特許第6341372号(P6341372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6341372金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物、金属酸化物半導体層の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341372
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物、金属酸化物半導体層の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20180604BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20180604BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   H01L29/78 618A
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 618Z
   H01L21/368 Z
【請求項の数】10
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-141349(P2014-141349)
(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公開番号】特開2015-38973(P2015-38973A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-149804(P2013-149804)
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/014885(WO,A1)
【文献】 特開2009−177149(JP,A)
【文献】 特開2010−098303(JP,A)
【文献】 特開2003−179242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 21/368
H01L 29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]〜[4]で表される群から選択される少なくとも1種の第一アミドと、金属塩と、溶媒とを含み、
前記溶媒に対する前記第一アミドの比率(溶媒:第一アミド)が、体積比にて94.1:5.9以下であり、
前記溶媒の5質量%以上が一般式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であり、かつ、
前記第一アミドの含有量が、前記金属塩に対して8〜100質量%であることを特徴とする金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
(式中、R1は炭素数1〜6の一価の有機基、R2〜R5はそれぞれ独立に水素原子、アミノ基、又は炭素数1〜4の一価の有機基、R6は炭素数2〜6の分岐又は直鎖のアルキレン基、R7〜R8はそれぞれ独立に炭素数1〜6の分岐又は直鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。)
【請求項2】
前記金属塩の金属が、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項3】
前記金属塩が無機酸塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項4】
前記無機酸塩が、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、塩酸塩及びフッ化水素酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項5】
前記金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物が酸性であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物のpHが1〜3の範囲内の値であることを特徴とする請求項5に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項7】
前記第一アミドが、前記一般式[1]で表されるものであることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を塗布して前駆体薄膜を形成する工程と、前記前駆体薄膜を150℃〜400℃で焼成する工程と、前記焼成する工程の前に、前記前駆体薄膜を120℃以下の温度で乾燥させる工程と、を有することを特徴とする金属酸化物半導体層の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥させる工程の後に、前記前駆体薄膜をオゾンに曝す工程を更に有することを特徴とする請求項8に記載の金属酸化物半導体層の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥させる工程における乾燥温度が、95℃以下であることを特徴とする請求項8又は9に記載の金属酸化物半導体層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物半導体層を塗布法によって形成するための前駆体組成物、それより得られる金属酸化物半導体層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパッタ法によりアモルファス構造の金属酸化物半導体層を形成し、電界効果トランジスタ等の半導体デバイスを製造した例が提案されている。スパッタ法等により真空蒸着系の成膜装置を用いて半導体層を形成する場合、パターン形成にはマスク蒸着法やフォトリソグラフィによるエッチング法が主に用いられるが、このような方法に対しては、基板の大型化にコストがかかり工程が煩雑になる等の問題点が指摘されている。
【0003】
近年、上記の方法に対し、比較的簡易で低コスト化が可能な塗布法が提案されている。塗布法は、所望の前駆体組成物を基板等の塗布面に塗布して前駆体薄膜を形成し、これに加熱処理(焼成)等を施すことによって半導体層を形成するものである。このような塗布法に用いられる前駆体組成物としては、金属塩と、第一アミドと、水を主体とする溶媒とを含むアモルファス金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、特許文献1では、上記の「水を主体とする溶媒」について、50質量%以上が水であると定義されている。
【0004】
