特許第6341325号(P6341325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341325
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】ステージの位置制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20180604BHJP
   G01B 9/02 20060101ALI20180604BHJP
   G01S 17/32 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   G01B11/00 G
   G01B9/02
   G01S17/32
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-133488(P2017-133488)
(22)【出願日】2017年7月7日
(62)【分割の表示】特願2014-10431(P2014-10431)の分割
【原出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2017-187507(P2017-187507A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2017年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】松本 弘一
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅文
【審査官】 櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−51674(JP,A)
【文献】 特開2011−27649(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/75103(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/235045(US,A1)
【文献】 特表平5−501004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
G01B 9/00− 9/10
G01S 7/48− 7/51
G01S 17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージの移動指令を出力する移動指令部と、
前記ステージの可動範囲にわたって当該ステージの空間位置を検出する位置検出器と、
前記移動指令部により出力されるステージの移動指令と前記位置検出器により検出される位置検出信号とに基づいて、前記ステージの位置を制御する第1の制御部と、
所定の繰り返し周波数を有する光コムを発生する光周波数コム発生部と、
前記光周波数コム発生部から発生する光コムを分岐させ、それぞれ測定光及び参照光として前記ステージに取り付けられた測定対象物の測定面及び所定位置の参照面に入射させ、前記測定面及び参照面で反射した前記測定光と前記参照光との干渉光を発生させる干渉光学系と、
前記測定対象物の測定面を移動させ、前記干渉光学系の光路差を変化させる光路差可変部と、
前記干渉光学系により発生する干渉光を入射し、該干渉光に対応する電気信号を出力する光検出部と、
前記光検出部から出力される電気信号に基づいて、前記干渉光が最大になるように前記光路差可変部を制御する第2の制御部と、
前記第1の制御部により、前記光コムの所定の繰り返し周波数の周波数間隔に対応する空間間隔を有する位置毎に、前記ステージを位置決めさせる第3の制御部と、
前記第2の制御部による制御により前記干渉光が最大になったときの、前記測定対象物の測定面の変位量を検出する変位量検出部であって、前記第3の制御部により位置決め制御されたステージの位置毎に変位量を検出する変位量検出部と、
前記変位量検出部により検出される複数の変位量に基づいて、前記位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正する校正部と、
を備えたステージの位置制御装置。
【請求項2】
前記測定対象物の測定面及び所定位置の参照面のうちの一方を、所定の振幅及び周波数で振動させる加振部を備えた請求項1に記載のステージの位置制御装置。
【請求項3】
前記第2の制御部は、前記加振部による振動の周波数に対応して、前記光検出部から出力される電気信号を位相検波する位相検波部を有し、前記位相検波部により検波される位相がゼロになるように前記光路差可変部を制御する請求項2に記載のステージの位置制御装置。
【請求項4】
