特許第6335831号(P6335831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6335831
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年5月30日
(54)【発明の名称】接合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20180521BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20180521BHJP
   C30B 31/02 20060101ALI20180521BHJP
   C30B 33/06 20060101ALI20180521BHJP
   C04B 37/00 20060101ALI20180521BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20180521BHJP
【FI】
   C30B29/30 B
   H03H9/25 C
   C30B31/02
   C30B33/06
   C04B37/00 C
   C04B37/02 C
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-83941(P2015-83941)
(22)【出願日】2015年4月16日
(65)【公開番号】特開2016-204174(P2016-204174A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159433
【弁理士】
【氏名又は名称】沼澤 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】丹野 雅行
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公二
(72)【発明者】
【氏名】桑原 由則
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−066032(JP,A)
【文献】 特開2014−154911(JP,A)
【文献】 特開2013−236277(JP,A)
【文献】 特開2013−236276(JP,A)
【文献】 特開2014−027388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C04B 37/00
C04B 37/02
C30B 31/02
C30B 33/06
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有し、少なくとも一方の基板表面から任意の深さまでLi濃度が概略一様であるLiTaO3単結晶基板とベース基板とを接合して、Li濃度が概略一様になっている部分を残すように、接合面の反対側のLiTaO3表層を除去することを特徴とする接合基板の製造方法。
【請求項2】
基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有し、少なくとも一方の基板表面から任意の深さまでLi濃度が概略一様であるLiTaO3単結晶基板とベース基板とを接合して、Li濃度が概略一様になっている部分のみを残すように、接合面の反対側のLiTaO3 表層を除去することを特徴とする接合基板の製造方法。
【請求項3】
前記Li濃度が概略一様になっている部分は、疑似ストイキオメトリー組成であることを特徴とする請求項1または2に記載の接合基板の製造方法。
【請求項4】
前記LiTaO3単結晶基板は、結晶方位が回転36°Y〜49°Yカットである回転YカットLiTaO3基板の表面から内部へLiを拡散させて、基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有するLiTaO3単結晶基板であって、該LiTaO3単結晶基板は、単一分極処理が施されており、前記基板表面から該LiTaO3単結晶基板表面を伝搬する弾性表面波または漏洩弾性表面波の波長の5〜15倍の深さまで、概略一様なLi濃度を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の接合基板の製造方法。
【請求項5】
前記Li濃度プロファイルは、前記LiTaO3単結晶基板の基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板中心部に近いほどLi濃度が減少する濃度プロファイルであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の接合基板の製造方法。
【請求項6】
前記基板表面のLiとTaの比率がLi:Ta=50-α:50+αであり、αは-0.5<α<0.5の範囲であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の接合基板の製造方法。
【請求項7】
前記LiTaO3単結晶基板中に25ppm〜150ppmの濃度でFeがドープされていることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の接合基板の製造方法。
【請求項8】