また、半導体デバイスに用いられる半導体層の性能を示す指標の一つとして、電子や正孔の移動のしやすさを示す移動度が知られている。移動度の高い半導体層を提供できる前駆体組成物の研究が盛んに行われており、アセチルアセトン又はウレアと、硝酸アンモニウムと、有機溶媒とを所望の割合で含有するアモルファス金属酸化物半導体層形成用の組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/014885号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2012/103528号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、主溶媒である水の表面張力が比較的高いため、前駆体組成物の表面張力も比較的高くなりやすかった。このため、前駆体組成物の塗布性が低下し、表面自由エネルギーが低く濡れにくい基板等の塗布面に対しては、前駆体組成物を均一に塗布することが困難となる場合があった。
【0007】
また、特許文献2では、アセチルアセトンやウレアを用い、硝酸アンモニウムを必須とする組成物以外の組成物については、一切検討がなされていなかった。
【0008】
ここで、アモルファス金属酸化物半導体層形成用の前駆体組成物において、第一アミドの量が多くなると、該駆体組成物の保存安定性が悪くなって劣化しやすくなり、移動度の高い半導体層を形成することが困難となる。従って、第1アミドの添加量を抑えて保存安定性に優れたアモルファス金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を如何にして提供するかについても、解決が待たれる課題であった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、保存安定性に優れ、表面自由エネルギーが低い塗布面に対しても均一に塗布することができ、移動度が高く、緻密性に優れた半導体層を形成することができる金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物、金属酸化物半導体層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物は、一般式[1]〜[4]で表される群から選択される少なくとも1種の第一アミドと、金属塩と、溶媒とを含み、前記溶媒に対する前記第一アミドの比率(溶媒:第一アミド)が、体積比にて94.1:5.9以下であり、前記溶媒の5質量%以上が一般式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であり、かつ、前記第一アミドの含有量が、前記金属塩に対して8〜100質量%であることを特徴とする。
【0011】
【化1】
(式中、Rは炭素数1〜6の一価の有機基、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アミノ基、又は炭素数1〜4の一価の有機基、Rは炭素数2〜6の分岐又は直鎖のアルキレン基、R〜Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の分岐又は直鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を表す。)
【0012】
また、前記金属塩の金属が、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、前記金属塩が無機酸塩であることが好ましい。
【0014】
また、前記無機酸塩が、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、塩酸塩及びフッ化水素酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
また、前記金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物が酸性であることが好ましい。
【0016】
また、前記金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物のpHが1〜3の範囲内の値であることが好ましい。
【0017】
また、前記第一アミドが、前記一般式[1]で表されるものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の他の態様の金属酸化物半導体層及びその製造方法は、上記に記載の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を塗布して前駆体薄膜を形成する工程と、前記前駆体薄膜を150℃〜400℃で焼成する工程と、前記焼成する工程の前に、前記前駆体薄膜を120℃以下の温度で乾燥させる工程と、を有することが好ましい。
【0019】
また、前記乾燥させる工程の後に、前記前駆体薄膜をオゾンに曝す工程を更に有することが好ましい。
【0020】
また、前記乾燥させる工程における乾燥温度が、95℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、保存安定性に優れる上、表面自由エネルギーが高い塗布面はもちろん、表面自由エネルギーが低い塗布面に対しても均一に塗布することができ、金属酸化物半導体層を形成することができる金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物となる。そして、この金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を用いれば、移動度が高く、緻密性に優れた金属酸化物半導体層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】薄膜トランジスタの構造例を示す概略断面図。
図2】薄膜トランジスタの構造例を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物(以下、単に「前駆体組成物」と称する場合がある。)は、上記式[1]〜[4]で表される群から選択される少なくとも1種の第一アミドと、金属塩と、溶媒とを含み、該溶媒に対する第一アミドの比率(溶媒:第一アミド)が、体積比にて94.1:5.9以下であり、該溶媒の50質量%以上が上記式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であり、かつ、第一アミドの含有量が、金属塩に対して8〜100質量%であるものである。以下、本発明について詳細に説明する。
【0027】
本発明の前駆体組成物は、上記第一アミドを含有するものである。これによれば、かかる第一アミドとともに、所望の有機溶媒を含有する前駆体組成物とすることで、移動度が高い金属酸化物半導体層(以下、単に「半導体層」と称する場合がある。)を形成することができるようになる。
【0028】
すなわち、前駆体組成物が所望の有機溶媒を含有する場合、この有機溶媒が金属塩と強く配位してしまい、高温で焼成を行っても高品質な半導体層が形成されないことがある。しかし、前駆体組成物に上記第一アミドを含有させることで、有機溶媒による悪影響を防止し、高品質であり、移動度の高い半導体層を形成することができるようになる。
【0029】
