【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0042】
試験例1
グリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を投与して治療を行った慢性骨髄性白血病患者(87名、内CMR49名及びNon-CMR38名)について、治療後に採取した末梢血中のTregの割合を測定した。具体的には、末梢血中の末梢血単核細胞を回収し、BD Horizon V500標識抗CD4抗体を使用して、CD4
+細胞をゲートし、FITC標識抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて細胞染色を行った。その後、FACS解析によって、CD45RA及びFoxP3の発現量を測定した。また、比較のために、健常人の末梢血中のTregについても同様に測定した。
【0043】
得られた結果を
図1及び2に示す。
図1には、2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者の末梢血から得られたCD4陽性細胞について、CD45RA及びFoxP3の発現量を測定した結果を示す。
図1中、フラクションI(CD45RA
+FoxP3
low)はナイーブTregであり、フラクションII(CD45RA
-FoxP3
high)はエフェクターTregであり、フラクションIII(CD45RA
- FoxP3
low)は非抑制性Tregである。また、
図2には、87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の末梢血中のCD4
+細胞に含まれるナイーブTreg(
図1中のフラクションI)、エフェクターTreg(
図1中のフラクションII)、Non-Treg(
図1中のフラクションIII)、及びFoxP3
+細胞(
図1中のフラクションI+II+III)の割合を示す。
【0044】
図1及び2から明らかなように、CMR患者では、エフェクターTreg(
図1中のフラクションII)の割合が有意に減少しているのに対して、Non-CMR患者ではエフェクターTregの割合の減少は認められなかった。また、ナイーブTregについても、CMR患者では減少が認められたが、Non-CMR患者では減少が認められなかった。
【0045】
以上の結果から、CMR患者では、Treg数(特にエフェクターTreg数)が減少しており、慢性骨髄性白血病患者におけるメシル酸イマチニブの投与の治療有効性については、Treg数を測定することによって推測できることが明らかになった。また、慢性骨髄性白血病患者におけるメシル酸イマチニブの治療効果は、Treg数の減少に依存していることも示唆された。
【0046】
試験例2
CMR患者では、Tregの減少、特にエフェクターTregの減少が認められたため、本試験では、Tregの減少がCD8
+キラーT細胞に与える影響について検討した。具体的には、前記試験例1で試験したのと同様の慢性骨髄性白血病患者(87名、内CMR49名及びNon-CMR38名)について、治療後に採取した末梢血中のCD8
+T細胞の状態を測定した。具体的には、末梢血中の末梢血単核細胞を回収し、PE-Cy7抗CD8抗体を使用して、CD8
+T細胞をゲートし、PerCP-Cy5.5標識抗CCR7抗体及びFITC標識抗CD45RA抗体を用いて細胞染色を行った。その後、FACS解析によって、CCR7及びCD45RAの発現量を測定した。また、比較のために、健常人の末梢血中のCD8
+T細胞についても同様に測定した。
【0047】
得られた結果を
図3及び4に示す。
図3には、2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者について、末梢血から得られたCD8
+T細胞についてCCR7及びCD45RAの発現量を測定した結果を示す。
図3において、CCR7
+CD45RA
+のフラクションはナイーブT細胞(Naive)であり、CCR7
+CD45RA
-のフラクションはセントラルメモリーT細胞(CM)であり、CCR7
-CD45RA
+のフラクションは疲弊したT細胞(Ex.)であり、CCR7
-CD45RA
-のフラクションはエフェクターメモリーT細胞(EM)である。また、
図4には、87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の末梢血中のCD8陽性T細胞に対するセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ナイーブT細胞、及び疲弊したT細胞の割合を示す。
【0048】
図3及び4から明らかなように、CMR患者では疲弊したT細胞(CCR7
-CD45RA
+)がnon-CMR患者に比較して減少しており、エフェクターTreg減少による腫瘍免疫応答の賦活化が示唆された。
【0049】
試験例3
健常人から採取した末梢血から、APC-Cy7抗CD4抗体を使用して、CD4
+細胞を回収した。更に、得られたCD4
+細胞から、FITC抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びCD45RA
+FoxP3
