特許第6336957号(P6336957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6336957-乳癌の判定法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6336957
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】乳癌の判定法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20180528BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20180528BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   G01N33/574 B
   C07K14/47
   C07K16/18
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-502887(P2015-502887)
(86)(22)【出願日】2014年2月20日
(86)【国際出願番号】JP2014053991
(87)【国際公開番号】WO2014132869
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2017年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-35521(P2013-35521)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000252300
【氏名又は名称】富士フイルム和光純薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(72)【発明者】
【氏名】松浦 脩治
(72)【発明者】
【氏名】松浦 成昭
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 智之
(72)【発明者】
【氏名】黒野 定
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/036094(WO,A1)
【文献】 特開2012−145500(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007797(WO,A1)
【文献】 特開2005−069846(JP,A)
【文献】 特表2010−522545(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/083338(WO,A1)
【文献】 特表2010−534318(JP,A)
【文献】 Hale LP, Price DT, Sanchez LM, Demark-Wahnefried W, Madden JF.,Zinc alpha-2-glycoprotein is expressed by malignant prostatic epithelium and may serve as a potentia,Clin Cancer Res.,2001年 4月,Vol.7,No.4,Page.846-853
【文献】 Todorov PT, McDevitt TM, Meyer DJ, Ueyama H, Ohkubo I, Tisdale MJ.,Purification and characterization of a tumor lipid-mobilizing factor.,Cancer Res.,1998年 6月,Vol.58,No.11,Page.2353-2358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコシル化ホルネリンである乳癌マーカー。
【請求項2】
乳癌の存否を判定するためのデ−タを得るために,乳頭分泌液中の請求項1に記載の乳癌マーカーを検出することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な乳癌マーカー、及びそれを検出し、その結果に基づいて乳癌を判定(診断・検査)する方法、及び該判定のために用いられるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乳癌の診断方法として、体液,血液等の試料中の乳癌マーカーを検出することによる診断、又はマンモグラフィーによる診断が行われている。
【0003】
乳癌マーカーを検出することにより乳癌を診断する方法では、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen、CEA)をマーカーとして、試料中の該マーカーの量を診断キット等を用いて測定し、その結果に基づいて乳癌を診断している。しかし、この方法は乳癌特異性を示す確度が乏しいため、実用的な乳癌確定診断とはなっていない。
【0004】
