(54)【発明の名称】ケイ素系負極活物質材料用CVD装置、ケイ素系負極活物質材料の製造方法、非水電解質二次電池用負極の製造方法、及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原料ガスよりも低濃度でカーボン源ガスを含むキャリアガス、又はカーボン源ガスを含まないキャリアガスを、前記ケイ素系負極活物質材料用CVD装置内に導入するためのキャリアガス導入管を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のケイ素系負極活物質材料用CVD装置。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化、及び長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極および負極、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素材料が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素材では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このため、サイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO
x(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1〜1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm
−1及び1580cm
−1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I
1330/I
1580が1.5<I
1330/I
1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば、特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性が望まれているが、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等のサイクル安定性を示す負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0032】
そこで、本発明者らは、リチウムイオン二次電池の負極として用いた際に、良好なサイクル特性を有し安定した初期充放電特性が得られるケイ素系負極活物質について鋭意検討を重ねた。その結果、以下の(i)〜(vi)の特性を有するケイ素系負極活物質材料が有用であり、その内、(i)〜(v)の特性を満足するためには、高温での処理が必要となるCVD工程の最適化が重要であることを見出した。
【0033】
(i)ケイ素系負極活物質材料は、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子を含有し、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であるとともに、その結晶面に対応する結晶子サイズは1nm以上7.5nm以下であることが好ましい。負極活物質が上記の結晶性を有することで、このような負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、より良好なサイクル特性及び初期充放電特性が得られる。
【0034】
(ii)ケイ素系負極活物質材料は、その表面に、カーボンを主体とした導電性被膜を有する。このように、負極活物質粒子がその表層部に炭素材を含むことで、導電性の向上が得られるため、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池特性を向上させることができる。
【0035】
(iii)形成する導電性被膜の平均厚さは1nm以上、5000nm以下であることが好ましい。導電性被膜の平均厚さが1nm以上であれば、充分に導電性向上が得られ、導電性被膜の平均厚さが5000nm以下であれば、このようなケイ素系負極活物質材料を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、電池容量の低下を抑制することができる。
【0036】
(iv)ケイ素系負極活物質材料における導電性被膜の平均被覆率は30%以上であることが好ましい。上記の平均被覆率とすることで、このような負極活物質粒子を含む負極活物質をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いた際に、より良好な負荷特性が得られる。
【0037】
(v)導電性被膜の量が、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子と導電性被膜の合計に対し1質量%以上30質量%以下の範囲で任意に設定でき、且つ、そのばらつきは、導電性被膜の量に対して±20質量%以下にすることが望ましい。導電性被膜の量を上記範囲とし、そのばらつきを±20質量%以下とすることで充放電特性のばらつきを実用上問題ないレベルに制御可能となる。
【0038】
(vi)SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子のメディアン径が、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。このような非水電解質二次電池用負極材であれば、サイクル安定性を向上することができる。
【0039】
本発明は、特に、上記(i)〜(v)を満足するケイ素系負極活物質材料を安価に安定して量産することができるCVD装置である。
【0040】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[ケイ素系負極活物質材料用CVD装置]
図1に本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置の概略図を示す。
【0042】
本発明の、ケイ素系負極活物質材料用CVD装置1は、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子であるケイ素系原料に、カーボンを主体とした導電性被膜を形成するためのロータリーキルンタイプのCVD装置である。本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置1は、主に、炉心管2、粉末導入室3、粉末排出室4、加熱手段5、及び原料ガス導入管6を具備する。
【0043】
ケイ素系原料は粉末状で粉末導入室3から炉心管2に導入され、加熱手段5によって加熱された炉心管2にて、カーボン源ガスの熱分解CVDにより導電性被膜の被覆処理がなされた後、粉末排出室4にて回収される。
