(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレンエーテルグリコールは一般式HO−[(CH
2)
nO]
m−H(mは2以上の整数、nは1以上の整数を表す。) で示される両末端に一級水酸基を有する直鎖ポリエーテルグリコールであり、一般的に環状エーテルの開環重合により製造される。中でも、テトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記する場合がある)の開環重合反応により得られるポリアルキレンエーテルグリコールジエステルであるポリテトラメチレンエーテルグリコールジエステル(以下、「PTME」と略記する場合がある)をエステル交換又は加水分解することで得られるポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、「PTMG」と略記する場合がある)は、水酸基を両末端に持つ直鎖ポリエーテルグリコールで、一般式HO−[(CH
2)
4O]
n−H(nは2以上の整数を表す。) で示され、伸縮性や弾力性が要求されるウレタン系樹脂や弾性繊維の原料として極めて有用である。
【0003】
公知の方法でポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際、例として環状エーテルにTHFを用いてPTMGを製造する場合には、原料中の不純物、開環重合反応時に生成する不純物、未反応原料留去工程にて副反応により形成される不純物、製造プロセス中への空気の漏れこみにより生成するTHF過酸化物等の多くの着色要因が存在する。
そのため、ポリアルキレンエーテルグリコールの製造プロセスを最適化し、着色要因の影響をできる限り低減する方法だけでなく、既に着色してしまったポリアルキレンエーテルグリコールを脱色する方法も有用である。
【0004】
着色した材料の一般的な脱色方法として、活性炭と接触させる方法がある。しかし、活性炭はポリアルキレンエーテルグリコールを初めとした粘度の高い材料の脱色に用いると、うまくろ過が行えず、さらに脱色効果も不十分という問題があった。そのような背景から、高い粘度を有するポリエーテルの脱色について、種々の検討がなされている。
特許文献1には共重合ポリエーテルポリオールをアルミナ化合物や固体吸着剤で処理する製造方法が挙げられているが、未反応原料のジオール成分のみしか除去出来ず、着色成分がジオール以外の場合には脱色効果は期待できない。
【0005】
特許文献2には、原料としてテトラヒドロフラン、開環重合触媒としてフルオロ硫酸を用いて製造したポリテトラメチレングリコールに対して、残酸を除去するためにイオン交換樹脂に通したことが記載されている。しかし、重合反応開始剤として無水カルボン酸を用いることについて記載はなく、無水カルボン酸由来の着色成分についても言及されていない。また、特許文献3は一定量の水存在下で陽イオン交換樹脂処理にてポリエーテルを脱色しているが、原料のポリエーテルはアルキレンオキシドを使用したポリエーテルに限定されており、ポリエーテルの色相が極めて大きい領域での脱色効果にしか言及していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等によれば、環状エーテルとカルボン酸無水物を原料に触媒共存下にて開環重合を行い、ポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際に、カルボン酸無水物由来の着色が起こりやすいことが判明した。中でも、比較的低分子量(重合度の低い)のポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際は、カルボン酸無水物の使用量が多くなることから、製造工程におけるカルボン酸無水物由来の着色が顕著に生じやすいことが明らかとなった。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、ポリアルキレンエーテルグリコール又はそのジエステル体であるポリアルキレンエーテルグリコールジエステルを脱色し、最終的に着色の少ないポリアルキレンエーテルグリコールを得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、環状エーテルおよびカルボン酸無水物を開環重合反応することにより得られた、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステル及び/又は該ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルから得られるポリアルキレンエーテルグリコールに対して、イオン交換樹脂を接触させることで、製造プロセスを大きく変更することなく、着色を減少させたポリアルキレンエーテルグリコールが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、
