特許第6341198号(P6341198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341198酸化物半導体ターゲット、酸化物半導体膜及びその製造方法、並びに薄膜トランジスタ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341198
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】酸化物半導体ターゲット、酸化物半導体膜及びその製造方法、並びに薄膜トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180604BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20180604BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20180604BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180604BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C23C14/08 K
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618Z
   H01L21/363
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-511306(P2015-511306)
(86)(22)【出願日】2014年4月10日
(86)【国際出願番号】JP2014060444
(87)【国際公開番号】WO2014168224
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-84253(P2013-84253)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】内山 博幸
(72)【発明者】
【氏名】福島 英子
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−033854(JP,A)
【文献】 特開2008−163441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C23C 14/08
H01L 21/336
H01L 21/363
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、錫、酸素、及び、酸化物焼結体の全質量に対する含有比が0.005質量%〜0.1質量%であるアルミニウムを含み、前記酸化物焼結体の全質量に対する珪素の含有比が0.03質量%未満である酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲット。
【請求項2】
前記酸化物焼結体は、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)の合計量に対する亜鉛の比率(Zn/(Zn+Sn))が原子比率で0.52を超えて0.8以下である請求項1に記載の酸化物半導体ターゲット。
【請求項3】
前記酸化物焼結体は、更に、珪素をアルミニウムの含有量を超えない範囲の含有量で含み、アルミニウム及び珪素の含有量の合計が、前記酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.1質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の酸化物半導体ターゲット。
【請求項4】
アルミニウムの含有比が、酸化物焼結体の全質量に対して0.005質量%〜0.1質量%であり、かつ珪素の含有比が、酸化物焼結体の全質量に対して0.001質量%〜0.02質量%である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酸化物半導体ターゲット。
【請求項5】
基板上に、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体ターゲットを用いて、スパッタリング法により酸化物半導体膜を成膜することを有する酸化物半導体膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酸化物半導体ターゲットのスパッタリング膜からなる酸化物半導体膜。
【請求項7】
請求項6に記載の酸化物半導体膜を用いて形成されたチャネル層を備え、光未照射時におけるドレイン電流の発生閾値電圧から光照射後におけるドレイン電流の発生閾値電圧への変化幅が0V以上+2.0V以下である薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記変化幅が0V以上+1.5V以下である請求項7に記載の薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体ターゲット、酸化物半導体膜及びその製造方法、並びに薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタで駆動する方式の液晶ディスプレイとしては、薄膜トランジスタのチャネル層に非晶質シリコンを採用した液晶ディスプレイが主流となっている。しかし、非晶質シリコンを採用したチャネル層では、液晶ディスプレイの高い要求仕様を実現することが次第に困難になりつつある。そこで、近年では、非晶質シリコンに代わるチャネル層用の材料として、酸化物半導体が注目されている。
【0003】
酸化物半導体は、化学気相成長法(CVD)で成膜される非晶質シリコンと異なり、スパッタリング法で成膜することができるため、膜の均質性に優れ、液晶ディスプレイの大型化、高精細化の要求に対応し得るポテンシャルを有している。また、酸化物半導体は、非晶質シリコンよりもキャリアの移動度が高いため、画像の高速切替えに有利である上、オフ時のリーク電流が非常に低いため、消費電力低減(省電力化)が期待できる。さらに、スパッタリング法は、化学気相成長法に比べて低温での成膜が可能であるため、薄膜トランジスタを構成する材料として耐熱性に乏しい材料を選択することができるようになるという利点がある。
【0004】
液晶ディスプレイのチャネル層に好適な酸化物半導体として、例えば、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(以下、「IGZO」という。)や、亜鉛錫複合酸化物(以下、「ZTO」という。)などが知られている。
【0005】
