン電池リサイクル原料に含まれて分離後液中に溶解しているリチウム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、銅、マンガン等を、以下に説明する溶媒抽出を実施することによって分離する例を示す。
(a)溶媒抽出(1)
分離後液に鉄、アルミニウム、銅等を含む場合には、本工程を入れると良い。
具体的には、上述した金属混合水溶液に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤及びカルボン酸系抽出剤を含有する第一混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、分離後液から鉄、アルミニウムを分離する。原料によっては、ホスホン酸エステル系抽出剤のみでもよい。
【0039】
ホスホン酸エステル系抽出剤としては限定的ではないが2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシル(商品名:PC−88A、Ionquest801)が挙げられる。カルボン酸系抽出剤としては限定的ではないがネオデカン酸、ナフテン酸等が挙げられ、中でも高pH側での鉄逆抽出の理由によりネオデカン酸が好ましい。抽出剤としては、ホスホン酸エステル系抽出剤及びカルボン酸系抽出剤以外にも種々考えられるが、本発明においてはこれら以外の抽出剤を必要とすることなく、高い分離効率が得られる。
【0040】
(b)溶媒抽出(2)
分離後液に鉄、アルミニウム、銅等を含む場合に溶媒抽出(1)を実施することで、金属混合水溶液から大部分の鉄、アルミニウム、銅等を除去されるが、溶媒抽出(2)は、溶媒抽出(1)後の抽出残液(水相)に対して溶媒抽出(2)を更に実施することで、取り残された鉄、アルミニウム、銅等とマンガンを溶媒に抽出させる工程である。そこで、浸出工程においてマンガンが酸化物として大部分が除去されていると、溶媒抽出(2)の負荷は小さくなる。特に、浸出工程においてほぼ全てのマンガンが酸化物として除去され、さらに鉄、アルミニウム、銅等が溶媒抽出(1)でほとんど除去されたことによって、溶媒抽出(1)後の抽出残液(水相)中の鉄、アルミニウム、銅等及びマンガンが無視しても良い量である場合には、溶媒抽出(2)は省略してもよい。
【0041】
溶媒抽出(2)では具体的には、溶媒抽出(1)後の抽出残液(水相)に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する第二混合抽出剤を使用する。
【0042】
燐酸エステル系抽出剤としては限定的ではないがジ−2−エチルヘキシルリン酸(商品名:D2EHPA又はDP8R)等が挙げられる。
【0043】
オキシム系抽出剤としては好ましくはアルドキシムやアルドキシムが主成分のものが挙げられる。具体的には、限定的ではないが、2−ヒドロキシ−5−ノニルアセトフェノンオキシム(商品名:LIX84)、5−ドデシルサリシルアルドオキシム(商品名:LIX860)、LIX84とLIX860の混合物(商品名:LIX984)、5−ノニルサリチルアルドキシム(商品名:ACORGAM5640)が挙げられ、その中でも主に価格面から5−ノニルサリチルアルドキシムが好ましい。
【0044】
(c)溶媒抽出(3)
溶媒抽出(2)を終えた段階で、鉄、アルミニウム、銅等及びマンガンが金属混合溶液からほとんど分離除去されている。従って、溶媒抽出(2)後の抽出残液中にはリチウム、コバルト、及びニッケルが主として含まれている。
【0045】
溶媒抽出(3)では、溶媒抽出(2)後の抽出残液(水相)に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からコバルトを溶媒に抽出する。ホスホン酸エステル系抽出剤としては特に制限はないが、ニッケルとコバルトの分離効率の観点から2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシル(商品名:PC−88A、Ionquest801)が好ましい。
【0046】
溶媒抽出後のコバルトを含有する抽出剤(有機相)に対しては、溶媒抽出(1)と同様に、逆抽出を行うことができる。水相側に移動したコバルトは、電解採取などによって回収可能である。
なお、溶媒抽出(3)と後述の溶媒抽出(4)の間に、リチウム及びニッケルを濃縮するために、溶媒抽出(3)後の抽出残液(水相)から、いったん両者を溶媒抽出した後に、逆抽出する操作を行うことも可能である。このときの抽出剤としては2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシルやジ−2−エチルヘキシルリン酸が挙げられる。ニッケル及びリチウムを抽出したこれらの有機相を逆抽出するが、抽出と逆抽出を繰り返すことにより、逆抽出液中のニッケルとリチウム濃度が上昇し、最終的にニッケルとリチウムを濃縮することができる。