[1] 原料の環状エーテルおよびカルボン酸無水物を、
周期表(IUPAC 無機化学命名法
改訂版(1998)による)第3族、第4族、第13族もしくは第14族に属する金属元素から
なる金属酸化物からなる固体酸触媒の存在下で開環重合反応を行うことでポリアルキレン
エーテルグリコールジエステルとし、該ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルか
らポリアルキレンエーテルグリコールを製造する方法であって、
該ポリアルキレンエーテ
ルグリコールジエステルに対して陽イオン交換樹脂が接触する工程を含むことを特徴とす
るポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[2] 陽イオン交換樹脂接触前の
ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルのハー
ゼン色数(APHA値)をR
1、陽イオン交換樹脂接触工程後のハーゼン色数(APHA
値)をR
2とした際、以下の式(1)を満たすことを特徴とする[1]に記載のポリアル
キレンエーテルグリコールの製造方法。
R
2/R
1 <0.95 ・・・(1)
[3] 陽イオン交換樹脂がポーラス型陽イオン交換樹脂であることを特徴とする[1]
〜[2]に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[4]UVスペクトルの測定波長345〜365nmにおける任意の一波長での、陽イオ
ン交換樹脂接触後の
ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルの吸光度が0.12以
下である[1]〜[3]に記載のポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[5] 陽イオン交換樹脂接触工程後の
ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルの
数平均分子量が500〜1300であることを特徴とする[1]〜[4]に記載のポリア
ルキレンエーテルグリコールの製造方法。
[6] ポリアルキレンエーテルグリコールがポリテトラメチレンエーテルグリコールで
あり、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルがポリテトラメチレンエーテルグリ
コールジエステルであることを特徴とする[1]〜[5]に記載のポリアルキレンエーテ
ルグリコールの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウレタン系樹脂や弾性繊維の原料として極めて有用な低着色のポリアルキレンエーテルグリコールを取得することができる。特に重合時の無水カルボン酸使用量が多く、製造過程で着色が生じやすい低分子量ポリアルキレンエーテルグリコールを製造する際にその効果は顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
<環状エーテル>
本発明において、開環重合反応の原料となる環状エーテルとしては、特に限定されないが、環状の炭化水素を構成する炭素原子数として、通常2〜10であり、好ましくは3〜7である。具体的には、テトラヒドロフラン(THF)、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、オキセタン、テトラヒドロピラン、オキセパン、1,4−ジオキサンなどが用いられる。これらの中でも特に、PTMGの原料であり工業的に重要であることから、THFが好ましい。また、環状の炭化水素の一部がアルキル基、ハロゲン原子などで置換された環状エーテルも使用することができる。具体的に環状エーテルがTHFの場合は、3−メチル−テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどが挙げられる。
環状エーテルは1種類でも2種類以上を混合して使用してもよいが、好ましくは、1種類で使用することが好ましい。
【0013】
<カルボン酸無水物>
