【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年 6月24日に(https://ecs.confex.com/ecs/226/webprogram/Paper38126.html)のウェッブサイトにて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
M. Itagaki,外5名,In Situ electrochemical impedance spectroscopy to investigate negative electrode of lithium-ion rechargeable batteries,Journal of Power Sources,2004年 4月 1日,135,255-261
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極と参照極間のインピーダンス測定結果と、負極と参照極間のインピーダンス測定結果と、をin−situ 3D電気化学インピーダンス法により解析し、所定の時間におけるインピーダンスを導出するインピーダンス導出手段、を有する
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の電池特性評価装置。
前記正極インピーダンス算出手段により算出されたインピーダンスと、前記負極インピーダンス算出手段により算出されたインピーダンスに基づいて、正極と負極間のインピーダンスを算出する正極負極間インピーダンス算出手段、を有する
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の電池特性評価装置。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やプラグインハイブリッド車等の自動車用電源、系統連携向けの定置用電源、自然エネルギーの出力緩和やバックアップに用いる定置用電源として、リチウムイオン2次電池の普及が進んでいる。リチウムイオン2次電池は、長期間使用することで電池電圧や電池容量が徐々に低下することが知られている。
【0003】
リチウムイオン2次電池等の2次電池では、寿命に対する要求が厳しく、例えば、系統連携向けの電池では、20年以上の寿命が要求されている。したがって、リチウムイオン2次電池等において劣化の抑制が大きな課題となっている。リチウムイオン2次電池の寿命は、材料及び構造で決まる。リチウムイオン2次電池の劣化の抑制(高寿命化)を目的として、多様な材料の可能性の中から最適な材料の選定が行われている。これに伴い、開発した材料の劣化を評価する方法がより重要となっている。
【0004】
リチウムイオン2次電池は、正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO
2)等の金属酸化物が用いられ、負極として黒鉛等の炭素材料が用いられる。これら二つの電極は、多孔質の絶縁フィルム(セパレータ)で隔てられており、この間にはエチレンカーボネート(EC)やエチルメチルカーボネート(EMC)等の有機溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等の電解質を溶かした電解液が満たされる。リチウムイオン2次電池を充電すると、正極のLiCoO
2の層間からLiイオンが引き抜かれ、負極の黒鉛層へ挿入される。また、リチウムイオン2次電池を放電すると、Liイオンが黒鉛層から放出されて、正極のLiCoO
2に取り込まれる。リチウムイオン2次電池の性能低下や劣化は、使用条件により電解液の分解やLiイオンの電極層間への固着等が生じることにより起こると考えられている。
【0005】
一般的に、リチウムイオン2次電池の劣化は、電池の材料・構造や製造法、充放電履歴等のデータから経験則に基づいて予測される。また、定量的にリチウムイオン2次電池の劣化の状態を把握するために、電池を解体して、電子顕微鏡、X線光電子分光(XPS)、X線吸収端構造(XANES)、グロー放電発光分析(GD−OES)等により、正極及び負極の電極材料の形態、化学結合状態、電子状態、局所構造等を調べ、電極活性物質の劣化状態から電池の劣化を評価する方法が開発されている。
【0006】
また、リチウムイオン2次電池の劣化評価においては、充放電サイクルのリチウムイオン2次電池内部の劣化部位及び劣化要因を解明することが重要であり、電池の劣化を非破壊分析法により定量化することが求められている。非破壊分析法としては、例えば、熱量測定法、電気化学インピーダンス法(例えば、特許文献1〜3、非特許文献1,2)が用いられている。