前記加振部は、前記参照面が取り付けられた第1のピエゾ素子と、所定の周波数の正弦波信号を発生する発信器と、前記正弦波信号を増幅し、前記第1のピエゾ素子に出力する増幅器とからなる請求項2又は3に記載のステージの位置制御装置。
【請求項5】
前記光路差可変部は、前記測定面が取り付けられた第2のピエゾ素子と、前記第2のピエゾ素子を駆動する駆動部とからなる請求項4に記載のステージの位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステージの位置制御装置に係り、特に所定の繰り返し周波数を有する光コムを使用したステージの位置制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の微細部品の検査装置、半導体露光装置に用いられている位置決めステージは、高精度の位置決め精度が要求される。
【0003】
従来、ステージの位置決め制御は、リニアエンコーダの信号を利用して行われていたが、リニアエンコーダはアッベの条件を満足していないため、位置検出精度が低く、その制御の正確さが悪かった。
【0004】
そこで、ステージを精密に位置決めするために、ヘリウム−ネオン(He-Ne)レーザを光源とし、ヘテロダイン検出方式の光波干渉測定装置が広く利用されている(特許文献1)。
【0005】
この種の光波干渉測定装置(レーザ干渉計)は、ステージなどに取り付けた測定用反射鏡の参照用反射鏡に対する相対的な変位量を、干渉信号の位相変化を積算することにより求めるため、干渉計のビームが遮られると、位置の基準が失われてしまうという欠点を有している。
【0006】
特許文献1に記載の発明は、上記欠点を解決するために、第1の波長の光を用いた測長用の第1の光波干渉計と、第1の波長とは異なる第2の波長の光を用いた第2の光波干渉計とを用い、両干渉計の測定光の光軸を途中から平行にして同一の測定用反射鏡に導き、両干渉計の合成波長内での測定用反射鏡の移動量の測定を、位相変化の計数をしなくても行うことができるようにし、たとえ測定光が遮断されたとしても、原点からの測定用反射鏡の位置を合成波長内で測長用の光波干渉計の分解能で行うことができるようにしている。
【0007】
また、近年では「光コム(光周波数コム)」と呼ばれる特殊な光の干渉を利用した測長技術も提案されており、例えば、特許文献2は、繰り返し周波数の異なる2種類の光コムの干渉を利用した光へテロダイン距離計を開示する。光コムは、周波数の異なる複数の光成分であって、一定の繰り返し周期で離散する複数の光成分の集合によって構成される。この光コムの干渉を利用することで、基準点(原点)から測定対象までの絶対距離を高精度に計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−183116号公報
【特許文献2】特開2013−178169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の光波干渉測定方法による、ステージの精密位置決め方法によれば、第1の波長の光を用いた測長用の第1の光波干渉計と、第1の波長とは異なる第2の波長の光を用いた第2の光波干渉計とを用いることにより、測定光が遮断されたとしても、原点からの測定用反射鏡の位置を合成波長内で測長用の光波干渉計の分解能で行うことができるが、波長の異なる2種類のレーザ(He-Neレーザ)と、これらのレーザを使用した2系統の光波干渉計が必要になり、装置が複雑化及び大型化するという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の光ヘテロダイン干渉計は、繰り返し周波数の異なる2種類の光コムを発生させる2種類の光源を必要とする。また、ステージ(測定対象)の位置決め制御は、大気のゆらぎ、機械振動が大きな場所で高速で実現する必要があるが、特許文献2に記載の光ヘテロダイン干渉計による測距結果を、ステージの位置決め制御にそのまま適用するのは難しいという問題がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、大気のゆらぎ、機械振動が大きな場所でも、ステージの位置制御を高速かつ高精度に行うことができるステージの位置制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明の一の態様に係るステージの位置制御装置は、ステージの移動指令を出力する移動指令部と、ステージの可動範囲にわたってステージの空間位置を検出する位置検出器と、移動指令部により出力されるステージの移動指令と位置検出器により検出される位置検出信号とに基づいて、ステージの位置を制御する第1の制御部と、所定の繰り返し周波数を有する光コムを発生する光周波数コム発生部と、ステージに取り付けられた測定対象物と、光周波数コム発生部から発生する光コムを分岐させ、それぞれ測定光及び参照光として