【0044】
この熱分解CVDを行っている際に、炉心管2が回転することで、炉心管2内のケイ素系原料の粉末が適度に混合・撹拌され、均質な導電性被膜が形成される。また、本発明のCVD装置1は、粉末導入室3からケイ素系原料の粉末を連続的に炉心管2に導入することが可能であり、量産性に優れている。
【0045】
カーボン源ガスを含む原料ガスは、原料ガス導入管6により炉芯管2の内部に導入される。この原料ガス導入管6は、原料ガスを炉芯管2の内部に導入するための原料ガス導入口7を有しており、該原料ガス導入口7は炉芯管の内部に位置している。このように、原料ガス導入口7が炉芯管2の内部に位置していることにより、目的の温度にて熱CVD反応を開始可能となることから、導電性被膜の被覆量のばらつきを抑えることが可能となる。また、カーボン源ガスが目的温度以外の温度、特に炉芯管2の低温領域で不完全に反応し、不完全反応生成物が生成されることを抑制できる。そのため、このケイ素系負極活物質材料用CVD装置1で製造したケイ素系負極活物質材料の粉末を用いた負極活物質の初回効率のばらつきを抑えることが可能となる。
【0046】
尚、原料ガス導入管6から導入される原料ガスは、カーボン源ガスのみであっても良いし、カーボン源ガスに他のガスを混合したものを使用しても良い。
【0047】
また、本発明において、CVD装置1は、原料ガスよりも低濃度でカーボン源ガスを含むキャリアガス、又はカーボン源ガスを含まないキャリアガスを、ケイ素系負極活物質材料用CVD装置1内に導入するためのキャリアガス導入管8を有することが好ましい。これにより、炉心管2の内部を任意のカーボン源ガス濃度に調整することが容易となり、熱分解CVDの制御性が向上する。また、炉芯管2以外の部材にカーボン源ガスに由来するカーボンが付着しにくくなるため、より安定した操業が可能である。
【0048】
また、キャリアガス導入管8は、
図1に示すように、原料ガス導入管6のガス導入口7よりも炉心管2に対して外側に配置することが望ましい。このように配置することで、炉芯管2の低温領域におけるカーボン源ガスの濃度を下げることが可能となり、不完全反応生成物の生成をより抑制することができる。
【0049】
ここで、原料ガス導入管6は、その一部が炉心管2の内部に至るため、高温に晒されることになる。そのため、原料ガス導入管6内を通るカーボン源ガスが加熱された結果、熱分解生成物が形成され、原料ガス導入管6が閉塞する恐れがある。
【0050】
本発明では、この現象を排除するために、原料ガス導入管6の700℃における熱伝導率を、120W・m
−1・K
−1以下とする。ここで、700℃における熱伝導率を規定しているのは、熱分解CVDでは、炉心管2の内部温度が500℃以上1200℃以下程度になることが多いためであり、その範囲内で比較的文献値の多い700℃における熱伝導率にて規定したためである。
【0051】
熱伝導率を上記範囲に設定することにより、炉心管2の内部の熱が原料ガス導入管6の内壁に到達する速度を抑えることが可能となり、その結果、原料ガス導入管6の内部におけるカーボン源ガスの熱分解反応を抑制することが可能となる。
【0052】
原料ガス導入管6の700℃における熱伝導率は、100W・m
−1・K
−1以下であることが好ましく、更に、70W・m
−1・K
−1以下であることが好ましく、更に、30W・m
−1・K
−1以下であることが一層好ましい。
【0053】
原料ガス導入管6の使用温度は、上記のように500℃以上1200℃以下であることが多いが、この温度範囲における熱伝導率を記載した文献が少なく、材料選定の支障になる。そこで、一般的に熱伝導率測定は、100℃で行われることが多いので、100℃における熱伝導率で代用することにより、材料選定の範囲が広がり、より優れた装置を設計することができる。
【0054】
本発明では、100℃における熱伝導率を見積もるためにタングステンの熱伝導率を参考にした。タングステンの700℃における熱伝導率が119W・m
−1・K
−1であるのに対して、100℃における熱伝導率は、163W・m
−1・K
−1である。そこで、100℃における原料ガス導入管の熱伝導率を165W・m
−1・K
−1以下として、材料選定及び設計をする。
【0055】
原料ガス導入管6の100℃における熱伝導率は、130W・m
−1・K
−1以下であることが望ましく、更に、80W・m
−1・K
−1以下であることが好ましく、更に、70W・m
−1・K
−1以下であることがより好ましい。
【0056】
上記のように、本発明では、原料ガス導入管6は、700℃における熱伝導率が120W・m
−1・K
−1以下、又は原料ガス導入管の100℃における熱伝導率が165W・m
−1・K
−1以下である。例えば、
図2に示すように、原料ガス導入管は単層構造であってもよいが、
図3に示すように、原料ガス導入管6を多層構造とすることが好ましい。
図3では原料ガス導入管を3層構造とした例を示しているが、本発明において多層構造は2層以上であればよい。このように、原料ガス導入管6を多層構造とすることで、炉心管2内の熱を原料ガス導入管6内に伝わりにくくし、原料ガス導入管6の実質的な熱伝導率を上記の数値以下のより小さい値とできる。このように、本発明において、原料ガス導入管が多層構造である場合、熱伝導率とは、原料ガス導入管6の管全体の実質的な熱伝導率のことを言う。この実質的な熱伝導率は、原料ガス導入管6の外側から内側へ伝わる熱を測定し、計算して求めることができる。
【0057】
さらに、原料ガス導入管6を多層構造とする場合、
図3に示す態様を例とするが、例えば原料ガスの流路と直接接触する最内周層31に耐食性の高い高熱伝導率材料を、中間層32に低熱伝導率材料を、最外周層33に耐食性の高い高熱伝導率材料を使用しても良い。原料ガスと直接接触し得る層に耐食材料を使用することで、より安定的に原料ガスを導入できる。
【0058】
また、本発明において、原料ガス導入管6は多層構造の層間に空間層を有することが好ましい。例えば、
図4に示すように、多層構造の最内周層41と最外周層43の間に空間層42を設けることによって実質的な熱伝導率を、より小さくすることが可能である。
【0059】
更に、本発明において、原料ガス導入管6が空間層42に冷却ガスを導入できる構造であることが好ましい。冷却ガスを導入できる構造であることで、原料ガス導入管6の実質的な熱伝導率を、更に小さくすることができる。
【0060】
これらの場合も、上記した
図3の場合と同様に実質的な熱伝導率を定義することができる。
【0061】
[ケイ素系負極活物質材料及びその製造方法]
【0062】
次に、本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置を使用して製造したケイ素系負極活物質材料及びその製造方法について説明する。
【0063】
