(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
AlまたはAl合金により構成される第1金属層と、FeまたはFe合金により構成される第2金属層と、前記第1金属層との間に前記第2金属層を挟み込むように配置され、AlまたはAl合金により構成される第3金属層とを含み、比重が4.8以下、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上で、かつ、厚みが100μm以下のクラッド板材と、
前記クラッド板材の少なくとも片面の表面上に形成され、軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物から構成されている絶縁層とを備える、半導体素子形成用基板。
AlまたはAl合金により構成される第1金属材と、FeまたはFe合金により構成される第2金属材と、AlまたはAl合金により構成される第3金属材とを、前記第1金属材と前記第3金属材との間に前記第2金属材を挟み込むように積層した状態で接合することによって、前記第1金属材による第1金属層と、前記第2金属材による第2金属層と、前記第1金属層との間に前記第2金属層を挟み込むように配置され、前記第3金属材による第3金属層とを含み、比重が4.8以下、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上で、かつ、厚みが100μm以下のクラッド板材を形成する工程と、
前記クラッド板材の少なくとも片面の表面上に、軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物から構成されている絶縁層を形成する工程とを備える、半導体素子形成用基板の製造方法。
前記クラッド板材を形成する工程は、連続体の前記第1金属材と連続体の前記第2金属材と連続体の前記第3金属材とを積層した状態で連続的に接合して、連続体の前記クラッド板材を形成する工程を含み、
前記絶縁層を形成する工程は、前記連続体のクラッド板材の表面上に前記絶縁層を連続的に形成する工程を含む、請求項7に記載の半導体素子形成用基板の製造方法。
前記クラッド板材を形成する工程は、前記第1金属材と、前記第1金属材、前記第2金属材および前記第3金属材を合計した全体の厚みの10%以上35%以下の厚みを有する前記第2金属材と、前記第3金属材とを接合する工程を含む、請求項7または8に記載の半導体素子形成用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献2に記載の太陽電池用の基板では、満足できる程度の薄厚化(100μm以下)や、その結果、満足できる程度の軽量化に到っていない。
【0010】
また、上記特許文献3に記載の放熱特性や光反射特性が改善された基板は、半導体素子形成用の基板とは用途だけでなく要求事項も明らかに異なっている。さらに、上記特許文献3には、クラッド板材の厚みが小さくなることに起因する不都合への対処などの、基板に用いるクラッド板材の薄厚化についての記載や、厚みと耐力等の機械的強度との関係について記載されていない。ここで、薄厚化された半導体素子形成用基板において耐力が低い場合には、半導体素子形成用基板が自重で撓んだり、半導体素子形成用基板が搬送される際に加えられる張力(テンション)により半導体素子形成用基板が変形したりすることに起因して、半導体素子を容易に形成することができない。この結果、上記特許文献2および3に記載の基板では、半導体素子形成用基板に用いるクラッド板材の薄厚化や軽量化の要求を満足することは困難と考えられる。また、半導体素子の半導体素子形成用基板への形成容易化の要求を満足することも困難と考えられる。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、薄厚化がなされ、これによる軽量化がなされたクラッド板材を備えた半導体素子形成用基板およびその半導体素子形成用基板の製造方法を提供することである。加えて、その半導体素子形成用基板への半導体素子の形成容易化が期待できる半導体素子形成用基板およびその半導体素子形成用基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の第1の局面による半導体素子形成用基板は、AlまたはAl合金により構成される第1金属層と、FeまたはFe合金により構成される第2金属層と、第1金属層との間に第2金属層を挟み込むように配置され、AlまたはAl合金により構成される第3金属層とを含み、比重が4.8以下、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上で、かつ、厚みが100μm以下のクラッド板材と、クラッド板材の少なくとも片面の表面上に形成され、
軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物から構成されている絶縁層とを備える。なお、「比重」とは、標準物質である水の密度を1とした場合の、ある物質(ここでは、クラッド板材)の密度の比を意味する。
【0013】
この発明の第1の局面による半導体素子形成用基板では、上記のように、半導体素子形成用基板が、AlまたはAl合金により構成される第1金属層と、FeまたはFe合金により構成される第2金属層と、第1金属層との間に第2金属層を挟み込むように配置され、AlまたはAl合金により構成される第3金属層とを含み、比重が4.8以下で、かつ、厚みが100μm以下のクラッド板材を備える。これにより、クラッド板材の厚みを100μm以下にして、クラッド板材の薄厚化を図り、これによる軽量化(比重が4.8以下)も図ることができる。さらに、半導体素子形成用基板のクラッド板材を、0.2%耐力が150MPa以上およびヤング率が100GPa以上になるように構成することによって、100μm以下の小さな厚みのクラッド板材を形成した場合にも、半導体素子形成用基板に用いるクラッド板材に必要な機械的強度(強度および剛性)を確保することができる。これにより、強度および剛性が小さいことに起因して、半導体素子を半導体素子形成用基板上にロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式などで連続的に形成する際に、半導体素子形成用基板が自重で撓んだり、半導体素子形成用基板が搬送される際に加えられる張力(テンション)により半導体素子形成用基板が変形したりするのを抑制することができる。これらの結果、クラッド板材の薄厚化やこれによる軽量化を図ることができ、そのクラッド板材を備えた薄厚かつ軽量な半導体素子形成用基板を得ることができる。
【0014】
また、上記第1の局面による半導体素子形成用基板
は、クラッド板材の少なくとも片面の表面上に形成された絶縁層をさらに備える。この絶縁層の表面上に半導体素子を形成すれば、金属製のクラッド板材と半導体素子との絶縁を容易に確保することができ、半導体素子形成用基板へ半導体素子を容易に形成することができる。なお、半導体素子形成用基板に絶縁層が形成されていない場合には、半導体素子形成用基板上に半導体素子を連続的に形成した後に、基板を半導体素子ごとに分割して、半導体素子間の接続をしてモジュール化する必要がある。そこで、半導体素子形成用基板に絶縁層を形成することにより、基板を半導体素子ごとに分割することなく半導体素子間の接続を行うことができるので、半導体素子を備えるモジュールの生産性(量産性)をより向上させることができる。