測定対象物の測定面及び所定位置の参照面に入射させ、測定面及び参照面で反射した前記測定光と前記参照光との干渉光を発生させる干渉光学系と、測定対象物の測定面を移動させ、干渉光学系の光路差を変化させる光路差可変部と、干渉光学系により発生する干渉光を入射し、干渉光に対応する電気信号を出力する光検出部と、光検出部から出力される電気信号に基づいて、干渉光が最大になるように光路差可変部を制御する第2の制御部と、第1の制御部により、光コムの所定の繰り返し周波数の周波数間隔に対応する空間間隔を有する位置毎に、ステージを位置決めさせる第3の制御部と、第2の制御部による制御により干渉光が最大になったときの、測定対象物の測定面の変位量を検出する変位量検出部であって、第3の制御部により位置決め制御されたステージの位置毎に変位量を検出する変位量検出部と、変位量検出部により検出される複数の変位量に基づいて、位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正する校正部と、を備えている。
【0013】
本発明の一の態様によれば、所定の繰り返し周波数を有する光コムを光源とする干渉光学系を使用することにより、ステージに取り付けられた測定対象物の空間位置を、所定の繰り返し周波数の周波数間隔に対応する空間間隔を有する位置毎に精度よく位置決めすることができる。ここで、光コムとは、周波数領域において周波数が等間隔になっている周波数成分からなる光信号であり、繰り返し周波数の周波数精度が高く、時間領域では非常に安定した超短パルスの列として現れる。
【0014】
そこで、まず、リニアエンコーダ等のステージの空間位置を検出する位置検出器を使用して、光コムの繰り返し周波数の周波数間隔に対応する空間間隔を有する所定の位置にステージを位置決めする。この状態で、測定対象物の測定面を光路差可変部により移動させ、干渉光学系の光路差を変化させる。光路差が、光コムの繰り返し周波数の周波数間隔に対応する空間間隔の整数倍のときに、干渉光が最大になる。変位量検出部は、干渉光が最大になったときの、測定対象物の測定面の変位量を検出するが、この検出した変位量は、位置検出器に基づくステージの位置決め制御による誤差に相当する。そこで、変位量検出部により検出される、位置決め制御されたステージの位置毎の変位量(誤差)に基づいて、位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正するようにしている。
【0015】
これにより、ステージの空間位置決めを、ナノメートルオーダの超精密に実現している。また、干渉信号の位相変化を積算するものでないため、ビームが遮られても位置の基準が失われることがない。更に、一旦、位置決め制御されたステージの位置毎の変位量(誤差)を測定しておけば、環境が大幅に変化しない限り、位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正して使用することができ、ステージの位置制御を高速かつ高精度に行うことができる。
【0016】
本発明の他の態様に係るステージの位置制御装置において、測定対象物の測定面及び所定位置の参照面のうちの一方を、所定の振幅及び周波数で振動させる加振部を備えることが好ましい。測定光と参照光との位相を周期的に変化させ、周期的な干渉光(ビート信号)を得るためである。尚、加振部は、測定対象物の測定面及び所定位置の参照面のうちの一方を、位置検出器による位置検出の誤差よりも大きな振幅で振動させることが好ましい。
【0017】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、第2の制御部は、加振部による振動の周波数に対応して、光検出部から出力される電気信号を位相検波する位相検波部を有し、位相検波部により検波される位相がゼロになるように光路差可変部を制御することが好ましい。
【0018】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、加振部は、参照面が取り付けられた第1のピエゾ素子と、所定の周波数の正弦波信号を発生する発信器と、正弦波信号を増幅し、第1のピエゾ素子に出力する増幅器とからなることが好ましい。
【0019】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、光路差可変部は、測定面が取り付けられた第2のピエゾ素子と、第2のピエゾ素子を駆動する駆動部とからなることが好ましい。
【0020】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、第2の制御部は、光検出部から出力される電気信号を入力信号とし、発信器から出力される正弦波信号を参照信号として、入力信号と参照信号との位相差に対応する電圧信号を出力するロックインアンプを有し、電圧信号に基づいて位相差がゼロになるように駆動部を介して第2のピエゾ素子を駆動することが好ましい。