本発明における開環重合反応の反応開始剤として、カルボン酸無水物が使用されるが、通常、炭素数2〜12、好ましくは2〜8の脂肪族又は芳香族カルボン酸から誘導されるカルボン酸無水物を用いる。カルボン酸の種類としては、例えば、脂肪族カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、マレイン酸、コハク酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸としては、安息香酸、フタル酸、ナフタリン酸等が挙げられる。これら例示されるカルボン酸のうちモノカルボン酸であるのが好ましいが、ポリカルボン酸を用いてもよい。これらの中でも価格や入手のしやすさの観点から無水酢酸を用いるのが好ましい。また、原料の環状エーテルがTHFの場合は、無水酢酸が好ましく使用される。
カルボン酸無水物の使用量としては、特に限定されないが、通常は、原料の環状エーテル及びその誘導体の合計に対して0.01〜1.0モル倍の量を使用するのが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.5モル倍となるように用いるのが好ましい。
【0014】
<触媒>
本発明に用いる触媒としては、環状エーテルを開環重合できる能力を持つ触媒であれば特に限定されないが、ルイス酸性を有する固体酸系触媒を用いるのが好ましい。固体酸系触媒としては、金属酸化物からなる固体酸触媒が好適に使用される。金属としては、好ましくは周期表(IUPAC 無機化学命名法改訂版(1998)による)の第3族、第4族、第13
族もしくは第14族に属する金属元素からなる金属酸化物、または、これらの金属元素を含む複合酸化物が用いられる。具体的には酸化イットリウム、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカなどの金属酸化物、またはジルコニアシリカ、ハフニアシリカ、シリカアルミナ、チタニアシリカ、チタニアジルコニアのような複合酸化物が例示できる。また、これらの複合酸化物にさらに他の金属元素を含有する複合酸化物も好ましい。
【0015】
本発明に用いる触媒を調製する方法としては、例えば、周期表(IUPAC 無機化学命名
法改訂版(1998)による)の第3族、第4族、第13族もしくは第14族に属する金属元素から選ばれる1種類以上の金属の塩またはそのアルコキシドを含有する混合溶液に、場合によって酸、アルカリ、又は水を添加することにより沈澱物、あるいはゲルを触媒前駆体として形成させる。沈澱またはゲルを得る方法として共沈法、ゾルーゲル法、混練法、含
浸法などが挙げられる。適当な担体上に金属塩/又は金属アルコキシドを担持させ、固相状態(実質的に水を含まない状態)においてアルカリやアミン等の塩基性物質を接触させる過程を経て触媒前駆体を得る方法が特に有効である。
【0016】
このようにして得られた触媒前駆体は、必要に応じてろ過、洗浄、乾燥を行った後、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、又は空気あるいは希釈酸素ガス等の酸化性ガス雰囲気下で焼成し、所望の(複合)酸化物を得ることができる。加熱焼成温度としては通常600〜1150℃、好ましくは600〜1000℃の高温で行われる。高温焼成することにより触媒の活性、安定性が向上する傾向にある。
【0017】
開環重合反応に用いる触媒の使用量は、反応形式が固定床であるか懸濁床であるかによって、あるいは連続反応であるか回分反応であるかによって異なるが、懸濁床連続反応の場合には、通常、反応系の全化合物中の0.001〜50重量%、好ましくは0.01〜
30重量%、特に好ましくは0.1〜20重量%である。
液相に対する触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなる傾向がある。逆に多すぎると、重合熱の除去が困難となるだけでなく、反応系のスラリー濃度が高くなるので撹拌が困難となる。また、重合反応終了後の触媒と反応液との分液にも問題を生じ易くなる傾向にある。
【0018】
<ポリアルキレンエーテルグリコールの製造方法>
本発明において、環状エーテルとカルボン酸無水物を、触媒存在下で開環重合反応を行うことで得られる生成物はポリアルキレンエーテルグリコールのジエステル体である。得られたポリアルキレンエーテルグリコールジエステルをアルカリ触媒存在下で加水分解もしくは低級脂肪族アルコールとエステル交換してポリアルキレンエーテルグリコールに変換することができる。エステル交換反応を行う場合、使用する低級脂肪族アルコールとしては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1から4のアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノールが更に好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0019】
