特許第6335386号(P6335386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335386
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】カソードアッセンブリ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180521BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   H01L21/31 D
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-509243(P2017-509243)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2016001461
(87)【国際公開番号】WO2016157771
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-71607(P2015-71607)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘輝
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−316798(JP,A)
【文献】 特開昭63−297554(JP,A)
【文献】 特開2015−030858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁物製のターゲットと、このターゲットの一方の面に接合されるバッキングプレートと、バッキングプレートのターゲット側を下として、ターゲットの外周端より外方に延出したバッキングプレートの下側の延出部分に対向配置される環状のシールド板とを備えるスパッタリング装置用のカソードアッセンブリにおいて、
バッキングプレートは延出部分に対して凸設された接合部を有し、この接合部にターゲットを接合した状態で接合部から外方に張り出したターゲットの張出部分と、バッキングプレートの延出部分との間の隙間に、シールド板の内周縁部を位置させ
前記シールド板と前記バッキングプレートとの間の隙間の長さ及び前記シールド板と前記ターゲットとの間の隙間の長さが、0.5mm〜2mmの範囲に夫々設定されることを特徴とするカソードアッセンブリ。
【請求項2】
絶縁物製のターゲットと、このターゲットの一方の面に接合されるバッキングプレートと、バッキングプレートのターゲット側を下として、ターゲットの外周端より外方に延出したバッキングプレートの下側の延出部分に対向配置される環状のシールド板とを備えるスパッタリング装置用のカソードアッセンブリにおいて、
バッキングプレートは延出部分に対して凸設された接合部を有し、この接合部にターゲットを接合した状態で接合部から外方に張り出したターゲットの張出部分と、バッキングプレートの延出部分との間の隙間に、シールド板の内周縁部を位置させ、前記シールド板が複数の部分に分割可能であることを特徴とするカソードアッセンブリ。
【請求項3】
前記ターゲットの張出部分とシールド板が重複して相対する部分の長さは、前記ターゲットの厚さ以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のカソードアッセンブリ。
【請求項4】
前記シールド板の内周縁部は、前記隙間において前記ターゲットの張出部分の中間点よりも前記接合部側に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のカソードアッセンブリ。
【請求項5】
前記シールド板と前記バッキングプレートとの間の隙間の長さ及び前記シールド板と前記ターゲットとの間の隙間の長さが、0.5mm〜2mmの範囲に夫々設定されることを特徴とする請求項記載のカソードアッセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置用のカソードアッセンブリに関し、より詳しくは、絶縁物製のターゲットと、このターゲットの一方の面に接合されるバッキングプレートと、バッキングプレートのターゲット側を下として、ターゲットの外周端より外方に延出したバッキングプレートの下側の延出部分に対向配置される環状のシールド板とを備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NAND型フラッシュメモリやMRAM(磁気抵抗メモリ)の製造工程においては、酸化アルミニウム膜や酸化マグネシウム膜等の絶縁膜を成膜する工程が実施され、絶縁膜を量産性よく成膜するためにスパッタリング装置が用いられている。このようなスパッタリング装置では、真空引き可能な真空チャンバ内に、成膜しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択されるターゲットと、このターゲットをスパッタリングによる成膜時に冷却するためのバッキングプレートと、ターゲットの外周端より外方に延出したバッキングプレートの下側の延出部分に対向配置される環状のシールド板とを備えるカソードアッセンブリが組み付けられる。
【0003】
このようなカソードアッセンブリは例えば特許文献1で知られている。このものでは、バッキングプレートが、熱伝導の良い銅などの金属で形成され、ターゲットの外周端より外方に延出した延出部分を有し、この延出部分がスパッタリング装置の所定位置に固定される。また、バッキングプレートをスパッタリング装置に組み付けた後、放電の安定化等のため、一般に、環状のシールド板が延出部分に対向させて配置される。
【0004】
ところで、従来例のように、カソードアッセンブリをスパッタリング装置に組み付けた状態では、ターゲットとシールド板との間に隙間があり、成膜時に真空チャンバ内にプラズマを発生させると、プラズマ中の電子が隙間を通って延出部分に帯電することがある。延出部分に電子が帯電すると、ターゲットが絶縁物であるため、このターゲットの側面と延出部分との電位差で異常放電が発生する。
【0005】
