【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例についてより具体的に説明する。
【0035】
<
参考例1>
参考例1では、最初に、単一分極処理を施した概略コングルーエント組成のLi:Taの比 が48.5:51.5の割合の4インチ径タンタル酸リチウム単結晶インゴットをスライスして、4 2°回転Yカットのタンタル酸リチウム基板を370μm厚に切り出した。その後、必要に応じて、各スライスウエハの面粗さをラップ工程により算術平均粗さRa値で0.15μmに調整し、その仕上がり厚みを350μmとした。
【0036】
次に、表裏面を平面研磨によりRa値で0.01μmの準鏡面に仕上げた基板を、Li
3TaO
4を主成分とするLi、Ta、Oから成る粉体の中に埋め込んだ。この場合、Li
3TaO
4を主成分とする粉体として、Li
2CO
3:Ta
2O
5粉をモル比で7:3の割合に混合し、1300℃で12時間焼成したものを用いた。そして、このようなLi
3TaO
4を主成分とする粉体を小容器に敷き詰め、Li
3TaO
4粉中にスライスウエハを複数枚埋め込んだ。
【0037】
そして、この小容器を電気炉にセットし、その炉内をN
2雰囲気として、975℃で100時間加熱して、スライスウエハの表面から中心部へLiを拡散させた。その後、この処理の降温過程において800℃で12時間アニール処理を施すとともに、ウエハをさらに降温する過程の770℃〜500℃の間に、概略+Z軸方向に4000V/mの電界を印可し、その後、温度を室温まで下げる処理を行った。また、この処理の後に、その粗面側をサンドブラストによりRa値で約0.15μmに仕上げ加工を行うとともに、その概略鏡面側を3μmの研磨加工を行って、複数枚のタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0038】
このように作製したタンタル酸リチウム単結晶基板の1枚について、レーザーラマン分光測定装置(HORIBA Scientific社製LabRam HRシリーズ、Arイオンレーザー、スポットサイズ1μm、室温)を用いて、この基板の外周側面から1cm以上離れた任意の部分について、表面から深さ方向に渡ってLi拡散量の指標である600cm
-1付近のラマンシフトピークの半値幅を測定したところ、
図1に示すラマンプロファイルの結果が得られた。
【0039】
図1の結果から、このタンタル酸リチウム単結晶基板は、その基板表面と基板内部のラマン半値幅が異なっており、基板の深さ方向に0μm〜約18μmの位置にかけてはラマン半値幅が5.9〜6.0cm
-1とおおよそ一定になっていた。また、より深い位置についても、基板中心部に近い程ラマン半値幅の値が増大する傾向を有していることが確認された。
【0040】
また、タンタル酸リチウム単結晶基板の厚み方向の深さ80μmのラマン半値幅は、9.3cm
-1であり、図中において省略されているが、基板の厚み中心位置のラマン半値幅も、9.3cm
-1であった。
【0041】
以上の
図1の結果から、
参考例1では、基板表面近傍と基板内部とのLi濃度が異なっており、基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板深さ方向にLi濃度が減少する濃度プロファイルを示す範囲を有していることが確認された。また、LiTaO3基板表面より18μmの深さまでは概ね一様なLi濃度を有していることも確認された。
【0042】
また、
図1の結果から、タンタル酸リチウム単結晶の基板表面から深さ方向に18μmの深さ位置までは、そのラマン半値幅は、約5.9〜6.0cm
-1であるから、上記式(1)を用いると、その範囲における組成は、おおよそLi/(Li+Ta)=0.515〜0.52となるから、疑似ストイキオメトリー組成になっていることが確認された。
【0043】
さらに、タンタル酸リチウム単結晶の基板の厚み方向の中心部のラマン半値幅は、約9.3cm
-1であるから、同様に上記式(1)を用いると、Li/(Li+Ta)の値は、0.485となるから、概略コングルーエント組成であることが確認された。
【0044】
このように、実施例1の回転YカットLiTaO
3基板の場合、その基板表面からLi濃度が減少し始めるまでの範囲またはLi濃度が増大し終わるまでの範囲は、疑似ストイキオメトリー組成であり、基板の厚み方向の中心部は、概略コングルーエント組成である。そして、Li濃度が減少し始める位置またはLi濃度が増大し終わる位置は、基板表面から厚み方向に20μmの位置であった。
【0045】
次に、このLi拡散を施した4インチのタンタル酸リチウム単結晶基板の反りをレーザ光による干渉方式で測定したところ、その値は60μmと小さい値であり、ワレやヒビは観測されなかった。
【0046】
また、Li拡散を施した4インチの42°Yカットタンタル酸リチウム単結晶基板から切り出した小片について、中国科学院声楽研究所製ピエゾd33/d15メータ(型式ZJ-3BN)を用いて、それぞれの主面と裏面に厚み方向の垂直振動を与えて誘起させた電圧波形を観測したところ、ウエハの全ての場所において圧電応答を示す波形が得られた。したがって、実施例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板面内全て圧電性を有することから、単一に分極され弾性表面波素子として使用可能であることが確認された。
【0047】
次に、
参考例1により得られたLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム 単結晶基板にスパッタ処理を施して0.2μm厚のAl膜を成膜し、その後、レジストを塗布するとともに、ステッパにて1段のラダー型フィルタと共振子の電極パタンを露光・現像し、RIE(Reactive Ion Etching)によりSAWデバイスの電極を設けた。なお、このパタニングした1段ラダーフィルタ電極の一波長は、直列共振子の場合2.33μm、並列共振子の一波長は、2.47μmとした。また、評価用共振子単体は、1波長を2.50μmとした。