【0015】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、絶縁層は、軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物から構成されている。このように構成すれば、Bi系酸化物およびV系酸化物は、第1金属層および第3金属層を構成するAlまたはAl合金との密着性が高いので、クラッド板材の表面上に絶縁層を容易に形成することができるとともに、コイル状に巻き取りを行う際などに半導体素子形成用基板に曲げ応力が加えられたとしても、絶縁層がクラッド板材から剥がれるのを抑制することができる。また、軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物を絶縁層として用いることによって、絶縁層を融解させるための温度(融解温度)を、軟化点よりも高い温度にしつつ、500℃以下に抑えることができるので、AlまたはAl合金により構成される第1金属層および第3金属層とFeまたはFe合金により構成される第2金属層との間の界面にFe−Al系反応層が形成されるのを抑制することができるとともに、Fe−Al系反応層が形成されたとしても、その厚みが大きくなるのを抑制することができる。これにより、クラッド板材が脆化するのを抑制することができる。なお、融解温度が500℃を超えると、Fe−Al系反応層の厚みが急激に大きくなり、クラッド板材が脆化しやすい。また、絶縁層の融解温度が低いことによって、絶縁層とクラッド板材との熱膨張係数の差によって生じる絶縁層とクラッド板材との間の熱応力も軽減することができる。
【0016】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、クラッド板材の厚みは、30μm以上である。このように構成すれば、クラッド板材に好ましい機械的強度を付与することができる第2金属層の厚みを確保することができる。また、クラッド板材の厚みが30μm未満に小さくなることに伴って第2金属層の厚みが過度に薄厚化され、クラッド板材を形成する際の第1金属層および第3金属層の展延に追随できずに第1金属層および第3金属層に挟み込まれた第2金属層が破断する可能性が高まると考えられるが、このような破断の可能性を低減することができる。
【0017】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、クラッド板材の比重は、3.5以上である。このように構成すれば、AlまたはAl合金により構成される第1金属層および第3金属層の占める割合が過度に大きくなるのを抑制することができるので、第2金属層の占める割合が過度に小さくなって第2金属層の厚みが小さくなり、その結果、クラッド板材の機械的強度が必要以上に低下するのを抑制することができる。これにより、また、第2金属層の占める割合が過度に小さくなると、クラッド板材を形成する際の第1金属層および第3金属層の展延に追随できずに第1金属層および第3金属層に挟み込まれた第2金属層が破断する可能性が高まると考えられるが、このような破断の可能性を低減することができる。
【0018】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、第2金属層の平均厚みは、クラッド板材の厚みの10%以上35%以下である。このように構成すれば、第2金属層の平均厚みをクラッド板材の厚みの10%以上にすることによって、第2金属層の厚みが小さくなるのを抑制することができるので、クラッド板材の機械的強度を確保することができるとともに、クラッド板材を形成する際に、第1金属層および第3金属層の展延に追随できずに第2金属層が破断するのを抑制することができる。また、第2金属層の平均厚みをクラッド板材の厚みの35%以下にすることによって、クラッド板材の比重が4.8より大きくなるのを抑制することができるので、クラッド板材の軽量化を図ることができる。なお、「平均厚み」とは、クラッド板材のSEMによる断面写真などにおける複数の測定位置においてそれぞれ測定した、複数の厚みの平均を意味する。
【0019】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、半導体素子としての太陽電池素子に用いられる。このように構成すれば、軽量化および薄厚化を図りながら、太陽電池素子を半導体素子形成用基板の表面上に容易に形成することができる。
【0020】
上記第1の局面による半導体素子形成用基板において、好ましくは、半導体素子としての有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる。このように構成すれば、軽量化および薄厚化を図りながら、有機エレクトロルミネッセンス素子を半導体素子形成用基板の表面上に容易に形成することができる。
【0021】
この発明の第2の局面による半導体素子形成用基板の製造方法は、AlまたはAl合金により構成される第1金属材と、FeまたはFe合金により構成される第2金属材と、AlまたはAl合金により構成される第3金属材とを、第1金属材と第3金属材との間に第2金属材を挟み込むように積層した状態で接合することによって、第1金属材による第1金属層と、第2金属材による第2金属層と、第1金属層との間に第2金属層を挟み込むように配置され、第3金属材による第3金属層とを含み、比重が4.8以下、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上で、かつ、厚みが100μm以下のクラッド板材を形成する工程と、クラッド板材の少なくとも片面の表面上に、
軟化点が450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物から構成されている絶縁層を形成する工程とを備える。
【0022】
この発明の第2の局面による半導体素子形成用基板の製造方法では、上記のように、AlまたはAl合金により構成される第1金属材と、FeまたはFe合金により構成される第2金属材と、AlまたはAl合金により構成される第3金属材とを、第1金属材と第3金属材との間に第2金属材を挟み込むように積層した状態で接合することによって、第1金属材による第1金属層と、第2金属材による第2金属層と、第1金属層との間に第2金属層を挟み込むように配置され、第3金属材による第3金属層とを含み、比重が4.8以下で、厚みが100μm以下のクラッド板材を形成する。これにより、クラッド板材の厚みを100μm以下にして、クラッド板材の薄厚化を図り、これによる軽量化(比重が4.8以下)も図ることができる。さらに、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上のクラッド板材を形成することによって、100μm以下の小さな厚みのクラッド板材を形成した場合にも、半導体素子形成用基板に用いるクラッド板材に必要な機械的強度(強度および剛性)を確保することができる。これにより、強度および剛性が小さいことに起因して、半導体素子を半導体素子形成用基板上にロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式などで連続的に形成する際に、半導体素子形成用基板が自重で撓んだり、半導体素子形成用基板が搬送される際に加えられる張力(テンション)により半導体素子形成用基板が変形したりするのを抑制することができる。これらの結果、クラッド板材の薄厚化やこれによる軽量化を図ることができ、そのクラッド板材を備えた薄厚かつ軽量な半導体素子形成用基板を製造することができる。また、第1金属材による第1金属層と、第2金属材による第2金属層と、第1金属層との間に第2金属層を挟み込むように配置され、第3金属材による第3金属層とを含むクラッド板材を形成する工程を備える。これにより、クラッド板材を形成する工程において、第2金属層(第2金属材)の両側に設けられた第1金属層(第1金属材)および第3金属層(第3金属材)を同様に展延させることができるので、クラッド板材の一方側のみが過度に延びるのを抑制することができる。この結果、100μm以下の小さな厚みのクラッド板材を形成した場合にも、半導体素子形成用基板が反るのを抑制することができる。