-細胞(フラクションV)をそれぞれ分取した。また、健常人から採取した末梢血から、BD Horizon V500抗CD8抗体、PerCP-Cy5.5標識抗CCR7抗体、及びBD Horizon V450標識抗CD45RA抗体を用いて、ナイーブCD8
+T細胞も分取した。各細胞を20000 cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更に
図5に示す量のイマチニブ量となるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で5日間培養を行った。培養後、Fixable Viability Dyeを用いて生細胞の染色を行った。
【0050】
得られた結果を
図5に示す。
図5には、各細胞の蛍光色素CFSEの染色強度の低下の度合い(CFSE dilution)により2回以上細胞分裂(増殖)した細胞の割合を、CD4陽性細胞の各フラクションで算出した結果示す。これら結果から、イマチニブの添加によって、エフェクターTreg(CD45RA
-FoxP3
high:フラクションII)の増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0051】
試験例4
前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、CD45RA
+FoxP3
-細胞(フラクションV)、及びナイーブCD8
+T細胞を分取した。各細胞を20000cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更に
図6に示す量のイマチニブ量となるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で5日間培養を行った。培養後、Annexin V及び7-AAD染色にてアポトーシスの測定を行った。
【0052】
得られた結果を
図6に示す。
図6には、培養中のアポトーシス細胞の割合をグラフに示す。この結果から、試験例3の結果を裏付けるように、イマチニブの添加によってCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)でアポトーシス細胞の割合が増加することが確認された。
【0053】
試験例5
グリベックを投与して治療を行った慢性骨髄性白血病患者において、CMR到達によりエフェクターTregが減少している可能性を否定するために、グリベック投与によりCMR得られず、途中からニロチニブ投与に変更してCMRに到達した患者3名(Case 1, 2, 3)についてTregの割合を検討した。具体的には、グリベック投与を行った後にCMRに到達しなかった際の末梢血におけるエフェクターTregの割合、ニロチニブ投与に変更した後にCMRに到達した際の末梢血におけるエフェクターTregの割合について、前記試験例1と同様の方法で測定した。
【0054】
得られた結果を
図7に示す。
図7から明らかなように、ニロチニブの投与によってCMRに到達したにもかかわらず、エフェクターTregの減少は認められなかった。また、ニロチニブがBCR-ABLに対してイマチニブよりも強い親和性を持っていることから、イマチニブのエフェクターTregを減少させる作用は、BCR-ABL以外のキナーゼが標的となって生じていると考えられた。
【0055】
試験例6
イマチニブの投与によりエフェクターTregが減少し、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、3名の健康人由来の末梢血(HD1、HD2及びHD3)に、イマチニブが5μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して37℃で1日間培養した後に、がん抗原(Melan-A)を10μMとなるように添加して刺激を行い、37℃で10日間培養した。培養後、前記試験例1と同様の方法で、エフェクターTreg数を測定した。また、培養後に、BD Horizon V500標識抗CD8抗体及びPE標識Melan A/HLA-A*0201テトラマーを用いて特異的CD8
+T細胞分析を行い、Melan A特異的CD8
+T細胞誘導についても確認した。また、健康人由来の末梢血(HD1)については、前記がん抗原(Melan-A)の代わりに、サイトメガロウィルス抗原を10μMとなるように添加して刺激を行って、前記と同条件で培養し、BD Horizon V500標識抗CD8抗体及びPE標識CMV/HLA-A*0201テトラマーを用いてMelan Aと同様に特異的CD8
+T細胞誘導解析を行った。
【0056】
得られた結果を
図8に示す。この結果から、イマチニブ添加によりエフェクターTregの減少が認められ、またそれに伴いMelan-A特異的CD8
+T細胞誘導が増強することが確認された。また、イマチニブの添加と共にサイトメガロウィルス抗原にて刺激した場合についても、サイトメガロウィルスに対する特異的CD8
+T細胞の誘導が増強していた。
【0057】
試験例7
