特許第6335455号(P6335455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6335455放射性セシウムと塩類とを含む排水の除染装置及び除染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335455
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】放射性セシウムと塩類とを含む排水の除染装置及び除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20180521BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20180521BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20180521BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20180521BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20180521BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20180521BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   G21F9/12 501J
   G21F9/12 501B
   G21F9/12 501F
   G21F9/10 E
   G21F9/06 521A
   G21F9/06 G
   B01J20/18 B
   B01J20/20 B
   B01J20/02 A
   C02F1/28 D
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-185400(P2013-185400)
(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-52522(P2015-52522A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 由知
(72)【発明者】
【氏名】吉川 悟
(72)【発明者】
【氏名】香島 正実
(72)【発明者】
【氏名】石井 章文
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】星野 典夫
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−229998(JP,A)
【文献】 特開昭63−205189(JP,A)
【文献】 特開2013−101098(JP,A)
【文献】 特開2013−075245(JP,A)
【文献】 特開2013−150973(JP,A)
【文献】 特開2013−117450(JP,A)
【文献】 特開2013−100998(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0243557(EP,A1)
【文献】 米国特許第4448711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/10
G21F 9/06
G21F 9/32
C02F 1/28
B01J 20/00−20/34
B01D 15/00−15/42
C02F 1/58−1/64
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却して分離し、溶融スラグと分離したスラグ冷却水を含む廃棄物処理施設からの放射性セシウムと塩類とを含む排水の流入管及び処理後の流出水を排出する流出管が接続されている容器内に、排水の流入側から、放射性セシウム吸着剤を充填して成る放射性セシウム吸着層と、活性炭を充填して成る活性炭層と、が積層して設けられていることを特徴とする放射性セシウム吸着塔を有する除染装置であって、
前記流入管は、焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却しながら分離する溶融スラグ分離槽に接続され、当該溶融スラグと分離されたスラグ冷却水を除染対象の排水として前記放射性セシウム吸着塔に流入するように構成されている除染装置。
【請求項2】
前記放射性セシウム吸着塔の流出管は前記溶融スラグ分離槽に接続され、前記放射性セシウム吸着塔と前記溶融スラグ分離槽との間に形成された循環路をさらに具備する、請求項に記載の除染装置。
