特許第6335725号(P6335725)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335725
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】仮想超音波探傷試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20180521BHJP
   G01N 29/22 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/22
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-182028(P2014-182028)
(22)【出願日】2014年9月8日
(65)【公開番号】特開2016-57104(P2016-57104A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】東海林 一
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−068716(JP,A)
【文献】 米国特許第05337611(US,A)
【文献】 特開2011−141402(JP,A)
【文献】 特開2003−000599(JP,A)
【文献】 特開平05−220150(JP,A)
【文献】 特表2006−519369(JP,A)
【文献】 特開2000−088820(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0200809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と、当該ダミー試験体を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子と、前記ダミー試験体の外表面上における前記模擬探触子の位置を特定するための位置情報を取得する位置計測装置と、前記ダミー試験体の外表面上の位置座標毎の探傷波形のデータが収録されたデータベースと、前記位置計測装置によって取得された前記位置情報に基づく前記模擬探触子の前記ダミー試験体の外表面上における位置に対応するものとして前記データベースから読み込まれた探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される表示部とを有すると共に、前記模擬探触子に圧力センサが備えられ、当該圧力センサの計測値によると前記模擬探触子が前記ダミー試験体に押し付けられる力が所定の押し付け力よりも弱いときにエコー高さが低減されて前記探傷波形が前記表示部に表示されることを特徴とする仮想超音波探傷試験システム。
【請求項2】
超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と、当該ダミー試験体を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子と、前記ダミー試験体の外表面上における前記模擬探触子の位置を特定するための位置情報を取得する位置計測装置と、前記ダミー試験体の外表面上の位置座標毎の探傷波形のデータが収録されたデータベースと、前記位置計測装置によって取得された前記位置情報に基づく前記模擬探触子の前記ダミー試験体の外表面上における位置に対応するものとして前記データベースから読み込まれた探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される表示部とを有し、前記ダミー試験体の外表面上における前記位置座標を規定する格子模様が付された可撓性シートが前記ダミー試験体の外表面に当てられ、当該シートの格子の交点に位置させた前記模擬探触子を前記位置計測装置で検知させることで取得される前記ダミー試験体の外表面上の前記位置座標と前記位置計測装置によって取得される前記位置情報との組み合わせデータが用いられて、前記位置計測装置によって取得される前記位置情報を前記ダミー試験体の外表面上における前記位置に変換する式が予め決定されることを特徴とする仮想超音波探傷試験システム。
【請求項3】
前記模擬探触子に接触検知センサが備えられ、当該接触検知センサの識別信号によると前記模擬探触子が前記ダミー試験体に接触していないときには前記表示部に前記探傷波形が表示されないことを特徴とする請求項1または2記載の仮想超音波探傷試験システム。
【請求項4】
前記位置計測装置によって前記ダミー試験体の外表面上における前記模擬探触子の姿勢を特定するための姿勢情報が更に取得され、前記位置計測装置によって取得された前記姿勢情報に基づく前記模擬探触子の前記ダミー試験体の外表面上における向きが適切な向きからずれているときにエコー高さが低減されて前記探傷波形が前記表示部に表示されることを特徴とする請求項1または2記載の仮想超音波探傷試験システム。
【請求項5】
前記位置計測装置が、磁界発生源と磁気センサとを有して磁気を利用する空間位置センサであることを特徴とする請求項1または2記載の仮想超音波探傷試験システム。
【請求項6】
前記ダミー試験体が合成樹脂製であることを特徴とする請求項1または2記載の仮想超音波探傷試験システム。
【請求項7】
前記ダミー試験体の外表面上における前記模擬探触子の位置がログとして所定の間隔で記録されることを特徴とする請求項1または2記載の仮想超音波探傷試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮想超音波探傷試験システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば超音波探傷試験の技量向上のための教育・訓練や技量確認のための評価・検定などに用いて好適な、仮想的に超音波探傷試験を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば種々のプラントの配管やその溶接部近傍の非破壊検査として超音波探傷試験が従来から実施されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本工業規格 JIS3060:2002 「鋼溶接部の超音波探傷試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波探傷試験(特に、手動探傷)によって例えば配管やその溶接部近傍における割れなどの種々の欠陥を漏れ無く全て発見すること(言い換えると、検出すること)ができるか否かは探触子を操作する作業員(検査員)の技量に依存するところが大きく、このため、精度の高い試験を実施するためには作業員(検査員)の探傷の技量向上や技量確認を行うことが重要である。
