特許第6341097号(P6341097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341097
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/79 20060101AFI20180604BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20180604BHJP
   F21V 9/00 20180101ALI20180604BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20180604BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20180604BHJP
【FI】
   C09K11/79
   C09K11/08 B
   F21V9/16 100
   F21S2/00 482
   H01L33/50
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-560803(P2014-560803)
(86)(22)【出願日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】JP2014052797
(87)【国際公開番号】WO2014123198
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年12月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-22444(P2013-22444)
(32)【優先日】2013年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下岡 智
(72)【発明者】
【氏名】大戸 章裕
(72)【発明者】
【氏名】高階 志保
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−249445(JP,A)
【文献】 特開2008−088362(JP,A)
【文献】 特開2010−084151(JP,A)
【文献】 特開2003−206481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
F21V 9/00
F21S 2/00
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体であって、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43未満であり、かつ、JIS規格Z8722に基づき測定される770nmでの反射率Raが89%以上である窒化物蛍光体。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
ZはEu、Ce、Cr、Mn、Fe、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる1以上の元素からなる賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
【請求項2】
下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体であって、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43以上であり、かつ、JIS規格Z8722に基づき測定される770nmでの反射率Raが87%以上である窒化物蛍光体。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
ZはEu、Ce、Cr、Mn、Fe、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる1以上の元素からなる賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体と、液体媒体とを含有することを特徴とする、蛍光体含有組成物。
【請求項4】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、請求項1又は2に記載の窒化物蛍光体の1種以上を、第1の蛍光体として含むことを特徴とする発光装置。
【請求項5】
請求項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする画像表示装置。
【請求項6】
請求項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする照明装置。
【請求項7】
複数の焼成工程を有する下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法であって、焼成温度が1100℃以上、1400℃以下である次焼成工程後に、得られた次焼成済みの原料を再分散させて1次焼成温度以上、1800℃以下の温度で2次焼成する、窒化物蛍光体の製造方法。
LnSi ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
ZはEu、Ce、Cr、Mn、Fe、Pr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbからなる群から選ばれる1以上の元素からなる賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体、該窒化物蛍光体を含有する液状媒体、該窒化物蛍光体を含む発光装置、並びに該発光装置を含む照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受け、LEDを用いた照明またはバックライトの需要が増加している。ここで用いられるLEDは、青または近紫外波長の光を発するLEDチップ上に、蛍光体を配置した白色発光LEDである。このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に、青色LEDチップからの青色光を励起光として黄色に発光するYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)蛍光体を用いたものが多く用いられている。
【0003】
しかしながらYAG蛍光体は、大出力下で用いられる場合、蛍光体の温度が上昇すると輝度が低下する、いわゆる温度消光が大きいという問題、およびより優れた色再現範囲または演色性を求めて、近紫外線(通常、青励起に対する言葉として350〜420nm程度の紫を含めた範囲を近紫外線と呼ぶ)で励起した場合、輝度が著しく低下するという問題があった。
【0004】
そして、上記の問題を解決するため、窒化物蛍光体で黄色発光のものが検討され、その有力な候補として、例えば、特許文献1および2に記載されるLaSi11蛍光体(ランタンが他の金属と置き換わった場合などを含め、以下この種の蛍光体をLSN蛍光体とまとめて呼ぶ。)などが開発されている。そして、特許文献1中では、その[0248]段落に、特許文献2中では、その[0131]から[0136]段落に、各種のフラックスを用いてLSN蛍光体を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/132954号
【特許文献2】国際公開第2010/114061号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載のLSN蛍光体は、従来のYAG蛍光体に比べて温度が上昇しても輝度の低下が小さく、かつ、近紫外線での励起でも十分な発光が得られるものである。しかしながら、省エネルギー化の流れを受けて、蛍光体にはより少ない励起エネルギーで、より高い発光輝度を得ることが求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みて、より発光輝度の高い、つまり、より発光ピーク強度の高い窒化物蛍光体及び該窒化物蛍光体を含む液状媒体を提供する。また本発明は、より発光輝度が高い発光装置、並びに高品質の照明装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、本発明の窒化物蛍光体は、従来のLSN蛍光体よりも、「くすみ」が低減していることに気付いた。尚、本発明における「くすみ」とは、蛍光体を励起せずに自然光下で蛍光体粉末を目視で確認した場合、蛍光体のボディカラーがわずかに灰色を帯びたように見えることである。
【0009】
ここで、本発明者等は、この「くすみ」に着目し、より発光輝度の高い窒化物蛍光体を規定する指標として、特定波長における反射率によって規定し得ることを見出して、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
1.下記一般式(1)で表わされる窒化物蛍光体であって、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43未満であり、かつ、770nmでの反射率Raが89%以上である窒化物蛍光体。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
Zは賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
