特許第6335376号(P6335376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アルバックの特許一覧

特許6335376四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法
<>
  • 特許6335376-四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法 図000002
  • 特許6335376-四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法 図000003
  • 特許6335376-四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6335376
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20180521BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20180521BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20180521BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   H01J49/04
   H01J49/06
   H01J49/10
   H01J49/42
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-152249(P2017-152249)
(22)【出願日】2017年8月7日
【審査請求日】2018年3月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 領太
(72)【発明者】
【氏名】黒川 裕次郎
(72)【発明者】
【氏名】松崎 純
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 治郎
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/102117(WO,A1)
【文献】 特開2012−234776(JP,A)
【文献】 特開2000−39375(JP,A)
【文献】 特開平9−139187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 40/00−49/48
G01N 27/60−27/70
27/92
G01L 7/00−23/32
27/00−27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体内のガス成分を分析する四重極型質量分析計であって、
フィラメント及びグリッドを有してガスをイオン化するイオン源と、4本の柱状電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンを捕集する第1イオンコレクタと、イオン源で生成されたガスイオンを捕集する第2イオンコレクタとを備え、第1イオンコレクタを流れる第1イオン電流値から試験体内の所定質量数のガス分圧を測定すると共に、第2イオンコレクタを流れる第2イオン電流値から試験体内の全圧を測定するように構成したものにおいて、
ガス成分の分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比が基準感度を基に設定される判定値と同等以下になると、感度低下と判定する判定手段を備えることを特徴とする四重極型質量分析計。
【請求項2】
前記第1イオン電流値として、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンの中で第1イオン電流値が最大となるものを選択することを特徴とする請求項1記載の四重極型質量分析計。
【請求項3】
前記第1イオン電流値として、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンの総和を用いることを特徴とする請求項1記載の四重極型質量分析計。
【請求項4】
試験体内のガスをイオン源でイオン化し、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンを第1イオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れる第1イオン電流値からガス分圧を測定する四重極型質量分析計にてイオン源の感度低下を判定するための判定方法において、
第2イオンコレクタにより試験体内でイオン化されたガスを捕集する工程と、
