特許第6337258号(P6337258)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6337258腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337258
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20180528BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20180528BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20180528BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20180528BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20180528BHJP
【FI】
   A61K31/506
   A61P31/00
   A61P35/02
   A61P37/04
   C12Q1/02
   !C12N5/071
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-534487(P2016-534487)
(86)(22)【出願日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2015070418
(87)【国際公開番号】WO2016010114
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2017年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-146031(P2014-146031)
(32)【優先日】2014年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】西川 博嘉
(72)【発明者】
【氏名】坂口 志文
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/026311(WO,A1)
【文献】 特表2013−522613(JP,A)
【文献】 Larmonier Nicolas, et al.,Imatinib Mesylate Inhibits CD4(+)CD25(+) Regulatory T Cell Activity and Enhances Active Immunotherap,Journal of Immunology,2008年11月15日,Vol.181, No.10,p.6955-6963
【文献】 Appel Silke, et al.,Effects of imatinib on normal hematopoiesis and immune activation,Stem Cells,2005年 9月,Vol.23, No.8,p.1082-1088
【文献】 Bund Dagmar, et al.,Immunomodulatory effects of ST1571 in chronic myeloid leukaemia,Blood,2006年11月16日,Vol.108, No.11, Part 1,p.623A-624A
【文献】 丸山宏二、若杉尋,STI571(Glivec)によるNK依存性抗腫瘍効果の誘導,日本癌学会学術総会記事,日本,2005年 8月15日,Vol.64,p.492-493
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イマチニブ及び/又はその塩を有効成分として含有する、感染症の予防又は治療に使用されるための制御性T細胞の抑制剤
【請求項2】
エフェクター制御性T細胞を抑制するために使用される、請求項に記載の制御性T細胞の抑制剤。
【請求項3】
感染症の予防又は治療に使用されるための制御性T細胞の抑制剤の製造のための、イマチニブ及び/又はその塩の使用。
【請求項4】
イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査方法であって、
イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者から採取された末梢血に含まれるエフェクター制御性T細胞を測定することを特徴とする、検査方法。
【請求項5】
分子遺伝学的完全寛解に至るか否かを予測するための検査方法である、請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
末梢血に含まれるエフェクター制御性T細胞を検出する試薬を含む、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤に関する。より具体的には、本発明は、制御性T細胞を減少させ、腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤に関する。また、本発明は、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者における治療有効性を予測するための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体産生反応をはじめとする免疫反応は、微生物等の異物を排除するために生体に備わる防御機構である。その一方で、生体には、免疫反応が自己を傷害しないように、生体には、自己由来の抗原に対する免疫反応を防ぐ免疫寛容の機構も備わっている。免疫寛容には大別して中枢性免疫寛容と末梢性免疫寛容の2つの機構が存在しており、末梢性免疫寛容を担っているのがCD4+制御性T細胞(Treg)である。
【0003】
Tregは、自己免疫のみならず、外来抗原による炎症、アレルギー性疾患、臓器移植片に対する拒絶反応等も抑制していることが明らかにされている。一方、Tregは、腫瘍免疫や感染免疫に対しても抑制的に作用することも知られており、腫瘍や感染症に対しては、却って治療効果を減弱させる方向に作用する。
【0004】
従来、腫瘍の免疫療法は、化学療法等と併用したり、外科的療法が不可能な腫瘍を治療したりする上で有用な療法として注目されている。しかしながら、腫瘍の免疫療法において、Tregの抑制は大きな問題である。特に、CD45RA-FOXP3highCD4+を示すエフェクターTregは、免疫を抑制する作用が強く、サイトカインを少量しか産生しないといったTregの典型的な特徴を持ち、しかも腫瘍局所に多く存在することが知られており(非特許文献1参照)、腫瘍の免疫療法においてエフェクターTregを減少させることがとりわけ重要になっている。従来、様々な方法でTregを除去したり、Tregの抑制活性を阻害したりすることが試みられているが、依然としてTregを十分に抑制できる技術は開発できていない。また、感染症に対して免疫が果たす役割も大きく、免疫抑制状態にある感染症患者において、Tregを減少させて感染免疫を増強させることは、感染症の免疫療法を確立する上で極めて重要になる。
【0005】
このような従来技術を背景として、Treg(特に、エフェクターTreg)を減少させ、腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤の開発が切望されている。
【0006】
