(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6338080
(24)【登録日】2018年5月18日
(45)【発行日】2018年6月6日
(54)【発明の名称】超臨界水によるバイオマスガス化システム
(51)【国際特許分類】
C10J 3/72 20060101AFI20180528BHJP
C10J 3/78 20060101ALI20180528BHJP
【FI】
C10J3/72 A
C10J3/78
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-64672(P2013-64672)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2014-189589(P2014-189589A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年2月15日
【審判番号】不服2017-6012(P2017-6012/J1)
【審判請求日】2017年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592148878
【氏名又は名称】株式会社東洋高圧
(73)【特許権者】
【識別番号】596133119
【氏名又は名称】中電プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】山村 幸政
(72)【発明者】
【氏名】内山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾山 圭二
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】松村 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】美濃輪 智朗
(72)【発明者】
【氏名】野口 琢史
(72)【発明者】
【氏名】川井 良文
【合議体】
【審判長】
國島 明弘
【審判官】
井上 能宏
【審判官】
原 賢一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−271146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体に懸濁させた非金属系触媒を触媒として、前記バイオマスを超臨界水でガス化処理するガス化反応器と、
前記ガス化反応器にて生成された生成ガス及び灰分、並びに前記非金属系触媒が水に懸濁され、前記ガス化反応器から排出される600℃の混合物と、前記ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される前記含水性バイオマス又は前記バイオマスのスラリー体に前記非金属系触媒を懸濁させた懸濁液とを熱交換させることにより前記懸濁液を予熱する二重管式熱交換器と、
を備える超臨界水によるバイオマスガス化システムにおいて、
前記二重管式熱交換器内の圧力を27MPa以上60MPa以下の範囲内に調整することを特徴とする超臨界水によるバイオマスガス化システム。
【請求項2】
前記ガス化反応器におけるガス化処理を600℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載の超臨界水によるバイオマスガス化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タール等の発生を抑制して詰まりを防止することが可能な超臨界水によるバイオマスガス化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含水性バイオマス(焼酎残渣、採卵鶏糞等)を超臨界水でガス化する技術において、バイオマスを超臨界水でガス化することによって得られた生成物等の熱を利用して、超臨界水でガス化される含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を加熱する二重管式熱交換器を備えた超臨界水によるバイオマスガス化システムが開発されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−271146号公報
【特許文献2】特開2009−242697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような超臨界水によるバイオマスガス化システムでは、二重管式熱交換器において、含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を超臨界水でガス化することによって得られた生成物等の熱を利用して、超臨界水でガス化される含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を加熱する際にタール等が生成され、二重管の管内に詰りが生じる場合がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、二重管式熱交換器において、バイオマスを超臨界水でガス化することによって得られた生成物等の熱を利用して、超臨界水でガス化される含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を加熱する際に、タール等の発生を抑制し、もって二重管の管内における詰まりを防止することが可能な超臨界水によるバイオマスガス化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、含水性バイオマスに懸濁させた非金属系触媒を触媒として、バイオマスを超臨界水でガス化処理するガス化反応器と、ガス化反応器にて生成された生成ガス及び灰分、並びに前記非金属系触媒が水に懸濁され、かつガス化反応器から排出される混合物の熱を利用して、ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される含水性バイオマスに非金属系触媒を懸濁させた懸濁液を予熱する二重管式熱交換器と、を備える超臨界水によるバイオマスガス化システムを用いて、システム内の圧力を27MPa以上に調整して、上記懸濁液の代わりにおよそ30℃の水を二重管式熱交換器における二重管の内管内の流路に、上記混合物の代わりにおよそ600℃に加熱された水を二重管の外管と内管との間の流路に、それぞれ逆方向に供給して熱交換を行った場合、システム内の圧力を23MPaで調整して熱交換を行った場合に比べて、二重管の内管内に供給した水がタール発生温度である380℃近辺(より具体的には、350〜400℃の温度範囲)で保持される時間(滞留時間)が短くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係る超臨界水によるバイオマスガス化システムは、含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体に懸濁させた非金属系触媒を触媒として、前記バイオマスを超臨界水でガス化処理するガス化反応器と、前記ガス化反応器にて生成された生成ガス及び灰分、並びに前記非金属系触媒が水に懸濁され、前記ガス化反応器から排出される
600℃の混合物
と、前記ガス化反応器で超臨界水によりガス化処理される前記含水性バイオマス又は前記バイオマスのスラリー体に前記非金属系触媒を懸濁させた懸濁液
とを熱交換させることにより前記懸濁液を予熱する二重管式熱交換器と、を備える超臨界水によるバイオマスガス化システムにおいて、前記システム内の圧力を27MPa
以上60MPa以下の範囲内に調整することを含む。
【0008】
なお、上記超臨界水によるバイオマスガス化システムにおける上記ガス化反応器でのガス化処理は、600℃以上の温度で行ってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、二重管式熱交換器において、バイオマスを超臨界水でガス化することによって得られた生成物等の熱を利用して、超臨界水でガス化される含水性バイオマス又はバイオマスのスラリー体を加熱する際に、タール等の発生を抑制し、もって二重管の管内における詰まりを防止することが可能な超臨界水によるバイオマスガス化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態において、超臨界水によるバイオマスガス化システムの概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態において、二重管式熱交換器における二重管の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例において、二重管式熱交換器の圧力を23MPaに調整し、二重管の内管内におよそ30℃の水を、外管と内管との間におよそ600℃の水を、それぞれ逆方向で供給して熱交換させた場合の、二重管の各地点における各流体の温度を測定した結果を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例において、二重管式熱交換器の圧力を27.5MPaに調整し、二重管の内管内におよそ30℃の水を、外管と内管との間におよそ600℃の水を、それぞれ逆方向で供給して熱交換させた場合の、二重管の各地点における各流体の温度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び図面等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態として説明する、超臨界水によるバイオマスガス化システム(以下、単に「システム」と称する。)の概略構成を示す図である。
図1に示すように、システム100は、調整タンク10、破砕機20、供給ポンプ30、二重管式熱交換器40、ガス化反応器50、冷却器60、減圧器70、気液分離器80、ガスタンク90などを備えており、供給ポンプ30と二重管式熱交換器40、二重管式熱交換器40とガス化反応器50、及びガス化反応器50と熱交換器40は、それぞれ配管によって接続されており、二重管式熱交換器40とガス化反応器50との内部の圧力を27MPa以上に調整されている。
【0013】
調整タンク10は、含水性バイオマス(バイオマスのスラリー体であってもよい。以下、同じ。)、非金属系触媒、水などを混合するタンクである。システム100へ送液するガス化原料は、調整タンク10に投入された含水性バイオマス及び非金属系触媒、並びに必要に応じて投入された水を混合して、含水性バイオマス(あるいはバイオマス溶液)に非金属系触媒を懸濁することにより調製される。なお、水の投入は、バイオマスの含水率に応じて適宜行われる。上記含水性バイオマスは、例えば、焼酎残渣、採卵鶏糞、汚泥などである。また、上記非金属系触媒は、例えば、活性炭、ゼオライトなどである。非金属系触媒としては、平均粒径200μm以下の粒子を用いることが好ましく、平均粒径200μm以下の多孔質の粒子を用いることがより好ましい。
【0014】
破砕機20は、調整タンク10で調製したガス化原料(懸濁液)中のバイオマスを破砕して、あらかじめ均一な大きさ(好ましくは平均粒径が500μm以下、より好ましくは平均粒径が300μm以下)にするための装置である。
【0015】
ガス化反応器50は、破砕機20でバイオマスを破砕した懸濁液に懸濁させた非金属系触媒を触媒として、懸濁液中のバイオマスを超臨界水でガス化する装置である。バイオマスの超臨界水によるガス化は、前記非金属系触媒を利用して、例えば、600℃以上の温度の超臨界水によってバイオマスを水熱処理することにより行われる。このようにバイオマスを超臨界水で処理することにより、バイオマスを分解し、水素ガス、メタン、エタン、エチレン等の燃料ガスを生成することができる。
【0016】
供給ポンプ30は、ガス化反応器50に破砕機20でバイオマスを破砕した懸濁液を供給する装置である。供給ポンプ30は、バイオマスを破砕した懸濁液を供給できる装置であれば特に制限されるものではなく、例えば、高圧ポンプやモーノポンプなどを用いることができる。
【0017】