【0005】
しかしながら、超音波探傷試験における探傷の技量向上のための教育・訓練を行ったり技量確認のための評価・検定を行ったりするために実機と同様の配管に溶接部及び人為的に付加された欠陥が実際に形成されたものを試験体として用いて当該試験体に対し実際と同様に超音波探傷試験を実施して欠陥を実際に検出するようにすると、例えば欠陥の態様・形状や位置が異なる多数の試験体を作成する必要があり、試験体の作成に多額の費用と多大な手間とが必要とされる。このため、実機と同様の配管を用いての教育・訓練や評価・検定は、低廉・簡便とは言えず、汎用性が高いとは言い難い。
【0006】
そこで、本発明は、実機と同様の配管などを用いることなく実際の試験と同様の操作による超音波探傷試験を仮想的に行うことがきる仮想超音波探傷試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の仮想超音波探傷試験システムは、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と、当該ダミー試験体を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子と、ダミー試験体の外表面上における模擬探触子の位置を特定するための位置情報を取得する位置計測装置と、ダミー試験体の外表面上の位置座標毎の探傷波形のデータが収録されたデータベースと、位置計測装置によって取得された位置情報に基づく模擬探触子のダミー試験体の外表面上における位置に対応するものとしてデータベースから読み込まれた探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される表示部とを有すると共に、模擬探触子に圧力センサが備えられ、当該圧力センサの計測値によると模擬探触子がダミー試験体に押し付けられる力が所定の押し付け力よりも弱いときにエコー高さが低減されて探傷波形が表示部に表示されるようにしている。
【0008】
したがって、この仮想超音波探傷試験システムによると、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子とによって超音波探傷試験を仮想的に行うようにしているので、実機と同様の配管を加工した試験体を用いる必要がなく、試験体の作成に多額の費用や多大な手間が必要とされることなしに超音波探傷試験が仮想的に行われる。さらに、模擬探触子に圧力センサが備えられて、模擬探触子が適切に操作されていないときには実際の模擬探傷試験と同様に探傷波形のエコー高さが弱められて表示されるので、システムの利用者は模擬探触子を適切に操作するように教育・訓練される。
【0009】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と、当該ダミー試験体を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子と、ダミー試験体の外表面上における模擬探触子の位置を特定するための位置情報を取得する位置計測装置と、ダミー試験体の外表面上の位置座標毎の探傷波形のデータが収録されたデータベースと、位置計測装置によって取得された位置情報に基づく模擬探触子のダミー試験体の外表面上における位置に対応するものとしてデータベースから読み込まれた探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される表示部とを有し、ダミー試験体の外表面上における位置座標を規定する格子模様が付された可撓性シートがダミー試験体の外表面に当てられ、当該シートの格子の交点に位置させた模擬探触子を位置計測装置で検知させることで取得されるダミー試験体の外表面上の位置座標と位置計測装置によって取得される位置情報との組み合わせデータが用いられて、位置計測装置によって取得される位置情報をダミー試験体の外表面上における位置に変換する式が予め決定されるようにしても良い。この場合には、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体と超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子とによって超音波探傷試験を仮想的に行うようにしているので、実機と同様の配管を加工した試験体を用いる必要がなく、試験体の作成に多額の費用や多大な手間が必要とされることなしに超音波探傷試験が仮想的に行われる。さらに、格子模様が付された可撓性シートが利用されて位置計測装置によって取得される位置情報をダミー試験体の外表面上における位置に変換する式が予め決定され、位置計測装置によって取得される位置情報をダミー試験体の外表面上における位置に変換する処理が予め決定された式を用いて適切に行われ、且つ、当該式を決定する作業が容易でありながらも良好な精度で行われる。
【0010】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、模擬探触子に接触検知センサが備えられ、当該接触検知センサの識別信号によると模擬探触子がダミー試験体に接触していないときには表示部に探傷波形が表示されないようにしても良く、この場合には、模擬探触子が適切に操作されていないときには実際の模擬探傷試験と同様に探傷波形が表示されないので、システムの利用者は模擬探触子を適切に操作するように教育・訓練される
【0011】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、また、位置計測装置によってダミー試験体の外表面上における模擬探触子の姿勢を特定するための姿勢情報が更に取得され、位置計測装置によって取得された姿勢情報に基づく模擬探触子のダミー試験体の外表面上における向きが適切な向きからずれているときにエコー高さが低減されて探傷波形が表示部に表示されるようにしても良く、この場合には、模擬探触子が適切に操作されていないときには実際の模擬探傷試験と同様に探傷波形のエコー高さが弱められて表示されるので、システムの利用者は模擬探触子を適切に操作するように教育・訓練される。
【0012】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、また、位置計測装置が、磁界発生源と磁気センサとを有して磁気を利用する空間位置センサであるようにしても良く、この場合には、位置計測装置が、多様な形状のダミー試験体に対応し得ると共に位置情報の良好な精度が確保され得るものとして構成される。
