【文献】
XIA, Y. et al.,Chemical Communications,2012年,Vol. 48,pp. 4284-4286
【文献】
PATWARDHAN, A. P. et al.,Langmuir,2000年,Vol. 16,pp. 10340-10350
【文献】
CUCCIA, L. A. et al.,Chemistry: A European Journal,2000年,Vol. 6, No. 23,pp. 4379-4384
【文献】
MENGER, F. M.,Tetrahedron Letters,1996年,Vol. 37, No. 3,pp. 323-326
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の新規な擬環状脂質化合物は、下記一般式(1)から(3)で表すことができる。
【0015】
【化2】
[式中、R
1は2価の炭素数1以上100以下の有機基であり、R
2およびR
3は1価の炭素数1以上100以下の有機基を表し、R
1〜R
3のいずれか1以上にフッ素原子を1個以上有する、もしくは非末端に非共役の三重結合を1個以上有する、もしくは両者を有する。また、R
2とR
3は同一であっても、異なるものであっても良い。X
1〜X
4はそれぞれ独立してメチレン基もしくはカルボニル基、Y
1およびY
2はそれぞれ独立して水素原子、リン酸、ホスホコリン、ホスホセリン、ホスホエタノールアミンもしくはホスホグリセロールを表す。グリセロール部位の立体構造は、(R、R)(S、S)(R、S)(S、R)もしくはこれらの混合物で表される。]
上記の式中の有機基R
1からR
3に含まれる炭素数は、1以上、好ましくは7以上、さらに好ましくは12以上であり、100以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは36以下である。
【0016】
前記R
1からR
3はいずれかにフッ素原子を1個以上有する、もしくは不飽和として非末端に非共役の三重結合を1個以上有する、もしくは両者を有する。好ましくは、R
1からR
3はいずれかに、炭素数1〜18個のペルフルオロアルキル基を含む。三重結合は好ましくは1個または2個である。また、R
1からR
3は、上記に加えて共役した三重結合を含んでいても良い。
【0017】
前記R
2とR
3を構成する有機基(1価有機基)には、脂肪族基、芳香族基及び複素環基が包含される。
【0018】
脂肪族基には、鎖状及び環状のものが包含され、さらに、飽和及び不飽和のものが包含される。鎖状脂肪族基には、アルキル基及びアルケニル基が包含される。環状脂肪族基には、シクロアルキル基及びシクロアルケニル基が包含される。
【0019】
アルキル基において、その主鎖を構成する炭素数は、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜36である。
【0020】
アルケニル基において、その主鎖を構成する炭素数は、好ましくは2〜50、より好ましくは2〜36である。シクロアルキル基及びシクロアルケニル基において、その環数は1つ又は複数(2〜4、好ましくは2〜3)であることができ、その分子中に含まれる全炭素環を構成する炭素数は5〜60、好ましくは6〜36である。
【0021】
前記芳香族基には、単環のもの及び多環のものが包含され、多環のものには、縮合多環のもの及び鎖状多環のものが包含される。より具体的には、芳香族基には、アリール基及びアラルキル基が包含される。
【0022】
アリール基は、単環または多環構造のものであることができ、その分子中に含まれる全炭素数を構成する炭素数は6〜60、好ましくは6〜36である。アラルキル基は、単環または多環構造のものであることができ、その分子中に含まれる全炭素環を構成する炭素数は7〜70、好ましくは7〜36である。
【0023】
複素環基には、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が包含される。複素環基を構成する環構成元素には、1つ又は複数のへテロ元素(酸素、窒素、イオウ、セレン等)が包含される。
【0024】
複素環基は、単環又は多環構造のものであることができ、その分子中に含まれる全複素環を構成する元素数は5〜50、好ましくは5〜36である。
【0025】
芳香族複素環基としては、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、キノキサリン環、プリン環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ナフトオキサゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、ナフトチアゾール環、セレナゾール環、ベンゾセレナゾール環、ナフトセレナゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ナフトイミダゾール環、キノリン環、キノキサリン環、プリン環、アクリジン環、フェナントロリン環等の芳香族複素環由来のものを挙げることができる。
【0026】
脂肪族複素環基としては、ピラゾリン環、ピラリジン環、ピペリジン環、インドリン環、モルホリン環、ピラン環、イミダゾリジン環、チアゾリン環、イミダゾリン環、オキサゾリン環等の脂肪族複素環由来のものを挙げることができる。
【0027】
前記有機基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、n−へキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、シクロペンチル、シクロへキシル、アダマンチル、ビニル、プロペニル、ブテニル、アクリル、メタクリル、オクチニル、ドデセニル、ウンデセニル、シクロヘキセニル、フェニル、トリル、ピレニル、フェナントレニル、ナフチル、ビフェニリル、ターフェニリル、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチルの他、前記した各種複素環由来の複素環基が挙げられる。
【0028】
前記R
1を構成する2価有機基には、前記R
2とR
3に関して示した各種の1価有機基からさらに1個の水素原子を除いた有機基が包含される。
【0029】
前記R
1からR
3を構成する有機基は、本発明の合成反応に関与しない不活性な置換基を有していてもよい。このような置換基には、置換あるいは未置換アリール基、カルボニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、アルキルまたはアリールスルホニル基、ニトロ基、ハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、よう素原子)等が包含される。