【請求項3】
前記放射性セシウム吸着塔で処理された流出水を含む排水を無機系排水槽に貯留し、
当該無機系排水槽からの排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿槽と、
当該凝集沈殿槽からの上澄み液をろ過する砂ろ過槽と、
をさらに具備する、請求項1又は2に記載の除染装置。
【請求項4】
前記砂ろ過槽の下流に、焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却して分離し、溶融スラグと分離したスラグ冷却水を含む廃棄物処理施設からの放射性セシウムと塩類とを含む排水の流入管及び処理後の流出水を排出する流出管が接続されている容器内に、排水の流入側から、放射性セシウム吸着剤を充填して成る放射性セシウム吸着層と、
活性炭を充填して成る活性炭層と、が積層して設けられていることを特徴とする放射性セシウム吸着塔を第2の放射性セシウム吸着塔としてさらに設けた、請求項に記載の除染装置。
【請求項5】
焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却して分離し、溶融スラグと分離したスラグ冷却水を含む廃棄物処理施設からの放射性セシウムと塩類とを含む排水を、放射性セシウム吸着剤と接触させて放射性セシウムを吸着除去した後に、活性炭と接触させることを特徴とする除染方法であって、
放射性セシウムを吸着除去した後の流出水のpHを計測し、
計測したpH値に基づいて、前記排水にpH調整剤を添加し、流入する排水のpHを5〜9の範囲に調整すること、及び
前記スラグ冷却水を含む排水から放射性セシウムを吸着除去した後の流出水を用いて、前記溶融スラグを冷却することを含む除染方法
【請求項6】
前記放射性セシウム吸着剤は、紺青担持活性炭及びゼオライトから選択される、請求項に記載の除染方法。
【請求項7】
前記放射性セシウムを吸着除去した後の流出水を凝集沈殿させ、上澄み液をろ過することをさらに含む、請求項5又は6に記載の除染方法。
【請求項8】
前記上澄み液をろ過したろ液を、放射性セシウム吸着剤と接触させて放射性セシウムを吸着除去した後に、活性炭と接触させる第2の除染工程を更に含む、請求項に記載の除染方法。
【請求項9】
前記排水を前記放射性セシウム吸着剤と接触させる前に、フィルタに通水することを更に含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理施設のプラント水処理に係り、廃棄物を焼却・溶融処理することによって発生する例えば、ごみピット汚水、プラント内の清掃排水、焼却灰洗浄水、排ガス洗浄水、溶融スラグ冷却水、無機系排水、再利用水等の排水に含まれる放射性セシウムを除染する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ、下水汚泥、あるいはその他の廃棄物を廃棄物焼却施設で焼却して焼却灰や焼却飛灰にすることがなされている。この焼却灰や飛灰の減容化処理方法として、灰溶融設備などの溶融炉に灰を投入し溶融する方法があり、全国に普及している。これらの廃棄物処理過程では、たとえばごみピット汚水、プラント内の清掃排水、焼却灰洗浄水、排ガス洗浄水、無機系排水、再利用水等の排水が発生する。従来、これらの水は、凝集沈殿と砂ろ過と活性炭とによる汚染物除去処理後に再利用水として利用できていた。従来処理フロー図を図11に示す。
【0003】
しかし、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の影響で、その周辺地域および東日本に位置する地域は少なからず、放射能に汚染され、廃棄物も同様に汚染された。このため、上記廃棄物処理過程で発生するごみピット汚水、プラント内の清掃排水、焼却灰洗浄水、排ガス洗浄水、無機系排水、再利用水等が、放射性セシウムに汚染される可能性がある。また、焼却灰や飛灰を減容化処理する灰溶融設備で、溶融スラグを水冷するためのスラグ冷却水が、放射性セシウムに汚染される可能性がある。このため、投入される廃棄物の放射能汚染に伴い、これらの水も放射能除去をしないと再利用、もしくは外部環境へ放流できなくなった。しかし、プラント水に溶解した放射性セシウムはほぼ全量が溶解性であるため、従来の凝集沈殿と砂ろ過と活性炭とによる処理では、ほとんど除染できない。特に溶融スラグ冷却水は、塩類濃度と放射性セシウム濃度の両者が高いため、処理が困難となっている。このような廃棄物および放射性物質で汚染された水を除去する技術はこれまでになかった。
【0004】