【0013】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、また、ダミー試験体が合成樹脂製であるようにしても良く、この場合には、試験体の作成にかかる形状の加工が容易であるので超音波探傷試験の適用対象の多様な態様・形状にも柔軟に対応して試験体が準備され、また、試験体が非常に安価に作成される。
【0015】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、また、ダミー試験体の外表面上における模擬探触子の位置がログとして所定の間隔で記録されるようにしても良く、この場合には、仮想的な超音波探傷試験における模擬探触子の操作の実態としての模擬探触子の位置が試験終了後にシステムの利用者によって確認されたり検証されたりされ得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の仮想超音波探傷試験システムによれば、ダミー試験体を用いることにより、実機と同様の配管を加工した試験体を用いることなしに、すなわち試験体の作成に多額の費用や多大な手間が必要とされることなしに超音波探傷試験を仮想的に行うことができるので、超音波探傷試験の教育・訓練や評価・検定にかかる費用と手間とを低減させることが可能になる。そして、低廉・簡便な教育・訓練や評価・検定を数多く実施することにより、超音波探傷試験の技量向上及び技量確認が図られ、延いては、超音波探傷試験による欠陥検出の精度が向上して欠陥箇所に対する保守を効率的に行うことが可能になると共に欠陥が無いことの保証の信頼性の向上を図ることが可能になる。さらに、模擬探触子に圧力センサが備えられて模擬探触子を適切に操作するようにシステムの利用者を教育・訓練することができるので、超音波探傷試験の技量向上を図ることが可能になる。あるいは、格子模様が付された可撓性シートが利用されて取得される位置情報をダミー試験体の外表面上における位置に変換する式が予め決定されて模擬探触子の位置の特定を適切に行うことができると共にそのための式の決定を良好な精度で行うことができるので、ダミー試験体と模擬探触子とを用いて超音波探傷試験を仮想的に行うという本システムの信頼性を向上させることが可能になる。
【0017】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、模擬探触子がダミー試験体に接触していないときには表示部に探傷波形が表示されないようにしたり、模擬探触子のダミー試験体の外表面上における向きが適切な向きからずれているときにエコー高さが低減されて探傷波形が表示部に表示されるようにしても良く、これらの場合には、模擬探触子を適切に操作するようにシステムの利用者を教育・訓練することができるので、超音波探傷試験の技量向上を図ることが可能になる。
【0018】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、位置計測装置が磁気を利用する空間位置センサであるようにしても良く、この場合には、多様な形状のダミー試験体に対応することができると共に位置情報の良好な精度を確保することができるものとして位置計測装置を構成することができるので、位置計測装置を本システムにとって好適な仕組みによって構成することが可能になる。
【0019】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、ダミー試験体が合成樹脂製であるようにしても良く、この場合には、多様な態様・形状の試験体を非常に安価に作成することができるので、超音波探傷試験の教育・訓練や評価・検定にかかる費用を大幅に低減させることが可能になる。
【0021】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、模擬探触子の位置がログとして記録されるようにしても良く、この場合には、模擬探触子の操作の実態としての模擬探触子の位置をシステムの利用者が確認したり検証したりすることができるので、例えば、模擬探触子の操作実態の確認・検証によって欠陥検出失敗の原因の究明や欠陥検出技量の評価などを行うことが可能になり、延いては、超音波探傷試験の技量向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の仮想超音波探傷試験システムの実施形態の一例における処理手順を説明するフローチャートである。
図2】本発明の仮想超音波探傷試験システムの実施形態の一例を示す概略構成図である。
図3】実施形態の仮想超音波探傷試験システムにおける制御装置に纏わる構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1から図3に、本発明の仮想超音波探傷試験システムの実施形態の一例を示す。この仮想超音波探傷試験システムは、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体1と、当該ダミー試験体1を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子2と、ダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置を特定するための位置情報を取得する位置計測装置3と、ダミー試験体1の外表面上の位置座標毎の探傷波形のデータが収録された探傷波形データベース18と、位置計測装置3によって取得された位置情報に基づく模擬探触子2のダミー試験体1の外表面上における位置に対応するものとして探傷波形データベース18から読み込まれた探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される表示装置4の表示部4aとで構成されている。
【0025】
ダミー試験体1は、実機の例えば配管などの構造の一部を模擬する態様・形状に形成されて超音波探傷試験の適用対象(実機)を模擬するものである。
【0026】
ダミー試験体1は、したがって、特定の形状に限定されるものではなく、例えば技量向上のための教育・訓練や技量確認のための評価・検定のために適当とされる種々の形状に適宜形成される。ダミー試験体1は、例えば配管やその溶接部近傍に対する超音波探傷試験が想定される場合には、当該配管の直径(外径)に寸法が合わせられた円筒に形成される。
【0027】