悪性黒色腫において、イマチニブ投与によりエフェクターTregが減少し、悪性黒色腫に対する免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、3名の悪性黒色腫患者由来の末梢血(Pt1、Pt2及びPt3)に、イマチニブが5μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して37℃で1日間培養した後に、がん抗原(Melan-A)を10μMとなるように添加して刺激を行い、37℃で10日間培養した。培養後、前記試験例1と同様の方法で、エフェクターTreg数を測定した。また、培養後に、前記試験例6と同様の方法でテトラマー分析を行い、特異的CD8
+T細胞誘導についても確認した。
【0058】
得られた結果を
図9に示す。この結果からも、イマチニブ投与によって悪性黒色腫患者の末梢血中のエフェクターTregが減少するとともに、悪性黒色腫に対する免疫応答が賦活化されることが明らかとなった。
【0059】
試験例8
イマチニブの投与によりエフェクターTregが減少し、感染免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。具体的には、サイトメガロウィルス抗原の代わりに、インフルエンザウィルス抗原ペプチドを10μMとなるように添加して刺激を行ったことと、及びインフルエンザ特異的テトラマーを使用した以外は、前記試験例6と同様の方法で特異的CD8
+T細胞誘導解析を行った。
【0060】
得られた結果を
図10に示す。この結果から、イマチニブの添加と共にインフルエンザウィルス抗原にて刺激すると、インフルエンザウィルスに対する特異的CD8
+T細胞の誘導が増強することが確認された。
【0061】
試験例9
イマチニブがTregの減少を引き起こす上での標的分子を検討するために以下の試験を行った。先ず、前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、CD45RA
+FoxP3
-細胞(フラクションV)、及びナイーブCD8
+T細胞を分取した。各細胞を20000cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更にイマチニブ濃度として0μM又は10μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で1時間培養を行った。培養後、各細胞を回収し、NP-40細胞溶解バッファーで細胞を処理して細胞溶解液を得た。次いで、一次抗体として抗リンパ球チロシンキナーゼ(LCK)抗体(3A5)及び抗リン酸化Src Family(phopsho-Src Family)抗体(ポリクローナル抗体)を用い、更に二次抗体としてHRP標識抗体を用いて、得られた細胞溶解液に対してウエスタンブロットを行った。
【0062】
得られた結果を
図11に示す。この結果から、ナイーブCD8
+T細胞やCD45RA
+FoxP3
-細胞(フラクションV)において、イマチニブ非添加条件下でLCKの発現が認められ、イマチニブ添加条件下では、リン酸化されたLCKは、発現量は減少したものの、十分な発現が認められた。これに対して、エフェクターTregでは、イマチニブ非添加条件下でLCKの発現量が少なく、イマチニブ添加条件下では、リン酸化されたLCKの発現は殆ど認められなかった。以上の結果から、イマチニブは、LCKを標的分子としてTreg減少を引き起こしている可能性が示唆された。
【0063】
試験例10
イマチニブがTreg減少を引き起こす際に、イマチニブの標的分子となっている可能性が示唆されたLCKについて、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞における発現を検証した。健常人から採取された末梢血のCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞を用い作製された遺伝子転写開始点データベース(FANTOM5 deep CAGE database)を使用し、イマチニブと親和性が高い標的遺伝子(ABL1, ABL2, KIT, PDGFRA, LCK, NQO2, DDR1)の発現レベルを解析した。解析には、HeliScope CAGE ライブラリーのCNhs 13223とCNhs12201のデータを用い、転写開始点のタグ数(TSS tag counts)をグラフ化した。
【0064】
得られた結果を
図12に示す。この結果、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞では、共にLCKを高発現していることが明らかとなった。
【0065】
試験例11
T細胞におけるLCKとその下流分子であるZAP-70の発現レベルを検証した。先ず、健常人から採取した末梢血から、APC抗CD4抗体及びBD Horizon V500抗CD8抗体を使用して、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞をそれぞれ単離した。また、前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、及びCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)を単離した。得られた各細胞について、LCKとZAP-70 mRNAの発現レベルを、qRT-PCRにより検証した。LCKとZAP-70 mRNAの発現レベルの分析において、GAPDH mRNAをコントロールとして使用した。