上記の本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置は、ケイ素系負極活物質材料が、特に、上記の(i)〜(v)の物性を満足する様に調整して製造することができる。もちろん、所望するケイ素系負極活物質材料の物性に応じて、上記以外の物性を有するケイ素系負極活物質材料を製造することも可能である。
【0064】
導電性被膜を形成するSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子としては、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅により計算される結晶子サイズが1nm以下のものを使用しても良く、本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置によるCVD処理条件を適切に制御することで、結晶子サイズを1nm以上7.5nm以下の任意の値に調整することができる。
【0065】
このケイ素系原料の粉末を上記ケイ素系負極活物質材料用CVD装置に適切な導入速度で投入する。導入速度は、ロータリーキルン、特に炉心管2のサイズによって異なるが、例えば、炉心管2の内径0.2m、全炉長3m程度であれば、0.5kg/分以上2kg/分以下程度の導入速度が適当である。
【0066】
原料ガス導入管6を通して、炉心管2内にカーボン源ガスを含む原料ガスを導入する。カーボン源ガスとしては、熱により分解して炭素を生成し得るものであれば、基本的に何を使用しても良いが、特に、炭化水素系材料が一般的に安価に入手できるため便利である。その具体例としては、メタン、エタン、プロパン、プロピレン、ヘキサン蒸気、トルエンなどの芳香族蒸気、アルコール類の蒸気などが挙げられるが、この限りではない。また、原料ガスとして、カーボン源ガスとその他のガスを混合使用しても良く、この場合、カーボン源となり得ないガスとの混合や導電性被膜を改質する目的で任意のガスを混合使用することも可能である。
【0067】
SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子の表面に形成される導電性被膜の量は、主に、処理温度とカーボン源ガス濃度および加熱時間(炉心管内での滞留時間)で決まるが、カーボン源ガス濃度を変更することで調整することが便利である。その理由は、ケイ素系負極活物質材料のSi(111)結晶面の結晶子サイズを調整するために、炉心管2内部の温度と加熱時間を調整する必要があるためである。
【0068】
例えば、この場合、先ず、炉心管温度と加熱時間を所望の結晶子サイズになるように設定する。例えば、本発明のCVD装置であれば、Si(111)結晶面結晶子サイズを4nmに設定するためには、炉心管温度900℃以上1100℃以下、滞留時間2時間以上4時間以下の条件が適当であるが、これに限定されることは無い。
【0069】
上記温度条件の場合、カーボン源ガスとしては、メタン、エタン、プロパンが好適であり、また、これらは入手が容易である。従って、これらを単独又は混合して原料ガス導入管6を通して炉心管2内に導入することができる。
【0070】
このとき、前述のように、本発明のCVD装置1は、原料ガスよりも低濃度でカーボン源ガスを含むキャリアガス、又はカーボン源ガスを含まないキャリアガスを、ケイ素系負極活物質材料用CVD装置内1に導入するためのキャリアガス導入管8を有することが好ましい。
【0071】
キャリアガス導入管8から原料ガスよりも低濃度でカーボン源ガスを含むキャリアガス又はカーボン源ガスを含まないキャリアガスを別途供給する方が、炉心管2内以外でのカーボン源ガスの分解反応を抑えることができ、目的以外の炭素化合物による汚染の無い良質な炭素被覆処理が可能となる。キャリアガスとしては、窒素などの不活性ガスを単独で使用することもできるし、不活性ガスを原料ガスよりもカーボン源ガスの濃度が低くなるようにカーボン源ガスと混合したものを使用することもできる。
【0072】
例えば、上記の温度と滞留時間の条件であるとき、メタンガスを10%以上50%以下の濃度範囲で調整して導入することで、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子と導電性被膜の合計に対し、5重量%程度の炭素被覆量を有するケイ素系負極活物質材料を製造することが可能となる。このようにして得られたケイ素系負極活物質材料は、初回効率の製造ばらつきが少なく、サイクル特性の良好な特性を示す。
【0073】
この際、上記したように、原料ガス導入管の700℃における熱伝導率が120W・m
−1・K
−1以下、又は原料ガス導入管の100℃における熱伝導率が165W・m
−1・K
−1以下であることで、原料ガス導入管内の閉塞を防止可能となり、良好なケイ素系負極活物質材料を長時間にわたって継続的に製造可能となる。
【0074】
[非水電解質二次電池用負極]
上記で得られたケイ素系負極活物質材料を用いた負極電極は、例えば、以下の様に調整可能である。
【0075】
まず、本発明において、非水電解質二次電池用負極は、上記の本発明のケイ素系負極活物質材料と、結着剤と、導電助剤とを含むものとすることができる。
【0076】
結着剤として、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、及びカルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。合成ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、及びエチレンプロピレンジエンなどが挙げられる。
【0077】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0078】
また、上記のようなケイ素系負極活物質材料と、結着剤と、導電助剤等とから負極活物質層を作製できる。この負極活物質層は、炭素材料と混合状態で作製してもよい。炭素材料を混合することにより、負極活物質層の電気抵抗を低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。この炭素材料は、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、及びカーボンブラック類などを使用できる。
【0079】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、ケイ素系負極活物質材料と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素材料を混合した後に、有機溶剤や水などに分散させ塗布する方法である。
