特許第6337039号(P6337039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337039
(24)【登録日】2018年5月11日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20180528BHJP
   A23L 29/20 20160101ALI20180528BHJP
   A23L 21/00 20160101ALI20180528BHJP
   A23L 9/00 20160101ALI20180528BHJP
【FI】
   A23L29/269
   A23L29/20
   A23L21/00
   A23L9/00
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-49514(P2016-49514)
(22)【出願日】2016年3月14日
(62)【分割の表示】特願2012-64958(P2012-64958)の分割
【原出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2016-105734(P2016-105734A)
(43)【公開日】2016年6月16日
【審査請求日】2016年3月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石橋 三希
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−173606(JP,A)
【文献】 特開2006−174785(JP,A)
【文献】 特開2004−000126(JP,A)
【文献】 特開2005−211022(JP,A)
【文献】 特開平10−179050(JP,A)
【文献】 特開2007−185187(JP,A)
【文献】 特開2010−088357(JP,A)
【文献】 特開2009−055879(JP,A)
【文献】 特開2005−102616(JP,A)
【文献】 特開平07−264988(JP,A)
【文献】 特開2003−033144(JP,A)
【文献】 特開2002−238476(JP,A)
【文献】 特開2001−218561(JP,A)
【文献】 特開昭50−036652(JP,A)
【文献】 特開昭62−253348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/269
A23L 9/00
A23L 21/00
A23L 29/20
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法であって、
ゲル化性溶液をゲル化温度以上で充填する第1充填工程と、
前記ゲル化性溶液を冷却する冷却工程の前に
0.004質量%以上1質量%以下の脱アシルジェランガムと0.001質量%以上0.1質量%以下のカルシウムを配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、
充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備え、
前記2相の比重差(ゾル相−ゲル相)が、−0.1以上+0.1以下であって、
前記第2充填工程における前記脱アシルジェランガムと前記カルシウムを配合してなる 溶液の温度が0℃以上25℃以下、45℃以上95℃以下である
ことを特徴とする食品の製造方法。
【請求項2】
ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法であって、
0.004質量%以上1質量%以下の脱アシルジェランガムと0.001質量%以上0.1質量%以下のカルシウムを配合してなる溶液を充填する第1充填工程と、
ゲル化性溶液をゲル化温度以上で充填する第2工程と、
充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備え、
前記2相の比重差(ゾル相−ゲル相)が、−0.1以上+0.1以下であり、
前記第1充填工程における前記脱アシルジェランガムと前記カルシウムを配合してなる溶液の温度が0℃以上25℃以下、45℃以上95℃以下である
ことを特徴とする食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品であって、前記相のうち少なくとも1つの相に、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなることを特徴とする食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼリーやプリンなどのゲル状食品が多く市販されている。一方、このようなゲル状食品の市場価値を高めるべく、食品自体を複数相化した例も多い。例えば、カラギナン、寒天、ゼラチン、その他を膠質として、これにアルギン酸ナトリウム塩などを添加した水性ゲルと飲料水中にカルシウム塩を存在させたものとを層状に接合して一体とした多層型ゼリーが提案されている(特許文献1参照)。また、原料液にゲル化剤を含有させ、他の原料液にゲル化剤のゲル化を触発させる成分を含有させて別個に調製し、これらを混合して固化し、その上にゲル状食品などの他の食品を充填する多層ゲル化食品の製造方法も提案されている。(特許文献2参照)。また、ゲル状物の中に液状物が取り込まれたタイプのものとしては、アルギン酸塩やLMペクチンを配合してなるゲル状物の中に、液状食品を分散させた例が知られている(特許文献3参照)。さらに、多層食品の第2層と第3層の界面を特にきれいに形成するため、第1層、第2層および第3層がこの順で積層されている、容器入り多層食品であって、第2層は、ペクチンおよびカルシウムを含み、かつ酸性であり、第1層および/または第3層は、カルシウムを含む、容器入り多層食品が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−248464号公報
【特許文献2】特開2000−60450号公報
【特許文献3】特開2002−27925号公報