【0007】
電気化学インピーダンス法は、入力信号の周波数を低周波から高周波まで変化させ、その際のインピーダンス(電荷移動抵抗)の変化を複素平面上にプロットしたナイキスト線図(コールコールプロット)を求めて、電池内部の解析を行う解析方法である。電気化学インピーダンス法では、電池を充放電しながらリアルタイムに電池の劣化に関係する箇所(電解液の分解、電極構造の変化等)を特定できる利点がある。例えば、非特許文献1では、リチウムイオン2次電池に用いられる負極を充放電しながら、電気化学インピーダンスを測定し、測定された充放電時間毎のスペクトルから、負極のみの固体電解質界面(SEI)被膜の容量や電荷移動抵抗等の評価を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、電気化学インピーダンス法では、電池の充電放電時の正極及び負極の状態を個別に評価することが困難であった。
【0011】
例えば、特許文献1では、
図14に示すように、電流測定用WE
1と電圧測定用WE
2を正極5に接続し、電流測定用CE
1と電圧測定用REを負極6に接続し、この2極を端子としてインピーダンス測定を行っている。この方法では、正極5と負極6との間に電位(電流)の正弦波状入力信号をポテンショスタット・ガルバノスタット17により加え、応答電流(応答電圧)を測定して周波数応答解析装置18(FRA)を介して各周波数のインピーダンスを決定している。このような2極間の交流インピーダンス測定方法(2極式測定法)では、電池全体の性能を評価することはできるが、正極5及び負極6の状態を区別して評価することはできない。
【0012】
また、特許文献2,3及び非特許文献1では、例えば、
図15に示すように、電流測定用WE
1と電圧測定用WE
2を正極5に接続し、電圧測定用REを参照極7に、電流測定用CE
1を負極6に接続し、3極を端子としてインピーダンス測定を行っている。この方法では、正極5と参照極7との間の電位を規制して、正極5と負極6と間に正弦波状入力信号(電圧若しくは電流)をポテンショスタット・ガルバノスタット17により加える。そして、入力信号に応じて測定される応答電流(応答電圧)に基づいて、各周波数のインピーダンスを決定する。このような3極式測定方法の交流インピーダンス測定では、正極5または負極6どちらか一方のみの性能評価を行うことができるものの、正極5及び負極6の性能を同時に評価することが困難である。また、ハーフセルを用いた3電極式測定法では、正極5−負極6間の電位規制を行うことができない欠点を有する。
【0013】
上記事情に鑑み、本発明は、インピーダンス測定により電池の正極及び負極の状態を同時かつ個別に評価する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明の電池の評価方法の一態様は、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定するための参照極を有する電池の評価方法であって、電位規制中、正極と負極との間に異なる周波数の入力電圧を加えたときに、正極と負極との間に流れる応答電流及び正極と負極とにかかる応答電圧を測定し、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定し、前記応答電流と、正極と参照極の電位差と、に基づいて、正極と参照極との間のインピーダンスを算出し、前記応答電流と、負極と参照極の電位差と、に基づいて、負極と参照極との間のインピーダンスを算出することを特徴としている。
【0015】
また、上記目的を達成する本発明の電池の評価方法の他の態様は、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定するための参照極を有する電池の評価方法であって、電流規制中、正極と負極との間に異なる周波数の入力電流を流したときに、正極と負極との間にかかる応答電圧及び応答電流を測定し、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定し、前記応答電流と、正極と参照極の電位差と、に基づいて、正極と参照極との間のインピーダンスを算出し、前記応答電流と、負極と参照極の電位差と、に基づいて、負極と参照極との間のインピーダンスを算出することを特徴としている。
【0016】
