(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せ持つ熱伝導シートを提供することである。また、本発明の別の目的は、高い熱伝導性と高い柔軟性を併せ持つ熱伝導シートを生産性、コスト面及びエネルギー効率の点で有利に、かつ確実に得られる製造方法を提供することである。さらに本発明の別の目的は、高い放熱能力を持つ放熱装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、熱拡散性、熱放散性に優れたヒートスプレッダ、ヒートシンク、放熱性きょう体、放熱性電子基板又は電気基板、放熱用配管又は加温用配管、放熱性発光体、半導体装置、電子機器、もしくは発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、(1)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含む熱伝導シートであって、
前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、熱伝導シートの表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下であり、70℃におけるアスカーC硬度が60以下であることを特徴とする熱伝導シートに関する。
【0011】
また、本発明は、(2)前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値が、熱伝導シート厚の10%以上であることを特徴とする前記(1)記載の熱伝導シートに関する。
【0012】
また、本発明は、(3)前記黒鉛粒子(A)の分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2以下の粒子が50質量%未満であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の熱伝導シートに関する。
【0013】
また、本発明は、(4)前記黒鉛粒子(A)の含有量が、組成物全体積の10体積%〜50体積%であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0014】
また、本発明は、(5)前記黒鉛粒子(A)が鱗片状であり、かつその面方向が熱伝導シートの厚み方向及び表裏平面における1方向に配向していることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0015】
また、本発明は、(6)前記有機高分子化合物(B)が、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0016】
また、本発明は、(7)前記有機高分子化合物(B)が、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含み、その共重合組成中の50質量%以上である前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0017】
また、本発明は、(8)前記組成物が、難燃剤を5体積%〜50体積%の範囲で含有することを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0018】
また、本発明は、(9)前記難燃剤が、りん酸エステル系化合物であり、かつ凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物であることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0019】
また、本発明は、(10)表面と裏面がそれぞれ剥離力の異なる保護フィルムでカバーされている前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0020】
また、本発明は、(11)前記有機高分子化合物(B)が、3次元的な架橋構造を有することを特徴とする前記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0021】
また、本発明は、(12)片面あるいは両面に絶縁性のフィルムを付設したことを特徴とする前記(1)〜(11)のいずれか一つに記載の熱伝導シートに関する。
【0022】
また、本発明は、(13)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを積層して成形体を得、
前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度でスライスすることを特徴とする熱伝導シートの製造方法に関する。
【0023】
また、本発明は、(14)鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製し、
前記一次シートを黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回して成形体を得、
前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度でスライスすることを特徴とする熱伝導シートの製造方法に関する。
【0024】
また、本発明は、(15)前記成形体を、有機高分子化合物(B)のTg+30℃〜Tg−40℃の温度範囲でスライスすることを特徴とする前記(13)又は(14)記載の熱伝導シートの製造方法に関する。
【0025】
また、本発明は、(16)前記成形体のスライスは、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部と、を有するスライス部材を用いて行い、
前記刃部は、前記熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能である前記(13)〜(15)のいずれか一つに記載の熱伝導シートの製造方法に関する。
【0026】
また、本発明は、(17)前記平滑な盤面及び/又は前記刃部を温度−80℃〜5℃に冷却してスライスを行うことを特徴とする前記(16)に記載の熱伝導シートの製造方法。
【0027】
また、本発明は、(18)前記成形体のスライスは、黒鉛粒子(A)の分級により求めた平均粒子径の2倍以下の厚みでスライスする前記(13)〜(17)のいずれか一つに記載の熱伝導シートの製造方法に関する。
【0028】
また、本発明は、(19)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートを発熱体と放熱体の間に介在させることを特徴とする放熱装置に関する。
【0029】
また、本発明は、(20)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、熱伝導率20W/mK以上の素材からなる板状又は板状に近い形状の成形体に貼付されたヒートスプレッダに関する。
【0030】
また、本発明は、(21)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、熱伝導率20W/mK以上の素材からなる塊状又はフィンを有する塊状の成形体に貼付されたヒートシンクに関する。
【0031】
また、本発明は、(22)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、熱伝導率20W/mK以上の素材からなる箱状物内面に貼付された放熱性きょう体に関する。
【0032】
また、本発明は、(23)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、電子基板又は電気基板の絶縁部分に貼付された放熱性電子基板又は電気基板に関する。
【0033】