2.下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体であって、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43以上であり、かつ、770nmでの反射率Raが87%以上である窒化物蛍光体。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
Zは賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
3.前項1又は2に記載の窒化物蛍光体と、液体媒体とを含有することを特徴とする、蛍光体含有組成物。
4.第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備え、
該第2の発光体が、前項1又は2に記載の窒化物蛍光体の1種以上を、第1の蛍光体として含むことを特徴とする発光装置。
5.前項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする画像表示装置。
6.前項4に記載の発光装置を光源として含むことを特徴とする照明装置。
7.複数の焼成工程を有する下記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法であって、焼成温度が1100℃以上、1400℃以下である一次焼成工程後に、得られた一次焼成済みの原料を再分散させて1次焼成温度以上、1800℃以下の温度で2次焼成する、窒化物蛍光体の製造方法。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
Zは賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より発光輝度の高い、つまり、より発光ピーク強度の高い窒化物蛍光体及び該窒化物蛍光体を含む液状媒体を提供することが可能となる。また本発明によれば、より発光輝度が高い発光装置、並びに高品質の照明装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1、実施例2および比較例1で得られた蛍光体の発光スペクトルを比較する図である。
図2図2は、実施例1、実施例2および比較例1で得られた蛍光体の反射スペクトル(A)を比較する図である。
図3図3は、実施例1で得られた蛍光体の粒子の状態を説明するためのSEM画像である。
図4図4は、実施例2で得られた蛍光体の粒子の状態を説明するためのSEM画像である。
図5図5は、比較例1で得られた蛍光体の粒子の状態を説明するためのSEM画像である。
図6図6は、実施例3と実施例4で得られた蛍光体の発光スペクトルを比較する図である。
図7図7は、実施例3と実施例4で得られた蛍光体の反射スペクトル(A)を比較する図である。
図8図8は、実施例5と比較例2で得られた蛍光体の発光スペクトルを比較する図である。
図9図9は、実施例5と比較例2で得られた蛍光体の反射スペクトル(A)を比較する図である。
図10図10は、実施例6と実施例7で得られた蛍光体の発光スペクトルの図である。
図11図11は、実施例6と実施例7で得られた蛍光体の反射スペクトル(A)の図である。
図12図12は、実施例8と実施例9で得られた蛍光体の発光スペクトルの図である。
図13図13は、実施例8と実施例9で得られた蛍光体の反射スペクトル(A)の図である。
図14図14は、実施例6と実施例7で得られた蛍光体の反射スペクトル(B)の図である。
図15図15は、実施例8と実施例9で得られた蛍光体の反射スペクトル(B)の図である。
図16図16は、本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を示す。
図17図17(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置を示す図である。図17(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置を示す図である。
図18図18は、発光装置を組み込んだ面発光照明装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0014】
(蛍光体の種類)
本発明の蛍光体は、下記一般式(1)で表わされる窒化物蛍光体である。
LnSi:Z ・・・(1)
[一般式(1)中、
Lnは賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、
Zは賦活剤であり、
xは2.7≦x≦3.3を満たし、
yは5.4≦y≦6.6を満たし、
nは10≦n≦12を満たす。]
【0015】
一般式(1)におけるZは賦活剤を表す。賦活剤としては、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)などが挙げられる。
【0016】
中でも、Zは、Eu又はCeを含むことが好ましく、Ceを全賦活剤中80モル%以上含むことがより好ましく、Ceを全賦活剤中95モル%以上含むことが更に好ましく、Ceを単独で含むことが最も好ましい。
一般式(1)におけるLnは、前記賦活剤として用いる元素を除いた希土類元素であり、例えば、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)などが挙げられる。
【0017】
中でも、Lnは、Laを含むことが好ましく、Laを全Ln中80モル%以上含むことが好ましく、Laが95モル%以上含むことが好ましく、Laを単独で含むことが最も好ましい。
【0018】
Laを単独で含む窒化物蛍光体は、その窒化物蛍光体における発光色座標xが0.43未満となりやすい。また、Lnとして、Laの他に、Y又はGdを含む窒化物蛍光体は、その発光色座標xが0.43以上となる蛍光体にある。つまり、前記したYまたはGdは、Laとイオン半径が近く、電荷も等しいため、得られる蛍光体の発光輝度への影響が少なく、発光色座標xを変化できる点で好ましい。
【0019】
尚、発光色座標xを0.43以上とする場合には、Lnとして、LaとY若しくはGdとの併用の他、Lnの一部をカルシウム(Ca)またはストロンチウム(Sr)などで置換することが挙げられる。
【0020】
本発明の窒化物蛍光体の賦活剤の濃度は、Lnに対して、通常0.001モル%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上、また通常50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。
【0021】
上記範囲内であると、濃度消光がしにくく、更に本発明の蛍光体以外の化学組成を示す異相が生じにくい為、発光特性が良好である点で好ましい。
【0022】
一般式(1)におけるx、y、nは、下記の観点により、その元素モル比を設定する。一般式(1)における、元素のモル比(x:y:n)は、化学量論組成は、3:6:11である。実際には、酸素による欠損、及び電荷補償などにより、過不足が生じる。過不足の許容範囲は、通常1割強であり、好ましくは1割程度である。この範囲であれば、蛍光体として使用可能な範囲である。
【0023】
即ち、xは、通常2.5≦x≦3.5を満たす値であり、その下限値は好ましくは2.7、更に好ましくは2.9、またその上限値は好ましくは3.3、更に好ましくは3.1である。また、yは、通常5.4≦y≦6.6を満たす値であり、その下限値は好ましくは5.7、またその上限値は好ましくは6.3である。nは、通常10≦c≦12を満たす値であり、その下限値は好ましくは10.5、またその上限値は好ましくは11.5である。
【0024】
本発明の蛍光体は、電荷保存則を満たすため、他の元素と同時に置換され、その結果SiまたはNのサイトが一部酸素などで置換されることがあり、そのような蛍光体も好適に使用することができる。
【0025】
又、蛍光体全体の組成としては、本発明の効果が得られる限り、一部酸化またはハロゲン化するなどして、若干量の酸素等の不純物が含まれていてもよい。一般式(1)の蛍光体における酸素/(酸素+窒素)の割合(モル比)は本発明の一般式(1)の蛍光体が得られる限り任意であるが、通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.2%以下である。
【0026】
(蛍光体の粒径)
本発明の蛍光体は、その体積メジアン径が、通常0.1μm以上、中でも0.5μm以上であることが好ましく、また、通常35μm以下、中でも25μm以下であることが好ましい。
【0027】
上記下限値以上であると、得られる蛍光体の発光輝度が良好であり、また蛍光体粒子が凝集しにくい点で好ましい。また、上記上限値以下であると、塗布ムラまたはディスペンサー等の閉塞が生じにくい点で好ましい。
【0028】
なお、体積メジアン径は、例えばコールターカウンター法で測定でき、代表的な装置としては、ベックマンコールター社の「マルチサイザー」等を用いて測定することができる。尚、同様の測定ができれば、上記装置に限定されるものではない。
【0029】
(本発明の蛍光体の反射率)
蛍光体の反射率の測定方法としては、下記の通り、反射率の測定方法(A)、(B)の二つの方法が挙げられる。
【0030】
測定方法については後述した通りであるが、反射率の測定方法(A)は、試料(粉末の蛍光体)に白色光を照射し、反射した光をディテクター側で分光して、その強度を測定するものである。この反射率の測定方法(A)を用いて測定した反射率を「Ra(%)」とする。