また、特開2002−131322号公報(特許文献1)には、被検者の乳管液を試料として用い、乳管液中の成分を検出することにより乳癌または乳房前癌を有する患者を同定する方法が開示されている。しかしながら、該文献は細胞外マトリックスタンパク質やアポリポタンパク質を含む多数のマーカー候補を記載しているものの、単にマーカー候補を羅列しているのみで、乳癌患者乳管液中の成分分析を行っていない。そのため、特許文献1の開示内容からは、列挙された多数のマーカーが乳癌マーカーとして本当に有用であるか否かは不明である。
【0005】
また、特表2008−502891号公報(特許文献2)には、乳癌患者の組織片をLC−ESI−MS/MS(液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化−タンデム質量分析)で分析し、PDX1(ペルオキシレドキシン1)を乳癌マーカー候補として選択したこと、及び乳癌患者の血清中のPDX1を検出したことを記載している。また、PDX1と他のマーカーとの併用により乳癌を診断することを示唆する記載がある。しかしながら、これらのマーカーが乳癌に特異的であることを示す証拠、例えば非乳癌者由来試料中のこれらのマーカーの測定結果等を開示していない。そのため、PDX1が乳癌マーカーとして有用であるか否か、及び他のマーカーとの組み合わせが乳癌の診断に用いることができるか否かについては確認できていない。
【0006】
また、マンモグラフィーを用いる乳癌の診断方法は、検査の受診者(被検者)の精神的及び肉体的苦痛が少なくない。また、乳腺密度が高い若年層の撮像は困難なため、やはり確度の高い乳癌診断技術とはなっていない。
【0007】
そのほか、近年バイオマーカー(タンパク質・ペプチド、脂質、糖鎖等)の探索に関する研究が盛んに行われるようになり、特に疾患と関連して各種体液を用いたプロテオミクス等の網羅的解析研究が盛んに行われている。これらの解析により、生体から得られる微量試料の高感度かつ正確な分析を行うことができる。そこで、プロテオミクスを用いた乳癌マーカーの研究も行われていることが、F. Mannello et al. Expert Rev. Proteomics 6, 43−60 (2009)(非特許文献1)に紹介されている。しかし、未だ乳癌マーカーとして乳癌診断確度の高い乳癌マーカーは見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−131322号公報
【特許文献2】特表2008−502891号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】F. Mannello et al. Expert Rev. Proteomics 6, 43−60 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の乳癌診断方法には以上のような問題があるため、乳癌検診率が向上せず、早期乳癌及び乳癌の診断が遅れ、その結果、乳癌罹患率及び乳癌死亡率の低減を阻む結果を生じており、大きな社会問題となっている。これらの問題を解消するため、より低侵襲で且つ確度の高い乳癌マーカーを乳癌診断の指標とする新しい乳癌診断技術の開発が待たれている。
【0011】
本発明の課題は、乳癌の検出に有用な新規な乳癌マーカー、及び該乳癌マーカーを検出することによる、確度の高い、新規な乳癌の判定法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記したごとき課題を解決する目的でなされたものであり、以下の構成よりなる。
(1)フコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンからなる群から選択される乳癌マーカー。
(2)試料中のフコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンからなる群から任意に選択される1つ以上の乳癌マーカーを検出し、その結果に基づいて判定する、乳癌の判定法。
(3)フコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンからなる群から選択される乳癌マーカーを検出する試薬を含む、乳癌を判定するために乳癌マーカーを検出するためのキット。
【0013】
細胞が癌化するとその糖タンパク質の糖鎖にフコースが付加(フコシル化)する等の糖鎖構造の変異が見られることが知られている。
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決した、乳癌診断の確度の高い乳癌マーカー及びそれを用いた乳癌の判定法を確立すべく鋭意研究の途上、乳癌発症部位である乳管内の情報を直接得ることができる乳頭分泌液(Nipple discharge, ND)を試料とし、該試料中に糖鎖がフコシル化している糖タンパク質をレクチンアフィニティ液体クロマトグラフィー(以下、「液体クロマトグラフィー」を「LC」と略記する。)により分離し、次いで最新の二次元液体クロマトグラフィー(LC)/質量分析(MS)システムであるナノLC−ESI−MS/MSによるプロテオミクスを応用することにより、多数の成分を含む乳頭分泌液中の成分を分析した。そして、乳癌患者由来乳頭分泌液と非乳癌者由来乳頭分泌液を試料として用い、ナノLC−ESI−MS/MSを行った結果を比較することにより、乳癌マーカーとして有望と推測される新たなマーカーを選別した。そして、これらのマーカーを指標として用いれば、乳癌を確度よく判定することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0015】
