【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、リソグラフィー装置用の振動補償光学系によって達成され、この振動補償光学系は、光学素子、担持要素、及び光学素子を担持要素に対して駆動するためのアクチュエータを具えている。さらに、このシステムは、第1弾性要素、反作用質量体、及び第2弾性要素を具え、第1弾性要素は光学素子を担持要素に特に直接結合し、アクチュエータは光学素子を反作用質量体に結合し、第2弾性要素は反作用質量体を担持要素に特に直接結合する。光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、反作用質量体の質量、及び第2弾性要素の剛性について、次式が成り立つ:
【数1】
【0013】
反作用質量体は一般に、光学素子の駆動により生じて当該反作用質量体に作用する反作用力の大部分を吸収する。
【0014】
それにもかかわらず、第2弾性要素により反作用質量体を担持要素上に支持するための方策をとる。第2弾性要素は、特に反作用質量体をその始動位置に戻すように設計されている。このことは特に、反作用質量体の位置が(閉ループ制御の意味で)制御されない場合に必要である。特に光学素子を駆動する場合に、力は第2弾性要素を介して担持要素に伝達される。これらの力を最小にするために、一般に、これも特許文献1に記載されているように柔軟なバネを使用して、第2弾性要素の剛性に対する反作用質量体の質量の比率を、一般に、この単一質量振動体の固有振動数が例えば5〜10Hzになるような比率にする。しかし、特定用途向けには、このように選定した剛性を有する第2弾性要素でも、担持要素内に導入される力が大き過ぎる。従って、第2弾性要素の剛性をさらに低減するべきである。しかし、生産技術の観点から、それと共にこうした非常に柔軟な弾性要素が大きな空間を必要とすることを考慮すれば、このことは実行可能でないことが判明している。従って、発明者は、動作中に、即ち光学素子の駆動時に、第1弾性要素の支持力と第2弾性要素の支持力とが互いに相殺し合うように、光学素子の質量と反作用質量体の質量、さらに第1及び第2弾性要素の剛性とを互いに適合させるという解決策に、予期せず達した。このことは次式が成り立つ場合である:
【数2】
【0015】
この場合、等号「=」は、比率m
1/m
2が比率k
1/k
2に実質的に相当することを意味するものと理解するべきである。一例として、以下の分数式:
【数3】
で表す比率が0.8〜1.2であり、0.9〜1.1であることが好ましく、0.95〜1.05であることがより好ましく、0.99〜1.01であることがさらに好ましく、0.999〜1.001であることがさらに好ましい。従って、減衰を無視する場合、担持要素に対する合力は実質的に0に等しいことがわかり、このことは後の時点でさらに詳細に導出する。
【0016】
従って、この解決策の場合、第2弾性要素の剛性をできる限り低くすることはもはや重要ではない。従って、次式:
【数4】
が成り立つことが好ましく、このことは、生産技術の観点から、それと共に第2弾性要素に必要な構造的空間を考慮すれば有利である。
【0017】
「≧5Hz」の代わりに、次のことも成り立ち得る:「≧10Hzまたは≧20Hz」。換言すれば、k
1対m
1の比率、及びk
2対m
2の比率が≧1000s
-2、3950s
-2、または15791s
-2である。
【0018】
本発明の力補償の原理は、問題なしに、6つの自由度(直交する軸のそれぞれに沿った3通りの平行移動、及び直交する軸のそれぞれを中心とした3通りの回転)のすべてに拡張することができる。この場合、ここで述べた等式は相応に当てはまり、質量、剛性、及び減衰に関しては、対応する慣性、剛性及び減衰行列を用いるべきである。上記担持要素は、例えばシステムフレーム、レンズ、またはレンズバレルとすることができるが、追加的な担持要素も考えられる。
【0019】
本発明の場合の「結合する」は、あらゆる、フォースロック(強制締め)、ポジティブロック(確動締め)、及び/または粘着接続を意味する。従って、こうした結合は力の伝達に適するように設計するべきである。
【0020】
「直接結合する」は、他の構成要素が介在しない機械的結合を意味する。
【0021】
それぞれを個別の要素として記載した構成要素(例えば、反作用質量体、第1/第2弾性要素)の代わりに、複数の要素を設けることもでき、即ち、例えば1つだけの反作用質量体の代わりに2つまたは3つの反作用質量体を設けることもできる。
【0022】
担持要素に対する光学素子の駆動は、光学素子の位置を変更することを含む。この場合、こうした位置の変更は、例えば6つの自由度(直交する軸のそれぞれに沿った3通りの平行移動、及び直交する軸のそれぞれを中心とした3通りの回転)のうち少なくとも1つについて行うことができる。この駆動は、特に動的な修正のために、例えば上記光学素子が関与する露光プロセス中に、特にリアルタイムで行うことができる。