前記ベース基板は、Si、SiC、スピネルの何れかであることを特徴とする請求項1乃至7に記載の接合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル酸リチウム単結晶基板とベース基板とを接合する接合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの周波数調整・選択用の部品として、圧電基板上に弾性表面波を励起するための櫛形電極(IDT; Interdigital Transducer)が形成された弾性表面波(SAW; Surface Acoustic Wave)デバイスが用いられている。
【0003】
弾性表面波デバイスには、小型で挿入損失が小さく、不要波を通さない性能が要求されるため、その材料としてタンタル酸リチウム(LiTaO; LT)やニオブ酸リチウム(LiNbO; LN)などの圧電材料が用いられる。
【0004】
一方で、第四世代の携帯電話の通信規格は、送信受信の周波数バンド間隔が狭く、かつバンド幅が広くなっているが、このような通信規格のもとでは、弾性表面波デバイス用材料の温度による特性変化が十分に小さくないと、周波数選択域のずれが生じて、デバイスのフィルタやデュプレクサ機能に支障をきたしてしまうという問題が生じる。したがって、温度に対して特性変動が少なく、帯域が広い弾性表面波デバイス用の材料が渇望されている。
【0005】
このような弾性表面波デバイス用材料に関して、特許文献1には、電極材料に銅を用いた、主に気相法により得られるストイキオメトリー組成LTの場合、IDT電極に高い電力が入力される瞬間に破壊されるブレークダウンモードが生じにくくなるために好ましい旨記載されている。また、特許文献2にも、気相法により得られるストイキオメトリー組成LTに関する詳細な記載があり、特許文献3にも、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムの強誘電性結晶内に形成された導波路をアニール処理する具体的な方法が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウム単結晶基板にLi拡散処理を施した弾性表面波デバイス用圧電基板が記載されており、特許文献5及び非特許文献1には、気相平衡法により、厚み方向に渡ってLT組成を一様にLiリッチに変質させたLTを弾性表面波素子として用いると、その周波数温度特性が改善されて好ましい旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−135245号
【特許文献2】米国特許第6652644号(B1)
【特許文献3】特開2003−207671号
【特許文献4】特開2013−66032号
【特許文献5】WO2013/135886(A1)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bartasyte A. et al., “Reduction of temperature coefficient of frequency in LiTaO3 single crystals for surface acoustic wave applications”, Applications of Ferroelectrics held jointly with 2012 European Conference on the Applications of Polar Dielectrics and 2012 International Symp Piezoresponse Force Microscopy and Nanoscale Phenomena in Polar Materials (ISAF/ECAPD/PFM), 2012 Intl Symp, 2012, Page(s):1-3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らは、これらの刊行物に記載された具体的な方法を詳細に検討したところ、これら方法では必ずしも好ましい結果が得られないことが判明した。特に、特許文献5に記載の製造方法は、気相において1300℃程度の高温でウエハの処理を行うものであるが、製造温度が1300℃程度と高いことから、ウエハのソリが大きく、クラックの発生率が高くなるために、その生産性が悪く、弾性表面波デバイス用材料としては高価なものとなってしまうという問題が判明した。また、この製造方法では、LiOの蒸気圧が低く、Li源からの距離によって被改質サンプルの改質度にバラツキが生じてしまうために、このような品質のバラツキが工業化において大きな問題となる。
【0010】
さらに、特許文献5に記載の製造方法では、Liリッチに変質させたLTについて気相平衡法による処理後に単一分極処理を行っていないが、本発明者らがこの点について確認したところ、単一分極処理をしていないLiリッチに変質させたLTでは、SAWデバイスのQ値が小さいという問題があることが新たに判明した。