ダミー試験体1の材質は、模擬探触子2が押し付けられた際に当初の形状を維持し得るものであれば、特定のものに限定されるものではなく、特に言えば実機の例えば配管を模擬する場合でも実機と同様の金属である必要はなく、例えば形状の加工が容易で安価なものが適宜選択される。ダミー試験体1の材質としては、具体的には例えば塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂等の合成樹脂などが用いられ得る。
【0028】
ダミー試験体1は、実機の構造の一部を模擬するものとして位置及び姿勢が固定されて設置される。
【0029】
図2に示す例では、ダミー試験体1は、実機の配管の一部を模擬する態様・形状(具体的には、円筒状)に形成され、一対の保持架台5A,5Bによって位置及び姿勢が固定されて設置される。
【0030】
模擬探触子2は超音波探傷試験を行う際に用いられる探触子を模擬するものであり、仮想超音波探傷試験システムが使用される際にシステム使用者によって掴まれて探触子として操作されるものである。
【0031】
なお、模擬探触子2には、当該探触子の所定の箇所(即ち、超音波探傷試験に用いられる探触子の超音波発射及びエコー受信面に相当する箇所)の接触の有無を検知するための圧力センサや接触検知センサなどが備えられるようにしても良い。この場合には、圧力センサによる計測値(例えば、圧力値)や接触検知センサによる信号(例えば、接触有無の識別信号)などが位置計測装置3を介して制御装置10に対して入力される。
【0032】
位置計測装置3は、模擬探触子2の、ダミー試験体1の外表面上における少なくとも位置を特定するための位置情報を取得するものであり、更に姿勢(言い換えると、姿勢角としての向き及び傾き)を特定するための姿勢情報を取得するものであることが好ましい。
【0033】
ここで、以下の説明では模擬探触子2の位置に加えて姿勢も特定される場合として説明するが、本発明において模擬探触子2の姿勢が特定されることは好ましい構成であるものの必須の構成ではなく、即ち以下の説明における姿勢に纏わる構成がないものも本発明として成立し得る。
【0034】
図2及び図3に示す例では、位置計測装置3が位置センサ3aを有し、当該位置センサ3aによって模擬探触子2が検出・認知され、当該検出・認知された模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢に関する信号が位置センサ3aから位置計測装置3に対して出力される。
【0035】
そして、位置計測装置3により、位置センサ3aから出力された模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢に関する信号に基づいて、模擬探触子2の三次元空間における位置が特定されると共に姿勢(姿勢角としての向き及び傾き)が特定される。
【0036】
模擬探触子2の三次元空間における位置は、例えば、直交するX軸,Y軸,及びZ軸によって規定される三次元直交座標系における座標(X座標値,Y座標値,Z座標値)によって表される。なお、この場合に、任意の原点からの距離(単位:例えば mm)が座標値として用いられるようにしても良い。
【0037】
模擬探触子2の三次元空間における姿勢は、例えば、上述のような三次元直交座標系におけるオイラー角(ヨー角,ピッチ角,ロール角)、即ち、Z軸回りの回転角度,Y軸回りの回転角度,及びX軸回りの回転角度によって表される。
【0038】
図2及び図3に示す例における位置計測装置3と模擬探触子2及び位置センサ3aとは、制御指令や種々のデータ等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われ得るように電気的に接続される。
【0039】
位置計測装置3と模擬探触子2及び位置センサ3aとは、ケーブルが用いられる信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されても良いし、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良い。
【0040】
ここで、模擬探触子2の位置や姿勢を特定するための仕組み、言い換えると、図2及び図3に示す例における模擬探触子2と位置計測装置3及び位置センサ3aとの組み合わせによって構成される仕組みは、ダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の少なくとも位置を特定するための位置情報を取得し得るものであれば、特定のものに限定されるものではなく、既存若しくは新規の技術が用いられ得る。
【0041】
模擬探触子2の位置や姿勢を特定するための仕組みとしては、例えば、磁気を利用する空間位置センサや、超音波を利用する空間位置センサや、画像処理を利用する位置計測が利用されることが考えられ、あくまで一例として挙げれば、米国POLHEMUS社製・FASTRAK(なお、6自由度の計測が可能な、電磁気式三次元空間位置センサである)が用いられ得る。この場合、模擬探触子2がレシーバとしての磁気センサである磁力計測部になり、位置センサ3aがトランスミッタである磁界発生源になり、位置計測装置3がこれらを制御するコントロールユニットになる。
【0042】
位置計測装置3は、制御指令や種々のデータ等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われ得るように制御装置10に電気的に接続される。
【0043】
位置計測装置3と制御装置10とは、ケーブルが用いられる信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されても良いし、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良い。
【0044】
位置計測装置3と制御装置10とは、図3に示す例では、制御装置10の外部機器接続端子19を介し、ケーブルが用いられる信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続される。
【0045】
そして、位置計測装置3によって特定された模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢(姿勢角としての例えばオイラー角)に関する情報は、データ信号として制御装置10に対して出力される。
【0046】