ガス成分の分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオンコレクタを流れる第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比が基準感度より小さい判定値と比較し、同等以下になると、感度低下したと判定する工程とを含むことを特徴とする判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験体内のガス成分を分析する四重極型質量分析計及びその感度低下を判定するための判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングや蒸着による成膜処理等の真空処理装置内で行われる真空処理においては、処理時の圧力だけでなく、真空チャンバ(試験体)内に残留する気体の成分(残留ガス成分)が膜質等に大きな影響を与える場合がある。このような残留ガス成分を分析するために、四重極型質量分析計が従来から使用されている。
【0003】
この種の四重極型質量分析計は例えば特許文献1で知られている。このものは、フィラメント及びグリッドを有してガスをイオン化するイオン源と、4本の柱状電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンを捕集する第1イオンコレクタとを備え、第1イオンコレクタを流れる第1イオン電流値から試験体内の所定質量数のガス分圧を測定できる。また、このものでは、イオン源で生成されたガスのイオンを捕集する第2イオンコレクタを更に備え、第2イオンコレクタを流れる第2イオン電流値から試験体内の全圧をも測定できるようになっている。
【0004】
ここで、上記四重極型質量分析計を用いて試験体内に残留するガス成分の分析を行っていると、試験体内の分子や原子がグリッドに付着して汚染され、この汚染に起因して感度が低下し、これに起因して、測定しようとする所定質量数のガス分圧の指示値が次第に小さくなることが知られている。このように指示値が小さくなった状態で残留するガス成分の分析を継続すると、試験体に真空リークが発生したような場合には、これを検出できない場合があり、試験体内で行われている真空処理に多大な影響を与えることになる。
【0005】
そこで、定期的に所定のガス成分を含有する校正ガスを試験体内に導入し、校正ガス成分を測定することで感度低下を判定することが従来から行われている(例えば、特許文献2参照)。然し、これでは、試験体内で行われている真空処理を一旦中断する必要があるため、量産性が損なわれるばかりか、校正ガス設備等が必要となってコスト高を招来するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5669324号公報
【特許文献2】特開平9−55185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、感度低下を可及的速やかに判定できる四重極型質量分析計及びその感度低下の判定方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、試験体内のガス成分を分析する四重極型質量分析計は、フィラメント及びグリッドを有してガスをイオン化するイオン源と、4本の柱状電極を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部と、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンを捕集する第1イオンコレクタと、イオン源で生成されたガスイオンを捕集する第2イオンコレクタとを備え、第1イオンコレクタを流れる第1イオン電流値から試験体内の所定質量数のガス分圧を測定すると共に、第2イオンコレクタを流れる第2イオン電流値から試験体内の全圧を測定するように構成し、ガス成分の分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比が基準感度を基に設定される判定値と同等以下になると、感度低下と判定する判定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、所定質量数のガス分圧と全圧との両方を測定できる四重極型質量分析計においては、試験体内の分子や原子がグリッドに付着して汚染され、この汚染に起因して感度が低下してくると、全圧の指示値と比較して所定質量数のガス分圧の指示値の方がより早く小さくなる。このことに着目して、本発明では、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比を求め、これと基準感度を基に設定される判定値(例えば、基準感度に、実験的または経験的に求められる係数を乗じたもの)とを比較することで感度低下したか否かを判定することができる。このように本発明では、四重極型質量分析計を用いて試験体内の所定質量数のガス分圧や全圧を測定するために常時測定している第1イオン電流値と第2イオン電流値との変化から感度低下を判定できるため、試験体内で行われている真空処理を一旦中断する必要はなく、しかも、上記従来例で使用されていた校正ガス設備等を必要とせずに、感度低下を可及的速やかに判定できる。
【0010】
本発明においては、前記第1イオン電流値として、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンの中で第1イオン電流値が最大となるものを選択するようにすれば、確実に感度低下を可及的速やかに判定できる。他方、前記第1イオン電流値として、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンの総和を用いれば、判定時の試験体内の真空雰囲気がその全圧と分圧とが同等であるような場合でも、正確に判定でき、有利である。