二重管式熱交換器40は、ガス化反応器50において超臨界水によりガス化処理することにより生成された生成ガス及び灰分、並びに非金属系触媒が水に懸濁され、かつ、ガス化反応器50から排出される排出物(混合物)の熱を利用して、ガス化反応器50で超臨界水によりガス化処理されるバイオマスを破砕した懸濁液を予熱する装置である。二重管式熱交換器40における二重管41は、
図2に示すように、外管42と内管43とから構成されており、上記混合物及び上記懸濁液のうち一方が内管43内の流路を流れ、他方が外管42と内管43との間の流路を流れる。なお、本実施の形態及び本実施例においては、内管43内の流路に上記懸濁液が流れ、外管42と内管43との間の流路に上記混合物が流れるように設定している。
【0018】
冷却器60は、ガス化反応器50から排出された排出物(生成ガス、灰分及び非金属系触媒が水に懸濁された混合物)を冷却するための装置である。冷却器60は、例えば、クーラーなどである。
減圧器70は、ガス化反応器50から排出された排出物の圧力を減圧する装置である。
【0019】
気液分離器80は、ガス化反応器50から排出された排出物を、生成ガス(燃料ガス等)を含む気体成分と、灰分及び非金属系触媒が水に懸濁された液体成分とに分離する装置である。
ガスタンク90は、気液分離器80によって分離された気体成分(生成ガス)を貯える容器(好ましくは耐圧容器)である。
【0020】
加熱器51は、ガスタンク90に貯えられた生成ガス(燃料ガス)の一部あるいは燃料ガス(例えば、LPGなど)を燃焼してガス化反応器50を加熱し、バイオマスを粉砕した懸濁液を所定の温度に加熱する装置である。加熱器51は、例えば、バーナーなどの、燃料ガスを燃焼して加熱する既存の装置である。
【0021】
なお、本実施の形態においては、二重管式熱交換器40において、バイオマスを超臨界水でガス化することによって得られた生成物等の熱を利用して、超臨界水でガス化される含水性バイオマスに非金属系触媒を懸濁させた懸濁液を加熱する際に、二重管41の内管43において、該懸濁液がタール発生温度である380℃近辺(より具体的には、350〜400℃の温度範囲)で保持される時間(滞留時間)が短くなるようにしてタール等の発生を抑制し、もって二重管41の管内、特に外管42と内管43との間の流路においてタール等による詰まりを防止するために、二重管式熱交換器40とガス化反応器50との内部の圧力を27MPa以上に調整することとしているが、市販の一般的な機器を用いる場合には、その機器が耐え得ることができる圧力、例えば、35MPa未満の圧力に調整することが好ましい。なお、二重管式熱交換器40とガス化反応器50が、35MPaより大きく60MPa以下の圧力に耐え得る材料で構成されている場合には、これらの圧力で調整してもよい。
【0022】
また、本実施の形態においては、調整タンク10で含水性バイオマス(あるいはバイオマスの溶液)に非金属系触媒を懸濁した懸濁液を、供給ポンプ30により二重管式熱交換器40に供給しているが、供給ポンプ30で供給する直前に、非金属系触媒を、破砕機20で破砕した含水性バイオマス(あるいはバイオマスの溶液)に懸濁し、二重管式熱交換器40に供給してもよい。
【0023】
さらに、本実施の形態において、供給ポンプ30から二重管式熱交換器40に供給する、含水性バイオマスに非金属系触媒を懸濁した懸濁液を、タールが発生しない温度(例えば、350℃程度)まで、あらかじめ予熱する予熱器を別途設けてもよい。これにより、ガス化反応器50に供給する上記懸濁液の加熱を迅速に行うことが可能となる。
【実施例】
【0024】
上述の二重管式熱交換器40とガス化反応器50とを備えるシステム100を用いて、二重管41の外管42と内管43との間の流路における出口の圧力を23MPa又は27.5MPaになるように調整して、二重管41の内管43内の流路におよそ30℃の水を供給し、二重管41の外管42と内管43との間の流路に対して、内管43内を流れる流体の進行方向とは逆方向に、ガス化反応器50でおよそ600℃に加熱された水を供給して熱交換を実施し、二重管41の各地点における、内管43内の流体の温度及び外管42と内管43との間における流体の温度を測定した。なお、水の流量は0.76L/minとした。二重管41としては、内管43の内径が8mm、内管43の厚さが3mm、外管42の内径が13mm、外管42の厚さが4mm、及び長さが100mであって、内管43及び外管42がそれぞれSUS316TPSから構成されたものを用いた。また、内管43内の流路の入口、あるいは外管42と内管43との間における流路の出口を0mとして各地点における流体の温度を測定した。それらの結果を
図3及び
図4に示す。
【0025】
図3に示すように、外管42と内管43との間における流路の出口の圧力が23MPaである場合には、二重管41の内管43内に供給した水がタール発生温度である380℃付近(350〜400℃の温度範囲)で保持される距離及び時間(時間は、375℃、23MPaにおける水の比重447.59を用いて計算)は、それぞれ54m及び68.6秒であった。これに対して、外管42と内管43との間における流路の出口の圧力が27.5MPaである場合には、
図4に示すように、二重管41の内管43内に供給した水がタール発生温度である380℃付近(350〜400℃の温度範囲)で保持される距離及び時間(時間は、375℃、27.5MPaにおける水の比重536.62を用いて計算)は、それぞれ36m及び54.8秒であった。このことから、システム100内の圧力、すなわち、二重管式熱交換器40とガス化反応器50との内部の圧力を27MPa以上に調整することにより、システム内の圧力を23MPaで調整した場合に比べ、二重管41の内管43に供給した水がタール発生温度である380℃近辺(より具体的には、350〜400℃の温度範囲)で保持される時間(滞留時間)が短くなることが明らかになるとともに、タール等の発生を抑制でき、もって二重管41の管内、特に外管42と内管43との間の流路においてタール等による詰まりを防止できることが示された。
【符号の説明】
【0026】
10 調整タンク、20 破砕機、30 供給ポンプ、40 二重管式熱交換器、41 二重管、42 外管、43 内管、50 ガス化反応器、51 加熱器、60 冷却器、70 減圧器、80 気液分離器、90 ガスタンク、100 超臨界水によるバイオマスガス化システム