そして、制御装置10により、位置計測装置3から入力された模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢に関する情報が用いられてダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置が特定されると共に模擬探触子2の姿勢が特定される。
【0047】
ダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置の特定の仕方は、特定の方式に限定されるものではなく、例えば位置計測装置3によって取得される位置情報の内容・仕様を踏まえて適宜設定される。
【0048】
具体的には例えば、ダミー試験体1の外表面が直交する二軸によって格子状に区画され、当該二軸による二次元直交座標系(実際には、ダミー試験体1の外表面に沿って湾曲したり屈曲したりしている面における座標系である)における座標(即ち、二軸の各々における座標値の組み合わせ)によって模擬探触子2の位置が特定されるようにしても良い。なお、この場合に、任意の原点からの距離(単位:例えば mm)が座標値として用いられるようにしても良い。
【0049】
制御装置10は、CPU(中央演算処理装置)や必要に応じて記憶領域や入力用インターフェイスなどを備え、例えばパーソナルコンピュータによって構成される。
【0050】
制御装置10は、図3に示す例では、制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備えて相互にバス等の信号回線によって接続されている。
【0051】
制御部11は、処理手順が規定されて記憶部12に記憶されているプログラム16に従って制御装置10全体の制御並びに仮想的に行われる超音波探傷試験に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0052】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0053】
入力部13は、少なくとも仮想超音波探傷試験システムの使用者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0054】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0055】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0056】
そして、本実施形態では、ダミー試験体1の形状のデータが、具体的には例えば仮想空間における三次元モデルデータとして、試験体形状データベース17として記憶部12に格納(保存)される。
【0057】
また、本実施形態では、ダミー試験体1を対象として仮想的に行われる超音波探傷試験(以下、仮想試験という)で用いられる探傷波形のデータが探傷波形データベース18として記憶部12に格納(保存)される。
【0058】
探傷波形のデータは、仮想試験で用いられるダミー試験体1に対して超音波探傷を行った場合に、ダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の各位置において想定される探傷波形の集合として準備される。
【0059】
なお、探傷波形のデータは、必要に応じ、ダミー試験体1に欠陥が全く無いという条件のものと、ダミー試験体1に欠陥が在るという条件のものとが準備される。
【0060】
ダミー試験体1に欠陥が全く無いという条件の探傷波形のデータは、仮想試験で用いられるダミー試験体1の態様・形状に対応するものが準備される。したがって、複数の態様・形状のダミー試験体1が準備されて仮想試験が行われる場合には、各々の態様・形状に対応する探傷波形のデータが準備される。
【0061】
ダミー試験体1に欠陥が在るという条件の探傷波形のデータは、仮想試験で用いられるダミー試験体1の態様・形状における欠陥の種類に対応するものが準備される。したがって、複数の態様・形状のダミー試験体1が準備されたり、複数の種類の欠陥が在ることが想定されたりして仮想試験が行われる場合には、各々のパターンに対応する探傷波形のデータが準備される。
【0062】
探傷波形のデータは、例えば、実際に行われた超音波探傷試験によって採取されたデータがそのまま利用されるようにしても良いし、実際に行われた超音波探傷試験によって採取されたデータが加工されて利用されるようにしても良いし、数値解析などによって生成されたデータが利用されるようにしても良い。なお、採取されたデータの加工としては、具体的には例えば、欠陥が探傷されていない探傷波形のデータの一部が欠陥が探傷されている(検知されている)ときに対応する探傷波形のデータの部分と入れ替えられたり、欠陥が探傷されているときの探傷波形とは特徴が異なるノイズが人為的に付与されたりすることが挙げられる。
【0063】
なお、探傷波形のデータは、具体的には例えば、ダミー試験体1の外表面上における位置が、直交するX軸及びY軸による二次元直交座標系におけるX軸座標値x及びY軸座標値yによって位置座標(x,y)として表され、また、ダミー試験体1の外表面上の位置座標(x,y)における模擬探触子2の基準方向に対する向きとしての首振り角度をθ[°]とすると共に位置座標(x,y)における探傷波形値(エコー高さ)をEとすると、各位置座標におけるθ毎の(x,y,θ,E)の集合として準備される。
【0064】
制御装置10には、制御指令や種々のデータ等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われ得るように表示装置4が電気的に接続される。
【0065】
制御装置10と表示装置4とは、ケーブルが用いられる信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されても良いし、各々に接続された無線信号送受信機が用いられる無線による信号送受の仕組みを介して信号の送受信が可能であるように電気的に接続されるようにしても良い。
【0066】
表示装置4は、超音波探傷試験を行う際に用いられる探傷器を模擬するものであり、ディスプレイなどの表示部4aを有し、当該表示部4aに、ダミー試験体1の態様・形状における欠陥の種類に対応する探傷波形であって、制御装置10によって特定されたダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置及び姿勢に対応する探傷波形が表示されるものである。
【0067】