たとえば、原子力発電所又は原子力施設から排出される放射性廃液の処理方法として、放射性廃液にCOD成分を吸着する活性炭及び放射性物質吸着活性炭を添加して、COD成分及び放射性物質を吸着させた固形物を分離する処理方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に開示されている方法は、放射性廃液タンクへ活性炭スラリを投入して吸着させた後、活性炭を固液分離するため、固液分離装置が必要になるという問題がある。また、特許文献1では60Coの計測値のみ開示されていて、Csの除去率は開示されていない。後述するように、特許文献1の方法では、放射性セシウムの除去率が低いことを本発明者らは確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-183691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来は存在しなかった放射性セシウムを含む廃棄物処理施設からの排水を除染する装置及び方法を提供することを目的とする。特に、放射性セシウムと塩類とを含有する廃棄物処理施設からの排水の除染装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の放射性セシウムと塩類とを含む排水を除染するための装置及び除染方法が提供される。
[1]廃棄物処理施設からの放射性セシウムと塩類とを含む排水の流入管及び処理後の流出水を排出する流出管が接続されている容器内に、排水の流入側から、放射性セシウム吸着剤を充填して成る放射性セシウム吸着層と、活性炭を充填して成る活性炭層と、が積層して設けられていることを特徴とする放射性セシウム吸着塔。
[2]前記放射性セシウム吸着剤は、紺青担持活性炭及びゼオライトから選択される、[1]に記載の放射性セシウム吸着塔。
[3]前記流出水のpHを計測するpH計と、
前記容器に流入する前の排水にpH調整剤を添加するpH調整剤添加手段と、
前記流出水のpHを制御する流出水pH制御手段と、
をさらに具備し、
当該流出水pH制御手段は、当該pH計の出力に基づいて流出水のpHが所定範囲となるように当該pH調整剤添加手段を制御して前記容器に流入する前の排水に対するpH調整剤の添加量を調節する、[1]又は[2]に記載の放射性セシウム吸着塔。
[4]前記放射性セシウム吸着塔への排水の流入管にフィルタが設けられている、[1]〜[3]のいずれかに記載の放射性セシウム吸着塔。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の放射性セシウム吸着塔を有する除染装置であって、
前記流入管は、焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却しながら分離する溶融スラグ分離槽に接続され、当該溶融スラグと分離されたスラグ冷却水を除染対象の排水として前記放射性セシウム吸着塔に流入するように構成されている除染装置。
[6]前記放射性セシウム吸着塔の流出管は前記溶融スラグ分離槽に接続され、前記放射性セシウム吸着塔と前記溶融スラグ分離槽との間に形成された循環路をさらに具備する、[5]に記載の除染装置。
[7]前記放射性セシウム吸着塔で処理された流出水を含む排水を無機系排水槽に貯留し、
当該無機系排水槽からの排水を凝集沈殿処理する凝集沈殿槽と、
当該凝集沈殿槽からの上澄み液をろ過する砂ろ過槽と、
をさらに具備する、[5]又は[6]に記載の除染装置。
[8]前記砂ろ過槽の下流に、[1]〜[4]のいずれかに記載の放射性セシウム吸着塔を第2の放射性セシウム吸着塔としてさらに設けた、[7]に記載の除染装置。
[9]廃棄物処理施設からの放射性セシウムと塩類とを含む排水を、放射性セシウム吸着剤と接触させて放射性セシウムを吸着除去した後に、活性炭と接触させることを特徴とする除染方法。
[10]前記放射性セシウム吸着剤は、紺青担持活性炭及びゼオライトから選択される、[9]に記載の除染方法。
[11]放射性セシウム及び色度成分を吸着除去した後の流出水のpHを計測し、
計測したpH値に基づいて、前記排水にpH調整剤を添加し、流入する排水のpHを所定範囲に調整することをさらに含む、[9]又は[10]に記載の除染方法。
[12]前記pH範囲は、5〜9の範囲である、[11]に記載の除染方法。
[13]前記排水は、焼却残さを溶融することにより発生する溶融スラグを冷却し、溶融スラグと分離して発生するスラグ冷却水を含む、[9]〜[12]のいずれか1項に記載の除染方法。
[14]前記スラグ冷却水を含む排水から放射性セシウムを吸着除去した後の流出水を用いて、前記溶融スラグを冷却する、[13]に記載の除染方法。
[15]前記放射性セシウムを吸着除去した後の流出水を凝集沈殿させ、上澄み液をろ過することをさらに含む、[9]〜[14]のいずれか1項に記載の除染方法。