【0030】
また、前記有機基R
1からR
3は、その有機基の主鎖中に、異種原子(へテロ原子)を含有することができる。異種原子には、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、ケイ素原子等が包含される。
【0031】
さらに、前記有機基R
1からR
3は、金属原子を含有していてもよい.この場合、金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、ホウ素、アルミニウム、チタン、錫、鉄などの金属原子を挙げることができる。これらの金属原子は、通常、炭素−金属の結合や、イオン結合等の結合形態で有機基に含まれる。
【0032】
本発明における前記の有機基R
1からR
3は、糖化合物残基(糖化合物から1つの水素原子を除いた基)であることができる。この場合の糖化合物には、単糖、アミノ糖、オリゴ糖及びそれらの変性物が包含される。
【0033】
単糖化合物は、下記一般式(4)
C
n(H
2O)
n (4)
[式中、nは1〜10の数、好ましくは5〜8の数である。]
で表される化合物である。この単糖化合物には、好ましくはペントース、へキソース、デオキシへキソース、へプトース等が包含される。
【0034】
単糖化合物の具体例としては、例えば、アラビノース、リボース、キシロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラムノース、フコース、ジギトキソース、チマロース、オレアンドロース、ジギタロース、アビオース、ハマメロース、ストレプトース、セドへプチュロース、コリオース等が挙げられる。
【0035】
アミノ糖化合物(糖のアミノ誘導体)の具体例としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、2−デオキシ−2−メチルアミノグルコースなどが例示される。オリゴ糖化合物類には、非還元性オリゴ糖、還元性オリゴ糖が包含される。その具体的には、ショ糖、トレハロース、ゲンチアノース、ラフィノース、乳糖、セルビオース、麦芽糖、ゲンチオビオースなどが例示される。
【0036】
前記糖化合物は、通常、その糖骨格の末端の1位炭素原子に結合する酸素原子を介して結合する。
【0037】
本発明における前記有機基R
1からR
3は、アミン化合物残基であることができる。このアミン化合物において、その炭素数は50以下、好ましくは35以下であり、より好ましくは2〜12である。窒素原子の割合は、炭素原子数[C]に対する窒素原子数[N]の比[N]/[C]で、1/50〜2/1、好ましくは1/35〜1である。
このアミン化合物は、通常、その窒素原子を介して結合する。
【0038】
前記アミン化合物には、第1級〜第3級アミンの他、アミノ酸化合物及びペプチド化合物が包含される。
【0039】
アミノ酸化合物の具体例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、オルニチン、アルギニン、ヒスチジン、ヒドロキシリジン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、4−ヒドロキシプロリン、トリコロミン酸、イポテン酸、キスカリン酸、カナバニン、カイニン酸、ドモイ酸、1−アミノシクロプロパンカルボン酸、2−(メチレンシクロプロピル)グリシン、ヒポグリシンA、3−シアノアラニン、アベナ酸、ムギネ酸、ミモシン、レボドパ、β−ヒドロキシ−γ−メチルフルタミン酸、5−ヒドロキシトリプトファン、パントテン酸、ラミニン、ベタシアニンなどが例示される。また、タウリンなどスルホン酸基を有するアミン化合物なども挙げられる。
【0040】
前記アミン化合物(アミノ酸化合物及びペプチド化合物を含む)は、ハロゲン原子を含有することができる。また、このアミン化合物は、リン酸基とアミノアルコール(コリン、エタノールアミン、セリン等)とが縮合した構造のものでも良い。
【0041】
本発明における前記有機基R
1からR
3は、核酸化合物残基であることができる。この核酸化合物において、その炭素数は150以下、好ましくは100以下であり、より好ましくは4〜50である。
この核酸化合物は、通常、その酸素、窒素又は炭素原子を介して結合する。
【0042】
核酸化合物には、ヌクレオシド、ヌクレオチド、もしくはヌクレオチド単位のポリマー鎖が包含される。ヌクレオシドとしては、シトシン、チミン、アデニン、グアニンに含まれる塩基と2−デオキシリボースまたはリボースの糖が結合したものを示すことができる。ヌクレオチドとしては、ヌクレオシドの糖にリン酸基が結合したものを示すことができる。チミンとしては、ウラシルを示すことができる。
【0043】
上記一般式において、X
1〜X
4はそれぞれ独立してメチレン基もしくはカルボニル基を表す。X
1〜X
4がメチレン基の場合、本発明の化合物はグリセロールと有機基R
1〜R
3がエーテル結合をしたものとなり、X
1〜X
4がカルボニル基の場合にはグリセロールと有機基R
1〜R
3がエステル結合をしたものとなる。天然のリン脂質においてはエステル結合を含むものが多く見られるが、エーテル結合を含むものも存在することが知られている。分解酵素に対する耐性の有無を除き、その物理化学的特性は非常に類似したものとなることは当業者に良く知られており、またエーテル型脂質の合成も知られている。本発明の化合物においても、エステル結合型およびエーテル結合型をそれぞれ合成可能であり、同様に使用することが可能である。
【0044】
上記一般式において、Y
1およびY
2はそれぞれ独立して水素原子、リン酸、ホスホコリン、ホスホセリン、ホスホエタノールアミンもしくはホスホグリセロールを表す。これらの基は天然のリン脂質の親水性部分を構成する基として知られており、本発明の化合物においてもこれらの基を同様に含むことができる。より好適にはY
1およびY
2は水素原子、リン酸、ホスホコリンもしくはホスホグリセロール、特に好適なものはリン酸もしくはホスホコリンである。
【0045】
本発明において、特に好適な化合物として、特に限定するものではないが、例えば実施例で合成例を示した以下の式の化合物11〜13、21および35が挙げられる。
【0047】
化合物11は、一般式(1)で表される化合物の1つであり、R
1に2個の三重結合を含み、かつR
2およびR
3にそれぞれフッ素原子9個(炭素数4個のペルフルオロアルキル基)を含むものである。化合物11におけるX
1〜X
4はメチレン基、Y
1およびY
2はいずれも水素原子である。
【0048】
化合物12は、化合物11と同様に一般式(1)で表される化合物の1つであり、R
1に2個の三重結合を含み、かつR