いかなる有機溶媒でも、第一アミドとの組み合わせで移動度の高い半導体層が得られるわけではないが、例えば、上記式[5]や上記式[6]を主体とする有機溶媒であれば、形成される半導体層の移動度を特に向上させることができる組成物とすることができる。
【0030】
このような第一アミドは、上記式[1]〜[4]中、Rは炭素数1〜6の一価の有機基、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、アミノ基(−NH基)、又は炭素数1〜4の一価の有機基を表すものである。このように、第一アミドは、炭素数が比較的少ないものを用いることができる。これによれば、形成される半導体層に炭素性の不純物が残存しにくくなり、不純物に起因した電気特性等の劣化を防止しやすくなる。ここで、有機基は、少なくとも1つの炭素原子を含む基をいう。
【0031】
具体的に、本発明の前駆体組成物が含有する第一アミドとしては、例えば以下の化合物[A−1]〜[A−35]を挙げることができる。
【0032】
【化2】
【0033】
【化3】
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
このような第一アミドは、炭素数1〜5の化合物であることが好ましい。これによれば、上記のように、形成される半導体層に炭素性の不純物が残存しにくくなり、不純物に起因した電気特性等の劣化を防止しやすくなる。
【0039】
そして、第一アミドは、一つの分子内のカルボニル基の数が1〜2であることが好ましく、1であることがより好ましい。さらに、第一アミドは、水酸基(−OH基)の数が1以下であることが好ましく、0であることがより好ましい。すなわち、第一アミドは、前駆体組成物中の他の成分と反応し得る高反応性の官能基が少ない構造を有することが好ましい。これによれば、高反応性の官能基が金属塩の金属と強く配位すること等を防ぐことができ、形成される半導体層にこれらの化合物が不純物として残存しにくくなる。
【0040】
よって、本発明の前駆体組成物が含有する第一アミドの好ましい態様としては、[A−1]〜[A−11]、[A−16]及び[A−18]〜[A−25]を挙げることができ、より好ましい態様としては、[A−1]〜[A−5]及び[A−19]〜[A−23]を挙げることができ、特に好ましい態様としては、[A−1](すなわち上記の一般式[1])で表されるものを挙げることができる。
【0041】
このように、ホルムアミド[A−1]やカルバミン酸メチル[A−19]等のような好ましい態様の第一アミドを用いれば、かかる第一アミドとともに、所望の有機溶媒を主溶媒として含有する前駆体組成物を作製でき、移動度が高い半導体層を形成することができるようになる。
【0042】
ただし、第一アミドは、本発明の要旨を変更しない範囲において前記の例に制限されない。第一アミドは、上記式[1]〜[4]で表される化合物を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、第一アミドとして特に好ましい態様である[A−1]を主成分として用いる場合においても、本発明の要旨を変更しない範囲において、後述する実施例に記載の程度を限度として他の化合物が含まれることは許容される。
【0043】
第一アミドの含有量は、金属塩に対して8〜100質量%である。第一アミドの含有量が上記範囲内の値であることにより、移動度の高い半導体層を形成しやすい前駆体組成物とすることができる。
【0044】
また、本発明の前駆体組成物は、金属塩を含有するものである。金属塩の金属は、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0045】
特に、金属塩の金属は、上記に挙げた金属の中で、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)の何れかを含むことがより好ましく、ガリウム(Ga)又はアルミニウム(Al)を含むことがさらに好ましい。これによれば、酸化インジウムガリウム亜鉛(InGaZnO)、酸化インジウムガリウム(InGaO)、酸化インジウムスズ亜鉛(InSnZnO)、酸化ガリウム亜鉛(GaZnO)、酸化インジウムスズ(InSnO)、酸化インジウム亜鉛(InZnO)、酸化スズ亜鉛(SnZnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)等の金属酸化物半導体層を形成することができるようになる。尚、何れもx>0である。
【0046】
一般に、半導体化合物を電界効果トランジスタ等に用いる場合、電気的特性や物理的強度等の観点から、その結晶性はアモルファスであることが好ましい。よって、上記のように所望の金属塩を用い、アモルファス金属酸化物半導体層を形成すれば、各種特性に優れた電界効果トランジスタ等の半導体デバイスを製造することができるようになる。尚、本明細書において、アモルファスは、X線回折(XRD)測定で、回折ピークが検出されないものや、回折ピークが検出されたとしてもその回折ピークが弱いものをいう。
【0047】
このような金属塩は、無機酸塩であることが好ましい。無機酸塩は、例えば硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、塩酸塩及びフッ化水素酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。特に、無機酸塩は、硝酸塩又は塩酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これによれば、焼成を比較的低温で行うことができるようになる。
【0048】
金属塩として硝酸塩を用いる場合、有機溶媒は、比較的分子量が小さく、疎水性の低いものを用いることができる。これによれば、水を吸収しやすい硝酸塩を所望の有機溶媒に好適に混合させることができるようになる。このように、金属塩は、有機溶媒の特性や種類を考慮して選択することができる。
【0049】
ただし、金属塩は、本発明の要旨を変更しない範囲において前記の例に制限されない。金属塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
2種以上の金属塩を併用する場合、すなわち、本発明の前駆体組成物が複数種の金属を含有する場合、InやSnの金属塩に含有される金属(金属A)と、Znの金属塩から選ばれる塩に含有される金属(金属B)と、GaやAlの金属塩に含有される金属(金属C)とのモル比が、金属A:金属B:金属C=1:0.05〜1:0〜1を満たすことが好ましい。これによれば、上記のようなInGaZnO等の金属酸化物半導体層を、好適に形成することができるようになる。
【0051】
このようなモル比を実現する方法は制限されず、所望の比率となるように、各金属の硝酸塩等を溶媒に溶解するようにすればよい。金属の昇華等によって、焼成等の前後でモル比の変動がある場合には、このような変動量を考慮してモル比を調節することができる。2種以上の金属塩を併用する場合であっても、各金属の種類や組成比は前記の例に制限されない。
【0052】
