(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】イオン照射システムの概略構成を模式的に示した図である。
【
図3】イオンビームの照射イメージを模式的に示した図である。
【
図4】欠陥層が形成されているウェハの断面図を模式的に示した図である。
【
図5】イオン照射後のシリコンウェハの表面からの深さと抵抗率との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)は、抵抗率のピークの深さが異なる3つの高抵抗層のグラフを示す図、
図6(b)は、半値幅の異なる3つの高抵抗層のグラフを示す図である。
【
図7】イオン照射に用いるマスクを模式的に示す上面図である。
【
図8】マスクを用いたイオン照射によってウェハに形成される欠陥層を模式的に示す図である。
【
図9】比較例に係るマスクの固定態様を模式的に示す図である。
【
図10】本実施の形態に係る固定装置により固定されたウェハおよびマスクの構造を模式的に示す断面図である。
【
図11】本実施の形態に係る固定装置、ウェハおよびマスクを分解した状態を示す断面図である。
【
図12】クリップが取り付けられたマスクを示す上面図である。
【
図14】ウェハにマスクを固定するためのアライメント装置を模式的に示す外観図である。
【
図15】
図15(a)、(b)は、ステージの上にセットされるウェハホルダおよびウェハを示す断面図である。
【
図16】マスクホルダに保持されたマスクを示す下面図である。
【
図17】マスクとウェハの位置合わせ工程を模式的に示す図である。
【
図18】マスクとウェハの固定工程を模式的に示す図である。
【
図19】マスクと固定されたウェハホルダを示す下面図である。
【
図20】本実施の形態に係るウェハ構造体にイオン照射する工程を模式的に示す図である。
【
図21】本実施の形態に係るイオン照射方法の一例を示すフローチャートである。
【
図22】比較例に係るウェハを固定する際の課題を模式的に示す図である。
【
図23】本実施の形態に係るフレーム部材の構造を模式的に示す断面図である。
【
図24】フレーム部材の構造を模式的に示す上面図である。
【
図25】本実施の形態に係る固定装置により固定されたウェハおよびマスクの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態に係るイオン照射方法は、第1主面を有する半導体基板の外周領域に金属製のスペーサ部材を配置する工程と、スペーサ部材を間に挟んで、第1主面の上方に配置されるマスクと半導体基板とを固定する工程と、マスクの上から半導体基板に向けてイオンを照射する工程と、を備える。
【0012】
ここで、半導体基板の第1主面とは、イオン照射がなされる照射面である。この照射面の上方にマスクを配置してイオン照射を行うことにより、照射面の一部領域をマスクにより遮蔽し、イオン照射したい領域に選択的にイオンを照射する。このような部分的なイオン照射を行う際に、マスクと照射面とが接触してしまうと、照射面が損傷してしまうおそれがある。一般に、イオン照射工程は、半導体基板に半導体装置などを形成した後に行われるため、イオン照射工程において照射面が損傷してしまうと、これまでの半導体装置形成工程が無駄になってしまう。
【0013】
そこで、本実施の形態では、照射面とマスクとが接触しないように、半導体基板とマスクの間にスペーサ部材を挟む。スペーサ部材は、半導体基板の外周領域に接触することとなるが、外周領域は一般に半導体装置が形成されない領域であるため、仮にそこで損傷が発生しても半導体装置への影響は少ない。本実施の形態では、スペーサ部材を挟むことで半導体装置が設けられる領域への影響を防止できるため、より簡便な方法によりイオン照射工程の歩留まり低下を防ぐことができると言える。
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、製造方法を説明する際に示す各断面図において、半導体基板やその他の層の厚みや大きさは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0015】
(第1の実施の形態)
(イオン照射装置)
はじめに、半導体基板にイオン照射を行うイオン照射システムについて説明する。
図1は、イオン照射システムの概略構成を模式的に示した図である。イオン照射システム10は、加速器12と、半導体基板であるウェハを保持し搬送するウェハ搬送装置14と、加速器12から出射されたイオンビームをウェハ搬送装置14まで導くビーム輸送ダクト16と、を備える。