【0023】
また、上記第2の局面による半導体素子形成用基板の製造方法
は、クラッド板材の少なくとも片面の表面上に絶縁層を形成する工程をさらに備える。この絶縁層の表面上に半導体素子を形成すれば、金属製のクラッド板材と半導体素子との絶縁を容易に確保することができるので、半導体素子形成用基板へ半導体素子を容易に形成することができる。また、半導体素子形成用基板に絶縁層を形成することにより、基板を半導体素子ごとに分割することなく半導体素子間の接続を行うことができるので、半導体素子を備えるモジュールの生産性(量産性)をより向上させることができる。
【0024】
上記第2の局面による半導体素子形成用基板の製造方法において、好ましくは、クラッド板材を形成する工程は、連続体の第1金属材と連続体の第2金属材と連続体の第3金属材とを積層した状態で連続的に接合して、連続体のクラッド板材を形成する工程を含み、絶縁層を形成する工程は、連続体のクラッド板材の表面上に絶縁層を連続的に形成する工程を含む。このように構成すれば、表面上に絶縁層を備えた連続体の半導体素子形成用基板を容易に形成することができるので、半導体素子形成用基板の生産性(量産性)を向上させることができる。なお、上述した半導体素子形成用基板を連続的に形成する手段としては、たとえば、帯状の長尺素材を巻き回してロール状(コイル状)になした長尺素材を用い、そのロール状(コイル状)にある長尺素材を巻き出して帯状に戻しながら積層した状態に接合してクラッド板材に形成し、そのクラッド板材を巻き取ってロール状(コイル状)になして連続体(半導体素子形成用基板)に仕上げる、といった手段がある。
【0025】
上記第2の局面による半導体素子形成用基板の製造方法において、好ましくは、クラッド板材を形成する工程は、第1金属材と、接合前の第1金属材、第2金属材および第3金属材を合計した全体の厚みの10%以上35%以下の厚みを有する第2金属材と、第3金属材とを接合する工程を含む。このように構成すれば、第2金属層を十分に確保してクラッド板材の機械的強度を確保しながらクラッド板材を薄厚化することができる。また、第2金属材の厚みを、接合前の第1金属材、第2金属材および第3金属材を合計した全体の厚みの10%以上にすることによって、第2金属層(第2金属材)の厚みが小さくなるのを抑制することができるので、クラッド板材を形成する際に、第1金属層(第1金属材)および第3金属層(第3金属材)の展延に追随できずに第2金属層(第2金属材)が破断するのを抑制することができる。また、第2金属材の厚みを全体の厚みの35%以下にすることによって、接合後のクラッド板材の比重が4.8より大きくなるのを抑制することができるので、クラッド板材の軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上記のように、薄厚化かつ軽量化された半導体素子形成用基板を得ることができる。また、本発明の半導体素子形成用基板の少なくとも片面の表面上に絶縁層を備えることにより、半導体素子の形成が容易な半導体素子形成用基板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態による基板100の構造について説明する。なお、基板100は、本発明の「半導体素子形成用基板」の一例である。
【0030】
本発明の一実施形態による基板100は、
図1に示すように、クラッド板材1と、クラッド板材1の上面1aの表面上に形成された絶縁層2とを備えている。なお、上面1aは、本発明の「クラッド板材の表面」の一例であり、上面1aは、本発明の「片面」の一例である。
【0031】
クラッド板材1は、上方(Z1方向)から下方(Z2方向)に向かって、Al層11とFe層12とAl層13とが順に積層された状態で接合されることによって形成されている。つまり、クラッド板材1は、3層のクラッド板材からなる。また、Fe層12は、厚み方向(Z方向)において、Al層11とAl層13とにより挟み込まれている。また、クラッド板材1は、厚み方向(Z方向)において、おおよそ30μm以上で、かつ、100μm以下の厚みt1を有している。なお、Al層11、Fe層12およびAl層13は、それぞれ、「第1金属層」、「第2金属層」および「第3金属層」の一例である。
【0032】
Al層11および13は、共に、A1050やA1N30(共にJIS規格)などの純Al、または、Al−Si合金やAl−Mg合金などの主にAlからなるAl合金から構成されている。また、Al層11とAl層13とは、同一の組成から構成されているとともに、Al層11の平均厚みt2とAl層13の平均厚みt3とは、略同一になるように形成されている。また、Al層11の露出する上面(上面1a)は、Fe層12の表面よりも平滑に形成されている
【0033】
Fe層12は、SPCC(冷間圧延鋼板)などの純Fe、または、SUS430、SUS436およびSUS304(共にJIS規格)などのステンレスやFe−36Ni合金、Fe−42Ni合金およびFe−48Ni合金などのFe−Ni合金などのFe合金から構成されている。
【0034】
ここで、本実施形態では、クラッド板材1は、Al層11、Fe層12およびAl層13の各々の組成および厚みの比率を調整することによって、比重がおおよそ3.5以上で、かつ、4.8以下になるように形成されている。また、クラッド板材1の機械的強度としては、0.2%耐力が150MPa以上で、ヤング率が100GPa以上になるように形成されている。また、上記したクラッド板材1の比重および機械的強度を確保するために、Fe層12の平均厚みt4は、クラッド板材1の厚みt1のおおよそ10%以上35%以下になるように形成されている。つまり、Al層11の平均厚みt2とAl層13の平均厚みt3とは、共に、クラッド板材1の厚みt1のおおよそ32.5%以上45.0%以下になるように形成されている。
【0035】
絶縁層2は、クラッド板材1と、クラッド板材1の上面1a上に形成される半導体素子(後述する太陽電池素子203および有機EL素子303)とを絶縁する機能を有している。この絶縁層2は、Bi
2O
3などのBi系酸化物、または、V
2O
5などのV系酸化物から構成されており、かつ、非晶質状態(ガラス状態)になるように構成されている。なお、Bi系酸化物またはV系酸化物の軟化点は、約450℃以下であり、他の一般的なガラス材料の軟化点よりも低いため、低温で加熱溶融が可能であり、生産性にも優れる。特にV系酸化物は、Alとの密着性に優れるだけでなく、軟化点も低い材料である。