本発明の乳癌マーカーを利用した判定法はより確度の高い乳癌の判定(診断、検査)を可能とする。また、本発明の乳癌マーカーは、例えば乳頭分泌液中に見出されるため、非侵襲的且つ簡便に乳癌を判定(診断、検査)することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1において得られた、乳癌患者及び非乳癌者由来試料中の各タンパク質成分を検出した結果をもとに、フコシル化ホルネリンの測定結果を統計解析した結果を示す。図中の※は統計解析の際の上側外れ値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の乳癌マーカーとしては、その糖鎖がフコースで修飾されたフコシル化糖鎖を有する、フコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンからなる群から選択される乳癌マーカー(以下、これらをまとめて「本発明の乳癌マーカー」と記載する場合がある。)が挙げられる。
【0018】
フコシル化糖鎖におけるフコースの修飾数、修飾場所、糖鎖の構造等は特に限定されない。またフコシル化に係るフコースはL−フコースまたはD−フコースのいずれであってもよい。フコシル化の結合様式も限定されず、例えば、α1,2結合、α1,3結合、α1,4結合、またはα1,6結合等が挙げられる。
【0019】
これらのタンパク質自体は既に公知のものであるが、これらの糖タンパク質の糖鎖がフコースにより修飾されたフコシル化糖タンパク質が乳癌を判定する指標(乳癌マーカー)として有用であることは、本発明者らによって初めて明らかになった。
【0020】
本発明の乳癌の判定を行うためのデータを得る方法とは、「試料中のフコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンからなる群から任意に選択される1つ以上の乳癌マーカーを検出する、乳癌の判定を行うためのデータを得る方法。」である。
【0021】
そのために行う本発明の各乳癌マーカーを検出する方法としては、本発明の各乳癌マーカーの各成分を検出・測定する常法が挙げられる。それに用いられる本発明の乳癌マーカーを検出する試薬としては、当該本発明の乳癌マーカーの各成分を検出・測定する常法に用いられる試薬であればよい。
【0022】
本発明の乳癌マーカーを検出する方法の例としては、例えば本発明の乳癌マーカーに対する親和性を有する物質(例えば、抗体、レクチン、タンパク質、各種受容体、各種リガンド等)を用いた、いわゆる酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、簡易イムノクロマトグラフィーによる測定法、等の自体公知の免疫学的測定法に準じた方法の他、これらと高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、キャピラリーチップ電気泳動法等の組み合わせによる方法等が挙げられる。その測定原理としては、例えばサンドイッチ法、競合法、二抗体法等が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
また、例えば、免疫比ろう法、免疫比濁法等の免疫凝集法に準じた測定法で、本発明の乳癌マーカーを検出してもよい。これらの検出方法も、自体公知の方法に準じて行えばよい。
【0024】
本発明の乳癌マーカーを検出するために用いられる抗体は、フコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、又はフコシル化デスモプラキンを特異的に認識する抗体であればよい。また、このような性質を持つものであれば、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよく、これらを単独であるいはこれらを適宜組み合わせて用いる等は任意である。また、これら抗体は、要すればペプシン,パパイン等の酵素を用いて消化してF(ab')2、Fab'、或はFabとして使用してもよい。更に、本発明の乳癌マーカーに対する、市販の抗体を用いることもできる。
【0025】
また、被検試料を、後記するようなフコース残基に親和性のあるレクチン等を用いたアフィニティLC、レクチン電気泳動等に付し、常法により被検試料中のフコシル化糖鎖を有する糖タンパク質を分離後、ホルネリン、Zn−α-2-グリコタンパク質、Ig γ-1鎖C領域、又はデスモプラキンを検出する通常の検出方法を実施する方法でも、本発明の乳癌マーカーを検出することができる。
【0026】
但し、フコシル化ホルネリン、フコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、又はフコシル化デスモプラキンを特異的に認識する抗体を用いれば、フコシル化タンパク質を分離する工程とフコシル化糖タンパク質を検出する工程等の複数の工程を経ることなく、本発明の乳癌マーカーをより簡便に検出することができる。
【0027】