【0016】
加速器12は、イオンを加速し、イオンビームとして外部へ出射する。加速器12としては、例えば、サイクロトロン方式やバンデグラフ方式の装置が用いられる。ウェハ搬送装置14は、複数の搬送プレート18を収容する収容部(不図示)と、搬送プレート18が搭載しているウェハにイオンビームが照射される照射チャンバ20と、収容部と照射チャンバ20との間で搬送プレート18を移動する移動機構22と、を備える。ビーム輸送ダクト16の途中には、内部を真空に維持する真空ポンプやビームの方向を補正する電磁コイル等が設けられている。
【0017】
図2は、搬送プレートの一例を示す図である。搬送プレート18は、複数のウェハ24を搭載する搭載部26を有する。ウェハ24は、搭載部26に搭載された状態で所定の位置に保持される。移動機構22は、一つの搬送プレート18に搭載されている全てのウェハ24に順次イオンビームが照射され、イオン照射処理が終了すると、搬送用軸28の端部28aを搬送プレート18の端部に設けられている被係合部30に係合させ、搬送プレート18を収容部に戻す。そして、次の搬送プレート18を照射チャンバ20へ移動する。
【0018】
図3は、イオンビームの照射イメージを模式的に示した図である。加速器12から出射したイオンビームBは、マグネット32の働きによりその方向が変化する。そして、イオンビームBでウェハ24の表面を順次走査することで、ウェハ24の所定の領域にイオン照射が行われ、欠陥層34が形成される。なお、ウェハ24の照射面の前方には、イオンビームの加速エネルギーを調整するために、アルミ製のアブソーバ36が配設されている。アブソーバ36は、例えばアルミホイル等の金属箔が用いられる。
【0019】
次に、欠陥層34について説明する。
図4は、欠陥層が形成されているウェハの断面図を模式的に示した図である。
図4に示すように、イオンビームBによりウェハ24の所定の深さに欠陥層34が形成される。
【0020】
ウェハにイオン照射が行われると、イオンの加速エネルギーに応じた深さまでイオンが到達する。その際、到達した領域を含む近傍では格子欠陥が形成され、結晶の規則性(周期性)が乱れた状態となる。このような格子欠陥が多い領域では電子が散乱されやすくなり、電子の移動が阻害される。つまり、イオン照射により局所的な格子欠陥が生じた領域では、抵抗率が上昇することになる。
【0021】
図5は、イオン照射後のシリコンウェハの表面からの深さと抵抗率との関係の一例を示すグラフである。ここで、測定したシリコンウェハは、CZ(Czochralski)法により作製されたN型のシリコン単結晶(基板抵抗率4Ω・cm)をスライスしたものである。なお、本実施の形態に係るウェハとしては、シリコン(Si)以外にも、炭化ケイ素(SiC))、窒化ガリウム(GaN)等を用いることができる。
【0022】
このN型のCZシリコンウェハに、サイクロトロン加速器によりエネルギー23MeVで加速し、減速材(アルミホイル)を通過させてイオン打ち込み深さ9μmに調整した
3He
+イオンを、ドーズ量1.0E+13cm
−2の照射量で照射した。
【0023】
その結果、
図5に示すように、抵抗率の深さ方向の変化は、深さが9.5ミクロンの位置でピーク抵抗率1000Ω・cmとなる山型の関数となっている。また、抵抗率がピークの半分となる半値幅は9.2μm前後である。ここでは、この半値幅に含まれる領域を欠陥層34または高抵抗層と称する。なお、欠陥層または高抵抗層の定義は、必ずしもこれに限られず、周囲より抵抗率の高い所定の領域ということもできる。
【0024】
なお、所定の領域に高抵抗層を形成するためには、イオン照射の加速エネルギーやイオン種、照射量を適宜選択して行うことで実現可能である。
図6(a)は、抵抗率のピークの深さが異なる3つの高抵抗層のグラフを示す図、
図6(b)は、半値幅の異なる3つの高抵抗層のグラフを示す図である。
【0025】
図6(a)に示すように、例えばイオン照射の際のイオンの加速エネルギーを調整することで、高抵抗層が形成される深さを自由に設定できる。例えば、イオン照射を0.001MeV以上の加速エネルギーで行ってもよい。あるいは、0.1MeV以上の加速エネルギーで行ってもよい。また、イオン照射を100MeV以下の加速エネルギーで行ってもよい。あるいは、30MeV以下の加速エネルギーで行ってもよい。
【0026】
また、