【0080】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0081】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図5に示すラミネートフィルム型二次電池50は、主にシート状の外装部材55の内部に倦回電極体51が収納されたものである。この倦回体は正極、負極間にセパレータを有し、倦回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード52が取り付けられ、負極に負極リード53が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0082】
正負極リードは、例えば、外装部材55の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード52は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード53は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0083】
外装部材55は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が電極体51と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0084】
外装部材55と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム54が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0085】
[正極]
正極は、正極集電体の両面または片面に正極活物質層を有している。正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種または2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば、既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様とすることができる。
【0086】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、またはリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でも、ニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの正極材の化学式は、例えば、Li
xM1O
2、又は、Li
yM2PO
4で表される。上記の化学式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示しており、x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0087】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)などが挙げられ、リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)、リチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。上記の正極材を用いれば、高い電池容量が得られるともに、優れたサイクル特性を得られる。
【0088】
[負極]
図6を参照して負極の構成を説明する。負極60は、例えば、
図6のように、集電体61の両面に負極活物質層62を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0089】
また上記した正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0090】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0091】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば、合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0092】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0093】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1、2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒とを組み合わせて用いることで、電解質塩の解離性やイオン移動度を向上させることができる。
【0094】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0095】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0096】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどが挙げられる。
【0097】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。これは、充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとしては、例えば炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0098】
また、溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることも好ましい。これは、電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えば、プロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0099】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。これは、電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0100】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0101】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0102】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。先ず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤とした後に、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロールまたはダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱または複数回繰り返しても良い。ここで、正極集電体の両面に正極活物質層を形成する。この時、両面部の活物質塗布長がずれていても良い。