【0011】
また、上記課題を解決するために、試験体内のガスをイオン源でイオン化し、四重極部を通過させた所定質量数のガスイオンを第1イオンコレクタで捕集し、このときイオンコレクタを流れる第1イオン電流値からガス分圧を測定する四重極型質量分析計にてイオン源の感度低下を判定するための判定方法は、第2イオンコレクタにより試験体内でイオン化されたガスを捕集する工程と、ガス成分の分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオンコレクタを流れる第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比が基準感度より小さい判定値と比較し、同等以下になると、感度低下したと判定する工程とを含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の四重極型質量分析計のセンサ部と制御ユニットとの接続を説明する側面図。
図2】本実施形態の四重極型質量分析計で測定したイオン電流値及び全圧の変化を示す図。
図3】四重極型質量分析計の感度低下の判定方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の四重極型質量分析計MAを説明する。なお、以下においては、図示省略の試験体に対する後述のセンサ部Sの装着方向を上方として説明する。
【0014】
図1を参照して、四重極型質量分析計MAは、センサ部Sと制御ユニットCとから構成される。センサ部Sは円板状の支持体1を有する。支持体1は、アルミニウムやステンレス等の金属製であり、その上面外周縁部にはOリング11が設けられている。支持体1上には第1イオンコレクタ2が設けられている。第1イオンコレクタ2は、後述の四重極部3の各電極を通過させて到達する所定質量数のガス原子やガス分子のイオンを捕集するファラデーカップから構成されている。第1イオンコレクタ2は、支持体1に立設した接続端子21に配線接続されている。
【0015】
第1イオンコレクタ2上には四重極部3が設けられている。四重極部3は、周方向に所定間隔で配置された上下方向に延びる4本(図中では2本を示す)の円柱状の電極31から構成されている。相対する電極31は電気的に接続され、相対する電極31が、支持体1に立設した2本の接続端子32a、32bに配線接続されている。四重極部3上にはイオン源4が設けられ、イオン源4はフィラメント41とグリッド43とを備える。グリッド43は、金属細線を格子状でかつ円筒形状に組み付けて構成され、支持体1に立設した接続端子42aに配線接続されている。フィラメント41は、図示省略の支持フレームに周方向に所定間隔で吊設した3本の金属製の支持ピン44a〜44cと、中央の支持ピン44aと両側の支持ピン44b、44cとの間に夫々接続された2本のフィラメント片41a、41bとを備え、全体としてグリッド43の外周の半分程度を囲うようになっている。この場合、中央の支持ピン44aがフィラメントコモンとなり、この支持ピン44aが支持体1に立設した接続端子45bに配線接続されていると共に、両側の支持ピン44b、44cが、支持体1に立設した接続端子45aに配線接続されている。
【0016】
イオン源4と四重極部3との間には、四重極部3へ向かうイオンを効率よく収束させるフォーカス電極5が介設されている。フォーカス電極5は、中央開口を備えた金属板から構成され、支持ピン44aとフォーカス電極5とを配線Wにより接続してフィラメント41の電位とフォーカス電極5の電位とを同等としている。イオン源4の上方には、グリッド43を挟んで第1イオンコレクタ2に対向配置されるように、板状の第2イオンコレクタ6が設けられている。第2イオンコレクタ6は支持体1に上下貫通して設けた接続端子61に接続されている。
【0017】
他方、制御ユニットCは筐体F(図1中、一点鎖線で示す)を備え、筐体Fにはコンピュータ、メモリやシーケンサ等を備えた制御部C1が内蔵されている。制御部C1は、後述の各電源の作動、図示省略の電源回路中のスイッチング素子の切替、後述のフローチャートを実行することによる感度低下の判定、後述する感度低下の報知等を統括制御する。このため、制御部C1は、特許請求の範囲における判定手段に相当する。また、筐体F内には、フィラメント41に直流電流を通電してフィラメント41を点灯するフィラメント点灯用の電源E1と、グリッド43に対してフィラメント41より高い電位を与えるグリッド用の電源E2とが内蔵されている。電源E1からのプラス側の出力は、両側の支持ピン44b、44cに導通する接続端子45aに接続され、また、電源E2からのプラス側の出力がグリッド用の接続端子42aに接続され、そのマイナス側がアース接地されている。
【0018】