上記に関連する技術として、IGZOを用いたN型薄膜トランジスタが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、ZTOの焼結体からなるターゲット及びこれを用いた酸化物半導体膜が開示されている(例えば、特許文献2〜4、非特許文献2参照)。
【0006】
また、IGZOやZTO等の酸化物半導体は、紫外光等の曝光下に置かれると半導体膜としての性質が低下し、TFTを作製したときにはTFT特性が低下する傾向があることが知られている(例えば、非特許文献1、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−165532号公報
【特許文献2】特開2010−37161号公報
【特許文献3】特開2010−248547号公報
【特許文献4】特開2012−33699号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】竹知和重(Kazushige Takechi)、他4名、「ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)」、公益社団法人応用物理学会(The Japan Society of Applied Physics)、2009年1月20日、第48巻、p.010203−1−3
【非特許文献2】神谷利夫、他2名、「固体物理」、株式会社アグネ技術センター、平成21年9月15日、第44巻、第9号、p.630−632
【非特許文献3】ピー・ゲルン(P.Goerrn)、他3名、「アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)」、(米国)、米国物理学協会(American Institute of Physics)、2007年11月6日、p.193504−1−3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような酸化物半導体膜は、従来から実用化に向けての開発が盛んに行われている。しかし、この酸化物半導体膜をチャネル層に採用した薄膜トランジスタを用いて液晶ディスプレイを製造しようとすると、製造工程に起因する以下の問題が存在する。
【0010】
(1)エッチング液に対する耐性
薄膜トランジスタの製造工程には、酸化物半導体膜からなるチャネル層を形成した後、金属からなる導電膜を成膜し、金属用のエッチング液で導電膜をエッチングすることによりソース電極及びドレイン電極を形成する工程がある。
【0011】
このとき、チャネル層の一部がエッチング液に接触することになる。IGZOは金属と同等の速度で金属用のエッチング液に溶解するため、IGZOからなるチャネル層を残して導電膜のみを選択的にエッチング加工することができない。この対策として、チャネル層がエッチング液に溶解しないように、チャネル層の上にエッチストップ層を設けることが提案されている。しかしながら、チャネル層の溶解防止を目的としてエッチストップ層を設けることは、チャネル層に非晶質シリコンを採用した従来の液晶ディスプレイに比べて製造工程を増やすことになる。これは、工程の簡易化及びコスト等の点で好ましくない。
【0012】
(2)光照射に対する耐性
フォトリソグラフィを用いて薄膜トランジスタのパターニングを行なう工程や、液晶分子を予め配向させる配向膜を形成する工程などにおいて、チャネル層に強い紫外光が照射されることがある。また、液晶ディスプレイとしての使用時には、光源からの可視光がチャネル層を透過する。このため、酸化物半導体膜からなるチャネル層が紫外光や可視光の照射を受けても、薄膜トランジスタの特性が変化しないことが望ましい。
【0013】
ところが、チャネル層にIGZOを用いた薄膜トランジスタに紫外光が照射されると、ドレイン電流の発生閾値電圧がマイナス側にシフトしたり、リーク電流が増加したりすることが知られている(例えば、上記非特許文献1参照)。これは、IGZOのバンド構造においてバンドギャップ中に深い欠陥順位が存在しており、このバンドギャップに対応する光子エネルギーよりも低い光子エネルギーを有する紫外光から可視光にかけての領域の光が吸収されてキャリアが発生し、薄膜トランジスタの特性に影響を与えるためであると考えられている(例えば、上記非特許文献2参照)。また、光の照射に伴なう薄膜トランジスタの、ドレイン電流の発生閾値電圧の低下と、リーク電流の増加は、チャネル層にZTOを用いた薄膜トランジスタに可視光を照射した場合にも起こることが報告されている(例えば、上記非特許文献3)。
【0014】
薄膜トランジスタのドレイン電流の発生閾値電圧がマイナス側にシフトすると、薄膜トランジスタと接続された画素電極のスイッチングの制御が困難になる。また、リーク電流が増加すると、液晶ディスプレイの消費電力が増大する。これらの現象は、光を照射した後にアニールを行なうことにより緩和させることができる場合がある。しかしながら、保護膜形成後など製造工程によっては、回復効果が得られないことも多く、液晶ディスプレイを使用する際の薄膜トランジスタの信頼性劣化を招く。また、上述の配向膜を形成する液晶ディスプレイの製造工程においては、強度の高い紫外光の照射によりチャネル層が回復不能な損傷を受けることもある。
【0015】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、下記の目的を達成することを課題とする。すなわち、本発明の第1の目的は、エッチング液及び光照射に対する耐性に優れた酸化物半導体膜の製造に好適な酸化物半導体ターゲットを提供することにある。また、本発明の第2の目的は、エッチング液及び光照射に対する耐性に優れた酸化物半導体膜及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の第3の目的は、工程数を増やすことなく、高精細なディスプレイ画像を表示する薄膜トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下の知見に基づいて達成されたものである。すなわち、亜鉛、錫、及び酸素を主元素として含む酸化物焼結体である亜鉛錫複合酸化物(ZTO)を用いたターゲット材にIII族に属するアルミニウムを所定量の範囲で含有していることで、生成される膜について、導電膜のみを選択的にエッチングすることができると同時に光照射に対する耐性が改善されるとの知見である。
【0017】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 亜鉛、錫、酸素、及び、酸化物焼結体の全質量に対する含有比が0.005質量%〜0.2質量%であるアルミニウムを含み、前記酸化物焼結体の全質量に対する珪素の含有比が0.03質量%未満(0質量%を含む)である酸化物焼結体からなる酸化物半導体ターゲットである。