一方、イマチニブ及び/又はその塩は、フィラデルフィア染色体の遺伝子産物Bcr-Ablを標的としたチロシンキナーゼ阻害薬であり、慢性骨髄性白血病患者、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍等の治療に使用されている。しかしながら、イマチニブが免疫機構に対して及ぼす影響については十分に解明されていない。
【0007】
また、慢性骨髄性白血病の治療効果の判定については、分子遺伝学的観点から、末梢血に含まれる10万〜100万個の細胞について、Bcr-Abl遺伝子を持つ白血病細胞が残っていない状態を分子遺伝学的完全寛解(CMR;complete molecular response)、Bcr-Abl遺伝子を持つ白血病細胞が残っている状態を分子遺伝学的非完全寛解(Non-CMR;non complete molecular response)に分類する指針が知られている(非特許文献2参照)。イマチニブ及び/又はその塩は、慢性骨髄性白血病に対して劇的な臨床効果が得られているものの、CMRが認められる患者は約半数に止まっており、CMRとNon-CMRの差をもたらす要因については明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Daisuke Sugiyama et al., PNAS Early Edition, www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1316796110
【非特許文献2】Baccarani M. et al., Blood. 2006; 108: 1809-1820
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の1つは、Treg(特に、エフェクターTreg)を減少させ、腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において、治療有効性を予測するための検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、メシル酸イマチニブを投与した慢性骨髄性白血病患者において、CMR患者とNon-CMR患者の免疫応答について解析したところ、CMR患者ではTreg(特に、エフェクターTreg)が減少し、腫瘍免疫応答(とりわけCD8+キラーT細胞)活性が増強していることを見出した。また、メシル酸イマチニブによってもたらされるTregの減少は、イマチニブの標的分子であるBcr-Abl遺伝子のキナーゼ活性のブロックではなく、off-targetへの作用に起因しており、それがリンパ球チロシンキナーゼ(LCK)阻害作用によるものであることも見出した。
【0011】
更に、本発明者等は、メシル酸イマチニブによるTregの減少を腫瘍免疫療法に応用すべく、ヒト末梢血にメシル酸イマチニブを添加し、がん抗原又はウイルス抗原特異的CD8+T細胞誘導を行ったところ、メシル酸イマチニブを添加していない群に比べて、Tregが減少すると共に、がん抗原又はウイルス抗原特異的CD8+T細胞誘導が増強することを見出した。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることによって完成したものである。即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. イマチニブ及び/又はその塩を有効成分として含有する、腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤。
項2. 腫瘍の治療において腫瘍免疫を増強させるために使用される、項1に記載の免疫増強剤。
項3. 固形がんの治療において腫瘍免疫を増強させるために使用される、項1又は2に記載の免疫増強剤。
項4. 感染症の予防又は治療において感染免疫を増強させるために使用される、項1に記載の免疫増強剤。
項5. イマチニブ及び/又はその塩を有効成分として含有する、制御性T細胞の抑制剤。
項6. エフェクター制御性T細胞を抑制するために使用される、項5に記載の制御性T細胞の抑制剤。
項7. 腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる免疫増強剤の製造のための、イマチニブ及び/又はその塩の使用。
項8. 腫瘍免疫又は感染免疫の増強が求められている者に、有効量のイマチニブ及び/又はその塩を投与する工程を含む、腫瘍免疫又は感染免疫を増強する方法。
項9. 腫瘍免疫又は感染免疫を増強させる処置に使用されるイマチニブ及び/又はその塩。
項10. イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査方法であって、
イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者から採取された末梢血に含まれる制御性T細胞を測定し、当該制御性T細胞数に基づいてイマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療有効性を予測することを特徴とする、検査方法。
項11. 末梢血に含まれるエフェクター制御性T細胞を測定し、当該エフェクター制御性T細胞数に基づいてイマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療有効性を予測する、項10に記載の検査方法。
項12. 分子遺伝学的完全寛解に至るか否かを予測するための検査方法である、項10又は11に記載の検査方法。
項13. 末梢血に含まれる制御性T細胞からなる、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のためのバイオマーカー。
項14. 末梢血に含まれる制御性T細胞を検出する試薬を含む、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免疫増強剤によれば、Treg(特に、エフェクターTreg)を減少させて、腫瘍免疫応答を増強することができるので、免疫療法が行われている腫瘍患者に対して福音をもたらすことができる。また、本発明の免疫増強剤によれば、Treg(特に、エフェクターTreg)を減少させ、感染免疫を増強させることもできるので、感染症の予防又は治療効果を向上させることも可能になる。更に、本発明の免疫増強剤は、臨床的に使用実績があり、安全性が確認されているイマチニブ及び/又はその塩を使用するため、臨床応用への障壁も低いという利点もある。
【0014】
更に、本発明の検査方法によれば、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において、CMRに到達し得るか否かを推測し、イマチニブ及び/又はその塩による治療有効性を予測することができるので、イマチニブ及び/又はその塩を投与の是非を判断し、適切な慢性骨髄性白血病の治療方針を策定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1において、代表的な2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者の末梢血から得られたCD4陽性細胞について、CD45RA及びFoxP3の発現量を測定した結果を示す。