【0036】
また、絶縁層2の厚みt5は、約1μm以上約20μm以下になるように形成されている。これにより、一様な絶縁層2を形成可能な厚みを有して、かつ、十分な絶縁耐圧を確保しつつ、絶縁層2の厚みが過度に大きくなるのを抑制することができるので、後述する連続体の基板100の巻き取り時にガラス状の絶縁層2に亀裂などが生じるのを抑制することが可能である。
【0037】
また、クラッド板材1の上面1a上に形成される絶縁層2の露出する上面2aは、平滑に形成されている。これにより、絶縁層2の上面2aには、後述する太陽電池素子203および有機EL素子303が成長可能なように構成されている。なお、絶縁層2は、上面2に成長される太陽電池素子203または有機EL素子303に対応した表面平滑性と絶縁耐圧とを有する材料からなるのが好ましい。
【0038】
次に、
図2および
図3を参照して、本発明の一実施形態による基板100を用いた太陽電池200および有機EL装置300について説明する。
【0039】
太陽電池200では、
図2に示すように、複数の薄膜系の太陽電池素子203が、本実施形態による基板100(絶縁層2)の上面2a上に直接的に成長されることによって形成されている。この太陽電池素子203では、下方(Z2方向)から上方(Z1方向)に向かって、下部電極203aと、光吸収層203bと、バッファ層203cと、上部電極203dとが基板100上に直接的に積層されている。この太陽電池200では、光吸収層203bに入射光が入射することにより電子が放出されることによって、下部電極203aと上部電極203dとの間に電流が流れるように構成されている。なお、光吸収層203bとしては、薄膜Siや、薄膜化合物(CIS(銅、インジウム、セレン)、CIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレン)、CZTS(銅、亜鉛、スズ、硫黄)、および、CdTeなど)、薄膜の有機物などの種々の半導体を用いることが可能である。また、太陽電池素子203は、本発明の「半導体素子」の一例である。
【0040】
また、有機EL照明や有機ELディスプレイなどの有機エレクトロルミネッセンス(EL)を用いた有機EL装置300では、
図3に示すように、薄膜系の有機EL素子303が、本実施形態による基板100(絶縁層2)の上面2a上に直接的に成長されることによって形成されている。この有機EL素子303では、下方(Z2方向)から上方(Z1方向)に向かって、順に、下部電極303aと、正孔輸送層303bと、発光層303cと、電子輸送層303dと、透明な上部電極303eと、ガラス層303fとが基板100上に直接的に積層されている。この有機EL素子303では、下部電極303aと上部電極303eとの間の電圧差により、発光層303cに含まれる有機発光材料から放出された光が上方(Z1方向)に向かって出射光として出射されるように構成されている。なお、有機EL素子303は、本発明の「半導体素子」の一例である。
【0041】
次に、
図1および
図4を参照して、本発明の一実施形態による基板100の製造プロセスについて説明する。
【0042】
まず、
図4に示すように、ロール状(連続体)のAl材111、ロール状(連続体)のFe材112およびロール状(連続体)のAl材113を準備する。このAl材111および113は、同一の組成(純AlまたはAl合金)から構成されているとともに、厚みが略同一である。また、Fe材112は、純FeまたはFe合金から構成されているとともに、Fe材112の厚みは、Al材111、Fe材112およびAl材113の厚みの合計のおおよそ10%以上35%以下に設定されている。なお、Al材111、Fe材112およびAl材113は、それぞれ、本発明の「接合前の第1金属材」、「接合前の第2金属材」および「接合前の第3金属材」の一例である。
【0043】
そして、Al材111、Fe材112およびAl材113をこの順で積層させた状態で、圧延ロール100aによって、所定の圧下率で冷間圧延する(圧延(接合)工程)。これにより、Al材111によるAl層11、Fe材112によるFe層12、および、Al材113によるAl層13がこの順で互いに接合されて、100μm以下の厚みt1を有するクラッド板材1(
図1参照)がロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式で連続的に形成される。
【0044】
その後、粉末状のBi系酸化物またはV系酸化物を含むペースト102を、塗布装置100bを用いて、連続体のクラッド板材1の上面1aの表面上に連続的に塗布する(塗布工程)。そして、Bi系酸化物またはV系酸化物の約450℃以下の軟化点よりも大きく、かつ約500℃よりも小さな融解温度に保たれた熱処理部100c内に、クラッド板材1を連続的に搬送する(融解工程)。これにより、ペースト102内の粉末状のBi系酸化物またはV系酸化物が溶融することによって、クラッド板材1の上面1aの表面上に、約1μm以上約20μm以下の厚みt5を有するとともに、平滑な上面2aを有する絶縁層2(
図1参照)が連続的に形成される。この際、絶縁層2を融解させるための温度(融解温度)が低いので、Al層11および13とFe層12との間の界面にFe−Al系反応層(図示せず)が形成されるのが抑制されるとともに、Fe−Al系反応層が形成されたとしても、その厚みが約10μm以上に大きくなるのが抑制される。これにより、クラッド板材1が脆化するのを抑制することが可能である。なお、融解温度が500℃を超えると、Fe−Al系反応層の厚みが約10μm以上に急激に大きくなり、クラッド板材1が脆化しやすい。さらに、絶縁層2の融解温度が低いことによって、絶縁層2とクラッド板材1との熱膨張係数の差によって生じる絶縁層2とクラッド板材1との間の熱応力も軽減される。
【0045】
この結果、連続体の基板100が作製されて、コイル状(ロール状)に巻き取られる。なお、絶縁層2の厚みt5が約20μm以下であることによって、絶縁層2の厚みが過度に大きくなるのを抑制することが可能であるので、連続体の基板100の巻き取り時にガラスにより構成された絶縁層2に亀裂などが生じるのを抑制することが可能である。
【0046】
このように、本実施形態の基板100の製造プロセスでは、Al材111、Fe材112およびAl材113を連続的に接合して、クラッド板材1を形成するとともに、クラッド板材1の表面上に連続的に絶縁層2を形成することによって、連続体の基板100を容易に形成することが可能であるので、基板100の生産性(量産性)を向上させることが可能である。また、クラッド板材1の0.2%耐力が150MPa以上であり、クラッド板材1のヤング率が100GPa以上であることによって、基板100が自重で撓むのを抑制することが可能であるとともに、基板100が搬送される際に加えられる張力(テンション)により基板100が変形するのを抑制することが可能である。
【0047】