<2> 前記酸化物焼結体は、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)の合計量に対する亜鉛の比率(Zn/(Zn+Sn))が原子比率で0.52を超えて0.8以下である前記<1>に記載の酸化物半導体ターゲットである。
<3> 前記酸化物焼結体は、更に、珪素をアルミニウムの含有量を超えない範囲の含有量で含み、アルミニウム及び珪素の含有量の合計が、前記酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.1質量%以下である前記<1>又は前記<2>に記載の酸化物半導体ターゲットである。
<4> アルミニウムの含有比が、酸化物焼結体の全質量に対して0.005質量%〜0.2質量%であり、かつ珪素の含有比が、酸化物焼結体の全質量に対して0.001質量%〜0.02質量%である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の酸化物半導体ターゲットである。
【0018】
<5> 基板上に、前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の酸化物半導体ターゲットを用いて、スパッタリング法により酸化物半導体膜を成膜することを有する酸化物半導体膜の製造方法である。
【0019】
<6> 前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の酸化物半導体ターゲットを用いてなる酸化物半導体膜である。
【0020】
<7> 前記<6>に記載の酸化物半導体膜を用いて形成されたチャネル層を備え、光未照射時におけるドレイン電流の発生閾値電圧から光照射後におけるドレイン電流の発生閾値電圧への変化幅が0以上+2.0V以下である薄膜トランジスタである。
<8> 前記変化幅が0以上+1.5V以下である前記<7>に記載の薄膜トランジスタ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エッチング液及び光照射に対する耐性に優れた酸化物半導体膜の製造に好適な酸化物半導体ターゲットが提供される。また、本発明によれば、エッチング液及び光照射に対する耐性に優れた酸化物半導体膜及びその製造方法が提供される。さらに、本発明によれば、工程数を増やすことなくディスプレイ画像を高精細に表示する薄膜トランジスタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタを製造する製造例の一部を説明するための工程図である。
図2図2は、酸化物半導体膜をチャネル層に適用した薄膜トランジスタを製造する製造例の一部を説明するための工程図である。
図3A図3Aは、比較用のZTO膜(Al=0.001質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図3B図3Bは、比較用のZTO膜(Al=0.001質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図4A図4Aは、本発明のZTO膜(Al=0.008質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図4B図4Bは、本発明のZTO膜(Al=0.008質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図5A図5Aは、本発明のZTO膜(Al=0.022質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図5B図5Bは、本発明のZTO膜(Al=0.022質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図6A図6Aは、本発明のZTO膜(Al=0.030質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図6B図6Bは、本発明のZTO膜(Al=0.030質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図7A図7Aは、本発明のZTO膜(Al=0.095質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図7B図7Bは、本発明のZTO膜(Al=0.095質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図8A図8Aは、比較用のZTO膜(Al=0.090質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図8B図8Bは、比較用のZTO膜(Al=0.090質量%)を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図9A図9Aは、IGZO膜を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射前のVg−Id特性を示す。
図9B図9Bは、IGZO膜を備えた薄膜トランジスタ試料について、紫外光照射後のVg−Id特性を示す。
図10A図10Aは、酸化物半導体ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング装置の概略構成図である。
図10B図10Bは、酸化物半導体ターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタリング装置の概略構成図である。
図11図11は、ZTO中のアルミニウム含有量とDCスパッタリング成膜における酸素添加量の割合とTFT特性における紫外光照射による発生閾値電圧のシフト量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の酸化物半導体ターゲットについて詳細に説明すると共に、これを用いた酸化物半導体膜及びその製造方法並びに薄膜トランジスタについても詳述する。
【0024】
<酸化物半導体ターゲット>
本発明の酸化物半導体ターゲットは、亜鉛、錫、酸素、及び、酸化物焼結体の全質量に対する含有比が0.005質量%〜0.2質量%であるアルミニウム、を含有する酸化物焼結体で構成されている。本発明の酸化物半導体ターゲットを構成する酸化物焼結体は、珪素を含まなくてもよく、更に珪素を酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.03質量%未満の範囲で含有してもよい。また、更に上記以外の元素や化合物を、必要に応じて含んでいてもよい。また、上記以外の元素や化合物は、原料や製造工程に由来して不可避的に含まれるものであってもよい。
【0025】
