(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アンモニウムイオンを含む水溶液が、硝酸アンモニウム水溶液、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液、酢酸アンモニウム水溶液、及びアンモニア水溶液から選ばれる請求項1に記載の酒類用金属担持ゼオライトの製造方法。
【背景技術】
【0002】
酒類のなかには、ウイスキーのように、短くて4〜6年、通常7〜10年、長い場合には20年近く樽に貯蔵されて、熟成されるものがある。
貯蔵の間に、硫黄化合物等の未熟成成分の蒸散及び消滅、ニューポット由来成分の反応(酸化反応、アセタール化反応、エステル化反応等)、樽の原材料由来成分の分解反応、樽内に溶出した原材料由来成分と原酒との反応、原酒を構成するエタノールと水との状態変化等が起こることにより、ウイスキーに特有の風味が引き出される。
しかし、貯蔵の間に原酒が樽に吸収されたり、樽を透過して揮発したりするため、原酒量は自然に減少する。このため、貯蔵期間の長期化は、製造効率の面では、製品ロスの増加を招いていた。
そこで、硫黄化合物等の未熟成成分、寒冷時における析出成分、不快な香り成分等の酒類にとっての不要成分を、貯蔵により自然に起こる変化を待たずに、積極的に除去する方法が考えられている。
酒類から不要成分を除去する方法としては、例えば、シリカを有機シラン化合物で処理してなる吸着剤に酒類を接触させる方法(特許文献1参照)、活性炭に酒類を接触させる方法(特許文献2参照)、イオン交換樹脂を用いる方法(特許文献3参照)、金属粒と樹脂層とを用いる方法(特許文献4参照)等が既に提案されている。
酒類においては、硫黄化合物等の未熟成成分を選択的に除去する観点では、金属系、特に、銀や銅の酸化物を担持した吸着剤を使用することが好ましいとされている。しかし、これらの吸着剤を用いると、旨味成分も除去されてしまう場合があった。
また、吸着剤の調製法によっては、金属成分の凝集が起こり、例えば、銀が、食用に適さないレベルで酒中に溶出することが生じ得る。
このように、上述した従来の技術では、より高い品質の要求を満足する製品を提供するためには、更なる改良の余地が残されていた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[酒類用金属担持ゼオライトの製造方法]
本発明の実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトを製造する方法は、酒類に含まれる不要成分を除去する酒類用金属担持ゼオライトの製造方法であって、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて、Y型ゼオライトを主成分として含み、金属イオンが担持されたゼオライトの金属イオンとアンモニウムイオンとを交換する第1のイオン交換処理工程と、イオン交換処理工程により得られたアンモニウムイオンが担持されたゼオライトを、銀イオンを含む酸性水溶液を用いて、アンモニウムイオンと銀イオンとを交換する第2のイオン交換処理工程とを有する。
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトの製造方法では、ゼオライトの結晶の内部に、イオン交換により、金属イオンを担持させる。本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトでは、最終的にゼオライトに担持させる金属イオンは、銀(以下、Agと表すことがある)イオンである。
【0010】
第1のイオン交換処理工程で、アンモニウムイオンとして、例えば、硝酸アンモニウムを用いる場合、硝酸アンモニウム水溶液の濃度は、1質量%以上50質量%以下、好ましくは3質量%以上20質量%以下、より好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
温度条件は、0℃以上100℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは40℃以上60℃以下である。処理時間は、1時間以上10時間以下、好ましくは2時間以上8時間以下、より好ましくは3時間以上5時間以下である。
第1のイオン交換処理工程において、ゼオライトの金属イオンをアンモニウムイオンに交換することにより、第2のイオン交換処理工程において、イオン交換される銀イオンの、ゼオライト中における分散性を高めることができる。
【0011】
第2のイオン交換処理工程で、銀イオンを含む酸性水溶液として、例えば、硝酸銀を用いる場合、用いられる硝酸銀水溶液の濃度は、1質量%以上50質量%以下、好ましくは3質量%以上25質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
銀イオンを含む水溶液が塩基性に傾くと、通常は、沈殿を生成する。塩基性水溶液に銀を溶解させるには、例えば、アンモニウムイオンとの錯イオンを形成させる必要がある。しかし、アンモニウムイオンなどのイオンが存在すると、イオン交換処理工程において競争的なイオン交換が起こり、銀イオンの担持量が低下する。このため、イオン交換に用いる銀イオンを含む水溶液は、酸性水溶液であることが好ましい。