図2】試験例1において、検討した87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の各末梢血中のCD4陽性細胞に含まれるナイーブTreg(図1中のフラクションI)、エフェクターTreg(図1中のフラクションII)、Non-Treg(図1中のフラクションIII)、及びFoxP3陽性細胞(図1中のフラクションI+II+III)の割合を測定した結果を示す。
図3】試験例2において、代表的な2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者の末梢血から得られたCD8陽性T細胞について、CCR7及びCD45RAの発現量を測定した結果を示す。
図4】試験例2において、検討した87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の各末梢血中のCD8陽性T細胞に含まれるセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ナイーブT細胞、及び疲弊したT細胞の割合を測定した結果を示す。
図5】試験例3において、健常人末梢血由来のCD4陽性細胞及びナイーブCD8+T細胞について、イマチニブ添加による増殖性を測定した結果を示す。
図6】試験例4において、健常人末梢血由来のCD4陽性細胞及びナイーブCD8+T細胞について、イマチニブ添加によるアポトーシスの誘導を測定した結果を示す。
図7】試験例5において、グリベック(イマチニブ)投与によりCMR得られず、途中からニロチニブ投与に変更してCMRに到達した患者3名(Case 1, 2, 3)について、グリベック投与後のNon-CMRの状態での末梢血中のTregの割合、及びニロチニブ投与後のCMRの状態での末梢血中のTregの割合を測定した結果を示す。
図8】試験例6において、3名の健康人由来の末梢血(HD1、HD2及びHD3)に、イマチニブを添加し、更にがん抗原(Melan-A)又はサイトメガロウィルス抗原を添加して刺激を行った後に、エフェクターTregの割合及び抗原特異的CD8+T細胞の割を測定した結果を示す。
図9】試験例7において、3名の悪性黒色腫患者由来の末梢血(Pt1、Pt2及びPt3)に、イマチニブを添加し、更にがん抗原(Melan-A)を添加して刺激を行った後に、エフェクターTregの割合及び抗原特異的CD8+T細胞の割を測定した結果を示す。
図10】試験例8において、健康人由来の末梢血に、イマチニブを添加し、更にインフルエンザウィルス抗原を添加して刺激を行った後に、エフェクターTregの割合及び抗原特異的CD8+T細胞の割合を測定した結果を示す。
図11】試験例9において、健康人の末梢血由来のナイーブCD8+T細胞、エフェクターTreg(Fr.II Treg)、及びCD45RA+FoxP3-細胞(Fr.V CD4)について、リンパ球チロシンキナーゼ(LCK)及びリン酸化されたLCKの発現量にイマチニブが及ぼす影響をウエスタンブロットにて測定した結果を示す。
図12】試験例10において、健康人の末梢血由来のCD4+T細胞及びCD8+T細胞において、イマチニブと親和性が高い標的遺伝子(ABL1, ABL2, KIT, PDGFRA, LCK, NQO2, DDR1)の発現レベルを解析した結果を示す。
図13】試験例11において、健康人の末梢血由来のCD8+T細胞、CD4+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、及びCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)について、LCKとZAP-70 mRNAの発現レベルの分析を行った結果を示す。
図14】試験例12において、ヒトTreg細胞におけるFoxp3結合領域を、SRA(Sequence Read Archive)データベースから解析し、LCK遺伝子とZAP-70遺伝子にマッピングした解析結果を示す。
図15】試験例13において、健康人の末梢血由来の、CD8+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)及びFoxP3-CD4+細胞におけるLCK及びphospho-LckY394の発現レベルを測定した結果を示す。図15中、右のグラフは、ウエスタンブロットのバンド強度の比率を示す。
図16】試験例14において、BALB/cマウスに0mg、2mg、又は8mgのイマチニブを1日1回の頻度で1週間投与した後に、脾臓細胞を取り出して、T細胞の表面マーカーの分析を行った結果を示す。図16中、aは、CD4+T細胞におけるFoxp3とCD25の発現を測定した結果であり、bは、a中のFoxp3+ 細胞についてKi-67とCD44の発現を測定した結果である。
図17】試験例15において、各T細胞のKi-67の発現レベルを測定した結果である。図17中、左には末梢血から単離した各細胞におけるKi-67の発現レベルを測定した結果を示し、右には、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)をイマチニブ存在下で培養した後にKi-67の発現レベルを測定した結果を示す。
図18】試験例17において、健康人の末梢血由来の、CD8+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)及びFoxP3-CD4+細胞を、抗CD3抗体と抗CD48抗体による刺激下で、イマチニブとともに培養した後に、Caspase 3/7の活性化レベルを測定した結果を示す。
図19】試験例18において、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球に対して、イマチニブ存在下又は非存在下でがん抗原特異的刺激を行った後に、がん抗原特異的CD8+T細胞の検出を行った結果を示す。
図20】試験例19において、卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球に対して、イマチニブ存在下又は非存在下でがん抗原特異的刺激を行った後に、がん抗原特異的CD8+T細胞の検出を行った結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.免疫増強剤
本発明の免疫増強剤は、腫瘍免疫又は感染免疫を増強するために使用される免疫増強剤であって、イマチニブ及び/又はその塩を有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明の免疫増強剤について詳述する。
【0017】
[有効成分]
本発明の免疫増強剤では、イマチニブ及び/又はその塩を有効成分として使用する。
【0018】
イマチニブは、Bcr-Ablを標的とした分子標的治療薬として使用実績がある化合物であり、4−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−N−[4−メチル−3−(4−ピリジン−3−イル)ピリミジン−2−イルアミノ)フェニル]−ベンズアミドとも表記される公知の化合物である。
【0019】
