【実施例】
【0016】
以下、実施例や比較例などに基づいて本発明の特徴とするところをより一層具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら限定されるものではない。
【0017】
[比較例1〜4]
Arガス雰囲気中でアーク溶解することにより、ZrとTiの原子比が異なる4種類の合金Zr
0.5Ti
0.5V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例1)、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例2)、Zr
0.7Ti
0.3V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例3)、Zr
0.8Ti
0.2V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例4)(それぞれ約20g)を調製した。その後、Arガス雰囲気中で1273Kで24時間の熱処理を行った。ここで示す化学組成は目標組成であり、熱処理後の合金試験片の分析結果との対比は表1に示す。組成分析はSEM-EDXを用いて行った。
【0018】
【表1】
【0019】
それぞれの合金試験片は、ステンレス製容器に充填し、約423Kで数時間ロータリーポンプにより真空排気した後、293Kから353Kの温度範囲内でPCT線図を計測した。サイクル特性は、293Kから303Kの範囲で計測した。ヒステリシスの幅の指標であるヒステリシスファクターと、プラトーの平坦さの指標であるスロープファクターは、次の式(1)、(2)により求めた。
ヒステリシスファクター=ln(P
ab/P
des) ・・・・・(1)
スロープファクター=ln(P
@1/P
@2)/(H/M
@1-H/M
@2) ・・・・・(2)
(式中、P
abとP
desは、それぞれ、吸蔵と放出における平衡圧力である。H/M
@1とH/M
@2は、それぞれ、プラトー領域の両端における水素濃度であり、P
@1とP
@2は、H/M
@1とH/M
@2におけるそれぞれの計測圧力である。)
【0020】
水素吸蔵合金とその水素化物のX線回折(XRD)データは、CuKαX線のX線回折装置〔株式会社リガクRINT 2500V〕により得た。XRDデータは、50kV、200mAのパワーで、15°から100°の間の2θ領域において収集した。得られた全てのXRDデータは、リートベルト法プログラムRIETAN-2000を用いて解析した。
【0021】
本発明の水素吸蔵合金の前提となる比較例水素吸蔵合金Zr
xTi
1-xV
0.2Mn
0.8Ni
1.0(0.5≦x≦0.8)合金のX線回折パターンは、主相が空間群P6
3/mmcを有するラーベス相であることを示した。格子定数は、Zrの原子サイズ(1.62Å)がTiの原子サイズ(1.47Å)よりも大きいため、Zr/Ti比と共に単調に増加した。
図3は、293Kで計測された各比較例水素吸蔵合金のPCT線図と、スロープファクターとヒステリシスファクターのZr濃度依存性を示す。これらの試験片は、1MPa下で1.0H/Mより多くの水素を可逆的に吸蔵、放出した。X線回折データは、これらの水素化物の結晶構造が合金相の結晶構造と同じであること、及び、試験片体積が合金組成に関係なく水素吸蔵に伴って約25%膨張したことを示している。これらの試験片は、比較的ヒステリシスが大きかったため、ヒステリシスファクターとスロープファクターを評価した。スロープファクターは、0.45より小さく、プラトーは十分に平坦であったが、ヒステリシスファクターは、0.45〜0.71の範囲であり、MHアクチュエータ等での用途では、ヒステリシスの幅を改善する必要がある。
【0022】
図4に第2サイクルと50サイクルにおけるPCT線図と、50サイクル間におけるZr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例2)の耐久性、及び、ヒステリシスファクターとスロープファクターの変化を示す。PCT線図の形状はほとんど変化せず、50サイクル後でも水素吸蔵量の減少は2%以下であった。加えて、ヒステリシスファクターやスロープファクターも、ほとんど変化しなかった。これらの結果は、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0の耐久性が良好であることを示している。
【0023】
[実施例1、比較例5〜8]
上記比較例1〜4と同様に、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例2)におけるNiの一部をFe,Cu,又はSnで置換した比較例6〜8の合金Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Fe
0.1(比較例6)、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Cu
0.1(比較例7)、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Sn
0.1(比較例8)、置換をしなかった比較例5の合金Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0(比較例2と同じもの)、及び、Niの一部をAlで置換した実施例1の合金Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1を調製し、Arガス雰囲気中で1273Kで24時間の熱処理を行った。ここで示す化学組成は目標組成であり、熱処理後の合金試験片の分析結果との対比は表2に示す。組成分析はSEM-EDXを用いて行った。
【0024】
【表2】
【0025】
それぞれの合金試験片は、ステンレス製容器に収容し、約423Kで数時間ロータリーポンプにより減圧処理した後、293〜353Kの温度範囲内でPCT線図を計測した。これらの合金は、置換元素がSnである場合を除いてラーベス相の単相合金が得られた。
図5に比較例5〜7合金(a)、(b)、(c)、及び実施例1合金(d)の293K〜353KでのPCT線図を、
図6に比較例5〜7合金及び実施例1合金のスロープファクター及びヒステリシスファクターを示す。
NiをFeやCuで置換した比較例6、7合金(b)、(c)の場合、平衡圧力、ヒステリシスファクター、及び、スロープファクターはほとんど変化しなかった。一方、Alで置換した実施例1合金(d)Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1の場合、ヒステリシスの幅は劇的に減少し、ヒステリシスファクターは、0.45から0.08へ減少した。