その後、太陽電池素子203および有機EL素子303などの半導体素子が、連続体の基板100上にロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式などで連続的、かつ、直接的に形成(成長)される。これにより、太陽電池素子203を有する太陽電池200および有機EL素子303を有する有機EL装置300などが連続的に製造される。この際、基板100を半導体素子(太陽電池素子203および有機EL素子303)ごとに分割することなく半導体素子間の接続を行うことができるので、半導体素子を備えるモジュール(太陽電池200および有機EL装置300)の生産性(量産性)をより向上させることが可能である。
【0048】
なお、Fe層12としてFe−Ni合金を用いた場合には、Fe層12の熱膨張係数を小さくして、有機EL素子303に設けられる図示しない薄膜トランジスタ(TFT)の熱膨張係数に近づけることが可能になるので、有機EL素子303とクラッド板材1との間に、熱膨張に起因した熱応力が生じるのを抑制することが可能である。この結果、Fe−Ni合金から構成されるFe層12を含む基板100は、有機EL装置300に好適に用いることが可能である。
【0049】
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0050】
本実施形態では、上記のように、クラッド板材1を、比重が4.8以下で、かつ、厚みが100μm以下になるように形成することによって、クラッド板材1の厚みを100μm以下にして、クラッド板材1の薄厚化と、これによる軽量化(比重が4.8以下)とを図ることができる。よって、そのクラッド板材1を用いた基板100は薄厚化かつ軽量化される。さらに、クラッド板材1を、0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上になるように形成することによって、100μm以下の小さな厚みのクラッド板材1に形成した場合にも、そのクラッド板材1を用いた基板100の機械的強度(強度および剛性)を確保することができる。よって、基板100の強度および剛性が小さいことに起因して、半導体素子を基板100上にロール・ツー・ロール(Roll to Roll)方式で連続的に形成する際に、基板100が自重で撓んだり、基板100が搬送される際に加えられる張力により基板100が変形したりするのを抑制することができる。これらの結果、クラッド板材1の薄厚化やこれによる軽量化を図ることができ、そのクラッド板材1を備えた薄厚かつ軽量な基板100を得ることができる。
【0051】
また、本実施形態では、クラッド板材1を、Al層11になるAl材111とFe層12になるFe材112とAl層13になるAl材113とが積層された状態で接合することによって形成するとともに、比重が4.8以下で、かつ、100μm以下の厚みt1になるように形成する。これにより、クラッド板材1作成時(接合時とその後の圧延時)に、Fe層12になるFe材112の両側に設けられたAl層11および13になるAl材111および113を同様に展延させることができるので、クラッド板材1の一方側のみが、つまりAl層11側あるいはAl層13側のみが、過度に延びるのを抑制することができる。この結果、100μm以下の非常に小さな厚みのクラッド板材1に形成した場合にも、基板100が一方側に反るのを抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態では、クラッド板材1の上面1aの表面上に絶縁層2を形成することによって、金属製のクラッド板材1と半導体素子である太陽電池素子203および有機EL素子303との絶縁を容易に確保しつつ、基板100の絶縁層2の上面2a上に太陽電池素子203および有機EL素子303を容易に形成することができる。
【0053】
また、本実施形態では、絶縁層2をBi系酸化物またはV系酸化物から構成することによって、Bi系酸化物およびV系酸化物は、Al層11および13を構成するAlまたはAl合金との密着性が高いので、クラッド板材1の表面1a上に絶縁層2を容易に形成することができるとともに、コイル状に巻き取りを行う際などに基板100に曲げ応力が加えられたとしても、絶縁層2がクラッド板材1から剥がれるのを抑制することができる。また、軟化点が約450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物を絶縁層2として用いることによって、絶縁層2を融解させるための温度(融解温度)を、軟化点よりも高い温度にしつつ、約500℃以下に抑えることができるので、Al層11および13とFe層12との間の界面にFe−Al系反応層(図示せず)が形成されるのを抑制することができるとともに、Fe−Al系反応層が形成されたとしても、その厚みが大きくなるのを抑制することができる。これにより、クラッド板材1が脆化するのを抑制することができる。また、絶縁層2の融解温度が低いことによって、絶縁層2とクラッド板材1との熱膨張係数の差によって生じる絶縁層2とクラッド板材1との間の熱応力も軽減することができる。
【0054】
また、本実施形態では、クラッド板材1がおおよそ30μm以上の厚みt1を有することによって、Fe層12の厚みt4を確保できるので、Al層11および13の展延に追随できずにAl層11および13に挟み込まれたFe層12の破断の可能性を低減することができる。
【0055】
また、本実施形態では、クラッド板材1の比重をおおよそ3.5以上にすることによって、AlまたはAl合金により構成されるAl層11および13の占める割合が過度に大きくなるのを抑制することができるので、Fe層12の占める割合が過度に小さくなってFe層12の厚みt4が過度に小さくなり、その結果、クラッド板材1の機械的強度が必要以上に低下するのを抑制することができる。これにより、Al層11および13の展延に追随できずにAl層11および13に挟み込まれたFe層12の破断の可能性を低減することができる。
【0056】
また、本実施形態では、Fe層12の平均厚みt4をクラッド板材1の厚みt1の10%以上にすることによって、Fe層12の厚みが確保できるので、Al層11および13の展延に追随できずにAl層11および13に挟み込まれたFe層12の破断の可能性を低減することができる。
【0057】
また、本実施形態では、Fe層12の平均厚みt4をクラッド板材1の厚みt1の35%以下にすることによって、クラッド板材1の比重が4.8より大きくなるのを抑制することができるので、クラッド板材1および基板100の軽量化に有効である。
【0058】
また、本実施形態では、太陽電池素子203または有機EL素子303を形成するための基板として、薄厚かつ軽量なクラッド板材1を用いることによって、太陽電池素子203または有機EL素子303が上面2a上に形成された薄厚かつ軽量な基板100を得ることができる。
【0059】
また、本実施形態では、安価な純Alから構成されるAl層11および13と、安価な純FeまたはFe合金から構成されるFe層12とを用いることによって、安価にクラッド板材1を形成することができ、そのクラッド板材1を用いて安価な基板100を形成することができる。
【0060】
[実施例1]
次に、
図5〜
図15を参照して、本発明の効果を確認するために行った実験[実施例1]について説明する。この[実施例1]では、絶縁層が形成されていない半導体素子形成用基板(クラッド板材)において、クラッド板材の厚み、または、Fe層の厚みの比率を異ならせた場合における、断面観察、比重測定、および、機械的強度測定(0.2%耐力およびヤング率測定)を行った。また、クラッド板材のハンドリング性(半導体素子を形成する際の取り扱いのしやすさ)を判定した。