ここで、本発明の前駆体組成物は、溶媒の50質量%以上が、上記式[5]及び上記式[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒であるものである。これによれば、水よりも一般に表面張力が低い有機溶媒を用い、表面張力が低い前駆体組成物を得ることができる。これにより、表面自由エネルギーが高い塗布面はもちろん、表面自由エネルギーが低く濡れにくい塗布面に対しても、均一かつ容易に前駆体組成物を塗布することができ、半導体層を形成することができる。よって、各種特性に優れた電界効果トランジスタ等の半導体デバイスを製造することができるようになる。
【0053】
上記式[5]のRは、炭素数2〜6の分岐又は直鎖のアルキレン基を表すものである。炭素数7以上であると、疎水性が大きくなり、前駆体組成物が水相及び有機相の2相に分離しやすくなる。また、分子量が大きくなり沸点が高くなって、形成される半導体層に有機溶媒が不純物として残留しやすくなる。一方、炭素数1以下であると、化合物を有機溶媒として安定的に存在させることが困難となる。また、分子量が小さくなり沸点が低くなって、前駆体組成物を塗布して前駆体薄膜を形成する工程の実施中や実施後に、前駆体薄膜にピンホールが発生しやすくなる。
【0054】
上記式[5]のRは、炭素数1〜6の分岐又は直鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を表すものである。炭素数7以上や炭素数0であると、上記のRの場合と同様に、疎水性、不純物残存性、安定性の観点から、所望の前駆体組成物や半導体層を得ることが困難となりやすい。
【0055】
従って、本発明の前駆体組成物が含有する上記式[5]の有機溶媒としては、例えば以下の化合物[B−1]〜[B−18]を挙げることができる。
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
このような上記式[5]のRは、上記炭素数2〜6の範囲内で分岐構造とすることができる。これによれば、炭素数が同じである直鎖構造のものと比較して疎水性が低くなるため、前駆体組成物の分離を防止しやすくなり、また、Rの炭素数が比較的大きい場合であっても本発明の有機溶媒として好適に使用することができるようになる。従って、Rが分岐構造の場合、Rは炭素数3〜5であることが好ましく、炭素数3〜4であることがより好ましい。一方、Rが直鎖構造である場合、Rは炭素数2〜4であることが好ましく、炭素数2〜3であることがより好ましい。
【0061】
そして、上記式[5]のRも、上記炭素数1〜6の範囲内で分岐構造とすることができる。これによれば、Rと同様に、前駆体組成物の分離を防止しやすくなるとともに、Rの炭素数が比較的大きい場合であっても好適に使用することができるようになる。従って、Rが分岐構造である場合、Rは炭素数3〜5であることが好ましく、炭素数3〜4であることがより好ましい。一方、Rが直鎖構造である場合、Rは炭素数1〜3であることが好ましく、炭素数1〜2であることがより好ましい。
【0062】
よって、本発明の前駆体組成物が含有する上記式[5]の有機溶媒の好ましい態様として[B−1]、[B−2]、[B−4]を挙げることができる。
【0063】
このように、上記式[5]の有機溶媒が、1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)[B−1]、3−メトキシ−1−ブタノール[B−2]、2−メトキシエタノール[B−4]等のような好ましい態様の化合物であれば、前駆体組成物の表面張力が低いものとなり、表面自由エネルギーが低い塗布面に対しても、前駆体組成物を均一に塗布することができるようになる。
【0064】
ただし、上記式[5]の有機溶媒は、本発明の要旨を変更しない範囲において前記の例に制限されない。上記式[5]の有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
また、上記式[6]のRは、炭素数1〜6の分岐又は直鎖のアルキル基若しくはアルケニル基を表すものである。炭素数7以上や炭素数0であると、上記Rの場合と同様に、疎水性、不純物残存性、安定性の観点から、所望の前駆体組成物や半導体層を得ることが困難となりやすい。
【0066】
従って、本発明の前駆体組成物が含有する上記式[6]の有機溶媒のとしては、例えば以下の化合物[C−1]〜[C−17]を挙げることができる。
【0067】
【化12】
【0068】
【化13】
【0069】
【化14】
【0070】
このような上記式[6]のRは、上記炭素数1〜6の範囲内で分岐構造とすることができる。これによれば、炭素数が同じである直鎖構造のものと比較して疎水性が低くなるため、前駆体組成物の分離を防止しやすくなり、また、Rの炭素数が比較的大きい場合であっても本発明の有機溶媒として好適に使用することができるようになる。従って、Rが分岐構造の場合、Rは炭素数3〜6であることが好ましく、炭素数3〜5であることがより好ましい。一方、Rが直鎖構造である場合、Rは炭素数1〜5であることが好ましく、炭素数1〜4であることがより好ましい。
【0071】
よって、本発明の前駆体組成物が含有する上記式[6]の有機溶媒の好ましい態様としては、[C−3]、[C−5]〜[C−7]及び[C−9]〜[C−13]を挙げることができる。これによれば、前駆体組成物の表面張力が低いものとなり、表面自由エネルギーの低い塗布面に対しても、前駆体組成物を均一に塗布することができるようになる。
【0072】
ただし、上記式[6]の有機溶媒は、本発明の要旨を変更しない範囲において前記の例に制限されない。上記式[6]の有機溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
ここで、本発明の前駆体組成物は、上記式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒を主溶媒(50質量%以上)とするものである。これによれば、上記のように、前駆体組成物の塗布性を向上させることができる。よって、上記式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒は、55質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。これによれば、前駆体組成物の塗布性をより向上させ、半導体層の成膜性をより向上させることができるようになる。
【0074】
上記式[5]〜[6]の有機溶媒は、何れか一方を用いてもよく、組み合わせて用いても良い。この場合、有機溶媒の沸点が90℃以上、好ましくは120℃以上となるように調製することが好ましい。これによれば、有機溶媒の沸点が低すぎるために、前駆体組成物を塗布して前駆体薄膜を形成する工程の実施中やその工程の実施後において、前駆体薄膜にピンホールが発生することを防止できるようになる。
【0075】
例えば、主溶媒として、上記式[6]のRが炭素数1や2である有機溶媒(メタノールやエタノール)を選択とする場合、有機溶媒全体の沸点は低いものとなりやすいが、これに高沸点である有機溶媒を組み合わせることで、沸点が所望の値以上となるように調製することができる。
【0076】
