(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記金属基板上の上記触媒層部分において、10μm×10μmの領域あたりに存在する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の数が1以上100以下である請求項1に記載の水素製造用触媒電極。
上記金属基板上の上記触媒層部分に対する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の総面積の割合が2%以上20%以下であり、且つ、上記触媒層部分に対する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の最大面積の割合が1%以下である請求項1または2に記載の水素製造用触媒電極。
上記複合半導体金属化合物触媒を構成する半導体金属化合物触媒が、Mo、W、Cd、Tiの硫化物、セレン化物、窒化物、および、Siから選択される2以上である請求項1〜4のいずれかに記載の水素製造用触媒電極。
【背景技術】
【0002】
水素は、石油精製のためなど化学工業分野で使用される重要な工業ガスである。さらに近年では、その利用後において酸化窒素ガスなどの有害物質や二酸化炭素などの環境負荷物質を排出しないクリーンエネルギー源としての期待が大いに高まっている。例えば、燃料電池の主要な燃料成分などとして、今後、その需要はさらに大きくなると考えられ、それに伴って、新たな水素製造技術の開発が幅広く進められている。
【0003】
現在、世界で年間500億Nm
3以上の水素が製造され、そのうちの約97%が熱化学的方法により得られ、残りは電気化学的方法などによって製造されている。熱化学的方法としては、水蒸気改質法、部分酸化法および自己熱改質法が主なものである。水蒸気改質法は、触媒の存在下、天然ガスやナフサなどの化石資源を高温で水蒸気と反応させて合成ガスを得る方法である。その主な反応は以下のとおりである。
C
nH
m + nH
2O → nCO + (n+m/2)H
2
【0004】
水蒸気改質法は、改質ガス中の水素の存在比が高く、メタンやナフサなど軽質の炭化水素を原料とする水素製造に適した方法である。しかし、上記反応は吸熱反応であるので、熱を外部から常に供給しなければならず、多量のエネルギーが必要となる。また、触媒劣化や炭素析出などの問題から、重質の炭化水素原料への適用は困難である。
【0005】
電気化学的な方法としては、従来からのアルカリ水電気分解法と固体高分子電解水電気分解法とが主なものである。
【0006】
アルカリ水電気分解法は、現在実用化されている最も一般的な水の電気分解法であり、比較的シンプルな製造装置を用いることができる。しかし、そのエネルギー効率は20%程度と低い。
【0007】
固体高分子電解水電気分解法では、水素イオン(H
+)のみが通過する0.1mm程度の厚さのフッ素樹脂系イオン交換膜を、白金触媒電極と多孔質系給電体、主電極で挟み、水を分解して水素と酸素を得る。本法はエネルギー効率が高く、装置のコンパクト化も可能であるが、イオン交換膜や白金触媒の価格が高いことが問題である。
【0008】
ところで、石炭を燃焼させる場合やコークス炉ガス精製時には、硫化水素ガスが発生する。硫化水素は有害な環境汚染物質であるので、その処理方法が切望されている。また、水の分解による水素の製造時には、同時に酸素も発生するために危険である。そこで、硫化物イオン(S
2-)を含む水溶液から気体として水素のみを生成させる方法が検討されている。
【0009】
例えば特許文献1には、RuやOsなどの遷移金属の錯体を用い、硫化水素水溶液を電気分解することにより硫黄と水素を製造する方法が開示されている。しかし当該方法では硫黄が析出し、錯体や電極が被毒されるため、水素を連続的に大量合成することができない。
【0010】
特許文献2には、金属硫化物などの光触媒を担持した光触媒電極と金属電極とを用い、電極間に電圧を印加しつつ光を照射して水素を発生させる硫化水素含有液の処理方法が開示されている。しかし、一般的に光触媒の活性は低い。当該技術は光触媒のかかる欠点を補うために電力を利用しているものの、最良の結果でも電極間に流れる電流は計算上おおよそ1.7mA/cm
2と小さく、水素の製造効率は低いと言わざるを得ない。
【0011】
特許文献3には、化学浴槽析出法(CBD法)により基材上にZnOなどの半導体を固定化した薄膜状光触媒と、当該薄膜状光触媒を硫化水素溶液に浸漬して水素を製造する方法が開示されている。しかし、上述したように光触媒の活性は一般的に低い。また、たとえ当該薄膜状光触媒を形成した金属板を電極として用い、電圧を印加して反応効率を高めたとしても、単なる薄膜である光触媒は溶液中に溶出したり金属板から剥離するなどして、水素を工業的かつ安定的に製造することは難しいといえる。
【0012】
また、特許文献4には、硫化物イオンを含む水溶液から水素を製造する方法は記載されていないが、酸化物をコーティングした炭素粉末を金属表面に溶射した後に炭素を燃焼させて空孔を形成させ、還元して触媒層を形成したり、或いは多孔質酸化物層へさらに触媒粒子をコーティングしたり、或いは担体粒子をコーティングした上で触媒金属を担持する触媒が開示されている。しかし、多孔質酸化物層を還元する方法では金属表面に多孔質金属層が形成されるのみであり、硫化物イオンを含む水溶液から水素を製造するために有用な半導体触媒層を形成することはできない。また、多孔質酸化物層に触媒粒子などを担持する方法では、通常は絶縁体である酸化物上に触媒粒子などが担持されるのみであり、触媒作用により硫化物イオンの酸化で生じた電子を基材金属へ効率的に送達するのは難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、硫化物イオンを含む水溶液から水素を製造する技術は種々開発されている。