【0021】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、変位量検出部は、第2のピエゾ素子の伸び量を直接検出して測定面の変位量を検出し、又は第2のピエゾ素子に印加する印加電圧に基づいて第2のピエゾ素子の伸び量を検出して測定面の変位量を検出することが好ましい。
【0022】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、加振部は、測定対象物の測定面が取り付けられたピエゾ素子と、所定の周波数の正弦波信号を発生する発信器と、正弦波信号を増幅し、ピエゾ素子に出力する増幅器とからなることが好ましい。
【0023】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、光路差可変部は、ピエゾ素子と、ピエゾ素子に電圧を印加して測定面の振動の基準位置を移動させる駆動部とからなることが好ましい。
【0024】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、変位量検出部は、ピエゾ素子に印加する印加電圧に基づいてピエゾ素子の伸び量を検出して測定面の変位量を検出することが好ましい。
【0025】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、第2の制御部は、光検出部から出力される電気信号を入力信号とし、発信器から出力される正弦波信号を参照信号として、入力信号と参照信号との位相差に対応する電圧信号を出力するロックインアンプを有し、電圧信号に基づいて位相差がゼロになるように駆動部を介してピエゾ素子を駆動することが好ましい。
【0026】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御装置において、校正部は、変位量検出部により検出される複数の変位量に基づいて、位置検出器により検出される位置検出信号を校正する変換式、又は変換テーブルを求め、位置検出器により検出される位置検出信号を、変換式又は変換テーブルに基づいて校正することが好ましい。
【0027】
本発明の更に他の態様に係る発明は、移動指令部により出力されるステージの移動指令とステージの空間位置を検出する位置検出器により検出される位置検出信号とに基づいて、ステージの位置を制御するステージの位置制御方法において、所定の繰り返し周波数を有する光コムを発生させる工程と、光コムを分岐させ、それぞれ測定光及び参照光としてステージに取り付けた測定対象物の測定面及び所定位置の参照面に入射させ、測定面及び参照面で反射した測定光と参照光との干渉光を発生させる工程と、光コムの所定の繰り返し周波数に対応する所定の間隔毎に、位置検出器により検出される位置検出信号に基づいてステージを位置決めさせる位置決め工程と、位置決め工程で位置決めされた位置毎に、ステージを停止させた状態で測定対象物の測定面を移動させ、干渉光学系の光路差を変化させる光路差可変工程と、干渉光学系により発生する干渉光を入射し、干渉光に対応する電気信号を検出する光検出工程と、光検出工程により検出される電気信号に基づいて、干渉光が最大になるように光路差可変工程による干渉光学系の光路差を制御する工程と、干渉光が最大になったときの、測定対象物の測定面の変位量を検出する光路差可変工程であって、前記位置決め制御されたステージの位置毎に変位量を検出する変位量検出工程と、変位量検出工程により検出される複数の変位量に基づいて、位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正する校正工程と、を含んでいる。
【0028】
本発明の更に他の態様に係るステージの位置制御方法において、位置決め工程で位置決めされた位置毎に、ステージを停止させた状態で測定対象物の測定面及び所定位置の参照面のうちの一方を、所定の振幅及び周波数で振動させる加振工程を更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、光コムをステージの位置決め制御に適用し、位置検出器により検出されるステージの空間位置を校正するようにしたため、大気のゆらぎ、機械振動が大きな場所でも、ステージの位置制御を高速かつ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係るステージの位置制御装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】光コム計測器の第1の実施形態を示すブロック図である。
図3】時間領域の光コムと周波数領域の光コムを示す図である。
