特許第6337029号(P6337029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337029
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】Ruを含むCu合金の均質化方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/02 20060101AFI20180528BHJP
【FI】
   C22C1/02 503B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-562860(P2015-562860)
(86)(22)【出願日】2015年2月12日
(86)【国際出願番号】JP2015053864
(87)【国際公開番号】WO2015122469
(87)【国際公開日】20150820
【審査請求日】2016年11月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-24668(P2014-24668)
(32)【優先日】2014年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599027242
【氏名又は名称】株式会社日本ピージーエム
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 勉功
(72)【発明者】
【氏名】田川 遼
(72)【発明者】
【氏名】坂本 宏史
(72)【発明者】
【氏名】藤田 光晴
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】石崎 圭子
(72)【発明者】
【氏名】河▲崎▼ 実
(72)【発明者】
【氏名】弘末 希世史
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−177141(JP,A)
【文献】 特開昭60−177148(JP,A)
【文献】 特開昭60−177150(JP,A)
【文献】 特開昭60−177155(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/066798(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00−49/14
C22B 1/00−61/00
G01N 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程を有するRuを含むCu合金の均質化方法。
【請求項2】
前記Cu合金が、Pt、Au、Ag、Pd、Rh、及びIrの少なくとも1の貴金属を含む請求項1に記載の均質化方法。
【請求項3】
Ru及びRu以外の貴金属を含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程と、前記均質化されたCu合金中の前記Ru又は前記Ru以外の貴金属の含有量を測定する工程とを有するRuを含むCu合金における金属含有量の測定方法。
【請求項4】
前記Ru以外の貴金属がPt、Au、Ag、Pd、Rh、及びIrの少なくとも1の貴金属である請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
Ru及びRu以外の貴金属を含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程と、前記均質化されたCu合金から前記Ru又は前記Ru以外の貴金属を回収する工程とを有するRuを含むCu合金における金属の回収方法。
【請求項6】
前記Ru以外の貴金属がPt、Au、Ag、Pd、Rh、及びIrの少なくとも1の貴金属である請求項5に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ruを含むCu合金の均質化方法に関する。また本発明は、Ruを含むCu合金における金属含有量の測定方法およびRuを含むCu合金における金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素等の貴金属は、電子材料、磁気記録材料、自動車排ガス浄化用触媒、燃料電池電極触媒など幅広い分野で使用されており、今後の需要がさらに増加すると見込まれている極めて有用な資源である。しかしながら、貴金属は資源的に希少で高価な金属であり、また、主要産出国が特定の国に偏っていることから、貴金属を安定的に供給するためには、回収精製によるリサイクルが必須である。
【0003】
このような貴金属の回収法としては、例えば、強酸を用いて金属成分を溶解して回収する溶解法等の湿式法や、溶融金属中に金属成分を吸収して回収する乾式法が代表的な方法である(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、使用済の合金等の廃棄材料から貴金属の回収を行う場合、貴金属は上記のように各種分野で使用されている。したがって、湿式法及び乾式法のいずれの方法を用いて貴金属の回収を行うにしても、それぞれの廃棄材料の性質に合わせた、好適な方法やシステムを構築する必要がある。このため、廃棄材料に含まれる金属の組成を的確に把握する必要がある。