【0031】
一方、反射率の測定方法(B)は、分光した光(特定波長の光)を、試料に入射して、反射した光の強度を測定するものである。この反射率の測定方法(B)を用いて測定した反射率を「Rb(%)」とする。
【0032】
本発明の窒化物蛍光体は、その反射率Raを770nmで測定した値で規定している。本発明の窒化物蛍光体で、反射率の測定方法(A)において、770nmという特定波長を選択した理由について、下記の通り説明する。
【0033】
一般式(1)で表される窒化物蛍光体の、励起スペクトル領域は300nm〜520nmであり、また発光スペクトル領域は、480nm〜760nmである。ここで、励起スペクトル領域における波長の反射率Raを測定した場合、入射した光を蛍光体が吸収してしまうことを意味する。その為、蛍光体自体の特性を規定する本発明においては不適である。
【0034】
また、発光スペクトル領域における波長の反射率Raを測定した場合、その反射率Raの値の中には、蛍光体の発光分も含まれる。その為、蛍光体自体の特性を規定する本発明においては不適である。以上の観点から、蛍光体の吸収及び発光に影響せず、蛍光体のボディカラーを正確に規定できる770nmの波長を選択したものである。
【0035】
尚、以下、「反射率Raの測定方法(A)」、「反射率Rbの測定方法(B)」について記載するが、これらはいずれも、JIS規格Z8722及びZ8717に基づく測定方法である。
【0036】
[反射率Raの測定方法(A):反射光を分光]
反射率Raの測定には、励起光源として150Wキセノンランプを、集光装置として積分球を、スペクトル測定装置として、MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置(大塚電子社製)を使用する。
【0037】
まず、標準白板として、励起光に対してほぼ100%の反射率Rを持つ物質、Labsphere製「Spectralon」(波長450nmの励起光に対して99%の反射率Rを持つ。)に150Wキセノンランプを照射し、380nm以上780nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置を使用し、各波長の反射強度を測定し、パーソナルコンピューターによる感度補正等の信号処理を経て反射スペクトルを得る。
【0038】
次に、測定対象となる蛍光体粉末を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰め、同様の方法により各波長の反射強度を測定し、標準白板との反射強度の比率より試料の反射スペクトルを得る。
【0039】
尚、本発明の反射率Raを測定するのに用いる機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
【0040】
本発明の蛍光体は、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43未満の場合、反射率Raが89%以上である。また、本発明の蛍光体は、455nmの励起光で励起した際の発光色座標(x、y)のx値が0.43以上の場合、反射率Raが87%以上である。
【0041】
尚、本発明において、上記の様に、x値0.43で場合分けしているのは、下記の理由による。即ち、x値が0.43未満である場合、発光が比較的短波側にあり、緑に近い発光を呈する。このような蛍光体は、主にバックライト用途に好適に用いられる傾向がある。
【0042】
また、x値が0.43以上である場合、発光が比較的長波側にあり、黄色からオレンジに近い発光を呈する。このような蛍光体は、主に、照明用途に好適に用いられる傾向にある。
【0043】
以上より、本発明では、用途により好適に用いられる範囲を、発光色座標及び反射率Raが規定したものである。
【0044】
発光色座標のx値で評価する意味は、蛍光体のように比較的広い波長の範囲で発光する場合、発光のピーク波長で表すより、発光全体を現すx座標の方が、その蛍光体の特性を表現できるためである。尚、x値の下限は、通常0.43未満に対し0.15以上であることが好ましく、0.43以上の場合に上限として0.6以下であるであることが好ましい。また、y値については、通常0.3以上0.7以下であることが好ましい。
【0045】
[反射率の測定方法(B):分光した入射光]
反射スペクトルは、光源にハロゲンランプ50Wと集光装置として積分球を備えた島津製作所製UV−3100PC可視紫外域自記分光光度計を使用して、光源側のスリット幅を2.0nm、サンプリング間隔を1nm、スキャン速度を中速に設定して測定する。
【0046】
まず、分光光度計試料室内の積分球装置に、標準白板を測定ホルダの対象側、及び試料側にセットし、回折格子分光器を通して分光した光のみを380nm以上780nm以下の波長範囲において、対象側及び試料側の試料に照射し反射強度を測定し、パーソナルコンピューターによる感度補正等の信号処理を経てベースライン補正する。
【0047】
次に、測定対象となる蛍光体粉末を、石英ガラス付き測定用セルに入れ、軽くタッピングして蓋をした後、試料ホルダの試料側にセットし、同様の方法により反射強度を測定し、標準白板との反射強度の比率より試料の反射スペクトルを得る。
【0048】
尚、本発明の反射率Rbを測定するのに用いる機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
【0049】
本発明の蛍光体は、反射率の測定方法(B)において、発光ピーク波長における反射率Rb(EP)(%)と、770nmでの反射率Rb(770)(%)との比が、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.83以上である。この範囲内であると、より本発明の効果が得られやすい点で好ましい。
【0050】
<効果を奏する理由について>
本発明の構成とすることで、発光ピーク強度の高い蛍光体が得られる理由について、下記の通り、推測する。本発明の窒化物蛍光体は、従来のLSN蛍光体よりも、「くすみ」が低減している。この「くすみ」が生じるLSN蛍光体での特有のメカニズムについて説明する。
【0051】
LSN蛍光体は、原料混合後、窒素雰囲気下で焼成を行う。この焼成過程では、LSNの結晶が生じにくいが、一旦結晶が生じると急速に結晶成長が行われる傾向にある。結晶成長が急速であると、原料がストイキオ組成から外れやすくなり、蛍光体の結晶の不均一性または結晶の欠損が生じやすくなる。
【0052】
このようにして生じた蛍光体の結晶の不均一性または欠損は、くすみとなる。即ち、770nmにおける反射率Raが特定値以上である、という本発明の規定は、結晶の不均一性または結晶欠損が少ない、高品質の窒化物蛍光体を特定するものである。
【0053】
(本発明の蛍光体の製造方法)
本発明の蛍光体の製造方法は、本発明の蛍光体及び効果が得られるものであれば、特に制限はないが、例えば、急速な結晶成長を制御する思想に基づく手法が挙げられる。急速な結晶成長を抑制する思想としては、例えば、複数回の焼成工程を有し、その焼成工程の間に原料の再分散を行う方法、または融点が高い蛍光体の原料を用いる方法などが挙げられる。
【0054】
本発明の蛍光体の製造方法としては、焼成温度が1100℃以上、1400℃以下である一次焼成工程後に、得られた一次焼成済みの原料を再分散させて、1次焼成温度以上、1900℃以下の温度で2次焼成する製造方法が好ましい。
【0055】
(原料)
本発明に用いられる原料(Ln源、Si源)としては、例えば、蛍光体の母体の構成元素であるLn、Si、必要に応じ発光波長等の調整のために添加する元素若しくは賦活剤元素であるZ、を含む金属、合金または化合物が挙げられる。
【0056】
Ln源、Si源の化合物としては、例えば、蛍光体を構成するそれぞれの元素の窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩およびハロゲン化物等が挙げられる。具体的な種類は、これらの金属化合物の中から、目的物への反応性または焼成時におけるNO、SO等の発生量の低さ等を考慮して適宜選択すればよいが、本発明の蛍光体が窒素含有蛍光体である観点から、窒化物及び/又は酸窒化物を用いることが好ましい。中でも、窒素源としての役割も果たすため、窒化物を用いることが好ましい。
【0057】
窒化物及び酸窒化物の具体例としては、LaN、SiまたはCeN等の蛍光体を構成する元素の窒化物、およびLaSi11またはLaSi等の蛍光体を構成する元素の複合窒化物等が挙げられる。
【0058】
また、上記の窒化物は、微量の酸素を含んでいてもよい。窒化物における酸素/(酸素+窒素)の割合(モル比)は本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、吸着水分由来の酸素を含めない場合には通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.2%以下とすることが好ましい。窒化物中の酸素の割合が多すぎると輝度が低下する可能性がある。
【0059】
また、蛍光体の母体、蛍光体自体を原料の一部に使用することが好ましい。蛍光体の母体あるいは蛍光体は既に蛍光体の母体となる反応を終え成長に寄与するだけなので、反応熱等が発生しにくく、かつ他の原料の窒化が暴走しそうになった際には、反応の暴走を抑制し、熱を逃がす働きをするため、原料全体の1〜10質量程度加えることが好ましい。