【0011】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、反りが小さく、ワレやキズのない、しかも、温度特性が従来の回転YカットLiTaO3基板よりも良好であり、電気機械結合係数が大きく、さらに、デバイスのQ値が高いタンタル酸リチウム単結晶基板とベース基板とを接合した接合基板の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行ったところ、概略コングルーエント組成の基板にLi拡散の気相処理を施して、基板の厚み方向において、基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板中心部に近いほどLi濃度が減少する濃度プロファイルを示す範囲を有するように改質すれば、板厚方向の中心部付近まで一様なLi濃度の結晶構造に改質しなくても、弾性表面波素子用などの用途として、反りが小さく、ワレやキズのない、温度特性が良好な圧電性酸化物単結晶基板が得られることを見出した。また、Liによる改質の範囲や単一分極処理の有無がデバイスのQ値に影響を与えることを知見し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の接合基板の製造方法は、基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有し、少なくとも一方の基板表面から任意の深さまでLi濃度が概略一様であるLiTaO3単結晶基板とベース基板とを接合して、Li濃度が概略一様になっている部分を残すように、又はLi濃度が概略一様になっている部分のみを残すように、接合面の反対側のLiTaO3表層を除去することを特徴とするものである。
また、LiTaO3単結晶基板は、結晶方位が回転36°Y〜49°Yカットである回転YカットLiTaO3基板の表面から内部へLiを拡散させて、基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有するものであって、単一分極処理が施されており、基板表面からLiTaO3単結晶基板表面を伝搬する弾性表面波または漏洩弾性表面波の波長の5〜15倍の深さまで、概略一様なLi濃度を有することが好ましく、このLi濃度が概略一様になっている部分は、疑似ストイキオメトリー組成であることが好ましい。
【0014】
そして、本発明のLi濃度プロファイルは、回転YカットLiTaO3基板の基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板中心部に近いほどLi濃度が減少する濃度プロファイルであることが好ましく、基板表面のLiとTaの比率がLi:Ta=50-α:50+αであり、αは-0.5<α<0.5の範囲であることが好ましい。また、基板中に25ppm〜150ppmの濃度でFeがドープされていることが好ましい。
【0015】
さらに、ベース基板は、Si、SiC、スピネルの何れかであることが好ましい
【0016】
本発明の接合基板は、弾性表面波デバイスの素材として好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度特性が従来の回転YカットLiTaO3基板よりも良好であり、電気機械結合係数が大きく、デバイスのQ値が高いタンタル酸リチウム単結晶基板とベース基板を接合する接合基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1参考例1のラマンプロファイルを示す図である。
図2参考例1のSAWフィルタの挿入損失波形を示す図である。
図3参考例1のSAW共振子波形を示す図である。
図4参考例1のSAW共振子波形と入力インピーダンス(Zin)実部・虚部表示波形とBV Dモデルによる計算値を示した図である。
図5参考例1及び比較例2、4のSAW共振子の入力インピーダンス(Zin)の測定値とBVDモデルによる計算値を、実部を横軸に虚部を縦軸にとったQサークルに示した図である。
図6実施例1の接合基板のLiTaO3とSiとの接合界面付近の透過電子顕微鏡写真である
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、これら実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板表面と基板内部とのLi濃度が異なる濃度プロファイルを有するものである。そして、基板の厚み方向において、基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板中心部に近いほどLi濃度が減少する濃度プロファイルを示す範囲を有することは、その作製上の容易さから好ましい。このようなLiの濃度プロファイルを示す範囲を有する基板は、公知の方法により基板表面からLiを拡散させることで容易に作製することができる。
なお、ここで、「濃度プロファイル」とは、連続的な濃度の変化を指す。
【0021】
また、本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板表面からLiTaO3基板表面を伝搬する弾性表面波または漏洩弾性表面波の波長の5〜15倍の深さまで、概略一様なLi濃度を有することを特徴とする。概略一様なLi濃度を有する範囲が基板表面からLiTaO3基板表面を伝搬する弾性表面波または漏洩弾性表面波の波長の5倍以上の深さまであれば、Li拡散処理を行っていないLiTaO3基板と比較して、同程度か同程度以上のQ値を示すからである。一方、概略一様なLi濃度を有する範囲が波長の15倍を超える深さとすると、Liの拡散に時間がかかって生産性が悪くなってしまうからであり、しかも、Li拡散に時間が長くかかるほど基板に反りやワレが生じやすくなるために好ましくないからである。
【0022】