イマチニブの塩としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、無機酸塩等が挙げられる。有機スルホン酸塩としては、具体的には、メシル酸(メタンスルホン酸)、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸等の酸付加塩が挙げられる。また、有機カルボン酸塩としては、具体的には、トリフルオロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシマレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アルギニン、リジン、安息香酸、2−フェノキシ−安息香酸、2−アセトキシ−安息香酸、サリチル酸、4−アミノサリチル酸、マンデル酸、桂皮酸、ニコチン酸、イソニコチン酸等の酸付加塩が挙げられる。また、無機酸塩としては、具体的には、塩酸、硫酸、リン酸等の酸付加塩が挙げられる。これらのイマチニブの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の免疫増強剤において、有効成分として、イマチニブ又はその塩のいずれか一方のみを使用してもよく、またこれらを組み合わせて使用してもよい。イマチニブ及びその塩の中でも、イマチニブの有機スルホン酸塩、とりわけイマチニブのメシル酸塩は、安定性が高く、臨床的な使用実績もあるため、本発明の免疫増強剤における有効成分として好適に使用される。
【0021】
[適用対象]
本発明の免疫増強剤は、腫瘍免疫又は感染免疫を増強する目的で使用される。本発明の免疫増強剤の適用対象者については、腫瘍免疫又は感染免疫の増強が求められていることを限度として特に制限されず、ヒトの他、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、マウス、ラット、ウシ、サル等の非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0022】
具体的には、腫瘍の分野では、本発明の免疫増強剤は、がん患者においてTreg(特にエフェクターTreg)を減少させると共に、抗腫瘍免疫(とりわけCD8+キラーT細胞)活性を増強することができるので、腫瘍の治療効果を向上させることができる。本発明の免疫増強剤の適用対象となるがん患者については、免疫療法、外科的療法、放射線療法、又はこれらの組み合わせ等のいずれの療法を受けている患者であってもよいが、免疫療法では抗腫瘍免疫活性の増強が強く求められていることから、本発明の免疫増強剤は、免疫療法が行われている腫瘍患者に対して好適に使用される。
【0023】
本発明の免疫増強剤の適用対象となる腫瘍患者が受けている免疫療法の種類については、特に制限されないが、例えば、リンフォカイン活性化キラー細胞療法、がん抗原特異的T細胞レセプター導入T細胞療法、キメラ抗体導入T細胞療法、腫瘍組織浸潤リンパ球療法、樹状細胞療法等の非特異的免疫療法;腫瘍細胞ワクチン、がん特異的抗原ペプチド等を用いたがんワクチン療法;インターロイキン2、インターロイキン12、インターフェロン−α、腫瘍壊死因子等を用いたサイトカイン療法;免疫チェックポイント分子に対する抗体療法;抗腫瘍免疫に関与している遺伝子を用いた遺伝子療法等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の免疫増強剤の適用対象となる腫瘍については、特に制限されないが、例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病、骨髄腫、悪性リンパ腫等の血液悪性腫瘍;肺癌、乳癌、胃癌、肝癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、舌癌、甲状腺癌、腎癌、膵癌、前立腺癌、子宮体癌、卵巣癌、膀胱癌、子宮頚癌胆管癌、胆嚢癌、口腔癌、悪性黒色腫、神経芽腫、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫等の固形腫瘍等が挙げられる。これらの腫瘍の中でも、好ましくは固形がんが挙げられる。
【0025】
また、感染症の分野では、具体的には、本発明の免疫増強剤は、感染症の予防又は治療を目的として、感染症の予防又は治療が必要とされる者にたいして、Treg(特にエフェクターTreg)を減少させて感染免疫応答を増強するために投与される。より具体的には、本発明の免疫増強剤を感染症の予防目的で使用する場合には、感染症ワクチンと併用して投与すればよく、これによってTregを減少させて感染症ワクチンによる感染免疫応答の発現を向上させることができる。また、本発明の免疫増強剤を感染症の治療目的で使用する場合には、単独で又は感染症の治療薬と併用して投与すればよく、これによってTregを減少させて感染免疫を増強でき、感染症を改善又は治療することができる。
【0026】
本発明の免疫増強剤の適用対象となる感染症については、ウイルス感染、細菌感染、真菌感染等のいずれであってもよく、例えば、インフルエンザ、肝炎、結核、サルモネラ感染症、HIV感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)、日本脳炎等が挙げられる。
【0027】
[投与方法]
本発明の免疫増強剤の投与形態については、特に制限されず、全身投与であっても、また局所投与であってもよい。本発明の免疫増強剤の投与形態として、具体的には、経口投与、腹腔内投与、血管内(動脈内又は静脈内)投与、経肺投与、皮下投与、経粘膜投与等が挙げられる。なお、血管内投与には、血管内注射のみならず、持続点滴も含まれる。これらの投与形態の中でも、好ましくは経口投与が挙げられる。
【0028】
また、本発明の免疫増強剤の投与時期については、当該免疫増強剤の用途、適用対象者の病態等に応じて適宜設定すればよい。例えば、腫瘍免疫を増強する目的で本発明の免疫増強剤を使用する場合であれば、腫瘍患者に対して免疫療法を行う前、免疫療法中、及び/又は免疫療法後に、本発明の免疫増強剤を投与すればよい。また、例えば、感染免疫を増強して感染症を予防する目的で本発明の免疫増強剤を使用する場合であれば、感染症ワクチンの投与前、感染症ワクチンの投与と同時、及び/又は感染症ワクチンの投与後に、本発明の免疫増強剤を投与すればよい。
【0029】
本発明の免疫増強の投与量については、当該免疫増強剤の用途、適用対象者の病態や年齢等に応じて適宜決定ずればよく、一概に決定することはできないが、例えば、イマチニブ及び/又はその塩量換算で1回あたり400〜800mg/body程度で、1〜2回/日の頻度であればよい。
【0030】
[製剤形態]
本発明の免疫増強剤の製剤形態については、特に制限されず、投与形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、液剤(シロップ剤、乳剤、懸濁液を含む)等が挙げられる。このような製剤形態は、薬学的に許容される基材や添加剤を用いて調製することができ、当該基材や添加剤の種類や配合量についても、製剤技術の分野で公知である。
【0031】
また、本発明の免疫増強剤を腫瘍免疫の増強目的で使用する場合であれば、本発明の免疫増強剤は、免疫療法に使用される薬剤と共に製剤化されていてもよい。また、本発明の免疫増強剤を感染免疫の増強目的で使用する場合であれば、本発明の免疫増強剤は、感染症ワクチンや感染症治療薬と共に製剤化されていてもよい。
【0032】
2.制御性T細胞の抑制剤
本発明は、Tregを減少させるために使用されるTregの抑制剤であって、イマチニブ及び/又はその塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0033】
本発明の抑制剤の適用対象は、Tregを減少させることが求められていることを限度として特に制限されないが、好適な一例として、前記「1.免疫増強剤」の場合と同様、腫瘍免疫又は感染免疫の増強が求められている者が挙げられる。また、本発明の抑制剤は、エフェクターTregを効果的に減少させることができるので、エフェクターTregの抑制剤として好適に使用される。