【0023】
1つの好適例によれば、上記システムが、光学素子を担持要素に結合する第1減衰要素、及び反作用質量体を担持要素に結合する第2減衰要素をさらに具えている。光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第1減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性、及び第2減衰要素の減衰について、次式が成り立つ:
【数5】
【0024】
この好適例では、上記減衰も考慮に入れ、上記減衰は、担持要素に対する合力が実質的に0になるように選定する。一般に、第1減衰要素及び第2減衰要素は別個に設けない。むしろ、第1及び第2減衰要素は、それぞれ第1及び第2弾性要素内に統合されている。通常は、担持要素に対する合力にとって、減衰の重要性は、光学素子または反作用質量体用に選定した質量に比べれば、そして第1及び第2弾性要素の剛性に比べれば、非常に小さいものに過ぎない。
【0025】
従って、担持要素に作用する合力は、第1の力と第2の力との合計として生じる。第1の力は第1弾性要素によって担持要素に伝達される。第2の力は第2弾性要素によって担持要素に伝達される。第1及び第2減衰要素を設ける場合、第3及び第4の力が発生し、第3の力は第1減衰要素によって担持要素に伝達される力に相当し、第4の力は第2減衰要素によって担持要素に伝達される力に相当する。従って、第1及び第2の力、あるいは第1、第2、第3及び第4の力は、上記駆動により生じる力が0に等しくなるように、上記の質量、剛性、及び/または減衰係数を適切に設定することによって与えられる。
【0026】
他の好適例によれば、第1及び/または第2弾性要素が曲がりバネまたはねじりバネとして具体化される。この目的で、第1及び/または第2弾性要素は、例えば金属または半金属、特に(ヒステリシスがないことが有利である)シリコンで形成することができる。しかし、一例として、第1及び/または第2弾性要素は、空気バネ(エアースプリング)または流体バネとして具体化することもできる。一例として、第1及び/または第2弾性要素の作動方向(即ち、特に伸張方向または圧縮方向)の剛性k
xの比率は、第1及び/または第2弾性要素の横方向(即ち、作動方向に対する横断方向)の剛性k
y、k
zに対してごく小さい割合にすることができる。この関係では、一例として、k
yまたはk
z:k
xは100〜500にすることができる。
【0027】
他の好適例では、第1及び/または第2弾性要素がモノリシック材料で形成される。こうした材料の場合、その剛性及び/または弾性係数を非常に精密に選択、決定、及び/または調整することができることが有利である。
【0028】
他の好適例によれば、上記アクチュエータが、光学素子及び担持要素に作用する同じ大きさで反対向きの力を発生するように設計されている。従って、上記アクチュエータは、専ら、光学素子と担持要素との間のフォースロック(強制的にロックされる)係合を生成することが好ましい。
【0029】
他の好適例によれば、上記アクチュエータが、光学素子と反作用質量体とを互いに非接触で結合するように設計されている。即ち、光学素子と反作用質量体との間に直接的な機械的接続は存在しない。特に、アクチュエータとして使用されるローレンツ力モーターの磁石とコイルとの間に機械的接続が存在しない。従って、光学素子と反作用質量体との間に完全な動的非連成が存在する。
【0030】
他の好適例によれば、上記アクチュエータがローレンツ力モーターである。「ローレンツ力モーター」とは、磁界または電界中の電荷を移動させることによって異なる要素に対する力を発生するようなモーターを意味するものと理解するべきである。一例として、ローレンツ力モーターは電気コイルを割り当てられた磁石と共に具えることができる。
【0031】
他の好適例によれば、上記システムが、担持要素に対する光学素子の位置を検出するためのセンサ、及び検出した位置に応じてアクチュエータを制御するように設計された制御装置をさらに具えている。従って、この制御装置は、この場合閉ループ制御を実行する。この制御装置は、さらに、光学素子の位置を、他のセンサを用いて検出したパラメータに応じて制御することができる。これらのパラメータは、例えば測定した像歪み、測定した焦点誤差、及び/または測定したオーバーレイ・オフセット(重ね合わせのずれ)を含むことができる。
【0032】
他の好適例によれば、反作用質量体及び/または光学素子が、その質量を調整する目的で表面処理され、及び/または、第1及び/または第2弾性要素が、その剛性を調整する目的で表面処理されている。その結果、質量m
1、m
2、または剛性k
1、k