[16]前記上澄み液をろ過したろ液を、放射性セシウム吸着剤と接触させて放射性セシ
ウムを吸着除去した後に、活性炭を接触させる第2の除染工程を更に含む、[15]に記載の除染方法。
[17]前記排水を前記放射性セシウム吸着剤と接触させる前に、フィルタに通水することを更に含む、[9]〜[16]のいずれか1項に記載の除染方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、相互に混合することなく積層して充填されている放射性セシウム吸着層と活性炭層とを同一の塔内に含む一体型の放射性セシウム吸着塔を用いることにより、塩類濃度が高い廃棄物処理施設の放射性セシウム含有水の放射性セシウム除去性能を高く保持することができ、色度成分やダイオキシン類等の微量成分を低減することができる。さらに、シアン等の有害物質の流出を抑制することができる。したがって、本発明によれば、放射性セシウムで汚染された廃棄物処理施設からの排水を除染して、再利用又は放流することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の排水処理を組み込んだ溶融スラグ分離処理時に発生する排水を除染する処理を一例とするフローのブロック図である。
図2】本発明の別の実施態様のフローのブロック図である。
図3】放射性セシウム吸着塔の構成を示す、除染工程の説明図である。
図4】実施例1における放射性セシウム濃度の推移を示すグラフである。
図5】実施例1における処理水pH推移を示すグラフである。
図6】実施例3における放射性セシウム濃度の推移を示すグラフである。
図7】実施例5における全シアン濃度のpH依存性を示すグラフである。
図8】実施例5におけるセシウム吸着量のpH依存性を示すグラフである。
図9】実施例6におけるpHの経時変化を示すグラフである。
図10】実施例6における放射性セシウム濃度の経時変化を示すグラフである。
図11】従来の廃棄物処理施設の処理フローを示すブロック図である。
【好ましい実施形態】
【0010】
添付図面を参照しながら、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0011】
図11に廃棄物焼却炉に灰溶融炉が併設されている従来の廃棄物処理施設のフローを示す。焼却灰100や焼却飛灰200(これらを総称して「焼却残渣」という)は灰ホッパ1に貯留され、炉内温度が1,200〜1,800℃程度の灰溶融炉2にて溶融され、スラグ分離コンベヤ3にてスラグ冷却水で急冷されつつ溶融スラグ(粒状水冷スラグ)とスラグ排水とに分離される。スラグ冷却水はスラグ分離コンベヤ3から冷却装置を経て減温され、スラグ冷却水槽4に貯留された後、スラグ冷却水ポンプを経てスラグ分離コンベヤ3に送られて循環し、所定の温度で一定量保持される。また、スラグ冷却水は塩濃度を所定値以下にするため、スラグ分離コンベヤ3から一定量抜き出し、スラグ排水槽5に送られる。スラグ冷却水の塩類濃度は通常3,000〜10,000ppm程度である。スラグ排水は、スラグ排水槽5に集められた後、床排水等の他の排水と共に無機系排水槽6に集められ、排水処理に供される。スラグ排水槽5には近傍で発生した無機系排水が供給されることもある。スラグ排水を含む無機系排水は、凝集沈殿槽8で有害金属が処理され、上澄み液がろ過原水槽7に貯留される。ろ過原水槽7に貯留された排水は砂ろ過槽9にてSS分をろ過された後、ろ液は処理水槽10に貯留される。ろ液の塩類濃度は通常1,000〜5,000ppm程度であり、スラグ冷却水の塩類濃度よりも低濃度になる。処理水槽10から再利用水槽11に送られ、廃棄物処理施設内で再利用される。再利用水槽11には補給水が補給される。再利用水12として非常時や排水処理設備のメンテナンス時には処理水槽10から活性炭吸着塔に通水後、放流するなど場外に排出する場合もある。
【0012】
放射性セシウムを含む廃棄物を焼却処理する場合には、放射性セシウムは焼却灰100及び焼却飛灰200に移行する。これら焼却残渣を溶融処理する場合には、スラグ冷却水が放射性セシウムに汚染される。スラグ冷却水は高濃度の放射性セシウムと塩素イオンを含んでいる。
【0013】