【0005】
しかしながら、例えば廃棄材料がRuを含むCu合金である場合、Ruは溶Cuに溶解しにくいという特性があり(非特許文献2参照)、かつRuが他の貴金属と相互作用しやすいという理由から、Ruやその他の貴金属がCu中で偏析を起こし、Cu合金中における貴金属含有量の正確な測定ができないという問題点があった。また、Cu中で偏析した貴金属などの金属の回収において、例えば湿式法における酸溶解が困難であるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】藤原紀久夫、「貴金属のリサイクル」、化学工学、55巻1号21頁、1991年、化学工学会
【非特許文献2】田川遼、関本英弘、昆利子、山口勉功、「1300℃および1500℃におけるCu−Ir−Ru三元系状態図」、第164回日本鉄鋼協会秋季講演大会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、Ruを含むCu合金に対し、Ruの溶解度を向上させ、該Cu合金中の貴金属含有量の正確な測定を行うことのできる、Ruを含むCu合金の均質化方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の別の目的は、Ruを含むCu合金に対し、Ruの溶解度を向上させ、該Cu合金中の貴金属含有量の正確な測定を行うことのできる、Ruを含むCu合金における金属含有量の測定方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明のさらに別の目的は、Ruを含むCu合金に対し、Ruの溶解度を向上させ、該Cu合金中の貴金属を良好な回収率でもって回収できる、Ruを含むCu合金における金属の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、少なくともRuを含むCu合金に、特定の物質を添加することにより、Cu合金に対してRuの溶解度を向上させ、偏析しているRuをCu合金中に均質化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程を有するRuを含むCu合金の均質化方法。
2.前記Cu合金が、貴金属をさらに含む前記1に記載の均質化方法。
3.少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程と、前記均質化されたCu合金中の所望の金属の含有量を測定する工程とを有するRuを含むCu合金における金属含有量の測定方法。
4.前記Cu合金が、貴金属をさらに含む前記3に記載の測定方法。
5.少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加し、前記Cu合金中に偏析しているRuを均質化する工程と、前記均質化されたCu合金から所望の金属を回収する工程とを有するRuを含むCu合金における金属の回収方法。
6.前記Cu合金が、貴金属をさらに含む前記5に記載の回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の均質化方法によれば、少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加しているので、該Cu合金に対するRuの溶解度が向上し、該Cu合金中に偏析しているRuが均質化され、該Cu合金に他の貴金属が含まれる場合であっても、その均質化も可能となる。
【0013】
また、本発明の測定方法によれば、少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加しているので、該Cu合金に対するRuの溶解度が向上し、該Cu合金中に偏析しているRuが均質化され、該Cu合金に他の貴金属が含まれる場合であっても、その均質化も可能となり、該Cu合金中の貴金属含有量の正確な測定を行うことができる。結果として、例えば貴金属を含む廃棄材料の性質に合わせた、好適な貴金属の回収方法やシステムを構築することが可能となる。
【0014】
また、本発明の回収方法によれば、少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質を添加しているので、該Cu合金に対するRuの溶解度が向上し、該Cu合金中に偏析しているRuが均質化され、該Cu合金に他の貴金属が含まれる場合であっても、その均質化も可能となる。例えば湿式法により貴金属を回収する場合、該Cu合金の良好な液化が達成され、該Cu合金中の貴金属を良好な回収率でもって回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例で使用した実験装置の概略を説明するための図である。
図2図2は、試料の分析箇所を説明するための図である。
図3図3(a)〜(c)は、Feを20質量%添加した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAの組成像(以下、COMP像という。)を示す図である。