図4】時間領域の光コムからなる参照光と測定光を示す波形図である。
図5】ロックインアンプ及び制御部による信号処理・制御を概念的に示すイメージ図である。
図6】ステージの位置決め誤差を、所定の空間距離の整数倍の位置毎に計測する方法を示すフローチャートである。
図7】第2のピエゾ素子に印加する印加電圧と、第2のピエゾ素子の伸縮に伴う測定面の変位量との関係を示すグラフである。
図8】リニアエンコーダの検出値と計測された変位量と誤差との関係を示す図表である。
図9】リニアエンコーダの検出値と、校正後の検出値との関係を示す図である
図10】光コム計測器の第2の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に従って本発明に係るステージの位置制御装置及び方法の実施の形態について説明する。
【0032】
<ステージの位置制御装置の全体構成>
図1は本発明に係るステージの位置制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【0033】
図1において、ステージ10は、半導体装置等の微細部品の検査装置、半導体露光装置等に使用される位置決めステージ、X−Yステージ等である。
【0034】
ステージの位置制御装置1は、主としてステージ10の移動指令を出力する移動指令部12、ステージ10をX軸方向(図1の左右方向)に移動させる駆動部13、ステージ10の空間位置を検出する位置検出器(リニアエンコーダ)14、ステージ10の位置を制御する制御部(第1の制御部、第3の制御部、校正部)16、ステージ10に取り付けられた測定面18aを有する反射部(測定対象物)18、測定対象物18の測定面18aを移動させ、後述する干渉光学系の光路差を変化させる光路差可変部(第2のピエゾ素子)20、及び光コム計測器30から構成されている。
【0035】
ステージ10は、半導体装置等の微細部品の検査装置、半導体露光装置等に使用される位置決めステージ、X−Yステージ等である。本例のステージ10は、説明の簡単のために1軸方向(X軸方向)のみ移動できる直進ステージとする。
【0036】
駆動部13は、電動モータと、該電動モータの駆動力をステージ10に伝達するボールねじ機構とにより構成されるが、電磁力を用いて非接触に駆動力を発生させリニアモータにより構成されるものでもよい。
【0037】
リニアエンコーダ14は、ステージ10の可動範囲にわたってステージ10の空間位置を検出するデジタルリニアエンコーダであり、サブミクロンオーダの検出精度を有する。
【0038】
制御部16は、移動指令部12により出力されるステージ10の移動指令とリニアエンコーダ14により検出される位置検出信号とに基づいて、ステージ10が移動指令に対応する位置に移動するように駆動部13に制御信号を出力し、ステージ10の位置を制御する。
【0039】
また、制御部16は、光コム計測器30から出力される計測値に基づいて、リニアエンコーダ14により検出される位置を校正する校正部としても機能するが、この詳細については後述する。
【0040】
[光コム計測器の第1の実施形態]
図2は、光コム計測器の第1の実施形態を示すブロック図である。
【0041】
第1の実施形態の光コム計測器30は、光周波数コム発生部32と、エタロン34と、光ファイバ40〜50、スプリッタ51、光コネクタ52、53、サーキュレータ54、55、ミキサ56、コリメータ57、58、及び参照面59aを有する反射部59からなる干渉光学系60と、加振部(第1のピエゾ素子)62と、光検出部64と、負信号カット部66と、発信器68と、増幅器70と、ロックインアンプ72と、制御部74とから構成されている。
【0042】
光周波数コム発生部32は、所定の繰り返し周波数を有する光コムを発生する。図3(a)に示すように、光コムは、時間領域では非常に安定した超短パルスの列として現れる。また、図3(b)に示すように、光コムは、周波数領域では、正確に一定周波数(繰り返し周波数frep)ずつ離れている多数の光から成り立っている。
【0043】
図3(a)に示すように、光コムは、図3(b)に示した光コムの繰り返し周波数frepの逆数の時間間隔TRを有する、安定したパルス列として出力される。尚、図3(b)において、fCEOは、オフセット周波数である。
【0044】
光周波数コム発生部32から発生した光コムは、光ファイバ40、エタロン34及び光ファイバ41を介してスプリッタ51に入射し、ここで、参照光用の光コムと測定光用の光コムとに分岐させられる。エタロン34は、干渉間距離が固定されたファブリー・ペロー・エタロンであり、入射する光コムから所望の繰り返し周波数を持つ光コムを生成して出力する。エタロン34を介在させることにより、計測目的に合致した繰り返し周波数の光コムを生成することができる。尚、光周波数コム発生部32から発生した光コムが、もともと計測目的に合致した繰り返し周波数の光コムとして生成されている場合には、エタロン34は省略することができる。