【0034】
本発明の抑制剤において、有効成分の種類、投与方法、製剤形態等については、前記「1.免疫増強剤」の場合と同様である。
【0035】
3.イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査方法
本発明は、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者において治療有効性の予測のための検査方法であって、イマチニブ及び/又はその塩を投与している慢性骨髄性白血病患者から採取された末梢血に含まれるTregを測定し、当該Treg数に基づいてイマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療有効性を予測することを特徴とする。
【0036】
本発明の検査方法では、末梢血に含まれるTregをバイオマーカーとして使用すればよいが、慢性骨髄性白血病の治療有効性をより高精度に予測するという観点から、エフェクターTreg数をバイオマーカーとして使用することが好ましい。ここで、エフェクターTregとは、CD45RA-FOXP3highCD4+T細胞を示し、サイトカインを少量しか産生しないといったTregの典型的な特徴を持ち、CD45RA-FOXP3lowCD4+を示すナイーブTregとは区別されるTregである。なお、本発明において、FOXP3highとは、FOXP3が高発現していることを示し、末梢血単核細胞から得られるCD4陽性、CD45RA陽性、且つFoxP3陽性の細胞(ナイーブTreg)におけるFoxP3発現量の最大値に比較して、FOXP3が高発現していることを指す。また、本発明において、FOXP3lowとは、末梢血単核細胞から得られるCD4陽性、CD45RA陽性、且つFoxP3陽性の細胞(ナイーブTreg)におけるFoxP3発現量と同程度のFOXP3が発現していることを指す。
【0037】
また、本発明の検査方法において、末梢血中のTreg数の測定は、末梢血に含まれているヒト末梢血単核細胞から、CD4、CD45RA及びFoxP3を発現している細胞を計測することによって行うことができる。CD4、CD45RA及びFoxP3の発現については、標識抗体等を使用して細胞を標識化又は分別することができ、これらのマーカーを利用してFACS解析することによって、末梢血中のTreg数を測定することができる。
【0038】
本発明の検査方法において、末梢血中のTreg(特にエフェクターTreg)数が減少している患者は、イマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療有効性が高く、分子遺伝学的完全寛解(CMR)に至る可能性があると判定される。ここで、Treg数が減少しているとは、(1)イマチニブ及び/又はその塩の投与前の末梢血中のTreg数よりも減少している、(2)イマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療においてCMRに至った患者とNon-CMRの患者について、予め末梢血中のTreg数を測定しておき、CMRに至った患者由来の末梢血のTregと同程度になっている、或いは(3)健常人の末梢血中のTreg数を予め測定しておき、健常人由来の末梢血中のTreg数よりも減少している、等によって確認することができる。
【0039】
また、一方、本発明の検査方法において、末梢血中のTreg数が減少していない患者は、イマチニブ及び/又はその塩による慢性骨髄性白血病の治療有効性が低く、CMRに至らない可能性があると推測される。このような検査結果は、イマチニブ及び/又はその塩の投与中止等の治療方策の変更に役立てることができる。
【0040】
更に、本発明は、前記検査方法を行うための検査キットとして、末梢血に含まれるTregを検出するための試薬を提供する。Tregを検出するための試薬としては、特に制限されないが、例えば、抗CD4抗体、抗CD45RA抗体、及び抗FoxP3抗体等の抗体が挙げられる。当該検査キットにおいて、これらの抗体は、必要に応じて、ビオチン、蛍光標識、磁気ビーズ等によって標識化されていてもよい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0042】
試験例1
グリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を投与して治療を行った慢性骨髄性白血病患者(87名、内CMR49名及びNon-CMR38名)について、治療後に採取した末梢血中のTregの割合を測定した。具体的には、末梢血中の末梢血単核細胞を回収し、BD Horizon V500標識抗CD4抗体を使用して、CD4+細胞をゲートし、FITC標識抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて細胞染色を行った。その後、FACS解析によって、CD45RA及びFoxP3の発現量を測定した。また、比較のために、健常人の末梢血中のTregについても同様に測定した。
【0043】
得られた結果を図1及び2に示す。図1には、2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者の末梢血から得られたCD4陽性細胞について、CD45RA及びFoxP3の発現量を測定した結果を示す。図1中、フラクションI(CD45RA+FoxP3low)はナイーブTregであり、フラクションII(CD45RA-FoxP3high)はエフェクターTregであり、フラクションIII(CD45RA- FoxP3low)は非抑制性Tregである。また、図2には、87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の末梢血中のCD4+細胞に含まれるナイーブTreg(図1中のフラクションI)、エフェクターTreg(図1中のフラクションII)、Non-Treg(図1中のフラクションIII)、及びFoxP3+細胞(図1中のフラクションI+II+III)の割合を示す。
【0044】
図1及び2から明らかなように、CMR患者では、エフェクターTreg(図1中のフラクションII)の割合が有意に減少しているのに対して、Non-CMR患者ではエフェクターTregの割合の減少は認められなかった。また、ナイーブTregについても、CMR患者では減少が認められたが、Non-CMR患者では減少が認められなかった。
【0045】
以上の結果から、CMR患者では、Treg数(特にエフェクターTreg数)が減少しており、慢性骨髄性白血病患者におけるメシル酸イマチニブの投与の治療有効性については、Treg数を測定することによって推測できることが明らかになった。また、慢性骨髄性白血病患者におけるメシル酸イマチニブの治療効果は、Treg数の減少に依存していることも示唆された。
【0046】
試験例2
CMR患者では、Tregの減少、特にエフェクターTregの減少が認められたため、本試験では、Tregの減少がCD8+キラーT細胞に与える影響について検討した。具体的には、前記試験例1で試験したのと同様の慢性骨髄性白血病患者(87名、内CMR49名及びNon-CMR38名)について、治療後に採取した末梢血中のCD8+T細胞の状態を測定した。具体的には、末梢血中の末梢血単核細胞を回収し、PE-Cy7抗CD8抗体を使用して、CD8+T細胞をゲートし、PerCP-Cy5.5標識抗CCR7抗体及びFITC標識抗CD45RA抗体を用いて細胞染色を行った。その後、FACS解析によって、CCR7及びCD45RAの発現量を測定した。また、比較のために、健常人の末梢血中のCD8+T細胞についても同様に測定した。