【0060】
酸化物などを用いる場合、特にその使用量が多い場合には、必要以上の蛍光体への酸素の混入を防ぐため、焼成初期に、例えば、アンモニアまたは水素を含む雰囲気で過熱するなど、酸素を除去するような工夫をすることが好ましい。これらの原料については前述の特許文献1,2(国際公開第2008/132954号、国際公開第2010/114061号)に記載された種々のものが使用できる。特に合金を用いる方法については特許文献2に詳しい。もちろん合金を用い、かつこれに加え成長補助剤として使われるフラックスを添加することもできる。
【0061】
(成長補助剤:フラックスの添加)
フラックスについても、特許文献1,2に詳しく書かれており、そこに記載のものを使用することができる。
【0062】
すなわち、以下の例示に制限されないが、例えば、NHCl、NHF・HF等のハロゲン化アンモニウム;NaCO、LiCO等のアルカリ金属炭酸塩;LiCl、NaCl、KCl、CsCl、LiF、NaF、KF、CsF等のアルカリ金属ハロゲン化物;CaCl、BaCl、SrCl、CaF、BaF、SrF、MgCl、MgF等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;BaO等のアルカリ土類金属酸化物;B、HBO、Na等のホウ素酸化物、ホウ酸及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩化合物;LiPO、NHPO等のリン酸塩化合物;AlF等のハロゲン化アルミニウム;ZnCl、ZnF等のハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛化合物;Bi等の周期表第15族元素化合物;LiN、Ca、Sr、Ba、BN等のアルカリ金属、アルカリ土類金属又は第13族元素の窒化物などが挙げられる。
【0063】
さらに、フラックスとして、例えば、LaF、LaCl、GdF、GdCl、LuF、LuCl、YF、YCl、ScF、ScCl等の希土類元素のハロゲン化物、La、Gd、Lu、Y、Sc等の希土類元素の酸化物も挙げられる。
上記フラックスとしては、ハロゲン化物が好ましく、具体的には、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、Znのハロゲン化物、希土類元素のハロゲン化物が好ましい。また、ハロゲン化物の中でも、フッ化物、塩化物が好ましい。
【0064】
ここで、上記フラックスのうち潮解性のあるものについては、無水物を用いる方が好ましい。また、併用するフラックスについても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に好ましい併用するフラックスとしては、MgF、CeF、LaF、YFまたはGdF等も好ましい。このうちYFまたはGdF等は発光色の色度座標(x、y)を変化させる効果を有する。
【0065】
また、特許文献1,2に具体的な記載の無いものでは、ルビジウムまたはセシウムのハロゲン化物などを含むフラックスが、カチオンの大きさが大きく、蛍光体中に取り込まれにくいので好ましい。また、賦活剤のハロゲン化物も、原料とフラックスをかねることができるので好ましい。これらフラックスの使用量は、仕込みの蛍光体に対して0.1質量%以上、20質量%以下が好ましい。
【0066】
(原料の混合)
蛍光体製造用合金を使用する場合には、含有される金属元素の組成が、上記式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致していれば蛍光体製造用合金のみ、または必要に応じてフラックスを混合して焼成すればよい。
【0067】
一方、蛍光体製造用合金を使用しない場合またはその組成が一致していない場合には、別の組成を有する蛍光体製造用合金、金属単体、金属化合物などを蛍光体製造用合金と混合して、原料中に含まれる金属元素の組成が上記式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致するように調整し、焼成を行う。
【0068】
本発明の蛍光体の場合、LaとSiとNの理論上の組成比は3:6:11であることが好ましく、類似のモル比の化合物として、1:3:5の化合物が存在するため、この発生を防ぐために、LaまたはLaとLaサイトを置換する元素のモル比を、高めにすることも好ましい。
【0069】
この場合、LaまたはLaとLaサイトを置換する元素のモル比を、理論組成の1:2から、1:1.5程度の範囲で変更してもよい。この組成比の変更は、原料中の酸素の割合が、高い場合に特に好ましい。
【0070】
尚、ストイキオ組成より過剰に原料を仕込むことで、本発明の蛍光体とする方法も挙げられる。例えば、Ln源(La源やY源)を過剰に仕込んだ場合、LSN結晶相が形成された後、余剰のLn源は結晶相の外に吐き出される。Ln源が結晶の外に吐き出される際に、反応時に形成した異相も吐き出される。この為、LSN結晶相は、結晶の質が向上したものになると推測される。
【0071】
蛍光体原料の混合自体は、公知の手法を用いればよい。特に好ましくは、ポット中に溶媒とともに投入し、ボールで原料を砕きながら混合する方法、乾式で混合し、メッシュパスさせる方法などが使用できる。溶媒中で分散、混合した場合には、当然ながら溶媒を除去し、必要に応じ乾燥凝集をほぐす。これらの操作は、窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0072】
又、本発明の蛍光体を、後述の多数回焼成により製造する場合には、フラックスは最も焼成温度の高い工程の前に混合し、ふるいを通すなどしてよく混合することが好ましい。
【0073】
(焼成工程)
このようにして得られた原料混合物(以下蛍光体前駆体ともいう)は、通常は坩堝またはトレイ等の容器に充填し、雰囲気制御が可能な加熱炉に納める。この際、容器の材質としては、金属化合物との反応性が低いものが好ましく、例えば、窒化ホウ素、窒化珪素、炭素、窒化アルミニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。中でも、モリブデン、窒化ホウ素が耐食性に優れることから好ましい。なお、上記の材質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0074】
特に後述の多数回焼成を行う場合には、結晶の核を生成させ、酸素等を除去する1次焼成は、比較的温度が低いので、るつぼの自由度は高く、窒化硼素、アルミナ、モリブデン若しくはタングステンのような材質、または窒化硼素るつぼの内側にモリブデン等のペーストを塗布したもののものなどが使用できる。しかし最後に蛍光体を成長させる2次焼成では、不純物の混入を防ぎ、かつ熱暴走反応が始まった際に、直ちに発生した熱を除去できる。金属製のるつぼ、特にタングステンまたはモリブデンのるつぼが好ましい。
【0075】
そして、原料混合物を焼成することにより、本発明の蛍光体を得ることができる。ただし、上記の原料混合物は、40%以下の体積充填率に保持した状態で焼成することが好ましい。なお、体積充填率は、(混合粉末の嵩密度)/(混合粉末の理論密度)×100[%]により求めることが出来る。
【0076】
本発明の蛍光体は、公知の特許文献1または特許文献2に記載の製造方法に加え、焼成中に、不均一性を解消するような手法を取り入れることにより、得ることができる。その手法としては、例えば、絶えず原料が攪拌されるような流動床を使用する方法、および焼成中のるつぼを振動させる方法などが挙げられ、焼成中に原料の攪拌が起こるようにすることが好ましい。
【0077】
このような方法の中で、好ましくは、ロータリーキルンを用いる方法が挙げられる。るつぼを振動させるなどの方法は、上下を完全に逆にすることが難しいため、条件によっては、原料の比重の差などによって、かえって不均一性を増してしまうことが考えられる。
【0078】
それに対しロータリーキルンを用いる場合、特にキルン内部に邪魔板などを設けると、原料が比重などの差により分離せず、よく攪拌されるので、本発明の蛍光体を得やすい。この場合、回転速度は、比較的小型の炉を用いる場合には、顔料等を分散させる場合の最大効率が得られる回転速度より遅い範囲で選択すればよく、内径が50cmを越える炉では、毎分2回転程度でも、本発明の効果が得られると考えられる。また、ロータリーキルンを使用すると、窒化反応が熱暴走した場合に、直ぐに発生した熱が除去されるため、この点でも本発明の反射率の高い蛍光体を得やすい。
【0079】
また、最も設備投資のいらない簡便な方法としては、原料を焼成し、蛍光体にする際に、焼成工程を複数回に分け、途中で再混合することであり、攪拌、より好ましくはふるいを通すことにより、原料の再分散をさせることである。この方法は、焼成工程を複数回にするため、炉の生産力を落としやすい。よって最も好ましくは、焼成を1次焼成、2次焼成の2回に分け、1次焼成後に再分散、例えば、篩などを行うことである。
【0080】
この場合、最も好ましい1次焼成の温度は、蛍光体の母体が生成し始め、その後の結晶成長の核が発生する温度である。この温度は原料により、若干異なるが、好ましくは、1100℃以上、1400℃以下である。より好ましい下限値としては、好ましくは1150℃以上、最も好ましくは1250℃である。
【0081】