【0045】
スプリッタ51により分岐させられた光コムの一方は、参照光として、光ファイバ42、光コネクタ52、光ファイバ44、サーキュレータ54、光ファイバ45及びコリメータ57を介して参照面59aを有する反射部59に入射し、参照面59aで反射した参照光は、光ファイバ45、サーキュレータ54、及び光ファイバ46を介してミキサ56に入射する。
【0046】
スプリッタ51により分岐させられた光コムの他方は、測定光として、光ファイバ43、光コネクタ53、光ファイバ48、サーキュレータ55、光ファイバ49及びコリメータ58を介して測定面18aを有する反射部(測定対象物)18に入射し、測定面18aで反射した測定光は、光ファイバ49、サーキュレータ55、及び光ファイバ50を介してミキサ56に入射する。
【0047】
ミキサ56は、参照光と測定光とを混合(合成)し、合成した光を光ファイバ47を介して光検出部64に入射させる。
【0048】
光検出部64は、入射する光を電気信号に変換する光電変換部であり、入射する光の強さに応じた電気信号(電圧信号)を出力する。
【0049】
図4(a)及び(b)は、それぞれ時間領域の参照光と測定光の一例を示す図である。
【0050】
参照光と測定光とは、同じ光周波数コム発生部32から出力された光コムであり、繰り返し周波数frep、パルス列の時間間隔TRが同じである。
【0051】
従って、干渉光学系60の参照光の光路長と測定光の光路長とが一致している場合、及び両者の光路長の差(光路差)が、パルス列の時間間隔TRに対応する空間距離Drの整数倍のとき、参照光と測定光とが干渉する。即ち、図4において、参照光と測定光との時間波形のずれ時間(ΔT)がゼロになるときに、参照光と測定光とが干渉する。
【0052】
尚、本例では、パルス列の時間間隔TRに対応する空間距離Drとして、30mmとする。従って、エタロン34は、繰り返し周波数が10GHzの光コムを生成する。
【0053】
第1の実施形態では、第1のピエゾ素子62により参照面59aを、所定の振幅及び周波数で正弦波振動させ、参照光に正弦波状の位相変調を与えることにより、正弦波状の位相変調に対応する干渉光が発生するようにしている。
【0054】
発信器68は、周波数が150Hzの正弦波信号を増幅器70を介して第1のピエゾ素子62に出力し、第1のピエゾ素子62は、参照面59aを、振幅3μm、周波数150Hzで正弦波振動させる。尚、リニアエンコーダ14を使用したステージ10の位置決め精度は、振幅3μm以内であるため、リニアエンコーダ14を使用してステージ10を位置決めした後、参照面59aを振幅3μmの正弦波振動させることにより、干渉光を発生させることができる。
【0055】
上記のように参照面59aを正弦波振動させることにより、光検出部64には、正弦波状の位相変調に対応する干渉光が入射し、光検出部64は、入射する干渉光に対応する電圧信号を負信号カット部66に出力する。負信号カット部66は、入力する電圧信号の負信号をカットし、正弦波状の位相変調に対応する電圧信号(電圧波形)をロックインアンプ72に出力する。尚、負信号カット部66の代わりに、入力信号の絶対値をとる絶対値部を設けてもよい。
【0056】
ロックインアンプ72の他の入力には、発信器68から周波数が150Hzの正弦波信号が加えられており、ロックインアンプ72は、光検出部64から出力される電気信号を位相検波する位相検波部として機能し、負信号カット部66から入力する入力信号と正弦波信号とを掛け合わせることにより、入力信号の正弦波信号(参照信号)に対する信号位相の関数である電圧信号(直流値)を出力する。ここで、信号位相が0°になるとき、ロックインアンプ72の出力値は、最大になる。
【0057】
ロックインアンプ72から出力される入力信号と参照信号との位相差に対応する電圧信号は、制御部74に出力される。
【0058】
制御部74は、第2のピエゾ素子20に駆動信号を出力し、測定面18aの位置を制御(走査)するもので、ロックインアンプ72から入力する電圧信号が最大になるように第2のピエゾ素子20に駆動信号を出力する。
【0059】
図5は、ロックインアンプ72及び制御部74による信号処理・制御を概念的に示すイメージ図である。
【0060】
図5に示すように制御部74は、ロックインアンプ72の出力信号が最大値になるように、測定面18aを走査させる駆動信号を出力する。即ち、測定面18aを移動(走査)させると、干渉光学系60の光路差を変化し、その結果、ロックインアンプ72の出力信号が変化する。制御部74は、ロックインアンプ72の出力信号が最大になるときの測定面18aの位置を、制御点(目標位置)として駆動指令を出力する。
【0061】
