特許第6337235号(P6337235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337235医療用インジケータ、および医療用滅菌容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337235
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】医療用インジケータ、および医療用滅菌容器
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20180528BHJP
   A61L 2/26 20060101ALI20180528BHJP
   G01N 31/22 20060101ALI20180528BHJP
   A61J 1/00 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
   G01N31/00 M
   A61L2/26
   G01N31/22 121A
   A61J1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-36939(P2014-36939)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-161585(P2015-161585A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年12月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000000192
【氏名又は名称】岩崎電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】岩森 暁
(72)【発明者】
【氏名】大家 渓
(72)【発明者】
【氏名】宮本 将伍
(72)【発明者】
【氏名】大西 康貴
(72)【発明者】
【氏名】木下 忍
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 達行
(72)【発明者】
【氏名】吉野 潔
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野田 和俊
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−278926(JP,A)
【文献】 特開2005−140531(JP,A)
【文献】 特開平02−252739(JP,A)
【文献】 特開2007−040785(JP,A)
【文献】 特開平05−212095(JP,A)
【文献】 特表2000−512904(JP,A)
【文献】 特表2003−515744(JP,A)
【文献】 特開2010−012218(JP,A)
【文献】 特表2009−513977(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0054412(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
A61J 1/00
A61L 2/26
G01N 31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として水素原子を有する活性酸素を検知する医療用インジケータであって、
該インジケータは、支持体と、該支持体上に形成された検知層とを有し、
該検知層は、スルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーからなることを特徴とするインジケータ。
【請求項2】
前記インジケータは、水素原子を含む活性酸素を選択的に検知する、請求項1に記載のインジケータ。
【請求項3】
前記構成元素として水素原子を有する活性酸素は、ヒドロキシルラジカルを含む、請求項1または2に記載のインジケータ。
【請求項4】
構成元素として水素原子を有する活性酸素で対象物を滅菌するための医療用滅菌容器であって、
該滅菌容器の内部に、請求項1〜のいずれか1項に記載のインジケータと、該対象物とを有することを特徴とする滅菌容器。
【請求項5】
前記滅菌容器の少なくとも一部は、波長185nmおよび波長254nmの紫外線を透過する部材から構成される、請求項に記載の滅菌容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体や液体に含まれる活性酸素を検知するためのインジケータ、およびインジケータを有する医療用滅菌容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、食品、バイオなどの幅広い分野において、微生物やウイルス等による汚染を防ぐために、対象物を殺菌または滅菌(以下、単に滅菌という)することが必須である。対象物を滅菌する方法として、人工的に生成させた活性酸素を対象物に暴露することにより、対象物の表面に付着していた微生物やウイルスを死滅させる方法などが知られている。