また、本発明は、(24)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、放熱用配管同士又は加温用配管同士の接合部及び/又は被冷却物又は被加温物に取り付ける接合部に用いられた放熱用配管又は加温用配管に関する。
【0034】
また、本発明は、(25)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートが、電灯、蛍光灯又はLEDの背面部に貼付された放熱性発光体に関する。
【0035】
また、本発明は、(26)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートを有し、該熱伝導シートが半導体から生じる発熱を放散させることを特徴とする半導体装置に関する。
【0036】
また、本発明は、(27)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートを有し、該熱伝導シートが電子部品から生じる発熱を放散させることを特徴とする電子機器に関する。
【0037】
また、本発明は、(28)前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の熱伝導シート又は前記(13)〜(18)のいずれか一つに記載の製造方法により得られた熱伝導シートを有し、該熱伝導シートが発光素子から生じる発熱を放散させることを特徴とする発光装置に関する。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の熱伝導シートは、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を含んでなる。
【0039】
本発明における黒鉛粒子(A)の形状は、鱗片状、楕球状又は棒状であり、なかでも鱗片状が好ましい。前記黒鉛粒子(A)の形状が、球状や不定形の場合は導電性に劣り、繊維状の場合はシートに成形するのが困難で生産性に劣る傾向がある。
【0040】
結晶中の6員環面は鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向しており、X線回折測定により確認することができる。具体的には、以下の方法で確認する。まず黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート又はフィルムの面方向に対し実質的に平行に配向した測定サンプルシートを作製する。サンプルシート調製の具体的な方法としては、10体積%以上の黒鉛粒子と樹脂との混合物をシート化する。ここで用いる「樹脂」とは有機高分子化合物(B)に相当する樹脂を使用できるが、X線回折の妨げになるピークが現れない材料、例えば非晶質樹脂であれば良く、また形状が作れれば樹脂でなくとも用いることができる。このシートの元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートを積層する。この積層体を更に1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返す。この操作により調製したサンプルシート中では、黒鉛粒子の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向がシート又はフィルムの面方向に対し実質的に平行に配向した状態になる。上記のように調製した測定用サンプルシートの表面に対しX線回折測定を行うと、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる。
【0041】
このことより本発明において、「結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子、有機高分子化合物等の熱伝導シートの組成物をシート化したものの表面に対しX線回折測定を行い、2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さを2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0042】
本発明で用いられる黒鉛粒子(A)としては、例えば、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、炭素繊維フレーク等の鱗片状、楕球状又は棒状の黒鉛粒子を用いることができる。
【0043】
特に、有機高分子化合物(B)と混合した際に鱗片状の黒鉛粒子になり易いものが好ましい。具体的には鱗片黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末の鱗片状黒鉛粒子が配向させ易く、粒子間接触も保ち易く、高い熱伝導性を得易いためより好ましい。
【0044】
黒鉛粒子(A)の長径の平均値は特に制限されないが、熱伝導性の向上の観点で、好ましくは0.05〜2mm、より好ましくは0.1〜1.0mm、特に好ましくは0.2〜0.5mmである。
【0045】
黒鉛粒子(A)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積の10体積%〜50体積%であることが好ましく、30体積%〜45体積%であることがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の含有量が10体積%未満である場合は、熱伝導性が低下する傾向があり、50体積%を超える場合は、充分な柔軟性や密着性が得難くなる傾向がある。なお、本明細書における黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)は次式により求めた値である。
【0046】
黒鉛粒子(A)の含有量(体積%)=
(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd)+・・・)×100
Aw:黒鉛粒子(A)の質量組成(重量%)
Bw:高分子化合物(B)の質量組成(重量%)
Cw:その他の任意成分(C)の質量組成(重量%)
Ad:黒鉛粒子(A)の比重(本発明においてAdは2.25で計算する。)
Bd:高分子化合物(B)の比重
Cd:その他の任意成分(C)の比重
本発明におれる有機高分子化合物(B)は、Tg(ガラス転移温度)が50℃以下、好ましくは−70〜20℃、より好ましくは−60〜0℃である。前記Tgが50℃を超える場合は、柔軟性に劣り、発熱体及び放熱体に対する密着性が不良となる傾向がある。
【0047】
本発明で用いられる有機高分子化合物(B)としては、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等を主要な原料成分としたポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物(所謂アクリルゴム)、ポリジメチルシロキサン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂シリコーン樹脂)、ポリイソプレン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂イソプレンゴム、天然ゴム)、クロロプレンを主要な原料成分とした高分子化合物(所謂クロロプレンゴム)、ポリブタジエン構造を主構造に有する高分子化合物(所謂ブタジエンゴム)等、一般に「ゴム」と総称される柔軟な有機高分子化合物が挙げられる。これらの中でも、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物、特にアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルのいずれか又は両方を共重合成分として含み、その共重合組成中の50質量%以上であるポリ(メタ)アクリル酸エステル系高分子化合物が、高い柔軟性を得易く、化学的安定性、加工性に優れ、粘着性をコントロールし易く、かつ比較的廉価であるため好ましい。また、柔軟性を損なわない範囲で架橋構造を含ませると長期間の密着保持性と膜強度の点で好ましい。例えば、-OH基を有するポリマに複数のイソシアネート基を持つ化合物を反応させることで架橋構造を含ませることができる。
