【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様により、対物面と像平面の間に複数の光学要素を含み、これらの複数の光学要素が、屈折力を有する少なくとも1つの第1の光学要素を含むリソグラフィ投影露光装置の投影対物器械を提供する。本方法は、光学要素の全てを差し替えることなしに、少なくとも1つの第1の光学要素を顧客のところで投影対物器械から取り外す段階、少なくとも1つの第1の予備光学要素を少なくとも1つの第1の光学要素の位置で投影対物器械内に挿入する段階、及び投影対物器械の像品質を顧客が望む品質へと調節する段階を含む。
【0013】
本発明による方法は、劣化した光学要素の悪影響のみが、光学要素の全てを差し替えることなく、1つの光学要素を差し替えることによって相殺されるという概念に基づいている。従って、本発明による方法は、所用時間を要さず、顧客のところでの休止時間を著しく短縮する。本方法は、現場で、すなわち、顧客のところで実施され、修理/修正すべき投影対物器械は、投影対物器械の製造業者へと搬送する必要はない。更に、本方法は、顧客が望む品質への投影対物器械の像品質の調節を含み、それにより、投影対物器械の元の状態の像品質を維持するのみならず、投影対物器械の元の状態の像品質に対して修正/修理手順によって像品質を変更することも可能である。
【0014】
少なくとも1つの第1の予備光学要素は、第1の光学要素の形状に少なくともほぼ適応する光学要素である。
少なくとも1つの第1の予備光学要素自体が劣化を受けることは必要ではない。しかし、光学システムの劣化の影響を相殺するためには、少なくとも第1の予備光学要素は、光学システムの光学要素から適正に選択すべきである。特に有利なのは、顧客によって用いられる結像設定に依存して、光学システムの瞳平面の近く、視野平面の近くの位置であり、これらの間の平面が必要になる可能性もある。結像設定は、マスク及び照明設定に依存して、顧客毎に異なる可能性があり、特定の異なる劣化の影響を引き起こす。従って、少なくとも第1の予備光学要素は、光学システム毎に異なるものとすることができる。
【0015】
好ましい実施形態では、本方法は、更に、少なくとも1つの第1の予備光学要素を投影対物器械内に挿入する前に、この少なくとも1つの第1の予備光学要素を加工する段階を含む。
第1の予備光学要素の性質が、加工、例えば、別の好ましい実施形態において与えられているように機械加工を受け入れ、特に、別の好ましい実施形態において与えられているように、少なくとも1つの第1の予備光学要素の少なくとも1つの表面に非球面又は更に非回転対称の表面形状を与えるとする場合、この手段は、第1の予備光学要素が、例えば、第1の予備光学要素と交換される第1の光学要素に対する第1の予備光学要素の光学効果の差を相殺するための望ましい像品質補正をもたらすことができるという利点を有する。また、第1の予備光学要素の加工は、元の状態における投影対物器械の像品質に対して、投影対物器械の像品質を変更するのに用いることができる。
【0016】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1の予備光学要素は、投影対物器械からの取り外し、及びその後の加工の後の第1の光学要素である。
この手段は、投影対物器械の修理経費負担を更に低減するという利点を有する。投影対物器械の光学要素が、製造という点で非常に高価であることを考慮すると、投影対物器械からの取り外し、及び光学要素又はそのコーティングから材料欠陥を除去するためのその後の加工の後の第1の光学要素の再使用は、投影対物器械の修理の経費負担低減に著しく寄与することができる。
【0017】
休止時間を短縮するためには、例えば、第1の光学要素が、その再加工の後に第1の予備光学要素として再使用される場合に、少なくとも1つの第1の予備光学要素が、他の投影対物器械から取り外され、上述の加工処理のうちの1つ又はそれよりも多くに従って加工された第1の光学要素のプールから選択されるならば更に好ましい。例えば、複数の投影対物器械から取り外された複数の第1の光学要素は、再加工し、補給のために保持し、投影対物器械の部分集合内で差し替えることができる。
少なくとも1つの第1の光学要素の加工により、少なくとも1つの第1の光学要素の厚みは、少なくとも1つの第1の光学要素の元の状態のものの厚みに対して低減される可能性がある。
【0018】
再加工された第1の光学要素の厚み低減は、投影対物器械内に再挿入された時に、第1の光学要素の元の状態に対して、第1の光学要素の光学効果の著しい変化を引き起こす可能性がある。しかし、本発明によると、この差は、例えば、少なくとも1つの第1の光学要素の第1の予備光学要素としての投影対物器械内への挿入の前に、第1の光学要素にこの差を補正するのに適する非球面又は更に非回転対称の表面形状を与えることにより、及び/又は光学要素の全て又は一部を再位置決めすること(設定)によって相殺することができる。