なお、本実施形態では、位置計測装置3から出力されて制御装置10に入力された模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢に関する情報を用いてのダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置及び姿勢を特定する処理は、言い換えると、位置計測装置3からの情報をダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置及び姿勢に変換する処理は、当該変換の方法がプログラム16内に規定されて当該プログラム16によって行われる。
【0068】
位置計測装置3からの情報をダミー試験体1の外表面上における位置及び姿勢に変換する処理は、空間における座標変換の問題であって周知の方法によって行われ得るのでここでは詳細については省略する。
【0069】
なお、位置計測装置3によって取得される位置情報の、ダミー試験体1の外表面上における位置座標への変換については、予め、ダミー試験体1と模擬探触子2及び位置計測装置3とが用いられて変換式が準備されるようにしても良い。
【0070】
具体的には例えば、ダミー試験体1の外表面上で位置座標が既知である複数箇所において模擬探触子2が位置計測装置3によって検出・認知され、これら複数箇所に関して位置計測装置3によって取得される模擬探触子2の三次元空間における位置情報が用いられ、すなわち、ダミー試験体1の外表面上の位置座標と位置計測装置3によって取得される位置情報との組み合わせデータが用いられ、位置計測装置3によって取得される位置情報の、ダミー試験体1の外表面上における位置への変換式が決定されるようにしても良い。
【0071】
なお、この際、ダミー試験体1の外表面上における位置座標を規定する(言い換えると、既知のものとする)ために格子模様が描かれた可撓性を有するシートがダミー試験体1の外表面に当てられ、当該シートの格子の交点に模擬探触子2を位置させて位置計測装置3によって検出・認知されるようにし、これにより、ダミー試験体1の外表面上の位置座標と位置計測装置3によって取得される位置情報との組み合わせデータが得られるようにしても良い。
【0072】
また、位置計測装置3からの情報に基づく模擬探触子2の位置及び姿勢の特定(言い換えると、位置計測装置3からの情報の模擬探触子2の位置及び姿勢への変換)については、必要に応じ、適当な方法によって校正が行われるようにしても良い。
【0073】
なお、位置計測装置3によって取得される位置情報をダミー試験体1の外表面上における位置に変換する式が予め決定される場合には、ダミー試験体1の形状のデータが、具体的には例えば仮想空間における三次元モデルデータとして、準備される必要はない(したがって、試験体形状データベース17が記憶部12に格納(保存)される必要はない)。
【0074】
また、模擬探触子2の初期位置や初期姿勢が、必要に応じ、仮想超音波探傷試験システムの使用に際して位置計測装置3によって予め認識される。例えば、ダミー試験体1の外表面上に予め設定された原点位置や基準点位置に配置されると共に予め設定された基準方向(0°方向)に向き調整された模擬探触子2が位置計測装置3によって認識され、このときに当該位置計測装置3から出力される情報が用いられて、位置計測装置3から制御装置10に対して出力される情報に関する原点位置設定・基準点位置設定や0°方向設定が行われる。
【0075】
以上の構成を有する本実施形態の仮想超音波探傷試験システムを用いての仮想的な超音波探傷試験の手順を以下に説明する。
【0076】
ここで、以下の説明では、制御装置10の操作を行う者を操作者と呼び、模擬探触子2を用いてダミー試験体1の探触(探傷走査)を行う者を探傷者と呼ぶ。なお、操作者と探傷者とが同一の者でも構わない。
【0077】
まず、制御装置10において、仮想試験の対象とされたダミー試験体1に対応する試験体形状のデータ及び探傷波形のデータが読み込まれる(S1)。
【0078】
本実施形態では、制御装置10の制御部11のデータ読込部11aにより、記憶部12に格納(保存)されている試験体形状データベース17に記録(収録)されている試験体形状のデータの中から、入力部13を介して入力された操作者の指定に従い、仮想試験の対象とされたダミー試験体1に対応する試験体形状のデータが読み込まれる。
【0079】
また、データ読込部11aにより、記憶部12に格納(保存)されている探傷波形データベース18に記録(収録)されている探傷波形のデータの中から、入力部13を介して入力された操作者の指定に従い、仮想試験の対象とされたダミー試験体1に対応する探傷波形のデータが読み込まれる。
【0080】
そして、データ読込部11aにより、読み込まれた試験体形状のデータ及び探傷波形のデータがメモリ15に記憶される。
【0081】
続いて、探傷者によって模擬探触子2が用いられてダミー試験体1の仮想的な探触(探傷走査)が行われる(言い換えると、ダミー試験体1を用いて仮想的に超音波探傷試験を行うように模擬探触子2が操作される)ことに対応して以下の処理が行われる。
【0082】
まず、ダミー試験体1の仮想的な探触のために操作されている模擬探触子2が位置計測装置3によって検出・認知される(S2)。
【0083】
本実施形態では、位置計測装置3が有している位置センサ3aによって模擬探触子2が検出・認知され、当該模擬探触子2の位置及び姿勢に関する信号が位置計測装置3に対して出力され、位置計測装置3によって模擬探触子2の三次元空間における位置及び姿勢が特定される。
【0084】
続いて、位置計測装置3から、外部機器接続端子19を介して制御装置10に対して模擬探触子2に関する位置情報及び姿勢情報が入力される。
【0085】
そして、制御装置10の制御部11の位置情報受信部11bにより、入力された位置情報及び姿勢情報がメモリ15に記憶される。
【0086】
次に、制御装置10により、位置計測装置3から入力された情報が用いられてダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置及び姿勢が特定される(S3)。
【0087】
本実施形態では、制御装置10の制御部11の位置特定部11cにより、S1の処理においてメモリ15に記憶されたダミー試験体1の試験体形状のデータが読み込まれると共に、S2の処理においてメモリ15に記憶された模擬探触子2に関する位置情報及び姿勢情報が読み込まれ、当該情報がダミー試験体1の外表面上における位置及び姿勢に変換される。
【0088】
そして、位置特定部11cにより、変換された、ダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置及び姿勢がメモリ15に記憶される。
【0089】