【0003】
こうした現状から、最近では、気体や液体中の活性酸素を検知・モニタリングできる技術の確立が求められている。活性酸素とは、一般的に、大気中の酸素よりも活性化された酸素とその関連分子の総称をいい、細胞に対して酸素障害を引き起こす活性種全般を指す。
【0004】
例えば、特許文献1には、QCM(水晶振動子マイクロバランス)法を用いた測定装置を使用して、基板上に配置された水晶振動子の抵抗値を測定することによって、活性酸素をモニタリングすることが開示されている。また、特許文献2には、酸化還元色素の色の変化を利用した酸素インジケータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−285742号公報
【特許文献2】特開2000−214152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的に、QCM法を利用した測定装置は、非常に高価である。さらには、専用のリーダーを用いてセンシング部分をモニタリングしなければならないなど、測定装置の操作が非常に煩雑である。また、引用文献2に開示される酸素インジケータにおいては、酸化力の劣るオゾンによっても色素の色の変化を生じている可能性がある。また、医療分野などでの活性酸素を利用した滅菌方法では、活性酸素のうち、ある一定以上の酸化力を有する活性酸素(例えば、ヒドロキシルラジカルは含むがオゾンは含まない)(以下、特定の活性酸素ともいう)が、対象物の滅菌に有効であると考えられる。
【0007】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、安価かつ簡便な操作で、特定の活性酸素を選択的に検知することができる、インジケータを提供することを目的とするものである。さらに、本発明は、インジケータを有する滅菌容器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、特定の活性酸素を検知する医療用インジケータであって、該インジケータは、支持体と、該支持体上に形成された検知層とを有し、該検知層は、スルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーからなることを特徴とするインジケータが提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、特定の活性酸素で対象物を滅菌するための医療用滅菌容器であって、該滅菌容器の内部に、上記インジケータと、該対象物とを有することを特徴とする滅菌容器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】高湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータの透過スペクトルを示す図である。
図2】高湿度環境下で紫外線を照射したインジケータの波長745nmにおける吸光度を示す図である。
図3】低湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータの透過スペクトルを示す図である。
図4】高湿度環境下および低湿度環境下で紫外線を照射したインジケータの波長650nmにおける吸光度を示す図である。
図5】高湿度環境下および低湿度環境下で紫外線を照射した枯草菌の菌生残数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のインジケータおよび滅菌容器の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明のインジケータは、少なくとも、支持体と、支持体上に形成された検知層とを有する。インジケータを構成する検知層は、化学構造にスルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーからなる。
【0013】
スルホ基を有するフッ素系樹脂としては、例えば、下記式(1)で表される構造を有する化合物であるナフィオン(Nafion)(登録商標、DuPont社製)が挙げられる。
【0014】
【化1】
上記式(1)中、xは任意の整数であり、mは任意の整数である。
【0015】
本発明のインジケータは、気体中および液体中に含まれる活性酸素を検知することができる。インジケータの検知可能な活性酸素の濃度域は、数十%の高濃度からppmオーダーの極低濃度まで、非常に広い。例えば、本発明のインジケータを用いることにより、空気や血液中に含まれる活性酸素を検知することが可能である。
【0016】
インジケータによる活性酸素の検知の有無の判断には、検知層を構成しているメチレンブルーのプロトン授受反応に伴うメチレンブルーの色の変化を利用している。活性酸素を検知する前の検知層は、メチレンブルーによる青色を呈している。ここで、インジケータを構成している検知層の表面に活性酸素が吸着すると、メチレンブルーと活性酸素とが反応する。青色を呈していたメチレンブルーにプロトンが結合すると、メチレンブルーは脱色する。すなわち、検知層の青色が薄くなり、最終的に、検知層は透明になる。メチレンブルーと活性酸素との反応によりメチレンブルーが脱色することから、検知層はメチレンブルーと活性酸素との反応量に応じた色消失を示す。このように、本発明のインジケータによる活性酸素の検知の有無は、検知層の色の変化に基づいて判断する。