本発明の酸化物半導体ターゲットは、酸化物半導体膜を形成した場合に、該酸化物半導体膜が、電極等のエッチング形成時に触れるエッチング液に対して適度の耐溶解性を有し、上記電極等の材料よりも優れたエッチング耐性をそなえる。また、本発明の酸化物半導体ターゲットは、光照射に対する耐性に優れ、製造工程上生じやすいゲート電圧(Vg)−ドレイン電流(Id)特性(以下、「Vg−Id特性」と略記することがある。)の低下も抑制される。例えば、本発明によれば、光照射後のドレイン電流の発生閾値電圧がマイナス側へシフトすることを抑制し、プラス側へのシフトも小さい範囲に抑制することができる。
【0026】
上記のような効果が奏される理由については必ずしも明確ではないが、以下のように推測される。すなわち、本発明の酸化物半導体ターゲットは、主成分として、酸化亜鉛及び酸化錫からなる酸化物焼結体である亜鉛錫複合酸化物(ZTO)を含んでいる。ZTOは、エッチング耐性の高い酸化錫を含むため、酸化物半導体膜とした場合に、IGZOに比べて高いエッチング耐性を示す。このため、例えばZTOからなるチャネル層上に金属からなる導電膜を形成した後、導電膜のエッチングによりソース電極やドレイン電極をパターン形成する場合、導電膜のみがエッチングされ、チャネル層はエッチングされないという選択エッチング性を確保することができる。
【0027】
また、IGZOでは例えば紫外光や紫〜緑の色相の可視光を吸収してキャリアが増大する傾向がある。この光応答性により、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフトやリーク電流の増加が起こり、スイッチング特性が変化してしまう場合がある。例えば、液晶ディスプレイの製造工程において、液晶分子の配向を予め整える液晶配向膜の製造工程では、強い紫外光により配向膜を形成するが、この際に薄膜トランジスタの特性は大きく劣化する。一方、既述のように、ZTOでも同様のスイッチング特性の変化が起こることが知られているが、本発明では、更にアルミニウムを含め、その含有比を少なすぎず多すぎない所定の範囲に調節することで、アルミニウムのキャリア制御効果が十分に発揮され、光照射による劣化の程度が効果的に軽減される。特に、薄膜トランジスタの制御上補正が困難なドレイン電流の発生閾値電圧のマイナス側へのシフトを効果的に抑制し、プラス側へのシフトも小さい範囲に抑制することができる。そして、そのシフトの範囲を、ゼロから+2.0Vまで(0V以上+2.0V以下)の範囲に、好ましくはゼロから+1.5Vまで(0V以上+1.5V以下)の範囲に制御することができる。
【0028】
これにより、上記のようにエッチング耐性を保持しつつ、光照射に対する耐性が向上し、良好なスイッチング特性を保持することができる。
【0029】
ここで、「スイッチング特性」とは、例えば、ゲート電極にかけるバイアス(Vg)と、該バイアスを変化させたときのドレイン電極に流れる電流値(Id)との関係を示すVg−Id特性のことをいう。
【0030】
本発明の酸化物半導体ターゲットにおける酸化物焼結体は、酸化亜鉛及び酸化錫を合計量で、酸化物焼結体の全量に対する質量比で50質量%以上含むものでもよい。ここで、「酸化亜鉛及び酸化錫が合計量で50質量%以上」であることは、酸化物焼結体中に酸化亜鉛及び酸化錫が主成分として含有されていることを指す。亜鉛、錫、及び酸素で構成されるZTOを主成分として含むことで、IGZOに比べて、エッチング耐性が格段に向上する。
【0031】
本発明における酸化物焼結体は、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)の合計量に対する亜鉛の比率(Zn/(Zn+Sn))が、原子比率で、0.52を超え0.8以下であることが好ましい。この比率をxで表すとき、x値が0.52を超える範囲であることで、エッチング液に対する耐性が強くなり過ぎず、チャネル層を所望のパターンに形成するときのエッチング性がより良好になる。また、x値が0.8以下であることで、キャリアの移動度を良好に維持することができる。x値を0.52を超え0.8以下の範囲とすることで、エッチングのしやすさとキャリア移動度とのバランスが良好になる。x値のより好ましい範囲は、0.59〜0.70である。
【0032】
酸化物焼結体が、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化錫(SnO)を主成分として含むものである場合、これらの主成分は(ZnO)(SnO1−xで表され、ZnOとSnOとの比率を表すx値が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0033】
本発明の酸化物半導体ターゲットを構成する酸化物焼結体は、微量元素としてアルミニウム(Al)を、酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.005質量%〜0.2質量%の範囲で含有している。アルミニウムを少なすぎず多すぎない所定の範囲で含有していることで、キャリアの制御が行なえ、結果、酸化物半導体膜とした場合に、紫外光又は可視光に曝された場合の劣化が防止される。これにより、光に曝されることによるVg−Id特性の変化が小さく抑えられる。
【0034】
アルミニウムの含有比が0.005質量%未満であると、酸化物半導体膜とした場合に、光照射に対する耐性の向上効果が得られず、Vg−Id特性を安定的に維持することができない。また、アルミニウム含有比が0.2質量%を超えると、酸化物半導体膜とした場合に、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフトが大きくなる傾向がある。このシフトが大きくなり過ぎると、補正回路を用いても薄膜トランジスタのVg−Id特性を制御することが困難になる場合がある。
【0035】
アルミニウムの酸化物焼結体中における好ましい含有量は、酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.008質量%〜0.1質量%であり、更に好ましくは、前記シフトの抑制が更に安定化する点で、0.008質量%〜0.05質量%である。
【0036】
また、本発明の酸化物半導体ターゲットを構成する酸化物焼結体は、亜鉛、錫、酸素、及びアルミニウムを除く他の微量元素を更に含んでいてもよい。この微量元素としては、例えば珪素が挙げられる。珪素の他には、例えば、アルミニウムと同じ傾向の効果をもたらす可能性があると考えられるガリウム(Ga)、インジウム(In)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、ニオビウム(Nb)、クロミウム(Cr)、硼素(B)、バナジウム(V)、鉄(Fe)や、珪素と同じ傾向の効果をもたらす可能性があると考えられるゲルマニウム(Ge)、鉛(Pb)、砒素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)を挙げることができる。また、上述したFe、Pb、Sbに加え、炭素(C)、硫黄(S)、燐(P)、窒素(N)、水素(H)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)などは、原料や製造工程に由来して不可避的に混入する可能性がある。亜鉛、錫、酸素、及びアルミニウム以外の他元素(珪素を含む)は、酸化物焼結体の全質量に対して0.03質量%未満の範囲の含有量に抑制することが好ましく、更に好ましくはアルミニウムの含有量を超えない範囲の含有量に抑制することである。