次に、模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に適切に接触しているか否かが判断される(S4)。
【0090】
具体的には、S3の処理において特定された模擬探触子2の位置及び姿勢に基づいて特定される模擬探触子2の所定の箇所(即ち、超音波探傷試験に用いられる探触子の超音波発射及びエコー受信面に相当する箇所)とダミー試験体1の外表面との間の距離が所定の距離内(例えば、1 mm 以内)であるか否かに基づいて判断される。
【0091】
本実施形態では、制御装置10の制御部11の接触有無判定部11dにより、S1の処理においてメモリ15に記憶されたダミー試験体1の試験体形状のデータが読み込まれると共に、S3の処理においてメモリ15に記憶された模擬探触子2の位置及び姿勢が読み込まれ、ダミー試験体1と模擬探触子2との間の距離が所定の距離内であるか否かが判定される。
【0092】
なお、模擬探触子2の所定の箇所の接触の有無を検知するための圧力センサや接触検知センサなどが模擬探触子2に備えられている場合には、当該圧力センサや接触検知センサなどから出力されて制御装置10に入力される計測値や識別信号などが更に用いられるようにしても良い。すなわち、S3の処理結果に基づいて特定される模擬探触子2の所定の箇所とダミー試験体1の外表面との間の距離が所定の距離内であり且つ圧力センサや接触検知センサなどによる計測値や識別信号などに基づいて接触していると判定される場合に、模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に適切に接触していると判断されるようにしても良い。
【0093】
そして、接触有無判定部11dにより、模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に、適切に接触していると判断される場合(S4:Yes)には処理手順がS5の処理に進められ、一方、適切に接触していないと判断される場合(S4:No)には処理手順がS6の処理に進められる。
【0094】
S4の処理において模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に適切に接触していると判断される場合(S4:Yes)に、模擬探触子2の位置が探傷波形のデータの範囲内であるか否かが判断される(S5)。
【0095】
具体的には、S3の処理において特定された模擬探触子2の位置が、S1の処理においてメモリ15に記憶された探傷波形のデータの範囲内であるか否かが判断される。
【0096】
例えば、ダミー試験体1の外表面上の位置座標(x,y)における探傷波形値(エコー高さ)として探傷波形のデータが準備されている場合に、S3の処理において特定されたダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の位置(x,y)が探傷波形のデータに含まれている位置座標(x,y)として存在するか否かに基づいて判断される。
【0097】
本実施形態では、制御装置10の制御部11の範囲内外判定部11eにより、S1の処理においてメモリ15に記憶された探傷波形のデータが読み込まれると共に、S3の処理においてメモリ15に記憶された模擬探触子2の位置が読み込まれ、模擬探触子2の位置が探傷波形のデータに含まれている位置座標として存在するか否かが判定される。
【0098】
そして、範囲内外判定部11eにより、模擬探触子2の位置が探傷波形のデータに含まれている位置座標として、存在すると判定される場合(S5:Yes)には処理手順がS7の処理に進められ、一方、存在しないと判定される場合(S5:No)には処理手順がS6の処理に進められる。
【0099】
ここで、S3の処理において特定された模擬探触子2の姿勢が、S4の処理若しくはS5の処理において考慮されるようにしても良い。
【0100】
具体的には、S3の処理において特定された模擬探触子2の姿勢に基づいて導き出されるダミー試験体1の外表面上における模擬探触子2の向き(言い換えると、首振り角度)がダミー試験体1の外表面上の位置座標(x,y)における適切な向きからのずれ角度(言い換えると、基準方向に対する向きとしての首振りの角度)の最大値を超えている場合には、S4の処理において模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に適切に接触していないと判断されるようにしても良い。なお、適切な向きからのずれ角度の最大値は、予め適当な値に設定される。
【0101】
あるいは、S3の処理において特定された模擬探触子2の姿勢に基づいて導き出される模擬探触子2の向きから算出される模擬探触子2の基準方向に対する向きとしての首振り角度θ[°]がS1の処理においてメモリ15に記憶された探傷波形のデータ含まれている位置座標(x,y)と模擬探触子2の首振り角度θ[°]との組み合わせとして存在しない場合には、S5の処理において模擬探触子2の位置(と首振り角度との組み合わせ)が探傷波形のデータに含まれている位置座標(と首振り角度との組み合わせ)として存在しないと判断されるようにしても良い。
【0102】
S4の処理において模擬探触子2がダミー試験体1の外表面に適切に接触していないと判断される場合(S4:No)、または、S5の処理において模擬探触子2の位置が探傷波形のデータに含まれている位置座標として存在しないと判定される場合(S5:No)に、その時点において表示装置4に探傷波形が表示されている場合にはその表示が消去されて何も表示されない状態にされる(S6)。
【0103】
本実施形態では、制御装置10の制御部11の表示制御部11fにより、外部機器接続端子19を介して表示装置4に対して表示消去の指令信号が出力される。そして、表示装置4の表示部4aに何も表示されない状態になる。
【0104】
一方、S5の処理において模擬探触子2の位置が探傷波形のデータに含まれている位置座標として存在すると判定される場合(S5:Yes)に、模擬探触子2の位置及び姿勢に対応する探傷波形が表示装置4によって表示される(S7)。
【0105】
本実施形態では、表示制御部11fにより、S3の処理においてメモリ15に記憶された模擬探触子2の位置及び姿勢が読み込まれ、当該位置及び姿勢に対応する探傷波形のデータがS1の処理においてメモリ15に記憶された探傷波形のデータの中から読み込まれる。
【0106】
そして、表示制御部11fにより、読み込まれた探傷波形のデータが外部機器接続端子19を介して表示装置4に対して出力される。そして、表示装置4の表示部4aに前記探傷波形のデータに基づく探傷波形が表示される。