図6(b)に示すように、例えばイオン照射に用いられるイオン種を適宜選択することで、半値幅の異なる高抵抗層を形成できる。イオン照射に用いられるイオン種は、H、He、B、C、N、O、Ne、Si、Ar、Kr、Xeからなる群より選択される少なくとも1種の原子がイオン化されたものが挙げられる。具体的には、例えば、
1H
+、
2H
+、
3He
2+、
4He
2+などが挙げられる。
【0027】
このように、イオン照射システム10において、イオン種、加速エネルギー、イオン照射量(ビーム電流、照射時間)を調整することで、ウェハ中の所定の領域に形成される欠陥層または高抵抗層の位置や幅、抵抗率の大きさを適宜設定できる。なお、イオン照射により得られる欠陥層は、高抵抗領域を形成する目的の他に、キャリアのライフタイム制御層を形成する目的など、様々な用途に用いることができる。
【0028】
(イオン照射用マスク)
次に、イオン照射に用いるマスク40について述べる。
図7は、イオン照射に用いるマスク40を模式的に示す上面図である。マスク40は、ウェハ24の照射面を覆うことのできる大きさを有する円盤形状の部材である。マスク40は、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)およびこれらの合金を含む金属や、シリコン(Si)、その他樹脂などで構成される。マスク40は、照射されるイオンを通過させるための開口42と、位置合わせ用に設けられるアライメント開口44を有する。
【0029】
図8は、マスク40を用いたイオン照射によってウェハ24に形成される欠陥層34を模式的に示す図である。マスク40は、ウェハ24の照射面24a(第1主面ともいう)の上方に配置され、ウェハ24に向けて照射されるイオンビームBを部分的に遮蔽する。開口42が設けられる開口領域A1では、イオンビームBが開口を通過してウェハ24に到達し、欠陥層34が形成される。一方、開口が設けられない非開口領域A2では、イオンビームBがマスク40により遮蔽されるため、欠陥層34が形成されない。マスク40を用いることにより、欠陥層34が形成される領域をパターン化することができる。
【0030】
(マスク固定装置)
つづいて、マスク40の固定装置について述べる。
図9は、比較例に係るマスク40の固定態様を模式的に示す図であり、上述の搬送プレート18にウェハ24およびマスク40が固定された様子を示す図である。ウェハ24は、搭載部26の上に搭載されるとともに、ウェハ24の上方に設けられる押さえ部26bによって固定される。マスク40は、搭載部26の溝26aに差し込まれることにより、ウェハ24の前面に固定される。
【0031】
図9に示す比較例においては、マスク40が下方の溝26aによって固定されているため、マスク40がウェハ24の照射面24aに接触し、照射面24aを損傷させるおそれがあった。マスク40と照射面24aとの間を距離をとれば、両者の接触を防ぐことができるが、マスク40の位置合わせ精度が低下するおそれが生じる。マスク40の位置合わせ精度が低下すると、イオン照射すべき領域にイオンが照射されず、イオン照射すべきではない領域にイオンが照射され、ウェハ24に形成される半導体装置の性能低下につながるおそれが生じる。
【0032】
そこで、本実施の形態においては、ウェハ24の外周領域に設けられるスペーサ部材を用いて、ウェハ24とマスク40とを固定する。
図10は、本実施の形態に係る固定装置60により固定されたウェハ24およびマスク40の構造を模式的に示す断面図である。
図11は、本実施の形態に係る固定装置60、ウェハ24およびマスク40を分解した状態を示す断面図である。なお以下の記載において、ウェハ24およびマスク40が固定装置60により固定された構造体を、ウェハ構造体50ともいう。
【0033】
固定装置60は、ウェハホルダ62と、上側スペーサ部材64と、下側スペーサ部材65と、クリップ66と、を有する。固定装置60は、アルミニウム(Al)やステンレス鋼(SUS)などの金属材料で構成される。なお、固定装置60は、樹脂材料で構成されてもよい。
【0034】
ウェハホルダ62は、底部62aと、底部62aの外周上に設けられる枠部62bと、を有する。ウェハホルダ62は、ウェハ24を収容可能な凹部63を有し、凹部63は、底部62aおよび枠部62bにより区画される。凹部63は、ウェハ24の外径に合った大きさの開口を有し、ウェハ24、上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65を積層させた高さに対応する深さを有する。例えば、その深さは、1mm〜5mm程度である。