【0047】
得られた結果を図3及び4に示す。図3には、2名のCMR患者、2名のNon-CMR患者、及び1名の健常者について、末梢血から得られたCD8+T細胞についてCCR7及びCD45RAの発現量を測定した結果を示す。図3において、CCR7+CD45RA+のフラクションはナイーブT細胞(Naive)であり、CCR7+CD45RA-のフラクションはセントラルメモリーT細胞(CM)であり、CCR7-CD45RA+のフラクションは疲弊したT細胞(Ex.)であり、CCR7-CD45RA-のフラクションはエフェクターメモリーT細胞(EM)である。また、図4には、87名の患者(CMR49名、Non-CMR38名)の末梢血中のCD8陽性T細胞に対するセントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、ナイーブT細胞、及び疲弊したT細胞の割合を示す。
【0048】
図3及び4から明らかなように、CMR患者では疲弊したT細胞(CCR7-CD45RA+)がnon-CMR患者に比較して減少しており、エフェクターTreg減少による腫瘍免疫応答の賦活化が示唆された。
【0049】
試験例3
健常人から採取した末梢血から、APC-Cy7抗CD4抗体を使用して、CD4+細胞を回収した。更に、得られたCD4+細胞から、FITC抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びCD45RA+FoxP3-細胞(フラクションV)をそれぞれ分取した。また、健常人から採取した末梢血から、BD Horizon V500抗CD8抗体、PerCP-Cy5.5標識抗CCR7抗体、及びBD Horizon V450標識抗CD45RA抗体を用いて、ナイーブCD8+T細胞も分取した。各細胞を20000 cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更に図5に示す量のイマチニブ量となるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で5日間培養を行った。培養後、Fixable Viability Dyeを用いて生細胞の染色を行った。
【0050】
得られた結果を図5に示す。図5には、各細胞の蛍光色素CFSEの染色強度の低下の度合い(CFSE dilution)により2回以上細胞分裂(増殖)した細胞の割合を、CD4陽性細胞の各フラクションで算出した結果示す。これら結果から、イマチニブの添加によって、エフェクターTreg(CD45RA-FoxP3high:フラクションII)の増殖が顕著に抑制されることが明らかとなった。
【0051】
試験例4
前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、CD45RA+FoxP3-細胞(フラクションV)、及びナイーブCD8+T細胞を分取した。各細胞を20000cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更に図6に示す量のイマチニブ量となるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で5日間培養を行った。培養後、Annexin V及び7-AAD染色にてアポトーシスの測定を行った。
【0052】
得られた結果を図6に示す。図6には、培養中のアポトーシス細胞の割合をグラフに示す。この結果から、試験例3の結果を裏付けるように、イマチニブの添加によってCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)でアポトーシス細胞の割合が増加することが確認された。
【0053】
試験例5
グリベックを投与して治療を行った慢性骨髄性白血病患者において、CMR到達によりエフェクターTregが減少している可能性を否定するために、グリベック投与によりCMR得られず、途中からニロチニブ投与に変更してCMRに到達した患者3名(Case 1, 2, 3)についてTregの割合を検討した。具体的には、グリベック投与を行った後にCMRに到達しなかった際の末梢血におけるエフェクターTregの割合、ニロチニブ投与に変更した後にCMRに到達した際の末梢血におけるエフェクターTregの割合について、前記試験例1と同様の方法で測定した。
【0054】
得られた結果を図7に示す。図7から明らかなように、ニロチニブの投与によってCMRに到達したにもかかわらず、エフェクターTregの減少は認められなかった。また、ニロチニブがBCR-ABLに対してイマチニブよりも強い親和性を持っていることから、イマチニブのエフェクターTregを減少させる作用は、BCR-ABL以外のキナーゼが標的となって生じていると考えられた。
【0055】
試験例6
イマチニブの投与によりエフェクターTregが減少し、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、3名の健康人由来の末梢血(HD1、HD2及びHD3)に、イマチニブが5μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して37℃で1日間培養した後に、がん抗原(Melan-A)を10μMとなるように添加して刺激を行い、37℃で10日間培養した。培養後、前記試験例1と同様の方法で、エフェクターTreg数を測定した。また、培養後に、BD Horizon V500標識抗CD8抗体及びPE標識Melan A/HLA-A*0201テトラマーを用いて特異的CD8+T細胞分析を行い、Melan A特異的CD8+T細胞誘導についても確認した。また、健康人由来の末梢血(HD1)については、前記がん抗原(Melan-A)の代わりに、サイトメガロウィルス抗原を10μMとなるように添加して刺激を行って、前記と同条件で培養し、BD Horizon V500標識抗CD8抗体及びPE標識CMV/HLA-A*0201テトラマーを用いてMelan Aと同様に特異的CD8+T細胞誘導解析を行った。
【0056】
得られた結果を図8に示す。この結果から、イマチニブ添加によりエフェクターTregの減少が認められ、またそれに伴いMelan-A特異的CD8+T細胞誘導が増強することが確認された。また、イマチニブの添加と共にサイトメガロウィルス抗原にて刺激した場合についても、サイトメガロウィルスに対する特異的CD8+T細胞の誘導が増強していた。
【0057】
試験例7
悪性黒色腫において、イマチニブ投与によりエフェクターTregが減少し、悪性黒色腫に対する免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、3名の悪性黒色腫患者由来の末梢血(Pt1、Pt2及びPt3)に、イマチニブが5μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して37℃で1日間培養した後に、がん抗原(Melan-A)を10μMとなるように添加して刺激を行い、37℃で10日間培養した。培養後、前記試験例1と同様の方法で、エフェクターTreg数を測定した。また、培養後に、前記試験例6と同様の方法でテトラマー分析を行い、特異的CD8+T細胞誘導についても確認した。
【0058】