アルカリ触媒としては、従来より加水分解反応やエステル交換反応に使用されている公知のものを使用することができ、特に限定されないが、通常はリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、ルビジウム等のアルカリ金属アルコキシドが用いられ、中でも、ナトリウム、カリウムのアルコキシドが好ましく用いられる。具体的には、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムイソプロポキシド等が挙げられる。汎用性が高く安価であることから、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
【0020】
上記、加水分解反応又はエステル交換反応は通常、常圧または加圧下で行うことができ、通常、圧力は0.1〜2.0MPaが好ましく、1.0〜1.5MPaの範囲が特に好ましい。反応温度は通常60〜180℃の範囲で行われる。
本発明において開環重合反応を行う反応器は、特に限定されないが、槽型、塔型等一般に用いられるものが使用され、反応の方式としては、回分方式、連続方式のいずれであってもよい。具体的には、環状エーテルとカルボン酸無水物、触媒をそれぞれ一定量測り取り、その量を反応器に仕込んで重合させる方法(回分方式)、環状エーテル、カルボン酸無水物及び触媒がそれぞれ反応器内で一定量存在するように連続的に供給すると同時に、目的生成物であるポリアルキレンエーテルグリコールジエステルを含む反応液を連続的に抜きとっていく方法(連続方式)のいずれでもよい。
【0021】
開環重合反応温度は、通常0〜200℃、好ましくは10〜80℃である。開環重合反応圧力は、反応系が液相を保持できるような圧力であればよく、通常常圧から10MPa
、好ましくは常圧から5MPaの圧力の範囲から選択される。反応時間は特に限定されないが、触媒量と上記反応条件の双方を考慮し、PTMEの収率、経済性を考慮して0.1〜20時間の範囲、好ましくは0.5〜15時間の範囲が好ましい。ここで言う反応時間
とは、回分方式においては、反応温度まで上昇した時点から反応が終了して冷却を開始するまでの時間を示し、連続方式においては、反応器中での反応組成液の滞留時間のことを指している。
【0022】
本発明では必要に応じて、反応器の後段に、反応液から未反応環状エーテル、及びカルボン酸無水物の回収工程、得られたポリアルキレンエーテルグリコールのジエステル体の取りだし、及び加水分解工程、並びに触媒の再生工程等を加えてよい。回分反応方式の場合、反応終了後、先ず触媒と反応液を濾過分別し、反応液より、未反応原料を溜去することで、重合体のみを容易に得ることができる。更に、反応後の触媒はよく洗浄後、付着した有機物を燃焼することにより容易に活性を回復することができる。
【0023】
<陽イオン交換樹脂との接触工程>
本発明の製造方法はポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールと陽イオン交換樹脂が接触する工程が含まれる必要がある。
ポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールと陽イオン交換樹脂と接触する工程は、ポリアルキレンエーテルグリコールの製造プロセス内であれば、その導入位置について限定されないが、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルを加水分解またはエステル交換してポリアルキレンエーテルグリコールとし、一定量の溶媒を留去した後に導入することが最も好ましい。上記接触処理は一回又は複数回行ってもよい。
【0024】
本発明に用いる陽イオン交換樹脂としては、特に限定されないが、スルホ基を有する強酸性陽イオン交換樹脂が特に好ましい。陽イオン交換樹脂の種類は特に限定されず、ゲル型、MR型(macroreticular)型、ポーラス型、ハイポーラス型等の公知のいずれの構造も用いることができる。着色成分の除去効率がよいことから、ポーラス型陽イオン交換樹脂が好ましく用いられる。陽イオン交換樹脂としては市販品を使用することができる。
【0025】