また、上記目的を達成する本発明の電池特性評価装置の一態様は、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定するための参照極を有する電池を評価する電池特性評価装置であって、電位規制中に、正極と負極との間に異なる周波数の入力電圧を加える第1規制手段と、前記入力電圧が加えられたときに、正極と負極との間に流れる応答電流及び応答電圧を測定する測定手段と、正極と参照極の電位差を測定する正極電位測定手段と、負極と参照極の電位差を測定する負極電位測定手段と、前記応答電流と、正極と参照極の電位差と、に基づいて、正極と参照極との間のインピーダンスを算出する正極インピーダンス算出手段と、前記応答電流と、負極と参照極の電位差と、に基づいて、負極と参照極との間のインピーダンスを算出する負極インピーダンス算出手段と、上記算出した正極インピーダンス及び負極インピーダンスより正極と負極間のインピーダンスを算出する手段、を有することを特徴としている。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の電池特性評価装置の他の態様は、正極と参照極の電位差及び負極と参照極の電位差を測定するための参照極を有する電池を評価する電池特性評価装置であって、電流規制中に、正極と負極との間に異なる周波数の入力電流を流す第2規制手段と、前記入力電流が流れたときに、正極と負極との間に流れる応答電流及び正極と負極との間にかかる応答電圧を測定する測定手段と、正極と参照極の電位差を測定する正極電位測定手段と、負極と参照極の電位差を測定する負極電位測定手段と、前記応答電流と、正極と参照極の電位差と、に基づいて、正極と参照極との間のインピーダンスを算出する正極インピーダンス算出手段と、前記応答電流と、負極と参照極の電位差と、に基づいて、負極と参照極との間のインピーダンスを算出する負極インピーダンス算出手段と、上記算出した正極インピーダンス及び負極インピーダンスより正極と負極間のインピーダンスを算出する手段を有することを特徴としている。
【0018】
また、上記目的を達成する本発明の電池特性評価装置の他の態様は、電位または電流規制中に測定した正極と参照極間及び負極と参照極間のインピーダンス測定結果をin−situ 3D電気化学インピーダンス法により解析し、正極及び負極における瞬時のインピーダンスを導出するインピーダンス導出手段、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
以上の発明によれば、電池の正極及び負極の状態を同時かつ個別に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る電池の評価方法及び電池特性評価装置について、図面を参照して説明する。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る電池特性評価システム1は、測定対象となる電池2の電極のインピーダンスを測定するインピーダンス測定装置3と、インピーダンス測定装置3の測定結果を解析する解析装置4と、を有する。
【0023】
電池2は、例えば、
図2(a)に示すようなリチウムイオン2次電池である。リチウムイオン2次電池は、例えば、LiCoO
2を含有する正極5と、天然グラファイトを有する負極6と、リチウム箔からなる参照極7とを有する。正極5と負極6とはポリプロピレン等により形成されるセパレータ8を介して対向して設けられ、正極5と負極6との間には電解液(例えば、1M LiPF
6を含有するEC/EMC溶液(容量比でEC:EMC=3:7))が充填される。
【0024】
インピーダンス測定装置3は、
図3に示すように、正極5−負極6間の電位(または電流)を規制して正極5−負極6間の電流(及び電位)を測定する制御部9と、周波数応答解析部10(FRA)と、を有する。
【0025】
制御部9は、例えば、ポテンショスタット・ガルバノスタットであり、周波数応答解析部10からの入力信号に基づいて、正極5−負極6間に周波数の異なる電位信号(または電流信号)を入力し、入力信号に応じて測定される正極5−負極6間を流れる電流及び正極5−負極6間の電位差を応答信号として周波数応答解析部10に出力する。具体的に説明すると、電位規制モードでは、正極5−負極6間の電位規制中に、正極5−負極6間に異なる周波数の入力信号(電位)を入力し、正極5−負極6間で測定された電流及び電位差を応答信号として周波数応答解析部10に出力する。また、電流規制モードでは、正極5−負極6間の電流規制中に、正極5−負極6間に異なる周波数の入力信号(電流)を入力し、正極5−負極6間で測定された電流及び電位差を応答信号として周波数応答解析部10に出力する。