下限値側は、成長の核が生じ、かつその核が必要以上に成長しなければよいので、温度が低くても、その分時間を掛ければよい。一方上限は、1次焼成時間を適切にコントロールすることが難しくなるため、1400℃以下、より好ましくは1350℃以下、最も好ましくは1300℃以下である。
【0082】
又1次焼成の時間としては、1200〜1350℃の場合、2時間以上、20時間以下が好ましい。1100〜1200℃であれば、4時間以上、10時間以下が好ましく、1350℃以上の場合には、5時間以下が好ましい。
【0083】
焼成の温度プログラムとしては、原料が必要以上に加熱され、反応が急速に進むと得られる1次焼成物の安定が損なわれやすいため、1次焼成温度から100℃程度下までは、好ましくは1〜10℃/分程度で昇温し、目標温度の100℃以内に加熱したところで、好ましくは1〜2℃/分程度の昇温速度にするとよい。1250℃で焼成する場合の一例は、実施例1に示してある。
【0084】
焼成の雰囲気は、窒素雰囲気またはアンモニア雰囲気が好ましく、より好ましくは窒素に10%以下の水素を混合した雰囲気である。水素の量が多いと、爆発の危険がある。よって4%以下が最も好ましい。
【0085】
こうして得られた1次焼成物に、前述のとおり、必要に応じて、フラックス等を加え、その後再分散、例えば、乳鉢での再分散またはメッシュパスさせることにより、加熱による凝集を防ぎ、原料の均一性を向上させ、くすみの発生を防止することができ、それを請求項に記載したように770nmでの反射率で評価することができる。この作業は窒素雰囲気あるいは不活性雰囲気中で行うことが好ましい。このときの雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは1vol%以下、特に100ppm以下に制御することが好ましい。
【0086】
メッシュを使用する場合のメッシュの目開きは、広くてもそれなりの効果が得られるが、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以下である。こうして得られた1次焼成物を、2次焼成する。再び前述のるつぼにつめ、雰囲気制御のできる炉中で焼成する。
【0087】
2次焼成の焼成温度としては、特許文献1、2に記載された条件を使用することが出来、具体的には、1次焼成温度以上、1900℃以下であることが好ましく、より好ましくは1400℃以上1700℃以下である。
【0088】
その焼成の温度パターンとしては、特に、原料に合金を含む場合に好適に適用され、その窒化熱生成が激しい1150〜1400℃となる焼成温度領域の、少なくとも、発熱ピークの立ち上がりがおこる温度領域において、好ましくは1.5℃/分以下の低速度で昇温させて焼成することが好ましい。
【0089】
昇温速度の上限は、通常1.5℃/分以下、好ましくは0.5℃/分以下、より好ましくは0.1℃/分以下であることが好ましい。下限に特に制限はなく、工業生産としての経済的観点より定めればよい。ここで、発熱ピークとは、TG−DSC(熱重量・示差熱)測定により求められる発熱ピークである。
【0090】
2次焼成は、水素含有窒素ガスを充填した状態或いは流通させた状態で蛍光体原料を加熱することにより行なうが、その際の圧力は大気圧よりも幾分減圧、大気圧或いは加圧の何れの状態でもよい。ただし、大気中の酸素の混入を防ぐためには大気圧以上とすることが好ましい。
【0091】
圧力を大気圧未満にすると加熱炉の密閉性が悪い場合には多量の酸素が混入して特性の高い蛍光体を得ることができない可能性がある。水素含有窒素ガスの圧力は少なくともゲージ圧で0.1MPa以上が好ましい。あるいは、20MPa以上の高圧下で加熱することもできる。また、200MPa以下が好ましい。
【0092】
その後、窒素を含むガスを流通して、系内を十分にこのガスで置換する。必要に応じて、系内を真空排気した後、ガスを流通してもよい。
【0093】
2次焼成時の加熱時間(最高温度での保持時間)は、蛍光体原料と窒素との反応に必要な時間でよいが、通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、更に好ましくは60分以上とすることが好ましい。加熱時間が1分より短いと窒化反応が完了せず特性の高い蛍光体が得られない可能性がある。また、加熱時間の上限は生産効率の面から決定され、通常50時間以下であり、好ましくは24時間以下である。
【0094】
2次焼成の焼成は、蛍光体原料混合物を充填した焼成容器を、加熱炉に納める。ここで使用する焼成装置としては、本発明の効果が得られる限り任意であるが、装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制御できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、抵抗加熱式真空加圧雰囲気熱処理炉等が好ましい。
【0095】
また、加熱開始前に、焼成装置内に窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換することが好ましい。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通してもよい。
【0096】
焼成の際に使用する窒素含有ガスとしては、窒素元素を含むガス、例えば窒素、アンモニア、或いは窒素と水素の混合気体等が挙げられる。また、窒素含有ガスは、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。これらの中で、窒素含有ガスとしては、水素を含む窒素ガス(水素含有窒素ガス)が好ましい。なお、水素含有窒素ガスにおける水素の混合割合は4体積%以下が爆発限界外であり、安全上好ましい。
【0097】
尚、上記焼成後、昇温速度を遅くすることも本発明においては好ましい。
【0098】
(後処理工程)
本発明の製造方法においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の焼成工程後、必要に応じて粉砕工程、洗浄工程、分級工程、表面処理工程または乾燥工程などを行なってもよい。
【0099】
(粉砕工程)
粉砕工程には、例えば、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、リボンブレンダー、V型ブレンダー若しくはヘンシェルミキサー等の粉砕機、または乳鉢と乳棒を用いる粉砕などが使用できる。このとき、生成した蛍光体結晶の破壊を抑え、二次粒子の解砕等の目的とする処理を進めるためには、例えば、アルミナ、窒化珪素、ZrOまたはガラス等の容器中にこれらと同様の材質又は鉄芯入りウレタン等のボールを入れてボールミル処理を10分〜24時間程度の間で行うことが好ましい。この場合、有機酸またはヘキサメタリン酸などのアルカリリン酸塩等の分散剤を0.05質量%〜2質量%用いてもよい。
【0100】
(洗浄工程)
洗浄工程は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤またはアンモニア水等のアルカリ性水溶液などで蛍光体表面を行うことができる。
使用されたフラックスを除去する等、蛍光体の表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、王水およびフッ化水素酸と硫酸との混合物などの無機酸;酢酸などの有機酸などを含有する酸性水溶液を使用することもできる。
これらの手法については、特許文献1、2に詳しく記載されており、その記述に従って行えばよい。
【0101】
(分級工程)
分級工程は、例えば、水篩を行う、または、各種の気流分級機または振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュによる乾式分級を用いると、体積平均径10μm程度の分散性に優れた蛍光体を得ることができる。また、ナイロンメッシュによる乾式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、体積メジアン径20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0102】
ここで、水篩または水簸処理では、通常、水媒体中に好ましくは0.1質量%〜10質量%程度の濃度で蛍光体粒子を分散させる。また、蛍光体の変質を抑えるために、水媒体のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常9以下、好ましくは8以下とすることが好ましい。
【0103】
また、上記のような体積メジアン型の蛍光体粒子を得るに際して、水篩及び水簸処理では、例えば50μm以下の粒子を得てから、30μm以下の粒子を得るといった、2段階での篩い分け処理を行う方が作業効率と収率のバランスの点から好ましい。また、下限としては、通常1μm以上、好ましくは5μm以上のものを篩い分ける処理を行うのが好ましい。
【0104】
(乾燥工程)
このようにして洗浄を終了した蛍光体を、100℃〜200℃程度で乾燥させる。必要に応じて乾燥凝集を防ぐ程度の分散処理(例えばメッシュパスなど)を行ってもよい。
(蒸気加熱処理工程)
本発明の蛍光体は、上記工程を経て製造された蛍光体に、蒸気存在下、好ましくは水蒸気存在下で静置し、蒸気加熱処理することができる。この上記加熱工程をおこなうことにより、蛍光体の輝度を更に向上させることができる。
【0105】