温度条件は、0℃以上100℃以下、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは40℃以上60℃以下である。
時間は、1時間以上10時間以下、好ましくは2時間以上8時間以下、より好ましくは3時間以上5時間以下である。
【0012】
なお、第1のイオン交換処理工程及び第2のイオン交換処理工程の操作は、複数回繰り返し行ってもよい。また、第1のイオン交換処理工程ではアンモニウムイオン以外の金属イオンを含んでもよく、第2のイオン交換処理工程では銀イオン以外の金属イオンを含んでもよい。
また、第2のイオン交換処理工程の後、銀イオンが担持されたゼオライトを、水等で洗浄し、50℃以上、好ましくは50℃以上200℃以下程度の温度で乾燥処理してもよい。また、乾燥の後、さらに、500℃以下、好ましくは200℃以上500℃以下程度の温度、で数時間焼成してもよい。
【0013】
[酒類用金属担持ゼオライト]
本発明の実施形態に係る製造方法によって得られた酒類用金属担持ゼオライトは、酒類に含まれる不要成分を除去するものである。除去される不要成分とは、酒類の風味を妨げる成分であり、主として、不味成分が挙げられる。不味成分としては、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド、ジメチルトリサルファイド等の硫黄化合物が挙げられる。
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、酒類に含まれる上述した不要成分を除去する一方で、高級アルコール類、フーゼル類、エステル類等の旨味成分を酒類中に残すことができる。
対象とする酒類は、特に限定されるものではなく全ての酒類が適用できる。具体的には、ウイスキー、ブランデー、ジン、ウオッカ、テキーラ、ラム、白酒、アラック等の全ての蒸留酒が適用できる。また、清酒、ビール、ワイン、酒精強化ワイン、中国酒等の全ての醸造酒及び混成酒が適用できる。醸造酒及び混成酒のなかでは、清酒が好適に用いられる。さらに、麦焼酎、米焼酎、芋焼酎、黒糖酒、そば焼酎、コーン焼酎、粕取り焼酎、泡盛等の全ての焼酎が適用できる。
【0014】
本実施形態に係る製造方法によって得られる酒類用金属担持ゼオライトに担持される金属イオンは銀である。酒類用金属担持ゼオライトには、銀のほかに、銅、亜鉛、ニッケル、鉄、セリウム、ランタン、ジルコニウム及びチタンの中から選ばれる少なくとも1種の金属元素のイオンが含まれていてもよい。
本実施形態に係る製造方法によって得られる酒類用金属担持ゼオライトは、上記製造方法に基づいて、ナトリウムY型ゼオライトを担体として、ナトリウムイオンと、銀イオンとを交換して得られる。
金属イオンが単核イオンになっていると、ゼオライト中のナトリウムイオンが単核イオンと交換されやすい。このため、金属イオンがゼオライト中に担持されやすく、ゼオライト中に残るナトリウムイオン量は少なくなる。このように、残留するナトリウムイオン量が少ないゼオライトは、硫黄化合物の吸着活性が高い。
一方、金属イオンがクラスターイオンになっていると、ゼオライト中のナトリウムイオンと交換されにくい。このため、金属イオンがゼオライト担体中に担持されにくく、ゼオライトに残るナトリウムイオン量は多くなる。すなわち、ゼオライトに残るナトリウムイオン量が多いものは、硫黄化合物の吸着活性が低くなる。
ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンで交換すると、その次にイオン交換する金属イオンが単核の状態でイオン交換されやすい。そこで、アンモニウムイオンでイオン交換処理を行ったゼオライトのアンモニウムイオンを金属イオンに交換することによって、硫黄化合物の吸着活性を高めることができる。
また、例えば、超安定化ゼオライト(USYゼオライト)のように、ゼオライト中のSi/Al比が高く、ナトリウムイオン量が予め低いものは、金属イオンが単核イオンとして存在していたとしても、金属イオンが交換できるナトリウムイオン量が少ないため、硫黄化合物の吸着活性が低くなると考えられる。
【0015】
上述した硫黄化合物の吸着活性の観点から、酒類用金属担持ゼオライト中に、金属イオンと交換されることなく残存するナトリウムイオンがNa
2O換算で0.5質量%未満のものは、もともと、金属イオンが交換できるナトリウムイオン量が少な過ぎるため、金属イオンが交換される余地が少なく、硫黄化合物の吸着活性が十分に得られない。
また、ナトリウムイオンがNa
2O換算で7.0質量%を超えるものは、ゼオライト中に金属イオンと交換されずにナトリウムイオンが多く残存しているため、硫黄化合物の吸着活性が十分に上がらない。
上記観点から、Na
2O含有量は0.6質量%以上6.5質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトの銀イオンの担持量は、10%以上20%以下であることが好ましい。10%未満であると、要求される脱硫活性が得られない。20%を超えると、銀イオンの溶出量が増加するため不適である。
【0017】
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、担体であるゼオライト1gに対する銀の担持量が0.15g以上であり、かつ銀の使用率が85%以上であることが好ましい。
ここで、銀の使用率とは、下記式によって得られるものである。
使用率(%)={銀の担持量/銀の仕込み量(理論値)}×100