陽イオン交換樹脂に接触させるポリアルキレンエーテルグリコール又はポリアルキレンエーテルグリコールジエステルの態様は特に限定されないが、ポリアルキレンエーテルグリコールの粘度を下げて安定的に処理することが可能となるため、溶媒の存在下で行うことが好ましい。
溶媒としては、ポリアルキレンエーテルグリコールが溶解すれば特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、トルエン、アセトン等が挙げられ、二種以上を混合して用いてもよい。イオン交換樹脂は水との親和性が高いため、通常は樹脂中に水が数%含まれているが、一定量の水を添加してもよい。
【0026】
ポリアルキレンエーテルグリコールに対する溶媒の量は特に制限されないが、通常0.02〜10重量倍、好ましくは0.04〜5重量倍、より好ましくは0.08〜4重量倍、特に好ましくは0.1〜2重量倍である。溶媒使用量が少なすぎると、ポリアルキレンエーテルグリコール溶液の粘度が十分に低下しないことから、陽イオン交換樹脂へのポリアルキレンエーテルグリコールの付着量が多く、製品取得量が減少する傾向がある。また、溶媒使用量が多すぎると、溶媒自体のコストや溶媒回収に必要なエネルギーコストが増大する傾向がある。
【0027】
本発明におけるポリアルキレンエーテルグリコール又はポリアルキレンエーテルグリコ
ールジエステルと陽イオン交換樹脂との接触工程は、バッチ式または連続式の何れの形式であってもよい。連続式としては、例えば、イオン交換樹脂を充填したカラム型反応器に、ポリアルキレンエーテルグリコールと水を含む溶媒との混合液を連続的に供給する方法が挙げられる。処理温度は通常20〜100℃、好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜80℃、特に好ましくは50〜70℃である。処理温度が低すぎると、供給されるポリアルキレンエーテルグリコール溶液の粘度が上がり閉塞しやすくなる傾向がある。また、処理温度が高すぎると、陽イオン交換樹脂の劣化により酸成分が溶出してポリアルキレンエーテルグリコールが着色したり、陽イオン交換樹脂の負荷が増大して樹脂の劣化速度が増加するなどの問題が生じる傾向がある。
【0028】
バッチ式の場合は、ポリアルキレンエーテルグリコールとイオン交換樹脂を混合撹拌した後、ろ過によりイオン交換樹脂を分離すればよい。バッチ式の場合、ポリアルキレンエーテルグリコールの脱色に使用する陽イオン交換樹脂は、反応後に反応液と分離した後に、リサイクルすることも可能である。分離の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離などが挙げられる。また、使用触媒を適当な溶媒で洗浄することも有効である場合がある。洗浄溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、テトラヒドロフラン、エチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、水、酢酸エチル、トルエン、アセトン等が挙げられる。これらの溶媒を使用して適当な温度で洗浄することにより、陽イオン交換樹脂の活性をある程度回復させることが可能である。
【0029】
本発明におけるポリアルキレンエーテルグリコール又はポリアルキレンエーテルグリコールジエステルと陽イオン交換樹脂との接触工程による脱色の程度は、ハーゼン色数米国公衆衛生協会の規格に規定されているハーゼン色数(APHA値)で示すことが出来る。一般にAPHA値が高い程着色が多い。陽イオン交換樹脂接触前のポリアルキレンエーテルグリコール又は該ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルのAPHA値をR
1、イオン交換樹脂処理後のAPHA値をR
2とした際、R
2/R
1の値は通常0.95未満、好ましくは0.92未満、より好ましくは0.90未満である。
【0030】
また、APHA値の他に、UV吸収スペクトルの吸光度により着色の度合いを確認することができる。
本発明のイオン交換樹脂接触後のポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールは、UVスペクトルに基づき測定波長345〜360nmから選ばれる1波長で測定した際の吸光度が、通常0.12以下、好ましくは0.11以下である。
【0031】
上記測定波長におけるポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールの吸光度とAPHA値には良い相関があり、APHA値に加えてUVスペクトル値も、着色の指標の一つとなる。