【0037】
特に、珪素は、焼結性を向上し、酸化物焼結体の焼結密度(相対密度)を高めるために有効であるが、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフトに影響すると考えられる。そのため、珪素の含有量は、酸化物焼結体の全質量に対する含有比で0.03質量%未満の範囲が好ましく、アルミニウムの含有量を超えない範囲の含有量が更に好ましい。アルミニウムの含有量を越えない範囲の含有量で珪素を含有することで、酸化物半導体膜とした場合に、アルミニウムの含有量が少ない場合の光照射時のドレイン電流の発生閾値電圧のシフトが大きくなる傾向を緩和することができる。
【0038】
なお、珪素の含有量が多いほど焼結性の向上には好ましい。しかし、珪素の含有比が0.03質量%以上になると、その理由については必ずしも明確ではないが、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフトが一転して大きくなる傾向がある。また、図11を引用して後述するように、アルミニウムの含有比が一定であっても成膜時の酸素添加条件によってはドレイン電流の発生閾値電圧のシフト量が変化する。よって、アルミニウム以外の他元素(珪素を含む)の含有比を0.03質量%未満に抑えることにより、成膜条件の調節を容易化し、成膜条件のバラツキの影響を受け難くして、実用性を高めることが好ましい。特に、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフト値の安定性を重視する場合には、珪素あるいはアルミニウム以外の微量元素(珪素を含む)の酸化物焼結体の全質量に対する含有比を0.02質量%以下とすることが好ましく、更に好ましくは0.01質量%以下とすることである。
【0039】
また、半導体の技術分野ではデバイス中に多くの金属元素または半金属原子が含まれることは、いわゆるコンタミネーションによる予期しないリスクを招く要因として嫌われる。しかし、珪素の含有量、あるいはアルミニウム以外の微量元素(珪素を含む)の含有量が、含有されるアルミニウム量以下であることで、コンタミネーションによるリスクを低減できる。中でも、光照射に対する耐性の向上とコンタミネーション回避の点で、アルミニウム量が0.005質量%〜0.2質量%(50ppm〜2000ppm)であって、かつ珪素の量が0.001質量%〜0.02質量%(10ppm〜200ppm)の範囲である場合が好ましい。
【0040】
酸化物半導体ターゲットにおいて、含有されるアルミニウム及び珪素の合計の含有量、あるいは含有されるアルミニウム及びアルミニウム以外の微量元素(珪素を含む)の合計の含有量としては、酸化物焼結体全質量に対する含有比で、ドレイン電流の発生閾値電圧のシフトが安定的に好ましい範囲(0以上+1.5V以下)に抑えられる観点から、0.1質量%以下であることが好ましく、発生閾値電圧のシフトが更に好ましい範囲(0以上+1.0V以下)に抑えられる観点から、0.02質量%〜0.1質量%の範囲が更に好ましい。
【0041】
本発明の酸化物半導体ターゲットの酸素を除く各構成元素の含有量は、通常の化学分析法、具体的には誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により分析することによって求めることが可能である。また、酸素量については、残余(balance)となる。
【0042】
本発明の酸化物半導体ターゲットを用いて成膜された酸化物半導体膜をチャネル層に採用した場合の薄膜トランジスタ特性の光照射に対する耐性は、従来技術に係るIGZOのみならず所定量のアルミニウムを含まないZTOの場合に比べ、格段に向上する。そのメカニズムは明らかではないが、アルミニウムをはじめとする微量元素が光照射により発生した過剰のキャリアを抑制する効果があるものと推測される。
【0043】
本発明の酸化物半導体ターゲットは、例えば、出発原料として、アルミニウムの含有量や、珪素を含む他元素の含有量の異なる数種の酸化亜鉛(ZnO)の粉末と数種の酸化スズ(IV)(SnO)の粉末とを適宜組み合わせて混合した後、成形、焼結することにより製造することができる。酸化物半導体ターゲットの焼結密度(相対密度)は、取扱いの容易性やスパッタリング法による成膜時の異常放電抑制などを考慮すれば、90%以上が好ましく、更に好ましくは95%以上である。また、酸化物半導体ターゲットの比抵抗ともいう体積抵抗率は、DCマグネトロンスパッタリング法による成膜時の直流放電安定性などを考慮すれば、0.10[Ω・cm]以下が好ましい。
【0044】
<酸化物半導体膜及びその製造方法>
本発明の酸化物半導体膜は、電極等のエッチング加工時に触れるエッチング液に対して適度の耐性を有し、かつ、チャネル層形成時にはエッチング加工性に優れるとともに、光照射に対する耐性をそなえ、製造工程上生じやすいVg−Id特性の低下も抑制されている。これは、既述の通り、所定の酸化物焼結体からなる本発明の酸化物半導体ターゲットを用いて形成された膜であるので、亜鉛、錫、酸素、及び、酸化物焼結体の全質量に対する含有比が0.005質量%〜0.2質量%であるアルミニウムを含む酸化物焼結体の組成と同様の組成を有していると考えられるためである。なお、酸化物半導体膜に含まれるアルミニウムやその他の微量元素について、実際にその含有量を正確に測定することは困難である。
【0045】
本発明の酸化物半導体膜は、上記のような所定の酸化物半導体を用いてなる膜を形成できる方法であれば、いずれの方法で製造されてもよい。中でも、好ましくは、既述の本発明の酸化物半導体ターゲットを用いて、スパッタリング法により酸化物半導体膜を成膜する工程を設けて構成された方法(本発明の酸化物半導体膜の製造方法)により製造される。具体的には、酸化物半導体膜は、スパッタリング装置に酸化物半導体ターゲットを取り付け、スパッタリング法により基板上に成膜することにより製造することができる。このとき、酸化物半導体ターゲットをバッキングプレートに接合して成膜することができる。
【0046】