タンタル酸リチウム単結晶のLi濃度は、ラマンシフトピークを測定して評価することができる。タンタル酸リチウム単結晶については、ラマンシフトピークの半値幅とLi濃度(Li/(Li+Ta)の値)との間に、おおよそ線形な関係が得られることが知られている( 非特許文献の「2012 IEEE 「International Ultrasonics Symposium Proceedings」 page(s):1252-1255, Applied Physics A 56, 311-315 (1993)参照)。したがって、この関係を表す式を用いれば、酸化物単結晶基板の任意の位置における組成を評価することができる。
【0023】
ラマンシフトピークの半値幅とLi濃度との関係式は、その組成が既知であり、Li濃度が異なる幾つかの試料について、ラマン半値幅を測定することによって得られるが、ラマン測定の条件が同じであれば、前記非特許文献などで既に明らかになっている関係式を用いることができる。例えば、タンタル酸リチウム単結晶については、下記式(1)を用いればよい。
【0024】
<式1>
Li/(Li+Ta)=(53.15−0.5FWHM)/100
なお、ここで、「FWHM1」とは、600cm-1付近のラマンシフトピークの半値幅であり、測定条件の詳細については、関連の文献を参照されたい。
【0025】
本発明の「基板表面から概略一様なLi濃度を有する範囲」とは、基板表面における600cm-1付近のラマンシフトピークの半値幅に対して±0.2cm-1程度または基板表面におけるLi/(Li+Ta)の値に対して±0.001程度を示す範囲のことを言う。
【0026】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板では、単一分極処理を施すことを特徴とするが、この分極処理は、Li拡散処理後に施すことが好ましく、この分極処理を施こせば、分極処理を施さないものと比較して、そのQ値を大きくすることができるからである。
【0027】
また、本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板表面のLiとTaの比率がLi:Ta=50-α:50+αであり、αは-0.5<α<0.5の範囲であることが好ましい。何故なら、基板表面のLiとTaの比率が前記の範囲であれば、その基板表面が疑似ストイキオメトリー組成であると判断することができるとともに、特に優れた温度特性を示すからである。
【0028】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板は、例えば概略コングルーエント組成の酸化物単結晶基板に、その基板表面から内部へLiを拡散させる気相処理を施すことによって作製することが可能である。概略コングルーエント組成の酸化物単結晶基板については、チョクラルスキー法などの公知の方法で単結晶インゴットを得た後に、それをカットすればよく、必要に応じてラップ処理や研磨処理などを施してもよい。
【0029】
また、本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板には、25ppm〜150ppmの濃度でFeがドープされていてもよい。Feが25ppm〜150ppmの濃度でドープされたタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散の拡散速度が2割ほど向上するために、Li拡散タンタル酸リチウムウエハの生産性が向上して好ましいからである。ドープの手法としては、チョクラルスキー法により単結晶インゴットを得る際に、原料に相当量のFe2O3をドープすることによりタンタル酸リチウム単結晶基板にFeをドープすることが可能である。
【0030】
さらに、本発明で施す分極処理については、公知の方法で行えばよく、気相処理についても、以下の実施例ではLi3TaO4を主成分とする粉体に基板を埋め込むことにより行っているが、成分および物質の状態は、これに限定されるものではない。なお、気相処理を施した基板については、必要に応じてさらなる加工や処理を行ってもよい。
【0031】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板は、種々のベース基板と接合して接合基板とすることができる。このベース基板は、特に限定されず、目的に応じて選択することができるが、Si、SiC、スピネルの何れかであることが好ましい。
【0032】
また、本発明の接合基板を作製する場合、タンタル酸リチウム単結晶基板のLi濃度が概略一様になっている部分を残すように、接合面の反対側のLiTaO3表層を除去することによって、弾性表面波素子用として優れた特性を有する接合基板が得られる。
【0033】
本発明のタンタル酸リチウム単結晶基板及び接合基板を用いて作製した弾性表面波デバイスは、その温度特性に優れているとともに、特に、第四世代の携帯電話などの部品として好適である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例及び比較例についてより具体的に説明する。
【0035】
<参考例1>
参考例1では、最初に、単一分極処理を施した概略コングルーエント組成のLi:Taの比 が48.5:51.5の割合の4インチ径タンタル酸リチウム単結晶インゴットをスライスして、4 2°回転Yカットのタンタル酸リチウム基板を370μm厚に切り出した。その後、必要に応じて、各スライスウエハの面粗さをラップ工程により算術平均粗さRa値で0.15μmに調整し、その仕上がり厚みを350μmとした。
【0036】