第1の予備光学要素は、劣化した第1の光学要素を投影対物器械又は別の投影対物器械から取り外して再加工した後のものとすることができることを前に説明したが、少なくとも1つの第1の予備光学要素は、取り外した第1の光学要素の元の状態のものと同じ種類の本質的に同一の光学要素とすることも可能である。
【0019】
更に別の好ましい実施形態では、像品質を調節する段階は、像品質を測定する段階、並びに少なくとも1つの更に別の光学要素の移動及び/又は変形によって像品質を調節する段階を含む。この少なくとも1つの更に別の光学要素は、それ自体予備光学要素とすることができる。
更に別の好ましい実施形態では、本方法は、更に、複数の光学要素から少なくとも1つの第2の光学要素を選択する段階、少なくとも1つの第2の光学要素を投影対物器械から取り外す段階、及び少なくとも1つの第2の予備光学要素を第2の光学要素の位置で投影対物器械内に挿入する段階を含み、少なくとも1つの第2の予備光学要素は、測定によって得られる実際の像品質と望ましい像品質の間の差に応じて加工及び/又は選択される。
【0020】
少なくとも1つの第2の予備光学要素は、投影対物器械の像品質が、第1の光学要素の第1の予備光学要素による交換の後に、望ましい像品質に完全に調節することはできないが、第2の予備光学要素が、投影対物器械の補正の更に別の自由度をもたらすことができる場合に有利である。更に、第1の予備光学要素は、望ましい像品質に調節することを可能にするために、非球面又は更に非回転対称補正表面が設けられるか、又は第2の予備光学要素が屈折型のものである場合には、望ましい屈折率分布を有するように選択されるという具合に加工及び/又は選択されると上述したが、第1の予備光学要素がそのような加工処理を受け入れず、及び/又はそのような加工処理が望ましい像品質を生じる情勢にない事態が発生する可能性がある。例えば、第1の予備光学要素は、材料の不均質性誤差を受ける可能性があり、像品質からの偏差を引き起こす。そのような事例では、第2の予備光学要素は、その表面の機械加工を可能にするように設計することができ、及び/又は望ましい屈折率分布を有するようにより簡単に選択することができ、更に、望ましい像品質を調節するための補正要素として用いることができる。この実施形態は、第1の予備光学要素が、例えば、液浸型投影対物器械における像平面の隣の最後の光学要素であるか、又は2重液浸型投影対物器械における最後から2番目の光学要素である場合に特に有利である。
【0021】
この関連において、第2の予備光学要素を投影対物器械内に挿入する前に、少なくとも1つの第2の予備光学要素が加工される場合には更に好ましい。
好ましくは、少なくとも1つの第2の予備光学要素の加工段階は、少なくとも1つの第2の予備光学要素の材料の厚みを変更する段階を含む。
少なくとも1つの第2の予備光学要素の材料の厚みを変更する段階は、第1の予備光学要素が、その元の状態の第1の光学要素に対して低減した厚みを有する場合に適切な補正機構であることが分かっている。
【0022】
更に好ましくは、少なくとも1つの第2の予備光学要素の加工段階は、少なくとも1つの第2の予備光学要素の少なくとも1つの表面に非球面又は更に非回転対称の表面形状を与える段階を含む。
少なくとも1つの第2の予備光学要素に非球面又は更に非回転対称の表面形状を与える段階により、望ましい像品質に調節することを可能にするための改善された補正機能を獲得することができる。
【0023】
更に別の好ましい実施形態では、前に取り外された少なくとも1つの第2の光学要素は、加工した後に少なくとも1つの第2の予備光学要素になる。同様の実施形態は、第1の予備光学要素に関して上述している。
更に好ましい実施形態では、本方法は、更に、少なくとも1つの第1の予備光学要素を挿入した後、かつ少なくとも1つの第2の予備光学要素を加工する前に、現場で投影対物器械の像品質を測定する段階、及び測定された像品質に応じて少なくとも1つの第2の予備光学要素に関する補正プロフィールを計算する段階、並びに計算された補正プロフィールに応じて少なくとも1つの第2の予備光学要素を加工する段階を含む。
【0024】
この「2段階」処理は、第1の予備光学要素が、投影対物器械内に挿入される時の変形に対して感受性が高い場合に特に有利である。第1の予備光学要素を投影対物器械内に挿入することにより、第1の予備光学要素の挿入の前には予め模擬することができない第1の予備光学要素の変形が発生する場合がある。この場合には、まず第1の予備光学要素を投影対物器械内に挿入し、投影対物器械の像品質を測定し、この後望ましい像品質を得るために、第2の予備光学要素に要求される補正プロフィールを計算することが有利である。それにより、第1の予備光学要素の挿入処理によって引き起こされる像欠陥が、第2の予備光学要素に関する補正プロフィールを計算する時に考慮される。相応に第2の予備光学要素を加工した後、第2の予備光学要素は、投影対物器械内に挿入される。