【0047】
(d) 溶媒抽出(4)
溶媒抽出(3)後の抽出残液または、濃縮した残液に対して、カルボン酸系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からニッケルを分離する。カルボン酸系抽出剤としては、限定的ではないがネオデカン酸、ナフテン酸等が挙げられ、ニッケルの抽出能力の理由によりネオデカン酸が好ましい。
【0048】
溶媒抽出後のニッケルを含有する抽出剤(有機相)に対して、逆抽出を行うことができる。水相側に移動したニッケルは、電解採取によって回収することがコストの観点で望ましい。
【0049】
ニッケルを分離した後のリチウムを含む水溶液(抽出残液)に対しては、アルカリ剤を添加した後、炭酸ガスを吹き込むか炭酸化剤を添加することで炭酸リチウムを沈殿させ回収することが可能である。アルカリ剤には水酸化ナトリウムまたはアンモニア水が使用できる。
【0050】
<
図2の実施形態の回収工程>
図2に示すところでは、リチウムイオン電池リサイクル原料に含まれる元素は、リチウム、マンガン、コバルト、ニッケルだけである場合である。この場合には、上述した溶媒抽出(1)は省略される。さらに、浸出工程においてマンガンの大部分は、酸化物として沈殿し分離されるので、分離後液中のマンガンがほとんど存在しない場合には上述した溶媒抽出(2)は必要なく、存在が無視できない場合には、溶媒抽出(2)は必要となるが負荷は少なくなる。
溶媒抽出(2)以降は、上述した
図1のケースと同様に、コバルトおよびニッケルを順次に回収して、リチウムのみが残留し、必要に応じてリチウムを回収出ことができる。
【0051】
上記のような回収工程では、マンガンを含む溶媒から逆抽出した溶液を得ることができ、マンガンイオンを含むこの溶液を、先述の浸出工程で添加して用いることが好ましい。それにより、浸出工程での対象金属等の浸出を、過酸化水素なしでさらに有効に促進させることができる。
【0052】
このマンガンイオンを含む溶液としては、硫酸塩溶液、塩酸溶液または硝酸溶液とすることが好ましく、中でも硫酸マンガン(II)溶液とすることが特に好ましい。なお、特に硫酸マンガン(II)溶液は一般に、別途再利用する場合、そのままの状態では用いることができず、更に炭酸化する処理が必要となって費用および工数が増大することから、この金属浸出工程で用いることが有効である。
浸出工程で酸性溶液に添加された硫酸マンガン(II)は還元剤として働いて、対象金属の浸出を効果的に促進させることができる。
【0053】
上記のマンガンイオンを含む溶液を、浸出工程で酸性溶液に添加する場合、酸性液中のマンガンイオンの濃度は、1g/L〜50g/Lとすることが好ましい。
【0054】
あるいは、上記のマンガンイオンを含む溶液に、炭酸化、水酸化、晶析等の処理を施すことによって生成したマンガンの化合物を、浸出工程で酸性溶液に添加して用いることも有効である。
このようにして生成されるマンガンの化合物としては、たとえば、マンガンの炭酸塩、水酸化物または硫酸塩等を挙げることができ、中でも、炭酸マンガン(II)が、金属浸出工程での添加剤として用いることに最も好適である。
【0055】
以上に述べたところでは、溶媒抽出法による回収工程の具体例を説明したが、この他の公知の方法によっても回収することができる。
たとえば、分離後液に鉄、アルミニウム、銅等を含む場合には、鉄、アルミニウムについては、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を添加して水酸化物で除去し、銅については水硫化ソーダ(NaSH)を添加して硫化物で除去することができる。分離除去した溶液を前述した溶媒抽出にて分離しても良いが、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を添加して中和することにより、コバルト及びニッケルとリチウムとを分離することもでき、コバルト及びニッケルを回収することができる。
【実施例】
【0056】
次に、この発明の回収方法を試験的に実施したので、以下に説明する。但し、ここでの説明は単に例示を目的としたものであって、それに限定されることを意図するものではない。
【0057】
<金属の浸出>
(実施例1)