次に、表裏面を平面研磨によりRa値で0.01μmの準鏡面に仕上げた基板を、Li3TaO4を主成分とするLi、Ta、Oから成る粉体の中に埋め込んだ。この場合、Li3TaO4を主成分とする粉体として、Li2CO3:Ta2O5粉をモル比で7:3の割合に混合し、1300℃で12時間焼成したものを用いた。そして、このようなLi3TaO4を主成分とする粉体を小容器に敷き詰め、Li3TaO4粉中にスライスウエハを複数枚埋め込んだ。
【0037】
そして、この小容器を電気炉にセットし、その炉内をN雰囲気として、975℃で100時間加熱して、スライスウエハの表面から中心部へLiを拡散させた。その後、この処理の降温過程において800℃で12時間アニール処理を施すとともに、ウエハをさらに降温する過程の770℃〜500℃の間に、概略+Z軸方向に4000V/mの電界を印可し、その後、温度を室温まで下げる処理を行った。また、この処理の後に、その粗面側をサンドブラストによりRa値で約0.15μmに仕上げ加工を行うとともに、その概略鏡面側を3μmの研磨加工を行って、複数枚のタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0038】
このように作製したタンタル酸リチウム単結晶基板の1枚について、レーザーラマン分光測定装置(HORIBA Scientific社製LabRam HRシリーズ、Arイオンレーザー、スポットサイズ1μm、室温)を用いて、この基板の外周側面から1cm以上離れた任意の部分について、表面から深さ方向に渡ってLi拡散量の指標である600cm-1付近のラマンシフトピークの半値幅を測定したところ、図1に示すラマンプロファイルの結果が得られた。
【0039】
図1の結果から、このタンタル酸リチウム単結晶基板は、その基板表面と基板内部のラマン半値幅が異なっており、基板の深さ方向に0μm〜約18μmの位置にかけてはラマン半値幅が5.9〜6.0cm-1とおおよそ一定になっていた。また、より深い位置についても、基板中心部に近い程ラマン半値幅の値が増大する傾向を有していることが確認された。
【0040】
また、タンタル酸リチウム単結晶基板の厚み方向の深さ80μmのラマン半値幅は、9.3cm-1であり、図中において省略されているが、基板の厚み中心位置のラマン半値幅も、9.3cm-1であった。
【0041】
以上の図1の結果から、参考例1では、基板表面近傍と基板内部とのLi濃度が異なっており、基板表面に近いほどLi濃度が高く、基板深さ方向にLi濃度が減少する濃度プロファイルを示す範囲を有していることが確認された。また、LiTaO3基板表面より18μmの深さまでは概ね一様なLi濃度を有していることも確認された。
【0042】
また、図1の結果から、タンタル酸リチウム単結晶の基板表面から深さ方向に18μmの深さ位置までは、そのラマン半値幅は、約5.9〜6.0cm-1であるから、上記式(1)を用いると、その範囲における組成は、おおよそLi/(Li+Ta)=0.515〜0.52となるから、疑似ストイキオメトリー組成になっていることが確認された。
【0043】
さらに、タンタル酸リチウム単結晶の基板の厚み方向の中心部のラマン半値幅は、約9.3cm-1であるから、同様に上記式(1)を用いると、Li/(Li+Ta)の値は、0.485となるから、概略コングルーエント組成であることが確認された。
【0044】
このように、実施例1の回転YカットLiTaO3基板の場合、その基板表面からLi濃度が減少し始めるまでの範囲またはLi濃度が増大し終わるまでの範囲は、疑似ストイキオメトリー組成であり、基板の厚み方向の中心部は、概略コングルーエント組成である。そして、Li濃度が減少し始める位置またはLi濃度が増大し終わる位置は、基板表面から厚み方向に20μmの位置であった。
【0045】
次に、このLi拡散を施した4インチのタンタル酸リチウム単結晶基板の反りをレーザ光による干渉方式で測定したところ、その値は60μmと小さい値であり、ワレやヒビは観測されなかった。
【0046】
また、Li拡散を施した4インチの42°Yカットタンタル酸リチウム単結晶基板から切り出した小片について、中国科学院声楽研究所製ピエゾd33/d15メータ(型式ZJ-3BN)を用いて、それぞれの主面と裏面に厚み方向の垂直振動を与えて誘起させた電圧波形を観測したところ、ウエハの全ての場所において圧電応答を示す波形が得られた。したがって、実施例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板面内全て圧電性を有することから、単一に分極され弾性表面波素子として使用可能であることが確認された。
【0047】
次に、参考例1により得られたLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム 単結晶基板にスパッタ処理を施して0.2μm厚のAl膜を成膜し、その後、レジストを塗布するとともに、ステッパにて1段のラダー型フィルタと共振子の電極パタンを露光・現像し、RIE(Reactive Ion Etching)によりSAWデバイスの電極を設けた。なお、このパタニングした1段ラダーフィルタ電極の一波長は、直列共振子の場合2.33μm、並列共振子の一波長は、2.47μmとした。また、評価用共振子単体は、1波長を2.50μmとした。
【0048】