【0048】
有機高分子化合物(B)の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは10体積%〜70体積%、より好ましくは20体積%〜50体積%である。
【0049】
また、本発明の熱伝導シートは、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては特に限定されず、例えば、赤りん系難燃剤やりん酸エステル系難燃剤を含有することができる。
【0050】
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性や安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチになっているもの等が挙げられ、具体的には、例えば、燐化学工業株式会社製、商品名:ノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット等が挙げられる。
【0051】
りん酸エステル系難燃剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t-ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル;等が挙げられる。これらは一種類を用いても、二種類以上を併用してもよい。また、難燃剤がりん酸エステル系化合物であり、かつ凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物であると、難燃性と柔軟性やタック性を両立するのが容易となり、好ましい。凝固点が15℃以下、沸点が120℃以上の液状物のリン酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0052】
難燃剤の含有量は特に制限されないが、組成物全体積に対して好ましくは5体積%〜50体積%、より好ましくは10体積%〜40体積%である。難燃剤の含有量が前記範囲であれば、充分な難燃性が発現され、かつ柔軟性の点で有利となるので好ましい。前記難燃剤の含有量が5体積%未満である場合は、充分な難燃性が得難く、50体積%を超える場合は、シート強度が低下する傾向がある。
【0053】
また、本発明の熱伝導シートは、さらに必要に応じてウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物等の接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ向上剤;シリコーン油等の消泡剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;等を適宜添加することができる。
【0054】
本発明の熱伝導シートは、前記黒鉛粒子(A)の鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向が熱伝導シートの厚み方向に配向しており、この配向がないと、充分な熱伝導性が得られない。また、前記黒鉛粒子(A)が鱗片状であり、かつその面方向が熱伝導シートの厚み方向及び表裏平面における1方向に配向していると表裏平面において熱伝導率と熱膨張特性に異方性を持つので、シートの側方向への遮熱性/放熱性のコントロールや熱膨張を考慮した余裕空間の設計がしやすい特徴を付与できるため、好ましい。
【0055】
また、本発明の熱伝導シートは、熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下、好ましくは35%〜75%、より好ましくは40%〜70%である。前記熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%未満である場合は、充分な熱伝導性を得ることが出来ない傾向がある。また、80%を超える場合は、熱伝導シートの柔軟性や密着性が損なわれる傾向がある。
【0056】
「熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積が25%以上80%以下」とするには、前記の好ましい黒鉛粒子(A)を組成物全体の10体積%〜50体積%となるように配合し、後述のシート製造法で作製すればよい。
【0057】
本発明において「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、まず熱伝導シートを正八角形に切った各辺の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、いずれか1辺の断面に関し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が60度〜90度の範囲になる状態をいう。また、「表裏平面における1方向に配向」とは、熱伝導シートの表面又は表面に平行な断面をSEMを用いて観察し、長軸方向がおおむね1方向に整列しており、任意の50個の黒鉛粒子について長軸方向の向きのばらつき角度(90度以上の場合は補角を採用する)を測定し、その平均値が30度以内の範囲になる状態をいう。
【0058】
また、本発明において「熱伝導シート表面に露出している黒鉛粒子(A)の面積」とは、少なくとも3個以上の黒鉛粒子を画面に納められる倍率で表面の写真を撮影し、黒鉛粒子数が総計30個分以上となる枚数の写真から、見えている黒鉛粒子の面積と、シートの面積との比の平均値を求めて割り出したものである。
【0059】
また、本発明の熱伝導シートは、70℃におけるアスカーC硬度が60以下、好ましくは40以下である。前記70℃におけるアスカーC硬度が60を超える場合は、発熱体である半導体パッケージやディスプレイ等の電子基材に充分に密着できないため、熱をうまく伝達できなくなったり、熱応力の緩和が不充分になったりする傾向がある。
【0060】
熱伝導シートの70℃におけるアスカーC硬度が60以下とするには、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)を組成物全体積に対して10体積%〜70体積%とし、さらに好ましくは前記りん酸エステル系難燃剤を組成物全体積に対して5体積%〜50体積%含ませることで得られる。
【0061】
なお、本発明において「70℃におけるアスカーC硬度」とは、厚み5mm以上の熱伝導シートを、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱し、アスカー硬度計C型で測定した値である。
【0062】
本発明の熱伝導シートは、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値が、熱伝導シート厚の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値が、熱伝導シート厚の10%未満である場合は熱伝導性が低下する傾向がある。熱伝導シート厚に対する前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の上限は、特に制限されないが、黒鉛粒子(A)が熱伝導シートから飛び出さないようにするためには、熱伝導シート厚の2/√3程度が好ましい。
【0063】
なお、本発明において「長径の平均値」とは、熱伝導シートの厚み方向の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めた結果をいう。
【0064】