【0026】
周波数応答解析部10は、制御部9にインピーダンスを測定するための入力信号を送信し、制御部9から出力される応答信号(電流及び電位差)を受信する。また、周波数応答解析部10は、正極5−参照極7間の電位差を測定する第1測定部11と、負極6−参照極7間の電位差を測定する第2測定部12とを有する。周波数応答解析部10は、応答信号(電流値)と第1測定部11で測定された電位差V
2に基づいて、正極5−参照極7間のインピーダンスを算出する。また、応答信号(電流値)と第2測定部12で測定された電位差V
3に基づいて、負極6−参照極7間のインピーダンスを算出する。
【0027】
解析装置4は、制御部9及び周波数応答解析部10を制御し、充放電中の瞬時のインピーダンスを導出できるin−situ 3D電気化学インピーダンス法により、測定データの解析を行う。例えば、解析装置4は、正極5−参照極7間のインピーダンス算出結果に基づいて、正極5の電極特性解析を行い、負極6−参照極7間のインピーダンス算出結果に基づいて、負極6の電極特性解析を行う。
【0028】
[インピーダンス測定装置による測定方法]
(1)電位規制モード(ポテンショスタットモード)
制御部9の電圧測定用WE
2と電圧測定用CE
2とにより、電池全体の電位を規制して、正極5−負極6間電位差(V
1)及び電流測定用WE
1及び電流測定用CE
1を流れる電流(I)を測定する。
【0029】
第1測定部11にて、正極5−参照極7間の電位差(V
2)を測定し、周波数応答解析部10が、第1測定部11の測定結果(V
2)と電流(I)に基づいて、正極5−参照極7間のインピーダンス(Z
anode=V
2/I)を算出する。同様に、第2測定部12にて、負極6−参照極7間の電位差(V
3)を測定し、周波数応答解析部10が、第2測定部12の測定結果(V
3)と電流(I)に基づいて、負極6−参照極7間のインピーダンス(Z
cathode=V
3/I)を算出する。なお、正極5−負極6間のインピーダンス(Z
cell)は、Z
cell=Z
anode+Z
cathodeにより算出される。
【0030】
(2)電流規制モード(ガルバノスタットモード)
制御部9の電流測定用WE
1と電流測定用CE
1とにより、電池全体の電流を規制して、正極5−負極6間電位差(V
1)及び電流測定用WE
1及び電流測定用CE
1を流れる電流(I)を測定する。
【0031】
第1測定部11にて、正極5−参照極7間の電位差(V
2)を測定し、周波数応答解析部10が、第1測定部11の測定結果(V
2)と電流(I)に基づいて、正極5−参照極7間のインピーダンス(Z
anode=V
2/I)を算出する。同様に、第2測定部12にて、負極6−参照極7間の電位差(V
3)を測定し、周波数応答解析部10が、第2測定部12の測定結果(V
3)と電流(I)に基づいて、負極6−参照極7間のインピーダンス(Z
cathode=V
3/I)を算出する。なお、正極5−負極6間のインピーダンス(Z
cell)は、Z
cell=Z
anode+Z
cathodeにより算出される。
【0032】
[解析装置における解析方法]
従来の電気化学インピーダンス測定法では、電池の充電深度(SOC:State Of Charge)特性を得たい場合、目的の電圧あるいは電荷量となるように充電または放電し、その電圧において平衡状態になるまで静置した後インピーダンス測定を行っていた。この方法は、充放電試験をその都度止める必要があるため、正確な充放電時間を把握できなかった。また、電池から得るべき重要な情報である充放電時の電池の挙動に関するインピーダンスの評価はできなかった。
【0033】
また、不変性が満足されない電極のインピーダンス測定をした場合、高周波数域では短時間でインピーダンスが測定されるが、低周波数域での測定には比較的時間がかかるため、低周波数域のインピーダンススペクトルが歪むこととなる(例えば、
図4(d)の実線部)。そのため、容量性半円が真円からずれてしまい、等価回路を用いて、フィッティング等を用いた正確な解析ができなくなるおそれがあった。
【0034】
そこで、解析装置4では、
図4に示すような、in−situ 3D電気化学インピーダンス法(例えば、非特許文献1)を用いて正極5及び負極6の評価を行った。in−situ 3D電気化学インピーダンス法は、実数及び虚数並びに時間をデータとして記録し、得られたデータを時間軸を含む三次元上に表示する方法である。