この1段のラダー型フィルタについて、RFプローバーによりそのSAW波形特性を確認したところ、図2に示す結果が得られた。図2中には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板に前記と同一の電極を形成し、そのSAW波形を測定した結果を併せて図示している。
【0049】
図2の結果から、Li拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板よりなるSAWフィルタでは、その挿入損失が3dB以下となる周波数幅は、93MHzであり、そのフィルタの中心周波数は、1745MHzであることが確認された。これに対して、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板よりなるSAWフィルタでは、その挿入損失が3dB以下となる周波数幅は、80MHzであり、そのフィルタの中心周波数は、1710MHzであった。
【0050】
また、ステージの温度を約16℃〜70℃と変化させて、図2のディップの右側の周波数に相当する反共振周波数とディップの左側の周波数に相当する共振周波数の温度係数をそれぞれ確認したところ、共振周波数の温度係数は、-21ppm/℃であり、反共振周波数の温度係数は、-42ppm/℃であったので、平均の周波数温度係数は、-31.5ppm/℃であることが確認された。比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の温度係数についても確認したところ、共振周波数の温度係数は、-33ppm/℃であり、反共振周波数の温度係数は、-43ppm/℃であったので、平均の周波数温度係数は、-38ppm/℃であった。
【0051】
したがって、以上の結果から、参考例1のタンタル酸リチウム単結晶基板では、Li拡散処理を施さない基板と比較して、そのフィルタの挿入損失が3dB以下となる帯域は、1.2倍広いことが確認された。また、温度特性についても、平均の周波数温度係数は、Li拡散処理を施さない基板と比較して、6.5ppm/℃程小さく、温度に対して特性変動が少ないことから、温度特性が良好であることも確認された。
【0052】
次に、参考例1のLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板から波長2.5μmの1ポートSAW共振子を作製して、図3に示すSAW波形が得られた。なお、図3中には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板からも同様の1ポートSAW共振子を作製して、得られたSAW波形の結果を併せて図示している。
【0053】
そして、この図3のSAW波形の結果から、反共振周波数と共振周波数の値を求めるとともに、電気機械結合係数kを下記式(2)に基づいて算出したところ、表1に示すよう に、参考例1のLi拡散処理を施した42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板では、その電気機械結合係数kは、7.7%であり、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の約1.2倍の値を示した。
【0054】
<式2>
【0055】
また、図4には、参考例1のSAW共振子について、入力インピーダンス(Zin)の実部・虚部と周波数との関係を示すとともに、BVDモデルによる下記式(3)(非特許文献の「John D.et al.,“Modified Butterworth-VanDyke Circuit for FBAR Resonators and Aut omated Measurement System”, IEEE ULTRASONICS SYMPOSIUM, 2000, pp.863-868」参照)を用いて計算した入力インピーダンスの計算値も併せて示している。
そして、図4のグラフ曲線A及びBの結果から、参考例1で測定した入力インピーダンスの値とBVDモデルによる計算値とは、よく一致していることが確認された。
【0056】
さらに、表1には、下記式(3)を用いてQ値を求めた結果を示しており、図5には、SAW共振子のQサークル実測値とBVDモデルによる計算値を併せて示している。
なお、Qサークルには、入力インピーダンス(Zin)の実部を横軸に、入力インピーダンス(Zin)の虚部を縦軸に示している。
【0057】
図5中のQサークル曲線Cの結果から、参考例1で測定した入力インピーダンスの値とBVDモデルによる計算値は、よく一致していることが確認されたから、BVDモデルによる下記式(3)で求めたQ値は、妥当な値であると言える。また、Qサークルにおいては、概ね半径が大きければQ値も大きいと判断することができる。
【0058】
また、表1及び図5には、比較のために、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板の結果(図5中のQサークル曲線D参照)についても併せて示しているが、参考例1のQは、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板のQと同程度か、それ以上の値を示すことが確認された。
【0059】
<式3>
【0060】
<参考例2>