【0017】
検知層の色の変化、つまり、活性酸素の検知の有無の判断方法は、特には限定されない。例えば、目視観察や光学的な分析装置を用いて判断することができる。また、活性酸素を検知する前後のインジケータの検知層に含まれる青色の色素成分を所定の溶液に抽出させて得られる抽出溶液について、同様に、目視観察や光学的な分析装置を用いて判断してもよい。検知層から青色の色素成分を抽出させるときに用いられる溶液は、インジケータによる活性酸素の検知の有無の判断に影響を与えなければ限定されず、例えば、エタノールが挙げられる。また、色素成分の抽出方法についても、特には限定されない。一例として、所定の溶液に浸漬させたインジケータに対して、超音波処理などの所定のプロセスを施すことにより、色素成分の抽出を行うことができる。なお、抽出方法には、あらかじめインジケータから剥離させた検知層を用いてもよい。
【0018】
本発明のインジケータは、活性酸素のなかでも、オゾンをほとんど検知せずに、酸化力の高いヒドロキシルラジカル(OH)など、構成元素として水素原子を有する活性酸素を検知する。なお、本発明のインジケータが特定の活性酸素を選択的に検知する理由について、完全には明らかになっていないが、本発明者らは以下のように考えている。
【0019】
本来、メチレンブルーは、オゾンを含む活性酸素種全般に対して、反応性を有する。一方、本発明のインジケータを構成する検知層は、スルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーからなる。検知層内でのスルホ基を有するフッ素系樹脂とメチレンブルーとの結合状態は、スルホ基を有するフッ素系樹脂とメチレンブルーとが完全に反応して新たな化合物が生成されるようなものではなく、スルホ基を有するフッ素系樹脂の一部位とメチレンブルーの一部位とが結合、おそらくは、スルホ基を有するフッ素系樹脂の化学構造中のスルホ基と下記式(2)のメチレンブルーの硫黄原子とが局所的に結合した構造状態を形成する。このとき、メチレンブルーは局所的にスルホ基を有するフッ素系樹脂と結合していることから、メチレンブルーの青色を呈する構造が維持され、検知層は青色を呈する。そして、スルホ基を有するフッ素系樹脂に局所的に結合したメチレンブルーの構造は、オゾンとほとんど反応せずに、構成元素として水素原子を有する活性酸素とだけ反応する。その結果、本発明のインジケータは特定の活性酸素を選択的に検知することができ、それに応じて、インジケータの検知層の色が青色から透明に変化するものと推測している。
【0020】
【化2】
【0021】
なお、本発明の検知層には、必要に応じて、インジケータの検知特性が劣化されない範囲において、各種添加物が含まれてもよい。各種添加物は、例えば、検知層の成形性や、検知感度の向上、耐久性の向上などの目的として、検知層に含まれる。
【0022】
本発明における支持体に用いられる材料としては、活性酸素に対して耐久性があり、検知層を担持することができればよく、リジッドな材料でも、フレキシブルな材料でもよい。
【0023】
本発明における検知層を構成するスルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーの組成比は、特には限定されない。例えば、活性酸素の検知判断時に行われる目視観察などの分析方法が容易である組成比が好ましい。
【0024】
本発明のインジケータの製造方法は、支持体上にスルホ基を有するフッ素系樹脂およびメチレンブルーからなる検知層を形成し、検知層内にスルホ基を有するフッ素系樹脂の一部位とメチレンブルーの一部位とが結合した結合体が存在するものであれば、特には限定されない。例えば、ナフィオンを所定の溶液に分散させたナフィオン溶液を支持体上に塗布し、メチレンブルーを所定の溶液に溶解させたメチレンブルー溶液をその上から塗布した後、所定の熱処理をすることにより、インジケータを製造することができる。
【0025】
各種溶液の塗布方法は、特には限定されず、目的に応じて適宜選択される。例えば、支持体上の所定の箇所に検知層を形成させたい場合や微小領域に検知層を形成させたい場合には、各種溶液を支持体上に滴下する方法が選択される。また、大面積の領域に検知層を形成させたい場合には、ディップコーティングやスピンコーティングなどが選択される。
【0026】
また、塗膜に対する所定の熱処理については、塗膜を構成する各種物質を分解せずに、塗膜を短時間に乾燥できる温度であれば、特には限定されない。なお、本発明のインジケータを製造する方法において、当該所定の熱処理は必ずしも必要な工程ではない。
【0027】