図1及び図2に、本発明の吸着塔を具備する除染処理フローのブロック図を示す。本処理フローは、基本的には図11と同様の溶融スラグ分離工程(A)と無機排水処理工程(B)とに大別することができる。本処理フローにおいて、本発明の放射性セシウム吸着塔を溶融スラグ分離工程(A)と無機排水処理工程(B)の双方に設置しているが、少なくとも溶融スラグ分離工程(A)に設置していればよい。図1は、図11と同様の溶融スラグ分離工程の循環ラインに放射性セシウム吸着塔を設ける場合の処理フローであり、図2は、溶融スラグ分離工程から無機排水処理工程に向かうラインに放射性セシウム吸着塔を設置する場合の処理フローである。図1及び図2に示す本発明の除染処理フローでは、溶融スラグ分離工程(A)として、焼却施設に併設された灰溶融施設を示したが、これに限定されるものではなく、灰溶融単独の施設、ガス化溶融施設等にも適用可能である。また、それら施設の処理対象物が放射性セシウムに汚染されたごみ、焼却残渣、下水汚泥等でも同様であり、本発明の除染装置及び方法で除染が可能である。
【0014】
図1の溶融スラグ分離工程(A)においては、放射性セシウムを含有するスラグ分離コンベヤ3のスラグ冷却水は、フィルタ21(例えばストレーナ等)にてろ過された後、放射性セシウム吸着塔22にて放射性セシウムが吸着除去され、除染されてスラグ冷却水槽4に戻され、再びスラグ冷却水として使用される。放射性セシウム吸着塔22の流出側配管にはpH計23が設けられており、流出水のpHを計測する。制御装置26は当該流出水のpH制御を行う。流出水のpHが所定範囲を越える場合には、制御装置26にて、pH計23からのpH値の出力信号を受け取り、その信号に基づき所定の範囲内のpHになるようにアルカリ供給ポンプ24及び酸供給ポンプ25にpH調整用の薬剤の吐出流量を制御する信号が送られる。pH調整用の薬剤としてアルカリ性薬剤又は酸性薬剤がアルカリ性薬剤槽40又は酸性薬剤槽41に貯留されている。pH調整のためにアルカリ性薬剤又は酸性薬剤が、アルカリ供給ポンプ24及び酸供給ポンプ25からそれぞれスラグ分離コンベヤ3に投入されpH制御が行われる。なお、スラグ分離コンベヤ3とスラグ冷却水槽4は一体型のスラグ分離槽であってもよい。スラグ冷却水循環系で放射性セシウムを除去することにより、スラグ冷却水中の放射性セシウム濃度は大幅に低減されるが、外部環境へ放流する場合には、後述する無機排水処理工程(B)において、重金属処理とともに放射性セシウム除去処理が必須となる。
【0015】
一方、図2に示すように、溶融スラグ分離工程(A)から無機排水処理工程(B)に向かうラインに放射性セシウム吸着塔22を設置する場合には、スラグ分離槽(スラグ分離コンベアベルト3及びスラグ冷却水槽4)からのスラグ排水を放射性セシウム吸着塔22に通水し、除染処理した後の流出水は、無機系排水槽6に送られる。放射性セシウム吸着塔22の構成及び排水の処理フローは、図1と同様であり、流出水のpH値に基づき、スラグ分離槽にpH調整剤が添加される。図1と同様、放射性セシウム吸着塔22の前段にフィルタ21(ストレーナ等)を設けて、ろ過した後のスラグ排水を通水してもよい。図2に示す態様では、放射性セシウム吸着塔22からの流出水は循環されないため、排水であるスラグ冷却水中の放射性セシウムは除去される。したがって、無機排水処理工程(B)における放射性セシウム除染処理は通常不要であるが、異常時の安全対策用に設けてもよい。
尚、図2に示すフローの場合には、放射性セシウムを含む無機系排水をスラグ排水槽5に供給して、スラグ排水とともに放射性セシウムの除染を行うのが好ましい。
【0016】
図1及び図2において、溶融スラグ分離工程(A)において除染された排水は、床排水等の他の無機系排水と共に無機系排水槽6に集められ、無機排水処理工程(B)に送られる。スラグ排水を含む無機系排水は、凝集沈殿槽8で有害金属が処理され、上澄み液がろ過原水槽7に貯留される。ろ過原水槽7に貯留された排水は砂ろ過槽9にてSS分をろ過された後、ろ液は処理水槽10に貯留される。処理水槽10から処理水を抜き出してフィルタ31及び放射性セシウム吸着塔32を備える除染工程に送る。処理水は、フィルタ31にてろ過された後、放射性セシウム吸着塔32にて放射性セシウムが吸着除去され除染された後、再利用水槽11に送水され、再利用水として場内で使用される。また、非常時や排水処理設備のメンテナンス時には除染された処理水を放流するなど場外に排出することもある。放射性セシウム吸着塔32の流出側配管にはpH計33が設けられており、流出水のpHを計測する。制御装置26は当該流出水のpH制御を行う。流出水のpHが所定範囲を越える場合には、制御装置36にて、pH計33からのpH値の出力信号を受け取り、その信号に基づき、所定の範囲内のpHになるようにアルカリ供給ポンプ34及び酸供給ポンプ35にpH調整用の薬剤の吐出流量を制御する信号が送られる。pH調整用の薬剤としてアルカリ性薬剤又は酸性薬剤がアルカリ性薬剤槽50又は酸性薬剤槽51に貯留されている。pH調整のためにアルカリ性薬剤又は酸性薬剤が、アルカリ供給ポンプ34及び酸供給ポンプ35からそれぞれ処理水槽10に投入されpH制御が行われる。
【0017】
