【実施例】
【0030】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の最良な実施形態の一例であるものの、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
本実施例に使用される支持体として、スライドガラス基板を用意した。次に、ナフィオン溶液(濃度50g/L)を用意した。また、水200mLにメチレンブルー25gを添加して、メチレンブルー水溶液(濃度0.6g/L)を調製した。ナフィオン溶液100μLをスライドガラス基板上に滴下し、次いで、調製したメチレンブルー水溶液200μLをその上から滴下して、塗膜を形成した。その後、ドライヤーで塗膜中の水分を蒸発させて、検知層を形成した。こうして、本発明のインジケータを製造した。
【0032】
以下に示す条件で、本実施例で製造したインジケータの検知特性を測定した。すなわち、高湿度環境下で紫外線(UV)ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0033】
紫外線により発生する活性酸素を利用した洗浄機であるアクティブドライ(登録商標、医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、上記製造したインジケータを設置した。そして、アクティブドライ内が高湿度環境(湿度90%RH以上、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。詳細には、空気を30℃の水でバブリングした気体をアクティブドライの内部に通気させて、アクティブドライ内を高湿度に制御した。その後、高湿度環境下で、インジケータに紫外線を10〜30分間照射した。なお、本明細書で使用したアクティブドライは、湿度環境を変化させることができるように改造したものを使用した。
【0034】
高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータは透明であった。
【0035】
次に、目視観察したインジケータについて、紫外可視分光光度計を用いて、透過率を測定した。その結果を
図1に示す。
図1は、高湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータと紫外線未照射のインジケータの透過スペクトルを示すものである。透過率を測定した結果、高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータにおいて、波長600〜800nmの透過率が最大で約40%増加した。
【0036】
高湿度環境下で紫外線を照射したインジケータについて、波長745nmにおける吸光度を測定した結果を
図2に示す。紫外線の照射時間の経過に伴い、吸光度が減少した。そして、紫外線の照射時間と吸光度は線形関係であることがわかった。すなわち、本発明のインジケータは、定量的な測定も可能であることがわかった。
【0037】
次に、インジケータの検知層に含まれる色素成分を溶液に抽出し、その抽出溶液の吸光度を測定した。詳細には、インジケータをエタノール5mlに浸漬させて38kHzの超音波を1分間照射した。こうして、インジケータの色素成分を抽出した。インジケータを超音波処理して得られた抽出溶液について、紫外可視分光光度計を用いて、波長650nmにおける吸光度を測定した。その結果を
図4に示す。高湿度環境下で紫外線を30分間照射させたインジケータから得られた抽出溶液の吸光度は、未処理のインジケータから得られた抽出溶液の吸光度に比べて大幅に減少した。
【0038】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、低湿度環境下で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0039】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、上記製造したインジケータを設置した。そして、アクティブドライ内が低湿度環境(湿度20%RH以下、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。詳細には、空気をシリカゲルで乾燥させた30℃の気体をアクティブドライの内部に通気させて、アクティブドライ内を低湿度に制御した。その後、低湿度環境下で、インジケータに紫外線を10〜30分間照射した。
【0040】
低湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータの色の変化はあまりみられなかった。
【0041】
次に、目視観察したインジケータについて、紫外可視分光光度計を用いて、透過率を測定した。その結果を
図3に示す。
図3は、低湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータの透過スペクトルである。透過率を測定した結果、低湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータは、未処理のインジケータと比較して、透過率の変化はみられなかった。
【0042】
次に、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液について、紫外可視分光光度計を用いて、波長650nmにおける吸光度を測定した。その結果を
図4に示す。低湿度環境下で紫外線を30分間照射させたインジケータから得られた抽出溶液の吸光度は、未処理のインジケータから得られた抽出溶液の吸光度と同程度であった。
【0043】
[比較例2]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、空気中で紫外線ランプ(波長254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0044】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長254nm)、岩崎電気製)内に、インジケータを設置した。その後、インジケータに紫外線を30分間照射した。紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータの色の変化はみられなかった。
【0045】
[比較例3]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、オゾンに対する検知特性を調査した。
【0046】
インジケータに対して、空気中で、紫外線を照射せずに、オゾナイザー(YGR−203N、レイシー社製)を用いてオゾンを30分間暴露させた。
【0047】