上記した本発明の乳癌マーカーを検出するために用いられる、試薬及びその検出時の濃度、検出を実施するに際しての測定条件等(反応温度、反応時間、反応時のpH,測定波長、測定装置等)は、すべて自体公知の上記した如き免疫学的測定法の測定操作法に準じて設定すれば良く、使用する自動分析装置、分光光度系等も通常この分野で使用されているものは何れも例外なく使用し得る。
【0028】
上記した本発明の乳癌マーカーの検出に用いられるこれら試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等であって、共存する試薬等の安定性を阻害したりせず、本発明の乳癌マーカーと本発明の乳癌マーカーに対する抗体等との反応を阻害しないものが含まれていてもよい。また、その濃度も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0029】
また、本発明の乳癌マーカーを2種以上、組み合わせて検出してもよい。その組み合わせは、本発明の乳癌マーカーから任意に2種以上組み合わせればよく、特に限定されない。
【0030】
更に、本発明の乳癌マーカー1種以上と、本発明の乳癌マーカー以外の乳癌マーカー1種以上との任意の組み合わせであってもよい。
【0031】
尚、本発明の乳癌マーカーの検出は、用手法に限らず、自動分析装置を用いた測定系で行ってもよい。用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類等の組み合わせ等については、特に制約はなく、適用する自動分析装置の環境、機種に合わせて、或いは、他の要因を考慮にいれて最も良いと思われる試薬類等の組み合わせを適宜選択して用いれば良い。
【0032】
更に、本発明の乳癌マーカーは、いわゆるレクチンカラムを用いたアフィニティLCを行って、検出対象の糖鎖がフコシル化したフコシル化糖タンパク質を分離・分取した後、ナノLC−ESI−MS/MSによるタンパク質網羅解析を行って、検出してもよい。ナノLC−ESI−MS/MSは、分離手段としてナノ液体クロマトグラフを用い、数百nL/minという低流速で送液し、多数の成分からなる試料について液体クロマトグラフで試料中の成分を分離した後、オンラインでエレクトロスプレーイオン化法による質量分析を行い、それにより特定された質量成分について、更にもう一度衝突誘起解離を用いて質量分析を行う方法である。この分析方法は、一度質量分析を行った後、特定質量成分だけを再度質量分析に付し、更に得られたフラグメントパターンを解析するので、より詳細な解析が行える。
【0033】
本発明において、レクチンカラムを用いたアフィニティLCに用いられるレクチンとしては、フコース残基に親和性のある、例えばヒイロチャワンタケレクチン(Aleuria aurantia Lectin, AAL)やレンズマメレクチン(Lens culinaris agglutinin, LCA)等が知られている。AALやLCAはフコース残基に親和性があることが知られているので、AALやLCAのアフィニティLCを行えば、フコシル化した糖タンパク質を分離することが出来る。レクチンアフィニティLCは、フコシル化した糖タンパク質が分取できるような条件で、常法により実施すればよい。例えば移動相は数百μL/minの流速で送液し、例えばBis-Tris pH6水溶液を用いてフコシル化した糖タンパク質をカラムに吸着させた後、約20mMのL-フコース水溶液を用いてカラムに吸着したフコシル化糖タンパク質をカラムから脱離させ、280nmの波長の紫外線を用いた紫外吸収法により検出されたタンパク質画分を分取すればよい。
なお、AALは分子量約 36 kDa の二つのサブユニットから成る二量体を形成しており、N−アセチルグルコサミン (GlcNAc) に α-1,6 結合したフコースや,GlcNAc に α-1,3 結合したフコースに結合特異性を有するレクチンである。
【0034】
次いで、分取した画分中のフコシル化糖タンパク質をトリプシン等の酵素で消化した後、ナノLC−ESI−MS/MSに導入する。
【0035】
本発明の乳癌マーカーをナノLC−ESI−MS/MSで検出する場合、例えば上記ナノLC−ESI−MS/MSのLC部分をpHの異なる二つの分離システムを用いて、二次元ナノLC−ESI−MS/MSによるタンパク質網羅解析を行って検出すればよい。
【0036】
二次元ナノLC−ESI−MS/MSにより本発明の乳癌マーカーを検出する方法の具体的な例は、以下の通りである。
【0037】
一次元目の液体クロマトグラフとして例えば逆相カラムを用い、移動相は例えば約20mMのギ酸アンモニウム水溶液や約70mMのトリエチルアミン水溶液等の塩基性溶液(pH9〜10)と、アセトニトリルとし、数μL/min(好ましくは5〜500μL/min)という低流速で送液し、試料中の成分を分離し、例えば1〜10分間間隔程度の一定時間間隔で、数十画分を分取する。次いで、分取した各画分中の溶媒を蒸発させた後、各画分に0.1%トリフルオロ酢酸水溶液を加え、分離した成分を溶解させる。
【0038】
次に、得られた各画分溶液の各全量をそれぞれ二次元目の液体クロマトグラフに付し、以下の方法で分離する。すなわち、上記の各画分の溶液の各全量を、それぞれ逆相クロマトグラフカラムにアプライし、移動相は例えば0.1%ギ酸水溶液等の酸性溶液(pH2〜3)と、アセトニトリル/0.1%ギ酸とし、数十〜百nL/min(好ましくは50〜500nL/min)という低流速で送液し、各画分中の多数の成分を分離し、オンラインでESI−MS/MSを行う。