図3に本発明の放射性セシウム吸着塔の構成を示す。溶融スラグ分離工程(A)で使用する放射性セシウム吸着塔22と無機排水処理工程(B)で使用する放射性セシウム吸着塔32は同一の構成であるため、図3においては、便宜上、被処理水(原水)が排水処理工程処理水の場合の放射性セシウム吸着塔32とし、その他の関連機器も排水処理工程のもので代表している。
【0018】
放射性セシウム吸着塔32には、処理水槽10からの処理水流入側から、放射性セシウム吸着剤を充填して成る放射性セシウム吸着層32a、及び活性炭を充填して成る活性炭層32bが積層して設けられている。放射性セシウム吸着層32aと活性炭層32bとは混じり合わないように設ける方が好ましい。なぜなら、これらが混じり合うと被処理水との接触効率が低下するため、放射性セシウム除去性能が低下するためである。
【0019】
放射性セシウム吸着層32aを流入側に設けることで、放射性セシウムを分散させることなく、ほぼ全量を吸着剤に吸着させることができる。活性炭層32bは、放射性セシウム吸着層32aを通過することにより排出される色度成分、処理水中のCOD成分、ダイオキシン類、水銀等の微量元素を吸着除去する。活性炭層32の下流には、支持層としての砂利層を設けてもよいまた、最下層の活性炭層や砂利層は図示しない目皿等によって支持されている。
【0020】
また、放射性セシウム吸着層32aの上流側に追加の活性炭層を設けて予め微量元素や微細な固形物を除去してもよい。
【0021】
放射性セシウム吸着層32aには放射性セシウム吸着剤として、モルデナイト、クリノブチライトなどの天然ゼオライト、合成ゼオライト、人工ゼオライト等の各種ゼオライトや、紺青担持活性炭などを用いることが好適であり、単独でも2種以上を積層してもよい。紺青担持活性炭とは、フェロシアン化物を活性炭に担持させたもので、スラグ排水等の含有塩濃度が高い排水の除染には、紺青担持活性炭が特に好ましい。
【0022】
活性炭としては、排水処理において通常用いられる活性炭、たとえばヤシガラ活性炭、石炭系活性炭、石油系活性炭、植物系活性炭を用いることができる。
【0023】
放射性セシウム吸着剤と活性炭との比率は、被処理水の性状や処理条件等により任意に
設定が可能である。実施例では放射性セシウム吸着剤に対する活性炭の容積割合は5〜90%であった。
【0024】
放射性セシウム吸着塔22,32における処理水のpHは、4〜10の範囲、特に5〜9の範囲に調整することが好ましい。pH範囲を調整しない場合、放射性セシウム吸着剤としてゼオライトを用いると酸性側にシフトし、紺青担持活性炭を用いるとアルカリ側にシフトする。紺青担持活性炭はシアン化物を含み、pH4〜10の範囲外では、シアン化物が溶出する。本発明の処理方法は、処理後の排水を再利用もしくは環境中へ放流するため、シアン化物や金属イオンを含むことは望ましくなく、環境基準を満たすためにも強酸性もしくは強アルカリ性にシフトすることも好ましくない。
【0025】
また、未洗浄のゼオライトは、上水にて事前洗浄をしたゼオライトと比較して処理水のpHの低下は大きいが、逆に放射性セシウムの吸着能が高いため、吸着剤としては未洗浄のゼオライトを使用するのが好ましい。
【0026】
放射性セシウム吸着塔32の流出側配管には、pH計33を設け、流出水のpHを計測する。制御装置36は上記と同様に当該流出水のpH制御を行う。流出水のpHが所定範囲を越える場合には、制御装置36にて、pH計33からのpH値の出力信号を受け取り、その信号に基づき、所定の範囲内のpHになるようにアルカリ供給ポンプ34及び酸供給ポンプ35にpH調整用の薬剤の吐出流量を制御する信号が送られる。pH調整用の薬剤としてアルカリ性薬剤又は酸性薬剤がアルカリ性薬剤槽50又は酸性薬剤槽51に貯留されている。pH調整のためにアルカリ性薬剤又は酸性薬剤が、アルカリ供給ポンプ34及び酸供給ポンプ35からそれぞれ処理水槽10に投入されpH制御が行われる。処理水のpHを調整するために添加するpH調整剤としては、放射性セシウム吸着剤の放射性セシウムの吸着能を低下させないことが好ましく、たとえば水酸化ナトリウム、塩酸などを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
(1)モルデナイトによる放射性セシウムの除染結果
ストーカ式焼却炉を有するごみ焼却施設で処理した焼却灰と焼却飛灰の混合灰を、当該ごみ焼却施設に併設され、炉内温度1300〜1400℃で溶融処理するプラズマ式溶融炉を有する灰溶融施設において、図11の処理水槽10の水(原水)を図3に示す放射性セシウム吸着塔に通水して、本発明の除染工程を実施した。実験条件を表1に示す。原水のpH調整は行わなかった。
