【実施例】
【0028】
(実施例1)
先ず、ダイヤモンド基板上に、マイクロ波を用いたプラズマ化学気相堆積装置(Astex社製(現コーンズテクノロジー社製)、AX5200S)により、ホッピング伝導性を有するn型ダイヤモンド半導体層を成長させて形成した。より具体的には、ダイヤモンド源としての水素(H
2)及びメタン(CH
4)、n型不純物源としてのホスフィン(PH
3)の各原料ガスを、CH
4/H
2=0.05%、PH
3/CH
4=50%となる流量比で反応容器内に導入し、75Torr(約10
4Pa)の圧力下で、750Wのマイクロ波出力により前記各原料ガスをプラズマ化させて行った。前記n型ダイヤモンド半導体層の成長時間は、6時間とし、形成された前記n型ダイヤモンド半導体層の厚みは、1.5μmであった。また、前記n型ダイヤモンド半導体層中にドープされたリン濃度は、1×10
20cm
−3であった。
【0029】
次いで、高速熱処理装置(アルバック理工株式会社製)の反応容器内に前記n型ダイヤモンド半導体層が形成された前記ダイヤモンド基板を配し、真空中にて、1,200℃で10分間加熱し、前記n型ダイヤモンド半導体層の表層中のダイヤモンド構造を構造相転移させ、膜厚が一様なグラファイト層を形成し、前記n型ダイヤモンド半導体層と前記グラファイト層との積層体を形成した。加熱雰囲気は、真空中に限らず、不活性ガス雰囲気中、例えば、窒素雰囲気中やアルゴン雰囲気中でも構わない。
【0030】
次いで、真空蒸着装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いて、前記グラファイト層上に、チタン、白金、金の各電極層がこの順で積層された積層金属電極を形成した。なお、チタン電極層の厚みは30nm、白金電極層の厚みは30nm、金電極層の厚みは100nmとした。
最後に、プラズマアッシャー装置(ヤマト科学社製、PR500)を用いた酸素プラズマエッチングにより、余分な前記グラファイト層を除去し、前記ダイヤモンド基板上に、前記n型ダイヤモンド半導体層、前記グラファイト層、前記積層金属電極をこの順で配した構造の実施例1に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
なお、前記グラファイト層及び前記積層金属電極で構成される電極部を、前記n型ダイヤモンド半導体層上に複数形成することとし、各電極部の配置は、TLM法(Transfer Length Method;伝送長法)による、前記n型ダイヤモンド半導体層−前記電極部間の接触抵抗の測定のため、
図1に示す配置とした。なお、
図1は、n型ダイヤモンド半導体層上における各電極部の配置を示す上面図であり、図中のWは、前記各電極部の長手方向の幅を示し、前記電極部の短手方向に隣接して配される前記各電極間の間隔をdとする。
【0031】
(実施例2)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から1,300℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。なお、前記n型ダイヤモンド半導体層中のリン濃度は、基板のオフ角に依存し、実施例1と同様のドープ条件においても、1〜3×10
20cm
−3の範囲で変動する。ここでは、リン濃度が2×10
20cm
−3である前記n型ダイヤモンド半導体層に対して前記グラファイト層を形成することとした。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から1,400℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0033】
(実施例4)
実施例2において、前記グラファイト層を形成する温度を1,300℃から1,450℃に変えたこと以外は、実施例2と同様にして、実施例4に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0034】
(比較例1)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から1,100℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0035】
(比較例2)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から1,000℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0036】
(比較例3)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から900℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0037】
(比較例4)
実施例1において、前記グラファイト層を形成する温度を1,200℃から800℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0038】
(比較例5)
実施例2において、前記n型ダイヤモンド半導体層の形成条件をPH
3/CH
4=50%からPH
3/CH
4=1%に変えることで、前記リン濃度を2×10
20cm
−3から3×10
19cm
−3に変えたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例5に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0039】
(比較例6)
実施例2において、前記n型ダイヤモンド半導体層の形成条件をPH
3/CH
4=50%からPH
3/CH
4=500ppmに変えることで、前記リン濃度を2×10
20cm
−3から2×10
18cm
−3に変えたこと以外は、実施例2と同様にして、比較例6に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0040】
(比較例7)
実施例2において、前記グラファイト層を形成せず、前記n型ダイヤモンド半導体層上に直接、前記チタン/白金/金の積層電極層を形成した後、高速熱処理装置(アルバック理工株式会社製)を用いて、Ar雰囲気下、420℃で30分間のフォーミングアニールを行い、前記n型ダイヤモンド半導体層と前記チタン電極層との界面に、これらの層を化学反応させた炭化チタン(TiC)層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例7に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0041】
(比較例8)
実施例2において、前記グラファイト層を形成せず、前記n型ダイヤモンド半導体層上に直接、真空蒸着装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いて、ニッケル電極層を厚み30nmで形成し、その後、前記ニッケル電極層上に前記積層金属電極を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例8に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0042】
(比較例9)