【特許文献4】特開2012−5466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来知られた多層構造のゲル状食品は、その製造方法が必ずしも簡便ではなく、さらに得られた多層ゲル状食品においては各層の境界が必ずしも鮮明ではなかった。
また、特許文献4に開示される方法では、第1層を充填した後にゲル化してから第2層を充填しているため、第1層充填後にゲル化するための冷却工程や冷却時間が必要となる。また、第1層および第3層はカルシウムの含有が必須であり、原材料の選択が狭まったり風味に影響する場合がある。さらに、ペクチンなどを含む第2層の原料を、カルシウムなどを含む第1層の上に積層した後、カルシウムなどを含む第3層の原料を第2層の上に積層するため、積層する順番が決定されてしまう。
一方、本発明は、第1充填後にすぐに第2充填を行うことができるため、冷却工程や冷却時間を必要とせずに、ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品を製造することができる。さらに、少なくとも1つの相に、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合することを特徴とするため、第1層および第3層にカルシウムを含まなくても良く、各層を充填する順番を限定する必要がない。
【0005】
本発明の目的は、ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品であって、前記相のうち少なくとも1つの相に、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合することにより、各相の境界が鮮明である食品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品およびその製造方法を提供するものである。
(1)ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品であって、前記相のうち少なくとも1つの相に、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなることを特徴とする食品。
(2)上記(1)に記載の食品において、前記低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合する相がゾルであることを特徴とする食品。
(3)上記(1)または(2)に記載の食品において、前記2相の比重差(ゾル相−ゲル相)が、−0.1以上+0.1以下であることを特徴とする食品。
(4)上記(1)または(2)に記載の食品において、前記低メトキシルペクチンが0.01質量%以上2.0質量%以下含有されていることを特徴とする食品。
(5)上記(1)または(2)に記載の食品において、前記脱アシルジェランガムが0.004質量%以上1.0質量%以下含有されていることを特徴とする食品。
(6)上記(1)または(2)に記載の食品において、前記発酵セルロースが0.1質量%以上3.0質量%以下含有されていることを特徴とする食品。
(7)ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法であって、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記第1充填工程後に低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えることを特徴とする食品の製造方法。
(8)ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法であって、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液を充填する第1充填工程と、ゲル化性溶液を充填する第2工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えることを特徴とする食品の製造方法。
(9)上記(7)または(8)に記載の食品の製造方法において、前記第2充填工程における前記低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液の温度が0℃以上25℃以下、または、45℃以上95℃以下であることを特徴とする食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品において、各相の境界が鮮明である食品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態におけるゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の例1(ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品を上から見た図および断面図を示した図である。以下同様である)
図2】本実施形態における食品の例2
図3】本実施形態における食品の例3
図4】本実施形態における食品の例4
図5】本実施形態における食品の例5
図6】本実施形態における食品の例6
図7】本実施形態における食品の例7
図8】本実施形態における食品の例8
図9】本実施形態における食品の例9
図10】本実施形態における食品の例10
図11】本実施形態における食品の例11
図12】本実施形態における食品の例12
図13】本実施形態における食品の例13(底面から見た図も含む。)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品およびその製造方法について詳細に説明する。
〔ゲル状食品の構成〕
本発明の食品は、ゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品であって、前記相のうち少なくとも1つの相に低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる。
このようなゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品としては、ゲル状物からなるマトリックス相中にゾル状物(流動食品)が分散した構造でもよく、ゾル状物(流動食品)中にゲル状物が分散した構造でもよく、2つの相がまだら状に分布した構造でもよい。分散相としては、塊状でも層状でもよい。
【0010】
本発明におけるゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の具体的な構造としては、例えば図1から図13までに示すように種々の態様が挙げられる。具体的には、ゲル状あるいはゾル状からなる第1相1の内部に、ゲル状あるいはゾル状の第2相2が内包されているもの(例えば、図1)、水玉様として配置されているもの(例えば、図2図12)、規則的に縦・横に配置されているもの(例えば、図3図4図7図13)、上下に積層されているもの(例えば、図8図9図10)、マーブル状に配置されているもの(例えば、図5図6図11)などや、他に、第1相1の表面に第2相2により模様が描かれているものなどが挙げられる。なお、これらの分散構造は2種類の相に限られず、3種類以上の相からなるものであってもよい。
【0011】
上述した第1相の1のゲル状物の具体例として、プリン、ゼリー、ムース、ババロア、ヨーグルト、酸性プリン、飲むプリン、飲むゼリー、およびドリンクヨーグルトなどが挙げられる。また、第2相の2のゾル状物(流動食品)の具体例として、カラメルソース、フルーツソース、フルーツジュレ、コーヒーソース、チョコソース、ココアソース、クリーム、ホイップクリーム、練乳、ジャム、シロップ、コーヒー、紅茶、牛乳、緑茶、抹茶、ウーロン茶、ココア飲料、果汁、果汁入りミルク、および炭酸飲料などが挙げられる。また、ゾル状物(流動食品)とは、マイクロゲル、フルイドゲルと呼ばれる流動性のあるゲルも含まれる。
これらのゲル化物とするためのゲル化性溶液の調製方法であるが、上述したゲル化物を調製するために一般的に用いることができる乳化剤、増粘剤、ゲル化剤等を用いることができるし、上述したゲル化物を調製する方法によって、調製することができる。
【0012】
なお、上述した食品には、果実、さのう、ハーブ、野菜、チーズ、飴、チョコレート、ナタデココ、アロエ、スポンジケーキ、クッキー、およびその他の固形物が含まれていてもよい。
このようなゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品を食する際は、スプーンを用いるだけでなく、その性状に応じて容器の開口部から直接飲用したり、あるいはストローにより吸引してもよい。
【0013】
本発明における低メトキシルペクチンとしては、エステル化度が50%以下のものが好ましく、35%以下がより好ましい。エステル化度が50%を超えるとカルシウムとの反応が起こりにくくなり、2つの相を有する食品が得られない。
このような低メトキシルペクチンの配合量は、配合される相を基準として、0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。低メトキシルペクチンの配合量が2.0質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、配合量が0.01質量%未満であると粘度が低すぎていずれの場合も2つの相を有する食品が得られない。
【0014】
低メトキシルペクチンと配合するカルシウムとしては、食品添加物として許容されるものであればよく、例えば、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、焼成カルシウム、未焼成カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、フマル酸カルシウム等を使用することができ、好ましくは乳酸カルシウムを使用することができる。また、果汁、茶類、乳類中にも、もともとカルシウムは含まれており、これらをカルシウムとしてもよい。
このようなカルシウムの配合量は、配合される相を基準として、0.001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.006質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。カルシウムの配合量が0.1質量%を超えるとマイクロゲルの粒子径が小さすぎることにより粘度が低すぎであり、0.001質量%未満であると粘度が低くすぎていずれの場合も2つの相を有する食品が得られない。
【0015】
なお、低メトキシルペクチンとカルシウムの配合比であるが、低メトキシルペクチン1に対して、カルシウムを0.0006〜7の比率にすることにより、各相の境界が明確な食品を得ることができる。
【0016】
本発明における脱アシルジェランガムの配合量は、配合される相を基準として、0.004質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。脱アシルジェランガムの配合量が1.0質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、配合量が0.004質量%未満であると粘度が低すぎていずれの場合も2つの相を有する食品が得られない。
【0017】
脱アシルジェランガムと配合するカルシウムとしては、食品添加物として許容されるものであればよく、例えば、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、焼成カルシウム、未焼成カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、フマル酸カルシウム等を使用することができ、好ましくは乳酸カルシウムを使用することが出来る。また、果汁、茶類、乳類中にも、もともとカルシウムは含まれており、これらをカルシウムとしてもよい。
このようなカルシウムの配合量は、配合される相を基準として、0.001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.006質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。カルシウムの配合量が0.1質量%を超えるとマイクロゲルの粒子径が小さすぎることにより粘度が低すぎであり、0.001質量%未満であると粘度が低くすぎていずれの場合も2つの相を有する食品が得られない。