プラズマ中の電子が延出部分に帯電しないように、ターゲットの外周部をシールド板で覆うことが、例えば特許文献2で提案されている。しかし、ターゲットのプラズマ側(基板側)にシールド板が配置されるため、ターゲット外周部とシールド板との間にスパッタ粒子が回り込んで再付着することにより所謂リデポ膜が形成される。このリデポ膜は付着力が弱いため、ターゲットから容易に剥離してパーティクルが発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−255052号公報
【特許文献2】特開2009−187682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、バッキングプレートの延出部分とターゲット側面との間での異常放電の発生を抑制しつつ、パーティクルの発生を抑制できるカソードアッセンブリを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、絶縁物製のターゲットと、このターゲットの一方の面に接合されるバッキングプレートと、バッキングプレートのターゲット側を下として、ターゲットの外周端より外方に延出したバッキングプレートの下側の延出部分に対向配置される環状のシールド板とを備える本発明のスパッタリング装置用のカソードアッセンブリは、バッキングプレートが延出部分に対して凸設された接合部を有し、この接合部にターゲットを接合した状態で接合部から外方に張り出したターゲットの張出部分と、バッキングプレートの延出部分との間の隙間に、シールド板の内周縁部を位置させることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ターゲットの張出部分とバッキングプレートの延出部分との間の隙間にシールド板の内周縁部を位置させる構成を採用したため、ターゲットと基板との間にプラズマを発生させたときに、ターゲットとシールド板との間にプラズマから延出部分を臨むことができる隙間が存せず、プラズマ中の電子がバッキングプレートの延出部分に帯電して異常放電を誘発することを抑制できる。しかも、ターゲット上側にシールド板が配置されるため、ターゲット下側にシールド板が配置される従来例のものと比べて、ターゲットとシールド板との間の隙間にスパッタ粒子が回り込み難くなり、シールド板へのリデポ膜の成膜を抑制でき、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0010】
本発明において、前記シールド板が複数の部分に分割可能であることが好ましい。これによれば、上記バッキングプレートの接合部にターゲットを接合した状態で、シールド板を脱着することができる。
【0011】
本発明において、前記ターゲットの張出部分とシールド板が重複して相対する部分の長さは、前記ターゲットの厚さ以上であることが好ましく、また、前記シールド板の内周縁部は、前記隙間において前記ターゲットの張出部分の中間点よりも前記接合部側に位置することが好ましい。これによれば、ターゲットとシールド板との間の隙間にスパッタ粒子が回り込み難くなる。
【0012】
また、本発明において、前記シールド板と前記バッキングプレートとの間の隙間の長さ及び前記シールド板と前記ターゲットとの間の隙間の長さが、0.5mm〜2mmの範囲に夫々設定されることが好ましい。これによれば、放電の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態のカソードアッセンブリを組み付けたスパッタリング装置を示す模式的断面図。
図2】カソードアッセンブリのシールド板を示す平面図。
図3】カソードアッセンブリの内周縁部の位置を拡大して示す断面図。
図4】(a)及び(b)は、本発明の効果を確認する実験結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、スパッタリング装置に組み付けられるものを例に、本発明の実施形態のカソードアッセンブリについて説明する。以下においては、図1を基準とし、真空チャンバ1の天井部側を「上」、その底部側を「下」として説明する。
【0015】
図1に示すように、スパッタリング装置SMは、処理室1aを画成する真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の底部には、排気管を介してターボ分子ポンプやロータリーポンプなどからなる真空ポンプPが接続され、所定圧力(例えば1×10−5Pa)まで真空引きできるようにしている。真空チャンバ1の側壁には、図示省略のガス源に連通し、マスフローコントローラ11が介設されたガス管12が接続され、Arなどの希ガスからなるスパッタガスを処理室1a内に所定流量で導入できるようになっている。
【0016】
真空チャンバ1の天井部には、カソードユニットCが設けられている。カソードユニットCは、成膜しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択されるAl等の絶縁物製のターゲット2と、ターゲット2の一方の面(本実施形態では上面)に接合されるバッキングプレート3と、ターゲット2の外周端より外方に且つ水平に延出したバッキングプレート3の下側の延出部分31に対向配置される環状且つアース電位のシールド板4とを備える。
【0017】
バッキングプレート3は、熱伝導の良いCu等の金属製であり、上記延出部分31に対して下方に凸設された接合部32を有する。この接合部32の下面には、インジウムやスズ等のボンディング材を介して上記ターゲット2が接合される。バッキングプレート3には、図示省略の冷媒用通路が形成され、この冷媒用通路に冷媒(例えば、冷却水)を流すことで、スパッタリング時にターゲット2を冷却出来るようになっている。ターゲット2には、スパッタ電源Eとしての公知の構造を有する高周波電源からの出力が接続され、スパッタリング時、交流電力が投入される。
【0018】