この使用率が85%以上であれば、ゼオライト上に、より多くの銀を担持させることができるため、導入した銀に対する損失量を減らすことができ、製造コストの低減に繋がるとともに、高い脱硫性能が得られる。
【0018】
また、本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、可視紫外分光法(Ultraviolet・Visible Absorption Spectroscopy:UV−VIS)による観測により、少なくとも180nm〜250nmの間に吸収ピークが観測される。
可視紫外分光法において、180nmから250nmの間に観測される吸収ピークは、銀(場合によっては、銅、亜鉛、ニッケル、鉄、セリウム、ランタン、ジルコニウム及びチタン)の単核イオンに帰属する。
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトにおいて、可視紫外分光法による観測により、180nm〜250nmの間に吸収ピークが観測されることは、銀(場合によっては、銅、亜鉛、ニッケル、鉄、セリウム、ランタン、ジルコニウム、及びチタン)の単核イオンが含まれることを意味しており、かつその吸収ピークの強度が大きいことは、単核の金属イオンが多く存在し、ゼオライト中の金属担持量が多い。すなわち、硫黄化合物の吸収能が高いことを意味する。
【0019】
金属成分が銀である場合には、本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、可視紫外分光法による観測により、少なくとも、210nm±10nmの間に吸収ピークが観測される。
また、本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、可視紫外分光による観測により、210nm±10nmの間と、250〜270nmの間に吸収ピークが観察され、この2つの吸収ピークの高さであるUV1(250〜270nmの間の吸収ピークの高さ)と、UV2(210nm±10nmの間の吸収ピークの高さ)とが、(UV1/UV2)≦1.0を満たすことが好ましい。
可視紫外分光法において、210nm±10nmの間に観測される吸収ピークは、単核の銀イオンに帰属する。また、250〜270nmの間に観測される吸収ピークは、銀クラスターイオンに帰属する。
【0020】
このことから、本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトにおいて、可視紫外分光法による観測により、210nm±10nmの間に吸収ピークが観測されることは、単核の銀イオンが含まれることを意味しており、かつその吸収ピークの強度が大きいことは、単核の金属イオンが多く存在することを意味する。
また、本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトにおいて、可視紫外分光による観測により、210nm±10nmと250〜270nmの吸収ピークの高さ(強度)であるUV2(210nm±10nmの間の吸収ピークの高さ)と、UV1(250〜270nmの間の吸収ピークの高さ)とが、(UV1/UV2)≦1.0を満たすことが、すなわち、銀クラスターイオンよりも単核の銀イオンの方が多く存在することを意味し、低温(室温)における硫黄化合物の吸着能が向上する。
上記観点から、より好ましくは、(UV1/UV2)≦0.4あり、さらに好ましくは、(UV1/UV2)≦0.2である。
【0021】
[ゼオライト]
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトを構成する担体は、主として、12員環或いは10員環細孔を有するゼオライトである。これよりも小さな細孔を有するゼオライト(8員環細孔など)では不味成分である有機化合物が細孔内を拡散できないため、除去性能を発揮することができず不適であり、これよりも大きな細孔を有するゼオライト(14員環細孔など)では特殊な構造規定剤が必要な製造法となるため、ゼオライト自体が非常に高価となってしまい不適である。
12員環或いは10員環細孔を有するゼオライトのなかでも、FAUまたはBEA構造を有するゼオライトが好ましく、特にFAU構造を有するゼオライトが好ましい。FAU構造を有するゼオライトはSiとAlの元素の比によってX型ゼオライトとY型ゼオライトに分類される。
このなかでも、酒類用金属担持ゼオライトの全質量基準で、Y型ゼオライトが80質量%以上含まれるものが好ましい。
なお、FAU構造を有するゼオライトの組成式は、Na
nAl
nSi
192-nO
384・xH
2Oである。このうち、n=48〜76であればY型ゼオライトになり、n=77〜96であれば、X型ゼオライトになる。
【0022】
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトを構成する担体としてのゼオライトのBET比表面積は、500m
2/g以上900m
2/gであることが好ましく、より好ましくは550m
2/g以上850m
2/g以下である。
また、ゼオライトのミクロ孔容積は、0.05cc/g以上0.40cc/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.10cc/g以上0.35cc/gである。