【0039】
二次元ナノLC−ESI−MS/MSを用いて行った解析は、単次元のナノLC−ESI−MS/MSよりもより分離能が向上するため、更に網羅的なタンパク質解析が可能となる。内部標準物質等を用いて測定することによって、定量解析も可能である。
【0040】
本発明の乳癌の判定法は、「本発明の乳癌マーカーを検出し、その結果に基づいて判定する、乳癌の判定法」である。すなわち、以上の方法により本発明の乳癌マーカーを検出し、その結果を基に、本発明の乳癌マーカーを指標として乳癌を判定するための、データ(例えば存在の有無、濃度、量の増加の程度等の情報)を得る。得られたデータを用いて、例えば下記の方法で、乳癌の判定(診断・検査)を行う。
【0041】
すなわち、例えば、被験者由来試料中の本発明の乳癌マーカーを検出し、当該乳癌マーカーが検出されたとの検査結果から、被験者に乳癌のおそれがある、又は乳癌のおそれが高い等の判定が可能である。又は当該乳癌マーカーが検出されなかった場合には、被験者に乳癌のおそれがない、又は乳癌のおそれが低い等の判定が可能である。
【0042】
他の方法としては、まず上記の方法によって試料中に本発明の乳癌マーカーが含まれる量を決定する。次いでその結果を予め別試料として非乳癌者由来の試料を用いて同様に行った結果と比較し、被験者由来試料中に当該乳癌マーカーが含まれる量が、非乳癌者由来試料中に含まれるその量より多いとの検査結果から、被験者に乳癌のおそれがある、又は乳癌のおそれが高い等の判定が可能である。又は、被験者由来試料中に当該乳癌マーカーが含まれる量と、非乳癌者由来試料中に含まれるその量との間に顕著な差が認められないという検査結果から、被験者に乳癌のおそれはない、又は乳癌のおそれが低い等の判定が可能である。
【0043】
また、予め基準値を設定しておき、本発明の乳癌マーカーの量がその乳癌マーカーの基準値より多いという検査結果から、被験者に乳癌のおそれがある又は被験者に乳癌のおそれが高い等の判定が可能である。また、当該乳癌マーカーの量又はその量的範囲に対応させて複数の判定区分を設定し[例えば(1)乳癌のおそれはない、(2)乳癌のおそれは低い、(3)乳癌の兆候がある、(4)乳癌のおそれが高い、等]、検査結果がどの判定区分にはいるかを判定することも可能である。
【0044】
更にまた、同一被験者において、ある時点で測定された被験者由来試料中の本発明の乳癌マーカーの量と、異なる時点での当該乳癌マーカーの量とを比較し、当該乳癌マーカーの量の増減の有無及び/又は増減の程度を評価することによって、乳癌の進行度や悪性度の診断、あるいは術後の予後診断が可能である。すなわち、当該乳癌マーカーの量の増加が認められたという検査結果から、乳癌へ病態が進行した(あるいは乳癌の悪性度が増した)、又は乳癌への病態の進行の兆候が認められる(あるいは乳癌の悪性度が増す兆候が認められる)との判定が行える。また、被験者由来試料中の当該乳癌マーカーの量の減少が認められたという検査結果から、乳癌の病態が改善した、又は乳癌の病態の改善の兆候が認められるとの判定ができる。また、当該乳癌マーカーの量の変動が認められないという検査結果から、病態に変化はないとの判定が可能である。
【0045】
更に、本発明の乳癌マーカーを2つ以上検出・測定し、その結果を基に乳癌の判定を行う方法も挙げられる。例えば、本発明の乳癌マーカーを単独或いは2種以上組み合わせて検出することで、乳癌患者に特徴的な本発明の乳癌マーカーの存在パターンが得られる。そこで、被験者の乳頭分泌液等の試料から本発明の乳癌マーカーを検出・同定し、これら複数の乳癌マーカーの存在パターン解析をすることにより、被験者が乳癌を発症しているか否かの推定が可能となる。
【0046】
2つ以上の乳癌マーカーの組み合わせは、本発明の乳癌マーカーからなる群から任意に選択すればよい。
【0047】
また、本発明の乳癌マーカー1種以上と本発明の乳癌マーカー以外の乳癌マーカー1種以上との任意の組み合わせを用いて本発明の検出を行ってもよい。この場合は、それぞれの乳癌マーカーを検出・測定し、上記と同様の方法で乳癌の判定を行えばよい。
【0048】
本発明の乳癌マーカーを検出するために用いられる試料としては、被検者の乳頭分泌液、又は血液(全血),血清,血漿,尿,リンパ等の生体由来試料等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0049】
乳頭分泌液としては、被験者の片側あるいは両側の乳房から、自然に分泌される乳頭分泌液、乳房のマッサージによって滲出する分泌液、乳頭吸引液等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
試料として乳頭分泌液を使用すれば、被験者に対して非侵襲的に試料を採取することができるので、患者の負担が遙かに少ない点で、優れている。
【0051】
本発明の「乳癌の判定を行うために乳癌マーカーを検出するためのキット」は、本発明の乳癌マーカーを検出する試薬を構成要件として含むものである。
【0052】