バッキングプレート3の上方には磁石ユニット5が配置されている。磁石ユニット5としては、ターゲット2の下面(スパッタ面)の下方空間に磁場を発生させ、スパッタリング時にスパッタ面の下方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の構造を有するものを用いることができるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0019】
バッキングプレート3の延出部分31は、絶縁部材Iを介して真空チャンバ1上壁に取り付けられる。そして、シールド板4の外周縁部に設けられたフランジ部42が、図示省略のビス等により真空チャンバ1上壁に固定されている。このとき、図2に示すように、シールド板4を複数(本実施形態では2個)の部分4a,4bに分割可能に構成すれば、バッキングプレート3の接合部32にターゲット2が接合された状態で、シールド板4(4a,4b)を脱着することができる。
【0020】
このようにカソードユニットCを真空チャンバ1に組み付けると、図3も参照して、接合部32にターゲット2を接合した状態で接合部32から外方に張り出したターゲット2の張出部分21と、バッキングプレート3の延出部分31との間の隙間Sに、シールド板4の内周縁部41を位置させることができる。放電の安定化等を考慮すると、シールド板4とバッキングプレート3との間の隙間の長さd1と、シールド板4とターゲット2との間の隙間の長さd2とは、例えば0.5〜2mmの範囲に夫々設定することが好ましい。また、ターゲット2とシールド板4との間の隙間にスパッタ粒子が回り込み難くなるように、ターゲット2の延出部分21とシールド板4が重複して相対する部分の長さlは、ターゲット2の厚み(例えば、5mm)以上であることが好ましく、また、シールド板4の内周縁部41は、張出部分21と延出部分31との間の隙間において、補助線ALで示す張出部分21の中間点よりも接合部32側に位置することが好ましい。
【0021】
真空チャンバ1の底部には、ターゲット2のスパッタ面2aに対向させてステージ6が配置され、基板Wがその成膜面を上側にして位置決め保持されるようにしている。上記スパッタリング装置SMは、特に図示しないが、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段を有し、制御手段によりスパッタ電源Eの稼働、マスフローコントローラ11の稼働や真空ポンプPの稼働等を統括管理するようになっている。以下、上記カソードアッセンブリCが組み付けられたスパッタリング装置SMを用いて、基板W表面に酸化アルミニウム膜を成膜する方法について説明する。
【0022】
先ず、真空チャンバ1内のステージ6に基板Wをセットした後、真空ポンプPを作動させて処理室1a内を所定の真空度(例えば、1×10−5Pa)まで真空引きする。処理室1a内が所定圧力に達すると、マスフローコントローラ11を制御してアルゴンガスを所定の流量で導入する(このとき、処理室1aの圧力が0.01〜30Paの範囲となる)。これと併せて、スパッタ電源EからAl製のターゲット2に交流電力(例えば、13.56MHz、2000W)を投入して真空チャンバ1内にプラズマを形成する。これにより、ターゲット2のスパッタ面2aがスパッタされ、飛散したスパッタ粒子が基板W表面に付着、堆積することにより酸化アルミニウム膜が成膜される。
【0023】
本実施形態によれば、ターゲット2の張出部分21とバッキングプレート3の延出部分31との間にシールド板4の内周縁部41を位置させたため、ターゲット2とシールド板4との間にプラズマから延出部分31を臨むことができる隙間が存しない。このため、プラズマ中の電子が延出部分31に帯電して異常放電を誘発することを抑制できる。しかも、ターゲット2の上側にシールド板4が配置されるため、ターゲット2の下側にシールド板4が配置される従来例と比べて、ターゲット2とシールド板4との間の隙間にスパッタ粒子が回り込み難くなり、即ち、当該隙間に面するシールド板4にリデポ膜が成膜され難くなり、その結果、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。ターゲット2の材質として酸化アルミニウムを例に説明したが、これに限らず、SiC,SiN,MgOのような他の絶縁物を適宜選択できる。また、シールド板4の形状は上記実施形態で説明したものに限定されず、ターゲット2の張出部分21とバッキングプレート3の延出部分31との間の隙間に内周縁部を位置させることができるものであればよ
い。
【0025】
次に、上記効果を確認するために、上記カソードアッセンブリCを組み付けたスパッタリング装置SMを用いて次の実験を行った。本実験では、基板Wとしてφ200mmのSi基板を用い、カソードアッセンブリCとしてφ165mmの酸化アルミニウム製のターゲット2と銅製のバッキングプレート3とSUS製のシールド板4とを備えるものとし、このカソードアッセンブリCを真空チャンバ1の上壁内面に組み付けた。この真空チャンバ1内のステージ6に基板Wをセットした後、基板W表面に酸化アルミニウム膜をスパッタリング法により成膜した。ここで、以下の成膜条件を用いて、複数枚の基板Wに対して連続処理(連続放電)を実施した。即ち、成膜条件は、アルゴンガス流量:50sccm(処理室1a内の圧力:0.1Pa)、ターゲット2への投入電力:13.56MHz、500Wとした。この成膜条件での成膜中、Vdc(延出部分31とターゲット2との間の電位差に相当)を測定したところ、Vdcは発生していないことが確認された。4kWh後のカソードアッセンブリCを確認したところ、バッキングプレート3に異常放電の痕跡(一様な黒点)が見られず、これより、プラズマ中の電子が延出部分31に帯電することを防止できることが判った。また、シールド板4の表面及び裏面を観察した結果、図4(a)及び(b)に示すように、特に、シールド板4のターゲット2で覆われている部分へのリデポ膜の成膜は殆どなく、パーティクルの発生を抑制できることが判った。
【符号の説明】
【0026】
SM…スパッタリング装置、C…カソードアッセンブリ、2…絶縁物製のターゲット、21…ターゲットの張出部分、3…バッキングプレート、31…延出部分、32…接合部、4(4a,4b)…シールド板、41…内周縁部、l…張出部分21とシールド板4が重複して相対する部分の長さ。
図1
図2
図3
図4