(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6337625
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】育苗方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20180528BHJP
A01G 22/00 20180101ALI20180528BHJP
A01G 9/00 20180101ALI20180528BHJP
【FI】
A01G7/00 602Z
A01G1/00 301Z
A01G9/00 K
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-115742(P2014-115742)
(22)【出願日】2014年6月4日
(65)【公開番号】特開2015-228814(P2015-228814A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2016年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有家 茂晴
(72)【発明者】
【氏名】曽根 圭太
(72)【発明者】
【氏名】上面 雅義
(72)【発明者】
【氏名】土橋 明彦
(72)【発明者】
【氏名】武田 信司
【審査官】
坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−332482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 9/00 − 9/02
A01G 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
育苗ポットを使用する育苗方法において、培土からなる苗床の上に膨張黒鉛を含むシートを配置し、その上に5〜20mmの厚みで培土を配置し、さらにその上に育苗ポットを配置する構成の作物の育苗方法。
【請求項2】
上記作物が玉葱、甜菜であることを特徴とする請求項1に記載の育苗方法。
【請求項3】
水に濡れた状態の培土の酸化還元電位が580〜640mVである請求項1又は請求項2に記載の育苗方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業で発芽から苗を育成する育苗に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、農園芸作業において、ポット、トレーなどの育苗用容器に培土を充填し、この培土に播種し、苗を集中生育させた後、この生育苗を、機械を用いて移植する方法が広く行われている。このような機械化された大規模な農業は、日本の北部地方、特に北海道で広く行われている。この機械化農業の品目は玉葱、甜菜、じゃがいもが多いが、特に玉葱、甜菜等では冬季から春にかけてハウス内部で育苗して春に定植する場合が多い。
【0003】
特許文献1には育苗ポット、植木鉢あるいはプランターと言った容器を用いた場合に、容器底の排水孔から根が出てくることがあり、容器から取り出して移植することが難しくなることがあり、この根の成長を抑制するには、炭素材料製敷物の上に育苗ポット、植木鉢あるいはプランターを載置して育成する方法が提案されている。この場合は、炭素材料には容器底からの根の成長を抑制するという効果が言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−191788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、玉葱を例に取ると、北海道では冬季から春に育苗ポットを用いて育苗し、春に定植するが、寒冷な地方であるため、ハウス内部で育苗する必要がある。しかし、近年の原油価格の上昇は暖房用燃料費の負担が大きく、なるべく短期間に丈夫な苗を育てることが重要となる。ここで言う丈夫な苗というのは、育苗ポット内部にしっかりと根を成長させたものが望ましい。
本発明は、短期間で丈夫な苗を育てることができる育苗方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のことに関する。
(1)育苗ポットを使用する育苗方法において、培土からなる苗床の上に膨張黒鉛を含むシートを配置し、その上に5mm以上の厚みで培土を配置し、さらにその上に育苗ポットを配置する構成の作物の育苗方法。
(2)育苗ポットを使用する育苗方法において、育苗ポット中に粉末状の膨張黒鉛を配合した培土を使用することを特徴とする作物の育苗方法。
(3)作物が玉葱、甜菜であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の育苗方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、上記特許文献1とは異なり、膨張黒鉛を含むシート材とその上に配置する育苗ポットの間に培土を配置する。そのことにより、驚くべきことに上記特許文献1とは逆の根の成長を促進する効果が発現した。
【0008】
本発明により、根の成長を促進させる効果のある膨張黒鉛を含むシートを設置することで、育苗ポットを用いた時に定植後の自然環境に強いと思われる根の育成状態が良好な苗を提供することができる。なお、膨張黒鉛を培土中に配置し、水に濡れた状態で酸化還元電位を測定すると、580〜640mVとなり、膨張黒鉛を設置しない水に濡れた倍土の電位540〜570mVと比較して高い傾向が観察された。この高い電位が培土中の好気性の菌根菌の育成を促進して根の成長を促進したと推定している。また、本発明では玉葱について説明するが、同様の方法を甜菜でも試みた結果、膨張黒鉛の近傍には、これを配置しない場合と比較して、根が大きく成長したことを確認済みである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、
図1を例にして詳細に説明する。まず、一般的な培土からなる苗床の上に、根の成長を促進させる膨張黒鉛を含むシートを配置する。その上に、5mm厚み以上、好ましくは5〜20mm厚みの培土を撒き、その上に育苗ポットを敷き詰め播種する構成とする。以下は、玉葱(たまねぎ)を例として説明するが、これに限定するものではない。