本発明において、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールとイオン交換樹脂が接触することにより生じる脱色機構の詳細は明らかでないが、本発明者等の考えを以下に示す。
【0032】
ポリアルキレンエーテルグリコールの製造プロセスでは、様々な着色要因が考えられる。具体的には、原料中不純物、重合反応により生成した不純物、プロセスへの酸素混入による酸化反応生成物、未反応原料留去工程での無水酢酸の熱分解生成物等が挙げられる。これらの中には、反応性の高い官能基を有する化合物や重合しやすい分子構造を有する化合物も多いため、プロセス内での熱履歴により、副反応による着色性化合物の生成や高沸点化による着色性高沸点化合物の形成等が起こっている可能性が考えられる。
【0033】
本発明に使用しているイオン交換樹脂は強酸性の触媒である。イオン交換樹脂が触媒と
して作用し、上記着色性化合物や高沸点化合物が分解して非着色性の化合物に変換されたため、樹脂の寿命を低下させることなくポリアルキレンエーテルグリコールおよびポリアルキレンエーテルグリコールジエステルを脱色することができたと推測される。また、単純に着色成分がイオン交換樹脂に物理吸着し、脱色された可能性も考えられる。
【0034】
<ポリアルキレンエーテルグリコール>
本発明の方法により製造することのできる、ポリアルキレンエーテルグリコールジエステル又はポリアルキレンエーテルグリコールの分子量は、特に制限はされない。
環状エーテルとしてTHFを、カルボン酸無水物として無水酢酸を使用し、開環重合反応を行った場合には、通常、数平均分子量(Mn)200〜80,000、好ましくは200〜40,000程度の低〜中分子量のPTMG又はPTMEを得ることができる。中でも、製造過程で無水酢酸の使用量が多く、着色が生じやすい低分子量のPTMG又はPTMEに対して好ましく得ることができ、具体的には、数平均分子量300〜2,000が好ましく、より好ましくは400〜1,500、更に好ましくは、500〜1,300である。
【0035】
更に、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(Mw/Mn)の狭いPTMG又はPTMEを製造する際も、物性を変えずに脱色することができることも特徴の一つである。即ち、Mw/Mnが20未満、例えば1.0〜10.0のPTMG又はPTMEの製造ができ、工業的に需要が大きいMw/Mnが1.0〜3.0、さらには1.1〜2.5、程度である分子量分布の狭いPTMG又はPTMEを製造することができる。
本発明の方法により得られる着色の少ないポリアルキレンエーテルグリコールは、弾性繊維、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、コーティング材などの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
[ハーゼン色数]
本発明で得られるポリアルキレンエーテルグリコールのジエステル体およびポリアルキレンエーテルグリコールの着色の程度は、ハーゼン色数米国公衆衛生協会の規格に規定されているハーゼン色数(APHA値)で表した。ハーゼン色数はキシダ化学社製 APH
A色数標準液(N0.500)を希釈して調製した標準液を使用し、JIS K0071
−1に準じて比色して求めた。色差計は日本電色工業株式会社製 測色色差計ZE−20
00を使用し、セル厚み:10mmの条件で測定した。
【0037】
[UVスペクトル]
ポリアルキレンエーテルグリコールジエステルおよびポリアルキレンエーテルグリコールの吸光度は、(株)島津製作所製UV−2600(検出器 ホトマル)を用い、10mm角の石英密栓セル(SQグレード)を使用し、光学リファレンスとして蒸留水を用い、室温で190〜800nmの波長範囲で透過法により測定した。
【0038】
<開環重合反応触媒>
本実施例で使用した開環重合反応触媒は、硝酸ジルコニア水溶液にCARiACTQ15(登録商標)(富士シリシア化学(株)製 シリカ担体)を含浸し乾燥処理を実施し、その後、重炭酸アンモニウム水溶液で中和・洗浄を行った後、乾燥および900℃で焼成処理を行ったものを用いた。
【0039】
<実施例1>
撹拌装置を備え付けた0.5LのSUS製流通反応装置(重合反応温度42℃、滞留時