上述のように、所定の酸化物焼結体からなる本発明の酸化物半導体ターゲットを用いて酸化物半導体膜を成膜することにより、酸化物半導体ターゲットと同じ主成分からなり、かつ酸化物半導体ターゲットと同じ微量元素を含むと考えられる酸化物半導体膜を製造することができる。
【0047】
酸化物半導体膜の他の製造方法として、亜鉛、錫、及び酸素以外の、アルミニウムをはじめとする微量元素を含まない酸化物半導体膜を成膜した後、アルミニウムその他の微量元素の供給源となるターゲット材を用いてスパッタリングにより酸化物半導体膜の表面に微量含有元素を所定量供給、拡散させることによっても製造することができる。
【0048】
本発明の酸化物半導体膜の製造方法について、図1に示す(a)工程〜(c)工程を参照して具体的に説明する。
【0049】
図1に示す(a)工程において、支持基板10の上にゲート電極11とゲート絶縁膜12を形成する。次いで、そのゲート絶縁膜12の上に、図1に示す(b)工程において、既述の本発明の酸化物半導体ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング法によりZTO膜を形成し、引き続いて、レジストパターンをマスクとして設け、シュウ酸系エッチング液や塩酸系エッチング液などを用いたウェットエッチング法により、ZTO膜がエッチング加工されたチャネル層(亜鉛錫複合酸化物半導体膜(ZTO膜))13を形成する。この後は、図1に示す(c)工程において、ソース・ドレイン電極14を形成する。
【0050】
本発明の酸化物半導体ターゲットは、その焼結密度や体積抵抗率などにも依存するが、DCバイアスやRFバイアスによるスパッタリング法により好適にZTO膜を形成することができる。図10AはRFマグネトロンスパッタリング装置の概略構成図であり、図10BはDCマグネトロンスパッタ装置の概略構成図である。なお、図10A及び図10Bにおいて、符号1は酸化物半導体ターゲット(ZTOターゲット)、符号2はカソード電極(ターゲット裏板)、符号3は対向電極(サンプルホルダ兼用)、符号4はマッチングボックス、符号5はRF電源、符号6はマスフローコントローラ、符号7はクライオポンプまたは分子ターボポンプ、符号8はドライポンプ又はロータリーポンプ、符号9はマグネット(マグネトロンスパッタ用)、符号10は直流電源を示す。
【0051】
また、本発明の酸化物半導体膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用いて例えば下記の条件でのスパッタリング法により形成されてもよい。
<スパッタ条件>
・スパッタリングガス:アルゴン(Ar)ガス、酸素ガス、又はこれらの混合ガス
・圧力:0.1Pa〜1.0Pa
・RFまたはDC電力密度:0.5W/cm〜10W/cm
・電極間距離:40mm〜100mm
【0052】
形成されるチャネル層13(亜鉛錫複合酸化物半導体膜(ZTO膜))の厚みは、適用するデバイスによっても異なるが、5nm〜75nm程度が好ましい。なお、成膜後に250℃〜300℃程度でアニール処理することにより、TFTのオン特性及び信頼性を向上させることができる。
【0053】
<薄膜トランジスタ>
本発明の薄膜トランジスタは、酸化物半導体膜を用いて形成されたチャネル層を備え、光未照射時におけるドレイン電流の発生閾値電圧から光照射後におけるドレイン電流の発生閾値電圧への変化幅が0以上+2.0V以下として構成されたものである。
【0054】
本発明の薄膜トランジスタは、チャネル層が既述の本発明の酸化物半導体ターゲットを用いて形成されているので、エッチング耐性に優れるとともに、製造工程及び使用時に曝される光の影響によるゲート電圧(Vg)−ドレイン電流(Id)特性の劣化が抑えられ、長期に亘り良好なVg−Id特性を保持、発現させることができる。
本発明においては、既述のように、発生閾値電圧への変化幅としては、0V以上+1.5V以下であることが好ましく、0V以上+1.0V以下であることがより好ましい。
【0055】
本発明の薄膜トランジスタは、例えば下記の方法で製造されてもよい。
まず、図1の(a)工程に示すように支持基板10を用意し、この支持基板10上に蒸着法又はスパッタリング法等により、金属薄膜(例えばアルミニウム(Al)とモリブデン(Mo)とからなる積層膜(Al/Mo積層膜)等)を形成する。支持基板としては、例えば、ガラス基板、石英基板、サファイア基板、樹脂基板、又はフィルム等が挙げられる。
【0056】
続いて、形成された金属薄膜は、リフトオフプロセス又はエッチングプロセスによりパターニングすることで、ゲート電極11を形成する。Al/Mo積層膜とした場合、Al膜の厚さは例えば250nmが、Mo膜の厚さは例えば50nmが好適である。次に、ゲート電極の上に、スパッタリング法、化学気相成長法、又は蒸着法等により、例えば厚さ100nm程度の酸化膜(例えば酸化珪素膜)又は窒化膜(例えば窒化珪素膜)等から形成されるゲート絶縁膜12を堆積する。
【0057】
続いて、既述したように、ゲート絶縁膜12の上に、既述の本発明の酸化物半導体ターゲット(ZTOターゲット)を用いたRFマグネトロンスパッタリング法により、図1の(b)工程に示すようにZTO膜を形成した後、このZTO膜を加工してチャネル層13とする。
【0058】
次に、図1の(c)工程に示すように、ソース・ドレイン電極14を形成する。続いて、図2に示す(a)工程において、チャネル層13及びソース・ドレイン電極14を覆うパッシベーション膜15を形成し、引き続いて、レジストパターンをマスクとしてパッシベーション膜15を加工し、ソース・ドレイン電極14に達する接続孔15aを形成する。
【0059】
次いで、図2に示す(b)工程において、接続孔15aの内部を含むパッシベーション膜15の上に導電体膜を形成し、レジストパターンをマスクとして配線16に加工する。この導電体膜は、例えば、インジウム錫酸化(Indium Tin Oxide:ITO)膜や、インジウム亜鉛酸化(Indium Zinc Oxide:IZO)膜、アルミニウム亜鉛酸化(Aluminium Zinc Oxide:AZO)膜、又はガリウム亜鉛酸化(Gallium Zinc Oxide:GZO)膜等の透明導電膜でもよく、また例えばアルミニウム(Al)膜、モリブデン(Mo)膜やその合金膜又はチタン(Ti)と金(Au)とからなる積層膜(Ti/Au積層膜)等の金属膜でもよい。
【0060】
上述したような製造工程を経て、ボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタが完成する。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
−1−1.ターゲット材の作製−