本発明のインジケータは、気体や液体中の特定の活性酸素に対して、特異的に検知することができる。活性酸素のなかでも、オゾンには反応せずに、酸化力の高いヒドロキシルラジカルなどの水素原子を含む活性酸素を選択的に検知することができる。すなわち、本発明のインジケータは、水素原子を含む活性酸素を選択的に検知する一方、構成元素として水素原子を有しない活性酸素を検知しない。例えば、本発明のインジケータは、オゾンとヒドロキシルラジカルとを識別することができる。したがって、本願発明のインジケータは、活性酸素を用いて対象物の表面に付着しているウイルスなどを死滅させる場合、ヒドロキシルラジカルのような酸化力の高い活性酸素を選択的に検知するインジケータとして使用することができる。
【0028】
本発明の滅菌容器は、少なくとも、活性酸素を用いて滅菌させる対象物と、上記のインジケータとを内部に有する。そして、滅菌容器の内部に活性酸素を通気、または滅菌容器の内部で活性酸素を発生して、対象物を活性酸素で滅菌する。このとき、対象物を滅菌する活性酸素が本発明のインジケータで検知可能な活性酸素、例えば酸化力の高いヒドロキシルラジカルの場合、滅菌効果の向上、滅菌処理時間の短縮が期待できる。
【0029】
本発明の滅菌容器を用いた滅菌処理方法は、特には限定されず、目的に応じて適宜選択される。例えば、本発明のインジケータと対象物とを内部に備える本発明の滅菌容器の少なくとも一部を波長185nmおよび波長254nmの紫外線を透過する部材から構成し、当該部材から波長185nmおよび波長254nmの紫外線を照射して滅菌容器の内部に構成元素として水素原子を有する活性酸素、例えばヒドロキシルラジカルを発生し、発生した活性酸素によって対象物を滅菌処理する。このような条件で発生する活性酸素は本発明のインジケータで検知可能であることから、本発明の滅菌容器を破壊せずに、本発明のインジケータを目視で観察するだけで、対象物の滅菌状況が簡易的に瞬時に判断することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。下記の実施例は、本発明の最良な実施形態の一例であるものの、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
本実施例に使用される支持体として、スライドガラス基板を用意した。次に、ナフィオン溶液(濃度50g/L)を用意した。また、水200mLにメチレンブルー25gを添加して、メチレンブルー水溶液(濃度0.6g/L)を調製した。ナフィオン溶液100μLをスライドガラス基板上に滴下し、次いで、調製したメチレンブルー水溶液200μLをその上から滴下して、塗膜を形成した。その後、ドライヤーで塗膜中の水分を蒸発させて、検知層を形成した。こうして、本発明のインジケータを製造した。
【0032】
以下に示す条件で、本実施例で製造したインジケータの検知特性を測定した。すなわち、高湿度環境下で紫外線(UV)ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0033】
紫外線により発生する活性酸素を利用した洗浄機であるアクティブドライ(登録商標、医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、上記製造したインジケータを設置した。そして、アクティブドライ内が高湿度環境(湿度90%RH以上、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。詳細には、空気を30℃の水でバブリングした気体をアクティブドライの内部に通気させて、アクティブドライ内を高湿度に制御した。その後、高湿度環境下で、インジケータに紫外線を10〜30分間照射した。なお、本明細書で使用したアクティブドライは、湿度環境を変化させることができるように改造したものを使用した。
【0034】
高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータは透明であった。
【0035】
次に、目視観察したインジケータについて、紫外可視分光光度計を用いて、透過率を測定した。その結果を図1に示す。図1は、高湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータと紫外線未照射のインジケータの透過スペクトルを示すものである。透過率を測定した結果、高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータにおいて、波長600〜800nmの透過率が最大で約40%増加した。
【0036】
高湿度環境下で紫外線を照射したインジケータについて、波長745nmにおける吸光度を測定した結果を図2に示す。紫外線の照射時間の経過に伴い、吸光度が減少した。そして、紫外線の照射時間と吸光度は線形関係であることがわかった。すなわち、本発明のインジケータは、定量的な測定も可能であることがわかった。
【0037】