【0018】
なお、脱アシルジェランガムとカルシウムの配合比であるが、脱アシルジェランガム1に対して、カルシウムを0.001〜20の比率にすることにより、各相の境界が明確な食品を得ることができる。
【0019】
本発明の発酵セルロースの配合量は、配合される相を基準として、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下がより好ましい。発酵セルロースの配合量が3.0質量%を超えると粘度が高くなりすぎ、配合量が0.1質量%未満であると粘度が低すぎていずれの場合も2つの相を有する食品が得られない。
【0020】
本発明のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品を製造する場合、下層を充填して冷却した後に上層を充填する場合、比重差は大きくは問題にならないが、液状で上層と下層を充填する場合には、比重差が大きく影響する場合がある。例えば、本発明のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の2相の比重差(ゾル相−ゲル相)は、用いる原材料の種類や量で調整すればよく、一般的には糖類の種類と量で調整することができる。比重差としては、−0.1以上+0.1以下が好ましく、−0.08以上+0.08以下がより好ましい。比重差が+0.1を超えると2相が混ざり合い、境界が不明瞭となるおそれがある。一方、−0.1未満であると2相が混ざり合い、界面が不明瞭となる。
【0021】
本発明のゾル相およびゲル相には、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロース以外に、ゲル化剤や増粘剤を配合してもよく、さらに必要に応じて乳化剤を配合してもよい。
このようなゲル化剤や増粘剤としては特に限定されるものではなく、例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、結晶セルロース、微小繊維状セルロース、ナタデココ、アラビアガム、ガティガム、カードラン、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、サイリウムシードガム、ネイティブジェランガム、タマリンドシードガム、タラガム、高メトキシルペクチン、ダイズ多糖類、デンプン、加工デンプン(アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン)、寒天、ゼラチン、イヌリン、プルランおよびマンナンなどを挙げることができる。
【0022】
乳化剤としては特に限定されるものではなく、例えば、キラヤ抽出物、グリセリン脂肪酸エステル(グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン酢酸エステル)、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、植物性ステロール、植物レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、分別レシチン、卵黄レシチン、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、およびポリソルベート80など一般に市販されているものを挙げることができる。
【0023】
〔複数相構造を有する食品の製造方法〕
本発明のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法は、ゲル化性溶液を充填する第1充填工程と、前記工程後に前記低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液を充填する第2充填工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備える。
例えば、略円筒形の容器に入れた本発明の実施例にかかる食品を上から見た図と一点鎖線での断面図で示した図1から図13までに挙げたような相構造を有する食品を製造する場合、まず、第1相の1となるゲル化性溶液(以下、「1液」ともいう。)と、第2相の2となる溶液(以下、「2液」ともいう。)は、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを含んでいる。低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを用いる以外はゲル状食品および/またはゾル状食品を調製する一般的な方法に従って調製することができる。
次に、第1充填工程で所定の容器に1液を充填し、その後に第2充填工程で2液を充填する。本発明においては、1液を容器に充填後、いつでも2液を充填することができる。例えば、1液を充填した直後に2液を充填して直ちに冷却してもよい。それ故、本発明によれば、従来のゾルとゲルの少なくとも2つの相を有する食品の製造方法に比べて製造工程を簡略化することができるため、製造時間を大幅に短縮や設備投資を低減することができるため大幅なコストダウンが可能となる。なお、1液を容器に充填後に冷却し、次いで2液を充填後に冷却することもできる。
【0024】
本発明では、1液の充填時における1液の温度は、ゲル化温度以上であることが好ましい。ゲル化温度未満では、1液の充填直後に2液を充填すると2液がにじみ任意の形状としにくくなるからである。
本発明における2液の充填条件であるが、充填する際の概溶液の温度が0℃以上25℃以下、または、45℃以上95℃以下に調整することが好ましい。前記温度域以外では2相が混ざり合い、界面が不明瞭となる場合があるからである。
【0025】
本発明では、2液の充填は、単孔ノズルでもよいが、多孔ノズルを用いて充填することがより好ましい。多孔ノズルを用いると2液のにじみを抑制できるので、2液を任意の形状とすることが容易であり好ましい。