【0035】
上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65は、外径に対応したリング形状の部材である。上側スペーサ部材64は、ウェハ24の照射面24aに接してウェハ24の外周領域C1に設けられる。同様に、下側スペーサ部材65は、照射面24aに背向するウェハ24の裏面(第2主面ともいう)24bに接してウェハ24の外周領域C1に設けられる。
【0036】
上側スペーサ部材64は、ウェハ24とマスク40の間に設けられ、ウェハ24の照射面24aとマスク40との間を非接触とする役割を有する。下側スペーサ部材65は、ウェハ24とウェハホルダ62の間に設けられ、裏面24bとウェハホルダ62との間を非接触とする役割を有する。
【0037】
ここで、ウェハ24の外周領域C1とは、ウェハ24の外周から1mm〜3mm程度の領域であり、一般に、半導体装置が形成されない領域である。そのため、上側スペーサ部材64または下側スペーサ部材65が外周領域C1においてウェハ24に接触したとしても、ウェハ24に形成される半導体装置への影響は少ない。また、ウェハ24の外周領域C1に上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65を設けることで、半導体装置が一般に形成される内側領域C2にマスク40やウェハホルダ62が接触し、内側領域C2が損傷することとなるのを防ぐことができる。
【0038】
上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65は、0.5mm〜2mm程度の厚さを有する。上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65は、ウェハ24の厚さを合わせた三層の厚さがウェハホルダ62の凹部63の深さよりもわずかに高くなるような厚さとすることが望ましい。また、上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65は、イオン照射の対象となるウェハ24の厚さによって、その厚さが変えられてもよい。これにより、ウェハ24の厚さが異なる場合であっても、上側スペーサ部材64や下側スペーサ部材65の厚さを変えるだけで、共通するウェハホルダ62を用いることができる。
【0039】
クリップ66は、ウェハ24、上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65を凹部63に収容したウェハホルダ62と、ウェハ24の上方に配置されるマスク40とを固定する固定治具である。クリップ66は、ウェハホルダ62、ウェハ24、マスク40を挟み込むようにして側方に取り付けられる。
図12は、クリップ66が取り付けられたマスク40を示す上面図である。図示されるように、クリップ66は、対角位置の2箇所に取り付けられる。このとき、クリップ66は、ウェハ24の照射面24aに設けられるアライメントマーク46と、マスク40のアライメント開口44の位置が合うようにして固定される。
【0040】
図13は、ウェハホルダ62の構造を示す上面図である。上面62cにおいてマスク40と接触する枠部62bには、対角状に配置される窪部62dが設けられる。窪部62dは、ウェハホルダ62をマスク40に接触させる際に、マスク40を保持する係止部と上面62cとが干渉しないようにする。マスク40を保持する係止部については、
図16および
図19を参照しながら後述する。
【0041】
(マスク固定工程)
つづいて、ウェハ24にマスク40を固定する工程を説明する。
図14は、ウェハ24にマスク40を固定するためのアライメント装置70を模式的に示す外観図である。アライメント装置70は、ウェハホルダ62が載置されるステージ72と、マスク40を保持するマスクホルダ74と、マスクホルダ74を支持する支柱77と、マスク40のアライメント開口44を通してウェハ24のアライメントマーク46を検知するためのカメラ78と、を有する。マスクホルダ74には、側方からクリップ66の取り付けが可能となるように構成されるクリップ挿入部76が設けられる。
【0042】
図15(a)、(b)は、ステージ72の上にセットされるウェハホルダ62およびウェハ24を示す断面図である。ステージ72には、ウェハホルダ62を収容するための収容溝73が設けられており、この収容溝73にウェハホルダ62およびウェハ24がセットされる。まず、