蒸気加熱処理工程を設ける場合は、温度は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であることが好ましく、また、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下であることが好ましい。温度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向があり、高すぎると蛍光体粒子の表面が荒れてしまう場合がある。
【0106】
蒸気加熱処理工程での湿度(相対湿度)は、通常50%以上、好ましくは80%以上であり、特に100%であることが好ましい。湿度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向がある。なお、吸着水層形成の効果が得られる程度であれば、湿度が100%である気相に液相が共存していてもよい。
【0107】
蒸気加熱処理工程での圧力は、通常常圧以上、好ましくは0.12MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上であることが好ましく、また、通常10MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.6MPa以下であることが好ましい。圧力が低すぎると蒸気加熱処理工程の効果が得られにくい傾向があり、高すぎると処理装置が大掛かりとなり、また作業上の安全性の問題が出てくる場合がある。
【0108】
当該蒸気存在下に蛍光体を保持する時間は前記の温度、湿度及び圧力に応じて一様ではないが、通常は高温であるほど、高湿度であるほど、高圧であるほど保持時間は短くて済む。具体的な時間の範囲を挙げると、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上であることが好ましく、また、通常200時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは70時間以下、更に好ましくは50時間以下であることが好ましい。
【0109】
上記の条件を満たしながら蒸気加熱工程を行うための具体的な方法としては、オートクレーブ中で高湿度、高圧下におくという方法が例示できる。ここで、オートクレーブに加えて、または、オートクレーブを用いる代わりに、プレッシャークッカー等のオートクレーブと同程度に高温・高湿条件下にすることができる装置を用いてもよい。
【0110】
プレッシャークッカーとしては、例えば、TPC−412M(ESPEC株式会社製)等を用いることができ、これによれば、温度を105℃〜162.2℃に、湿度を75〜100%(但し、温度条件によって異なる)に、圧力を0.020MPa〜0.392MPa(0.2kg/cm〜4.0kg/cm)に制御することができる。
【0111】
オートクレーブ中に蛍光体を保持して蒸気加熱工程を行うようにすれば、高温、高圧かつ高湿度の環境において特殊な水の層を形成することが可能であるため、特に短時間で吸着水を蛍光体表面に存在させることができる。具体的条件を挙げると、圧力が常圧(0.1MPa)以上であり、かつ、蒸気が存在する環境下に前記蛍光体を0.5時間以上置くとよい。
【0112】
(表面処理工程)
本発明の蛍光体を用いて発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は後述する発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で一部被覆する等の表面処理を行ってもよい。
【0113】
表面処理は、蒸気加熱処理工程の前に実施してもよいし、蒸気加熱処理工程の後に実施してもよく、蒸気加熱処理による特殊な吸着水の存在を妨げる、又は吸着した水を除去する効果を持つ表面処理でなければ両方の処理を同時に実施しても問題はない。
【0114】
(蛍光体含有組成物)
本発明の蛍光体含有組成物は、本発明の蛍光体と液体媒体とを含有する。本発明の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液状媒体中に分散させた形態、即ち、蛍光体含有組成物の形態で用いることが好ましい。
【0115】
本発明の蛍光体含有組成物に使用可能な液状媒体としては、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することができる。
【0116】
液状媒体の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの液状媒体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の液状媒体に有機溶媒を含有させることもできる。
【0117】
液状媒体の使用量などの具体的態様は、用途に応じて適宜調整すればよく、国際公開第2010/114061号の「[3.蛍光体含有組成物]」の項に記載の事項が適用できる。
【0118】
(発光装置)
本発明の発光装置について説明する。本発明の発光装置は、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、該第2の発光体として、本発明の蛍光体を1種以上含む第1の蛍光体を含有してなるものである。
【0119】
これら、第一の発光体、及び本発明の蛍光体以外に用いられる第2の発光体の具体例、及び発光装置の態様については、国際公開第2010/114061号の「[4.発光装置]」の項に記載の事項が適用できる。
【0120】
(発光装置の実施形態)
本発明の発光装置について、具体的な実施の形態を挙げて、より詳細に説明するが、本発明の発光装置は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0121】
本発明の発光装置の一例における、励起光源となる第1の発光体と、蛍光体を有する蛍光体含有部として構成された第2の発光体との位置関係を示す模式的斜視図を図16に示す。図16中の符号1は蛍光体含有部(第2の発光体)、符号2は励起光源(第1の発光体)としての面発光型GaN系LD、符号3は基板を表す。相互に接触した状態をつくるために、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とそれぞれ別個に作製し、それらの面同士を接着剤やその他の手段によって接触させてもよいし、LD(2)の発光面上に蛍光体含有部(第2の発光体)を製膜(成型)させてもよい。これらの結果、LD(2)と蛍光体含有部(第2の発光体)(1)とを接触した状態とすることができる。
【0122】
このような装置構成をとった場合には、励起光源(第1の発光体)からの光が蛍光体含有部(第2の発光体)の膜面で反射されて外にしみ出るという光量損失を避けることができるので、装置全体の発光効率を良くすることができる。
【0123】
図17(a)は、一般的に砲弾型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。該発光装置(4)において、符号5はマウントリード、符号6はインナーリード、符号7は励起光源(第1の発光体)、符号8は蛍光体含有樹脂部、符号9は導電性ワイヤ、符号10はモールド部材をそれぞれ指す。
【0124】
図17(b)は、表面実装型と言われる形態の発光装置の代表例であり、励起光源(第1の発光体)と蛍光体含有部(第2の発光体)とを有する発光装置の一実施例を示す模式的断面図である。図中、符号22は励起光源(第1の発光体)、符号23は蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部、符号24はフレーム、符号25は導電性ワイヤ、符号26及び符号27は電極をそれぞれ指す。
【0125】
(発光装置の用途)
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0126】
(照明装置)
本発明の照明装置は、本発明の発光装置を備えるものである。本発明の発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、図18に示されるような、前述の発光装置(4)を組み込んだ面発光照明装置(11)を挙げることができる。
【0127】
図18は、本発明の照明装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。この図18に示すように、該面発光照明装置は、内面を白色の平滑面等の光不透過性とした方形の保持ケース(12)の底面に、多数の発光装置(13)(前述の発光装置(4)に相当)を、その外側に発光装置(13)の駆動のための電源及び回路等(図示せず。)を設けて配置し、保持ケース(12)の蓋部に相当する箇所に、乳白色としたアクリル板等の拡散板(14)を発光の均一化のために固定してなる。
【0128】
そして、面発光照明装置(11)を駆動して、発光装置(13)の励起光源(第1の発光体)に電圧を印加することにより光を発光させ、その発光の一部を、蛍光体含有部(第2の発光体)としての蛍光体含有樹脂部における前記蛍光体が吸収し、可視光を発光し、一方、蛍光体に吸収されなかった青色光等との混色により演色性の高い発光が得られ、この光が拡散板(14)を透過して、図面上方に出射され、保持ケース(12)の拡散板(14)面内において均一な明るさの照明光が得られることとなる。
【0129】
(画像表示装置)