実施例2において、前記グラファイト層を形成せず、前記n型ダイヤモンド半導体層上に直接、真空蒸着装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いて、白金電極層を厚み30nmで形成し、その後、前記白金電極層上に前記積層金属電極を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例9に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0043】
(比較例10)
実施例2において、前記グラファイト層を形成せず、前記n型ダイヤモンド半導体層上に直接、真空蒸着装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いて、アルミニウム電極層を厚み30nmで形成し、その後、前記アルミニウム電極層上に前記積層金属電極を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例10に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0044】
(比較例11)
実施例2において、前記グラファイト層を形成せず、前記n型ダイヤモンド半導体層上に直接、真空蒸着装置(エイコー・エンジニアリング社製)を用いて、金電極層を厚み30nmで形成し、その後、前記金電極層上に前記積層金属電極を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例11に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。
【0045】
(比較例12)
実施例2において、前記n型ダイヤモンド半導体層の前記電極部が形成される領域に対して、イオン注入装置(アルバック社製)を用いてArイオンを注入し、その後、前記n型ダイヤモンド半導体層の表層を真空中にて1,000℃で30分間加熱し、前記グラファイト層を形成したこと以外は、実施例2と同様にして、比較例12に係るダイヤモンド半導体装置を製造した。なお、このイオン注入は、非特許文献1に沿うものであり、形成される前記グラファイト層には、前記イオン注入により欠陥が生じ、膜厚が一様でない。
【0046】
実施例1〜4及び比較例1〜12に係る各ダイヤモンド半導体装置に対し、前記TLM法(
図2参照)による、前記n型ダイヤモンド半導体層−前記電極部間の前記接触抵抗の測定を行った。なお、
図2は、TLM法による接触抵抗の測定方法を説明する説明図である。
前記測定は、2つの前記電極部間のI−V測定から得られる抵抗値と、2つの前記電極部間の間隔dとを関数とし、得られる特性の傾きから前記n型ダイヤモンド半導体層の抵抗と、前記特性の切片から前記接触抵抗とを見積もることで行った。
図3に、TLM法による実施例3及び比較例7に係る各ダイヤモンド半導体装置の特性を示す。該
図3に示すように、実施例3に係るダイヤモンド半導体装置の前記接触抵抗は、比較例7に係るダイヤモンド半導体装置の前記接触抵抗に対して、1/10以下の低い値を示している。
【0047】
実施例3ダイヤモンド半導体装置における、前記グラファイト層を撮像したTEM写真を
図4に示す。なお、
図4は、実施例3に係るダイヤモンド半導体装置における、前記グラファイト層を撮像したTEM写真を示す図である。
図4に示すように、実施例3に係るダイヤモンド半導体装置における、前記グラファイト層は、厚み10nm程度の一様な層として形成されている。
なお、実施例1〜4に係る各ダイヤモンド半導体装置に対しては、Raman測定からグラファイトに起因するピークと、ダイヤモンドに起因するピークとを確認し、実施例3と同様に、前記n型ダイヤモンド半導体層の極表面領域で、膜厚が一様な前記グラファイト層の形成を確認した。
【0048】
前記接触抵抗(Ω)から算出される、実施例1〜4及び比較例1〜12に係る各ダイヤモンド半導体装置の固有接触抵抗(Ωcm
2)を製造条件とともに下記表1に示す。
なお、前記固有接触抵抗(Ωcm
2)は、並設される前記電極部間に0V付近の微小電圧を印加したときの値であり、また、下記表1の界面(状態)に関する表記は、次の通りである。
A:前記n型ダイヤモンド半導体層上に膜厚が一様な前記グラファイト層が形成されている。
B:前記n型ダイヤモンド半導体層上に前記グラファイト層が形成されていない、ないしは、膜厚が一様でない前記グラファイト層が形成されている。
C:前記n型ダイヤモンド半導体層上に前記炭化チタン層(TiC層)が形成されている。
D:前記n型ダイヤモンド半導体層上に前記グラファイト層が形成されておらず、金属電極層が形成されている。
E:Arイオン注入の際に生じた前記n型ダイヤモンド半導体層表層の凹凸ダメージにより、欠陥を含む前記グラファイト層が形成されている。
【0049】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜12に係る各ダイヤモンド半導体装置のショットキー障壁の高さを次の方法により確認した。
リン濃度が低い試料(比較例5、比較例6)に関しては容量−電圧特性より見積もった。リン濃度が高い試料(実施例1−4、比較例1−4、比較例7−12)に関しては、両電極界面にショットキー障壁が形成されるダブルショットキー構造を想定し、トンネル現象に関する下記式(2)〜(4)を用いて、電流−電圧特性結果とのフィッティングから見積もった。
即ち、金属/n
+型ダイヤモンド半導体界面にショットキー障壁が残っているため、熱電子放出(TE: Thermal Emission)だけではなく、熱電界放出(TFE: Thermal Field Emission)や電界放出(FE: Field Emission)のトンネル成分についても考慮してショットキー障壁の高さを確認した。一般的に、前記FEと前記TFEで与えられる電流密度Jは、下記式(2)で表される。
【数2】
ここで、E
eは、電子のエネルギーであり、m
*は、半導体における電子の有効質量である。また、式(2)中のトンネル確率P(E
e,m
*)と供給関数N(E
e)は、それぞれ、下記式(3)、(4)で表される。
【数3】
【数4】
ここで、h
−(エイチバー)は、プランク定数を2πで割ったものであり、E
P(x)は、界面から半導体側へ距離xの場所におけるポテンシャルエネルギーであり、A
*は、リチャードソン定数であり、Vは、界面に印加される電圧である。
以上により確認された、実施例1〜4及び比較例1〜12に係る各ダイヤモンド半導体装置のショットキー障壁の高さ(最大値)を、下記表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
最後に、実施例3及び比較例7に係る各ダイヤモンド半導体装置におけるI−V特性について説明する。
前記I−V特性は、
図1の前記電極部の配置において、隣接する前記電極部間の間隔dが18μmである2つの前記電極部間に電圧を印加して測定を行った。また、この測定は、室温下で行った。
測定結果を
図5に示す。なお、
図5は、実施例3及び比較例7に係る各ダイヤモンド半導体装置におけるI−V特性を示す図である。
該
図5に示すように、比較例7に係るダイヤモンド半導体装置では、前記I−V特性が非線形となるのに対し、実施例3に係るダイヤモンド半導体装置では、前記I−V特性がほぼ線形とされ、優れたオーミック特性が得られている。