【0015】
しかし、従来技術は主に光触媒を用いるものであり、その水素製造効率はまったく十分なものではなかった。さらに電気エネルギーを利用する技術もあったが、反応中における触媒金属の電極金属基板からの剥離や溶出、さらには反応の進行に伴う硫黄(S)の析出による触媒被毒の問題により、水素を安定的に製造できるものではなかった。
【0016】
そこで本発明は、硫化物イオンを含む水溶液から水素を製造する効率自体が高いのみならず、金属基板からの触媒成分の脱離が顕著に抑制されている触媒電極、並びに、当該触媒電極を使って水素を高効率で安定的に製造するための装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、硫化物イオンを酸化し、水素を発生させる反応を促進するための触媒としては、2種以上の半導体金属化合物触媒の複合体が非常に優れていることを見出した。また、水素の製造効率を維持しつつ金属基板にかかる複合半導体金属化合物触媒を安定的に担持するためには、金属基板をアンカー成分で全面的に被覆することはせず、島状の希少金属酸化物またはベースメタル酸化物で部分被覆することが重要であることを見出した。かかる島状金属酸化物が金属基板上に複合半導体金属化合物触媒を繋ぎ止めるアンカーの役割を果たすと同時に、複合半導体金属化合物触媒の一部が金属基板に接触しているため、触媒反応により生じた電子を効率的に運搬できることになる。さらに、金属基板に直接接触している複合半導体金属化合物触媒は、助触媒層に被覆されているため、触媒層から容易に脱落することはない。その結果、水素を安定的に製造することが可能になった。
【0018】
以下、本発明を示す。
【0019】
[1] 金属基板、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、複合半導体金属化合物触媒、および助触媒を含み、
上記希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、上記複合半導体金属化合物触媒、および上記助触媒が、上記金属基板上に触媒層を形成しており、
上記希少金属酸化物またはベースメタル酸化物は、上記触媒層において、上記金属基板の片面を島状に部分被覆しており、
上記複合半導体金属化合物触媒は、上記触媒層において、上記金属基板、および上記希少金属酸化物またはベースメタル酸化物の両方に接触しており、
上記助触媒は、上記触媒層において、上記希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、および上記複合半導体金属化合物触媒を被覆していることを特徴とする水素製造用触媒電極。
【0020】
[2] 上記金属基板上の上記触媒層部分において、10μm×10μmの領域あたりに存在する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の数が1以上100以下である上記[1]に記載の水素製造用触媒電極。
【0021】
[3] 上記金属基板上の上記触媒層部分に対する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の総面積の割合が2%以上20%以下であり、且つ、上記触媒層部分に対する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の最大面積の割合が1%以下である上記[1]または[2]に記載の水素製造用触媒電極。
【0022】
[4] 上記希少金属酸化物を構成する希少金属が、W、Mo、Co、NiおよびVから選択される1以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の水素製造用触媒電極。
【0023】
[5] 上記複合半導体金属化合物触媒を構成する半導体金属化合物触媒が、Mo、W、Cd、Tiの硫化物、セレン化物、窒化物、および、Siから選択される2以上である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の水素製造用触媒電極。
【0024】
[6] 少なくとも、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の水素製造用触媒電極、対電極、電源および反応容器を含むことを特徴とする水素製造装置。
【0025】
[7] 上記[6]に記載の水素製造装置の上記反応容器に、少なくともS
2-を含む水溶液を加え、上記電源の正極に接続された上記水素製造用触媒電極と、上記電源の負極に接続された上記対電極を上記水溶液に浸漬し、上記水素製造用触媒電極と対電極間に電圧を印加する工程を含むことを特徴とする水素の製造方法。
【0026】