2およびR
3にそれぞれフッ素原子9個(炭素数4個のペルフルオロアルキル基)を含むものである。化合物12におけるX
1〜X
4はメチレン基、Y
1およびY
2はいずれもホスホコリンである。
【0049】
化合物13は、一般式(1)で表される化合物の1つであり、R
2およびR
3にそれぞれフッ素原子9個(炭素数4個のペルフルオロアルキル基)を含むものである。化合物13におけるX
1〜X
4はメチレン基、Y
1およびY
2はいずれもホスホコリンである。
【0050】
化合物21は、一般式(2)で表される化合物の1つであり、R
1にフッ素原子16個(炭素数8個のペルフルオロアルキレン基)を含むものである。化合物21におけるX
1〜X
4はメチレン基、Y
1およびY
2はいずれも水素原子である。
【0051】
化合物35は、一般式(3)で表される化合物の1つであり、R
1に2個の三重結合を含み、R
2に17個のフッ素原子(炭素数8個のペルフルオロアルキル基)と1個の三重結合を含み、かつR
3に1個の三重結合を含むものである。化合物35におけるX
1、X
2およびX
4はメチレン基、X
3はカルボニル基であり、Y
1およびY
2はいずれも水素原子である。
【0052】
当業者であれば、本願明細書の記載、および化学合成の分野における技術常識に基づいて、本願発明の化合物を必要に応じて適宜得ることが可能であり、本願発明は、実施例記載の化合物に限定されるものではないことは理解されるであろう。
【0053】
一般式(1)から(3)で表すことができる本発明の擬環状脂質化合物は、単独で、その界面活性性を利用して種々の用途に用いることができる。また、特に再構成脂質膜の構成成分として膜の特性向上に寄与し得る。本発明の化合物の特性は、炭素鎖長の他、フッ素や三重結合の有無、各官能基の性質等によって変動するため、厳密に規定することは困難であるが、例えば、炭素数11以下の鎖長を有するものは界面活性剤として好適であり、一方炭素数12以上の鎖長を有するものは膜構成成分として好適であり得る。
【0054】
また、本発明は、本発明の擬環状脂質化合物から成る分子集合体、もしくは1種以上の擬環状脂質化合物、および1種以上の異なる脂質から成る分子集合体を創成することができる。また、これら分子集合体に更にタンパク質を含めることもできる。
【0055】
本明細書において、「分子集合体」とは、両親媒性を有する分子が非共有結合性相互作用により多数集合したメゾスケールの構造体のことをいい、球殻状やディスク状のバイセル、リボン状等の分子集合体が形成される可能性がある。ミセルやリポソーム等も本発明でいう分子集合体に含まれる。
【0056】
本発明の擬環状脂質化合物から成る分子集合体は、化合物を擬環状化することでその膜安定性が向上し、さらにフッ素化することでより膜安定性が向上する。また、天然脂質において、不飽和結合の存在が融点を降下させ、ハンドリングを容易にするものであることと同様に、擬環状脂質化合物への不飽和結合の導入はハンドリング面を向上させることができる。
【0057】
擬環状脂質化合物は、それに対応する二本鎖型脂質からなら二分子膜に比較して、はるかに高いゲル-液晶相転移温度を有する。このことは、擬環状脂質化合物が極めて安定な脂質膜を形成することを示す。さらに一定量のフッ素化により、安定なゲル-液晶相転移温度の向上が期待される。
【0058】
また、二重結合が一旦三重結合を経由して合成されるのと比較して、三重結合は合成が容易であり、また二重結合(オレイン酸など)で問題となる酸化反応を受け難いといった利点を有する。尚、三重結合は炭素4個分が直線構造を取ることで構造の剛直性を示すため、ベシクルなどの適度な柔軟性が要求される脂質への利用は少ない(J.Fluorine Chem., 128, 133-138 (2007))。
【0059】
本発明の擬環状脂質化合物は、単独で脂質膜(分子集合体)の構成成分となり得る。また、一実施形態として、本発明の擬環状脂質化合物を脂質膜の構成成分として用いる場合に、天然または合成の他の脂質と共に、例えばリポソーム等の分子集合体として調製することが可能である。
【0060】
本明細書において、「脂質」とは、脂肪酸とアルコールの両要素にリン酸、糖、アミノアルコールなどが加わった複合脂質を表すことがある。
【0061】
複合脂質としては、炭素数3〜50個、好ましくは、炭素数3〜36個からなる脂質を表し、酸素、窒素、リン、硫黄を含んでも良い。例えば、グリセロリン脂質としてレシチン、ケファリン、フォスファチジルセリン、フォスファチジルイノシトール、プラスマロゲン、ジミリストイルホスファチジルコリンなど、アルキルエーテルグリセロリン脂質など、スフィンゴリン脂質としてスフィンゴシン、スフィンゴミエリンなど、グリセロ糖脂質として、ジガラクトシルジグリセリド、6−スルホキノボシルジグリセリドなど、スフィンゴ糖脂質として、ガラクトシルセラミド、ラクトシルセラミド、ヘマトシド、フィトスフィンゴシンなどが挙げられる。
【0062】
また、本発明の化合物は、上記のリン脂質等の他、コレステロール等の他の脂質、天然または合成の膜タンパク質等と共に脂質膜を構成し得る。
【0063】
脂質膜における本発明の化合物と他の脂質との好適な割合は、用いる本発明の化合物および他の脂質の種類等に応じて変動するが、一般的に1:99〜100:0、好ましくは10:90〜90:10(モル比)の範囲が好適である。この範囲内において、リポソームにおける脂質二重層等の特性が維持できると共に、水性あるいは脂溶性化合物群を含有する脂質球を構成できる等の効果が得られる。
【0064】
膜タンパク質は、天然において生体膜に付着しているタンパク質であればいずれでも良く、脂質膜に結合、部分的に貫入するもの、もしくは膜貫通型のタンパク質でも良い。例えば、GPCR(Gタンパク質共役型受容体)などの受容体、加水分解酵素などの酵素、光合成膜タンパク質や光駆動イオン輸送タンパク質等が挙げられ、後の実施例に記載したバクテリオロドプシンも膜タンパク質の1種である。
【0065】
本発明の化合物の膜安定化効果は、例えば本発明の化合物を含む分子集合体、例えばリポソームをバクテリオロドプシンを含めて調製し、そのCDスペクトルを測定して、バクテリオロドプシンの三量体構造が安定に保持されているかどうかを確認することによって行うことができる。
【0066】
本発明の化合物の合成方法
本発明の化合物は、本明細書の記載および当技術分野において知られる有機化学合成の知識に基づいて、当業者には容易に合成することが可能である。
【0067】
具体的には、本発明の化合物は、以下のような工程を経て合成することができる。
キラルな化合物の調製