尚、溶媒は、その50質量%以上を一般式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒とする範囲内で、他の有機溶媒や水を含んでいてもよい。ここで使用できる他の有機溶媒としては、親水性の有機溶媒であるアルコール類が挙げられる。また、ここで使用できる水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水等が挙げられる。
【0077】
これらの他の有機溶媒や水も、本発明の要旨を変更しない範囲において前記の例に制限されず、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
以上説明した本発明の前駆体組成物は、酸性であることが好ましい。特に、前駆体組成物のpHが1〜3の範囲内の値であることが好ましい。
【0079】
前駆体組成物のpHを上記範囲の値に調節する方法は制限されない。例えば硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、塩酸及びフッ化水素酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の添加量を調節することにより、前駆体組成物のpHを調節することができる。
【0080】
本発明の前駆体組成物中の固形分濃度は特に制限されず、例えば0.1〜30.0質量%とすることができ、0.3〜20.0質量%とすることができ、0.5〜15.0質量%とすることができる。尚、固形分濃度とは、金属塩の濃度である。
【0081】
このような前駆体組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上記式[1]〜[4]で表される群から選択される少なくとも1種の第一アミドと、金属塩と、50質量%以上が上記式[5]〜[6]で表される群から選択される少なくとも1種の有機溶媒である溶媒とを混合させればよい。
【0082】
そして、本発明の前駆体組成物を基板等の塗布面に塗布(塗布工程)して前駆体薄膜を形成した後、150℃以上で焼成(焼成工程)することで、本発明の半導体層を得ることができる。特に本発明では、焼成工程する工程の前に、120℃以下の温度で乾燥する乾燥工程(乾燥工程)を実施するようにしている。すなわち、本発明の金属酸化物半導体層の製造方法は、塗布工程後に、比較的低温で熱処理を施す工程(乾燥工程)し、次いで高温で熱処理を施す工程(焼成工程)を実施するという、二段階での熱処理プロセスを経るものである。尚、塗布工程、乾燥工程及び焼成工程を、この順番で複数回実施し、複数層からなる金属酸化物半導体層を製造するようにしてもよい。
【0083】
低温での熱処理を施す工程(乾燥工程)を行わないと、上記式[5]や上記式[6]で表される有機溶媒である1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)[B−1]や2−メトキシエタノール[B−4]等の低沸点の溶媒の乾燥が、高温で熱処理を施す工程(焼成工程)において急激に進むことになる。その結果、形成される半導体層に膜荒れ等の悪影響が生じ、移動度が低くなる。一方、比較的高沸点である第一アミド(例えば上記の式[A−1])の量が多い場合には、焼成工程での有機溶媒の急激な乾燥を抑えやすくなるものの、上記のように前駆体組成物の保存安定性が悪くなって劣化しやすくなり、やはり移動度の高い半導体層を形成することが困難となる。
【0084】
これに対し、本発明のような二段階での熱処理プロセスを経ることで、上記式[5]や上記式[6]で表される有機溶媒の急激な乾燥を好適に抑制でき、これにより、第一アミドの量が少ない金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を用いたとしても、その第一アミドの移動度改善効果を十分に発揮させることができる。
【0085】
つまり、本発明では、第一アミドの添加量を抑え、保存安定性に優れた金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物とすることができる。そして、二段階での熱処理プロセスを経るようにすることで、そのような金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物を用い、移動度が高く、緻密性に優れた金属酸化物半導体層を得ることができる。
【0086】
塗布工程において、前駆体組成物を塗布する基板としては、シリコン基板、金属基板、プラスチック基板、ガリウム基板、透明電極基板、有機薄膜基板、ガラス基板等が挙げられる。より具体的には、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのプラスチックフィルム、ステンレス箔、ガラス等を用いることができる。ただし、基板は、本発明の要旨を変更しない限りにおいて制限されない。
【0087】
塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、スクリーン印刷法、ロールコート、インクジェットコート、ダイコート法、転写印刷法、スプレー法、スリットコート法等を用いることができる。このように、本発明の前駆体組成物によれば、各種の塗布法によって前駆体薄膜を形成することが可能である。従って、スパッタ法等の真空蒸着系の成膜装置を用いる場合と比較して、簡易な構成で大面積化が容易となり、移動度の高い緻密性に優れた半導体層を形成することができるようになる。
【0088】
前駆体薄膜の厚さは、1〜1000nmであり、好ましくは10〜100nmである。このような厚さであれば、電界効果トランジスタの一種である薄膜トランジスタ等の半導体デバイスを好適に製造することができるようになる。尚、一回の塗布・焼成処理により所望の厚さが得られない場合には、塗布・焼成工程を所望の膜厚となるまで繰り返せばよい。
【0089】
基板上に塗布された前駆体薄膜を乾燥・焼成することにより、本発明の半導体層を得ることができる。前駆体組成物の乾燥は、95℃以下とすることができる。これによれば、上記式[5]や上記式[6]で表される有機溶媒の急激な乾燥を確実に抑制でき、第一アミドの移動度改善効果を十分に発揮させることができる。乾燥時間は特に限定されないが、例えば、1〜10分である。
【0090】
前駆体組成物の焼成は、金属塩の酸化反応のための工程である。この焼成温度は、150〜400℃とすることができ、150〜275℃とすることが好ましい。焼成時間は特に限定されないが、例えば、3分〜24時間である。乾燥工程と焼成工程との間に、前駆体薄膜をオゾンに曝す工程を更に実施してもよい。前駆体薄膜をオゾンに曝す工程は、後述する実施例に示すように、乾燥工程後の前駆体薄膜を低圧水銀ランプから生じる紫外線や、紫外線により発生したオゾンに曝すことで行うことができる。
【0091】
このような工程により、基板上に半導体層を形成することができる。半導体層の厚さは特に限定されないが、例えば1〜100nmとすることができる。好ましくは、3〜15nmである。
【0092】