【0028】
【表1】
【0029】
吸着剤として、未洗浄の愛子産モルデナイト及び上水で洗浄した愛子産モルデナイトの
2種類についてそれぞれ、放射性セシウム濃度(Cs−134とCs−137との合計)約700Bq/Lの原水を放射性セシウム吸着塔に1.5m/hの通水速度で連続通水し、放射性セシウム吸着塔流出水の放射性セシウム濃度を測定した。結果を図4に示す。
【0030】
図4から、未洗浄の吸着剤を用いる場合にはほぼ100時間後の通水量150mまで5Bq/L以下程度まで除染でき、通水量170mで吸着能が劣化し始めるが、通水量230mでも放射性セシウムの規制値(Cs−134について60Bq/L、Cs−137について90Bq/L)を下回り、十分な除染効果が認められたことがわかる。一方、上水にて撹拌洗浄後、1日間、上水に浸漬して洗浄した吸着剤を用いる場合には、通水量50〜60mまでは処理水の放射性セシウム濃度が規制値を下回ったが、その後、規制値を上回り、吸着能の劣化が早いことがわかる。
【0031】
(2)処理水pHの変化
図11の処理水槽10の水を原水として用い、図3に示す放射性セシウム吸着塔において、表2に示す条件で実験を行った。
【0032】
【表2】
【0033】
吸着剤として、未洗浄の愛子産モルデナイトと、上水で洗浄した愛子産モルデナイトの2種類を用いた。(ア)未洗浄の放射性セシウム吸着層32aの下に活性炭層32b(60L)を設けた場合、(イ)未洗浄の放射性セシウム吸着層32aの下に活性炭層32b(90L)及び砂利層(260L)を設けた場合、(ウ)洗浄した放射性セシウム吸着層32aの下に活性炭層32b(120L)及び砂利層(260L)を設け、更に放射性セシウム吸着層32aの上に追加の活性炭層(30L)を設けた場合の3態様について、処理水のpH変化を測定した。結果を図5に示す。
【0034】
図5から、未洗浄のモルデナイトを使用した(ア)及び(イ)では、洗浄したモルデナイトを使用した(ウ)よりも通水初期に処理水pHが低下しやすかった。よって未洗浄のモルデナイトを吸着剤として使用する場合、後述のシアンの溶出が生じるpHにならないように原水のpH調整をする必要があることがわかる。ただし、セシウムの吸着能力としては実施例1(1)の結果で述べたように未洗浄の吸着剤が優れている。
【0035】
[実施例2]吸着剤直接投入との比較
図11に示す従来の処理フローにおいて、スラグ冷却水の放射性セシウムを除去処理していない処理水槽10に10.8mの処理水(原水)を貯留し、144kgの未洗浄の愛子産モルデナイトを直接投入し、撹拌後、約半日経過後に放射性セシウム濃度を測定した場合(比較例)と、図3に示す本発明の除染工程において、826kgの未洗浄の愛子産モルデナイトを放射性セシウム吸着剤として吸着塔に充填し、処理水槽10の水(原水)を271.2m通水した場合(実施例2)とで放射性セシウムの除去率を比較した。実験条件を表3に、試験結果を表4に示す。ただし、原水のpH調整は行わなかった。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
表4に示すように、本発明の処理方法(実施例2)における放射性セシウムの除去率はほぼ90%であるのに対して、処理水槽に直接投入した場合(比較例)では除去率は40%弱と低かった。
【0039】
[実施例3]スラグ排水の除染
図3に示す本発明の除染工程において、2種の放射性セシウム吸着剤(未洗浄の愛子産モルデナイト及び紺青担持活性炭(株式会社化研の紺青担持活性炭FoCC))20mLをそれぞれ充填した小規模カラム試験装置(吸着層高10cm)に、スラグ排水(原水)を通水して、本発明の除染工程を実施した。実験条件を表5に示す。原水のpH調整は行わなかった。
【0040】
【表5】
【0041】
試験結果を図6に示す。図6から、放射性セシウム吸着剤として未洗浄の愛子産モルデナイトを用いた場合は100BV(Bed Volume:通水量の吸着剤容量に対する倍率(通水量/吸着剤容量)で、吸着剤容量の何倍の通水が可能であるかを示す指標)程度、紺青担持活性炭を用いた場合は200BV程度の通水までは、流出水中の放射性セシウム濃度が100Bq/L以下であり、処理対象物のセシウム濃度に応じて、吸着剤層高及び流量等を調整することにより、十分な除染が可能であることが確認できた。
【0042】
[実施例4]複数吸着層(積層)による除染
非放射性セシウムを含む模擬排水を原水として用いて、複数の吸着剤20mLを層状に積層させて充填した小規模カラム試験装置(吸着層高10cm)に通水して、本発明の除染工程を実施した。実験条件を表6に示す。模擬排水のpH調整は行わなかった。
【0043】
【表6】
【0044】