キラルなグリセロール誘導体は、例えば(S)−(+)−2,2―ジメチル−1,3―ジオキソラン−4−メタノールもしくは(R)−(―)−2,2―ジメチル−1,3―ジオキソラン−4−メタノール、または(R)−(+)−3―ベンジロキシ−1,2―プロパンジオールもしくは(S)−(−)−3―ベンジロキシ−1,2―プロパンジオールを出発物質として使用することによって合成することが可能である。あるいはまた、ラセミ混合物の光学分割もしくは酵素を用いた分割により得ることもできる。
【0068】
本願発明は、一実施形態において、生体由来材料である膜タンパク質を用いるものであり、その場合には化合物がキラルであることが好ましいと考えられる。キラルな化合物でなくても良い場合には、2種のキラルな試薬が混合されたものが市販されており、同様にして合成することができる。
【0069】
脂肪族基の導入
脂肪族基の導入は、目的とする鎖長の炭素鎖を有するアルコールやハロゲン化アルキルやカルボン酸、例えば9−デセン−1−オールや1−ブロモテトラデカンや14−テトラデシン酸等と反応させることで行うことができる。環状の脂肪族基の導入には、環状脂肪族アルコールやハロゲン化体やカルボン酸等、例えばシクロペンテノールやブロモシクロオクタン、シクロヘキシルカルボン酸等と反応させることで行うことができる。
【0070】
芳香族基の導入
芳香族基の導入は、目的とする炭素鎖を有する芳香族アルコールやハロゲン化体やカルボン酸等、例えばビスフェノール化合物やブロモフェノールや安息香酸等と反応させることで行う事ができる。
【0071】
複素環基の導入
複素環基の導入は、目的とする炭素鎖を有する複素環を有するアルコール体やカルボン酸等、例えば5−ヒドロキシインドールや6-クロロ-2,3-ジヒドロ-3-オキソ-4H-1,4-ベンゾオキサジン-4-プロピオン酸等と反応させることで行う事ができる。
【0072】
糖の導入
糖の導入は、目的とする炭素鎖を有する糖、例えばグルコースやグルコサミンやショ糖等の糖骨格の末端の1位炭素原子に結合する酸素原子を介して導入することが出来る。
【0073】
アミン化合物の導入
アミン化合物の導入は、目的とする炭素鎖を有するアミノ酸やペプチド化合物等、例えばセリンやアスパルテームやコラーゲン等のC末端をエステル結合、N末端を炭酸N,N’-ジスクシンイミジル等を介してエステル結合することで行う事ができる。
【0074】
核酸の導入
核酸の導入は、核酸や糖とリン酸基を有するヌクレオチドやデオキシヌクレオチドのアミノ基を炭酸N,N’-ジスクシンイミジル等やリン酸基をリン酸エステル結合することで行うことが出来る。
【0075】
活性基の保護および脱保護
当分野で周知の通り、各工程において目的の反応のみが生じるようにするために、他の反応基を予め保護する。例えば、p−メトキシベンジルクロリドやトリチルクロライド等を用い、反応させることを意図しない水酸基を予め保護しておき、後の工程で脱保護する。
【0076】
フッ素の導入
フッ素基の導入は、例えばペルフルオロアルキル基を導入するために、例えばペルフルオロブチルヨージドと反応させることによって行う。分子の途中にフッ素基を導入する場合には、更にアルキル基等の他の基を結合させるか、あるいは下記の二量体化の際に、例えばヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタンと反応させることで、フッ素の導入と二量体化とを同時に行うことができる。導入するペルフルオロ基の長さは、反応させる試薬を選択することで適宜変更することができ、こうした試薬は市販されているか、合成によって得ることが可能である。当業者であれば、フッ素の導入のための反応条件は容易に決定することができる。ペルフルオロ基の長さによって、得られる化合物の膜安定性などが変動することは当業者には理解される。
【0077】
三重結合の導入
三重結合の導入は、例えば7−ヘキサデシン−1−オールなど三重結合を有する市販試薬もしくはアセチレン導入反応により得た化合物などを反応させることによって達成することができる。三重結合は、R
1〜R
3のいずれか1以上に、それぞれ1または2個含まれ得る。
【0078】
二量体化
本発明の化合物の製造方法は、特に限定するものではないが、同一または異なるグリセロール誘導体を結合することによって擬環状化することができる。これは、例えばジアセチレンカップリング反応、エステル化反応、エーテル化反応等によって行うことができる。
【0079】
リン酸化・コリン化
リン酸化は、リン酸エステルを表し、リン酸とアルコール化合物の脱水縮合からエステル結合を容易に合成できる。また、コリン化は、リン酸の水酸基1個をコリン基で置換することで容易に合成できる。同様にして、リン酸の水酸基1個をセリン基、エタノールアミン基、グリセリンと置換することができる。
【0080】
精製
本発明の化合物の精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーで簡便に行うことができる。当業者であれば、用いるゲルの種類、溶媒、溶出条件等を適宜選択することができる。
【0081】
化合物の同定
化合物の同定は、例えばNMRで行うことができる。フッ素を含む化合物の場合には、NMRは、
1H−NMRに加え、
19F−NMRを行うことができる。
【0082】
以下、本発明につき実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されることを意図するものではない。
【0084】
実験1
窒素雰囲気下、水冷下、(S)−(+)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(1当量)のジメチルスルホキシド溶液に水酸化カリウム(10当量)、p−メトキシベンジルクロリド(1.1〜1.2当量)を加え、室温にて18時間攪拌した。反応溶液を氷水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し得た化合物のメタノール溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温にて1〜2日間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(50〜100%酢酸エチル/ヘキサン) に通して精製し、化合物1(74〜94%、2steps)を得た。
【0085】
実験2
窒素雰囲気下、化合物1(1当量)の無水ジクロロメタン溶液にトリチルクロライド(1.1当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて18時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜50%酢酸エチル/ヘキサン) に通して精製し、化合物2(86%)を得た。
【0086】
実験3