「本発明の乳癌マーカーを検出する試薬」及びその構成要件の好ましい態様と具体例は、上記の本発明の乳癌の判定を行うためのデータを得る方法に関する説明において記載した通りである。また、これら試薬の濃度等の好ましい態様も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0053】
例えば、本発明の乳癌マーカーを検出する試薬の例として、本発明の乳癌マーカーに親和性を有する物質を含むものが挙げられる。また、本発明の乳癌マーカーに親和性を有する物質の例としては、例えば抗体やレクチン等が挙げられ、その具体例は、上記の乳癌の判定を行うためのデータを得る方法に関する説明において記載した通りである。
【0054】
該キットは、一種類の乳癌マーカーを検出する試薬又はキットを構成要件とするものであっても、複数の乳癌マーカーを検出する、複数の試薬又はキットの組み合わせからなるものであってもよい。
【0055】
また、これらキットに含まれる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えば緩衝剤、反応促進剤、糖類、タンパク質、塩類、界面活性剤等の安定化剤、防腐剤等であって、共存する試薬等の安定性を阻害したりせず、本発明の乳癌マーカーと抗体(又はレクチン等)との反応を阻害しないものが含まれていてもよい。またその濃度も、通常この分野で通常用いられる濃度範囲から適宜選択すればよい。
【0056】
さらに、当該乳癌マーカーを検出する際に用いられる、検量線作成用の乳癌マーカーの標準を組み合わせたキットとしてもよい。該標準は、市販の標準品を用いても、公知の方法に従って、製造されたものを用いても構わない。
さらにまた本発明のキットには、本発明の乳癌の判定を行うためのデータを得る方法、又は乳癌の判定法での使用のための説明書等を含ませておいても良い。当該「説明書」とは、当該方法における特徴・原理・操作手順、判定手順等が文章又は図表等により実質的に記載されている当該キットの取扱説明書、添付文書、あるいはパンフレット(リーフレット)等を意味する。
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1 乳癌のマーカーの選別
(1)AAL(Aleuria aurantia Lectin、ヒイロチャワンタケレクチン)を用いたレクチンアフィニティLCに導入される試料の前処理
乳癌患者(10名)から採取したそれぞれの乳頭分泌液(数μL)を、100μL のサンプル保存液(50 mM 炭酸水素アンモニウムと0.02% アジ化ナトリウムを含有する水溶液)に加え、4℃、5分間、18,000 x g で遠心した。上澄みを分取後その内5μLをAAL Adsorption buffer (GALAB Technologies, Geesthacht, Germany) を用いて20倍に希釈し、得られた測定試料100μLを以下の方法でAALアフィニティLC測定に付した。
【0059】
別に、乳頭から分泌液が分泌されることを不定愁訴として訴える受診者(被験者)であって乳癌ではないと診断された非乳癌者(10名)から採取した乳頭分泌液を、上記と同様に処理した。
【0060】
(2)AALを用いたレクチンアフィニティLC測定
上記(1)で得られた測定試料を、Affisep-AAL Affinity column(4mm i.d. x 5 cm) (GALAB Technologies, Geesthacht, Germany) を装着したHPLC装置 (1200 series, Agilent Technologies, Morges, Switzerland) に注入した。移動相A、及びBは各々 AAL Adsorption bufferとAAL Elution buffer (GALAB Technologies, Geesthacht, Germany) を用いた。試料中のAAL非結合性タンパク質とAAL結合性タンパク質の分離を目的として、流速は250μL/min、50分のステップワイズで分離し、AAL非結合画分(0分から6分)、AAL結合画分(22分から38分)をそれぞれ分取した。
【0061】
AALアフィニティLC測定の各条件は以下の通りである。
HPLCカラム:Affisep-AAL Affinity column, 4mm i.d. x 5 cm(GALAB Technologies 製)
流速:250μL/分
A 溶媒:AAL Adsorption buffer (GALAB Technologies 製)
B 溶媒:AAL Elution buffer (GALAB Technologies 製)
溶出: 0 分→20 分:0% B 溶媒、
20 分→35 分:100% B 溶媒、
35 分→50 分:0% B 溶媒で平衡化。
カラム温度:20 ℃
注入量:100μL
【0062】
(3)二次元ナノLCの一次元目のマイクロLCに導入される試料の前処理