【0035】
in−situ 3D電気化学インピーダンス法は、連続的に測定したインピーダンス測定結果を各スペクトルの同一周波数の箇所をスプライン関数で結び、インピーダンススペクトルの時間変化を視覚化する。そして、インピーダンスの立体を時間軸に垂直な平面(すなわち、各インピーダンスの測定時間)での断面をとることによって瞬間のインピーダンスを導出する。その結果、測定時間の違いによるインピーダンススペクトルの歪みを補正したスペクトルを得ることができる。
【0036】
つまり、複素平面に時間軸を加えた空間において、得られたインピーダンスを3次元上の曲線として表現する(
図4(a))。次に、同一周波数のプロットをスプライン関数のような曲線近似関数で結ぶことで各時刻におけるインピーダンスの測定値を示す曲面を得る(
図4(b))。この曲面を、ある時間tにおける時間軸に垂直な平面で断面をとると、この断面が時間tにおける瞬間のインピーダンスとなる(
図4(c))。このようにして、すべてのプロットが同一時刻上で得られたことになるので、インピーダンス測定の経過時間によるナイキスト線図の歪みが補正されることとなる(
図4(d))。
【0037】
[参照極の配置について]
3電極式の電池2における参照極7の配置位置について、有限要素法(FEM)を用いて検討した。有限要素法による解析は、幅20mm、厚さ5mmの正極5及び負極6を、厚さ5mmの電解液を介して対向配置し、電極界面を0.001mmと設定したモデルで行った。電極界面は反応界面を模擬しており、電荷移動抵抗R
ctと電気二重層容量C
dlを持つ。これらの値は、電極界面の比抵抗ρと比誘電率ε
rで設定した。具体的には、電解液の比抵抗ρを10Ω・m、比誘電率ε
rを80.4、正極5側の電極界面の比抵抗ρを10
7Ω・m、比誘電率ε
rを80.4、負極6側の電極界面の比抵抗ρ及び比誘電率ε
rの値を変化させて解析を行った。インピーダンススペクトルの計算における周波数領域は、1mHz〜1MHzとした。各測定周波数における電流線分布の解析結果を
図5に示す。
【0038】
図5に示すように、正極5−負極6間に印加する交流電圧信号の周波数によって、電解質内の電流線分布が異なることがわかった。インピーダンス測定においては、周波数による電流線分布に変化が無い点(すなわち、電流線分布を乱さない位置)に参照極7を配置することが好ましい。よって、参照極7は、電極(正極5及び負極6)の端部から離間して配置する、より好ましくは、40mm以上離間して配置する。
【0039】
参照極7の位置によるインピーダンス測定結果の違いについて、
図6を参照して説明する。正極5と負極6との間に参照極7を配置した場合(すなわち、
図5(c)の×印の位置)、2電極式インピーダンス測定で得られた結果と3電極式インピーダンス測定で得られた結果と大きくずれることとなる。一方で、参照極7を電流線分布の影響が小さい位置に配置することで、2電極式インピーダンス測定で得られた結果と3電極式インピーダンス測定で得られた結果とが一致した。
【0040】
[実施例1]
図2に示した電池2(リチウムイオン2次電池)の正極5及び負極6のインピーダンス測定を行った。正極5及び負極6並びに電池全体のインピーダンス測定結果を
図7に示す。
【0041】
図3に示したように、正極5、負極6及び参照極7を有する3電極電気化学セルを用い、正極5に電流測定用WE
1及び電圧測定用WE
2を接続し、負極6に電流測定用CE
1及び電圧測定用CE
2を接続した。参照極7には参照極REを接続した。
【0042】
制御部9により、電圧測定用WE
2と電圧測定用CE
2の電位を3.857Vに規制し、且つ正極5−負極6間に交流電圧(例えば、振幅が10mV以内の交流電圧)を印加して、電流測定用WE
1と電流測定用CE
1間を流れる電流(I)を測定した。そして、第1測定部11により正極5−参照極7間の電位差(V
2)を測定し、測定された電位差(V
2)及び電流(I)に基づいて、正極5−参照極7間のインピーダンス(Z
anode=V
2/I)を算出した。同様に、第2測定部12にて、負極6−参照極7間の電位差(V
3)を測定し、測定された電位差(V
3)と電流(I)に基づいて、負極6−参照極7間のインピーダンス(Z
cathode=V
3/I)を算出した。なお、正極5−負極6間のインピーダンス(Z
cell)は、Z
cell=Z
anode+Z
cathodeにより算出した。
【0043】