参考例2でも、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を2μm研磨して、基板表面より16μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0061】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏 洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは、6.4波長であった。
【0062】
参考例2のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0063】
<参考例3>
参考例3でも、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を4μm研磨して、基板表面より14μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0064】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏 洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは、5.6波長であった。
【0065】
参考例3のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0066】
<参考例4>
参考例4でも、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を5.5μm研磨して、基板表面より12.5μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0067】
そして、得られたタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは5.0波長であった。
【0068】
参考例4のンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性も優れており、Q値も、同程度かそれ以上の値であった。
【0069】
<実施例1>
実施例1では、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板と200μm厚のSi基板を非特許文献の「Takagi H. et al、“Room-temperature wafer bonding using argonbeam activation”From Proceedings-Electrochemical Society (2001),99-35(Semiconductor Wafer Bonding: Science, Technology, and Applications V),265-274.」に記載の常温接合法により接合して接合基板を作製した。具体的には、高真空のチャンバー内に洗浄した基板をセットし、イオンビームを中性化したアルゴンの高速原子ビームを基板表面に照射して活性化処理を行った後、タンタル酸リチウム単結晶基板とSi基板とを接合した。
【0070】
そして、この接合基板の接合界面を透過電顕で観察したところ、図6に示すように、接合界面の疑似ストイキオメトリー組成LiTaO3とSiの原子同士が入り混じって強固に接合されていることが確認された。
【0071】
また、この接合基板の接合界面からLiTaO3側に18μmの範囲までを残すように、研削・研磨を施して、Liを拡散させた回転YカットLiTaO3基板とシリコン基板との接合基板を形成した。
【0072】
次に、このようにして得られた接合基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表2に示すとおりである。この結果から、実施例1の接合基板も、大きな電気機械結合係数の値とQ値を示し、温度特性も優れていることが確認された。
【0073】
<実施例2>
実施例2では、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板と200μm厚のSi基板を上記非特許文献に記載の常温接合法により接合して接合基板を作製した。
【0074】
そして、この接合基板の接合界面を透過電顕で観察したところ、実施例1と同様に接合界面の疑似ストイキオメトリー組成LiTaO3とSiの原子同士が入り混じて強固に接合されていることが確認された。
【0075】
また、この接合基板の接合界面からLiTaO3側に1.2μmの範囲までを残すように、研削・研磨を施して、Liを拡散させた回転YカットLiTaO3基板とシリコン基板との接合基板を形成した。
【0076】
次に、このようにして得られた接合基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表2に示すとおりである。この結果から、実施例2の接合基板も、大きな電気機械結合係数の値とQ値を示し、温度特性も優れていることが確認された。
【比較例】
【0077】
以下に示す比較例は、何れも単一分極処理を施さないこと以外は、参考例1と同様な方法によってタンタル酸リチウム単結晶基板を作製したものである。
<比較例1>
比較例1では、Li拡散処理を施した後の降温過程において、770℃〜500℃の間に概略+Z軸方向に電界を印可しなかった(単一分極処理を施さなかった)が、それ以外は、参考例1と同様な方法によってタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0078】