尚、ロックインアンプ72の出力信号が最大になるとき、入力信号の参照信号に対する信号位相はゼロになり、干渉光学系60の光路差は、空間距離Drの整数倍になる。即ち、測定面18aの位置は、空間距離Drの整数倍の位置に制御されたことになる。
【0062】
また、空間距離Drの整数倍の位置に制御されたときの測定面18aの変位量は、リニアエンコーダ14を使用してステージ10を位置決め制御したときのステージ10の位置決め誤差に対応する。そこで、予め光コム計測器30によりステージ10の可動範囲にわたって、空間距離Drの整数倍の位置毎に位置決め誤差を計測し、その計測結果に基づいて、リニアエンコーダ14により検出されるステージ10の空間位置を校正することにより、高精度の位置決めを行うことができる。
【0063】
次に、リニアエンコーダ14を使用したステージ10の位置決め誤差を、空間距離Drの整数倍の位置毎に計測する方法について、図6に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0064】
まず、ステージ10の位置Piを示すパラメータiをゼロ(i=0)にセットする(ステップS10)。
【0065】
次に、移動指令部12は、ステージ10を位置Piに移動させる位置指令を出力し、制御部16は、リニアエンコーダ14の検出信号に基づいてステージ10を、位置Piに移動させる(ステップS12)。尚、位置P0は、ステージ10の可動範囲の一端とし、位置Pnを他端とする。また、位置Piを示す位置指令と位置Pi+1を示す位置指令とは、空間距離Dr(本例では、干渉計の折り返しを考慮して、15mm)だけ異なる位置指令とする。
【0066】
続いて、光コム計測器30により、位置Piにおけるステージ10の位置決め誤差を計測する。即ち、制御部74は、ロックインアンプ72の出力が最大になるように第2のピエゾ素子20を駆動し、測定面18aを変位させる(ステップS14)。
【0067】
そして、ロックインアンプ72の出力が最大になったときの測定面18aの変位量δiを検出する(ステップS16)。光コム計測器30は、検出した変位量δiを、制御部16に出力する。
【0068】
ここで、変位量δiは、制御部74から第2のピエゾ素子20に印加する印加電圧に基づいて検出することができる。
【0069】
図7は第2のピエゾ素子20に印加する印加電圧と、第2のピエゾ素子20の伸縮に伴う測定面18aの変位量との関係を示すグラフである。制御部74は、変位量検出部としても機能し、図7のグラフに示すように第2のピエゾ素子20に印加する印加電圧の大きさにより、測定面18aの変位量を検出することができる。尚、制御部74は、基準電圧Vrefを基準して、測定面18aを、基準位置Prefを中心に正又は負方向に変位させる電圧信号を出力することが好ましい。
【0070】
第2のピエゾ素子20に印加する印加電圧による測定面18aの変位量の検出分解能は、ナノメートルオーダである。また、測定面18aの変位量は、第2のピエゾ素子20の伸縮量を、歪みゲージ、静電サンサ等で検出することで求めるようにしてもよい。
【0071】
次に、制御部16は、ステップS16で検出された変位量δiを、位置Piに関連づけて記憶する(ステップS18)。
【0072】
続いて、制御部16は、パラメータiが、nか否かを判別し(ステップS20)、パラメータiがnでない場合(「No」の場合)には、ステップS22に遷移させ、パラメータiがnの場合(「Yes」の場合)には、計測を終了する。
【0073】
ステップS22は、パラメータiを1だけインクリメントして ステップS12に遷移させる。
【0074】
ステップS12からステップS20の処理を繰り返し行うことにより、位置Pi毎の位置決め誤差(変位量δi)を取得することができる。
【0075】
次に、リニアエンコーダ14による検出値を、各位置Piに関連づけて記憶した変位量δiに基づいて校正する校正方法について説明する。
【0076】
いま、各位置Piの位置指令により位置制御されたステージ10のリニアエンコーダ14による検出値をxi(xi=Pi)とし、各位置Piにおける変位量をδiとすると、各検出値xiの検出の誤差Δiは、次式、
[数1]
Δi=δi−δi-1
により表すことができる。
【0077】
図8は、リニアエンコーダ14の検出値xiと、計測された変位量δiと、誤差Δiとの関係を示す図表である。ここで、誤差Δiは、位置P0の位置指令により位置制御されたステージ10のリニアエンコーダ14による検出値x0(=位置P0)を基準にした場合の、各検出値xiの誤差を表す。
【0078】
図9は、リニアエンコーダ14の検出値と、校正後の検出値との関係を示す図である。
【0079】
図9に示すように位置指令の各位置P1、P2、…に対応する検出値x1、x2、…は、それぞれ誤差Δ1、Δ2、…により補正することで、ナノメートルオーダで校正することができる。