図7に示すように、本発明の実施形態に係るインピーダンス測定装置3によれば、正極5と負極6とのインピーダンスを個別に測定することができた。また、正極5のインピーダンスの測定結果と負極6のインピーダンスの測定結果との和により算出される電池全体のインピーダンスが、正極5−負極6間の2極間でインピーダンス測定を行った結果と一致しており、正極5と負極6との和により電池全体のインピーダンスが求められることが確認できた。
【0044】
特に、本発明の実施形態に係るインピーダンス測定装置3によれば、1kHz以上の高周波帯域(図中に丸で示す部分)での測定が可能であり、正極5のインピーダンスの測定結果では、電池全体の結果では埋もれてしまうような小さい半円を測定することができた。
【0045】
[参考例]
参考例として、
図8に示すインピーダンス測定システム13により、電池2の正極5及び負極6のインピーダンス測定を行った。
【0046】
インピーダンス測定システム13は、正極5−負極6間の電位差(または電流)を規制する制御装置14と、正極5−参照極7間の電位差を測定する第1測定装置15と、負極6−参照極7間の電位差を測定する第2測定装置16を有する。
【0047】
実施例1と同様に、制御装置14により、電圧測定用WE
2と電圧測定用CE
2の電位を規制して、電流測定用WE
1と電流測定用CE
1間を流れる電流(I)を測定した。そして、第1測定装置15及び第2測定装置16により、それぞれ正極5−参照極7間の電位差(V
2)及び負極6−参照極7間の電位差(V
3)を測定した。
【0048】
図9に、インピーダンス測定システム13による、正極5及び負極6並びに電池全体のインピーダンス測定結果を示す。
図9から明らかなように、参考例に係るインピーダンス測定システム13においても、正極5及び負極6のインピーダンスを同時にそれぞれ評価できた。
【0049】
しかし、
図7に示した実施例1の結果と比較して、参考例のインピーダンス測定システム13では、高周波領域での測定が困難であり、実施例1のような正極における小さな半円を測定することはできなかった。
【0050】
これは、電流を測定する制御装置14と、正極5−参照極7間(及び負極6−参照極7間)の電位差を測定する測定装置15,16とを個別に設けたことにより、電位信号の遅れが生じたことや配線によるノイズの影響による等の理由によるものと考えられる。
【0051】
[実施例2]
実施例2では、インピーダンス測定装置3の測定結果を等価回路に基づいて解析し、正極5及び負極6の評価を行った。
【0052】
インピーダンスの測定は、電流規制により、1.178mA(1Cレート)で充電するのと同時に、交流電位応答の振幅が10mV以内となるように正極5−負極6間に交流電流を重畳して連続的に行った。1Cレートとは、電池2の理論容量を1時間で放電または充電する電流値のことである。なお、測定周波数範囲は100mHz〜100kHz、対数挿引の1桁5点で高周波数側から測定した。充放電範囲は2.7V−4.2Vとした。リチウムイオン2次電池の充電曲線と正極5、負極6及び電池全体の3Dインピーダンス(2s−7570s)の測定結果を
図10に示す。
【0053】
図10に示すように、時間軸を含むナイキスト線図のインピーダンスプロットの時間軸と充電曲線の容量軸が対応しており、電池2全体並びに正極5及び負極6それぞれについて充電(電流規制)と同時にインピーダンス測定が可能であった。
【0054】
次に、in−situ 3D電気化学インピーダンス法により、
図10に示したインピーダンスの曲面をある時間tにおける時間軸に垂直な平面で断面をとり、瞬間のインピーダンスを決定した。ここで求めた瞬間のインピーダンスは特定の充電状態におけるインピーダンスである。得られたインピーダンスに対して等価回路を用いてフィッティングを行い、正極5及び負極6の解析を行った。
【0055】
正極5及び負極6の解析は、
図11(a)に示す電池モデルにより導出した等価回路(
図11(b))に基づいて行った。この等価回路は、従来報告されている等価回路とは異なり、負極6のワールブルグインピーダンスW
N(拡散のインピーダンス)を溶液抵抗R
solと直列に配置した等価回路を用いている。このような等価回路を用いることで、フィッティング精度が向上した。
【0056】
フィッティングにより、正極5及び負極6の充放電速度の違いによる電荷移動抵抗R
ctと固体電解質界面(SEI)抵抗R
fのSOCの依存性を解析した。
【0057】
図12に示すように、正極5の電荷移動抵抗R