2を単純な方法で正確に設定することができる。特に、上記所望の比率を実現するためには、これらの剛性(特に、さらには、その一方だけ)、またはこれらの質量(特に、さらにはその一方だけ)を設定すれば十分である。反応質量体の質量及び/または光学素子の質量は、例えば既知の金属処理プロセス、例えばフライス加工または研削によって実現することができる。
【0033】
他の好適例によれば、上記表面処理をエッチングまたはレーザー加工によって行う。これらの方法は、所定の質量を除去するのに特に適している。これらの方法は、主に第1及び/または第2弾性要素に、特に曲がりバネまたはねじりバネとしての好適例において適用することができる。
【0034】
他の好適例によれば、上記光学素子がミラー及び/またはレンズ素子、特にアルバレスレンズ素子の片方である。ミラーとは、本発明の場合、反射光学装置全般を意味するものと理解するべきであり、レンズ素子とは、屈折光学装置全般を意味するものと理解するべきである。光学素子は、反射屈折(カタディオプトリック)系として提供することもできる。ミラーは、非常に短い波長を有する光に特によく適している。アルバレスレンズ素子とは、各々が平面及び曲面を有する2枚の透過屈折プレート(平板)を意味するものと理解するべきである。これら2つの曲面は、互いの反対側を形成するように具体化される。従って、2枚のプレートまたは2個の片方は、それぞれの頂点が光軸上に配置されるような方法で配置されている場合に、導入される位相差が互いに相殺し合う。その際に、上記2枚のプレートまたは2個の片方が互いに対して横方向に変位すれば、上記曲面の表面形状の差分に等しい位相差が導入される。
【0035】
他の好適例によれば、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第1減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性、及び/または第2減衰要素の減衰が、動作中に調整可能である。特に、上記のパラメータは、特に基板の露光中にリアルタイムで変更することができることが好ましい。第1及び第2弾性要素、及び第1及び第2減衰要素も、受動的な機械部品とすることができる。その代わりに、これらの受動的な機械部品を能動的な懸架装置に置き換えることができる。後者では、電気機械的アクチュエータの閉ループ制御を実行して、上記剛性及び/または減衰をシミュレート(模擬)することができる。こうした能動系の利点は、上記剛性及び/または減衰を、制御アルゴリズムの単なる変更によって変化させることができることにある。
【0036】
さらに、リソグラフィー装置用の振動補償光学系を提案し、この振動補償光学系は、光学素子、担持要素、光学素子を担持要素に対して駆動するためのアクチュエータ、光学素子を担持要素に特に直接結合する第1弾性要素、反作用質量体、及び反作用質量体を担持要素に特に直接結合する第2弾性要素を具え、アクチュエータは光学素子を反作用質量体に結合し、上記駆動により生じて担持要素に作用する力は0に等しい。
【0037】
「0に等しい」とは、担持要素に対する合力が、アクチュエータによる光学素子の駆動により生じる反作用力に対して無視できるほど小さいことを意味する。即ち、この合力は、リソグラフィー装置内で進行するリソグラフィー方法に対して悪影響を与えないような大きさである。特に、「担持要素に対する合力」対「アクチュエータの反
作用力」の比率は1:10未満であり、1:100未満であることが好まし、1:1000未満であることがより好ましい。
【0038】
他の好適例によれば、上記システムが、光学素子を担持要素に結合する第1減衰要素、または反作用質量体を担持要素に結合する第2減衰要素をさらに具えている。光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第1
減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性、及び第2
減衰要素の減衰は、上記駆動により生じて担持要素に作用する力が0に等しくなるように選定する。
【0039】
従って、質量、剛性及び減衰といったパラメータは、上記駆動により生じる力が0に等しくなるように設定することが有利である。
【0040】
他の好適例によれば、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、反作用質量体の質量、及び第2弾性素子の剛性について次式が成り立つ:
【数6】
【0041】
他の好適例によれば、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第1減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性、及び第2減衰要素の減衰について次式が成り立つ:
【数7】
【0042】
さらに、上述した振動補償光学系を具えたリソグラフィー装置を提供する。