上記(2)のAALアフィニティLCより分取されたAAL結合画分をAmicon Ultra 3K (Millipore Corporation, Billerica, MA, USA) を用いて限外濾過 (7,500 x g, 40分) を行い、さらに、50mM炭酸水素アンモニウムを1mL加え溶媒置換 (7,500 x g, 40分) を行った後、280nmの波長の紫外線を用いた紫外吸収法によりタンパク質濃度を求めた。溶媒置換された約100μLの試料に45mM ジチオトレイトール水溶液を 1μL 加えて還元し、タンパク質を変性させるためトリフルオロエタノールを 50% になるよう加え、60 ℃、1時間加熱した。加熱後室温に戻し、100 mM のヨードアセトアミド水溶液を 1μL 加えて室温暗環境下において1時間アルキル化を行った。次いで、トリフルオロエタノールの割合が 5%になるように50 mM 炭酸水素アンモニウム水溶液を加えて調製した。次いでタンパク質重量の 1/20量のトリプシン量となるように100ng/μLに調製したトリプシン(マススペクトロメトリーグレード、Promega Corporation, Madison, WI, USA)溶液を加え、37 ℃ で一晩インキュベートした。得られたトリプシン消化産物を Bovine serum albumin 換算で約 250 fmol/μLに調製し、以下の方法で二次元ナノLC−ESI−MS/MS測定を行った。
【0063】
(4)二次元ナノLC−ESI−MS/MS測定
上記(3)で得られたトリプシン消化産物のうち40μLを、二次元 Nano HPLC system (UltiMate 3000; Thermo Fisher Scientific Inc. (Dionex), Waltham, MA, USA) に装着した Acclaim PA2, 300μm i.d. x 15 cm 逆相カラム (Thermo Fisher Scientific Inc. (Dionex), Waltham, MA, USA) を用いて A 溶媒 20 mM ギ酸アンモニウム水溶液, pH 10.0、B 溶媒 アセトニトリルを用い、75分のグラジエント(12〜95% の B 溶媒)で分離し 26 個の画分を得た。それらの画分を 70 ℃ で4時間加熱して溶媒を蒸発させた。次いで各々の画分に 0.1% トリフルオロ酢酸水溶液を 30μL 加えて、分離した成分を溶解させた。次いで、得られた各画分溶液の各全量を、それぞれ L−column Micro L2−C18, 75μm i.d. x 15 cm 逆相カラム((財)化学物質評価研究機構製)を用いて A 溶媒 0.1% ギ酸水溶液、B 溶媒 アセトニトリル/0.1% ギ酸を用い、45分のグラジエント(2〜95% の B 溶媒)で分離し、連続的にナノESIイオン源を装着したESI−イオントラップ型質量分析計 (HCTultra; Bruker Daltonik GmbH, Bremen, Germany)でデータ依存的スキャンを用いてオンライン分析した。各試料について、2回のランを行った。
【0064】
二次元ナノLC−ESI−MS/MS分析の各条件は以下の通りである。
i)LC 条件
(一次元目)
HPLCカラム:Acclaim PA2, 300μm i.d. x 15 cm 逆相カラム (Thermo Fisher Scientific Inc. (Dionex) 製)
流速:6.0μL/分
A 溶媒:20 mM ギ酸アンモニウム水溶液, pH 10.0
B 溶媒:アセトニトリル
溶出: 0 分→19 分:12% から 20% B 溶媒までリニアグラジエント、
19 分→29 分:48% B 溶媒までリニアグラジエント、
29 分→34 分:95% B 溶媒で洗浄、
34 分→75 分:2% B 溶媒で平衡化。
(なお、溶出開始後すぐにB溶媒の濃度を上げたので、溶出開始後ほとんど
0分で、溶出液のB溶媒の濃度は12%になっている。)
カラム温度:35 ℃
注入量:40μL
分画数:26
【0065】
(二次元目)
HPLCカラム:L−column Micro L2−C18, 75μm i.d. x 15 cm 逆相カラム
((財)化学物質評価研究機構製)
流速:300 nL/分
A 溶媒:0.1% ギ酸水溶液, pH 2.0
B 溶媒:アセトニトリル/0.1% ギ酸
溶出: 0 分→ 1 分:8% B 溶媒までリニアグラジエント、
1 分→20 分:20% B 溶媒までリニアグラジエント、
20 分→25 分:35% B 溶媒までリニアグラジエント、
25 分→30 分:95% B 溶媒で洗浄、
30 分→45 分:2% B 溶媒で平衡化。
カラム温度:室温
注入量:30μL
【0066】
ii)ESI−MS/MS 条件
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法 (electrospray ionization 法、ESI 法)
測定イオン:正イオン
スプレー電圧:1200V
ドライガス:窒素(4 L/min)
イオン源温度:160 ℃
走査範囲:m/z 300 〜 1,500(MS/MS 測定時:m/z 50 〜 2,200)
プリカーサーイオン選択数:4 イオン/マススペクトル
最小限のプリカーサーイオン強度:50,000 カウント
プリカーサーイオン選択排除時間:30 s
プリカーサーイオン排除価数:1
【0067】
iii)タンパク質同定解析条件
タンパク質サーチエンジン:Mascot(Matrix Science Ltd., London, UK)
タンパク質サーチ手法:MS/MS Ion Search
タンパク質データベース:Swiss−Prot
タンパク質サーチ時動物種分類:Homo sapiens (human)