本発明の熱伝導シートは、前記黒鉛粒子(A)の分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2以下の粒子が50質量%未満であることが好ましく、20質量%未満であるのがより好ましい。前記黒鉛粒子(A)の分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2以下の粒子が50質量%以上であると熱伝導率が低下する傾向がある。
【0065】
なお、本発明において前記黒鉛粒子(A)の粒子径分布を求めるためには、まず有機溶剤又はアルカリ等の溶液に熱伝導シートを浸し、有機高分子化合物(B)を主体とする有機物を溶解させる。この溶液をポア径4μmのろ紙でろ過し、残った黒鉛粒子を前記溶液でよく洗浄した後、前記溶液が水溶液の場合は更に水で良く洗浄する。真空乾燥機で溶剤や水を乾燥した後、ふるいにより分級し、累積重量分布曲線を求める。この曲線から膜厚の1/2以下の粒子の割合を求めることができる。
【0066】
また、本発明の熱伝導シートの片面又は両面が粘着性を有している場合は、粘着面を保護するために、使用前の熱伝導シートの粘着面は保護フィルムで覆っておいてもよい。保護フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテンフィルム等の樹脂、コート紙、コート布、アルミ等の金属が使用できる。これらの保護フィルムは2種以上組み合わせて多層フィルムとしてもよく、保護フィルムの表面がシリコーン系、シリカ系等の離型剤などで処理されたものが好ましく用いられる。また、表面と裏面がそれぞれ剥離力の異なる保護フィルムでカバーされていると、最初に剥離力の弱い片面を剥がして被着物に貼ることで、もう一方の面の保護フィルムの脱落を抑制できるので、作業性に優れ、好ましい。
【0067】
また、片面あるいは両面に絶縁性のフィルムを付設すると電気絶縁性が必要な部分にも使用することができるので好ましい。熱伝導シートが保護フィルムと絶縁性のフィルムを両方有する場合は、熱伝導シートを保護する観点から保護フィルムが最外層とするのが好ましい。
【0068】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、一次シートを作製する工程、前記一次シートを積層又は捲回して成形体を得る工程、前記成形体をスライスする工程とを含む。
【0069】
本発明の熱伝導シートの製造方法は、まず、鱗片状、楕球状又は棒状であり、結晶中の6員環面が鱗片の面方向、楕球の長軸方向又は棒の長軸方向に配向している黒鉛粒子(A)と、Tgが50℃以下である有機高分子化合物(B)とを含有する組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製する。
【0070】
前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物は、両者を混合することにより得られるが、混合方法は特に制限されない。例えば、前記有機高分子化合物(B)を溶剤に溶かしておいて、そこに前記黒鉛粒子(A)及び他の成分を加え、攪拌した後に乾燥する方法又はロール混練、ニーダーによる混合、ブラベンダによる混合、押出機による混合等を用いることができる。
【0071】
次いで前記組成物を、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下の厚みに圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工し、主たる面に関してほぼ平行な方向に黒鉛粒子(A)が配向した一次シートを作製する。
【0072】
前記組成物を成形する際の厚みは、前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍以下、好ましくは2倍〜0.2倍とする。前記厚みが前記黒鉛粒子(A)の長径の平均値の20倍を超える場合は、黒鉛粒子(A)の配向が不充分になり、結果として、最終的に得られる熱伝導シートの熱伝導性が悪くなる傾向がある。
【0073】
前記組成物を、圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、黒鉛粒子(A)を主たる面に関してほぼ平行な方向に配向した一次シートを作製するが、圧延成形又はプレス成形が確実に黒鉛粒子(A)を配向させ易いので好ましい。
【0074】
前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関してほぼ平行な方向に配向した状態とは、前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関して寝ているように配向した状態をいう。シート面内での黒鉛粒子(A)の向きは、前記組成物を成形する際に、組成物の流れる方向を調整することによってコントロールされる。つまり、組成物を圧延ロールに通す方向、組成物を押出す方向、組成物を塗工する方向、組成物をプレスする方向を調整することで、黒鉛粒子(A)の向きがコントロールされる。前記黒鉛粒子(A)は、基本的に異方性を有する粒子であるため、組成物を圧延成形、プレス成形、押出成形又は塗工することにより、通常、黒鉛粒子(A)の向きは揃って配置される。
【0075】
また、一次シートを作製する際、前記黒鉛粒子(A)と有機高分子化合物(B)とを含有する組成物の成形前の形状が塊状物である場合は、塊状物の厚み(d0)に対し、成形後の一次シートの厚み(dp)がdp/d0<0.15になるよう圧延成形、プレス成形するか、押し出し機出口の一次シート断面形状に相当する形状調整によって、一次シートの横幅(W)に対し厚み(dp´)がdp´/W<0.15となるように押し出し成形することが好ましい。dp/d0<0.15又はdp´/W<0.15となるよう成形することにより、前記黒鉛粒子(A)がシートの主たる面に関してほぼ平行な方向に配向させ易くなる。
【0076】
次いで、前記一次シートを積層又は、捲回して成形体を得る。一次シートを積層する方法は特に限定されず、例えば、複数枚の一次シートを積層する方法、一次シートを折り畳む方法などが挙げられる。積層する際は、シート面内での黒鉛粒子(A)の向きを揃えて積層する。積層する際の一次シートの形状は、特に限定されず、例えば矩形状の一次シートを積層した場合は角柱状の成形体が得られ、円形状の一次シートを積層した場合は円柱状の成形体が得られる。
【0077】
また、一次シートを捲回する方法も特に限定されず、前記一次シートを黒鉛粒子(A)の配向方向を軸にして捲回すればよい。捲回の形状は、特に限定されず、例えば円筒形でも角筒形でもよい。
【0078】
一次シートを積層する際の圧力や捲回する際の引っ張り力は、この後の工程の一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度でスライスする都合上、スライス面がつぶれて所要面積を下回らない程度に弱く、かつシート間がうまく接着する程度に強くなるよう調整される。通常はこの調整で積層面又は捲回面間の接着力を充分に得られるが、不足する場合は溶剤又は接着剤等を薄く一次シートに塗布した上で積層又は捲回を行ってもよい。また、積層又は捲回は適宜加熱下に行ってもよい。
【0079】
次いで、前記成形体を一次シート面から出る法線に対し0度〜30度の角度で、好ましくは0度〜15度の角度でスライスして所定の厚さを持った熱伝導シートを得る。前記スライスする角度が30度を越える場合は熱伝導率が低下する傾向がある。前記成形体が積層体である場合は、一次シートの積層方向とは垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、前記成形体が捲回体である場合は捲回の軸に対して垂直もしくはほぼ垂直となるようにスライスすればよい。また、円形状の一次シートを積層した円柱状の成形体の場合は、上記角度の範囲内でかつら剥きのようにスライスしてもよい。