得られた結果を図9に示す。この結果からも、イマチニブ投与によって悪性黒色腫患者の末梢血中のエフェクターTregが減少するとともに、悪性黒色腫に対する免疫応答が賦活化されることが明らかとなった。
【0059】
試験例8
イマチニブの投与によりエフェクターTregが減少し、感染免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。具体的には、サイトメガロウィルス抗原の代わりに、インフルエンザウィルス抗原ペプチドを10μMとなるように添加して刺激を行ったことと、及びインフルエンザ特異的テトラマーを使用した以外は、前記試験例6と同様の方法で特異的CD8+T細胞誘導解析を行った。
【0060】
得られた結果を図10に示す。この結果から、イマチニブの添加と共にインフルエンザウィルス抗原にて刺激すると、インフルエンザウィルスに対する特異的CD8+T細胞の誘導が増強することが確認された。
【0061】
試験例9
イマチニブがTregの減少を引き起こす上での標的分子を検討するために以下の試験を行った。先ず、前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、CD45RA+FoxP3-細胞(フラクションV)、及びナイーブCD8+T細胞を分取した。各細胞を20000cells/200μlとなるようにRPMI1640培地に播種し、更にイマチニブ濃度として0μM又は10μMとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加して、37℃で1時間培養を行った。培養後、各細胞を回収し、NP-40細胞溶解バッファーで細胞を処理して細胞溶解液を得た。次いで、一次抗体として抗リンパ球チロシンキナーゼ(LCK)抗体(3A5)及び抗リン酸化Src Family(phopsho-Src Family)抗体(ポリクローナル抗体)を用い、更に二次抗体としてHRP標識抗体を用いて、得られた細胞溶解液に対してウエスタンブロットを行った。
【0062】
得られた結果を図11に示す。この結果から、ナイーブCD8+T細胞やCD45RA+FoxP3-細胞(フラクションV)において、イマチニブ非添加条件下でLCKの発現が認められ、イマチニブ添加条件下では、リン酸化されたLCKは、発現量は減少したものの、十分な発現が認められた。これに対して、エフェクターTregでは、イマチニブ非添加条件下でLCKの発現量が少なく、イマチニブ添加条件下では、リン酸化されたLCKの発現は殆ど認められなかった。以上の結果から、イマチニブは、LCKを標的分子としてTreg減少を引き起こしている可能性が示唆された。
【0063】
試験例10
イマチニブがTreg減少を引き起こす際に、イマチニブの標的分子となっている可能性が示唆されたLCKについて、CD4+T細胞及びCD8+T細胞における発現を検証した。健常人から採取された末梢血のCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞を用い作製された遺伝子転写開始点データベース(FANTOM5 deep CAGE database)を使用し、イマチニブと親和性が高い標的遺伝子(ABL1, ABL2, KIT, PDGFRA, LCK, NQO2, DDR1)の発現レベルを解析した。解析には、HeliScope CAGE ライブラリーのCNhs 13223とCNhs12201のデータを用い、転写開始点のタグ数(TSS tag counts)をグラフ化した。
【0064】
得られた結果を図12に示す。この結果、CD4+T細胞及びCD8+T細胞では、共にLCKを高発現していることが明らかとなった。
【0065】
試験例11
T細胞におけるLCKとその下流分子であるZAP-70の発現レベルを検証した。先ず、健常人から採取した末梢血から、APC抗CD4抗体及びBD Horizon V500抗CD8抗体を使用して、CD4+T細胞及びCD8+T細胞をそれぞれ単離した。また、前記試験例3と同様の方法で、健常人の末梢血から、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、及びCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)を単離した。得られた各細胞について、LCKとZAP-70 mRNAの発現レベルを、qRT-PCRにより検証した。LCKとZAP-70 mRNAの発現レベルの分析において、GAPDH mRNAをコントロールとして使用した。
【0066】
得られた結果を図13に示す。この結果、CD4+T細胞及びCD8+T細胞では、共にLCKを高発現していることが明らかとなった。T細胞受容体シグナル分子として重要なLCKと、その下流分子であるZAP-70は、CD8+T細胞に比べ、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)で発現レベルが低いことが明らかとなった。
【0067】
試験例12
ヒトTreg細胞におけるFoxp3結合領域を、SRA(Sequence Read Archive)データベースから解析し、LCK遺伝子とZAP-70遺伝子にマッピングした。解析には、SRAのSRX060160データを使用した。
【0068】
得られた結果を図14に示す。図14では、矢印は遺伝子の転写開始点、長方形は各エクソン、波形はFoxp3結合領域をそれぞれ示す。この結果、LCKとZAP-70遺伝子のプローモーター領域に、Tregに特異的なFoxp3転写因子の結合が認められた。即ち、この結果から、LCKとZAP-70がTreg特異的にコントロールされていることが示唆された。
【0069】
試験例13
T細胞におけるLCK及びphospho-LckY394の発現レベル、並びにイマチニブ存在下で培養したT細胞におけるLCK及びphospho-LckY394の発現レベルを検証した。先ず、健常人から採取した末梢血から、BD Horizon V500抗CD8抗体を使用して、CD8+T細胞を単離した。また、健常人から採取した末梢血から、APC-Cy7抗CD4抗体を使用して、CD4+細胞を回収した。更に、得られたCD4+細胞から、FITC抗CD45RA抗体及びPE標識抗FoxP3抗体を用いて、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3-CD4+T細胞をそれぞれ分取した。得られた各T細胞を0μM又は10μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて1時間培養を行った。培養後の各T細胞をNP-40細胞溶解バッファーで細胞を処理した後に、ウエスタンブロットに供し、LCK及びphospho-LckY394の発現レベルを測定した。LCK及びphospho-LckY394の検出には、抗Lck抗体(3A5)及び抗リン酸Src Family抗体(polyclonal)を用いて、HRP標識二次抗体で発色させることにより行った。
【0070】
得られた結果を図15に示す。この結果、FoxP3-CD8+T細胞に比べ、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)では、LCKタンパク発現レベルが低く、またLCKの活性レベルを示すLCK Y394のリン酸化レベルも低いことが認められた。イマチニブを加えて培養すると、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)とCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)では、LCKタンパクレベル及びLCK Y394のリン酸化レベルが更に低下することが認められた。