図15(a)に示すように、ステージ72の上にウェハホルダ62が配置され、ウェハホルダ62の凹部63に下側スペーサ部材65が配置される。次に、
図15(b)に示すように、下側スペーサ部材65の上にウェハ24が配置され、ウェハ24の上に上側スペーサ部材64が配置される。上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65は、ウェハ24の外周領域に配置される。
【0043】
図16は、マスクホルダ74に保持されたマスク40を示す下面図であり、マスクホルダ74の下面74b側から見た状態を示す。マスクホルダ74の下面74bには、マスク40がセットされる。マスク40は、マスクホルダ74の下面74b側に保持されており、マスクホルダ74の下面74bに対角状に配置される係止部75により支持される。係止部75は、径方向に可動するように構成されており、係止部75を内側へ動かすとマスク40が保持される状態となり、係止部75を外側へ動かすとマスク40の保持状態が解除される。なお、マスクホルダ74の中央部には、開口部74cが設けられる。カメラ78は、開口部74cおよびアライメント開口44を通して、ウェハ24のアライメントマーク46を視認する。
【0044】
図17は、マスク40とウェハ24の位置合わせ工程を模式的に示す図である。次に、マスク40の下にステージ72を移動させて、マスク40とウェハ24の位置合わせを行う。ステージ72aをX1方向に移動させてマスク40の下に配置し、マスク40の下に配置されたステージ72bをZ1方向に移動させて、マスク40とウェハホルダ62を近接させる。マスク40とウェハホルダ62を近接された状態において、カメラ78によりアライメント開口44とアライメントマーク46とを確認し、ステージ72をXY方向に移動させてマスク40とウェハ24との位置合わせを行う。
【0045】
マスク40とウェハ24との位置合わせが完了した後、マスク40、ウェハ24およびウェハホルダ62を固定する。
図18は、マスク40とウェハ24の固定工程を模式的に示す図であり、
図19は、マスク40と固定されたウェハホルダ62を示す下面図である。マスク40とウェハ24を位置合わせした後、ステージ72をZ2方向に移動させてマスク40とウェハホルダ62とを接触させる。このとき、
図19に示されるように、係止部75がウェハホルダ62に設けられる窪部62dに入り込むため、係止部75が干渉しないようにしてマスク40とウェハホルダ62とを接触させることができる。
【0046】
マスク40とウェハホルダ62とを接触させた状態で、クリップ挿入部76からクリップ66を側方に取り付けることにより、マスク40、ウェハ24およびウェハホルダ62が固定される。クリップ66を取り付けた後、係止部75による保持を解除し、ステージ72を下方に移動させることにより、
図10に示すウェハ構造体50ができあがる。
【0047】
(イオン照射工程)
図20は、本実施の形態に係るウェハ構造体50にイオン照射する工程を模式的に示す図である。ウェハ構造体50は、搬送プレート18の搭載部26に搭載され、搭載部26に搭載された状態でイオンビームが照射される。
【0048】
(マスク解除工程)
イオン照射の後、ウェハ構造体50は、
図11に示す状態に分解され、ウェハ24からマスク40の固定が解除される。マスク40の解除工程は、例えば、マスク40を固定する工程の逆工程により行うことができる。なお、ウェハ構造体50を分解する前に、ウェハ24とマスク40のアライメントがずれていないかを確認してもよい。イオン照射の前後においてアライメント状態を確認することで、適切な位置にイオン照射を実施できたか否かを確認することができる。これにより、後工程における歩留まりを高めることができる。
【0049】
図21は、本実施の形態に係るイオン照射方法の一例を示すフローチャートである。はじめに、半導体基板およびマスクをそれぞれ準備し(S10)、半導体基板の外周にスペーサ部材を配置する(S12)。半導体基板とマスクを近接させて位置合わせし(S14)、スペーサ部材を間に挟んで半導体基板とマスクをクリップで固定する(S16)。固定されたマスクを介して半導体基板にイオン照射し(S18)、イオン照射後の半導体基板とマスクの位置合わせ(アライメント)がずれていないか確認する(S20)。その後、半導体基板とマスクの固定を解除する(S22)。
【0050】