[8] さらに、上記電源の負極に上記水素製造用触媒電極を接続し、且つ上記電源の正極に上記対電極を接続し、上記水素製造用触媒電極と対電極間に電圧を印加する工程を含む上記[7]に記載の水素の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る触媒電極の触媒成分は、少なくとも硫化物イオンの酸化反応を顕著に促進する。また、本発明に係る触媒電極の触媒成分の一部は、金属基板に直接接触しているため、反応により生じた電子の送達効率が極めて高い。さらに、本発明に係る触媒電極は、触媒成分が金属基板へ堅固に固定されているので耐久性に非常に優れ、水素を長期間にわたって製造しても製造効率は安定して維持される。よって本発明に係る触媒電極を用いた水素の製造方法は、従来、水素の工業的製造方法として主に用いられている熱化学的方法に取って代わり得るものとして、産業上非常に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、先ず、本発明に係る水素製造用触媒電極につき説明する。
【0030】
1. 水素製造用触媒
本発明に係る水素製造用触媒電極は、金属基板、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、複合半導体金属化合物触媒および助触媒を含み、当該希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、複合半導体金属化合物触媒、および助触媒は、金属基板上で触媒層を形成している。
【0031】
本発明で用いる金属基板は、導電性を示し、且つ、水溶液中における硫化物イオン(S
2-)の酸化反応(2S
2- → S
22- + 2e
-)と水素発生反応(2H
+ + 2e
- → H
2↑)に対する耐性を有する金属からなるものであれば特に制限されない。
【0032】
金属基板を構成する金属としては、例えば、チタン、白金、および、これらの合金などを挙げることができる。
【0033】
金属基板の形状や大きさは、水素製造装置の反応容器の形状や大きさなどに応じて適宜決定すればよく、特に制限されない。金属基板の表面は、触媒層との密着性のため、サンドペーパーなどを使って粗化してもよい。また、触媒層の形成により表面の少なくとも一部が酸化される場合がある。
本発明に係る水素製造用触媒電極において、希少金属酸化物およびベースメタル酸化物は、親和性の低い金属基板と複合半導体金属化合物触媒および助触媒との密着性を高めるアンカー効果を示すものである。また、希少金属酸化物およびベースメタル酸化物は、電極成分としての機能を発揮できる程度の電気伝導性を示す場合がある。
【0034】
希少金属とは、鉄、銅、亜鉛、錫、アルミニウムなどのベースメタル、および金や銀などの貴金属以外の非鉄金属をいい、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、スカンジウム、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、タリウム、ビスマスを挙げることができ、周期律表において第3〜11属に含まれる遷移金属希少金属がより好ましい。
【0035】
ベースメタルとは、埋蔵量や産出量が多く精錬が簡単な金属をいう。例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、アルミニウムなどをいう。
【0036】
本発明で用いる希少金属酸化物を構成する希少金属としては、タングステン、モリブデン、コバルト、ニッケルおよびバナジウムが好ましい。本発明では、1種のみの希少金属酸化物またはベースメタル酸化物を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上の希少金属酸化物およびベースメタル酸化物を併用する場合、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物をそれぞれ2種以上用いてもよいし、希少金属酸化物とベースメタル酸化物を混合して用いてもよい。即ち、本発明において「希少金属酸化物またはベースメタル酸化物」は、希少金属酸化物および/またはベースメタル酸化物を意味するものとする。
【0037】
本発明に係る水素製造用触媒電極において、希少金属酸化物およびベースメタル酸化物は、金属基板の片面を島状に部分被覆する。希少金属酸化物またはベースメタル酸化物が金属基板の片面を全体的に被覆する場合には、金属基板からの触媒層の剥離は抑制できるが、複合半導体金属化合物触媒が金属基板と直接接触することができず、反応効率が低下する。そこで本発明では、金属基板の片面を希少金属酸化物またはベースメタル酸化物で島状に部分被覆することにより、触媒層の剥離を抑制するとともに、金属基板と複合半導体金属化合物触媒との直接接触による反応効率の向上を可能にしている。
【0038】
本発明における「島状」とは、例えば
図1に模式的に示すように、金属基板上の触媒層において、その最大の面積でも触媒層の平面面積に対して十分に小さい希少金属酸化物またはベースメタル酸化物からなる島が、金属基板上の触媒層部分に分散して点在していることをいう。
【0039】
より具体的には、「島状」とは、金属基板上の触媒層部分の面積に対する、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物からなる島の総面積の割合が2%以上20%以下であり、且つ、金属基板上の触媒層部分の面積に対する、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物からなる島のうち最大のものの面積の割合が1%以下であることをいう。また、触媒層部分において、10μm×10μmの領域あたりに存在する上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の数が1以上100以下であることが好ましい。ここで、「金属基板上の触媒層部分」とは、金属基板上に島状希少金属酸化物のみが形成された状態、または本発明の水素製造用触媒電極から複合半導体金属化合物触媒と助触媒を選択的に除去した状態で、触媒層が形成されるべき部分、または触媒層が形成されていた部分をいう。