【0080】
スライスする方法は特に制限はなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法などが挙げられるが、熱伝導シートの厚みの平行を保ちやすく、切りくずが出ない点でナイフ加工法が好ましい。スライスする際の切断具は、特に制限はないが、スリットを有する平滑な盤面と、該スリット部より突出した刃部と、を有するカンナ様の部位を有するスライス部材であって、前記刃部が、前記熱伝導シートの所望の厚みに応じて、前記スリット部からの突出長さが調節可能であるものを使用すると、得られる熱伝導シートの表面近傍の黒鉛粒子の配向を乱し難く、かつ所望の厚みの薄いシートも作製し易いので好ましい。
【0081】
スライスは、有機高分子化合物(B)のTg+30℃〜Tg−40℃の温度範囲で行うのが好ましく、Tg+20℃〜Tg−20℃の温度範囲で行うのがより好ましい。前記スライスする際の温度が有機高分子化合物(B)のTg+30℃を超える場合は、成形体が柔軟になってスライスし難くなるか、又は黒鉛粒子の配向が乱れる傾向がある。逆にTg−40℃未満である場合は、成形体が固くもろくなってスライスし難くなるか、又はスライス直後にシートが割れ易くなる傾向がある。
【0082】
前記スライス部材の前記平滑な盤面及び/又は前記刃部を温度−80℃〜5℃に冷却してスライスを行うとスムーズな切削ができる結果、表面の凹凸が少なくなったり、黒鉛の配向構造の乱れが少なくなるので好ましい。−40℃〜0℃がより好ましい。−80℃未満ではスライス部材への負担が大きく、エネルギー的にも非効率となり、5℃を超えるとスムーズな切削がしにくくなる傾向がある。
【0083】
前記成形体のスライスは、黒鉛粒子(A)の分級により求めた重量平均粒子径の2倍以
下の厚みでスライスすることが、効率的な熱伝導パスが形成されやすくなる結果、得られ
るシートの熱伝導性が特に高くなるので好ましい。この重量平均
粒子径は、例えば使用す
る黒鉛粒子をふるいで分級し、各粒径範囲の粒子の重量を測定、累積重量分布曲線を作成
して累積重量が50質量%になる粒子径から求められる。
【0084】
熱伝導シートの厚さは、用途等により適宜設定されるが、好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.1〜1mmである。前記熱伝導シートの厚さが0.05mm未満である場合はシートとしての取り扱いが難しくなる傾向にあり、3mmを超える場合は放熱効果が低くなる傾向にある。前記成形体のスライス幅が熱伝導シートの厚さとなり、スライス面が熱伝導シートにおける発熱体や放熱体との当接面となる。
【0085】
本発明の放熱装置は、本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを発熱体と放熱体の間に介在させて得られる。発熱体としては少なくともその表面温度が200℃を超えないもの好ましい。前記表面温度が200℃を超える可能性が高いもの、例えば、ジェットエンジンのノズル近傍、窯陶釜内部周辺、溶鉱炉内部周辺、原子炉内部周辺、宇宙船外殻等に使用すると、本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得えられた熱伝導シート中の有機高分子化合物が分解してしまう可能性が高いので適さない。本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により製造された熱伝導シートが特に好適に使用できる温度範囲は−10℃〜120℃であり、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯、発光素子、発光体、電子部品、加温用配管等が好適な発熱体の例として挙げられる。
【0086】
一方、放熱体としては、熱伝導率20W/mK以上の素材、例えば、アルミ、銅等の金属、黒鉛、ダイヤモンド、窒化アルミ、窒化ほう素、窒化珪素、炭化珪素、酸化アルミ等の素材を利用したものが好ましい。このような素材を用いたヒートスプレッダ、ヒートシンク、きょう体、電子基板、電気基板、放熱用配管等が使用できる代表的なものである。
【0087】
本発明の放熱装置としては、例えば本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを用いて、半導体から生じる発熱を放散させることを特徴とする半導体装置、電子部品から生じる発熱を放散させることを特徴とする電子機器、発光素子から生じる発熱を放散させることを特徴とする発光装置等が挙げられる。
【0088】
本発明の放熱装置は、発熱体と放熱体に本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートの各々の面を接触させることで成立する。発熱体、熱伝導シート及び放熱体を充分に密着させた状態で固定できる方法であれば、接触させる方法に制限はないが、密着を持続させる観点から、ばねを介してねじ止めする方法、クリップで挟む方法などのように押し付ける力が持続する接触方法が好ましい。
【0089】
また、前記発熱体と放熱体のいずれかに本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを貼付したものは、被着物との熱接触を容易に確保できる点で優れた物品となる。
【0090】
例えば、熱伝導率20W/mK以上の素材からなる板状又は板状に近い形状、例えばトレイ状の成形体に本発明の熱伝導シート又は本発明の製造方法により得られた熱伝導シートを貼付したものはヒートスプレッダとして好適である。また、同様の素材からなる塊状又はフィンを有する塊状の成形体に貼付したものはヒートシンクとして好適である。また、同様の素材からなる箱状物内面に貼付したものは放熱性きょう体として好適である。また、電子基板又は電気基板の絶縁部分に貼付したものは放熱性電子基板又は電気基板として好適である。また、放熱用配管又は加温用配管を組み立てる際の配管同士の接合部及び/又は被冷却又は被加温物に取り付ける接合部に用いたものは放熱用配管又は加温用配管として好適である。また、電灯、蛍光灯又はLEDの背面部に貼付したものは放熱性発光体として好適である。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明を説明する。なお、各実施例において熱伝導性の指標とした熱伝導率は以下の方法により求めた。
【0092】
(熱伝導率の測定)
縦1cm×横1.5cmの熱伝導シートをトランジスタ(2SC2233)とアルミニウム放熱ブロックとの間に挟み、トランジスタを押しつけながら、電流を通じた。トランジスタの温度:T1(℃)と、放熱ブロックの温度:T2(℃)を測定し、測定値と印可電力:W1(W)から、次式によって熱抵抗:X(℃/W)を算出した。
【0093】
X=(T1−T2)/W1
上記の式の熱抵抗:X(℃/W)と熱伝導シートの厚さ:d(μm)、熱伝導率既知試料による補正係数:Cから、次式により熱伝導率:Tc(W/mK)を見積もった。
【0094】
Tc=C×d/X
実施例1
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス製、商品名:HTR−280DR、重量平均分子量:90万、Tg−30.9℃、15質量%トルエン溶液、アクリル酸ブチルの共重合量:86質量%)40g、黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)12g、難燃剤としてクレジルジ2,6−キシレニルホスフェート(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:PX−110、凝固点:−14℃、沸点200℃以上)8gを、ステンレス匙で良くかき混ぜた。
【0095】