なお、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液を充填する第1充填工程と、ゲル化性溶液を充填する第2工程と、充填された前記両溶液を冷却する冷却工程とを備えることを特徴とする食品の製造方法とすることもできるし、低メトキシルペクチンおよびカルシウム、脱アシルジェランガムおよびカルシウム、または、発酵セルロースのいずれかを配合してなる溶液を充填後に冷却し、次いでゲル化性溶液を充填後に冷却することもできる。
【0026】
上述したように本発明によれば、各相の境界が明確となるため、外観を損ねることなく、しかも、色彩、風味、食感ともに従来品より商品価値の高い食品を簡便な方法で提供できる。
なお、全ての図面は円形容器を用いた例としているが、あくまで一例である。三角形、四角形、五角形等の多角形の容器や壷のような形態の容器等を用いたとしても、各相の境界が鮮明である食品を提供することができる。
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
<プリン/縦断内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、澱粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解して均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、50℃に保持して1液を調製した。この1液の比重は1.061、ゲル化温度は50℃であった。
【0029】
(2液の調製)
脱アシルジェランガム0.3質量%を温水に溶解する。別に果汁10質量%、乳酸カルシウム(カルシウム含量13質量%)0.1質量%、糖類および若干量の香料と着色料と酸味料を温水に溶解し、これを撹拌しながら、あらかじめ溶解した脱アシルジェランガム溶液を添加混合し、2液を調製した。2液は、糖類の組み合わせと配合量により比重差(2液のゾル相と1液のゲル相の比重の差、ゾル相−ゲル相)について、−0.11、−0.1、−0.08、−0.01、+0.01、+0.08、+0.1、および+0.11の計8種類を設定し、各比重差を満たすように調製した。2液は、85℃で20分間殺菌し、80℃保持した。
【0030】
(1液および2液の充填)
1液(50℃)を容器に90g充填し、直ちに多孔ノズルを用いて2液(80℃)を1.1秒間で10g充填した。
充填後の容器を5℃に冷却後、ゲル状食品を上から見た場合および食品の上面に対し垂直方向に割った断面図の様子を目視にて観察した(図3参照)。
総合評価を以下の基準の通りに定め、結果を表1に示した。なお、後述する実施例でも同じ基準を用いた。
○:任意の複数相あるいは不連続相を有する形状であり、見た目にも美しい。
△:わずかなにじみがあり、模様が若干不明瞭である。
×:任意の複数相あるいは不連続相を有する形状にはならない。
【0031】
【表1】

【0032】
〔評価結果〕
ゾル相(2液)の比重とゲル相(1液)の比重との差(ゾル相−ゲル相)が−0.11の場合は、1液と2液が混ざり合い、模様が不明瞭であった。この比重差が+0.11の場合も1液と2液が混ざり合い、模様が不明瞭であった。ゾル相(2液)の比重とゲル相(1液)の比重差が−0.1から+0.1までの範囲では、2液が界面に明確に分布し、見た目に美しい範囲であった。さらに、この比重差が−0.08から+0.08までの範囲である場合は、ゾル相(2液)とゲル相(1液)との風味バランスは特に良好で、より好ましいことがわかる。
【実施例2】
【0033】
<飲むプリン/水玉フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.05質量%、澱粉0.13質量%、ゼラチン0.05質量%、ジェランガム0.04質量%、クエン酸三ナトリウム0.01質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、60℃に保持して1液とした。1液の比重は1.071、ゲル化温度は50℃であった。
【0034】
(2液の調製)
低メトキシルペクチン0質量%、0.009質量%、0.01質量%、0.05質量%、0.6質量%、0.8質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.1質量%を温水に溶解する。別に果汁10質量%、乳酸カルシウム(カルシウム含量13質量%)0.1質量%、糖類および若干量の香料と着色料と酸味料を温水に溶解し、これを撹拌しながら、あらかじめ溶解した低メトキシルペクチン溶液を添加混合し、2液を調製した。2液は、糖類の組み合わせと配合量により比重は1.081に調整した。2液は、85℃で20分間殺菌し、70℃保持した。
【0035】
(1液および2液の充填)
次に、1液(60℃)を容器に90g充填し、直ちに多孔ノズルを用いて2液(70℃)を断続的に1.5秒間で10g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した(図2参照)。結果を表2に示した。
【0036】
【表2】
【0037】
〔評価結果〕
低メトキシルペクチンが0質量%の場合は、1液と2液が混ざり明瞭な複数相にならなかった。0.009質量%の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。2.1質量%の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。低メトキシルペクチンが0.01質量%から2.0質量%までの範囲では、2液が水玉状にきれいに分布したものであった。さらに、この配合量が0.05質量%から1.5質量%までの範囲である場合は、ゾル相(2液)とゲル相(1液)との風味バランスは特に良好で、より好ましいものであった。
【実施例3】
【0038】
<プリン/マーブル状フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳4.0質量%、糖類19.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、澱粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解して均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、55℃に保持して1液を調製した。この1液の比重は1.070、ゲル化温度は50℃であった。