【0066】
得られた結果を
図13に示す。この結果、CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞では、共にLCKを高発現していることが明らかとなった。T細胞受容体シグナル分子として重要なLCKと、その下流分子であるZAP-70は、CD8
+T細胞に比べ、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)で発現レベルが低いことが明らかとなった。
【0067】
試験例12
ヒトTreg細胞におけるFoxp3結合領域を、SRA(Sequence Read Archive)データベースから解析し、LCK遺伝子とZAP-70遺伝子にマッピングした。解析には、SRAのSRX060160データを使用した。
【0068】
得られた結果を
図14に示す。
図14では、矢印は遺伝子の転写開始点、長方形は各エクソン、波形はFoxp3結合領域をそれぞれ示す。この結果、LCKとZAP-70遺伝子のプローモーター領域に、Tregに特異的なFoxp3転写因子の結合が認められた。即ち、この結果から、LCKとZAP-70がTreg特異的にコントロールされていることが示唆された。
【0069】
試験例13
T細胞におけるLCK及びphospho-LckY394の発現レベル、並びにイマチニブ存在下で培養したT細胞におけるLCK及びphospho-LckY394の発現レベルを検証した。先ず、健常人から採取した末梢血から、BD Horizon V500抗CD8抗体を使用して、CD8
+T細胞を単離した。また、健常人から採取した末梢血から、APC-Cy7抗CD4抗体を使用して、CD4
+細胞を回収した。更に、得られたCD4
+細胞から、FITC抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3
-CD4
+T細胞をそれぞれ分取した。得られた各T細胞を0μM又は10μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて1時間培養を行った。培養後の各T細胞をNP-40細胞溶解バッファーで細胞を処理した後に、ウエスタンブロットに供し、LCK及びphospho-LckY394の発現レベルを測定した。LCK及びphospho-LckY394の検出には、抗Lck抗体(3A5)及び抗リン酸Src Family抗体(polyclonal)を用いて、HRP標識二次抗体で発色させることにより行った。
【0070】
得られた結果を
図15に示す。この結果、FoxP3
-CD8
+T細胞に比べ、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)では、LCKタンパク発現レベルが低く、またLCKの活性レベルを示すLCK Y394のリン酸化レベルも低いことが認められた。イマチニブを加えて培養すると、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)では、LCKタンパクレベル及びLCK Y394のリン酸化レベルが更に低下することが認められた。
【0071】
試験例14
イマチニブのTreg細胞に対する阻害作用をin vovoにて検証した。具体的には、BALB/cマウス(8週齢、メス)に、イマチニブが0mg、2mg、又は8mgとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加した生理食塩水を1日1回経口投与又は腹腔内投与しながら1週間飼育を行った。イマチニブの投与開始から1週間後にマウスから脾臓細胞を摘出して、FACS解析を行った。FACSでは、CD4
+T細胞におけるFoxp3とCD25の発現の解析、及びCD4
+Foxp3
+T細胞におけるKi-67とCD44の発現の解析を行った。
【0072】
得られた結果を
図16に示す。
図16中、aは、CD4
+T細胞におおけるFoxp3とCD2の発現を測定した結果であり、bは、a中のCD4
+Foxp3
+T細胞についてKi-67とCD44の発現を測定した結果である。この結果から、イマチニブ投与によって、増殖性の高いことが知られているKi-67
+Treg細胞に対して選択的な阻害が認められることが確認された。
【0073】
試験例15
T細胞におけるKi-67の発現レベルの発現レベル、並びにイマチニブ存在下で培養したエフェクターTreg細胞におけるKi-67の発現レベルを検証した。先ず、試験例13と同様の方法で、健常人から採取した末梢血から、CD8
+T細胞、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3
-CD4
+細胞をそれぞれ分取した。得られた各細胞について、FACS解析により、Ki-67の発現レベルを測定した。また、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)については、10μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて4日間培養を行った後に、FACS解析によりKi-67の発現レベルの測定を行った。また、コントロールとして、イマチニブを添加していない培地を用いたこと以外は前記と同様に試験を行い、Ki-67の発現レベルの測定を行った。