【0025】
代替的な実施形態では、少なくとも1つの第2の予備光学要素は、第1の予備光学要素の光学効果のシミュレーションに基づく望ましい像品質に応じて加工され、この後、第1及び第2の予備光学要素は、投影対物器械内に挿入される。
この「1段階」処理は、所用時間の短縮という点で有利であり、特に第1の予備光学要素が、投影対物器械内に挿入される時の変形に感受性がないか又は低い場合に用いることができる。
【0026】
別の好ましい実施形態では、像品質の調節段階は、光学システムの劣化の前の像品質を少なくともほぼ維持する段階を含む。
この手段の利点は、投影対物器械の指紋が、修正/修理処理によって少なくともほぼ変更されないことである。
像品質の調節段階が、例えば、投影対物器械の使用における作動要件に従って少なくとも1つの特定の像欠陥を増加及び低減することにより、光学システムの劣化の前の像品質に対して像品質を変更する段階を含む場合も好ましいものとすることができる。
【0027】
冒頭で既に上述したように、ある一定の状況下の顧客は、ある一定のリソグラフィ露出処理において、コマ収差のような像欠陥を増加させようと望む場合がある。好ましい実施形態では、本質的に同一の光学性能を有するいくつかのリソグラフィ装置を確立するためにいくつかのスペアパーツに個々の補正表面を設けることができる。
そのような作動要件は、投影露光装置の照明設定及び/又は投影対物器械によって結像すべき物体を含むことができる。
【0028】
更に別の好ましい実施形態では、像品質の調節段階は、複数の光学要素のうちの光学要素の少なくとも1つの位置及び/又は形状を調節する段階を含む。
光学要素の1つ又はそれよりも多くの位置の調節段階は、適切なアクチュエータ又はマニピュレータによるx、y、及び/又はz平行移動的及び/又は回転的位置決め段階を含むことができ、適するアクチュエータ又はマニピュレータによって変形させることができる能動レンズ要素の場合には、調節段階は、そのような光学要素の形状を調節する段階を含むことができる。代替的又は追加的に、能動レンズ要素のマニピュレータは、光学要素が屈折型のものである場合には光学要素の屈折率分布を変えることができる。これは、屈折要素を加熱及び/又は冷却、圧搾及び/又は屈曲することによって達成することができる。
【0029】
更に別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1の光学要素は、像平面の隣の最後のレンズ要素であり、液浸型投影対物器械の場合には、液浸液は、光学要素に含まれない。
更に別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの第1の光学要素は、2重液浸型投影対物器械における最後から2番目のレンズ要素である。
既に上述のように、特に液浸型投影対物器械の最後のレンズ要素は、例えば、レンズ要素の液浸液との接触又はコーティングを傷つけることに起因して、多くの場合に劣化を受ける。最後の光学要素は、入射側に大きな曲率を有し、好ましくは、像平面の隣に平面表面を有する比較的肉厚なレンズとすることができる。また、このレンズは、像に近い大きな屈折力集中に起因する劣化を受ける可能性もある。
【0030】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1つの第2の光学要素は、屈折力を持たない要素であり、2重液浸型投影対物器械の場合には、少なくとも1つの第2の光学要素は、2つの液浸液の間に位置した平行平面板である。
補正要素として選択されることになる第2の光学要素としての平行平面板の使用は、凹及び/又は凸表面を有する光学要素に対して、補正表面を有するそのような要素を設ける点におけるより良好な統御性という利点を有する。
【0031】
少なくとも1つの第2の光学要素は、好ましくは、投影対物器械の視野平面の近くか又は瞳平面の近くの位置に配置される。視野平面の近くの位置にある平行平面板は、視野依存の像欠陥に対して特に感受性があり、従って、そのような像欠陥を補正することができ、瞳平面の近くに位置決めされた平行平面板は、特に、視野にわたって少なくともほぼ一定である像欠陥を補正することができる。
本発明の範囲内では、一方が投影対物器械の視野平面の近くに配置され、他方が瞳平面の近くに配置された補正要素として選択することができる2つの第2の光学要素が存在する場合には特に好ましい。
【0032】
本発明は、更に、上述の方法の1つ又はそれよりも多くの実施形態によって修正/修理される投影対物器械を提供する。
更に別の利点及び特徴は、以下の説明及び添付図面から明らかになるであろう。
上述の特徴及び下記に更に説明することになるものは、所定の組合せにおいて適用可能であるのみならず、本発明の範囲から逸脱することなく他の組合せ又は単独でも適用可能であることは理解されるものとする。
例示的な実施形態を図面に示し、これを参照してそれを以下に説明する。