【0040】
島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の総面積の割合などの測定方法は、特に制限されない。例えば、島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物が形成された触媒層部分を走査型電子顕微鏡(SEM)などで拡大観察し、画像解析ソフトウェアなどを用いて得られた画像を解析することにより求めることができる。また、エネルギー分散型X線分析(EDSまたはEDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)やオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)により、平面を構成する元素を特定することにより求めることも有効である。また、島状の希少金属酸化物層またはベースメタル酸化物層がある程度の厚みを有する場合であっても、これら分析により得られたデータをZAF補正法で補正することにより、より正確な解析が可能である。
【0041】
島状希少金属酸化物および島状ベースメタル酸化物としては、1μm以上10μm以下が好ましい。当該厚さが1μm以上であれば、金属基板と複合半導体金属化合物触媒とのアンカー効果がより確実に発揮され得る。一方、当該厚さが厚過ぎると電気伝導性が損なわれるおそれがあり得るため、当該厚さとしては10μm以下が好ましい。当該厚さとしては、5μm以下がさらに好ましい。
【0042】
複合半導体金属化合物触媒は、2種以上の金属元素を含む半導体金属化合物触媒であり、溶液中における硫化物イオン(S
2-)の酸化反応(2S
2- → S
22- + 2e
-)を促進できるものをいう。当該複合半導体金属化合物触媒としては、さらに水素発生反応(2H
+ + 2e
- → H
2↑)をも促進できるものが好ましい。なお、ケイ素(シリコン)は金属元素とも化合物ともいえるものではないが、代表的な半導体であり、本発明者らによる実験によればケイ素を含む複合半導体金属化合物触媒も触媒効果を発揮することから、本発明では、便宜上、ケイ素も半導体金属化合物触媒に含めるものとする。
【0043】
複合半導体金属化合物触媒を構成する半導体金属化合物触媒としては、例えば、モリブデン、タングステン、カドミウム、チタンの硫化物、セレン化物、窒化物、および、Siから選択される2以上を挙げることができる。
【0044】
金属基板上に形成された触媒層において、複合半導体金属化合物触媒は、金属基板と希少金属酸化物またはベースメタル酸化物の両方に接触している。複合半導体金属化合物触媒が金属基板と直接接触していることにより、反応に必要な電子の受け渡しが効率的に進行する。また、複合半導体金属化合物触媒が希少金属酸化物またはベースメタル酸化物に接触していることにより、当該複合半導体金属化合物触媒の触媒層からの脱落が抑制されている。即ち、本発明においては、金属基板上に島状の希少金属酸化物またはベースメタル酸化物を形成し、且つ複合半導体金属化合物触媒を金属基板と希少金属酸化物またはベースメタル酸化物の両方に接触させることにより、効率的な触媒反応と触媒の脱落抑制という互いに相反する効果を発揮することが可能になっている。
【0045】
なお、本発明においては、例えば
図1に模式的に示すように、複合半導体金属化合物触媒の一部が金属基板に接触しており、他の一部が希少金属酸化物またはベースメタル酸化物に接触していればよく、すべての個々の複合半導体金属化合物触媒粒子が金属基板と希少金属酸化物またはベースメタル酸化物の両方に接触している必要は必ずしもない。本発明の触媒層では、複合半導体金属化合物触媒は助触媒により被覆されているため、複合半導体金属化合物触媒の一部が金属基板に接触しており、他の一部が希少金属酸化物またはベースメタル酸化物に接触している場合であっても、反応性と安定性は確保されている。
【0046】
助触媒は、複合半導体金属化合物触媒の触媒作用を改善すると共に、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物と複合半導体金属化合物触媒を被覆して、それらの金属基板からの脱落を抑制する。
【0047】
助触媒は、上記作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、上記の希少金属酸化物やベースメタル酸化物、遷移金属の酸化物や周期律表の第4周期金属の酸化物を用いることができ、ニッケル、鉄、銅および亜鉛から選択される1以上の酸化物が好ましい。
【0048】
次に、本発明に係る水素製造用触媒電極の製造方法につき説明する。
【0049】
2. 水素製造用触媒電極の製造方法
本発明に係る水素製造用触媒電極は、特に制限されないが、例えば、
金属基板上に、希少金属化合物またはベースメタル酸化物および炭素材料を含むスラリーを塗布した後に焼成することにより、島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物を形成する工程、
上記金属基板の島状希少金属酸化物が形成された面に、2種以上の半導体金属化合物触媒を含むスラリーを塗布した後に焼成することにより、上記金属基板上および上記島状希少金属酸化物上または上記島状ベースメタル酸化物上に複合半導体金属化合物触媒を担持する工程、および、