【0074】
得られた結果を
図17に示す。
図17中、左には末梢血から単離した各細胞におけるKi-67の発現レベルを測定した結果を示し、右には、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)をイマチニブ存在下で培養した後にKi-67の発現レベルを測定した結果を示す。この結果から、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)は、CD8
+T細胞、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、及びFoxP3
-CD4
+T細胞に比べ、正常状態(PBMC)で増殖性が非常に高く、イマチニブ共存下での培養により、増殖性の高いCD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)が選択的に減少することが明らかとなった。
【0075】
試験例16
イマチニブによるエフェクターTreg細胞のアポトーシス誘導効果について検証した。先ず、試験例13と同様の方法で、健常人から採取した末梢血から、CD8
+T細胞、CD45RA
+FoxP3
low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3
-CD4
+T細胞をそれぞれ分取した。得られた各T細胞に、抗CD3抗/抗CD28抗体の共有結合させた磁気ビーズを1:1の割合、及び10μMのイマチニブイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて4日間培養を行った。培養後に、各T細胞のCaspase 3/7の活性化レベルを、CellEvent Caspase3/7 greenとSYTOX AADvancedにより測定した。また、コントロールとして、イマチニブを添加していない培地を用いたこと以外は前記と同様に試験を行い、Caspase 3/7の活性化レベルを測定した。
【0076】
得られた結果を
図18に示す。
図18において、縦軸は、活性化されたCaspase 3/7を有するT細胞の割合(%)を示す。この結果から、イマチニブは、CD45RA
-FoxP3
high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)に対して特異的にCaspase 3/7を活性化し、アポトーシスを誘導することが明らかとなった。
【0077】
試験例16
胃癌患者由来のヒト末梢血単核球を用いて、イマチニブにより、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球を、5μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)、10 IU/mLのIL-2、及び20ng/mLのIL-7を含むを含むRPMI1640培地にて1日間培養した後に、培地中に精巣抗原(HLA-Cw*0304拘束性のNY-ESO-1ペプチドp92-100(LAMPFATPM))を10μg/mLとなるように添加し、NY-ESO-1ペプチドによる抗原刺激を開始した。抗原刺激の開始から3日後に、培地を、5μMのイマチニブ、10 IU/mLのIL-2、20ng/mLのIL-7、及び10μg/mLのがん・精巣抗原(HLA-Cw*0304拘束性のNY-ESO-1ペプチドp92-100(LAMPFATPM))を含むを含むRPMI1640培地に交換し、抗原刺激の開始から6日間培養を行った。培養後、細胞を回収しHLA-Cw*0304 NY-ESO-1 tetramer法によりNY-ESO-1特異的CD8
+ T細胞の検出を行った。また、コントロールとして、イマチニブを含まない培地を使用したこと以外は、前記と同様に試験を行い、NY-ESO-1特異的CD8
+T細胞の検出を行った。
【0078】
得られた結果を
図19に示す。この結果から、イマチニブには、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球からのがん抗原(NY-ESO-1)特異的CD8
+T細胞の誘導を増強する作用があることが明らかとなった。
【0079】
試験例17
卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球を用いて、イマチニブにより、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。具体的な試験方法は、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球の代わりに、卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球を使用したこと以外は、前記試験例16と同様である。
【0080】
得られた結果を
図20に示す。この結果から、イマチニブには、卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球からも、がん抗原(NY-ESO-1)特異的CD8
+T細胞の誘導を増強する作用があることが確認された。