乾燥工程や焼成工程において、前駆体組成物を加熱する方法は制限されず、ホットプレート、IR炉、オーブンなどの汎用性が高く安価な加熱装置を用いることができる。もちろん、大気圧プラズマ装置やマイクロ波加熱装置等の、比較的高価であるものを用いても構わない。焼成工程や乾燥工程を行う雰囲気は、空気中、酸素等の酸化雰囲気だけでなく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス中で行うこともできる。
【0093】
以上説明した半導体層を具備し、本発明の半導体デバイスを得ることができる。本発明の半導体デバイスは、本発明の半導体層を具備して作製した伝導体をいい、半導体ダイオード、太陽電池、及び電界効果トランジスタ等を含むものである。
【0094】
次に、本発明の金属酸化物半導体層を用いた半導体デバイスとしての電界効果トランジスタについて、詳細に説明する。図1(a)〜図1(c)は、本発明の電界効果の一種である薄膜トランジスタ1A〜1Cの構成例を示す概略断面図である。
【0095】
図1(a)に示す薄膜トランジスタ1Aは、基板2と、基板2上に形成されるゲート電極3と、ゲート電極3上に形成されるゲート絶縁膜4と、ゲート電極3と絶縁するよう、ゲート絶縁膜4上に積層されるソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6上に形成される半導体層7とを具備している。つまり、図1(a)に示す薄膜トランジスタ1Aは、ゲート絶縁膜4上にソース電極5及びドレイン電極6が対向設置され、このソース電極5及びドレイン電極6を覆うように、本発明の半導体層7が形成されている。
【0096】
一方、図1(b)に示す薄膜トランジスタ1Bは、ゲート絶縁膜4上に本発明の半導体層7が形成され、その上に、ソース電極5及びドレイン電極6が形成されている。
【0097】
さらに、図1(c)に示す薄膜トランジスタ1Cは、基板2上に本発明の半導体層7が形成され、この半導体層7の一部を覆うように、ソース電極5及びドレイン電極6が形成されている。そして、半導体層7とソース電極5及びドレイン電極6との上にゲート絶縁膜4が形成され、この上にゲート電極3が配置されている。
【0098】
このような薄膜トランジスタ1A〜1Cは、移動度が高く、緻密性の高い本発明の半導体層7を具備するため、電気的特性等の各種特性に優れたものとなっている。ただし、薄膜トランジスタの構成は、本発明の半導体層7を用いて構成されたものであればよく、本発明の要旨を変更しない範囲において、各構成部材の配置を適宜変更することが可能である。
【0099】
基板2は、上記前駆体薄膜を形成する基板と同様のものを用いることができる。すなわち、基板としては、シリコン基板、金属基板、プラスチック基板、ガリウム基板、透明電極基板、有機薄膜基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0100】
電極材料(ゲート電極3、ソース電極5及びドレイン電極6の材料)は、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、モリブデン、チタン等の金属や、ITO、IZO、カーボンブラック、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の無機材料、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリフルオレン及びこれらの誘導体等の有機π共役ポリマーを用いることができる。これらの電極材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ゲート電極3、ソース電極5、ドレイン電極6のそれぞれにおいて、異なる電極材料を用いることもできる。用いる基板がゲート電極3の機能を有する場合には、ゲート電極3の構成を省略することも可能である。
【0101】
ゲート絶縁膜4は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウムなどの無機絶縁膜、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルフェノール、ベンゾシクロブテン等の有機絶縁膜を用いることができる。これらのゲート絶縁膜は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
これらの電極材料やゲート絶縁膜4の形成方法としては、スパッタ法、真空蒸着法等を用いることもできるが、製造方法の簡略化のため、スプレーコート法、印刷法、インクジェット法等、各種の塗布法を用いても良い。基板としてシリコン基板を用いる場合、ゲート絶縁膜は、熱による酸化によっても形成することができる。
【0103】
半導体層7は、電子キャリア濃度を、1012〜1018/cmとすることができ、1013〜1018/cmとすることが好ましい。このような電子キャリア濃度は、金属酸化物の組成(構成元素)、組成比、製造条件等を制御することにより、調節することができる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明について、実施例に基づいてさらに詳述する。ただし、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0105】
<原液>
〔製造例1〕
硝酸インジウム(III)3水和物29.787g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)と硝酸亜鉛6水和物7.461g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)とを超純水62.7524gに添加し、溶液が完全に透明になるまで攪拌し、この溶液を原液Aとした。
【0106】
〔製造例2〕
硝酸インジウム(III)3水和物10.624g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)と硝酸亜鉛6水和物2.661g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)とを1−メトキシ−2−プロパノール(PGME)36.715gに添加し、溶液が完全に透明になるまで攪拌し、この溶液を原液Bとした(この原液Bには5.17質量%の水分が含まれる。)。
【0107】
<金属酸化物半導体層形成用前駆体組成物>
〔実施例1〕〜〔実施例7〕
原液A1.2gにホルムアミド0.040g(東京化成社製98.5%)と超純水3.48gとPGME5.28gとを添加し、溶液が均一になるまで攪拌した。この溶液を前駆体組成物とした(実施例1)。また、原液A、ホルムアミド、超純水及びPGMEの使用量を表1のように変更し、実施例1と同様の手法により各溶液を得て、それぞれ前駆体組成物とした。
【0108】
〔実施例8〕