窒素雰囲気下、9−デセン−1−オール(1当量)の無水ジクロロメタン溶液に塩化メタンスルホニル(1.5当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物3(95%以上)を得た。
【0087】
実験4
窒素雰囲気下、化合物2(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5当量)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物3(1.5当量)の無水DMF溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で18時間撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物4(66〜76%)を得た。
【0088】
実験5
窒素雰囲気下、化合物4(1当量)のクロロホルム−メタノール溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温にて18時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物5(85〜95%)を得た。
【0089】
実験6
窒素雰囲気下、化合物5(1当量)のアセトニトリル−水溶液にペルフルオロブチルヨージド(1.2当量)、炭酸水素ナトリウム(0.5当量)、次亜硫酸ナトリウム(0.5当量)を加え、室温にて4時間攪拌した。水で希釈後、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30〜50%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物6(83〜93%)を得た。
【0090】
実験7
亜鉛(2当量)のテトラヒドロフラン溶液に塩化ニッケル水和物(0.1当量)、水数滴を加え、室温にて10分間攪拌、引き続き化合物6(1当量)のテトラヒドロフラン溶液を加え、室温にて3時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウムを加え、濾過後、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(50%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物7(83〜93%)を得た。
【0091】
実験8
窒素雰囲気下、13−テトラデシン−1−オール(1当量)の無水ジクロロメタン溶液に塩化メタンスルホニル(1.5当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物8(95%以上)を得た。
【0092】
実験9
窒素雰囲気下、化合物7(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物8(1.5当量)の無水DMF溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で18時間撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物9(36〜%)を得た。
【0093】
実験10
化合物9(1当量)のジクロロメタン−リン酸緩衝液(pH7)の混液に氷冷下、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(2当量)を添加し、2時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水を加えた後、ジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物10(96%)を得た。
【0094】
実験11
化合物10(1当量)のピペリジン溶液に塩化銅を加え、140度で30分攪拌した。氷水を加えた後、クロロホルムで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(40%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物11(94%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物11であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):3.38−3.77(m、18H)、2.34(brs、2H)、2.24(t、J=6.98Hz、4H)、2.05(m、4H)、1.46−1.68(m、16H)、1.19−1.45(m、56H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−81.63(m、6F)、−115.12(m、4F)、125.01(m、4F)、−126.58(m、4F)。
【0095】
実験12
化合物11(1当量)のベンゼン溶液にトリエチルアミン(2.5当量)、2−ブロモエチルホスホロジクロリデート(bromoethylphosphorodichloridate)(1.5当量)を入れ、室温にて18時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、水を加え、室温にて4時間攪拌した。クロロホルムで抽出後、減圧下溶媒を留去し、残渣に2−プロパノール−アセトニトリル−クロロホルム混液、30%トリメチルアミン水溶液を加え、60度で18時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水)、ODSカラム(クロロホルム/メタノール)に通して精製し、化合物12(85%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物12であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):4.27(brs、4H)、3.90(m、4H)、3.55−3.70(m、12H)、3.43−3.53(m、6H)、3.32(s、18H)、2.24(t、J=6.89Hz、4H)、2.08(m、4H)、1.46−1.70(m、16H)、1.23−1.46(m、56H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−81.34(m、6F)、−115.53(m、4F)、124.43(brs、4F)、−126.11(m、4F)。
【0096】
実験13