さらにまた、ゼオライトの平均粒径は、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.3mm以上3mm以下であり、さらに好ましくは、0.5mm以上2mm以下である。
【0023】
本実施形態に係る酒類用金属担持ゼオライトは、バインダー成分を添加して成型して用いられてもよい。バインダー成分の添加量は、該酒類用金属担持ゼオライト全量に基づき、好ましくは5質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下の割合で、添加して成型されることが望ましい。
使用可能なバインダー成分としては、アルミナ、シリカなどが好ましい。成型を容易にする観点から、さらにベントナイト、バーミキュライト等の粘土鉱物やセルロース等の有機添加剤を加えてもよい。ゼオライトに、上記バインダー成分を加えて、押出成型、打錠成型、転動造粒、スプレードライ等の通常の方法により酒類用金属担持ゼオライトを成型することができる。
【0024】
[酒類の製造方法]
本発明の実施形態に係る酒類の製造方法は、酒類を精製する精製工程を有し、精製工程において、上述した酒類用金属担持ゼオライトを用いることにより、酒類に含まれる不要成分が除去される。
酒類用金属担持ゼオライトを用いた精製条件は、以下のとおりである。
原酒中の硫黄化合物の濃度が100容量ppm以下であれば上述した酒類用金属担持ゼオライトにて脱硫処理することが可能である。硫黄化合物の濃度は、好ましくは、10容量ppm以下である。
温度範囲は、−50℃以上150℃以下であり、より好ましくは−50℃以上120℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以上100℃以下である。
上述した酒類用金属担持ゼオライトに対して酒類を流通させる方式にする場合には、流速(LHSV)範囲は、0.1h
−1以上100h
−1以下であり、より好ましくは0.5以上50h
−1以下であり、さらに好ましくは1以上30h
−1以下である。
上記精製条件によれば、酒類中に高級アルコール類、フーゼル類、エステル類等の旨味成分を保持しながら、不要成分を除去することができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
後述する供試酒の成分を以下の方法で評価した。
<酒類用金属担持ゼオライトの銀担持量の定量>
酒類用金属担持ゼオライトにおける銀担持量は、ICP発光分光分析装置 アジレントテクノロジー株式会社製 720−ESを用いて定量した。なお、銀担持量とは、酸化銀換算の銀担持量である(以降も同じ)。また、酒類用金属担持ゼオライトを水溶液化させる前処理としてアルカリ融解法を用いた。
【0026】
<銀の使用率>
銀の使用率は、上記定量された酒類用金属担持ゼオライトにおける銀担持量の値を用いて、下記式により算出した。
使用率(%)={ゼオライト中の酸化物換算の銀担持量/酸化物換算の銀の仕込み量(理論値)}×100
【0027】
<酒類の成分評価>
供試酒中の硫黄化合物(ジメチルスルフィド(DMS)及びジメチルジスルフィド(DMDS)を、GC−SCD装置(化学発光硫黄検出器付ガスクロマトグラフィー) アジレントテクノロジー株式会社製 GC:6890N/SCD:355を用いて分析した。
脱硫率の試験方法は、流通式にて行った。供試酒2.5Lを用いて、供試脱硫剤18cm
3を封入した直径1cmのカラムに流通させた。この後、供試酒中の成分を再度分析した。なお、流通条件は、LHSV=20h
−1とし、7時間後の処理液を回収することで分析を実施した。
脱硫率(%)は、下記式により算出した。
[(導入前の硫黄化合物濃度−脱硫後の硫黄化合物濃度)/導入前の硫黄化合物濃度]×100
【0028】
<可視紫外分光の測定>
日本分光社製V−650を用い、拡散反射法にて、測定範囲800〜200nmで測定した。
【0029】
<銀の溶解性>
銀の溶解性は以下のように測定した。まず、脱硫処理後の水溶液を前処理として硫酸処理、灰化処理を順に実施し、その後アルカリ融解法を実施することで、均一な水溶液とした。この水溶液に含まれる銀を、ICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー株式会社製 720−ES)を用いて定量した。
【0030】
[脱硫剤の製造例]
下記の製造例1〜5により、脱硫剤を製造した。
<製造例1>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4Y型ゼオライトを得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀394gを溶解した硝酸銀水溶液に、NH
4Y型ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、銀イオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト1を得た。
【0031】
<製造例2>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。水3Lに硝酸銀394gを溶解した硝酸銀水溶液に、このナトリウムY型ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、銀イオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト2を得た。