筐体F内には、電気的に結合された電極31、31にそれぞれ直流電圧と高周波電圧とを印加するDC+RF電源E3が内蔵され、DC+RF電源E3の出力は、電極31、31にそれぞれ接続されている。また、筐体F内には、フィラメント41とグリッド43との間に所定の電位差を作るためにフィラメント41に電位を与える電源E4が内蔵され、電源E4からのプラス側の出力が、電源E2からのプラス側の出力に接続され、電源E4からのマイナス側の出力は、電源E1からのマイナス側の出力に接続されている。この場合、このマイナス側の出力には、フィラメントコモンたる支持ピン44aに導通する接続端子45bからの配線が接続されている。また、筐体F内には、第1イオンコレクタ2に接続されて当該第1イオンコレクタ2を流れる第1イオン電流値を測定する電流計22と、第2イオンコレクタ6に接続されて当該第2イオンコレクタ6を流れる第2イオン電流値を測定する電流計62が付設されている。以下に、上記四重極型質量分析計MAの使用例につき、図示省略する試験体を成膜処理が行われる真空チャンバとし、真空チャンバ内に残留するガス成分を分析する場合を例に説明する。
【0019】
真空チャンバの所定位置にセンサ部Sを装着した後、真空チャンバを真空排気する。真空チャンバが所定圧力まで真空排気されると、四重極型質量分析計MAによるガス分圧及び全圧の測定が開始される。電源E1によりフィラメント41に通電し、フィラメント41から熱電子を放出させる。そして、電源E2によりグリッド43に正電圧を印加し、放出された熱電子を引き込む。このとき、熱電子と衝突したフィラメント周辺の気体原子、分子からガスイオンが生じる。ガスイオンは、グリッド43と四重極部3との電位差に相当する加速電圧で加速されながら、フォーカス電極5により収束され、四重極部3へと引き込まれる。そして、電源E3により四重極部3の電極31、31に直流と交流とが重畳した所定電圧を印加していくと、ガスイオンがその質量電荷比ごとに第1イオンコレクタ2へと到達し、第1イオンコレクタ2を流れる第1イオン電流値が電流計22により測定される。他方、イオン源4で生じたガスイオンの一部が第2イオンコレクタ6へと到達し、第2イオンコレクタ6を流れる第2イオン電流値が電流計62により測定される。これら第1イオン電流値及び第2イオン電流値は制御部C1に入力され、制御部C1により、第1イオン電流値から試験体内の所定質量数のガス分圧が、第2イオン電流値から全圧が夫々算出される。
【0020】
ところで、上記四重極型質量分析計MAを用いて試験体内に残留するガス成分の分析を行っていると、試験体内の分子や原子がグリッド43に付着して汚染され、この汚染に起因して感度が低下していく。このため、感度低下を可及的速やかに判定することで、常時ガス成分の分析を精度よく行うことができるように上記四重極型質量分析計MAを構成しておく必要がある。なお、感度が低下しているような場合には、例えば、イオン源4の交換やクリーニング等が行われるが、これについては公知の方法が適用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0021】
ここで、本願発明者らの実験によれば、グリッド43が汚染されてきたときのH、HO、O、Ar、CO、N+COといった特定のガスイオンの第1イオン電流値と、第2イオン電流値の変化を測定してみると、図2に示すように、第1イオン電流値よりも第2イオン電流値の方がより早く小さくなる。これは、第1イオンコレクタ2のガスイオンの入射面積が、第2イオンコレクタ6の入射面積に比べて小さいことで、グリッド43の汚染に伴いイオン源4におけるガスイオンの発生場所が変わると、第1イオンコレクタ2に到達するイオンの量が、第2イオンコレクタ6に到達するイオンの量よりも先に少なくなることに起因すると考えられる。
【0022】
そこで、本実施形態では、ガス成分の分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比を求め、この比が基準感度を基に設定される判定値と同等以下になると、感度低下と判定するようにした。この場合、基準感度は、四重極型質量分析計MAに応じて任意に設定され、また、判定値は、例えば基準感度に、実験的または経験的に求めた係数を乗じたものが用いられる。更に、感度低下を判定するための判定手段は制御部C1にプログラムとして組み込まれ、一定の周期でまたは任意に設定される周期で感度低下の判定を実行するようになっている。以下に、図3を参照して、判定手段としての制御部C1による感度低下の判定手順を具体的に説明する。
【0023】
試験体内のガス分圧及び全圧が測定されている間で感度低下の判定が開始されると、STEP1に進んで、感度低下の判定対象となる所定質量数のガスイオンが選択される。判定対象は、例えば第1イオン電流値が最大となるものが自動的に選択されるようになっているが、制御部C1に対して、真空チャンバ内で行われている処理に応じて、H、HO、O、Ar、CO、N+COといった特定のガスイオンを適宜選択して設定できるようにしてもよい。
【0024】
判定対象のガスイオンが選択されると、STEP2に進んで、試験体内の全圧が所定圧力(例えば、1×10−5Pa)以上であるか否かを判別し、全圧が所定圧力より低い場合は、STEP3に進み、感度低下判定を終了する。これは、全圧が所定圧力よりも低いと、通常は第1イオンコレクタ2を流れる第1イオン電流値が低くなり、これでは感度低下を精度良く判定できない虞があるためである。このような場合に、制御部C1は、液晶ディスプレイやスピーカー等の図外の報知手段を介して感度低下を判定できない旨を報知するようにしてもよい。この報知を受けると、イオン源4の交換やクリーニングを実施することになる。