これを離型処理したPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに塗り延ばし、ドラフト中で室温下3時間風乾後、120℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、組成物を得た。組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30体積%、有機高分子化合物(B)が31.2体積%及び難燃剤が38.8体積%であった。
【0096】
この組成物の一部を直径1cmの球状に丸め、小型プレスで0.5mm厚のシート状にした。これを20枚に切り分けたものを積層して再度同様にプレスした。この操作を更にもう1回繰り返して得たシートの表面をX線回折により分析した。2θ=77°付近に黒鉛の(110)面に対応するピークが確認できず、用いた膨張黒鉛粉末(HGF-L)が「結晶中の6員環面が鱗片の面方向に配向している」ことを確認できた。
【0097】
この組成物1gを高さ6mmの塊状に丸め、離型処理したPETフィルムにはさみ、5cm×10cmのツール面をもつプレスを用いて、ツール圧10MPa、ツール温度170℃の条件で20秒間プレスして、厚さ0.3mmの一次シートを得た。この操作を繰り返して多数枚の一次シートを作製した。
【0098】
得られた一次シートを2cm×2cmにカッターで切りだし、黒鉛粒子の向きを揃えて37枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、厚さ1.1cmの成形体を得た。次いで、この成形体をドライアイスで−15℃に冷却した後、1.1cm×2cmの積層断面をカンナ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.34mm)を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.58mmの熱伝導シート(I)を得た。
【0099】
熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から長径を測定し、平均値を求めたところ、黒鉛粒子の長径の平均値は254μmであった。
【0100】
熱伝導シート(I)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。
【0101】
熱伝導シート(I)について、少なくとも3個以上の黒鉛粒子を画面に納められる倍率でシート表面の写真を撮影し、黒鉛粒子数が総計30個分以上となる枚数の写真から見えている黒鉛粒子の面積と、シートの面積との比の平均値を求めたところ、シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は30%であった。
【0102】
熱伝導シート(I)を、ホットプレート上で表面温度計で測定される温度が70℃になるように加熱しアスカー硬度計C型で測定したところ、70℃におけるアスカーC硬度は20であった。また、溶剤に酢酸エチルを用いて前記の方法で黒鉛粒子を取り出し、分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2、すなわち0.29mm以下の粒子は70質量%であった。
【0103】
この熱伝導シート(I)の熱伝導率を測定したところ、65W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(I)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0104】
実施例2
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸ブチル−メタクリル酸メチルブロック共重合体(株式会社クラレ製、商品名:LA2140、Tg−22℃、アクリル酸ブチルの共重合量:77質量%)40g、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチルブロック共重合体(株式会社クラレ製、商品名:LA1114、Tg−40℃、アクリル酸ブチルの共重合量:93質量%)120g、黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)360g、難燃剤として赤燐(燐化学工業株式会社製、商品名:ノーバレッド120)20g及びクレジルジ2,6−キシレニルホスフェート(りん酸エステル系難燃剤、大八化学工業株式会社製、商品名:PX−110、凝固点:−14℃、沸点200℃以上)50g、アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチルブロック共重合体・水酸化アルミニウム混合ペレット(株式会社クラレ製、商品名:LA FK010、ポリマ分Tg−22℃、ポリマ分のアクリル酸ブチルの共重合量:77質量%、ポリマ:水酸化アルミニウム(容量比)=55:45)280gをかき混ぜた上、100℃の2本ロール(関西ロール社製、試験用ロール機(8×20Tロール))で混練し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0105】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30.3体積%、有機高分子化合物(B)45.6体積%、及び難燃剤24.1体積%であった。
【0106】
得られた混練シートを2〜3mm角程度の大きさに刻んでペレット状にした。これを、東洋精機製、ラボプラストミルMODEL20C200を用い、170℃で幅60mm厚み2mmのシート状に押し出し、一次シートを得た。
【0107】
得られた一次シートを2cm×2cmにカッターで切りだし、アセトンを薄くシート表面に塗って6枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、厚さ1.2cmの成形体を得た。次いで、この成形体をドライアイスで−5℃に冷却した後、1.2cm×2cmの積層断面をカンナ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.33mm)を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦1.2cm×横2cm×厚さ0.55mmの熱伝導シート(II)を得た。
【0108】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(II)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は252μmであった。熱伝導シート(II)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ88度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は29%、70℃におけるアスカーC硬度は38であった。また、溶剤に酢酸エチルを用いて前記の方法で黒鉛粒子を取り出し、分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2、すなわち0.275mm以下の粒子は75質量%であった。
【0109】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(II)の熱伝導率を測定したところ、7.5W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(II)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0110】
実施例3