比較例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、参考例1と同様のラマンプロファイルを示し、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有していることが確認された。
【0079】
また、比較例1のLi拡散を施した4インチの42°Yカットタンタル酸リチウム単結晶基板から切り出した小片について、中国科学院声楽研究所製ピエゾd33/d15メータ(型式ZJ-3BN)を用いて、それぞれの主面と裏面に厚み方向の垂直振動を与えて誘起させた電圧波形を観測したところ、ウエハの全ての場所において圧電応答が得られなかった。したがって、比較例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、基板面内全てにおいて厚み方向の圧電性を有しておらず、単一に分極されていないことが確認された。
【0080】
一方で、この小片をd15ユニットにセットして基板の水平方向に振動を与えると、厚み方向に圧電応答を取り出すことができたので、比較例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、厚み方向の振動によって厚み方向の圧電応答は生じないが、基板の水平方向に振動を与えると圧電性を生じる特殊な圧電体となっていることが確認された。
【0081】
また、比較例1のタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。この結果から、比較例1のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性は優れているものが、そのQ値は小さくなっていることが確認された。
【0082】
<比較例2>
比較例2では、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を8μm研磨して、基板表面より10μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0083】
そして、比較例2のタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは4.0波長であった。
【0084】
この結果から、比較例2のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性は優れているが、図5中のQサークル曲線Eが示すように、そのQ値は小さくなっていることが確認された。
【0085】
<比較例3>
比較例3では、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を12μm研磨して、基板表面より8μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0086】
そして、比較例3のタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは3.2波長であった。
【0087】
この結果から、比較例3のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性は優れているが、そのQ値は小さくなっていることが確認された。
【0088】
<比較例4>
比較例4では、先ず、参考例1と同様の方法によって、基板表面より18μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を用意した。次に、この基板表面を14μm研磨して、基板表面より6μmの深さまで概ね一様なLi濃度を有しているタンタル酸リチウム単結晶基板を作製した。
【0089】
そして、比較例4のタンタル酸リチウム単結晶基板について、参考例1と同様の評価を行ったところ、その結果は、表1に示すとおりである。また、ウエハのX方向を伝搬する漏洩弾性表面波の波長で規格化すると、基板表面からLi濃度が一様である範囲の深さは2.4波長であった。
【0090】
この結果から、比較例3のタンタル酸リチウム単結晶基板は、Li拡散処理を施さない42°Yカットのタンタル酸リチウム単結晶基板と比較して、電気機械結合係数kが大きく、温度特性は優れていたが、図5中のQサークル曲線Fが示すように、そのQ値は小さくなっていることが確認された。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【符号の説明】
【0093】
図4中のIm(Zin)測定値とBVDモデルによる計算値を示すグラフ曲線
(実線と点線)
図4中のRe(Zin)測定値とBVDモデルによる計算値を示すグラフ曲線
(実線と点線)
図5中の参考例1の入力インピーダンス(Zin)の測定値(実線)とBVDモデルによる計算値(点線)を示すQサークル曲線
図5中のLi拡散処理無しの場合の入力インピーダンス(Zin)の測定値
(実線)とBVDモデルによる計算値(点線)を示すQサークル曲線
図5中の比較例2(基板表面から一様なLi濃度の深さが10μmの場合)
の入力インピーダンス(Zin)の測定値(実線)とBVDモデルによる計算値(点線)
を示すQサークル曲線
図5中の比較例4(基板表面から一様なLi濃度の深さが6μmの場合)入力
インピーダンス(Zin)の測定値(実線)とBVDモデルによる計算値(点線)を示す
Qサークル曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6