化合物12(1当量)のメタノール溶液に10%Pd/C(触媒量)を加えた。水素雰囲気下、室温で18時間攪拌後、濾過した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水)とODSカラム(クロロホルム/メタノール)ODSカラム(クロロホルム/メタノール)に通じて精製し、化合物13(54%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物13であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):4.28(brs、4H)、3.89(t、J=5.54Hz、4H)、3.51−3.67(m、12H)、3.39−3.50(m、6H)、3.20(s、18H)、2.10(m、4H)、1.50−1.67(m、12H)、1.20−1.47(m、72H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−81.13(m、6F)、−114.25(m、4F)、124.11(m、4F)、−125.84(m、4F)。
【0098】
実験14
窒素雰囲気下、水冷下、(R)−(−)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(1当量)のジメチルスルホキシド溶液に水酸化カリウム(10当量)、p−メトキシベンジルクロリド(1.1〜1.2当量)を加え、室温にて一昼夜攪拌した。反応溶液を氷水に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し得た化合物のメタノール溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温〜90度にて3時間〜2日間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(50〜100%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物14(58〜78%、2steps)を得た。
【0099】
実験15
窒素雰囲気下、化合物14(1当量)の無水ジクロロメタン溶液にトリチルクロライド(1.1当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて一昼夜攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物15(74〜99%)を得た。
【0100】
実験16
窒素雰囲気下、化合物15(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5当量)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物3(1.5当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で一昼夜撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物16(93%)を得た。
【0101】
実験17
窒素雰囲気下、化合物16(1当量)のジクロロメタン−リン酸緩衝液(pH7)の混液に氷冷下、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(2当量)を添加した。氷冷〜室温で2時間から一昼夜攪拌した。氷水を加えた後、ジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物17(78〜88%)を得た。
【0102】
実験18
窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5〜5.0当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、化合物17(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を加え、氷冷〜室温にて10〜30分間攪拌後、氷冷下、1−ブロモテトラデカン(1.5当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を加え、室温にて18時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジエチルエーテルで抽出した。ジエチルエーテル抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物18(48〜68%)を得た。
【0103】
実験19
化合物4(1当量)のクロロホルム−メタノール溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温にて18時間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物19(86%)を得た。
【0104】
実験20
化合物19(2.2当量)のアセトニトリル−水溶液にヘキサデカフルオロ−1,8−ジヨードオクタン(1当量)、炭酸水素ナトリウム(0.5当量)、次亜硫酸ナトリウム(0.5当量)を加え、50℃にて4時間攪拌した。水で希釈後、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン/クロロホルム)に通して精製し、化合物20(58%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物20であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):4.33(m、2H)、3.40−3.76(m、18H)、2.67−3.02(m、4H)、2.37(brs、2H)、1.70−1.89(m、4H)1.48−1.66(m、8H)、1.17−1.48(m,64H)0.88(t、J=6.68Hz、6H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−112.23(dm、J = 270.42 Hz、2F)、−115.10(dm、J = 270.42 Hz、2F)、122.06(br s、4F)、−122.36(br s、4F)、−124.13(br s、4F)。
【0105】
実験21
化合物20(1当量)のメタノール−クロロホルム溶液に炭酸水素ナトリウム、10%Pd/C(触媒量)を加えた。水素雰囲気下、室温で24時間1攪拌後、濾過した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘキサン/クロロホルム) に通して精製し、化合物21(65%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物21であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):3.40−3.77(m、18H)、2.31(brs、2H)、2.43(m、4H)、1.50−1.65(m、12H)、1.27−1.48(m、68H)、0.88(t、J=6.80Hz、6H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−114.91(quin、J=14.29Hz、4F)、−122.26(brs、4F)、−122.44(brs、4F)、−124.10(brs、4F)。