【0048】
この1段のラダー型フィルタについて、RFプローバーによりそのSAW波形特性を確認したところ、
図2に示す結果が得られた。
図2中には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板に前記と同一の電極を形成し、そのSAW波形を測定した結果を併せて図示している。
【0049】
図2の結果から、Li拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板よりなるSAWフィルタでは、その挿入損失が3dB以下となる周波数幅は、93MHzであり、そのフィルタの中心周波数は、1745MHzであることが確認された。これに対して、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板よりなるSAWフィルタでは、その挿入損失が3dB以下となる周波数幅は、80MHzであり、そのフィルタの中心周波数は、1710MHzであった。
【0050】
また、ステージの温度を約16℃〜70℃と変化させて、
図2のディップの右側の周波数に相当する反共振周波数とディップの左側の周波数に相当する共振周波数の温度係数をそれぞれ確認したところ、共振周波数の温度係数は、-21ppm/℃であり、反共振周波数の温度係数は、-42ppm/℃であったので、平均の周波数温度係数は、-31.5ppm/℃であることが確認された。比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の温度係数についても確認したところ、共振周波数の温度係数は、-33ppm/℃であり、反共振周波数の温度係数は、-43ppm/℃であったので、平均の周波数温度係数は、-38ppm/℃であった。
【0051】
したがって、以上の結果から、
参考例1のタンタル酸リチウム単結晶基板では、Li拡散処理を施さない基板と比較して、そのフィルタの挿入損失が3dB以下となる帯域は、1.2倍広いことが確認された。また、温度特性についても、平均の周波数温度係数は、Li拡散処理を施さない基板と比較して、6.5ppm/℃程小さく、温度に対して特性変動が少ないことから、温度特性が良好であることも確認された。
【0052】
次に、
参考例1のLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板から波長2.5μmの1ポートSAW共振子を作製して、
図3に示すSAW波形が得られた。なお、
図3中には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板からも同様の1ポートSAW共振子を作製して、得られたSAW波形の結果を併せて図示している。
【0053】
そして、この
図3のSAW波形の結果から、反共振周波数と共振周波数の値を求めるとともに、電気機械結合係数k
2を下記式(2)に基づいて算出したところ、表1に示すよう に、
参考例1のLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板では、その電気機械結合係数k
2は、7.7%であり、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の約1.2倍の値を示した。
【0054】
<式2>
【0055】
また、
図4には、
参考例1のSAW共振子について、入力インピーダンス(Zin)の実部・虚部と周波数との関係を示すとともに、BVDモデルによる下記式(3)(非特許文献の「John D.et al.,“Modified Butterworth-VanDyke Circuit for FBAR Resonators and Aut omated Measurement System”, IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM, 2000, pp.863-868」参照)を用いて計算した入力インピーダンスの計算値も併せて示している。
そして、
図4のグラフ曲線A及びBの結果から、
参考例1で測定した入力インピーダンスの値とBVDモデルによる計算値とは、よく一致していることが確認された。
【0056】
さらに、表1には、下記式(3)を用いてQ値を求めた結果を示しており、
図5には、SAW共振子のQサークル実測値とBVDモデルによる計算値を併せて示している。
なお、Qサークルには、入力インピーダンス(Zin)の実部を横軸に、入力インピーダンス(Zin)の虚部を縦軸に示している。
【0057】
図5中のQサークル曲線Cの結果から、
参考例1で測定した入力インピーダンスの値とBVDモデルによる計算値は、よく一致していることが確認されたから、BVDモデルによる下記式(3)で求めたQ値は、妥当な値であると言える。また、Qサークルにおいては、概ね半径が大きければQ値も大きいと判断することができる。
【0058】
また、表1及び
図5には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の結果(
図5中のQサークル曲線D参照)についても併せて示しているが、
参考例1のQは、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板のQと同程度か、それ以上の値を示すことが確認された。
【0059】
<式3>
【0060】
<
参考例2>
参考例2でも、先ず、