ctはSOCの増加に伴い減少していることが確認され、その減少傾向は充放電速度に依存した。また、充放電でヒステリシスループとなっていることより、充電時と放電時においてコバルト酸リチウムの反応は非可逆であることが示唆された。一方、SEI抵抗R
fはSOC及び充放電速度の依存性はみられなかった。
【0058】
また、
図13に示すように、負極6の電荷移動抵抗R
ctはSOCの増加に伴い減少していることが確認され、その減少傾向は充放電速度に依存したが、正極5より小さい傾向であった。また、充放電でヒステリシスループとなっていることより、充電時と放電時においてLiイオンのグラファイトへの挿入(離脱)の反応は非可逆であることが示唆された。インピーダンススペクトルの等価回路モデルを用いて、負極6(グラファイト)上に形成される被膜の被膜抵抗の充放電に伴う変化を評価したところ、高速充放電時(1.5Cレート)では、充電時と放電時では固体電解質界面(SEI)被膜抵抗の値が大きく異なることを発見した。
【0059】
以上のような本発明の実施形態に係る電池の評価方法及びインピーダンス測定装置3によれば、電位または電流規制中(充放電時)に、正極5と参照極7間及び負極6と参照極7間のインピーダンス測定、及びそのインピーダンスの測定結果をin−situ 3D電気化学インピーダンス法により算出した瞬時のインピーダンスを導出することにより、電池2の正極5及び負極6の状態を同時かつ個別に評価することができる。すなわち、充放電時における正極5及び負極6並びに電池2全体の評価を行うことができる。
【0060】
特に、本発明の実施形態に係る電池の評価方法及びインピーダンス測定装置3によれば、高周波帯域(1kHz)以上の評価を正確に行うことができるので、電池2の特性評価をより詳細に行うことができる。
【0061】
また、参照極7を、電流線分布を乱さず、各周波数の入力信号での電位変化の少ない位置に配置することで、2電極式のインピーダンス測定方法とほぼ同じインピーダンス測定結果を得ることができ、より正確な電極の評価を行うことができる。
【0062】
また、本発明の実施形態に係る電池の評価方法及びインピーダンス測定装置3によれば、従来技術と異なり、正極5−負極6間で電位規制でき、且つ、正極5−負極6間、正極5−参照極7間、負極6−参照極7間の電位を同時に計測できる。これに対して、従来技術(例えば、非特許文献1)のようなハーフセルの場合は、参照極7に対する正極5(または、負極6)の電位を規制するので、正極5−負極6間の電位規制を行うことができない。そして、測定できる電位差も参照極7に対する正極5(または、負極6)の1箇所に限られることとなる。
【0063】
例えば、リチウムイオン2次電池の場合、一般的に3.7Vから4.2Vで充放電が繰り返される。つまり、電流規制でリチウムイオン2次電池の特性を評価する場合、充電は3.7Vで開始し、4.2Vで停止するように規制される。また、放電は、4.2Vで開始し、3.7Vで停止するように規制される。このように、正極5−負極6間の電位差は、充放電の規制に使用される。また、電位規制でリチウムイオン2次電池の特性を評価する場合は、例えば、SOC特性を得たい場合に目的の電圧あるいは電荷量となるように充電または放電し、その電圧において平衡状態となるまで静置した後、目的の電圧に規制してインピーダンス測定が行われる。
【0064】
以上、本発明の電池の評価方法及び電池特性評価装置について、好ましい形態を例示して説明したが、本発明の電池の評価方法及び電池特性評価装置は、実施形態に限定されるものではなく、発明の技術的特徴を損なわない範囲で適宜設計変更が可能であり、設計変更された形態も本発明の技術的範囲に属する。
【0065】
例えば、測定対象となる電池2は、リチウムイオン2次電池に限定されるものではなく、種々の1次電池や2次電池、または、色素増感太陽電池やバイオ燃料電池等の解析に用いることができる。よって、正極5・負極6・参照極7及び電解液は、測定対象となる電池の種類によって適宜最適なものが選択される。
【0066】
また、実施形態の説明では、インピーダンス測定装置3と解析装置4とが個別の装置として記載されているが、インピーダンス測定装置3と解析装置4とを一体とした装置を用いることもできる。
【0067】
また、実施形態では、正極5−参照極7とのインピーダンス測定結果と、負極6−参照極7とのインピーダンス測定結果に基づいて、正極5−負極6のインピーダンスを求めているが、3chの周波数応答解析装置(FRA)を用いれば、正極5−負極6間の電位差に基づいて、直接正極5−負極6間のインピーダンスを算出することもできる。