【0032】
<製造例3>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4Y型ゼオライトを得た。水洗の後、硝酸銀315.2gを水3Lに溶解した硝酸銀水溶液に、NH
4Y型ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、銀イオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト3を得た。
【0033】
<製造例4>
市販のナトリウムY型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 HSZ−320NAD1A)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム264gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4Y型ゼオライトを得た。水洗の後、水3Lに硝酸銀157.6gを溶解した硝酸銀水溶液に、NH
4Y型ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、銀イオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgY型ゼオライト4を得た。
【0034】
<製造例5>
市販のNaX型ゼオライト成型体(東ソー株式会社製 ゼオラムF−9)を砕いて平均粒径を1.0〜1.5mmに揃えた。硝酸アンモニウム528gを水3.3Lに溶解し、上記ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、イオン交換処理を行ってNH
4X型ゼオライトを得た。水洗の後、硝酸銀315.2gを水3Lに溶解した硝酸銀水溶液に、NH
4X型ゼオライト1kgを投入し、液を3時間撹拌し、銀イオン交換を行い、さらに、水洗及び乾燥を行った。この後、400℃で3時間の焼成を行い、AgX型ゼオライト1を得た。
【0035】
[実施例及び比較例]
<実施例1>
製造例1により得られたAgY型ゼオライト1にウイスキー(モルトウイスキー(アルコール分62%))を通液し、上記評価試験に基づいて通液前後の成分を比較した。なお、処理前のウイスキーには、DMSが1.7816ppm、DMDSが0.4226ppm含まれていた。結果を第1表に示す。
<実施例2>
製造例3により得られたAgY型ゼオライト3にウイスキー(モルトウイスキー(アルコール分62%))を通液し、評価試験に基づいて通液前後の成分を比較した。なお、処理前のウイスキーには、DMSが1.7816ppm、DMDSが0.4226ppm含まれていた。結果を第1表に示す。
<比較例1>
製造例2により得られたAgY型ゼオライト2にウイスキー(モルトウイスキー(アルコール分62%))を通液し、上記評価試験に基づいて通液前後の成分を比較した。結果を第1表に示す。
<比較例2>
製造例4により得られたAgY型ゼオライト4にウイスキー(モルトウイスキー(アルコール分62%))を通液し、上記評価方法に基づいて通液前後の成分を比較した。結果を第1表に示す。
<比較例3>
製造例5により得られたAgX型ゼオライト1にウイスキー(モルトウイスキー(アルコール分62%))を通液し、上記評価方法に基づいて通液前後の成分を比較した。結果を第1表に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
また、実施例1にて得られた成型体及び比較例1にて得られた成型体に、上述した可視紫外分光測定を行った。その結果を
図1に示す。
図1に示されるように、実施例1及び実施例2にて得られた銀イオン交換Y型ゼオライト成型体は、210nm付近にピークが観測されたが、比較例1に観測される270nm付近のピークは、殆ど観測されなかった。210nm付近の観測ピークと270nm付近の吸収ピークとのピーク強度比は、0.18〜0.19であった。
比較例1において得られた銀イオン交換Y型ゼオライト成型体は、可視紫外分光測定により210nm付近と270nm付近に強い吸収ピークが観測された。210nm付近の観測ピークと270nm付近の吸収ピークとのピーク強度比は、0.63であった。
比較例3のX型ゼオライトは、280nm付近において、吸収が大きくなる挙動を示した。これは、銀イオンを担持する担体を構成するX型ゼオライト及びバインダーに由来するものであると考えられる。X型ゼオライトを用いた場合には、210nm付近の観測ピークと270nm付近の吸収ピークとのピーク強度比が0.2を超えていた。その結果として、DMS脱硫率及びDMDS脱硫率が実施例1及び2よりも低かった。
【0038】
[評価結果]
可視紫外分光による観測により、250〜270nmの間に観察される吸収ピークの高さUV1と、210nm±10nmの間に観察される吸収ピークの高さUV2とが、(UV1/UV2)≦0.2を満たし、銀イオンの担持量が酸化物換算で10%以上20%以下であり、かつ、ゼオライト1gに対する銀の担持量が0.15g以上であり、かつ銀の使用率が85%以上であるような実施例のゼオライト成型体は、高い脱硫率と、銀の溶出量低減とを両立できることがわかった。