図4図4(a)〜(c)は、Niを40質量%添加し1500℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
図5図5(a)〜(c)は、Snを50質量%添加した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
図6図6(a)〜(c)は、FeSiを20質量%添加し1500℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
図7図7(a)〜(c)は、Siを7.5質量%添加し1600℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
図8図8(a)〜(c)は、Alを30質量%添加し1300℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0017】
まず、本発明のRuを含むCu合金の均質化方法について説明する。本発明で使用されるCu合金は、少なくともRuを含む合金である。上記の非特許文献2(田川遼、関本英弘、昆利子、山口勉功、「1300℃および1500℃におけるCu−Ir−Ru三元系状態図」、第164回日本鉄鋼協会秋季講演大会)に開示されているように、RuはCuに溶解しにくいという特性があり、例えばCu中にRuが0.1質量%以上存在すると、Cu中にRuが偏析する現象が見られる。
【0018】
なお、本発明で言う偏析とは、Cu合金の任意箇所で、Ru濃度が2.0質量%以上変動していることを意味する。
【0019】
本発明で使用されるCu合金におけるRuの含有率は、該Cu合金全体に対し、例えば0.1〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%であり、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0020】
また、本発明で使用されるCu合金に含まれる他の元素としては、例えば回収が望まれる貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir)が挙げられる。中でもPt、Pd、RhおよびIrから選択された白金族元素(PGM)は、本発明の適用によりCu合金中に均質化しやすいという点で有利であり、中でもRuによりCu合金中で偏析が生じやすいIrを含む系において、均質化に有効に機能するため好ましく用いられる。
【0021】
本発明で使用されるCu合金におけるCuの含有率は、該Cu合金に対し、例えば20質量%以上、好ましくは30〜60質量%である。前記Cuの含有率が20質量%未満の場合は、後述の添加物質の効果が減じてしまうため多量に添加物質を用いる必要があり、経済的な損失ばかりかその後の回収工程が煩雑になってしまい、湿式法による回収などでは酸で溶解する際の溶解時間が長くなるという問題が生じることがある。前記Cuの含有率が20質量%以上であれば、前記問題が生じることなく適切に均質化と回収が実施できる。
本発明で使用されるCu合金における貴金属の含有率は、該Cu合金に対し、例えば80質量%以下、好ましくは40〜70質量%である。前記貴金属の含有率が80質量%を超える場合は、後述の添加物質の効果が減じてしまうため多量に添加物質を用いる必要があり、経済的な損失ばかりかその後の回収工程が煩雑になってしまい、湿式法による回収などでは酸で溶解する際の溶解時間が長くなるという問題が生じることがある。前記貴金属の含有率が80質量%以下であれば、前記問題が生じることなく適切に均質化と回収が実施できる。
以下、添加物質の具体的な含有率について例示する。
【0022】
本発明の均質化方法においては、少なくともRuを含むCu合金に、Fe、Ni、FeSiおよびSiからなる群から選択された少なくとも1種の物質(以下、添加物質と言うことがある)が添加され、これにより、該Cu合金に対してRuの溶解度が向上し、偏析しているRuを該Cu合金中に均質化させることが可能となる。
【0023】
以下、本発明の効果の観点から各種添加物質の好適な添加量を記載する。
Feの添加量は、該Cu合金に対し、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは20〜500質量%、より好ましくは20〜50質量%である。
Niの添加量は、該Cu合金に対し、例えば20質量%以上、好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。
FeSiの添加量は、該Cu合金に対し、例えば10質量%以上、好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは10〜20質量%である。
Siの添加量は、該Cu合金に対し、例えば5質量%以上、好ましくは5〜15質量%であり、さらに好ましくは7.5〜12.5質量%である。
【0024】
また、前記添加物質の添加方法は、前記添加物質および該Cu合金の共存下、両者を溶解させることにより、該Cu合金に対し前記添加物質を添加する方法を採用するのが好ましい。