本発明の画像表示装置は、本発明の発光装置を備えるものである。本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合には、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例、比較例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更することができる。
後述の各実施例及び各比較例において、蛍光体粒子の各種の評価は、以下の手法で行なった。
【0131】
[発光スペクトルの測定方法]
発光スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを備え、スペクトル測定装置としてマルチチャンネルCCD検出器C7041(浜松フォトニクス社製)を備える蛍光測定装置(日本分光社製)を用いて測定した。励起光源からの光を焦点距離が10cmである回折格子分光器に通し、波長455nmの励起光のみを光ファイバーを通じて蛍光体に照射した。
【0132】
励起光の照射により蛍光体から発生した光を焦点距離が25cmである回折格子分光器により分光し、300nm以上800nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置により各波長の発光強度を測定し、パーソナルコンピューターによる感度補正等の信号処理を経て発光スペクトルを得た。なお、測定時には、受光側分光器のスリット幅を1nmに設定して測定を行った。
【0133】
また、発光ピーク波長と半値幅は、得られた発光スペクトルから読み取った。発光ピーク強度及び輝度は、LP−B4[(Ba、Eu)MgAl1017](化成オプトニクス社製)の波長365nm励起時のピーク強度を基準値100とした相対値で表した。この相対発光ピーク強度及び輝度は高い方が好ましい。
【0134】
[反射率の測定方法(A)]
反射スペクトルは、励起光源として150Wキセノンランプを、集光装置として積分球を、スペクトル測定装置として、大塚電子製MCPD7000マルチチャンネルスペクトル測定装置を使用した。まず、標準白板として、励起光に対してほぼ100%の反射率Rを持つ物質、Labsphere製「Spectralon」(波長450nmの励起光に対して99%の反射率Rを持つ。)に石英カバーガラスをのせ、150Wキセノンランプの白色光を光ファイバーを通して照射し、380nm以上780nm以下の波長範囲においてスペクトル測定装置を使用し、各波長の反射強度を測定し、パーソナルコンピューターによる感度補正等の信号処理を経て反射スペクトルを得た。
【0135】
次に、測定対象となる蛍光体粉末を、測定精度が保たれるように、十分に表面を平滑にしてセルに詰めた後石英カバーガラスをのせ、同様の方法により各波長の反射強度を測定し、標準白板との反射強度の比率より試料の反射スペクトルを得た。
【0136】
[反射率の測定方法(B)]
反射スペクトルは、光源にハロゲンランプ50Wと集光装置として積分球を備えた島津製作所製UV−3100PC可視紫外域自記分光光度計を使用して、光源側のスリット幅を2.0nm、サンプリング間隔を1nm、スキャン速度を中速に設定して行った。
【0137】
まず、分光光度計試料室内の積分球装置に、標準白板を測定ホルダの対象側、及び試料側にセットし、回折格子分光器を通して分光した光のみを380nm以上780nm以下の波長範囲において、対象側及び試料側の試料に照射し反射強度を測定し、パーソナルコンピューターによる感度補正等の信号処理を経てベースライン補正を行った。
【0138】
次に、測定対象となる蛍光体粉末を、石英ガラス付き測定用セルに入れ、軽くタッピングして蓋をした後、試料ホルダの試料側にセットし、同様の方法により反射強度を測定し、標準白板との反射強度の比率より試料の反射スペクトルを得た。
【0139】
(実施例1)
窒素で満たされたグローブボックス内で、LaN、Si(宇部興産製SN−E10)、CeF(高純度化学製)を用いて、仕込み組成が表1の組成比になるように、原料の調合を行った。すなわち、LaN(17.67g)、Si(10.81g)、CeF(1.52g)を秤量し、それをアルミナ乳鉢上で十分に混合を行い、その中から約3gを取り分け、モリブデン坩堝に充填した。
【0140】
これを一次焼成として、温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧下、混合ガス(窒素96体積%、水素4体積%)2リットル/分の流通条件で、室温から1200℃までは昇温速度5℃/分、1200℃から1250℃までは昇温速度1℃/分で加熱し、その後4時間保持した後室温まで放冷した。
【0141】
得られた試料は、窒素で満たされたグローブボックスへ持ち込み、篩で100μm以下に篩分けを行った。次に、得られた試料全量をモリブデン坩堝へ充填し、これを本焼成として、温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧下、混合ガス(窒素96体積%、水素4体積%)2リットル/分の流通条件で、室温から1200℃までは昇温速度5℃/分、1200℃から1400℃までは昇温速度1℃/分、1400℃から1525℃までは昇温速度2℃/分で加熱し、その後12時間保持した後室温まで放冷した。
【0142】
得られた試料は、アルミナ乳鉢上で粉砕し、酸洗浄により不純物の除去を行った。得られた蛍光体の特性評価結果を表2、発光スペクトルを図1、反射スペクトル(A)を図2、SEM像を図3に示す。455nmで励起した時の発光ピーク強度は64、また波長770nmで反射率Raを評価した結果89%であった。
【0143】
(実施例2)
一次焼成の保持温度を1250℃から1300℃へ変更した以外は、実施例1と同様の方法で蛍光体の合成を行った。得られた蛍光体の特性評価結果を表2、発光スペクトルを図1、反射スペクトル(A)を図2、SEM像を図4に示す。455nmで励起した時の発光ピーク強度は62、また波長770nmで反射率Raを評価した結果92%であった。
【0144】
(比較例1)
一次焼成を行わず本焼成のみ行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で蛍光体の合成を行った。
得られた蛍光体の特性評価結果を表2、発光スペクトルを図1、反射スペクトル(A)を図2、SEM像を図5に示す。455nmで励起した時の発光ピーク強度は52、また波長770nmで反射率を評価した結果80%であった。これらの結果より、一次焼成を行った後、再度ふるいにかけ、その後焼成することにより、反射率が高く、発光ピーク強度が高いLSN蛍光体が得られた。
【0145】
従来LSN蛍光体は、原料中、あるいは雰囲気中の酸素の存在により、135蛍光体の生成量が増えることが知られている。このため、一旦焼成炉から取り出すことにより、酸素が混入し、135蛍光体の生成量が増大し、反射率も発光ピーク強度も低下する可能性も懸念された。しかし、実施には分散をよくする効果による改善が、酸素混入などによる、反射率などの低下を上回る効果を発揮したと考えられる。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
(実施例3)
仕込み組成が表3の組成比になるように、GdF(高純度化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、蛍光体の合成を行った。得られた蛍光体の特性評価結果を表3、発光スペクトルを図6、反射スペクトル(A)を図7に示す。455nmで励起した時の発光ピーク強度は54、また波長770nmで反射率Raを評価した結果87%であった。
【0149】
(実施例4)
仕込み組成が表3の組成比になるように、YF(高純度化学社製)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、蛍光体の合成を行った。得られた蛍光体の特性評価結果を表4、発光スペクトルを図6、反射スペクトル(A)を図7に示す。455nmで励起した時の発光ピーク強度は56、また波長770nmで反射率Raを評価した結果87%であった。
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
(実施例5)
窒素で満たされたグローブボックス内で、LaSi(高純度化学製)、Si(宇部興産製SN−E10)、CeF(高純度化学製)を用いて、仕込み組成が表5の組成比になるように、原料の調合を行った。
【0153】
すなわち、LaSi(2.34g)、Si(0.66g)、CeF3(0.18g)を秤量し、それをアルミナ乳鉢上で十分に混合を行い、その全量をモリブデン坩堝に充填した。これを一次焼成として、温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧下、混合ガス(窒素96体積%、水素4体積%)2.5リットル/分の流通条件で、室温から1200℃までは昇温速度5℃/分、1200℃から1300℃までは昇温速度1℃/分で加熱し、その後4時間保持した後室温まで放冷した。得られた試料は、窒素で満たされたグローブボックスへ持ち込み、篩で100μm以下に篩分けを行った。
【0154】
次に、得られた試料全量をモリブデン坩堝へ充填し、これを本焼成として、温度調節器つき抵抗加熱式電気炉内に置き、大気圧下炉内、混合ガス(窒素96体積%、水素4体積%)2.5リットル/分の流通条件で、室温から1200℃までは昇温速度5℃/分、1200℃から1400℃までは昇温速度1℃/分、1400℃から1525℃までは昇温速度2℃/分で加熱し、その後12時間保持した後室温まで放冷した。