【0061】
まず、Fe層をSUS430から構成した場合の実験結果について説明する。このFe層をSUS430から構成した場合においては、クラッド板材の厚みを100μmに固定する一方、Fe層となる接合前のFe材の厚みの比率を異ならせて、クラッド板材におけるFe層の厚みの比率が異なるように形成して測定を行った。
【0062】
ここで、実施例1として、A1050(純Al)から構成されるAl材、SUS430から構成されるFe材、および、A1050から構成されるAl材を準備した。その際、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を1:1:1にした。つまり、実施例1では、Fe材の厚みの比率を33%にした。
【0063】
また、実施例2では、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を2:1:2にした点を除いて、実施例1と同様にした。つまり、実施例2では、Fe材の厚みの比率を20%にした。
【0064】
一方、比較例1では、SUS430から構成され、100μmの厚みのSUS板材を用いた。つまり、比較例1では、Al層を設けず、Fe材すなわちFe層の厚みの比率を100%にした。
【0065】
また、比較例2では、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を1:2:1にした点を除いて、実施例1と同様にした。つまり、比較例2では、Fe材の厚みの比率を50%にした。
【0066】
また、比較例3では、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を3:1:3にした点を除いて、実施例1と同様にした。つまり、比較例3では、Fe材の厚みの比率を14%にした。
【0067】
また、比較例4では、A1050から構成され、100μmの厚みのAl板材を用いた。つまり、比較例4では、Al層のみとしてFe層を設けず、Fe層の厚みの比率を0%にした。
【0068】
そして、実施例1、2、比較例2および3の各々において、Al材、Fe材およびAl材をこの順に積層させて、所定の圧下率で圧延して互いに接合させることによって、Al材によるAl層、Fe材によるFe層、および、Al材によるAl層がこの順で互いに接合された、実施例1、2、比較例2および3のクラッド板材を作製した。その際、クラッド板材の厚みが100μmになるように圧延した。なお、比較例1および4は、単一板材でありクラッド板材ではないため、接合を行っていない。
【0069】
(断面観察)
次に、作製した実施例1、2、比較例2および3のクラッド板材を所定の位置で切断した後に、クラッド板材の断面をSEMを用いて観察した。
【0070】
図6〜
図9に、それぞれ、比較例2、実施例1、2および比較例3の断面写真を示す。
図6〜
図8にそれぞれ示す比較例2、実施例1および2においては、Fe層の破断が観察されなかった。なお、
図8に示す実施例2では、Fe層とAl層との界面が波打つように形成され、Fe層の厚みが不均一になった。これは、接合時の展延によりFe材(Fe層)がその両側に配置された一対のAl材(Al層)により引っ張られ、その結果、Fe層の一部(機械的強度が弱い部分)の厚みが、他の部分の厚みに比べて小さくなったからであると考えられる。
【0071】
一方、
図9に示す比較例3では、Fe層の破断が観察された。これは、接合時の展延によりFe層が一対のAl層により引っ張られ、その結果、Fe層の一部(機械的強度が弱い部分)が破断したと考えられる。これらの結果から、Fe層をSUS430から構成した場合において、Fe層の破断は必ず発生するわけではないが、Fe層が破断する確率を低減するには、接合前のFe材の厚みの比率を少なくとも15%以上確保することが好ましいことが分かった。さらに、接合前のFe材の厚みの比率を20%より大きく確保することによって、Fe層の厚みが不均一化するのを抑制することが可能であり、その結果、Fe層の破断を確実に抑制することが可能であると考えられる。
【0072】
なお、
図8に示す実施例2のように、Fe層の厚みが均一でない場合は、断面写真の複数の測定位置における厚みt3a〜t3jをそれぞれ測定し、それらの平均(=Σt3x/10:x=a〜j)をFe層の平均厚みt3として算出した。この実施例2におけるFe層の平均厚みt3は、20μmであった。
【0073】
(比重測定)
また、水中浸漬法により、作製した実施例1、2および比較例2のクラッド板材の比重を測定した。なお、比較例3は、芯材(Fe層)が破断したことによりクラッド板材を作製できなかったため、比重測定を行わなかった。
【0074】
図5に示す比重の測定結果から、実施例1および2のクラッド板材の比重は、3.5以上4.5以下になり、軽量化されていることが判明した。一方、比較例2のクラッド板材の比重(5.17)は4.8よりも大きくなり、軽量化が不十分であることが判明した。この結果から、SUS430から構成されたFe層の厚みの比率を少なくとも35%以下にすることによって、比重を4.8以下にして軽量化することが可能であると考えられる。
【0075】
(機械的強度測定、ハンドリング性判定)
また、実施例1、2および比較例2のクラッド板材と、比較例1のSUS板材および比較例4のAl板材とに対して、JIS規格に基づく引張試験を行うことによって、各々の機械的強度(0.2%耐力およびヤング率)を測定した。さらに、クラッド板材、SUS板材およびAl板材のハンドリング性を判定した。具体的には、クラッド板材の自重による撓みや張力(テンション)による変形が生じる場合には、ハンドリング性が悪い(取り扱いにくい)として、バツ印(×印)を付す一方、取り扱い時に撓みや変形が略生じない場合には、ハンドリング性が良好である(取り扱いやすい)として、丸印(○印)を付した。なお、比較例3は、クラッド板材のFe層が破断したため、機械的強度測定およびハンドリング性判定は行わなかった。なお、Fe層が破断しているクラッド板材(比較例3)の0.2%耐力は、実質的にAl層に用いたA1050材の0.2%耐力(概ね125MPa以下)と同等または略近似であり、本発明のクラッド板材に必要とする150MPa以上の0.2%耐力を備えていないと考えられる。
【0076】
図5に示す0.2%耐力およびヤング率の測定結果から、Fe層の厚みの比率が20%以上である実施例1および2の0.2%耐力およびヤング率は、それぞれ、150MPa以上および100GPa以上になった。また、この実施例1および2は、ハンドリング性も良好であった。一方、比較例4のAl板材は、0.2%耐力およびヤング率が、それぞれ、150MPa未満(117MPa)および100GPa未満(69GPa)になるとともに、ハンドリング性も悪かった。つまり、比較例4のAl板材は、軽量ではあるものの機械的強度が低く、その結果、ハンドリング性が悪くなることが判明した。
【0077】
これらの結果から、Fe層をSUS430から構成した場合には、クラッド板材の厚みを100μm以下にして、クラッド板材の薄厚化や、これによる軽量化(比重が4.8以下)を図りながら、機械的強度(0.2%耐力およびヤング率が、それぞれ、150MPa以上および100GPa以上)を確保するためには、実施例1および2のように、Fe層の厚みを15%以上35%以下確保することが好ましいことが分かった。