AlやSiの微量元素を積極的に添加していない高純度の酸化亜鉛(ZnO)の粉末(ZnO粉末)と、酸化スズ(IV)(SnO)の粉末(SnO粉末)とを用意した。このZnO粉末及びSnO粉末を、ZnOとSnOとを用いて酸化物焼結体〔(ZnO)(SnO1−x〕としたときの、ZnとSnとの比が、x=0.33、0.52、0.59、又は0.68の比となるように、混合した後、成形、焼結し、直径:50.8mm、厚さ:5.0mmの4種のZTOのターゲット材(No.1、2、3及び4)を得た。
【0063】
対比試料として、InGaZnOの化学量論組成を有する、直径:50.8mm、厚さ:5.0mmのIGZOのターゲット材(No.5)、同サイズの純モリブデンのターゲット材(No.6)、及び同サイズの純アルミニウムのターゲット材(No.7)を用意した。
【0064】
−1−2.薄膜試料の作製−
上記のようにして用意した7種のターゲット材(No.1〜7)をバッキングプレートに接合し、マグネトロンスパッタリング装置(キヤノンアネルバ株式会社製、E−200S)に取り付けて、ガラス基板上に厚さ500nmの薄膜を成膜することにより、各ターゲット材(No.1〜7)に対応する7種の薄膜試料1〜7を作製した。
【0065】
−1−3.評価1−
A.透明導電膜用エッチング液による加工性
上記の薄膜試料1〜4について、市販のシュウ酸系ITOエッチング液(関東化学株式会社製)に所定の時間浸漬した後の膜厚を測定し、浸漬前後の膜厚変化からエッチングレートを求めた。結果を下記表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、4種のZTOの薄膜試料は、いずれもエッチングレートが10nm/分未満と低いものの、断面形状は良好で、上記のエッチング液による適度な加工性を示した。また、エッチングレートが低すぎると生産効率が低下すると考えられることから、x値が0.52を超える薄膜試料3〜4、すなわちターゲット材No.3、No.4がより好適なものと考えられる。なお、上記のエッチング液には代表的なものを使用しているが、ZTO材料が良好にエッチング加工できるエッチング液であれば、他のエッチング液を使用することもできる。
【0068】
B.金属電極用のエッチング液に対する耐性
次に、ZTOの薄膜試料を代表して上記の薄膜試料3を、この対比試料として上記の薄膜試料5〜7を用い、市販のリン酸−硫酸系銅エッチング液(関東化学株式会社製、カタログ記号:Cu−03)に所定の時間浸漬したときの膜の状態を観察し、さらに浸漬後の膜厚を測定して浸漬前後の膜厚変化からエッチングレートを求めた。結果を下記表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示すように、薄膜試料5(IGZO)のエッチングレートと、薄膜試料6(モリブデン)や薄膜試料7(アルミニウム)のエッチングレートとの間に大差はなかった。
これに対して、薄膜試料3(ZTO)のエッチングレートは、0.27nm/分と極めて低く、薄膜試料5では5分で薄膜が完全に消失したのに対し、薄膜試料3では6時間浸漬した後にも膜厚に全く変化が見られなかった。
【0071】
以上に示した通り、本発明に係るZTOのターゲット材で作製した酸化物半導体膜は、従来のIGZO膜などに比べて、金属電極形成用のエッチング液への耐性が格段に優れている。このことから、ZTOをチャネル層に採用した場合、チャネル層上にエッチングストップ膜を設けることなく、所定パターンのゲートやドレイン等の金属電極を、選択的にエッチング加工して設けることができる。
【0072】
(実施例2)
−2−1.ターゲット材の作製−
上記の結果を踏まえ、含有元素が異なることによる光照射に対する耐性を評価するため、電極エッチング液耐性の高いZTOについて、含有元素を変化させたターゲット材を作製した。具体的には、以下の通りである。
【0073】
AlやSiの微量元素を積極的に添加していない高純度の酸化亜鉛(ZnO)の粉末(ZnO粉末)と、酸化スズ(IV)(SnO)の粉末(SnO粉末)と、を用意した。このZnO粉末及びSnO粉末を、ZnOとSnOとを用いて酸化物焼結体〔(ZnO)(SnO1−x〕としたときの、ZnとSnとの比がx=0.60の比となるように混合した後、成形、焼結し、直径:50.8mm、厚さ:5.0mmのZTOのターゲット材(No.8)を得た。
【0074】
続いて、AlやSiなどの微量元素の含有量が異なる数種の酸化亜鉛(ZnO)の粉末(ZnO粉末)及び数種の酸化スズ(IV)(SnO)の粉末(SnO粉末)と、を用意した。そして、これらのZnO粉末及びSnO粉末を適宜組み合わせて、ZnOとSnOとを用いて酸化物焼結体〔(ZnO)(SnO1−x〕としたときの、ZnとSnとの比がx=0.67又は0.70の比となるように、ZnO粉末及びSnO粉末を混合した後、成形、焼結し、直径:50.8mm、厚さ:5.0mmの6種のZTOのターゲット材(No.9〜14)を得た。
【0075】
−2−2.評価2−
A.含有元素の分析
上記のようにして得たターゲット材No.8及びNo.9〜14を用い、それぞれ一部を削って分析用試料とし、誘導結合プラズマ発光分析法により、各ターゲット材に含まれる亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及び微量含まれる元素の含有量を分析した。得られた亜鉛及びスズの分析値を、酸化物焼結体〔(ZnO)(SnO1−x〕におけるZnOとSnOとの比(原子比率)xに換算すると、x値は下記の通りであった。また、得られた微量元素の分析値(質量%;含有量)を下記表3に示す。
・ターゲット材No.8 : x=0.60
・ターゲット材No.9 : x=0.70
・ターゲット材No.10: x=0.70
・ターゲット材No.11: x=0.70
・ターゲット材No.12: x=0.70
・ターゲット材No.13: x=0.67
・ターゲット材No.14: x=0.67
【0076】
【表3】

【0077】
B.Vg−Id特性の閾値変化
上記のターゲット材No.8及びNo.9〜14のほか、対比試料として、InGaZnOの化学量論組成を有する上記のターゲット材No.5を用意し、以下に示すようにして、ターゲット材No.5、No.8、及びNo.9〜14を用いた薄膜トランジスタ試料5、試料8、及び試料9〜14を作製した。
【0078】
図1の(a)工程に示すように、ガラス基板である支持基板10上に例えばスパッタリング法により金属膜を形成し、この金属膜をエッチングプロセスによりパターニングしてゲート電極11とした。そして、このゲート電極の上に例えば化学気相成長法によりゲート絶縁膜12を堆積した。次に、用意した8種のターゲット材(No.5、No.8、及びNo.9〜14)をそれぞれ順次バッキングプレートに接合し、RFマグネトロンスパッタリング装置(キヤノンアネルバ株式会社製、E−200S)に取り付けて、通常の工程により図1の(b)工程に示すように、ゲート絶縁膜12の上に、各ターゲット材(No.5、No.8、及びNo.9〜14)に対応する厚さ300nmのIGZO膜又はZTO膜を成膜した。また、ターゲット材No.12及びNo.14を、DCマグネトロンスパッタリング装置に取り付けてZTO膜を成膜した。