参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を2μm研磨して、基板表面より16μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0061】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、
参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏 洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは、6.4波長であった。
【0062】
参考例2のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数k
2が大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0063】
<
参考例3>
参考例3でも、先ず、
参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を4μm研磨して、基板表面より14μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0064】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、
参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏 洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは、5.6波長であった。
【0065】
参考例3のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数k
2が大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0066】
<
参考例4>
参考例4でも、先ず、
参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を5.5μm研磨して、基板表面より12.5μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0067】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、
参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは5.0波長であった。
【0068】
参考例4のンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数k
2が大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0069】
<
実施例1>
実施例1では、先ず、
参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板と200μm厚のSi基板を非特許文献の「Takagi H. et al、“Room-temperature wafer bonding using argonbeam activation”From Proceedings-Electrochemical Society (2001),99-35(Semiconductor Wafer Bonding: Science, Technology, and Applications V),265-274.」に記載の常温接合法により接合して接合基板を作製した。具体的には、高真空のチャンバー内に洗浄した基板をセットし、イオンビームを中性化したアルゴンの高速原子ビームを基板表面に照射して活性化処理を行った後、タンタル酸リチウム単結晶基板とSi基板とを接合した。
【0070】
そして、この接合基板の接合界面を透過電顕で観察したところ、
図6に示すように、接合界面の疑似ストイキオメトリー組成LiTaO
3とSiの原子同士が入り混じって強固に接合されていることが確認された。
【0071】
また、この接合基板の接合界面からLiTaO
3側に18μmの範囲までを残すように、研削・研磨を施して、Liを拡散させた回転YカットLiTaO
3基板とシリコン基板との接合基板を形成した。
【0072】
次に、このようにして得られた接合基板について、
参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表2に示すとおりである。この結果から、
実施例1の接合基板も、大きな電気機械結合係数の値とQ値を示し、温度特性も優れていることが確認された。
【0073】
<
実施例2>
実施例2では、先ず、
参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板と200μm厚のSi基板を上記非特許文献に記載の常温接合法により接合して接合基板を作製した。
【0074】
そして、この接合基板の接合界面を透過電顕で観察したところ、
実施例1と同様に接合界面の疑似ストイキオメトリー組成LiTaO3とSiの原子同士が入り混じて強固に接合されていることが確認された。
【0075】
また、この接合基板の接合界面からLiTaO
3側に1.2μmの範囲までを残すように、研削・研磨を施して、Liを拡散させた回転YカットLiTaO
3基板とシリコン基板との接合基板を形成した。
【0076】
次に、このようにして得られた接合基板について、
参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表2に示すとおりである。この結果から、
実施例2の接合基板も、大きな電気機械結合係数の値とQ値を示し、温度特性も優れていることが確認された。