【0107】
実験22
窒素雰囲気下、15−ヘキサデシン−1−オール(1当量)の無水ジクロロメタン溶液に塩化メタンスルホニル(1.5当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物22(94%以上)を得た。
【0108】
実験23
窒素雰囲気下、(R)−(−)−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−メタノール(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5当量)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物22(1.5当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で8〜24時間撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10〜20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物23(83%)を得た。
【0109】
実験24
化合物23のメタノール溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温〜90度にて3時間〜3日間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(50〜100%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物24(73〜92%)を得た。
【0110】
実験25
窒素雰囲気下、化合物24(1当量)の無水ジクロロメタン溶液にトリチルクロライド(1.1当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて一昼夜攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10〜20%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物25(90〜94%)を得た。
【0111】
実験26
化合物26(11,11,12,12,13,13,14,14,15,15,16,16,17,17,18,18,18-ヘプタデカフルオロ-9-オクタデカン酸(heptadecafluorooctadec-9-ynoic acid))は、文献(K. Takai, T. Takagi, T. Baba, T. Kanamori, J. Fluorine Chem., 124, 1959 (2004))を参照に合成した。
【0112】
実験27
化合物25(1当量)の無水ジクロロメタン溶液に化合物26(1.5〜2当量)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.2当量)、4−ジメチルアミノピリジン(1.2当量)を加え、室温にて一昼夜攪拌した。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物27(crude)を得た。
【0113】
実験28
化合物27のメタノール−クロロホルム溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温にて一昼夜攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物28(48〜58%、2steps)を得た。
【0114】
実験29
窒素雰囲気下、実施例2で用いた化合物15(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5当量)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物22(1.5当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で数時間〜3日間撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10〜30%酢酸エチル/ヘキサン) に通して精製し、化合物29(70〜80%)を得た。
【0115】
実験30
化合物29のメタノール−クロロホルム溶液にp−トルエンスルホン酸水和物(触媒量)を加え、室温にて1〜3日間攪拌した。減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(30〜40%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物30(46〜56%)を得た。
【0116】
実験31
窒素雰囲気下、7−ヘキサデシン−1−オール(1当量)の無水ジクロロメタン溶液に塩化メタンスルホニル(1.5当量)を加え、氷冷下、トリエチルアミン(2当量)を加え、室温にて3時間攪拌した。反応溶液を氷冷した10%塩酸水溶液に注ぎ、ジクロロメタンで抽出した。ジクロロメタン抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物31(88%)を得た。
【0117】
実験32
窒素雰囲気下、化合物30(1当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液に氷冷下、水素化ナトリウム(ミネラルオイル40%添加、1.5当量)を加え、10分後、室温にて30分攪拌した。氷冷下、化合物31(1.5当量)の無水N,N-ジメチルホルムアミド溶液を滴下した。テトラブチルアンモニウムヨージド(触媒量)を加え、室温で一昼夜撹拌させた後、氷水を加えた後、ジエチルエーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(10〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物32(55〜65%)を得た。
【0118】
実験33