マンガン、コバルト、ニッケル及びリチウムを、表1に示す量で含有するリチウムイオン電池リサイクル原料としての正極活物質Aの10gを、純水100ml及び硫酸1倍モル当量の硫酸酸性溶液中に添加し、浸出温度60℃の下、撹拌速度250rpmで3時間にわたって撹拌させて、各金属を浸出させた。表2に各浸出条件を示す。試験例1〜8では、過酸化水素の添加量(98%濃硫酸添加量に対する35%過酸化水素水添加量の体積比)を、表2に示すように変化させた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
これらの試験例1〜8の結果を、過酸化水素添加量と各金属の浸出率との関係を表すグラフで
図3に示す。
図3に示すところから、硫酸の添加量に対する過酸化水素の添加量の割合が、0.4以下の場合に、リチウム、ニッケル及びコバルトが溶解する一方でマンガンが析出することが解かる。従って、この場合は、浸出後液から残渣を分離させる分離工程にて、ほとんどのマンガンを分離可能である。一方、過酸化水素の割合が0.4を超えると、マンガンの多くが浸出することから、分離工程ではマンガンを有効に分離できず、後の回収工程で別途マンガンを回収することが必要になる。
【0061】
(実施例2)
マンガン、コバルト、ニッケル及びリチウムを、表3に示す量で含有する正極活物質Bの10gを、純水100ml及び硫酸1倍モル当量の硫酸酸性溶液中に添加し、浸出温度60℃の下、撹拌速度250rpmで3時間にわたって撹拌させて、各金属を浸出させた。表4に各浸出条件を示す。試験例9〜17では、過酸化水素の添加量(98%濃硫酸添加量に対する35%過酸化水素水添加量の体積比)を、表4に示すように変化させた。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
試験例9〜17の結果を、過酸化水素添加量と浸出率との関係を表すグラフで
図4に示す。
図4に示すグラフより、硫酸の添加量に対する過酸化水素の添加量の割合が、0.3以下の場合に、リチウム、ニッケル及びコバルトが溶解するとともに、マンガンがあまり溶解せずに析出することが解かる。一方、過酸化水素の割合が0.3を超えると、マンガンの浸出量が多くなるので、後の回収工程でのマンガン回収に要する工数及びコストが増大する。
【0065】
(実施例3)
表3に示す正極活物質Bの10gを、純水100ml及び硫酸1倍モル当量の硫酸酸性溶液中に添加し、浸出温度60℃の下、撹拌速度250rpmで3時間にわたって撹拌させて、各金属を浸出させた。表5に各浸出条件を示す。試験例18〜22では、過酸化水素の添加量(98%濃硫酸添加量に対する35%過酸化水素水添加量の体積比)を、表5に示すように変化させた。
【0066】
【表5】
【0067】
試験例18〜22の結果を、浸出時間の経過に伴う各元素の浸出率の変化を表すグラフで
図5〜9に示す。
図5〜9に示すグラフより、浸出時間を延長させると、マンガンが析出してマンガンの浸出率は減少し、ニッケル及びコバルトの浸出率が増加することが解かる。特に、過酸化水素の添加量の割合を0.2以下とした試験例18〜20では、
図5〜7に示すように、浸出時間を8時間以上にすることで、マンガンの溶解を完全に抑制することができた。これに対し、過酸化水素の添加量の割合が0.3以上とした試験例21及び22では、
図8及び9に示すように、浸出時間をかなり長くしても、マンガンの溶解を完全に抑制することはできなかった。
【0068】
<金属の回収>
上記の試験例1〜8の結果として得られた各浸出後液に含まれるコバルト、ニッケル、リチウムを回収すべく、浸出後液をろ過で残渣と浸出後液に分離した。分離した後の試験例1〜3の浸出後液には、マンガンがほぼ含まれていないため、
図2に示す工程の溶媒抽出(2)は省略できた。また、試験例4〜8では、マンガンが、浸出溶液中に残ったため、
図2に示す工程の溶媒抽出(2)は必要であった。しかし、試験例4は、従来のようにマンガンを浸出工程ですべて浸出させた試験例5〜8に比べ、溶液中のマンガンの残った量は少なかったため、抽出工程で使用する水酸化ナトリウム、逆抽出工程で使用する硫酸及び炭酸化工程で使用する炭酸ソーダは少量であった。なお、試験例1〜8は、鉄、銅、アルミニウムも含んでいないので、溶媒抽出(1)も必要としなかった。
試験例1〜3の分離した後の浸出後液および試験例4の溶媒抽出後の後液は、2−エチルヘキシルホスホン酸2−エチルヘキシル(商品名:PC−88A、Ionquest801)を用いて溶媒抽出にてコバルトとニッケルを分離し(工程として溶媒抽出(3))、溶媒抽出後のコバルトは逆抽出にて水相側に移動させ、電解採取によって電解コバルトとして回収された。
一方、溶媒抽出(3)工程後の後液に含まれるニッケルは、ネオデカン酸系抽出剤を用いて溶抽出を行い、溶媒中のニッケルは逆抽出によって水相側に移動させ、電解採取にて電気ニッケルとして回収された。溶媒抽出(4)工程後の後液中に残ったリチウムは炭酸リチウムとして回収された。