【0071】
試験例14
イマチニブのTreg細胞に対する阻害作用をin vovoにて検証した。具体的には、BALB/cマウス(8週齢、メス)に、イマチニブが0mg、2mg、又は8mgとなるようにグリベック(ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を添加した生理食塩水を1日1回経口投与又は腹腔内投与しながら1週間飼育を行った。イマチニブの投与開始から1週間後にマウスから脾臓細胞を摘出して、FACS解析を行った。FACSでは、CD4+T細胞におけるFoxp3とCD25の発現の解析、及びCD4+Foxp3+T細胞におけるKi-67とCD44の発現の解析を行った。
【0072】
得られた結果を図16に示す。図16中、aは、CD4+T細胞におおけるFoxp3とCD2の発現を測定した結果であり、bは、a中のCD4+Foxp3+T細胞についてKi-67とCD44の発現を測定した結果である。この結果から、イマチニブ投与によって、増殖性の高いことが知られているKi-67+Treg細胞に対して選択的な阻害が認められることが確認された。
【0073】
試験例15
T細胞におけるKi-67の発現レベルの発現レベル、並びにイマチニブ存在下で培養したエフェクターTreg細胞におけるKi-67の発現レベルを検証した。先ず、試験例13と同様の方法で、健常人から採取した末梢血から、CD8+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3-CD4+細胞をそれぞれ分取した。得られた各細胞について、FACS解析により、Ki-67の発現レベルを測定した。また、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)については、10μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて4日間培養を行った後に、FACS解析によりKi-67の発現レベルの測定を行った。また、コントロールとして、イマチニブを添加していない培地を用いたこと以外は前記と同様に試験を行い、Ki-67の発現レベルの測定を行った。
【0074】
得られた結果を図17に示す。図17中、左には末梢血から単離した各細胞におけるKi-67の発現レベルを測定した結果を示し、右には、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)をイマチニブ存在下で培養した後にKi-67の発現レベルを測定した結果を示す。この結果から、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)は、CD8+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、及びFoxP3-CD4+T細胞に比べ、正常状態(PBMC)で増殖性が非常に高く、イマチニブ共存下での培養により、増殖性の高いCD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)が選択的に減少することが明らかとなった。
【0075】
試験例16
イマチニブによるエフェクターTreg細胞のアポトーシス誘導効果について検証した。先ず、試験例13と同様の方法で、健常人から採取した末梢血から、CD8+T細胞、CD45RA+FoxP3low細胞(フラクションI:ナイーブTreg)、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)、及びFoxP3-CD4+T細胞をそれぞれ分取した。得られた各T細胞に、抗CD3抗/抗CD28抗体の共有結合させた磁気ビーズを1:1の割合、及び10μMのイマチニブイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)を含むRPMI1640培地にて4日間培養を行った。培養後に、各T細胞のCaspase 3/7の活性化レベルを、CellEvent Caspase3/7 greenとSYTOX AADvancedにより測定した。また、コントロールとして、イマチニブを添加していない培地を用いたこと以外は前記と同様に試験を行い、Caspase 3/7の活性化レベルを測定した。
【0076】
得られた結果を図18に示す。図18において、縦軸は、活性化されたCaspase 3/7を有するT細胞の割合(%)を示す。この結果から、イマチニブは、CD45RA-FoxP3high細胞(フラクションII:エフェクターTreg)に対して特異的にCaspase 3/7を活性化し、アポトーシスを誘導することが明らかとなった。
【0077】
試験例16
胃癌患者由来のヒト末梢血単核球を用いて、イマチニブにより、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。先ず、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球を、5μMのイマチニブ(グリベック、ノバルティスファーマ株式会社、有効成分:メシル酸イマチニブ)、10 IU/mLのIL-2、及び20ng/mLのIL-7を含むを含むRPMI1640培地にて1日間培養した後に、培地中に精巣抗原(HLA-Cw*0304拘束性のNY-ESO-1ペプチドp92-100(LAMPFATPM))を10μg/mLとなるように添加し、NY-ESO-1ペプチドによる抗原刺激を開始した。抗原刺激の開始から3日後に、培地を、5μMのイマチニブ、10 IU/mLのIL-2、20ng/mLのIL-7、及び10μg/mLのがん・精巣抗原(HLA-Cw*0304拘束性のNY-ESO-1ペプチドp92-100(LAMPFATPM))を含むを含むRPMI1640培地に交換し、抗原刺激の開始から6日間培養を行った。培養後、細胞を回収しHLA-Cw*0304 NY-ESO-1 tetramer法によりNY-ESO-1特異的CD8+ T細胞の検出を行った。また、コントロールとして、イマチニブを含まない培地を使用したこと以外は、前記と同様に試験を行い、NY-ESO-1特異的CD8+T細胞の検出を行った。
【0078】
得られた結果を図19に示す。この結果から、イマチニブには、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球からのがん抗原(NY-ESO-1)特異的CD8+T細胞の誘導を増強する作用があることが明らかとなった。
【0079】
試験例17
卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球を用いて、イマチニブにより、がん抗原特異的免疫応答が賦活化されることをin vitroで検証した。具体的な試験方法は、胃癌患者由来のヒト末梢血単核球の代わりに、卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球を使用したこと以外は、前記試験例16と同様である。
【0080】
得られた結果を図20に示す。この結果から、イマチニブには、卵巣癌患者由来のヒト末梢血単核球からも、がん抗原(NY-ESO-1)特異的CD8+T細胞の誘導を増強する作用があることが確認された。
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