実施例1と同様にして得た一次シートを2mm×2cmに切りとったものを複数枚積層して2mm角×2cmの角棒を得た。別に実施例1と同様にして得た1次シートを2cm×5cmに切りとったものを多数枚準備し、その1枚を前記角棒に2cmの1辺を付け、ここを中心に巻きつけた。一次シート層間を接着させるため手で押さえながら行った。次の1枚をこの外側に更に巻き付け、以下同様の操作を直径が2cmを超えるまで繰り返した。
【0111】
得られた捲回物の直径2cm強の渦巻状となっている捲回断面を実施例1と同様にして
カンナ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.34mm)を用いてスライスし(一次シ
ート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、厚さ0.60mmのシートを得た。
このシートを1cm×2cmハンドパンチで打ち抜き、縦1.0cm×横2cm×厚さ0
.60mmの熱伝導シート(III)を得た。
【0112】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(III)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は250μmであった。熱伝導シート(III)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は30%、70℃におけるアスカーC硬度は20であった。また、溶剤に酢酸エチルを用いて前記の方法で黒鉛粒子を取り出し、分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2、すなわち0.3mm以下の粒子は72質量%であった。
【0113】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(III)の熱伝導率を測定したところ、62W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(III)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0114】
実施例4
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸ブチル−アクリル酸エチル−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体(ナガセケムテックス製、商品名:HTR−811DR、重量平均分子量:42万、Tg−43℃、アクリル酸ブチルの共重合量:76質量%)251.9g、黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、420μm〜1000μm分級品、平均粒子径430μm)542.5g、難燃剤として芳香族縮合りん酸エステル系難燃剤である大八化学工業株式会社製、商品名:CR-741(凝固点:4〜5℃、沸点:200℃以上)213.1gをかき混ぜた上、80℃の2本ロール(関西ロール社製、試験用ロール機(8×20Tロール))で混練し、組成物を混練シートの形態で得た。
【0115】
得られた混練シートから実施例2と同様の装置・温度で厚さ1mmの一次シートを得た。このシートを4cm×20cmの大きさにカッターで切り出し、40枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、さらに3kgの重石を載せた上120℃の熱風乾燥機で1時間処理してシート間を良く接着させ、厚さ4cmの成形体を得た。次いで、この成形体をドライアイスで−20℃に冷却した後、4cm×20cmの積層断面を超仕上げカンナ盤((株)丸仲鐵工所製 商品名:スーパーメカ(スリット部からの刀部の突出長さ:0.19mm))を用いてスライスし(一次シート面から出る法線に対し0度の角度でスライス)、縦4cm×横20cm×厚さ0.25mmの熱伝導シート(IV)を得た。
【0116】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IV)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は200μmであった。熱伝導シート(IV)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ88度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は60%、70℃におけるアスカーC硬度は50であった。また、溶剤に酢酸エチルを用いて前記の方法で黒鉛粒子を取り出し、分級により求めたその粒子径分布において、膜厚の1/2、すなわち0.125mm以下の粒子は25質量%であった。
【0117】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IV)の熱伝導率を測定したところ、102W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(IV)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0118】
また、熱伝導シート(IV)の片面に帝人デュポンフィルム(株)製PETフィルムA31(膜厚38μm)、もう一方の面に同社製A53(膜厚50μm)を室温下でラミネータ((株)ラミーコーポレーション製 LMP-350EX)を用いて保護フィルムとして貼り付けた。これらのシートは表面の剥離処理が異なり、剥離力はA31<A53であった。このシートをプレスカッター(大島工業(株)製 M型)を用いて3cm角、角部R:1mmの形状にPETフィルムを含めて打ち抜き、使用しやすい形態とした。別途インテル製CPU Core2 Duo E4300のヒートスプレッダ(銅製、トレイ状形状)をカッターで剥がし取った上、裏面に付着していたフェーズチェンジシートをふき取り、更にアセトンで良く洗浄してCPU用ヒートスプレッダを準備した。このヒートスプレッダの裏面(チップにつける側)にまずA31を剥がし、片面にA53がついた熱伝導シート(IV)貼り付け、A53で粘着面が保護された熱伝導シート(IV)がついているCPU用ヒートスプレッダを作成した。保護フィルムの一方を剥がす際に反対面も剥がれることがなく、作業性が良好であった。
【0119】
このCPU用ヒートスプレッダの能力を推し量るための試料を以下の方法で作成した。保護フィルム(A53)を剥がして3cm角×0.8mm厚の銅板を80℃50Kgfの条件で圧着した。別途同じくインテル製CPU Core2 Duo E4300のヒートスプレッダを準備し、その裏面と3cm角×0.8mm厚の銅板の間に0.2mmの金属インジウムシートをはさみ、160℃50Kgfの条件で圧着した試料を作成した。金属インジウムシートはCPU用ヒートスプレッダ用熱伝導として一般に使用される素材であるが、粘着性が無いため位置固定がしにくく、融着させるのに高温を要した。これらの試料の上下面間の熱抵抗を前記(熱伝導率の測定)の項で説明した装置により評価し、比較した。その結果、熱伝導シート(IV)を用いた試料の熱抵抗は0.35℃/Wと、インジウムシートを用いた試料の45℃/Wより低くなり、熱伝導シート(IV)を貼り付けたCPU用ヒートスプレッダは、容易に熱接触が取れ、高い能力を持つことが分かった。
【0120】
実施例5
実施例4と同じ配合材料にポリイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製 コロネートHL、NCO含量12.3-13.3%、75%酢酸エチル溶液)8.3gを追加し、以下同様にして組成物を混練シートの形態で得た。
【0121】