【0079】
続いて、レジストパターンをマスクとして、シュウ酸系エッチング液又は塩酸系エッチング液を用いたウエットエッチング法により、IGZO膜又はZTO膜を加工し、チャネル層13を形成した。次に、図1の(c)工程に示すように、チャネル層13の上に例えばスパッタリング法により導電体膜を形成した後、例えばエッチングプロセスにより導電体膜をパターニングし、ソース・ドレイン電極14を形成した。
【0080】
次に、図2の(a)工程に示すように、チャネル層13及びソース・ドレイン電極14を覆うパッシベーション膜15を形成した。続いて、レジストパターンをマスクとして、パッシベーション膜15を加工することにより、ソース・ドレイン電極14に達する接続孔15aを形成し、図2の(b)工程に示すように、接続孔15aの内部を含むパッシベーション膜15の上にITO(Indium Tin Oxide)膜を形成した。次いで、レジストパターンをマスクとしてITO膜を加工し、配線16を形成した。
【0081】
このようにして、ボトムゲートトップコンタクト型の薄膜トランジスタ試料5、試料8、及び試料9〜14を作製した。ここで作製した薄膜トランジスタの寸法は、ゲート長:100μm、ゲート幅:2.0mmであり、チャネル層の厚さは30nmであった。
【0082】
得られた薄膜トランジスタ試料をプローバーに取り付け、薄膜トランジスタ試料5、試料8、及び試料9〜14のそれぞれについて、電圧−電流特性(Vg−Id特性)を測定した。測定は、ドレイン電圧(Vd)を0.1、1、10Vの3条件とし、ゲート電圧を−50V〜+50Vの範囲で変化させたときのドレイン電流(Id)の変化を測定することにより行なった。そして、横軸を通常の目盛で表したゲート電圧とし、左側の縦軸を常用対数目盛で表したドレイン電流としてグラフを作成し、ゲート電圧を変化させたときにドレイン電流が急激に立ち上がるときのゲート電圧の値をVg−Id特性の閾値(ドレイン電流の発生閾値電圧)とした。
【0083】
ターゲット材No.8及びNo.9〜13で得たZTO膜を備えた薄膜トランジスタ試料8及び試料9〜13のVg−Id特性を、この順に図3A図4A図5A図6A図7A図8Aに示す。また、ターゲット材No.5で得たIGZO膜を備えた薄膜トランジスタ試料5のVg−Id特性を、図9Aに示す。ここでは、いずれの薄膜トランジスタ試料も、概ね良好なVg−Id特性を示した。なお、図中の大きな点によるプロットは、ドレイン電流から換算された移動度(μfe)を参考のため右側の縦軸の目盛を用いてプロットしたものである。
【0084】
次に、各薄膜トランジスタ試料をプローバーから取り外し、ZTO膜又はIGZO膜の成膜面側から紫外光を照射した。紫外光の照射は、中心波長が254nmの水銀灯を用いて下記の条件にて行なった。
<照射条件>
・出力 :20〜30mW/cm
・照射時間:30分、1時間
【0085】
紫外光照射後、薄膜トランジスタ試料を再びプローバーに取り付け、各試料のVg−Id特性を測定した。紫外光照射前後におけるドレイン電流の発生閾値電圧の変化を下記の表4に示す。また、紫外光照射後の薄膜トランジスタ試料8〜13及び試料5のVg−Id特性を、この順に図3B図4B図5B図6B図7B図8B、及び図9Bに示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4、並びに図4B図5B図6B図7Bに示されるように、実施例のターゲット材No.9、10、11、12、及びNo.14(図示せず)では、紫外光照射前後でのドレイン電流の発生閾値電圧の変化がゼロから+1.5Vの好ましい範囲内であり、紫外光に対する耐性に優れていることが分かる。特に、実施例のターゲット材No.10、11、12では、更に好ましいゼロから+1.0Vの範囲内であった。また、珪素を0.030質量%含む含有量が他よりもやや多いZTO膜をチャネル層とした比較例(ターゲット材No.13から得られた薄膜トランジスタ試料13)では、紫外光照射前後でのドレイン電流の発生閾値電圧の変化量(シフト量)は+2.7Vであり、プラス側であったもののやや大きかった。
【0088】
これに対して、チャネル層にIGZO膜を備えた比較例(ターゲット材No.5から得られた薄膜トランジスタ試料5)や、アルミニウム含有量が本発明に規定する範囲(0.005質量%〜0.2質量%)より少ないZTO膜をチャネル層とした比較例(ターゲット材No.8から得られた薄膜トランジスタ試料8)では、紫外光照射前後でのドレイン電流の発生閾値電圧の変化が大きくマイナス側にシフトしていた。
【0089】
また、ターゲット材No.14は、アルミニウムの含有量ではNo.12やNo.13の約1.8倍であり、アルミニウム及び珪素の含有量の合計ではNo.13の約1.4倍である。ZTO中のアルミニウムの含有量が他よりも多いターゲット材No.14で得たZTO膜を備えた薄膜トランジスタ試料14についても、Vg−Id特性の図示は略すが、表4に示すように紫外光照射前後でのドレイン電流の発生閾値電圧の変化がゼロから+1.5Vの好ましい範囲内であり、紫外光に対する耐性に優れていることが分った。
【0090】
この結果に関連し、例えば、アルミニウムの含有量と成膜時のスパッタガス中の酸素添加量の割合(%)と紫外光照射による発生閾値電圧のシフト量(V)との関係について、x値が0.70のZTOを用いて調べた結果を図11に示す。この結果から、ZTO中のアルミニウムの含有量の増大は、マグネトロンスパッタリング法による成膜時の酸素添加条件によっては発生閾値電圧のシフト量の増大を招く傾向があることが分る。従って、成膜設備や成膜時の酸素添加条件などによってはVg−Id特性が変動しやすい可能性があると考えられる。しかし、酸化物半導体成膜に用いられるスパッタガス中の酸素添加量の割合は、一般的に1%〜15%の範囲であるため、この範囲内において発生閾値電圧のシフト量がゼロ以上+2.0V以下に、好ましくはゼロ以上+1.5V以下に抑制できる条件が存在すれば、十分に利用は可能である。
【0091】
なお、本実施例では、紫外光の照射に対する耐性について述べたが、Vg−Id特性の劣化の原因として考えられている機構に鑑みれば、ZTOのバンドギャップ(概ね3.0〜3.6eV)に相当する光子エネルギーに対応する波長の可視光の照射に対しても、本発明に係る酸化物半導体膜では、紫外光に対するのと同様の耐性を有するものであることが示唆される。
【0092】
日本出願2013−084253の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11