【0011】
苗床は、育苗ポットで直置きされて使用されているものである。この上に配置する膨張黒鉛を含むシートとは、膨張黒鉛を圧縮成型して得たシートがよい。なお、強度アップのための適度なバインダー成分と混練して、これを圧縮成型したものや、繊維で強化したものであってもよい。
【0012】
この上に、5mm以上、好ましくは5〜20mmの厚さの培土を撒く。多連の育苗ポットで凹凸のある底部との隙間を生めて、水が不足した場合に乾燥しにくくする意図である。この培土は一般的な土や育苗ポットに使用する培土であってもよい。なお、培土の厚みが厚すぎると、その下に配置した膨張黒鉛を含むシートの効果が低下する。
【0013】
育苗用ポットの内部には、専用の培土を使用するのが好ましい。これは、機械を用いて移植しやすくするためである。例として、みのる産業株式会社の「培土」と「専用バインダー」を指定比率で混練したものが挙げられる。
【0014】
次に、膨張黒鉛を含むシートであるが、膨張黒鉛のみで作製されるものは公知である。例として、日立化成株式会社製のもの(商品名:カーボフィット)があり、その製造方法も公知である。一般的には、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等に濃硫酸と、濃硝酸、硝酸カリウムや過マンガン酸カリウム等の酸化剤を吸収させて層間化合物とし、これを1000℃前後の高温で1〜10秒間の熱処理をすることで、発生した分解ガスにて膨張させて、元の体積の10〜500倍の体積となった膨張黒鉛が得られる。さらに、用途としてはシート状でガスケット等に使用されるため、その粉体は連続的にカレンダーロールで圧縮されてシート状にされるものが一般的である。
【0015】
膨張黒鉛を粉末状で使用する際は、上記の膨張させた状態の粉末を使用しても良いが、一貫した製造ラインで膨張黒鉛シートまで成型されたシートを粉末状に粉砕したものを使用しても良い。
【0016】
玉葱(たまねぎ)の種としては、不定形のものでもよいが、市販品で球状のコーティング種子の方が作業性もよく、機械化もしやすい。例として、住化農業資材株式会社製や、ホクレン農業協同組合連合会のものがある。
【0017】
これらをハウス内部で一般的な育苗指針に基づいて育苗する。適切な発芽初期の温度は15〜25℃であり、発芽後は光を適宜当てながら育苗し、撒種から30日までは培土が乾燥しきらないように保水に気を配る。撒種から約50日で定植可能となるが、根の成長が良好なものは定植後の自然環境にも強いといわれている。このため、育苗ポット内部の培土に粉状の膨張黒鉛を配合するのみでも根の成長を促進することができる。
【実施例】
【0018】
以下,本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(実施例)
簡易的な育苗装置として、
図2に示すものを準備した。水切り用底部の栓を開けて網を張った株式会社サンコープラスチック製角型タライに土を入れ、その中に木枠で組んだ育苗箱を設置した。育苗箱にたまねぎ育苗用MH培土(北海道用、みのる産業株式会社製)を入れ、その上に日立化成株式会社製の膨張黒鉛シート(商品名:カーボフィット、厚み0.38mm)を敷き、さらにMH培土を厚み約10mmに敷き詰めた。
【0019】
育苗ポットはみのる産業製のものを7行×7列の大きさに切断したものを用いた。ポット寸法は上直径16、下直径13、20mmピッチの多連で深さ25mmである。これにもMH培土を入れ、深さ5mm程度の穴を開け、各ポットに撒種した。なお、後述する根の重量を正確に測定するため、MH培土とセットの専用バインダーは使用しなかった。
【0020】
種子はホクレン農業協同組合連合会販売のコーティング種子、収多郎である。これを、保温用の農ビフィルムでカバーし、さらに、適宜直射日光を減光する遮光フィルムを南側に設けて内温を2〜36℃に調整した。また、開始後から潅水の際に土壌電位を測定した。測定機は株式会社藤原製作所製のポータブル土壌pH/硝酸/Eh計PRN-41型、Eh電極セットである。まず、測定用のPt電極は育苗ポットの中に突っ込んだ状態で育苗ポット下部の水切り穴の下に配置された膨張黒鉛シートに接触させておく。測定時には、育苗ポットに潅水して湿潤状態にすると共に、同じ培土を入れてある近接する木枠にも潅水して泥水状態とし、比較電極を浸漬する。それぞれを測定器に接続して、電位が安定する約1分後の値を読み取る。
【0021】
2013年10月22日にセッティングして開始し、11月22日に、育苗中の苗を無作為に10本サンプリングした。所望の育苗ポットを水で濡らした後、スパチュラで育苗ポット内容物を培土ごと全て取り出して、水中に漬けて培土を洗い流し、速やかに1本ずつの質量と、個々に切り離した10本分の根をまとめたものの質量を電子天秤で測定した。
【0022】
(比較例)
育苗ポットの下に膨張黒鉛シートを設置しなかったこと以外は実施例と同じで、上記の同列の木枠内に設置した。
【0023】
このようにして播種から30日後の質量測定結果を表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
この結果から、比較例と比較して実施例では総質量は少ないが、根の質量は重く、根の質量比率も大きい。
次に、土壌電位測定結果を
図3に示した。実施例の方が比較例より40〜60mV高目に推移している。なお、11月11日あたりは両者の電位差が接近しているが、これは潅水不足の影響であり、膨張黒鉛は乾燥すると電位が低下することを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0026】
育苗は適正な条件に調整して丈夫な苗を得られれば、収量アップが見込める。本発明は、根の成長を促進する簡易な技術であり、機械化された大規模農家のみでなく、一般農業への活用も期待できる。
【符号の説明】
【0027】
1 育苗ポット
2 培土
3 膨張黒鉛を含むシート
4 種子
5 木枠
6 Pt電極
7 比較電極
8 比較電極用槽
9 保温保湿用農ビ