【0078】
次に、Fe層をSPCC(純Fe)から構成した場合の実験結果について説明する。このFe層をSPCCから構成した場合においては、Fe層をSUS430から構成した場合と異なり、主に、クラッド板材全体の厚みを異ならせて測定を行った。
【0079】
ここで、実施例3として、A1N30(純Al)から構成されるAl材、SPCCから構成されるFe材、および、A1N30から構成されるAl材を準備した。その際、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を1:1:1にした。つまり、実施例3では、Fe材の厚みの比率を33%にした。そして、圧延後(接合後)のクラッド板材の厚みが69μmになるように所定の圧下率で圧延して、Al材によるAl層、Fe材によるFe層、および、Al材によるAl層がこの順で互いに接合された実施例3のクラッド板材を作製した。
【0080】
また、実施例4のクラッド板材は、実施例3のクラッド板材を厚みが48μmになるようにさらに圧延することによって作製した。
【0081】
また、実施例5のクラッド板材は、実施例3のクラッド板材を厚みが35μmになるようにさらに圧延することによって作製した。
【0082】
一方、比較例5では、SPCCから構成され、50μmの厚みのSPCC板材を用いた。つまり、Al層を設けなかった。
【0083】
また、比較例6のクラッド板材では、接合前のAl材、Fe材およびAl材の厚みの比率を1:2:1にした点を除いて、実施例3のクラッド板材と同様にした。
【0084】
また、比較例7のクラッド板材は、実施例3のクラッド板材を厚みが28μmになるようにさらに圧延することによって作製した。
【0085】
また、比較例8では、A1N30から構成され、50μmの厚みのAl板材を用いた。つまり、Fe層を設けなかった。なお、比較例5および8は、単一板材でありクラッド板材ではないため、接合を行っていない。
【0086】
(断面観察1)
次に、作製した実施例3〜5、比較例6および7のクラッド板材を所定の位置で切断した後に、クラッド板材の断面をSEMを用いて観察した。
【0087】
図11〜
図15に、それぞれ、比較例6、実施例3〜5および比較例7の断面写真を示す。
図11〜
図14にそれぞれ示す比較例6および実施例3〜5においては、Fe層の破断が観察されなかった。なお、
図13および
図14にそれぞれ示す実施例4および5では、Fe層とAl層との界面が波打つように形成され、Fe層の厚みが不均一になった。一方、
図15に示す比較例7では、Fe層の破断が観察された。これらの結果から、Fe層をSPCCから構成した場合において、Fe層の破断は必ず発生するわけではないが、Fe層が破断する確率を低減するには、クラッド板材の厚みが少なくとも30μm以上になるように圧延することが好ましく、また、接合前のFe材の厚みを少なくとも10μm(30μm/3)以上確保することも好ましいことが分かった。さらに、クラッド板材の厚みを65μm以上になるように圧延することによって、Fe層の厚みが不均一化するのを抑制することが可能であり、その結果、Fe層の破断を確実に抑制することが可能であると考えられる。
【0088】
(比重測定)
また、水中浸漬法により、作製した実施例3〜5および比較例6のクラッド板材の比重を測定した。なお、比較例7は、芯材(Fe層)が破断したことによりクラッド板材を作製できなかったため、比重測定を行わなかった。
【0089】
図10に示す比重の測定結果から、実施例3〜5のクラッド板材の比重は、4.8以下になり、十分に軽量化されていることが判明した。一方、比較例6のクラッド板材の比重(5.17)は4.8よりも大きくなり、軽量化が不十分であることが判明した。この結果から、SPCCから構成されたFe層の厚みの比率を少なくとも35%以下にすることによって、比重を4.8以下にして十分に軽量化することが可能であると考えられる。
【0090】
(機械的強度測定、ハンドリング性判定)
また、実施例3〜5および比較例6のクラッド板材と、比較例5のSPCC板材および比較例8のAl板材との機械的強度(0.2%耐力およびヤング率)を測定した。さらに、クラッド板材、SPCC板材およびAl板材のハンドリング性を判定した。なお、比較例7は、クラッド板材のFe層が破断したため、機械的強度測定およびハンドリング性判定は行わなかった。なお、Fe層が破断しているクラッド板材(比較例7)の0.2%耐力は、実質的にAl層に用いたA1N30材の0.2%耐力(概ね125MPa以下)と同等または略近似であり、本発明のクラッド板材に必要とする150MPa以上の0.2%耐力を備えていないと考えられる。
【0091】
図10に示す0.2%耐力およびヤング率の測定結果から、クラッド板材の厚みが30μm以上である実施例3〜5の0.2%耐力およびヤング率は、それぞれ、150MPa以上および100GPa以上になった。また、実施例3〜5は、ハンドリング性も良好であった。一方、比較例8のAl板材は、0.2%耐力およびヤング率が、それぞれ、150MPa未満(122MPa)および100GPa未満(71GPa)になるとともに、ハンドリング性も悪かった。つまり、比較例8のAl板材は、軽量ではあるものの、薄厚化されていることにより機械的強度が低く、その結果、ハンドリング性が悪くなることが判明した。
【0092】
これらの結果から、Fe層をSPCCから構成した場合には、クラッド板材の厚みを30μm程度まで小さくして、クラッド板材の薄厚化を図り、これによる軽量化(比重が4.8以下)を図りながら、機械的強度(0.2%耐力が150MPa以上、ヤング率が100GPa以上)を保持することができた。また、接合前のFe材の厚みを少なくとも10μm以上確保することによっても、Fe層の破断の可能性を抑制することが可能であることが判明した。
【0093】
[実施例2]
次に、
図16〜
図19を参照して、本発明の効果を確認するために行った実験[実施例2]について説明する。この[実施例2]では、絶縁層の接合状態を確認するために、絶縁層が形成された半導体素子形成用基板の断面観察を行った。
【0094】
ここで、実施例6では、A1050(純Al)から構成されるAl層、SUS430から構成されるFe層、および、A1050から構成されるAl層からなる3層のクラッド板材を準備した。そして、クラッド板材の一方表面(Al層の表面)上に、軟化点が410℃であり、B
2O
3を少量含むBi
2O
3(Bi系酸化物)の粉末を塗布した。その後、このBi系酸化物を460℃(融解温度)で融解させることによって、Bi系酸化物(Bi系ガラス)からなる絶縁層が形成された実施例6の試験材を作製した。
【0095】
また、実施例7では、Bi系酸化物の代わりに軟化点が370℃であり、P
2O
5を含むV
2O
5(V系酸化物)の粉末を塗布し、410℃(融解温度)で融解させることによって、V系酸化物(V系ガラス)からなる絶縁層を形成した点を除いて、実施例6と同様にして、実施例7の試験材を作製した。
【0096】
一方、比較例9では、SUS430の板材を準備した。つまり、Al層が形成されていない板材を用いた。そして、実施例6と同様に、SUS板材の表面上に、Bi系酸化物(Bi系ガラス)からなる絶縁層が形成された比較例9の試験材を作製した。
【0097】