本実施の形態によれば、ウェハ24の外周領域C1に上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65を設けるため、ウェハ24の内側領域C2にマスク40やウェハホルダ62が接触しない「非接触状態」を維持しながらウェハ24にマスク40を固定することができる。したがって、マスク40を用いてイオン照射する場合であっても、ウェハ24の内側領域C2が損傷してしまうこと防ぐことができる。これにより、イオン照射工程の歩留まりを高めることができる。
【0051】
また、本実施の形態によれば、ウェハ構造体50を固定するクリップ66が、マスク40およびウェハホルダ62と接触するように取り付けられ、クリップ66とウェハ24とが非接触状態となる。これにより、固定装置60によりウェハ24の内側領域C2が損傷してしまうことを防ぐことができる。したがって、ウェハ24の照射面24aおよび裏面24bの双方を非接触状態としたままイオン照射を実行することができる。
【0052】
また、本実施の形態によれば、接着や接合の技術を利用しない固定態様としているため、ウェハ構造体50を構成する部材に接着剤や接合剤が残留する心配がなく、接着剤等を用いた場合において発生しうる接着剤の除去工程を必要としない。また、ウェハ構造体50を分解した後のマスク40や固定装置60を別のウェハ24にそのまま再利用することができる。したがって、接着や接合の技術を利用する場合と比べて、マスクを利用するイオン照射工程のコストを低減することができる。
【0053】
(第2の実施の形態)
図22は、比較例に係るウェハ124を固定する際の課題を模式的に示す図である。本図は、上述の実施の形態に係るウェハ24よりも薄いウェハ124に上側スペーサ部材64および下側スペーサ部材65を配置した状態を示している。本実施の形態に係るイオン照射工程は、半導体装置の形成工程の後に研磨工程がなされた、厚さの非常に薄いウェハに対して行われることがあり、そのようなウェハの厚さは、100μm以下となる場合もある。そうすると、ウェハが薄いために平坦な状態を維持できず、ウェハの自重によって湾曲してしまうことがある。その結果、
図22に示すように、ウェハ124の中央部がウェハホルダ62に接触してしまい、ウェハ124の表面の損傷につながるおそれがある。
【0054】
そこで、本実施の形態では、薄いウェハ124の湾曲を抑制できる固定装置を用いる。より具体的には、固定装置の一部として、ウェハ124の外周を取り囲むように配置されるフレーム162を用いる。以下、上述した第1の実施の形態に係るイオン照射方法および固定装置60との相違点を中心に説明する。
【0055】
図23は、本実施の形態に係るフレーム162の構造を模式的に示す断面図であり、
図24は、フレーム162の構造を模式的に示す上面図である。フレーム162は、ウェハ124の照射面124a(第1主面)および裏面124b(第2主面)の外周領域C1と、ウェハ124の側面124cを取り囲むようにして設けられる。フレーム162は、第1フレーム部材164と、第2フレーム部材165と、フレーム固定クリップ166と、を有する。フレーム162は、アルミニウム(Al)やステンレス鋼(SUS)などの金属で構成される。なお、フレーム162は、樹脂材料で構成されてもよい。
【0056】
第1フレーム部材164および第2フレーム部材165は、リング形状の部材であり、外径がウェハ124の外径よりも大きく、内径がウェハ124の外径よりも小さくなるように構成される。第1フレーム部材164は、外周領域C1において、ウェハ124の照射面124aと接するように設けられる。第2フレーム部材165は、ウェハ124の厚さに対応する段差部を有し、外周領域C1において、ウェハ124の裏面124bおよび側面124cに接するように設けられる。第1フレーム部材164および第2フレーム部材165は、ウェハ124を間に挟み込んだ状態で、フレーム固定クリップ166により挟み込まれて固定される。したがって、第1フレーム部材164および第2フレーム部材165は、ウェハ124の外周領域C1に設けられるスペーサ部材ということもできる。
【0057】
図25は、本実施の形態に係る固定装置160により固定されたウェハ124およびマスク40の構造を模式的に示す断面図であり、ウェハ構造体150の構成を示す。ウェハ構造体150は、ウェハ124と、マスク40と、固定装置160により構成される。固定装置160は、フレーム162と、マスク固定クリップ168と、を有する。マスク40は、第1フレーム部材164と接するようにウェハ124の照射面124aの上方に配置される。マスク40およびフレーム162は、マスク固定クリップ168により挟み込まれて固定される。