Snで置換した比較例8の場合には、ヒステリシスは僅かに減少したが(図示せず)、Zr
0.6Ti
0.4V
0.2Mn
0.8Ni
1.0に対するSnの溶解度が小さいため、ヒステリシス減少の効果は十分ではなかった。それ故、これらの置換元素の中でAlがヒステリシスを減少させる最良のものと結論付けられた。
【0026】
[実施例2、3、比較例9]
上記比較例1〜4と同様に、比較例9合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
1.0と該合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
1.0のNiの一部をAlで置換した実施例2、3合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.975Al
0.025(実施例2)、Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1(実施例3)を調製し、Arガス雰囲気中で1273Kで24時間の熱処理を行った。ここで示す化学組成は目標組成であり、熱処理後の合金試験片の分析結果との対比は表3に示す。組成分析はSEM-EDXを用いて行った。
【0027】
【表3】
【0028】
それぞれの合金試験片は、ステンレス製容器に収容し、約423Kで数時間ロータリーポンプにより減圧処理した後、298Kの温度でPCT線図を計測した。
比較例9合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
1.0と、2種類の実施例2、3合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.975Al
0.025、Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1について、
図7(a)に、PCT線図を、
図7(b)に、スロープファクター、ヒステリシスファクターに対するAl濃度依存性を示す。
図7(a)に示されるように、Al量の増加と共に平衡圧力は低下した。
図7(b)に示されるように、Al量の増加と共にヒステリシスファクターは大きく減少した。
【0029】
[実施例4、5、比較例10、11]
上記比較例1〜4と同様に、比較例10合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
1.0と比較例11合金Zr
0.55Ti
0.45V
(HO)0.2Mn
0.8Ni
1.0と、実施例4合金Zr
0.55Ti
0.45FV
0.2Mn
0.8Ni
1.0と実施例5合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.975Al
0.025(実施例2と同じもの)を調製し、Arガス雰囲気中で1273Kで24時間の熱処理を行った。ここで示す化学組成は目標組成であり、熱処理後の合金試験片の分析結果との対比は表4に示す。組成分析はSEM-EDXを用いて行った。
【0030】
【表4】
【0031】
それぞれの合金試験片は、ステンレス製容器に収容し、約423Kで数時間ロータリーポンプにより減圧処理した後、298KでPCT線図を計測した。
比較例10、11合金及び実施例4、5合金について、
図8(a)に、298KでのPCT線図を、
図8(b)に、スロープファクター及びヒステリシスファクターを示す。LOVは、酸素濃度の低いバナジウムを、HOV、V
(HO)は酸素濃度の高いバナジウムを、FVはフェロバナジウムを意味する。
フェロバナジウム(FV:V
80Fe
10Al
8Si
2)は低品位のバナジウムではあるが、不純物としてAlを8原子%程度含有しているため、純Alから作製した実施例5合金Zr
0.55Ti
0.45V
0.2Mn
0.8Ni
0.975Al
0.025と同様のPCT線図、ヒステリシスファクター及びスロープファクターを示した。このことは、使用するバナジウムの品位は水素吸蔵特性に影響を与えず、低品位で安価なフェロバナジウムを利用できることを示している。
【0032】
[実施例6、比較例12]
上記比較例1〜4と同様に、実施例6水素吸蔵合金Zr
0.5Ti
0.5V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1(分析組成)と、比較例12水素吸蔵合金LaNi
4.45Co
0.5Mn
0.05(分析組成)を調製し、Arガス雰囲気中で1日1273Kでアニールした。それぞれの合金試験片は、ステンレス製容器に収容し、約423Kで数時間ロータリーポンプにより減圧処理した後、水素吸蔵と水素放出を1000サイクル行ない、第2サイクルと第1000サイクルについて、PCT線図を計測した。
図9(a)は、第2サイクルと第1000サイクルのサイクル試験前後に計測された実施例6合金Zr
0.5Ti
0.5V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1のPCT線図を示す。
図9(b)に、各サイクルにおける実質的水素容量とその減少率を示す。比較のため、MHアクチュエータで使用してきた比較例12合金LaNi
4.45Co
0.5Mn
0.05について得られた結果を
図9(c)、(d)に示す。
実施例6合金Zr
0.5Ti
0.5V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1は、1000サイクル後でさえ水素吸蔵量の減少率は2%以下で、PCT線図はほとんど変化しなかった。一方、比較例12合金LaNi
4.45Co
0.5Mn
0.05は、
図9(c)に示すように、サイクル数と共に吸蔵平衡圧力は低下し、プラトーは傾いた。水素吸蔵量の減少率は700サイクル後で8%となった。また、水素吸蔵量、平衡圧力、及び、プラトーの平坦性の変化は、
図9(d)に示すように700サイクル目でも飽和していないため、比較例12合金LaNi
4.45Co
0.5Mn
0.05の特性は、さらに劣化するものと考えられる。これらの結果は、実施例6水素吸蔵合金Zr
0.5Ti
0.5V
0.2Mn
0.8Ni
0.9Al
0.1が比較例12水素吸蔵合金LaNi
4.45Co
0.5Mn
0.05よりもMHアクチュエータのための好適な水素化特性を有していることを明確に示している。