その後、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液を目視観察した結果、オゾン未暴露のインジケータの色素成分をエタノール中に抽出した溶液と比較して、色の変化はみられなかった。さらに、抽出溶液の透過率および波長650nmにおける吸光度を測定した結果、どちらもオゾン未暴露のインジケータの場合と同程度の透過率および吸光度であった。
【0048】
[比較例4]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、真空中で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0049】
真空中で紫外線により発生する活性酸素をインジケータに暴露することができる真空対応装置を作製した。詳細には、内径260mm、長さ440mmの円筒体の真空チャンバーを用意した。また、真空チャンバーの内部は、インジケータと紫外線ランプとの間の距離、つまり紫外線照射距離を約120mmになるような構成とした。
【0050】
作製した真空対応装置の内部に、インジケータを設置した。そして、真空対応装置の内部が真空(5Pa)になるように、雰囲気を制御した。その後、真空中で、インジケータに紫外線を15分間照射した。
【0051】
その後、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液を目視観察した結果、紫外線未照射のインジケータの色素成分をエタノール中に抽出した溶液と比較して、色の変化はみられなかった。さらに、抽出溶液の透過率および波長650nmにおける吸光度を測定した結果、どちらも紫外線未照射のインジケータの場合と同程度の透過率および吸光度であった。
【0052】
[比較例5]
実施例1と同様の方法でメチレンブルー水溶液を調製した。そして、調製したメチレンブルー水溶液のオゾンに対する反応性を調査した。なお、本比較例の目的は、実施例1のインジケータの検知層に含まれるスルホ基を有するフッ素系樹脂を除いた構成に相当するインジケータ、すなわち、支持体と支持体上に形成されたメチレンブルーからなる検知層とを有するインジケータについて、オゾンの検知特性を調査することである。
【0053】
メチレンブルー水溶液をセルに入れた。そして、セル内のメチレンブルー水溶液に対して、空気中で、紫外線を照射せずに、オゾナイザー(YGR−203N、レイシー社製)を用いてオゾンを10〜15分間暴露させた。オゾンを暴露した溶液について、目視により観察した。その結果、オゾン未暴露の溶液は青色を呈していたが、オゾンの暴露時間の経過に伴い、オゾン暴露後の溶液における透過率の増加がみられた。そして、オゾンを15分間暴露した溶液は、ほぼ透明であった。
【0054】
実施例1および比較例1〜5から、以下のことがわかった。実施例1において、本発明のインジケータは、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知した。比較例1において、本発明のインジケータは、低湿度環境(湿度20%RH以下)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例2において、本発明のインジケータは、空気中で紫外線ランプ(波長254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例3において、本発明のインジケータは、オゾンを検知しなかった。比較例4において、本発明のインジケータは、真空中で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例5において、本発明のインジケータの検知層に含まれるスルホ基を有するフッ素系樹脂を除いた構成に相当するインジケータ、すなわち、支持体と支持体上に形成されたメチレンブルーからなる検知層とを有するインジケータは、オゾンを検知した。
【0055】
以上から、本発明のインジケータは、特定の活性酸素を特異的に検知することを見出した。特定の活性酸素とは、オゾンではなく、かつ、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素である。詳細には、本発明のインジケータの検知可能な活性酸素は、構成元素として水素原子を有する活性酸素、例えばヒドロキシルラジカルなどである。その一方、構成元素として水素原子を有しない活性酸素は、本発明のインジケータで検知しない。
【0056】
すなわち、本発明のインジケータは、例えばオゾンとヒドロキシルラジカルとを識別することができることから、水素原子を含む活性酸素を選択的に検知する色素センサとして応用できることが示唆された。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でインジケータ製造した。また、枯草菌の芽胞体(ATCC6630)を用意した。そして、枯草菌について、以下に示す条件で、高湿度環境下および低湿度環境下で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素の滅菌効果を調査した。
【0058】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、インジケータおよび枯草菌を設置した。そして、実施例1および比較例1と同様の方法で、アクティブドライ内が高湿度環境(湿度90%RH以上、温度:30〜35℃)および低湿度環境(湿度20%RH以下、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。その後、高湿度環境下および低湿度環境下で、インジケータおよび枯草菌に紫外線を30分間照射した。
【0059】
紫外線照射時間と菌生残数との関係を
図5に示す。低湿度環境下で紫外線を照射させた場合には、一定数の枯草菌が生残していた。一方、高湿度環境下で紫外線を照射させた場合には、枯草菌が完全に死滅していた。さらに、高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータを目視により観察した結果、実施例1と同様に、青色から透明への色結果を生じた。
【0060】
実施例2の結果より、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素は、枯草菌に対して、強力な滅菌効果を示すことがわかった。このとき、インジケータは色の変化を生じていた。こうしたことから、オゾンのような構成元素として水素原子を有しない活性酸素に比べて、水素原子を含む活性酸素、例えば酸化力の高いヒドロキシルラジカルは、枯草菌に対して、より強力な滅菌効果があることが示唆された。以上のように、本発明のインジケータは、医療やバイオなどの分野にも活用できることを見出した。