硝酸インジウム(III)3水和物0.361g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)と硝酸亜鉛6水和物0.090g(Aldrich社製、99.999%trace metals basis)とホルムアミド0.036g(東京化成社製98.5%)とをPGME9.51gに添加し、溶液が完全に透明になるまで攪拌し、この溶液を前駆体組成物とした。尚、実施例8では、硝酸インジウム(III)3水和物と硝酸亜鉛6水和物とから水を除いた金属塩粉末を原液と定義した(表1中「金属塩粉末添加」と記載)。ここで、金属塩と共に前駆体組成物に持ち込まれる水分は0.09gである(表1中では「純水」の項目に記載)。
【0109】
〔実施例9〕〜〔実施例10〕
原液Aに代えて原液Bを使用するとともに、各原料の使用量を表1のように変更し、実施例1と同様の手法により各溶液を得て、それぞれ前駆体組成物とした。
【0110】
〔比較例1〕
原液A3gにホルムアミド0g(東京化成社製98.5%)と超純水6.00gとPGME0gとを添加し、溶液が均一になるまで攪拌した。すなわち、ホルムアミド及びPGMEを添加せず、実施例1と同様の手法により溶液を得て、この溶液を比較用前駆体組成物とした。
【0111】
〔比較例2〕〜〔比較例19〕
また、原液A、ホルムアミド、超純水及びPGMEの使用量を表1のように変更し、実施例1と同様の手法により各溶液を得て、それぞれ比較用前駆体組成物とした。
【0112】
〔比較例20〕〜〔比較例21〕
原液Aに代えて原液Bを使用するとともに、各原料の使用量を表1のように変更し、実施例1と同様の手法により各溶液を得て、それぞれ比較用前駆体組成物とした。
【0113】
実施例1〜10の前駆体組成物、及び比較例1〜21の比較用前駆体組成物について、各原料の使用量を表1に示す。
【0114】
〔実施例11〕〜〔実施例15〕及び〔比較例22〕〜〔比較例25〕
第一アミドや有機溶媒の種類や使用量を表2のように変更し、実施例1と同様の手法により各溶液を得て、それぞれ前駆体組成物及び比較用前駆体組成物とした。
【0115】
実施例11〜15の前駆体組成物、及び比較例22〜25の比較用前駆体組成物について、各原料の種類や使用量を表2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
また、実施例1〜7の前駆体組成物、及び比較例16、18〜19の比較用前駆体組成物について、溶媒に対する第一アミドの比率(溶媒:第一アミド)を質量比及び体積比にて算出した。結果を表3に示す。
【0119】
表3から分かるように、実施例1〜7の前駆体組成物は、溶媒に対する第一アミドの比率(溶媒:第一アミド)が体積比にて94.1:5.9以下である。
【0120】
【表3】
【0121】
<金属酸化物半導体層>
次に、実施例1の前駆体組成物を、SiO膜付きシリコン基板上にスピンコートで塗布し、その後、乾燥、UVオゾン処理(300秒)、本焼成を順に行う事で、膜厚が10nmの均一な金属酸化物半導体層が形成されたSiO膜付きシリコン基板を1枚得た。ここで使用したSiO膜付きシリコン基板は、p型の低抵抗(0.02Ωcm)であり、ウェハの全面に、熱酸化法により200nmの膜厚でSiO膜が成膜されている。
【0122】
スピンコート前のSiO膜付きシリコン基板の洗浄は次の通り行った。アセトンでSiO表面の有機残渣を除去し、超純水超音波洗浄によりSiO表面のパーティクルを除去し、エアーブロアーを使用して超純水を十分に乾燥させ、最後に、UVオゾン装置を使用してSiO表面にUVオゾンを300秒間照射し親水化した。
【0123】
乾燥は、100℃のホットプレート上に5分間、前駆体組成物が塗布されたSiO膜付きシリコン基板を置くことで行った。UVオゾン処理は、乾燥後の膜を低圧水銀ランプから生じる紫外線および、紫外線により発生したオゾンに5分間晒すことで行った。本焼成は、300℃のホットプレート上に60分間、UVオゾン処理後の膜が形成されたシリコン基板を置く事で行った。
【0124】
実施例1〜15(実施例14を除く)の前駆体組成物を用い、乾燥温度を表4に記載の温度とした以外は上記と同様の手順で、膜厚が10nmの均一な金属酸化物半導体層が形成されたSiO膜付きシリコン基板を得た。
【0125】
比較例1〜25の比較前駆体組成物を用い、乾燥温度を表4に記載の温度とした以外は、上記と同様の手順で、膜厚が10nmの均一な金属酸化物半導体層が形成されたSiO膜付きシリコン基板を得た。
【0126】
<薄膜トランジスタ及び移動度測定>
実施例1〜15(実施例14を除く)、比較例1〜25(比較例6〜8を除く)の前駆体組成物及び比較用前駆体組成物を用いて作製した半導体層を具備し、図2に示す薄膜トランジスタ1Dを作製した。
【0127】
すなわち、金属酸化物半導体層7が形成された熱酸化膜(SiO2、ゲート絶縁膜4)が形成されているp型シリコン基板(抵抗値0.02Ωcm)2上に、100nmのアルミニウム電極を形成した。アルミニウム電極は、抵抗加熱式真空蒸着法でシャドーマスクを介して金属酸化物半導体層7上に堆積させた。ここで成膜したアルミニウム電極は、薄膜トランジスタ1Dのソース電極5、ドレイン電極6となる。薄膜トランジスタ1Dのチャネル長は90μm、チャネル幅は2mm、ゲート絶縁膜4の比誘電率は3.9、ゲート絶縁膜4の膜厚は200nmとした。尚、基板2は、ゲート電極としても機能するものである。
【0128】
上記のように薄膜トランジスタ1Dを作製し、薄膜トランジスタ1Dの伝達特性から金属酸化物半導体の移動度を計算した。伝達特性の測定は、半導体パラメータアナライザーHP4156C(アジレント・テクノロジー(株)製)を用いた。薄膜トランジスタ1Dはノイズの影響を軽減するためシールドケース内に設置した。シールドケース内は大気圧、23±3℃、湿度40±10%に保った。
【0129】
図2に示す薄膜トランジスタ1Dでは、ソース電極5及びドレイン電極6を電気的に接続する配線8に、ドレイン電圧Vを印加する電源9を配置し、ソース電極5及びp型基板2を電気的に接続する配線10に、ゲート電圧Vを印加する電源11を配置した。ゲート電圧Vは−30Vから+30Vまで1Vステップで掃引(Sweep)し、ドレイン電圧Vを+20Vとしたときの、ソース電極5及びドレイン電極6の間に流れる電流(ドレイン電流)Iの増加(伝達特性)を測定した。
【0130】
一般に、飽和状態におけるドレイン電流Iは下記式で表すことができる。金属酸化物半導体の移動度μは、ドレイン電流Iの絶対値の平方根を縦軸に、ゲート電圧Vを横軸にプロットしたときのグラフの傾きから求めることができる。本発明では、下記式(1)を用いて移動度を算出した。
【0131】
[式1]
=WCμ(V−V/2L ・・・ (1)
(式中、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、Cはゲート絶縁膜の静電容量、Vはトランジスタの閾値電圧、μは移動度を示す。)
【0132】
<成膜性評価1>
成膜性を評価するため、実施例2の前駆体組成物をUVオゾン洗浄したSiO膜付きシリコン基板(25mmx25mm)上にスピンコートで塗布した。このときのスピンコート条件は回転数1500rpmで30秒間とした。回転が終わってから15秒後に100℃のホットプレート上でシリコン基板を乾燥させ、最後に、300℃のホットプレート上で焼成することで金属酸化物膜を得た。実施例2の前駆体組成物は、シリコン基板の50%以上の領域に膜を形成することができた。