吸着層は、(1)未洗浄の愛子産モルデナイトのみ(2)紺青担持活性炭のみ(3)紺青担持活性炭:未洗浄の愛子産モルデナイト=1:4(体積比)積層の3種類とした。
通水試験結果からセシウム吸着量を算出し、(1)愛子産モルデナイト単独の場合の吸着量を基準として相対評価を行った。(3)紺青担持活性炭と愛子産モルデナイトとの積層の場合については、それぞれ単独の(1)と(2)の相対評価から理論値も求めた。結果を表7に示す。
【0045】
【表7】
【0046】
複数の吸着剤を用いる場合のセシウム吸着量は、それぞれ単独で用いる場合の吸着量と
配合比とから計算により求めた値とほぼ一致していることが確認できた。したがって、原水中のセシウム濃度と原水処理量とに基づいて、最適な吸着剤の種類と配合比を計算により算出することができる。つまり、異なる種類の吸着材を任意の割合で積層することが可能である。
【0047】
[実施例5]処理水pHの除染への影響
紺青活性炭へのセシウムの吸着量及び紺青活性炭からのシアンの溶出に及ぼすpHの影響を検討した。非放射性セシウムを含む模擬排水を原水として用いて、紺青担持活性炭20mLを内径16mmφのカラムに充填した小規模カラム試験装置に通水して、本発明の除染工程を実施し、カラム入口水と出口水中のセシウム濃度をICP−MS分析器を用いて測定してセシウム吸着量を算出し、出口水中の全シアン濃度をJIS K 0102 38.1.2及び38.3吸光光度法により測定した。原水のpHをHCl又はNaOHを用いて調整した。実験条件を表8に、全シアン濃度のpH依存性を図7に、セシウム吸着量のpH依存性を図8に示す。セシウム吸着量についてはセシウム濃度が1ppmの原水をSV=10の条件で紺青担持活性炭が破過するまで通水し、吸着量を算出した。セシウム吸着量はpH6〜8におけるセシウム吸着量を1.0として相対量で表示した。
【0048】
【表8】
【0049】
図7からpH4〜10の範囲ではシアンの溶出は検出限界未満(<0.1mg/L)であり、図8からpH2〜11の範囲でセシウム吸着量に変化がなかったことがわかる。したがって、紺青担持活性炭を吸着剤として用いる場合は、放射性セシウム吸着塔への流入水のpHを少なくとも4〜10の範囲とすることで、シアンを溶出させずに、セシウムを吸着できることがわかる。
【0050】
[実施例6]紺青活性炭による除染
図3に示す放射性セシウム吸着塔を用いて、スラグ冷却水の放射性セシウムを除去処理していない図11に示す処理水槽10の水を原水として、処理試験を行った。放射性セシウム吸着塔は、放射性セシウム吸着層32a(層高314mm)の下流に活性炭層(層高518mm)を設け、更に下流に砂利層(層高400mm)を設け、放射性セシウム吸着層32aの上流に追加の活性炭層(層高283mm)を設けてなる構成とした。(ア)HClを用いて連続的にpH制御を行った場合と、(イ)pHを監視して30時間後、55時間後および90時間後に逆洗を行い、70時間後には処理水槽10にHClを投入してpHの上昇を抑制した場合について、放射性セシウム吸着塔の流出水のpH挙動を経時的に測定し、10時間経過ごとに全シアンの溶出量を測定した。実験条件を表9、pHの経時変化を図9、処理水の放射性セシウム濃度を図10、全シアン溶出量を表10に示す。
【0051】
【表9】
【0052】
【表10】
【0053】
図9に示すように、(イ)では、通水後50時間経過時までは徐々に処理水のpHが上
昇したことから、3回繰り返し逆洗(通水速度300L/minで15分間)を実施した。それでもpH上昇傾向が改善されなかったため、70時間経過後に処理水槽にHClを投入したところ、pHは6まで低下したが、その後、経時的にアルカリ側にシフトする傾向が認められた。一方、(ア)では逆洗を行わず、pHの制御装置によりpH制御を行ったため、pHがシフトすることなく一定に維持された。
また、表10から、(イ)では経過時間が20〜30時間の間のpHが9に近い状況では、全シアン溶出が検出限界を超える値が検出されたが、放流基準値である0.5mg/Lを大幅に下回っていた。一方、(ア)では全シアン溶出が検出限界を超える値は検出されなかった。これらのことから、pHを5〜9に調整することで、放射性セシウム吸着能を低下させずに、全シアン溶出を阻止することができるといえる。
また、図10に示すように、(イ)逆洗を行うことによりセシウム吸着層と活性炭層が混合されるため、(ア)逆洗なしで連続的にpH制御を行い、セシウム吸着層と活性炭層の積層が混合しないで静置された場合に比べて、流出水の放射性セシウム濃度が若干上昇し、除去率の低下がみられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11