【0025】
以下、本発明の効果の観点から各種添加物質添加後の好適な均質化温度を記載する。
Feを添加した場合の均質化温度は、例えば1200℃以上、好ましくは1200〜1700℃であり、さらに好ましくは1300〜1600℃である。
Niを添加した場合の均質化温度は、例えば1200℃以上、好ましくは1200〜1700℃であり、さらに好ましくは1300〜1600℃である。
FeSiを添加した場合の均質化温度は、例えば1200℃以上、好ましくは1200〜1700℃であり、さらに好ましくは1300〜1600℃である。
Siを添加した場合の均質化温度は、例えば1200℃以上、好ましくは1200〜1700℃であり、さらに好ましくは1300〜1600℃である。
【0026】
また、添加物質の添加後の、均質化温度での保持時間としては、いずれも例えば30分以上である。また、保持の際の雰囲気は特に限定されないが、例えばアルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性雰囲気等が挙げられる。
【0027】
前記添加物質の添加後は、該Cu合金を例えば1時間以内に1000℃以下、好ましくは10分以内に500℃以下、に冷却することにより、均質なCu合金が得られる。冷却方法は特に限定されないが、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスの吹き付け、空冷、もしくは水冷により冷却しても良いし、別に用意した鋳型に移すことで冷却を行ってもよい。
【0028】
以上の本発明の均質化方法により、該Cu合金に対するRuの溶解度が向上し、Cu合金中に偏析しているRuが均質化され、該Cu合金に他の貴金属が含まれる場合であっても、その均質化も可能となる。
【0029】
次に、本発明のRuを含むCu合金における金属含有量の測定方法について説明する。
本発明の測定方法は、該Cu合金に対し、前記の本発明の均質化方法を施し、該Cu合金中に偏析しているRuを均質化した後、そのCu合金中の所望の金属の含有量を測定するものである。該所望の金属としては、貴金属、中でも前記PGM等が挙げられ、特にPtが好ましい。
【0030】
該所望の金属の測定方法は、公知の方法に従えばよく、特に制限されない。公知の方法としては、たとえば、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、蛍光X線分析(XRF)等機器による分析、もしくは化学的分析法等が挙げられる。
【0031】
本発明の測定方法では、Cu合金中に偏析しているRuが均質化され、かつ、該Cu合金の他の貴金属も均質化され、該Cu合金中の貴金属含有量の正確な測定を行うことができる。これにより、例えば貴金属を含む廃棄材料の性質に合わせた、好適な貴金属の回収方法やシステムを構築することが可能となる。
【0032】
次に、本発明のRuを含むCu合金における金属の回収方法について説明する。本発明の回収方法は、該Cu合金に対し、前記の本発明の均質化方法を施し、該Cu合金中に偏析しているRuを均質化した後、そのCu合金中から所望の金属を回収するものである。
【0033】
例えば回収する該所望の金属が貴金属である場合、その回収は従来公知の方法に基づけばよく、特に制限されない。
【0034】
例えば、王水や塩酸に酸化剤を加えた溶液で該Cu合金を溶解し、貴金属を抽出する方法等の湿式法や、炉内でCuを溶融させ、該Cu合金に含まれる貴金属を移行させる乾式法等を採用することができる。中でも湿式法を採用した場合、例えば酸中において該Cu合金の良好な液化が達成され、その中の貴金属を良好な回収率でもって回収することができ、好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0036】
Cuを30〜60質量%、Ruを2〜20質量%、貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir)を38〜68質量%含有するCu合金に対し、以下の実験を行った。図1は、本実施例で使用した実験装置の概略を説明するための図である。実験装置10は、反応管102、反応管102を加熱するヒータ104、反応管102の内部温度を測定する熱電対106、反応管102の内部に設けられたアルミナ製ルツボ108を備えてなる。
【0037】
内径12mmの純度99.5%以上のアルミナ製ルツボ108の中に、前記のRuを含むCu合金(S1)を2g、純度99%以上の各種添加物質(S2)を所定量挿入し、アルゴンガス雰囲気中(流量300cc/分)、目的温度より100℃高い温度で1時間保持した後、目的温度に降温し、1時間加熱保持し均質化した。その後、試料を炉内から取り出し、アルゴンガスを吹き付けて10分以内に500℃以下まで急冷した。急冷後の試料を室温付近まで放冷し、アルミナ粉体(粒度:0.3μm)を研磨剤として用いたバフ研磨により鏡面研磨した後、光学顕微鏡とEPMA(日本電子(株)JXA−8500F)により、組織の観察および各相の定量分析を行い「均質さ」を評価した。