タンパク質サーチ時翻訳後修飾設定:Carbamidomethyl (システイン残基修飾)
トリプシン未切断部位許容回数:1
プリカーサーイオン質量許容値:±0.5 Da
プロダクトイオン質量許容値:±1 Da
同定タンパク質解析ソフトウェア:Scaffold(Proteome Software, Inc., Portland, OR, USA)
【0068】
(5)二次元ナノLC−ESI−MS/MS測定の結果
二次元ナノLC−ESI−MS/MS測定によって、乳癌患者由来試料から82種、非乳癌者由来試料から86種、総計119種のタンパク質成分が検出された。この分析では、特許文献2に記載されたペルオキシレドキシン1は乳癌患者試料及び非乳癌者試料の両方とも検出されなかったことを、付記しておく。
【0069】
次いで、以下の方法で、乳癌患者試料から特異的に検出されたタンパク質を乳癌マーカー候補として選別した。
【0070】
(6)乳癌マーカー候補の選別
上記(5)の結果を基に、
(i)分析を行った乳癌患者10名中の、各タンパク質成分が試料中に検出された乳癌患者数(n1)の割合(比率A)、
(ii)分析を行った非乳癌者10名中の、各タンパク質成分が試料中に検出された非乳癌者数(n2)の割合(比率B)、及び
(iii)比率A/比率B(比率C)
を求めた。
【0071】
紙面の都合上、上記(5)で検出されたフコシル化タンパク質成分119種のうち、比率Cが2.00以上であったフコシル化タンパク質成分の一覧を、下記表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
そして、表1に挙げられたタンパク質成分の一覧中から血液由来成分と疑われるタンパク質成分等は除外し、当該タンパク質成分が検出された乳癌患者の割合が全乳癌患者の30%(比率A)以上且つ比率Cが2.0以上であるタンパク質成分を乳癌マーカー候補として選択し、各乳癌マーカーの比率A,B,Cを表2に示した。
【0074】
また、これらの乳癌マーカーの中で、例としてホルネリンの統計結果を図1に示す。図1において、※は統計解析の際の上側外れ値として、統計解析の対象から除外した。統計解析の結果、ホルネリン(フコシル化ホルネリン)において、マススペクトル中に検出されたペプチドピークを基準に算出されたタンパク質成分の存在量を示すスペクトラムカウント値が乳癌患者と非乳癌者間で統計的に有意な差が認められた(マン・ホイットニーのU検定において p=0.0068)。
【0075】
また、他の本発明の乳癌マーカーであるフコシル化Zn−α-2-グリコタンパク質、フコシル化Ig γ-1鎖C領域、及びフコシル化デスモプラキンに関しても、同様の統計解析を行った結果、同様に乳癌患者と非乳癌者間で、統計的に有意な差が認められた。
【0076】
【表2】
【0077】
そこで、フコシル化された、表2に記載のホルネリン(Hornerin)、Zn−α-2-グリコタンパク質(Zinc-alpha-2-glycoprotein)、Ig γ-1鎖C領域(Ig gamma-1 chain C region)、及びデスモプラキン(Desmoplakin)を本発明の乳癌マーカーとして選別した。
【0078】
表2及び図1から明らかな通り、これらの乳癌マーカーは、非乳癌者の乳頭分泌液中濃度に比較して乳癌患者の乳頭分泌液中に高濃度に存在していた。また、これらの成分は乳癌マーカーとして使用されたという実績はないことから、新規な乳癌マーカーとして極めて有望である。
【0079】
さらに、本実施例においてAALによるタンパク質の濃縮選別過程は大変重要なステップを担っていたと言える。データは示していないが、例えばZn-α-2-グリコタンパク質は悪性症例、及び、良性症例の全検体から検出された。しかし、本実施例においてAALによる選別過程を経ることにより、Zn-α-2-グリコタンパク質の中でもフコシル化糖鎖を有するものだけが抽出されたため、Zn-α-2-グリコタンパク質としては乳癌マーカーと成り得ないが、フコシル化Zn-α-2-グリコタンパク質であれば新規乳癌マーカーとして利用できることが判ったのである。
【0080】
また、本発明の乳癌マーカーを単独或いは2種以上組み合わせて検出することにより乳癌、及びその進行度の判定が行えることが期待される。例えば、これらの乳癌マーカーを単独或いは2種以上組み合わせて検出することで、乳癌患者に特徴的な本発明の乳癌マーカーの存在パターンが得られる。そこで、被験者の乳頭分泌液等の試料から本発明の乳癌マーカーを検出・同定し、これら複数の乳癌マーカーの存在パターン解析をすることにより、被験者が乳癌を発症しているか否かの推定が可能となることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の乳癌マーカーを利用した判定法はより確度の高い乳癌の判定(診断、検査)を可能とする。
【0082】
また、本発明の乳癌マーカーは、例えば乳頭分泌液中に見出されるため、非侵襲的且つ簡便に乳癌を判定(診断、検査)することが可能である。その結果、精神的及び肉体的苦痛が少ない本発明による乳癌診断は、若い世代や授乳中・後の若年経産婦人が自主的に乳癌検診を行うことを促進し、世界に比べて低い我が国の乳癌検診率の向上と、乳癌死亡率の低減による経済的効果が期待される。
図1