また、比較例10では、Bi系酸化物の代わりにV系酸化物(V系ガラス)からなる絶縁層を形成した点を除いて、比較例9と同様にして、比較例10の試験材を作製した。
【0098】
そして、作製した実施例6、7、比較例9および10の試験材を所定の位置で切断した後に、試験材の断面をSEMを用いて観察した。
【0099】
図16〜
図19に、それぞれ、実施例6、7、比較例9および10の試験材における絶縁層と板材との界面近傍の断面写真を示す。
図16および
図17に示す実施例6および7の試験材では、絶縁層とクラッド板材のAl層との界面において隙間や気泡などが観察されずに、絶縁層とAl層とが密着していた。一方、
図18に示す比較例9の試験材では、絶縁層とSUS430の板材との界面において隙間や気泡などが略観察されなかったものの、
図16に示す実施例6の試験材と比べて、絶縁層と板材との密着性が若干劣っているように観察された。また、
図19に示す比較例10の試験材では、絶縁層とSUS430の板材との界面において隙間や気泡などが明確に観察され、
図17に示す実施例7の試験材と比べて、絶縁層と板材との密着性が明確に劣っていることが観察された。
【0100】
この結果、クラッド板材のAl層に形成されたBi系酸化物またはV系酸化物からなる絶縁層は密着性が高く、その結果、コイル状に巻き取りを行う際などに絶縁層が形成されたクラッド板材(半導体素子形成用基板)に曲げ応力が加えられたとしても、絶縁層がクラッド板材から剥がれるのを抑制することができると推察できる。
【0101】
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0102】
たとえば、上記実施形態では、絶縁層2をBi系酸化物またはV系酸化物から構成した例を示したが、本発明はこれに限られない
。
【0103】
また、上記実施形態では、基板100がクラッド板材1と、クラッド板材1の上面1aに形成された絶縁層2とを備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド板材の上面上に絶縁層を設けることが好ましいが、絶縁層を必ずしも設けずにクラッド板材だけで半導体素子形成用基板を構成してもよく、半導体素子形成用基板の製造工程を簡略化することが可能である。また、クラッド板材の上面の表面上だけでなく、下面の表面上にも絶縁層を形成してもよい。さらに、クラッド板材の全面(全周)の表面上に絶縁層を形成してもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、クラッド板材1の厚みt1をおおよそ30μm以上にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド板材の0.2%耐力が150MPa以上で、かつ、ヤング率が100GPa以上になるのであれば、クラッド板材の厚みは30μm未満であってもよい。その際、Fe層として、機械的強度(強度および剛性)の高いFe合金を用いる方が好ましい。
【0105】
また、上記実施形態では、クラッド板材1がAl層11、Fe層12およびAl層13の3層のクラッド板材から構成された例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、Al層とFe層との間に、耐熱性を向上させるための層や、Al層とFe層との密着性を向上させる層などを設けてもよい。つまり、クラッド板材は、3層以上の層構造を有するクラッド板材であればよい。
【0106】
また、上記実施形態では、クラッド板材1の比重を3.5以上にした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド板材の比重は3.5未満であってもよい。その際、クラッド板材の0.2%耐力が150MPa以上で、かつ、ヤング率が100GPa以上になるのであれば、Fe層としてより軽量なFe合金を用いるのが好ましい。それにより、Fe層の厚みを小さくして薄厚化を図りつつ、全体として軽量化することが可能である。
【0107】
また、上記実施形態では、Fe層12の平均厚みt4をクラッド板材1の厚みt1のおおよそ10%以上35%以下になるように形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド板材の0.2%耐力が150MPa以上で、かつ、ヤング率が100GPa以上になるのであれば、Fe層の平均厚みをクラッド板材の厚みの10%未満にしてもよい。また、クラッド板材の比重が4.8以下になるのであれば、Fe層の平均厚みをクラッド板材の厚みの35%より大きくしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、粉末状のBi系酸化物またはV系酸化物を含むペースト102を、連続体のクラッド板材1の上面1a上に連続的に塗布するとともに、粉末状のBi系酸化物またはV系酸化物を溶融させることによって、絶縁層2を連続的に形成して、連続体の基板100を作製した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、クラッド板材に絶縁層を連続的に設けなくてもよい。つまり、ロール状(連続体)のクラッド板材を作製し、そのロール状のクラッド板材を所定の大きさに切断した後に、クラッド板材の表面上に絶縁層を形成して、半導体素子が成長可能な基板を作製してもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、軟化点が約450℃以下のBi系酸化物またはV系酸化物を絶縁層として用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、絶縁層として、たとえば、約500℃程度の軟化点を有するBi系酸化物またはV系酸化物を用いてもよい。つまり、絶縁層として、軟化点が約450℃よりも大きなBi系酸化物またはV系酸化物を用いてもよい。これであっても、クラッド板材の表面上に絶縁層を容易に形成することが可能であるとともに、半導体素子形成用基板に曲げ応力が加えられたとしても、絶縁層がクラッド板材から剥がれるのを抑制することが可能である。また、絶縁層として、Bi系酸化物およびV系酸化物以外の他の絶縁物(たとえば、Bi系酸化物およびV系酸化物以外の酸化物など)を用いてもよい。
【0110】
また、上記実施形態では、Al層11の厚みt2とAl層13の厚みt3とが略同一になる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Al層11の厚みt2とAl層13の厚みt3とを異ならせてもよい。この場合、Al層11の延性と、Al層13の延性とが略同じになるように、Al材111および113の各々の厚みやAl層11および13の各々の厚みを調整するのが好ましい。つまり、Al層11および13の組成が異なる場合には、延性が略同じになるように各々の厚みを異ならせるのが好ましい。これにより、基板において、反りなどの変形が生じるのを抑制することが可能である。
【0111】
また、上記実施形態では、基板100の上面2a上に成長される本発明の「半導体素子」の一例として、薄膜系の太陽電池素子203および有機EL素子303を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基板の表面上に、たとえば、LEDやレーザ光源などの薄膜系でない半導体素子を形成してもよい。