上記金属基板の島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物および複合半導体金属化合物触媒が形成された面に、助触媒化合物を含む助触媒液を塗布した後に焼成することにより、上記島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物および複合半導体金属化合物触媒を助触媒により被覆する工程を含むことを特徴とする方法により製造することができる。
【0050】
以下、水素製造用触媒電極の上記製造方法につき、工程ごとに説明する。
【0051】
(1) 島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の形成工程
本工程では、金属基板上に、希少金属化合物またはベースメタル化合物および炭素材料を含むスラリーを塗布した後に焼成することにより、島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物を形成する。
【0052】
上記スラリーに含まれる希少金属化合物またはベースメタル化合物は、少なくとも希少金属、希少金属イオン、ベースメタルまたはベースメタルイオンを含むものであり、焼成により希少金属酸化物またはベースメタル酸化物になるものであれば特に制限されない。例えば、希少金属酸およびその塩、希少金属イオン塩、ベースメタル酸およびその塩、ベースメタルイオン塩などを挙げることができる。
【0053】
スラリーに含まれる溶媒としては、上記希少金属化合物またはベースメタル化合物を溶解できるものであってもできないものであってもよいが、好適には溶解可能なものを用いる。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコール系溶媒;アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒などを用いることができる。
【0054】
本発明では、上記スラリーに炭素材料を添加することが重要である。炭素材料が無い場合には、表面張力により希少金属化合物またはベースメタル化合物の溶液や分散液を金属基板上に均一に塗布することが困難になり、金属基板の露出部分が完全に酸化されて絶縁体となって電子の受け渡しが阻害され、結果として触媒反応が抑制される。一方、炭素材料を添加してスラリー化することにより金属基板上への均一塗布が可能になる。その上、炭素材料は焼成時に酸素を奪うことから金属基板表面が還元的雰囲気となり、形成される島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物の直下のみならず、金属基板表面の露出部分の一部も酸化されず金属のまま維持される可能性もあり得る。
【0055】
炭素材料としては、例えば、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、カーボンファイバーなどを挙げることができる。また、本発明においては、炭素材料として微細化されたものが好ましいが、粒径150μm以上のものを用いることも好ましい。粒径150μm以上の炭素材料を用いた場合、水素製造用触媒電極の性能が向上する。一方、過剰に大きな炭素材料を用いるとスラリーの均一塗布が難しくなるおそれがあり得るので、炭素材料の粒径としては1mm以下が好ましい。また、炭素材料の粒径が小さいほどスラリーの調製や塗布が容易となるので、粒径100μm以下の炭素材料を用いるのも好ましい態様である。
【0056】
上記スラリーには、希少金属化合物またはベースメタル化合物と炭素材料以外にも、必要成分を適宜添加してもよい。例えば、pH調整剤などを配合してもよい。
【0057】
本工程では、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物を金属基板上に島状に形成することが重要である。そこで、スラリーにおける希少金属化合物またはベースメタル化合物や炭素材料の濃度、スラリーの塗布量などを調整し、焼成後に金属基板上の触媒層形成部分の全面が希少金属酸化物またはベースメタル酸化物で被覆されることのないようにする必要がある。具体的には予備実験などで決定すればよいが、例えば、スラリー中の希少金属またはベースメタルのモル濃度として50mmol/L以上500mmol/L以下程度、活性炭素濃度を50mg/mL以上500mg/mL以下程度とすることができる。また、スラリー中の希少金属化合物濃度またはベースメタル化合物濃度やスラリー塗布量を比較的少なくし、本工程(1)を複数回繰り返すことにより希少金属酸化物またはベースメタル酸化物が島状に形成されるよう調整してもよい。
【0058】
焼成温度は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、500℃以上、800℃以下とすることができる。また、焼成時間も適宜調整すればよいが、例えば、1時間以上、5時間以下とすることができる。
【0059】
塗布したスラリー中の炭素材料は焼成により燃料消滅する。よって、上記スラリーを金属基板上の片面全体に均一塗布した場合であっても、スラリー中における希少金属化合物またはベースメタル化合物や炭素材料の濃度を調整することによって、金属基板上、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物を島状に形成することが可能になる。或いは、希少金属化合物またはベースメタル化合物の濃度を比較的低く調整したり、スラリーの塗布量を低減しつつ、塗布と焼成を複数回繰り返すことにより、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物を島状に形成することもできる。焼成後には、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物が金属基板上に島状に点在していることを拡大観察やZAF補正法などにより確認することが好ましい。