【0107】
なお、探傷波形のデータが前述のようにダミー試験体1の外表面上の位置座標(x,y)における模擬探触子2の基準方向に対する向きとしての首振り角度をθ[°]とすると共に探傷波形値(エコー高さ)をEとして(x,y,θ,E)の集合として準備されているときに、模擬探触子2の位置がダミー試験体1の外表面上の位置座標(x,y)と一致していない場合には、模擬探触子2の位置に最も近い位置座標(x,y)における探傷波形のデータが用いられるようにしても良いし、模擬探触子2の位置に近い複数の位置座標(x,y)における探傷波形値の平均値が用いられるようにしても良い。
【0108】
また、模擬探触子2の所定の箇所の接触の有無を検知するための圧力センサが模擬探触子2に備えられている場合に、当該圧力センサによる検知結果によると模擬探触子2がダミー試験体1に押し付けられる力が所定の押し付け力よりも弱いときには、エコー高さ(言い換えると、反射波の強さ)が一定割合で若しくは適切な押し付け力に対する弱さの程度に応じて低減された上で探傷波形が表示されるようにしても良い。なお、この場合の前記所定の押し付け力は、超音波探傷試験を行う際に探触子を試験対象物に押し付ける力として適切な力に適宜設定される。
【0109】
また、S3の処理において特定された模擬探触子2の姿勢に基づいて導き出される模擬探触子2の向き(首振り角度)が模擬探触子2の適切な向きからずれている(言い換えると、基準方向に対する向きとしての首振りの角度が0°より大きい)ときには、エコー高さ(反射波の強さ)が一定割合で若しくは適切な向きからのずれの程度(首振りの角度の大きさ)に応じて低減された上で探傷波形が表示されるようにしても良い。
【0110】
なお、表示装置4において探傷波形が表示される際に、距離振幅特性曲線が同時に表示されるようにしても良い。
【0111】
また、模擬探触子2が用いられて行われたダミー試験体1の仮想的な探触による仮想試験の内容が、例えば入力部13を介して入力された操作者の指示に従い、ログ(言い換えると、走査軌跡)として記録されるようにしても良い。この場合に、ログとして記録される項目やログの保存態様は、特定の項目や態様に限定されるものではない。
【0112】
具体的には例えば、模擬探触子2の少なくとも位置が、好ましくは更に模擬探触子2の姿勢や圧力センサの計測値(例えば、圧力値)若しくは接触検知センサの信号(例えば、接触有無の識別信号)が、テキスト形式のログファイルとして、記憶部12に保存されるようにすることが挙げられる。
【0113】
また、ログの記録間隔も、特定の時間間隔に限定されるものではなく、適当な値に適宜設定される。ログの記録間隔は、具体的には例えば0.1秒間隔に設定されることが考えられる。なお、ログの記録間隔とS2の処理間隔(言い換えると、システムとしての応答速度)とは異なるように設定されても良い。S2の処理間隔(システム応答速度)は、具体的には例えば40ミリ秒以内に設定されることが考えられる。
【0114】
仮想試験の内容がログ(走査軌跡)として記録されることにより、例えば、仮想試験における模擬探触子2の操作の実態などについて、仮想試験の終了後に操作者や探傷者が確認したり検証したりすることが可能になる。このような確認・検証が行われることにより、例えば、模擬探触子2の操作実態に基づいて欠陥の発見(検出)に失敗した原因を究明することや、模擬探触子2の操作実態を踏まえて欠陥検出の技量を評価することなどが可能になる。
【0115】
そして、制御部11により、処理手順がS2の処理に戻される。なお、制御部11は、例えば入力部13を介して仮想試験の終了の指示が入力された場合には、仮想試験の実行に纏わる処理を終了する。
【0116】
以上のように構成された本発明の仮想超音波探傷試験システムによれば、超音波探傷試験の適用対象を模擬するダミー試験体1と超音波探傷試験の探触子として用いられる模擬探触子2とによって超音波探傷試験を仮想的に行うことにより、実機と同様の配管を加工した試験体を用いる必要がなく、すなわち試験体の作成に多額の費用や多大な手間が必要とされることなしに超音波探傷試験を仮想的に行うことができ、超音波探傷試験の教育・訓練や評価・検定にかかる費用と手間とを低減させることが可能になる。
【0117】
本発明の仮想超音波探傷試験システムは、模擬探触子2がダミー試験体1に接触していないときには表示装置4の表示部4aに探傷波形が表示されないようにしたり、模擬探触子2がダミー試験体1に押し付けられる力が所定の押し付け力よりも弱いときにエコー高さが低減されて探傷波形が表示装置4の表示部4aに表示されるようにしたり、模擬探触子2のダミー試験体1の外表面上における向きが適切な向きからずれているときにエコー高さが低減されて探傷波形が表示装置4の表示部4aに表示されるようにしても良く、これらの場合には、模擬探触子2を適切に操作するように探傷者が教育・訓練されるので、超音波探傷試験の技量向上を図ることが可能になる。
【0118】
なお、上述の形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態ではダミー試験体1の形状のデータが試験体形状データベース17として制御装置10の記憶部12に格納(保存)されるようにしているが、これに限られず、ダミー試験体1の形状のデータは、制御指令や種々のデータ等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われ得るように制御装置10に電気的に接続されるサーバなどの記憶装置・記憶媒体に格納(保存)されるようにしても良い。
【0119】
また、上述の実施形態では探傷波形のデータが探傷波形データベース18として記憶部12に格納(保存)されるようにしているが、これに限られず、探傷波形のデータは、制御指令や種々のデータ等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われ得るように制御装置10に電気的に接続されるサーバなどの記憶装置・記憶媒体に格納(保存)されるようにしても良い。
【0120】
また、上述の実施形態では制御装置10からの指令信号に基づいて表示装置4の表示部4aに探傷波形が表示されるようにしているが、これに限られず、制御装置10の表示部14に表示されるようにすると共に表示装置4を有しないようにしても良い。
【符号の説明】
【0121】
1 ダミー試験体
2 模擬探触子
3 位置計測装置
3a 位置センサ
4 表示装置(模擬探傷器)
4a 表示部
10 制御装置
図1
図2
図3