【0080】
また、検出値xiと検出値xi+1との間の検出値の誤差は、誤差Δiと誤差Δi+1とを線形補間することで算出することができるが、隣接する3点以上の誤差を使用して、スプライン補間を行うことが好ましい。即ち、リニアエンコーダ14の検出値に対して、図9の太線で示すスプライン曲線上の値に補正することで、リニアエンコーダ14の全ての測定範囲(x0〜xn)の検出値を校正することができる。
【0081】
具体的には、制御部16は、光コム計測器30が計測した、空間距離Dr(本例では、30mm)間隔の位置Pi毎の位置決め誤差(変位量δi)を取得し、取得した複数の変位量δiに基づいてリニアエンコーダ14の検出値を校正するための変換式又は変換テーブルを作成する。その後、ステージ10の位置決め制御を行う場合には、制御部16は、リニアエンコーダ14の検出値を、変換式又は変換テーブルにより校正し、校正した検出値を使用して位置決め制御を行う。これにより、ステージ10の位置決め制御をナノメートルオーダで行うことができる。
【0082】
尚、リニアエンコーダ14の検出値を校正するための変換式又は変換テーブルは、環境の変化等に適応できるように定期的に更新することが好ましい。
【0083】
[光コム計測器の第2の実施形態]
図10は、光コム計測器の第2の実施形態を示すブロック図である。尚、図10において、図2に示した第1の実施形態の光コム計測器30と共通する部分には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0084】
図2に示した第1の実施形態の光コム計測器30は、第1のピエゾ素子62により参照面59aを、所定の振幅及び周波数で正弦波振動させ、参照光に正弦波状の位相変調を与えるようにしているが、図10に示す第2の実施形態の光コム計測器30Aは、主として参照面59aを有する反射部59を固定し、第2のピエゾ素子20により測定対象物18の測定面18aを、所定の振幅及び周波数で正弦波振動させ、測定光に正弦波状の位相変調を与える点で相違する。
【0085】
制御部74は、第2のピエゾ素子20に駆動信号を出力し、測定面18aの位置を制御(走査)するもので、ロックインアンプ72から入力する電圧信号が最大になるように(位相がゼロになるように)第2のピエゾ素子20に駆動信号を出力する。
【0086】
一方、発信器68は、周波数が150Hzの正弦波信号を増幅器70を介して第2のピエゾ素子20に出力し、第2のピエゾ素子20は、測定面18aを、振幅3μm、周波数150Hzで正弦波振動させる。
【0087】
即ち、制御部74から出力される走査用の駆動信号(電圧)と、発信器68から増幅器70を介して出力される正弦波信号とが加算され、加算された信号が第2のピエゾ素子20に加えられることにより、第2のピエゾ素子20は、測定面18aを正弦波振動させるとともに、測定面18aの正弦波振動の基準位置を移動(走査)させる。
【0088】
そして、制御部74は、ロックインアンプ72から入力する電圧信号が最大(干渉光が最大)になるときの駆動信号により、測定対象物18の測定面18aの変位量を検出することができる。尚、この検出した変位量は、リニアエンコーダ14の検出値に基づくステージ10の位置決め制御による誤差に相当する。
【0089】
[その他]
本実施の形態の光コム計測器30、30Aは、参照面又は測定面を正弦波振動させ、参照光又は測定光に正弦波状の位相変調を与えることにより、正弦波状の位相変調に対応する干渉光を発生させるようにしたが、これに限らず、参照面又は測定面を正弦波振動させず、また、ロックインアンプ72を使用せずに、例えば、第2のピエゾ素子20に三角波状の電圧信号を印加して測定面18aのみを移動(走査)させ、光検出部64の出力信号にピーク値が生じたとき(干渉光が発生したとき)の電圧信号から測定面18aの変位量を検出するようにしてもよい。
【0090】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0091】
10…ステージ、12…移動指令部、13…駆動部、14…リニアエンコーダ、16、74…制御部、18…測定対象物(反射部)、18a…測定面、20…第2のピエゾ素子、30、30A…光コム計測器、32…光周波数コム発生部、34…エタロン、40〜50…光ファイバ、51…スプリッタ、52、53…光コネクタ、54、55…サーキュレータ、56…ミキサ、57、58…コリメータ、59…反射部、59a…参照面、60…干渉光学系、62…第1のピエゾ素子、64…光検出部、66…負信号カット部、68…発信器、70…増幅器、72…ロックインアンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10