次に、インジケータの検知層に含まれる色素成分を溶液に抽出し、その抽出溶液の吸光度を測定した。詳細には、インジケータをエタノール5mlに浸漬させて38kHzの超音波を1分間照射した。こうして、インジケータの色素成分を抽出した。インジケータを超音波処理して得られた抽出溶液について、紫外可視分光光度計を用いて、波長650nmにおける吸光度を測定した。その結果を図4に示す。高湿度環境下で紫外線を30分間照射させたインジケータから得られた抽出溶液の吸光度は、未処理のインジケータから得られた抽出溶液の吸光度に比べて大幅に減少した。
【0038】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、低湿度環境下で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0039】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、上記製造したインジケータを設置した。そして、アクティブドライ内が低湿度環境(湿度20%RH以下、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。詳細には、空気をシリカゲルで乾燥させた30℃の気体をアクティブドライの内部に通気させて、アクティブドライ内を低湿度に制御した。その後、低湿度環境下で、インジケータに紫外線を10〜30分間照射した。
【0040】
低湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータの色の変化はあまりみられなかった。
【0041】
次に、目視観察したインジケータについて、紫外可視分光光度計を用いて、透過率を測定した。その結果を図3に示す。図3は、低湿度環境下で紫外線を30分間照射したインジケータの透過スペクトルである。透過率を測定した結果、低湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータは、未処理のインジケータと比較して、透過率の変化はみられなかった。
【0042】
次に、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液について、紫外可視分光光度計を用いて、波長650nmにおける吸光度を測定した。その結果を図4に示す。低湿度環境下で紫外線を30分間照射させたインジケータから得られた抽出溶液の吸光度は、未処理のインジケータから得られた抽出溶液の吸光度と同程度であった。
【0043】
[比較例2]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、空気中で紫外線ランプ(波長254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0044】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長254nm)、岩崎電気製)内に、インジケータを設置した。その後、インジケータに紫外線を30分間照射した。紫外線を照射させたインジケータについて、目視により観察した。その結果、インジケータの色の変化はみられなかった。
【0045】
[比較例3]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、オゾンに対する検知特性を調査した。
【0046】
インジケータに対して、空気中で、紫外線を照射せずに、オゾナイザー(YGR−203N、レイシー社製)を用いてオゾンを30分間暴露させた。
【0047】
その後、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液を目視観察した結果、オゾン未暴露のインジケータの色素成分をエタノール中に抽出した溶液と比較して、色の変化はみられなかった。さらに、抽出溶液の透過率および波長650nmにおける吸光度を測定した結果、どちらもオゾン未暴露のインジケータの場合と同程度の透過率および吸光度であった。
【0048】
[比較例4]
実施例1と同様の方法でインジケータを製造した。そして、以下に示す条件で、真空中で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素に対する検知特性を調査した。
【0049】
真空中で紫外線により発生する活性酸素をインジケータに暴露することができる真空対応装置を作製した。詳細には、内径260mm、長さ440mmの円筒体の真空チャンバーを用意した。また、真空チャンバーの内部は、インジケータと紫外線ランプとの間の距離、つまり紫外線照射距離を約120mmになるような構成とした。
【0050】
作製した真空対応装置の内部に、インジケータを設置した。そして、真空対応装置の内部が真空(5Pa)になるように、雰囲気を制御した。その後、真空中で、インジケータに紫外線を15分間照射した。
【0051】
その後、実施例1と同様の方法で、インジケータの色素成分をエタノール中に抽出した。得られた抽出溶液を目視観察した結果、紫外線未照射のインジケータの色素成分をエタノール中に抽出した溶液と比較して、色の変化はみられなかった。さらに、抽出溶液の透過率および波長650nmにおける吸光度を測定した結果、どちらも紫外線未照射のインジケータの場合と同程度の透過率および吸光度であった。