【0043】
他の好適例によれば、上記アクチュエータが、基板の露光中に光学素子を駆動するように設計されている。このことは特にリアルタイムで実行することができる。この露光は、導入部で説明した「ステッパ」原理または「ステップ・アンド・スキャン」原理による露光とすることができる。
【0044】
他の好適例によれば、上記リソグラフィー装置が、ビーム整形装置、照明装置、フォトマスク、及び/または投影装置をさらに具え、これらの照明装置、フォトマスク、及び/または投影装置は、上記振動補償光学系を具えている。複数の振動補償光学系を設けることもできる。
【0045】
さらに、特に前の態様のいずれかによる、リソグラフィー装置用の振動補償光学系を製造する方法を提供する。この振動補償光学系は、光学素子、担持要素、光学素子を担持要素に特に直接結合する第1弾性要素、反作用質量体、光学素子を担持素子に対して駆動するためのアクチュエータ、及び反作用質量体を担持要素に特に直接結合する第2弾性要素を具え、上記アクチュエータは光学素子を反作用質量体に結合し、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、反作用質量体の質量、及び/または第2弾性要素の剛性は、次式が成り立つように選定する:
【数8】
【0046】
従って、換言すれば、上記のパラメータのうち少なくとも1つを、上述した比率が実現されるように調整する。このことは、特に、上記駆動により生じて担持要素に作用する力が実質的に0に等しくなる、という効果を有する。
【0047】
他の好適例によれば、上記システムが、光学素子を担持要素に結合する第1減衰要素、及び反作用質量体を担持要素に結合する第2減衰要素をさらに具え、光学素子の質量、第1弾性素子の剛性、第1減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性は、次式が成り立つように選定する:
【数9】
【0048】
従って、上記減衰は、担持要素に作用する力と上記駆動により生じる力とが互いに相殺し合うように選定することもできる。
【0049】
他の好適例によれば、まず、第1及び/または第2弾性減衰要素の減衰を決定、選択または調整し、この減衰に応じて、反作用質量体及び/または光学素子の質量、及び/または、第1及び/または第2弾性要素の剛性を調整する。結果的に、これらの質量及び/または剛性を減衰に合わせて調整することができ、このことは方法技術の意味でより単純に実現することができる。
【0050】
他の好適例によれば、まず、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第2弾性要素の剛性、及び反作用質量体の質量から成るグループから選択したパラメータである、4つのパラメータのうちの3つのパラメータを選択または決定し、これら3つのパラメータにより、次式:
【数10】
が成り立つように第4のパラメータを選択または調整する。
【0051】
その結果、振動補償光学系を単純な方法で製造することができる。
【0052】
他の態様によれば、上記4番目のパラメータが反作用質量体の質量である。後者は、特に単純な方法で調整することができる。
【0053】
他の好適例によれば、反作用質量体及び/または光学素子が、その質量を調整する目的で表面処理され、及び/または、第1及び第2弾性要素がその剛性を調整する目的で表面処理されている。
【0054】
他の好適例によれば、この表面処理がエッチングまたはレーザー加工を含む。
【0055】
さらに、リソグラフィー装置用の振動補償光学系、特に上述した振動補償光学系を製造する方法を提供し、この振動補償光学系は、光学素子、担持要素、光学素子を担持要素に特に直接結合する第1弾性要素、反作用質量体、光学素子を担持要素に対して駆動するためのアクチュエータ、及び反作用質量体を担持要素に特に直接結合する第2弾性要素を具え、上記アクチュエータは光学素子を反応性質量体に結合し、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、反作用質量体の質量、及び/または第2弾性要素の剛性は、上記駆動により生じて担持素子に作用する力が0に等しくなるように選定する。
【0056】
他の好適例によれば、上記システムが、光学素子を担持要素に結合する第1減衰要素、及び反作用質量体を担持要素に結合する第2減衰要素を具え、光学素子の質量、第1弾性要素の剛性、第1減衰要素の減衰、反作用質量体の質量、第2弾性要素の剛性、及び第2減衰要素の減衰は、上記駆動により生じて担持要素に作用する力が0に等しくなるように選定する。
【0057】
本発明の場合に、振動補償光学系について説明した特徴はリソグラフィー装置及び方法にも相応に適用可能であり、その逆も成り立つ。
【0058】
さらなる好適例は、添付した図面を参照しながら説明する。