【0060】
(2) 複合半導体金属化合物触媒の担持工程
本工程では、金属基板の島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物が形成された面に、2種以上の半導体金属化合物触媒を含むスラリーを塗布した後に焼成することにより、上記金属基板上および島状の希少金属酸化物上または島状ベースメタル酸化物に複合半導体金属化合物触媒を形成する。
【0061】
複合半導体金属化合物触媒スラリーの溶媒としては、上記工程(1)のスラリーの溶媒と同様のものを用いることができる。2種以上の半導体金属化合物触媒のスラリー中濃度は適宜調整すればよいが、例えば、0.1g/mL以上、5g/mL以下程度とすることができる。
【0062】
複合半導体金属化合物触媒スラリーには、必要に応じて複合半導体金属化合物触媒以外の成分を添加してもよい。例えば、複合半導体金属化合物触媒スラリーに上記工程(1)で用いた希少金属化合物またはベースメタル化合物を添加することにより、複合半導体金属化合物触媒の密着性をより一層高めることが可能になる。
【0063】
本発明者らによる実験的知見によれば、触媒層の焼成温度が550℃以上になると半導体金属化合物触媒が酸化されて酸化物になることが明らかにされている。そこで、本工程の焼成温度は、例えば、300℃以上、500℃以下とすることが好ましい。焼成時間は適宜調整すればよいが、例えば、20分間以上、3時間以下とすることができる。
【0064】
複合半導体金属化合物触媒の金属基板および島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物への密着性を高めるために、上記触媒液に希少金属化合物を添加してもよい。
【0065】
なお、上記工程(1)により金属基板上には島状の希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物が形成されており、本工程で複合半導体金属化合物触媒スラリーをその上に塗布するため、例えば
図1に模式的に示すように、複合半導体金属化合物触媒の少なくとも一部が金属基板に接触し、他の一部が希少金属酸化物またはベースメタル酸化物に接触するように形成される。
【0066】
(3) 助触媒による被覆工程
本工程では、金属基板の島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物および複合半導体金属化合物触媒が形成された面に、助触媒化合物を含む助触媒液を塗布した後に焼成することにより、島状希少金属酸化物または島状ベースメタル酸化物および複合半導体金属化合物触媒を助触媒により被覆する。本工程を経て、希少金属酸化物またはベースメタル酸化物、複合半導体金属化合物触媒および助触媒を含む触媒層が金属基板上に形成され、且つ、触媒成分の脱落が抑制されており耐久性に優れた水素製造用触媒電極が製造される。なお、少なくとも複合半導体金属化合物触媒は助触媒により完全に被覆されている必要はなく、その一部が露出していてもよい。かかる露出部分により、反応がより一層促進されると考えられる。
【0067】
上記助触媒液に含まれる助触媒化合物は、助触媒に含まれる金属元素を少なくとも1種含むものであり、焼成により金属酸化物である助触媒になるものであれば特に制限されない。例えば、助触媒に含まれる金属元素の塩などを挙げることができる。
【0068】
助触媒液の溶媒としては、上記工程(1)のスラリーの溶媒と同様のものを用いることができる。助触媒化合物の助触媒液中濃度は適宜調整すればよいが、例えば、助触媒の金属元素のモル濃度として50mmol/L以上、500mmol/L以下程度とすることができる。なお、助触媒液は、助触媒化合物が溶解しているものであってもよいし、完全に溶解せず分散しているものであってもよい。
【0069】
本工程(3)の焼成温度は、上記工程(2)と同様に、半導体金属化合物触媒の酸化を抑制するために300℃以上、500℃以下とすることが好ましい。焼成時間は適宜調整すればよいが、例えば、20分間以上、3時間以下とすることができる。
【0070】
次に、本発明に係る上記水素製造用触媒電極を含む水素製造装置につき説明する。
【0071】
3. 水素製造装置
本発明に係る水素製造装置は、少なくとも、上記水素製造用触媒電極、対電極、電源および反応容器を含む。
【0072】
対電極としては、一般的なカーボン電極を用いることができる。また、カーボン電極の表面を、白金、ロジウム、パラジウム、ルテニウムなどの金属で被覆してもよい。
【0073】
なお、水素製造用触媒電極と対電極は、一般的な電極反応と同様にそれぞれを反応溶液に浸漬してもよい。その際、水素製造用触媒電極と対電極間に隔壁を設けてもよいが、本発明では発生する気体は水素のみであり、隔壁を設けなくても水素を製造することができる。また、例えばテフロン(登録商標)製の板などの絶縁板の表面と裏面に、それぞれ水素製造用触媒電極と対電極を貼り付ける構成としてもよい。
【0074】