【0058】
本実施の形態に係るウェハ構造体150は、上述の第1の実施の形態に係るマスク固定工程と同様の工程により形成される。まず、第2フレーム部材165の上にウェハ124を配置し、その上に第1フレーム部材164を配置して、マスク固定クリップ168により挟み込むことにより、フレーム162により補強されたウェハ124ができあがる。フレーム162が固定されたウェハ124をステージ72の上に配置し、マスクホルダ74に保持されたマスク40に近接させ、ウェハ124とマスク40の位置合わせを行う。位置合わせが完了した後、ウェハ124に固定されるフレーム162とマスク40を接触させ、接触させた状態でマスク固定クリップ168を取り付ける。これにより、ウェハ構造体150を形成することができる。
【0059】
本実施の形態によれば、ウェハ124とマスク40の間にスペーサ部材として機能するフレーム162が設けられるため、ウェハ124の内側領域C2にマスク40が接触しない「非接触状態」を維持しながらウェハ124にマスク40を固定できる。また、ウェハ124の裏面124b側を保護する第2フレーム部材165が設けられるため、搬送プレート18の搭載部26にウェハ構造体150を搭載した場合において、ウェハ124の裏面124bが搬送プレート18に接触するのを防ぐことができる。これにより、ウェハ124の内側領域C2が損傷してしまうこと防ぎ、イオン照射工程の歩留まりを高めることができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、ウェハ124を取り囲むようにフレーム162が固定されるため、フレーム162の固定によりウェハ124を補強するとともに、湾曲しやすい薄型のウェハ124を平坦化することができる。また、フレーム162を取り付けたウェハ124に対してマスク40の位置合わせを行うため、平坦化されたウェハ124に対して位置合わせすることができ、湾曲したウェハ124に対して位置合わせを行う場合と比べてアライメント精度を高めることができる。したがって、イオン照射される領域の位置精度を高めることができ、イオン照射工程の歩留まりを高めることができる。
【0061】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態におけるイオン照射システム、加速器、ウェハ搬送装置などにおいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0062】
上述の実施の形態では、係止部75を用いてマスク40をマスクホルダ74に固定する構成について説明した。変形例においては、他のいかなる適切な手段を用いて、マスク40をマスクホルダ74に対して固定することとしてもよい。例えば、マスクホルダ74に設けられる真空チャックによりマスク40を保持してもよい。また、ステージ72とウェハホルダ62との間の固定に真空チャックを用いてもよい。
【0063】
上述の実施の形態では、フレーム162を、第1フレーム部材164、第2フレーム部材165およびフレーム固定クリップ166により構成することとした。変形例においては、異なる構成を有するフレーム162によって、ウェハ124の外周を取り囲むこととしてもよい。例えば、ウェハ124の照射面124aおよび裏面124bのそれぞれに接する上側フレーム部材および下側フレーム部材と、ウェハ124の側面124cに接する中間フレーム部材とによりフレームを構成してもよい。
【0064】
上述の実施の形態に係るイオン照射技術は、半導体装置の形成に適用することができる。例えば、IGBTとダイオードを混載させたパワーデバイスにおいて、IGBTが形成される領域にはイオン照射を行わず、ダイオードが形成される領域にイオン照射がなされるように構成されるマスクを用いることができる。これにより、ダイオード領域に欠陥領域を形成して、ダイオードの逆回復特性を向上させることができる。
【0065】
また、上述の実施の形態に係るイオン照射技術は、RF−CMOSデバイスにおけるインダクタ領域の形成に用いることができる。インダクタ領域の周囲に選択的にイオン照射を行って高抵抗層を形成することにより、インダクタ領域のQ値を向上させることができる。また、デジタル回路とアナログ回路を混載する半導体装置において、デジタル領域とアナログ領域の間の領域に選択的にイオン照射を行って高抵抗層を形成することにより、分離領域を形成することができる。これにより、デジタル信号がアナログ回路に混信することを防ぎ、アナログ回路の特性を向上させることができる。