【0038】
EPMAの分析の際は、図2に示すように、試料を鉛直方向で上部1〜3、中心部4〜6、下部7〜9の3つの領域および9つの箇所に対し、300μmのビーム範囲でそれぞれの領域の平均組成を求めた。また、必要に応じて、固相は1μmビーム径で、液相は100μmの範囲で分析した。
各種添加物質の添加量、目的温度およびEPMA分析の結果を下記表1に示す。なお表1で示す「添加量」とは、Cu合金(S1)に対する量である。また「均質さ」は、以下の評価基準で評価したものである。
○:上部、中心部、下部のRu含有量のばらつきがCu合金中2.0質量%未満
×:上部、中心部、下部のRu含有量のばらつきがCu合金中2.0質量%以上
【0039】
【表1】
【0040】
表1の結果から、以下の事項が明らかとなった。
(1)Fe(電解鉄)の添加
添加物質としてFe(電解鉄粉)を20〜50質量%添加し、1600℃で1時間保持した場合、Ruの均質化が確認できた。図3(a)〜(c)は、Feを20質量%添加した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
【0041】
図3(a)〜(c)において、Feを20質量%添加した試料では、試料下部に固相の偏析は観察されず、各元素濃度の試料位置による差は見られず、均質な合金となっていることが分かる。
【0042】
(2)Niの添加
添加物質としてNi粉を30〜50質量%添加し、1500℃または1600℃で1時間保持した場合、Ruの均質化が確認された。
【0043】
図4(a)〜(c)は、Niを40質量%添加し1500℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
【0044】
図4(a)〜(c)において、Niを40質量%添加した試料では、試料下部に固相は観察されず、試料位置による偏析は見られず、均質な合金となっていることが分かる。
【0045】
(3)Snの添加
比較添加物質として金属Snを10〜50質量%添加し、1500℃で1時間保持した場合、いずれの試料でも合金を均質化することができなかった。図5(a)〜(c)は、Snを50質量%添加した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。
【0046】
図5(a)〜(c)において、試料の下部ではルテニウムの濃度が高く、また固相が確認された。10質量%および30質量%の試料においても同様に固相が観察され、Snの添加では、均質な合金が得られないことが分かった。
【0047】
(4)FeSiの添加
添加物質としてFeSiを12.5〜20質量%添加し、1500℃または1600℃で1時間保持した場合、Ruの均質化が確認された。
【0048】
図6(a)〜(c)は、FeSiを20質量%添加し1500℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。図6(a)〜(c)において、試料下部に固相は観察されず、試料位置による偏析は見られず、均質な合金となっていることが分かる。
【0049】
(5)Siの添加
添加物質としてSiを7.5質量%添加し、1600℃で1時間保持した場合、Ruの均質化が確認された。図7(a)〜(c)は、Siを7.5質量%添加し1600℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。図7(a)〜(c)において、試料下部に固相は観察されず、試料位置による偏析は見られず、均質な合金となっていることが分かる。
【0050】
(6)Alの添加
比較添加物質としてAlを30質量%添加し、1300℃で1時間保持した場合、Cu合金を均質化できなかった。図8(a)〜(c)は、Alを30質量%添加し1300℃で保持した場合の図2で示す試料位置におけるEPMAのCOMP像を示す図である。図8(a)〜(c)において、均質な合金が得られていないことが分かる。
【0051】
実施例のFeSiの12.5質量%添加により均質化され得られた均一溶融固体を、その体積の10倍量の王水により溶解させ、Cu、Ru、Fe、Siおよび貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir)の含有液体とした。均一溶融固体の液化率は93%と高い溶解率であった。液化されたルテニウムおよび貴金属は、溶媒抽出、還元による固液分離、電解や吸着剤による分離等の常法によりルテニウムおよび貴金属の各成分にそれぞれ分離され回収された。
【0052】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2014年2月12日付けで出願された日本特許出願(特願2014−024668)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0053】
102 反応管
104 反応管を加熱するヒータ
106 熱電対
108 アルミナ製ルツボ
S1 Ruを含むCu合金
S2 添加物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8