【0052】
[比較例5]
実施例1と同様の方法でメチレンブルー水溶液を調製した。そして、調製したメチレンブルー水溶液のオゾンに対する反応性を調査した。なお、本比較例の目的は、実施例1のインジケータの検知層に含まれるスルホ基を有するフッ素系樹脂を除いた構成に相当するインジケータ、すなわち、支持体と支持体上に形成されたメチレンブルーからなる検知層とを有するインジケータについて、オゾンの検知特性を調査することである。
【0053】
メチレンブルー水溶液をセルに入れた。そして、セル内のメチレンブルー水溶液に対して、空気中で、紫外線を照射せずに、オゾナイザー(YGR−203N、レイシー社製)を用いてオゾンを10〜15分間暴露させた。オゾンを暴露した溶液について、目視により観察した。その結果、オゾン未暴露の溶液は青色を呈していたが、オゾンの暴露時間の経過に伴い、オゾン暴露後の溶液における透過率の増加がみられた。そして、オゾンを15分間暴露した溶液は、ほぼ透明であった。
【0054】
実施例1および比較例1〜5から、以下のことがわかった。実施例1において、本発明のインジケータは、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知した。比較例1において、本発明のインジケータは、低湿度環境(湿度20%RH以下)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例2において、本発明のインジケータは、空気中で紫外線ランプ(波長254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例3において、本発明のインジケータは、オゾンを検知しなかった。比較例4において、本発明のインジケータは、真空中で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素を検知しなかった。比較例5において、本発明のインジケータの検知層に含まれるスルホ基を有するフッ素系樹脂を除いた構成に相当するインジケータ、すなわち、支持体と支持体上に形成されたメチレンブルーからなる検知層とを有するインジケータは、オゾンを検知した。
【0055】
以上から、本発明のインジケータは、特定の活性酸素を特異的に検知することを見出した。特定の活性酸素とは、オゾンではなく、かつ、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素である。詳細には、本発明のインジケータの検知可能な活性酸素は、構成元素として水素原子を有する活性酸素、例えばヒドロキシルラジカルなどである。その一方、構成元素として水素原子を有しない活性酸素は、本発明のインジケータで検知しない。
【0056】
すなわち、本発明のインジケータは、例えばオゾンとヒドロキシルラジカルとを識別することができることから、水素原子を含む活性酸素を選択的に検知する色素センサとして応用できることが示唆された。
【0057】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でインジケータ製造した。また、枯草菌の芽胞体(ATCC6630)を用意した。そして、枯草菌について、以下に示す条件で、高湿度環境下および低湿度環境下で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素の滅菌効果を調査した。
【0058】
アクティブドライ(医療用/器具除染用洗浄器、紫外線ランプ(波長185/254nm)、岩崎電気製)内に、インジケータおよび枯草菌を設置した。そして、実施例1および比較例1と同様の方法で、アクティブドライ内が高湿度環境(湿度90%RH以上、温度:30〜35℃)および低湿度環境(湿度20%RH以下、温度:30〜35℃)になるように、湿度を制御した。その後、高湿度環境下および低湿度環境下で、インジケータおよび枯草菌に紫外線を30分間照射した。
【0059】
紫外線照射時間と菌生残数との関係を図5に示す。低湿度環境下で紫外線を照射させた場合には、一定数の枯草菌が生残していた。一方、高湿度環境下で紫外線を照射させた場合には、枯草菌が完全に死滅していた。さらに、高湿度環境下で紫外線を照射させたインジケータを目視により観察した結果、実施例1と同様に、青色から透明への色結果を生じた。
【0060】
実施例2の結果より、高湿度環境(湿度90%RH以上)で紫外線ランプ(波長185/254nm)による紫外線を照射させたときに発生する活性酸素は、枯草菌に対して、強力な滅菌効果を示すことがわかった。このとき、インジケータは色の変化を生じていた。こうしたことから、オゾンのような構成元素として水素原子を有しない活性酸素に比べて、水素原子を含む活性酸素、例えば酸化力の高いヒドロキシルラジカルは、枯草菌に対して、より強力な滅菌効果があることが示唆された。以上のように、本発明のインジケータは、医療やバイオなどの分野にも活用できることを見出した。
図1
図2
図3
図4
図5