【0155】
得られた試料は、アルミナ乳鉢上で粉砕し、酸洗浄により不純物の除去を行った。
得られた蛍光体の特性評価結果を表6、発光スペクトルを図8、反射スペクトル(A)を図9に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は532nm、発光ピーク強度は52、反射率Raは89%であった。
【0156】
また、反射率(B)の測定した結果、発光ピーク波長532nmにおける反射率Rbは69%、770nmにおける反射率Rbは84%であった。
【0157】
(比較例2)
一次焼成を行わず本焼成のみを行ったこと以外は、実施例5と同様方法で蛍光体の合成を行った。
得られた蛍光体の特性評価結果を表6、発光スペクトルを図8、反射スペクトル(A)を図9に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は532nm、発光ピーク強度は49、反射率は87%であった。
【0158】
また、反射率(B)の測定した結果、発光ピーク波長532nmにおける反射率は64%、770nmにおける反射率は82%であった。
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
表6に示すように、本発明の蛍光体は、相対発光ピーク強度が優れる。
【0162】
(実施例6)
LaSi、CaO(高純度化学製)Si(宇部興産製SN−E10)、及びCeF(高純度化学製)を用いて、仕込み組成が表7の組成比になるように、秤量を行った。秤量した原料すべてポリ袋で十分に混合した後、ナイロンメッシュの篩を通して原料粉を作製した。なお、秤量から調合までの作業は酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0163】
調合した原料粉をMo坩堝に充填し、タングステンヒータの電気炉内にセットした。装置内を真空排気した後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後1250℃で4時間保持したあと降温を開始し、焼成処理を終了し、一次焼成粉を得た。得られた一次焼成粉は、酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内へ持ち込み、篩で100μm以下に篩分けを行った。
【0164】
得られた試料全量をMo坩堝に充填し、これを本焼成とし、一次焼成と同様の方法で1550℃で8時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し、蛍光体を得た。
【0165】
焼成した蛍光体をナイロンメッシュの篩を通した後、1Nの塩酸中で1時間撹拌し、水洗・120℃の熱風乾燥器で乾燥後にナイロンメッシュの篩を通して実施例6の蛍光体を得た。得られた蛍光体の特性評価結果を表8、発光スペクトルを図10、反射スペクトル(A)を図11、反射スペクトル(B)を図14に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は541nm、発光ピーク強度は45、反射率Raは87%であった。また、発光ピーク波長532nmにおける反射率Rbは70%、770nmにおける反射率Rbは83%であった。
【0166】
(実施例7)
LaSi、CaO(高純度化学製)Si(宇部興産製SN−E10)、及びCeF(高純度化学製)を用いて、仕込み組成が表7の組成比になるように、秤量を行った。秤量した原料すべてポリ袋で十分に混合した後、ナイロンメッシュの篩を通して原料粉を作製した。なお、秤量から調合までの作業は酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0167】
調合した原料粉をMo坩堝に充填し、タングステンヒータの電気炉内にセットした。装置内を真空排気した後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後1175℃で4時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し、一次焼成粉を得た。得られた一次焼成粉は、酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内へ持ち込み、篩で100μm以下に篩分けを行った。
【0168】
得られた試料全量をMo坩堝に充填し、一次焼成と同様の方法で1250℃4時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し、二次焼成粉を得た。得られた二次焼成粉は、一次焼成と同様の方法で処理を行った。
【0169】
得られた試料全量をMo坩堝に充填し、これを本焼成とし、一次焼成及び二次焼成と同様の方法で1550℃で8時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し、蛍光体を得た。
【0170】
焼成した蛍光体をナイロンメッシュの篩を通した後、1Nの塩酸中で1時間撹拌し、水洗・120℃の熱風乾燥器で乾燥後にナイロンメッシュの篩を通して実施例7の蛍光体を得た。得られた蛍光体の特性評価結果を表8、発光スペクトルを図10、反射スペクトル(A)を図11、反射スペクトル(B)を図14に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は541nm、発光ピーク強度は44、反射率Raは88%であった。また、発光ピーク波長532nmにおける反射率Rbは70%、770nmにおける反射率Rbは81%であった。
【0171】
【表7】
【0172】
【表8】
【0173】
表8に示すように、本発明の蛍光体は、発光ピーク強度に優れる。
【0174】
(実施例8)
(原料の調合)
原料としてLa:Si=1:1(モル比)の合金、SiをLa:Si=3:5.9(モル比)になるように秤量した。CeFとYをCeF/(合金+Si)=6.0wt%かつY/(合金+Si)=7.6質量%になるように秤量した。これに原料としてLaSi11:Ce蛍光体を原料全体の質量に対し2質量%分秤量した。秤量した原料をすべてポリ袋で十分に混合した後、ナイロンメッシュの篩を通して原料粉を作成した。なお秤量〜調合までの作業は酸素濃度1%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で実施した。
【0175】
(焼成)
調合した原料粉をMo坩堝に充填し、タングステンヒーターの電気炉内にセットした。装置内を真空排気した後、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後1550℃で8時間保持した後降温を開始し、焼成処理を終了し、蛍光体を得た。
【0176】
(洗浄)
焼成した蛍光体をナイロンメッシュの篩を通した後、1Nの塩酸中で1時間撹拌し、水洗・120℃の熱風乾燥器で乾燥後にナイロンメッシュの篩を通して実施例8の蛍光体を得た。得られた蛍光体の特性評価結果を表9、発光スペクトルを図12、反射スペクトル(A)を図13に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は543nm、発光ピーク強度は46、反射率Raは90%であった。
【0177】
また、反射スペクトル(B)を図15に示す。発光ピーク波長543nmにおける反射率Rbは73%、770nmにおける反射率は86%であった。
【0178】
(実施例9)
原料の秤量〜焼成〜洗浄までは実施例8と同様に実施した。
(蒸気加熱処理)
上記の洗浄工程で得られた蛍光体をオートクレーブ(平山製作所製 ハイクレーブ HG−50)内に入れ、20時間静置した。オートクレーブ内の環境は、飽和水蒸気下、135℃とした。の後取出した蛍光体を140℃の熱風乾燥器で2時間乾燥し、実施例9の蛍光体を得た。
【0179】
得られた蛍光体の特性評価結果を表9、発光スペクトルを図12、反射スペクトル(A)を図12に示す。455nmで励起した時の発光ピーク波長は545nm、発光ピーク強度は51、反射率Raは92%であった。
【0180】
また、反射スペクトル(B)を図15に示す。発光ピーク波長545nmにおける反射率Rbは82%、770nmにおける反射率Rbは89%であった。
【0181】
【表9】
【0182】
表9に示すように、本発明の蛍光体は、発光ピーク強度に優れる。
【0183】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2013年2月7日付で出願された日本特許出願(特願2013−022444)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明により、高輝度のLSN蛍光体を提供することが出来、特に白色LED用に用いた場合に、照明用、ディスプレイのバックライト用に好適に使用することが出来る。また、本発明の製造方法は、これまでより短時間で、高輝度の蛍光体を製造することができる。
【符号の説明】
【0185】
1 蛍光体含有部(第2の発光体)
2 励起光源(第1の発光体)(LD)
3 基板
4 発光装置
5 マウントリード
6 インナーリード
7 励起光源(第1の発光体)
8 蛍光体含有樹脂部
9 導電性ワイヤ
10 モールド部材
11 面発光照明装置
12 保持ケース
13 発光装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18