間6時間)に上記触媒を28g投入した。無水酢酸/THF=0.20(mol/mol)となるように無水酢酸およびTHFを混合し、原料タンクに投入した。この原料タンクの溶液を87mL/hにて連続的に反応装置にフィードし、流通反応開始後、55〜70時間の流通反応液を製品タンクに溜め込んだ。撹拌子を備えたガラス製丸底フラスコに上記流通反応液(100g)を入れ、100cc/minの窒素でバブリングさせながら、常圧下でバス温170℃にて2時間加熱して未反応溶媒を留去し、PTMEを得た。各種分析を行い、得られたPTMEの品質を確認したところ、APHAは42、測定波長350nmでの吸光度は0.14であった。
【0040】
撹拌子を備えた200mLナスフラスコに上記方法にて得られたPTME(20g)およびメタノール洗浄したイオン交換樹脂(ポーラス型陽イオン交換樹脂、PK216LH、三菱化学社製)をPTMEに対して10重量%添加し、PTMEと同重量のメタノールを加えて60℃で1時間加熱した。反応終了後、加圧ろ過にてイオン交換樹脂を除去し、減圧下で溶媒を除去して精製PTMEを得た。各種分析を行ったところ、APHAは23、測定波長350nmでの吸光度は0.10であった。
【0041】
<実施例2>
重合反応温度を45℃、無水酢酸/THF比を0.12(mol/mol)とした以外は実施例1と同様に重合反応を行った。結果を表1に示す。得られたPTMEのAPHAは25、測定波長350nmでの吸光度は0.07であり、イオン交換樹脂処理後の精製PTMEのAPHAは13、測定波長350nmでの吸光度は0.05であった。
【0042】
<実施例3>
未反応溶媒を留去する際の流通反応液重量を500gにした以外は実施例2と同様にしてPTMEを取得した。結果を表1に示す。得られたPTMEのAPHAは62、測定波長350nmでの吸光度は0.12であり、イオン交換樹脂処理後の精製PTMEのAPHAは43、測定波長350nmでの吸光度は0.10であった。
【0043】
<比較例1>
イオン交換樹脂としてポーラス型陰イオン交換樹脂(WA20、三菱化学社製)を使用した以外は実施例3と全く同様にしてPTMEを製造し、精製処理を行った。結果を表1に示す。イオン交換樹脂処理後の精製PTMEのAPHAは68、測定波長350nmでの吸光度は0.13であり、処理前よりもAPHAや吸光度が悪化することがわかった。
【0044】
<
参考例1>
撹拌装置を備え付けた0.5LのSUS製流通反応装置(重合反応温度40℃、滞留時
間8時間)に上記触媒を28g投入した。無水酢酸/THF=0.35(mol/mol
)となるように無水酢酸およびTHFを混合し、原料タンクに投入した。この原料タンク
の溶液を65mL/hにて連続的に反応装置にフィードし、流通反応開始後、55〜70
時間の流通反応液を製品タンクに溜め込んだ。減圧下でバス温120℃にて2時間加熱し
て未反応溶媒を留去し、PTMEを得た。
【0045】
ガラス製セパラブルフラスコに上記PTME(250g)およびメタノール(250g)を入れ、24%ナトリウムメトキシドメタノール溶液(0.84g)を加えた後にメタノール(250g)を添加した。250rpmで撹拌しながらオイルバスを昇温し、1h全還流後メタノール(250g)を抜き出した。内温が60℃以下になったところでメタノール(250g)を添加し、オイルバスを昇温して1h全還流させた後にメタノール(250g)を抜き出した。内温が60℃以下になったところでメタノール(250g)を添加し、オイルバスを昇温してメタノール(250g)を抜き出し、陽イオン交換樹脂で処理してアルカリを除去した。加圧ろ過にて樹脂を除去後、0.2MPa以下の減圧下に
て120℃で溶媒を留去し、PTMGを得た。PTMGの品質を確認したところ、APHAは70、測定波長350nmでの吸光度は0.18であった。
【0046】
撹拌子を備えた200mLナスフラスコに上記方法にて得られたPTMGを入れた。メタノール洗浄を行ったポーラス型陽イオン交換樹脂(PK216LH)をPTMGに対して10重量%添加し、PTMEと同重量のメタノールを加えて60℃で1時間加熱した。反応終了後、加圧ろ過にてイオン交換樹脂を除去し、減圧下で溶媒を除去して精製PTMGを得た。各種分析を行ったところ、APHAは60、測定波長350nmでの吸光度は0.11であった。
【0047】
<比較例2>
イオン交換樹脂としてポーラス型陰イオン交換樹脂(WA20)を使用した以外は
参考
例1と全く同様の方法で処理を行った。結果を表1に示す。得られた精製PTMGのAP
HAは92、測定波長350nmでの吸光度は0.18であり、陰イオン交換樹脂(WA
20)を加えて脱色処理を行うと、着色が悪化した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、着色したPTMEまたはPTMGをポーラス型陽イオン交換樹脂で処理することで、PTMEまたはPTMGの着色が減少した。