【0039】
(2液の調製)
脱アシルジェランガム0質量%、0.003質量%、0.004質量%、0.01質量%、0.3質量%、0.4質量%、1.0質量%、1.1質量%を温水に溶解する。別に果汁10質量%、乳酸カルシウム(カルシウム含量13質量%)0.1質量%、糖類および若干量の香料と着色料と酸味料を温水に溶解し、これを撹拌しながら、あらかじめ溶解した脱アシルジェランガム溶液を添加混合し、2液を調製した。2液は、糖類の組み合わせと配合量により比重は1.05に調整した。2液は、85℃で20分間殺菌し、75℃保持した。
【0040】
(1液と2液の充填)
1液(55℃)を容器に85g充填し、直ちに多孔ノズルを用いて2液(75℃)を0.6秒間で15g充填した。5℃に冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。図6参照。結果を表3に示した。
【0041】
【表3】
【0042】
〔評価結果〕
脱アシルジェランガムが0質量%の場合は、1液と2液が混ざり明瞭な複数相にならなかった。0.003質量%の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。1.1質量%の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。脱アシルジェランガムが0.004質量%から1.0質量%までの範囲では、2液がマーブル状に分布し、見た目にも美しいものであった。さらに、この配合量が0.01質量%から1.0質量%までの範囲である場合は、ゾル相(2液)とゲル相(1液)との風味バランスは特に良好で、より好ましいものであった。
【実施例4】
【0043】
<コーヒーゼリー/縦断内包クリーム>
(1液の調製)
インスタントコーヒー1.5質量%、ローカストビーンガム0.3質量%、カラギナン0.15質量%、ペクチン0.1質量%、ゼラチン0.1質量%、乳酸カルシウム0.02質量%、および若干量の香料と水を基本配合とし、糖類の組み合わせと配合量により充填温度における比重が1.088となるように調整して1液を調製した。1液は、均質化した後、110℃で2秒間殺菌し、50℃に保持した。得られた1液のゲル化温度は40℃であった。
【0044】
(2液の調製)
精製パーム油30.0質量%を80℃まで加温した。これとは別に、脱脂粉乳1.0質量%、ミネラル濃縮ホエー1.0質量%、ゼラチン0.30質量%、グァーガム0.12質量%、キサンタンガム0.06質量%、糖類8.0質量%、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB15)0.20質量%、グリセリン脂肪酸エステル0.30質量、クエン酸三ナトリウム0.30質量%、第二リン酸カリウム0.20質量%、発酵セルロース0質量%、0.09質量%、0.1質量%、0.5質量%、1.5質量%、1.8質量%、2.5質量%、3.0質量%、3.1質量%、および香料0.08質量%を水に添加、溶解して水相を調製し、65℃まで加温した。そして水相を撹拌しながら、加温した油相(上述のパーム油)を水相に添加し、予備乳化および均質化した後、120℃で2秒間殺菌し、その後再び均質化を行い、10℃まで急速冷却した。得られた2液の比重は1.098であった。
【0045】
(1液と2液の充填)
1液(50℃)を容器に85g充填し、円周状に配置された孔径3mmで6孔の多孔ノズルを用いて直ちに2液(10℃)を0.8秒間で15g充填した。冷却後中身を容器から取り出し、食品の上面に対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した。同様に加温品も観察した(図3参照)。結果を表4に示した。
【0046】
【表4】
【0047】
〔評価結果〕
発酵セルロースが0質量%の場合は、1液と2液が混ざり明瞭な複数相にならなかった。0.09質量%の場合は、2液が少しにじみ、模様がやや不明瞭であった。3.1質量%の場合も2液がわずかににじみ、模様がやや不明瞭であった。発酵セルロースが0.1質量%から3.0質量%までの範囲では、2液が界面に対し垂直方向に分布し、見た目にも美しいものであった。さらに、この配合量が0.5質量%から2.5質量%までの範囲である場合は、ゾル相(2液)とゲル相(1液)との風味バランスは特に良好で、より好ましいものであった。
【実施例5】
【0048】
<プリン/縦断内包フルーツソース>
(1液の調製)
パーム油5.0質量%、脱脂粉乳9.6質量%、糖類15.0質量%、乳化剤0.1質量%、ペクチン0.15質量%、澱粉0.4質量%、ゼラチン0.15質量%、カラギナン0.04質量%、キサンタンガム0.05質量%ローカストビーンガム0.1質量%、および香料と着色料を若干量配合して温水に溶解、均質化した後、125℃で2秒間殺菌し、65℃に保持して1液とした。1液の比重は1.059、ゲル化温度は50℃であった。
【0049】
(2液の調製)
発酵セルロース2.0質量%、グラニュー糖11.0質量%、粉末水飴6.5質量%、液状水飴3.3質量%、クエン酸三ナトリウム0.23質量%を温水に溶解し、濃縮果汁(Brix65)10質量%、若干量の香料と着色料と酸味料を添加、混合溶解し、均質化(15MPa)した後、85℃で20分間殺菌し、80℃保持した。2液の比重は1.084であった。
【0050】
(1液および2液の充填)
次に、1液(65℃)を容器に90g充填して冷却した後、単孔ノズルを用いて2液(8
0℃)を1.5秒間で15g充填した。冷却後、中身を容器から取り出し、食品の上面に
対し垂直方向に割り、目視にて界面の様子を観察した(図4参照)。
【0051】
その結果、製造された食品の1液と2液の界面が良好で、風味バランスも良好であった。
【符号の説明】
【0052】
1…第1相(1液)
2…第2相(2液)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13