得られた混練シートを100℃のローラープレスで押しつぶし、厚さ1mmの一次シートを得た。このシートを4cm×20cmの大きさにカッターで切り出し、40枚積層し、手で軽く押さえてシート間を接着させ、さらに3kgの重石を載せた上150℃の熱風乾燥機で1時間処理してシート間を良く接着させると同時に、架橋反応を進行させ、厚さ4cmの成形体を得た。次いで、この成形体を実施例4と同様の装置でスライスしたが、スライスする際にドライアイスをカンナ盤の上に乗せ、刃部及び盤面を−30℃に冷却したところ、スライスがスムーズになって薄切りが可能となり、縦4cm×横20cm×厚さ0.08mmの熱伝導シート(V)を得た。
【0122】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は200μmであった。熱伝導シート(V)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ88度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向に配向していることが認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は60%、70℃におけるアスカーC硬度は59であった。
【0123】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(V)の熱伝導率を測定したところ、80W/mKと良好な値を示した。また、熱伝導シート(V)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性も良好であった。
【0124】
比較例1
実施例1において作製した一次シートをそのまま熱伝導シート(VI)として評価した。
【0125】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VI)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は252μmであった。熱伝導シート(VI)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ0度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向には配向していなかった。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は25%、70℃におけるアスカーC硬度は20であった。
【0126】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VI)の熱伝導率を測定したところ、1.2W/mKと低い値を示した。なお、熱伝導シート(VI)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性は良好であった。
【0127】
比較例2
膨張黒鉛プレスシート(日立化成工業株式会社製、商品名:カーボフィット、厚さ0.1mm、密度1.15g/cm
3)を2cm角に切断し、エポキシ系接着剤(コニシ株式会社製、商品名:ボンド クイック5)で張り合わせて100枚積層して厚さ1.1cmの成形体を得た。次いでこの成形体の1.1cm×2cmの積層断面をカッターでスライスして、縦1.1cm×横2cm×厚さ1.5mmの熱伝導シート(VII)を得た。
【0128】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VII)の性状を求めた。熱伝導シー
ト(
VII)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、黒鉛が連な
って見え、黒鉛は粒子としては明確に確認できないが、黒鉛部分の長軸方向の熱伝導シー
ト表面に対する角度の平均値は90度であり、熱伝導シートの厚み方向に配向していると
認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は61%であり、残りの面積のほ
とんどは空隙であった。70℃におけるアスカーC硬度は100以上であった。
【0129】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VII)の熱伝導率を測定したところ、シートの密着性が悪いため、測定値が1〜40W/mKの範囲で不安定であり、事実上熱伝導性が良いとはいえないと判断された。
【0130】
比較例3
有機高分子化合物(B)としてアクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス製、商品名:HTR−280DR、重量平均分子量:90万、Tg−30.9℃、15質量%トルエン溶液)40gの代わりにメタクリル酸メチルポリマー(和光純薬工業株式会社製、商品名:メタクリル酸メチルポリマー、Tg100℃)14gを用い、難燃剤としてのクレジルジ2,6−キシレニルホスフェートを用いなかったこと以外は実施例1と同様操作にして、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.56mmの熱伝導シート(VIII)を得た。
【0131】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が31.3体積%及び有機高分子化合物(B)68.7体積%であった。
【0132】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VIII)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は254μmであった。熱伝導シート(VIII)の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、任意の50個の黒鉛粒子について見えている方向から鱗片の面方向の熱伝導シート表面に対する角度を測定し、その平均値を求めたところ90度であり、黒鉛粒子の鱗片の面方向は熱伝導シートの厚み方向には配向していることが認められた。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は30%、70℃におけるアスカーC硬度は100を超えていた。
【0133】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(VIII)の熱伝導率を測定したところ、シートの密着性が悪いため、測定値が0.5〜20W/mKの範囲で不安定であり、事実上熱伝導性が良いとはいえないと判断された。
【0134】
比較例4
黒鉛粒子(A)として鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成工業株式会社製、商品名:HGF−L、平均粒子径250μm)の代わりに球状の天然黒鉛(平均粒子径20μm)を用いたこと以外は実施例1と同様に操作にして、縦1.1cm×横2cm×厚さ0.56mmの熱伝導シート(IX)を得た。
【0135】
組成物全体積に対する各成分の配合比を、各成分の比重から計算したところ、黒鉛粒子(A)が30体積%、有機高分子化合物(B)31.2体積%及び難燃剤が38.8体積%であった。
【0136】
以下、実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IX)の性状を求めた。黒鉛粒子の長径の平均値は22μmであった。また、黒鉛粒子の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度が明確でないため割り出しがたく、シートの厚み方向への配向が認められなかった。シート表面に露出している黒鉛粒子の面積は30%、70℃におけるアスカーC硬度は18であった。
【0137】
実施例1と同様に操作して熱伝導シート(IX)の熱伝導率を測定したところ、1.2W/mKと低い値を示した。なお、熱伝導シート(IX)のトランジスタとアルミニウム放熱ブロックに対する密着性は良好であった。