【0133】
スピンコート前のSiO膜付きシリコン基板の洗浄は次の通り行った。アセトンでSiO表面の有機残渣を除去し、超純水超音波洗浄によりSiO表面のパーティクルを除去し、エアーブロアーを使用して超純水を十分に乾燥させ、最後に、UVオゾン装置を使用してSiO表面にUVオゾンを90秒間照射し親水化した。
【0134】
<成膜性評価2>
実施例7の前駆体組成物を用いた以外は、成膜性評価1と同様の手順で成膜性を評価した。実施例7の前駆体組成物は、シリコン基板の50%以上の領域に膜を形成することができた。
【0135】
また、比較例1〜4の比較用前駆体組成物を用いた以外は成膜性評価1と同様の手順で成膜性を評価した。比較例1〜4の比較用前駆体組成物はスピンコート中に液が弾かれ、全く膜を成膜することができなかった。
【0136】
また、比較例6〜9の比較用前駆体組成物を用いた以外は成膜性評価1と同様の手順で成膜性を評価した。比較例6〜8の比較用前駆体組成物はスピンコート中に液が弾かれ、全く膜を成膜することができなかった。比較例9の比較用前駆体組成物はシリコン基板の20%以下の領域にしか膜を形成することが出来なかった。これら比較前駆体組成物は、UVオゾンを十分に照射し親水化されたシリコン基板には成膜する事ができるが、洗浄が不十分で表面自由エネルギーの低い基板に対しては、塗布液としては使用できないことが示された。
【0137】
<XPS(X線光電子分光)による測定>
測定の前処理として、Arクラスターイオン銃で金属酸化物半導体層の最表層を除去した後、真空を破らず金属酸化物の最表層をXPS測定した。尚、分析装置及び測定条件は以下の装置及び条件とした。
〔XPS分析装置〕
PH15000 versa probeII(アルバック・ファイ社製)
〔XPS測定条件〕
XPS線源:モノクロ−Al
X線出力:25W(15KV)
測定面積:100μmφ
【0138】
具体的に、実施例2の前駆体組成物をシリコン基板上にスピンコートで塗布し、その後、乾燥、UVオゾン処理(300秒)、本焼成を順に行う事で得られた膜厚が10nmの均一な金属酸化物半導体層について、XPS測定を行った。該金属酸化物半導体層の原子組成は、Oは55.2atom%、Inは35.0atom%、Znは9.8atom%となった。InとZnの原子比は約3.6:1であり、前駆体組成物の組成比とほぼ一致した。
【0139】
実施例1〜15(実施例14を除く)の前駆体組成物及び比較例1〜25の比較前駆体組成物を用い、金属酸化物半導体層を作製した際の乾燥温度を表4に示す。尚、表4には、各前駆体組成物中の固形分濃度をあわせて示す。また、移動度や成膜性の測定結果を表5に示す。
【0140】
【表4】
【0141】
【表5】
【0142】
表5から分かるように、実施例の前駆体組成物によれば、基板の50%以上の領域に膜を形成することができ、移動度が4.00cm2/Vs以上である半導体層等を作製できた。かかる半導体層は、その成膜性の高さから、緻密性にも優れたものであると言える。よって、本発明によれば塗布性に優れた前駆体組成物を得ることができ、移動度が高く、緻密性に優れた半導体層やトランジスタ等の半導体デバイス等を製造できることが確認された。
【0143】
<保存安定性及び移動度の評価>
〔実施例16〕
実施例2の前駆体組成物を室温(23℃±3℃)条件にて24時間保管したのち、この前駆体組成物を、SiO膜付きシリコン基板上にスピンコートで塗布(塗布工程)し、その後、乾燥工程、UVオゾン処理(300秒)、焼成工程を順に行うことで、膜厚が10nmの均一な金属酸化物半導体層が形成されたSiO膜付きシリコン基板を1枚得た。ここで使用したSiO膜付きシリコン基板は、p型の低抵抗(0.02Ωcm)であり、ウェハの全面に、熱酸化法により200nmの膜厚でSiO膜が成膜されている。
スピンコート前のSiO膜付きシリコン基板の洗浄は次の通り行った。アセトンでSiO表面の有機残渣を除去し、超純水超音波洗浄によりSiO表面のパーティクルを除去し、エアーブロアーを使用して超純水を十分に乾燥させ、最後に、UVオゾン装置を使用してSiO表面にUVオゾンを300秒間照射し親水化した。
【0144】
乾燥(乾燥工程)は、100℃のホットプレート上に5分間、前駆体組成物が塗布されたSiO膜付きシリコン基板を置くことで行った。UVオゾン処理は、乾燥後の膜を低圧水銀ランプから生じる紫外線、及び紫外線により発生したオゾンに5分間曝すことで行った。本焼成は、300℃のホットプレート上に60分間、UVオゾン処理後の膜が形成されたシリコン基板を置くことで行った。さらに、前記の手順で移動度評価用の薄膜トランジスタを作製した。
【0145】
〔実施例17〕及び〔比較例26〕〜〔比較例29〕
下記の表6に示す前駆体組成物を室温(23℃±3℃)条件にて表6に示す時間保管したのち、実施例16と同様の手順で金属酸化物半導体層が形成されたSiO膜付きシリコン基板を各々1枚得た。さらに、前記の手順で移動度評価用の薄膜トランジスタを作製した。
【0146】
【表6】
【0147】
表6に示すように、室温で長時間保管した比較例18及び19の前駆体組成物から得た金属酸化物半導体層は、移動度が低くなる傾向を示すことが分かった(比較例26〜29)。これは、第一アミドの添加量が多い前駆体組成物は室温保管にて劣化が進むことを示している。比較例18は固形分の300質量%のホルムアミドが添加されており、比較例19は固形分の500質量%のホルムアミドが添加されている。溶媒:ホルムアミドに換算すると、各々体積比にて91:9、84:16である。
【0148】
一方、実施例2の前駆体組成物は固形分の11質量%のホルムアミドが添加されている。ホルムアミドの添加量が100質量%以下で、且つ、溶媒:ホルムアミドの比率が体積比にて94.1:5.9以下にすることで、保存安定性に優れた前駆体組成物から移動度の高い半導体膜を形成することが可能であることが示された。
【0149】
<乾燥工程における乾燥温度の変更>
〔実施例18〕〜〔実施例19〕
乾燥温度を80℃にした以外は実施例16と同様の手順で金属酸化物半導体層を形成し、薄膜トランジスタを作製した(実施例18)。実施例18における移動度は5.4cm/Vsであった。また、乾燥温度を60℃にした以外は実施例16と同様の手順で酸化物半導体層を形成し薄膜トランジスタを作製した(実施例19)。実施例19における移動度は6.2cm/Vsであった。
【0150】
よって、乾燥工程における乾燥温度が例えば95℃以下であっても、移動度の高い半導体膜を形成することが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0151】
1A,1B,1C,1D 薄膜トランジスタ
2 基板
3 ゲート電極
4 ゲート絶縁膜
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 半導体層(金属酸化物半導体層)
8,10 配線
9,11 電源
図1
図2