本発明に係る水素製造用触媒電極を用いれば、低電力で水素を極めて効率的に製造することができる。本発明者らによる実験では、1.5V程度の電源でも水素の製造は十分に可能であった。しかし、水素の製造量は電流に比例し、電圧が高いほど電流値も高くなるので、例えば水素の工業的な大量生産などにおいては2.5V程度までの電源を用いてもよい。
【0075】
反応容器は、本発明に係る触媒反応に耐性を有する材質のものであれば特に制限されず、また、その大きさも、水素の製造規模などに応じて適宜決定すればよい。
【0076】
次に、上記水素製造装置を用いた水素の製造方法につき説明する。
【0077】
4. 水素の製造方法
本発明では、上記水素製造装置の反応容器に少なくともS
2-を含む水溶液を加え、電源の正極に接続された水素製造用触媒電極と、電源の負極に接続された対電極を上記水溶液に浸漬し、水素製造用触媒電極と対電極間に電圧を印加することにより、正極では2S
2- → S
22- + 2e
-の反応が起こり、負極では2H
+ + 2e
- → H
2↑の反応が起こることにより、水素を製造することができる。
【0078】
また、S
22- → S
2- + Sの反応により、硫化物イオンが再生すると共に硫黄が発生する場合もある。即ち、本発明に係る水素の製造方法は、硫黄の製造方法であるともいえる。
【0079】
反応溶液における硫化物イオン(S
2-)の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、反応開始時における濃度として0.05M以上、5M以下程度とすることができる。また、反応の進行に伴って硫化物イオンは消費されるため、硫化物イオンを逐次的または連続的に添加してもよい。
【0080】
また、硫化物イオンに亜硫酸イオンが共存していると、以下の反応が起こって硫化物イオンが再生することが知られている。
S
22- + SO
32- → S
2O
32- + S
2-
【0081】
よって、反応溶液には、硫化物イオンと同モル程度の亜硫酸イオンを共存させてもよい。
【0082】
反応時の温度に関しては、高いほど反応効率は良いといえるが、一般的には、30℃以上、90℃以下とすることができる。当該温度としては、40℃以上が好ましい。
【0083】
本発明によれば、水素製造用触媒電極の耐久性が高いため、長時間に及ぶ水素製造が可能であるが、本発明者らによる実験によれば、電流値は徐々に低下し、70時間経過後では約5分の1まで低下した。反応後の水素製造用触媒電極の表面は黄変していたことから、かかる電流低下は析出した硫黄の被毒によるものと考えられた。
【0084】
しかし、上記反応後、被毒した水素製造用触媒電極を用い、正極と負極を逆、即ち負極に水素製造用触媒電極を接続し、正極に対電極を接続して実験を行ったところ、その後少なくとも約7000時間にわたって水素の製造を継続することができた。少なくとも本発明の水素製造用触媒電極は優れた耐久性を示すことから、電極への正極と負極の接続を定期的に入れ変えることにより、水素を継続的かつ効率的に製造することが可能になるといえる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0086】
実施例1: 触媒電極の作製
(1) 島状酸化タングステン被膜の形成
縦1.5cm×横1cm×厚さ0.2mmのチタン金属板の表面をサンドペーパー(理研コランダム社製「P80」)で研磨した。別途、丸底フラスコにタングステン酸(1.4225g,和光純薬社製)、エチレングリコール(25mL,シグマアルドリッチ社製)および氷酢酸(10mL,キシダ化学社製)を入れ、120℃で均質溶液となるまで攪拌した。当該タングステン溶液(400μL)に活性炭素(0.05g,石津製薬社製)を分散させてスラリーとし、上記チタン金属板の片面の1cm
2(1cm×1cm)の領域に塗布した。次いで、600℃で3時間焼成した。
【0087】
得られたチタン金属板の島状酸化タングステン被膜形成面とその裏側を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した。裏側のSEM写真を
図2(1)に、島状酸化タングステン被膜形成面の写真を
図2(2)に示す。
図2(2)のとおり、島状酸化タングステン被膜形成面には、数μm程度の大きさの島状の酸化タングステン被膜が形成されていることが確認された。
【0088】
また、得られたチタン金属板の島状酸化タングステン被膜形成面を、走査電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−6500F」)を用いて撮影した。Tiの分布を
図3(1)に、Wの分布を
図3(2)に示す。
図3(1)においてTiは黄色(白黒では白色)で、その他の元素は黒色で示されており、
図3(2)においてWは白色で、その他の元素は黒色で示されている。
図3(1)のとおり、島状酸化タングステン被膜形成面において、Tiは均一に分布しているが、
図3(2)のとおり、Wは不均一に分布していた。
【0089】
さらに、得られたチタン金属板の島状酸化タングステン被膜形成面に存在する元素の割合を、エネルギー分散形X線分光器(日本電子社製「ドライSDエクストラ検出器」)を用い、ZAF補正法で求めた。その結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
以上の操作を繰り返すことにより、チタン金属板の表面に島状酸化タングステン被膜を形成した。
【0092】
(2) 触媒の担持