【0103】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0104】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図6を参照)。
【0105】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、
図5のように、正極集電体に正極リード52を取り付けると共に、負極集電体に負極リード53を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、または倦回させて倦回電極体51を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
【0106】
続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材の間に倦回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材55の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、倦回電極体を封入する。正極リード、および負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池50を製造することができる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに実施例に限定されるものではない。
【0108】
(実施例1〜実施例5)
図1に示すような本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置を使用して、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子の表面に、カーボンを主体とした導電性被膜を形成した。このとき、炉心管の内径0.2m、炉心管長3m、炉心管内の均熱帯領域が2mのロータリーキルンを用いた。このロータリーキルンに表1に示す実施例1〜5の材料で作成した原料ガス導入管を取り付け、原料ガス導入口が均熱帯領域に達する位置になるように調整した。ここで、均熱帯領域は、炉心管内温度が±10℃以下となる領域とした。このときの原料ガス導入口の位置は、炉心管の粒子の排出側の端面から0.5mの位置であった。尚、原料ガス導入管は、外径約33〜35mm、肉厚1.6〜1.8mmの範囲で入手可能なものを使用した。
【0109】
【表1】
【0110】
尚、実施例4で使用した原料ガス導入管は、銅製の二重管であり、
図4に示すものと同様な構造となっている。実施例4で使用した原料ガス導入管は、外形35mmの銅管の外側に外形41mm、内径38mmの銅管を被せた二重管構造とし、その隙間には、冷却ガスとして窒素を0.1m/秒の線速で流して使用した。この冷却ガスは、炉内の熱を原料ガス導入管内に伝達することを防ぐためのものである。したがって、上記銅製の二重管は、実質的には銅よりもはるかに小さな熱伝導率を有する材料で単管を形成したものと同様の効果が期待できるものである。
【0111】
実施例1〜実施例5のケイ素系負極活物質材料用CVD装置には、更にキャリアガス導入管を設けた。キャリアガス導入管は、キャリアガスの炉内への導入口が炉心管よりも外側に来るように配置し(
図1)、キャリアガスとしては、窒素ガスを使用した。
【0112】
CVDに使用するSiO
x(0.5≦x≦1.6)からなる粒子としては、xがほぼ1のSiOを使用した。また、そのメディアン径が、約5μmのものを選定した。また、SiOは、不均化が進んでいないアモルファス状のものを選定した。
【0113】
ロータリーキルンへのケイ素系原料粉末の導入量は、1kg/時に設定した。尚、ロータリーキルンの回転数は、1rpm、炉心管の勾配は1度とした。
【0114】
ロータリーキルン内に導入するガスは、上記で説明したように、原料ガスを原料ガス導入管から、キャリアガスをキャリアガス導入管から導入する方式を採用しているが、原料ガスとキャリアガスの合計の流量を30L/分として、両者のガス配分を調整することでカーボン源ガス濃度を設定した。
【0115】
一般にSiOは、不均化度の程度によって充放電特性が変化する。したがって、SiOの不均化度を厳密に制御する必要がある。そのために、先ず、狙った不均化度になる様に炉内温度を設定した。その後、規定の炭素被覆量となるように表層部に炭素材(カーボン)をCVDするが、その炭素量は、ガス品種および濃度を制御することで調整した。
【0116】
例えば、不均化度をX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)で得られ結晶子サイズで定義した場合の値を4.5nmに設定する場合は、炉内温度を1000℃とし、その時に使用するカーボン源ガスの導入条件を調べたところ、5質量%のカーボン被覆を行うためのメタンガス濃度は35体積%であった(実施例1〜実施例4)。
【0117】
上記の条件でCVDを実施し、実施例1〜4のケイ素系負極活物質材料を得た。
【0118】
次に、SiOの不均化度を変えたケイ素系負極活物質材料が得られるかどうかを確認するために、ロータリーキルンの炉内温度を800℃、原料ガスをプロパン41体積%に変更して、CVDを実施した(実施例5)。その際の原料ガス導入管の材質は、実施例2と同じ18−8ステンレス鋼とした。ここで、カーボン源ガスをプロパンに変更したのは、SiOの不均化度を小さくするために炉内温度を800℃に下げたためであり、低温で炭化しやすいカーボン源ガスとしてプロパンが適していたためである。
【0119】
尚、実施例1〜実施例5において、原料ガス導入管の原料ガス導入口から10cm奥の内壁に熱電対を設置し、CVD時の原料ガス導入管の内壁の温度を測定できるようにした。
【0120】
上記の構成のケイ素系負極活物質材料用CVD装置により、表1の条件にて上記SiO粉末にCVDを行うことで炭素を主体とする導電性被膜を形成しケイ素系負極活物質材料を作成した。
【0121】
得られたケイ素系負極活物質材料の不均化度については、X線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)で得られた結晶子サイズで定義した。尚、不均化が進むほど、結晶子サイズが大きくなることとなる。
【0122】
[二次電池の作製及び電池評価]
続いて、上記で作製したケイ素系負極活物質材料を使用して、二次電池を作製し、その初回効率及びサイクル特性を評価した。二次電池は、以下の手順により、
図5に示したラミネートフィルム型リチウム二次電池50を作製した。
【0123】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO
2を95質量%と、正極導電助剤2.5質量%と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)2.5質量%とを混合し、正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0124】
次に負極を作成した。上記で得られたケイ素系負極活物質材料と負極結着剤の前駆体(ポリアミック酸)、導電助剤1(鱗片状黒鉛)と導電助剤2(アセチレンブラック)とを80:8:10:2の乾燥重量比で混合した後、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、ポリアミック酸の溶媒としてNMPを用いた。続いて、コーティング装置で負極集電体の両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体としては、電解銅箔(厚さ=15μm)を用いた。最後に、真空雰囲気中で400℃×1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリイミド)が形成された。
【0125】
次に、溶媒(4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF
6)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を堆積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0126】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体の一端にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に倦回させ倦回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムに挟まれた積層フィルム(厚さ12μm)を用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだ後、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し、封止した。
【0127】
実施例1〜実施例5について、二次電池のサイクル特性および初回効率とともに原料ガス導入管の閉塞状況を調べた。尚、初回効率については、ケイ素系負極活物質材料から5個の電池を作成しそのばらつきについても評価を行った。
【0128】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に、電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて、総サイクル数が50サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に、50サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り、容量維持率を算出した。なお、サイクル条件として、4.2Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧に達した段階で4.2V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また、放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0129】
初回効率については、以下の式より算出した。
初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100
なお、雰囲気及び温度はサイクル特性を調べた場合と同様にし、充放電条件はサイクル特性の0.2倍で行った。すなわち、4.2Vに達するまで定電流密度、0.5mA/cm
2で充電し、電圧が4.2Vに達した段階で4.2V定電圧で電流密度が0.05mA/cm
2に達するまで充電し、放電時は0.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0130】
(比較例1、比較例2)
実施例1〜実施例5と同様にして表1の条件で得られたケイ素系負極活物質材料から二次電池を作製した。但し、比較例1で使用したCVD装置は、原料ガス導入管を有していないものを使用した。また、比較例2で使用したCVD装置は、銅製の単層構造の原料ガス導入管を使用した。比較例2の原料ガス管の熱伝導率は、700℃で354W・m
−1・K
−1、100℃で395W・m
−1・K
−1であり、本発明で規定している熱伝導率の範囲よりも大きかった。また、比較例2についても、実施例1〜実施例5と同様にして、サイクル特性および初回効率とともに原料ガス導入管の閉塞状況を調べた。
【0131】
実施例1〜実施例5、比較例1、比較例2の測定結果を表2に示す。比較例1、比較例2の結果を比較すると、実施例1〜実施例5は、初回効率のばらつきが±0.5ポイント以下と小さく、50サイクルの充放電を繰り返したのちの容量維持率(50サイクル維持率)が89%以上と良好である上に、原料ガス導入管が閉塞するなどのトラブルも発生しないことがわかる。
【0132】
一方、比較例1では、初回効率のばらつきが±2.2ポイントと大きい上に、50サイクル維持率が82%と小さく、十分な性能が得られない。また、比較例2では、原料ガス導入管が閉塞したためにCVD自体が完了することはなかった。
【0133】
以上のことから、本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置を用いて得られたケイ素系負極活物質材料を用いた負極電極を使用したリチウムイオン二次電池は、初回効率のばらつきが小さく、サイクル特性の優れたものであることが確認された。このことから、本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置は、ケイ素系負極活物質材料を製造する上で優れた性能を有しており、且つ、当該ケイ素系負極活物質材料用CVD装置により作製されたケイ素系負極活物質材料、及び、このケイ素系負極活物質材料で形成した負極活物質層を有する負極電極、及びリチウムイオン二次電池は、優れた電池特性を有することが確認された。
【0134】
また、実施例1と実施例5の結晶性が異なっており、また、実施例5は実施例1よりも、不均化度が小さく、Si結晶子のサイズが小さいことがわかる。このように、本発明のケイ素系負極活物質材料用CVD装置を用いると不均化度(Si結晶子サイズ)を任意に調整した上で、所定のカーボン被覆量に調整可能であることがわかる。
【0135】
【表2】
【0136】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。