窒素雰囲気下、化合物32(1当量)のジクロロメタン−リン酸緩衝液(pH7)の混液に氷冷下、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(2当量)を添加した。氷冷で4時間攪拌した。氷水を加えた後、ジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物33(93%)を得た。
【0119】
実験34
窒素雰囲気下、モルホリン(6当量)のベンゼン溶液にヨウ素(2当量)を加え、室温に30分間攪拌した。化合物33(1当量)のベンゼン溶液を加え、45度で一昼夜攪拌した。チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた後、クロロホルムで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物34(71%)を得た。
【0120】
実験35
窒素雰囲気下、化合物28、化合物34のピロリジン溶液にヨウ化銅(I)(触媒量)加え、室温にて30分間攪拌した。塩化アンモニウム水溶液を加えた後、エーテルで抽出し、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過後、減圧下溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(20〜30%酢酸エチル/ヘキサン)に通して精製し、化合物35(63%)を得た。以下のNMR測定値から、生成物が化合物35であることが確認された。
1H−NMR(CDCl
3、TMS):4.16(td、J=11.52、4.34Hz、1H)、4.13(td、J=11.52、6.20Hz、1H)、4.00(m、1H)、3.38−3.77(m、13H)、2.56(d、J=4.28Hz、1H)、2.30−2.43(m、4H)、2.19−2.28(m、5H)、2.09−2.18(m、4H)、1.17−1.70(m、78H)、0.88(t、J=6.86Hz、3H)。
19F−NMR(CDCl
3,CFCl
3):−81.25(tm、J=9.63Hz、3F)、−96.68(m、2F)、−121.59(m、2F)、−122.21〜―122.63(m、4F)、−123.04(m、2F)、−123.22(m、2F)、−126.60(m、2F)。
【0121】
[実施例4]
実施例1で得られた擬環状脂質化合物である化合物13、および化合物13におけるフッ素の代わりに炭素を含む化合物36を用い、これらの化合物および膜タンパク質を含む複合体を創成し、膜安定化評価を行った。化合物13および36の構造を下記に示す。尚、化合物36は、Langmuir 7(11) 2415 (1991);Langmuir 8(2) 637 (1992);Bull. Chem. Soc. Jpn., 70, 2545 (1997)等に記載された合成法、および化合物13までの合成法を参考に合成した(文献では炭素鎖長が32と16)。
【0123】
化合物13および36についてDSC測定(セイコーインスツルメント EXSTAR DSC6100)を行い、化合物36を二量体とした場合の単量体に相当する1,2-ジテトラデシル-グリセロ-3-ホスホコリン(DTPC)と比較した。これらの転移温度を以下の表1に示す。表1の結果からわかるように、化合物36は、DTPCと比較して転移温度が2倍程度上昇しているが、本発明の化合物13は、ペルフルオロ基の導入によって、転移温度が生理的温度に近いものとなり、適度な柔軟性を有する膜を構成可能であることが示唆された。
【0125】
I. 脂質懸濁液の作製
1.低温保存の脂質化合物(化合物13または36)を室温に戻す。
2.アルミホイル上に脂質化合物を秤量する(7.5μmol)。
3.化合物をクロロホルム溶媒に溶解し、ナスフラスコに移す。
4.窒素雰囲気下、クロロホルムを留去(水浴40℃)し、フラスコ内壁にフィルム状に脂質を付着させる。
5.減圧下で脂質フィルムを乾燥(約3時間)させる。
6.ガラスビーズを数個、100 mMリン酸緩衝液を10 ml加え密封する。
7.25℃にセットした恒温槽で約20分振とうする。
8.バス型ソニケーターで超音波処理(30〜60℃、1〜数時間)を行い、0.75 mM脂質懸濁液(リポソーム)とする。
【0126】
II. 可溶化バクテリオロドプシン(bR)の調製
1.40μMの天然紫膜(高度好塩菌H.salinarumを培養後、既報に従って精製して得られたもの)5 mlと20 mM TritonX-100溶液(両方とも溶媒には100 mMリン酸緩衝液を使用)を混合し、25℃で15時間振とうする。
2.遠心分離(4℃、15,000〜100,000g、1時間)後、回収した上澄みを可溶化bRとする。
【0127】
III. リポソームへのbRの再構成
1.20μM可溶化bRと0.75mM脂質懸濁液を混合し、25℃で5時間振とうする。
2.Bio-Beads(Bio-rad社製)を0.6 g加え、25〜30℃で5時間撹拌する。
3.さらにBio-Beadsを0.6 g加え、28℃で15時間、スターラーで撹拌する。
4.シリンジ(内径1mm)を用いて上澄みを回収し、再構成試料とする。
【0128】
IV. 再構成試料のUVスペクトル測定
化合物13の再構成試料を用いたUV測定結果から、再構成試料の収率は70〜80%であることがわかった。
【0129】
V. CDスペクトル測定
V-1. 試料調製
1.再構成試料をVortexにかけた後、25℃で20分間振蕩する。
2.1の試料から2mlを分取し、ソニケーターにより超音波処理(30℃、1時間)を行う。
3.2の試料を二面透過セルに入れ、UVスペクトルを測定し、測定試料濃度を求める(このときの吸光度から、化合物13および化合物36の再構成試料の測定試料濃度はそれぞれ7.0および3.0μMと求めた)。
【0130】
V-2. 測定方法
1.V-1の3の試料をCD測定機器(日本分光J-820)にセットする。
2.CD測定機器に窒素を流入させ、測定室内部を窒素置換する。
3.ペルチェ式恒温槽により、試料の温度をコントロールする。試料全体を測定温度で
均一にするために、スターラーにより攪拌する。また測定温度に達してから5分程度待機して測定を開始した。
4.低温側(10℃)から測定開始し、高温側(80℃)まで全て同じ試料でおこなった。
【0131】
V-3. 結果
結果を
図1および2に示す。化合物13の再構成試料のCDスペクトルでは、70℃付近まで負のピークを観測した。この結果から、化合物13の脂質膜(リポソーム)中に再構成されたbRは70℃まで三量体を保持していることが分かる。一方、化合物36の再構成試料のCDスペクトルでは負のピークが確認されたのは40℃〜45℃までであった。
【0132】
この結果から、ペルフルオロ基の導入によって、bR再構成膜の熱的安定性が向上していることが分かった。