メノウ乳鉢にセレン化カドミウム(0.08g,和光純薬社製)と硫化モリブデン(0.12g,和光純薬社製)を入れ、さらに適量のアセトンを加えて混合した。当該混合粉末に上記タングステン溶液(400μL)を加えて混合し、触媒分散液を得た。当該触媒分散液を上記チタン金属板の島状酸化タングステン被膜を形成した側の面に塗布した後、400℃で1時間焼成した。
【0093】
(3) 助触媒の担持
上記チタン金属板の触媒担持面に上記タングステン溶液(400μL)を塗布し、400℃で1時間焼成した。
【0094】
別途、丸底フラスコに塩化ニッケル六水和物(1.35g)、トリエタノールアミン(5mL)およびエチレングリコール(25mL)を入れ、120℃で均質溶液となるまで攪拌した。当該溶液を3℃まで冷却したところ、トリエタノールアミン塩酸塩が析出した。当該トリエタノールアミン塩酸塩を遠心分離器により分離することにより、ニッケル溶液を得た。当該溶液を上記チタン金属板の触媒担持面に塗布し、400℃で1時間焼成した。同様の操作をさらに2回繰り返した。さらに、上記ニッケル溶液を塗布し、500℃で1時間焼成することにより、触媒電極を得た。
【0095】
実施例2: 水素の製造実験
図4に模式的に示す水素製造装置を用い、上記実施例1で作製した触媒電極を用いた水素の製造実験を行った。具体的には、縦6.5cm、横3.5cm、厚さ2mmのテフロン(登録商標)板の各面に、上記触媒電極と、縦1cm、横1cm、厚さ0.8mmの白金蒸着カーボン電極を貼り付け、1.6V電源装置の+側を上記触媒電極に、−側を白金蒸着カーボン電極に配線し、0.35M Na
2S+0.25M Na
2SO
3水溶液(50mL)中に浸漬した。なお、電源装置の電圧は1.6Vであるが、電流計を直列に接続していたため、電極間に付与された実際の電圧は1.23Vであった。ヒーターを使って水溶液の温度を60〜70℃に維持し、水溶液を攪拌しつつ電極間に電圧をかけ、電流値を測定した。結果を
図5(1)に示す。
図5(1)のとおり、おそらくは水溶液の攪拌のために測定電流値はばらつくが、ほぼ100mAで5時間維持された。
【0096】
また、触媒面積を2cm
2に変更し、Na
2S+Na
2SO
3水溶液の量を60mLに変更した以外は同様にして実験を行ったところ、
図5(2)に示す結果のとおり、電流値はおよそ230mAと約2倍に維持された。
【0097】
以上の結果より、電流値、即ち水素の製造効率は、触媒電極の面積に比例することが明らかとなった。
【0098】
実施例3: 触媒組成の検討
上記実施例1において、セレン化カドミウムと硫化モリブデンの代わりに、これらの合計モル数と同モルの単独のセレン化カドミウム、硫化モリブデンまたは硫化タングステンを用い、焼成温度などを適宜変更した以外は同様にして触媒電極を作製し、溶液を加熱せず室温(20〜25℃)のままとした以外は上記実施例2と同様の条件で水素製造実験を行い、反応開始から10分後の初期電流値を求めた。その結果、初期電流値はそれぞれ2.68mA、11.02mA、9.15mAと、かなり低い値であった。
【0099】
そこで、硫化モリブデンと他の半導体結晶を質量比0.6:0.4で混合して用い、同様に初期電流値を測定した。その結果、セレン化カドミウム24.49mA、シリコン21.8mA、硫化タングステン24.49mA、窒化チタン20.2mAとなり、電流値は明らかに向上した。
【0100】
さらに、硫化モリブデンと硫化タングステンとの組み合わせ(MoS
2−WS
2)、および、硫化モリブデンとセレン化カドミウムとの組み合わせ(MoS
2−CdSe)において、質量比を変更した以外は上記と同様にして初期電流値を測定した。MoS
2−WS
2の結果を
図6(1)に、MoS
2−CdSeの結果を
図6(2)に示す。
【0101】
図6に示す結果のとおり、硫化タングステンのみ、硫化モリブデンのみ、セレン化カドミウムのみでは十分な電流は得られなかったが、上記複合半導体触媒において、全体に対する硫化タングステンまたはセレン化カドミウムの質量比が大凡0.3以上0.7以下であれば、十分な電流が得られ、反応が進行することが分かった。
【0102】
実施例4: 長時間にわたる水素の製造実験
上記実施例2の条件で、約70時間まで実験を継続した。結果を
図7(1)に示す。
図7(1)のとおり、電流値は113mAから徐々に減少し、70時間後には23mAまで低下した。実験後、触媒電極の表面が黄変していたことから、正極である触媒電極では2S
2- → S
22- + 2e
-の反応のみならず2S
2- → 2S + 2e
-の反応が起こっており、上記の電流低下は硫黄による触媒電極の被毒によるものと考えられた。
【0103】
ここで、別の実験中、通常の水素製造実験を行い、水素製造装置を一晩放置した後、誤って正極と負極を逆に接続したまま水素製造実験を再開したところ、高い電流値が示された。そこで、70時間後の反応液はそのまま用い、触媒電極を新しいものに交換し、触媒電極を正極に、白金蒸着カーボン電極を負極に接続し、10分間反応を行った。その際の電流値は132mAであった。次いで、正極と負極を逆に接続し、水素製造実験を再開した。結果を
図7(2)に示す。
図7(2)のとおり、電流値はほぼ100mAに維持されていた。なお、約123時間後に電源を切断し、一晩放置後に実験を再開したところ、電流値は88mAとほぼ回復した。
【0104】
なお、別途、最初から触媒電極を負極に、白金蒸着カーボン電極を正極に接続して実験を行ったところ、電流値はほぼ30mAでそれ以上増加することはなかった。
【0105】
以上の実験結果より、本発明の触媒電極をいったん硫黄で被毒した後、電源の負極に接続することにより、長時間にわたり水素を安定的に製造できることが実証された。