【0025】
他方、試験体内の全圧が所定圧力以上になった場合は、STEP4に進んで、ガス分圧及び全圧の測定開始から所定の待機時間tが経過したか否かを判別し、待機時間tが経過すると、STEP5に進んで、第1イオン電流値Iと第2イオン電流値Iとの測定データが取得される。この場合、制御部C1は、例えば、単位時間当たりの第1及び第2の両イオン電流値の平均値を夫々求め、これを測定データとしての第1イオン電流値I、第2イオン電流値Iとして取得するようにしている。なお、感度低下をより精度良く判定するために、所定の待機時間をおいて上記測定データを更に複数回取得し、これら複数回取得した測定データの平均値を求め、この求めたものを測定データとしての第1イオン電流値Iと第2イオン電流値Iとして用いるようにしてもよい。
【0026】
上記STEP5で測定データが取得されると、STEP6に進んで、第2イオン電流値Iに対する第1イオン電流値Iの比(I/I)が求められ、更に、STEP7に進んで、比(I/I)が判定値よりも大きいか否かを判別する。この場合の判定値は、感度低下を判定するために任意に設定されるものであり、例えば、ガス分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、この基準感度に、実験的または経験的に求めた係数を乗じた値(例えば、基準感度の1/10)が制御部C1に予め設定されている。そして、比(I/I)が判定値より大きい場合は、STEP8に進んで、感度が正常であるとして感度低下の判定を終了させる。一方で、比(I/I)が判定値と同等以下である場合には、STEP9に進んで、感度が低下したと判定され、上記STEP3と同様にしてこれが報知される。このような場合、例えば、イオン源4が汚染されているので、これの交換やクリーニングを行う必要がある。
【0027】
上記実施形態によれば、四重極型質量分析計MAを用いて試験体内の所定質量数のガス分圧や全圧を測定するために常時測定している第1イオン電流値と第2イオン電流値との変化から感度低下を判定できるため、試験体内で行われている真空処理を一旦中断する必要はなく、しかも、上記従来例で使用されていた校正ガス設備等を必要とせずに、感度低下を可及的速やかに判定できる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変形することができる。上記実施形態では、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比(I/I)を判定値と比較しているが、第2イオン電流値から算出した試験体内の全圧(TP)に対する第1イオン電流値の比(I/TP)を判定値と比較することで、感度低下を判定してもよい。
【0029】
上記実施形態では、感度低下を判定するための第1イオン電流値として、第1イオン電流値が最大となるものを選択したが、試験体内のガス成分が分かっている場合には、判定対象となるガスイオンを判定開始前に予め設定し、その第1イオン電流値の測定データを取得するようにしてもよい。また、第1イオン電流値として、四重極部3を通過させた所定質量数のガスイオンの総和を用いれば、判定時の試験体内の真空雰囲気がその全圧と分圧とが同等であるような場合でも、正確に判定でき、有利である。
【0030】
また、上記実施形態では、第2イオンコレクタ6をイオン源4の上方に設けたものを説明したが、これに限定されるものではない。例えば、支持体上に全圧測定用の第2イオンコレクタを設け、その上方にイオン源、更にその上方に四重極部を設け、イオン源を挟んで第2イオンコレクタに対向配置されるように、分圧測定用の第1イオンコレクタを設けてもよい。
【符号の説明】
【0031】
MA…四重極型質量分析計、2…第1イオンコレクタ、3…四重極部、31…電極、4…イオン源、41…フィラメント、43…グリッド、6…第2イオンコレクタ、C1…制御部(判定手段)。
【要約】      (修正有)
【課題】イオン源の感度低下を可及的速やかに判定できる四重極型質量分析計を提供する。
【解決手段】試験体内のガス成分を分析する四重極型質量分析計MAは、フィラメント41及びグリッド43を有してガスをイオン化するイオン源4と、4本の柱状電極31を周方向に所定間隔で配置してなる四重極部3と、四重極部3を通過させた所定質量数のガスイオンを捕集する第1イオンコレクタ2と、イオン源4で生成されたガスイオンを捕集する第2イオンコレクタ6とを備え、第1イオンコレクタ2を流れる第1イオン電流値から試験体内の所定質量数のガス分圧を測定すると共に、第2イオンコレクタ6を流れる第2イオン電流値から試験体内の全圧を測定するように構成し、ガス分析に影響のない所定範囲内の感度を基準感度とし、第2イオン電流値に対する第1イオン電流値の比が基準感度を基に設定される判定値と同等以下になると、感度低下と判定する判定手段を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3