特許第6341514号(P6341514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6341514-誘導加熱装置の制御方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6341514
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】誘導加熱装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20180604BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180604BHJP
【FI】
   H05B6/06 361
   H02M7/48 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-5530(P2015-5530)
(22)【出願日】2015年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-131134(P2016-131134A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100152261
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 隆弘
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】難波 秀之
(72)【発明者】
【氏名】井藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野津 匡史
(72)【発明者】
【氏名】内田 直喜
【審査官】 土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−313547(JP,A)
【文献】 特公昭58−51396(JP,B2)
【文献】 特開2007−244003(JP,A)
【文献】 特開2007−26750(JP,A)
【文献】 特開平09−92447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/06
H02M 7/48
H05B 6/06
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
順変換部と逆変換部、及び制御部を備えた電力変換手段を備え、前記逆変換部に加熱コイルが接続された誘導加熱装置の制御方法であって、
前記電力変換手段は、前記加熱コイルへの出力電圧が予め定められた指令電圧と一致するように、順変換位相制御角を制御する信号を前記順変換部へ出力すると共に、
前記順変換位相制御角が予め定めた値よりも小さい場合に、前記逆変換部に対して、前記加熱コイルへの出力電流と出力電圧の位相角である逆変換位相角を増大させる信号を出力し、
前記逆変換部を構成するスイッチング素子の損失が、予め定められた許容値に達した場合に、前記逆変換位相角の増大を停止させることを特徴とする誘導加熱装置の制御方法。
【請求項2】
前記電力変換手段には、前記順変換位相制御角を制御する信号を生成する順変換位相制御部と、前記逆変換位相角を増大させる信号を生成する逆変換位相制御部とが設けられ、
前記順変換位相制御角を前記逆変換位相制御部に出力し、
前記逆変換位相制御部は、前記順変換位相制御角が前記予め定めた値となるように、前記逆変換位相角を制御することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置の制御方法。
【請求項3】
前記電力変換手段には、マイクロプロセッサユニットを有する損失計算部が設けられ、前記スイッチング素子の損失計算を成すことを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導により被加熱物を加熱する誘導加熱装置の制御方法に係り、特に、ビレットヒータやバーヒータとして採用される誘導加熱装置に好適な制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導により被加熱物を加熱する際、部材温度の変化に伴う性質変化や、加熱対象物の違いにより、被加熱部材の固有抵抗が変化すると、電源部からの出力電圧や出力電流が定格値に達することによる頭打ちとなり、高電力での加熱が困難となる場合がある。
【0003】
このような課題に対し、電流型共振インバータでは、特許文献1に開示されているように被加熱物のコンダクタンス変動に対し、電流、電圧の位相角を制御することで、所望する電力の確保を図ることで対応することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭58−51396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている技術では、運転周波数の低い誘導溶解炉を対象として技術説明が成されている。しかし、これを高い周波数用途に適用した場合には、次のような問題が生じる虞がある。すなわち、電力を維持するために出力電圧を高めた状態で運転する場合には、サイリスタに印加される逆電圧も大きくなる。このような状態において、出力電流と出力電圧の位相角を大きくした場合、スイッチング損失(逆回復損失)が多くなり、サイリスタの許容損失(全損失)を超えることとなってしまい、機器の損傷を招く虞がある。
【0006】
そこで本発明では、被加熱部材の固有抵抗に変化が生じた場合であっても、高い出力電力を維持することができ、かつ機器の損傷を防ぐことのできる誘導加熱装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る誘導加熱装置の制御方法は、順変換部と逆変換部、及び制御部を備えた電力変換手段を備え、前記逆変換部に加熱コイルが接続された誘導加熱装置の制御方法であって、前記電力変換手段は、前記加熱コイルへの出力電圧が予め定められた指令電圧と一致するように、順変換位相制御角を制御する信号を前記順変換部へ出力すると共に、前記順変換位相制御角が予め定めた値よりも小さい場合に、前記逆変換部に対して、前記加熱コイルへの出力電流と出力電圧の位相角である逆変換位相角を増大させる信号を出力し、前記逆変換部を構成するスイッチング素子の損失が、予め定められた許容値に達した場合に、前記逆変換位相角の増大を停止させることを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有する誘導加熱装置の制御方法において、前記電力変換手段には、前記順変換位相制御角を制御する信号を生成する順変換位相制御部と、前記逆変換位相角を増大させる信号を生成する逆変換位相制御部とが設けられ、前記順変換位相制御角を前記逆変換位相制御部に出力し、前記逆変換位相制御部は、前記順変換位相制御角が前記予め定めた値となるように、前記逆変換位相角を制御するようにすると良い。
さらに、上記のような特徴を有する誘導加熱装置の制御方法において、前記電力変換手段には、マイクロプロセッサユニットを有する損失計算部が設けられ、前記スイッチング素子の損失計算を成すようにすると良い。
【発明の効果】
【0009】
上記のような特徴を有する誘導加熱装置の制御方法は、被加熱部材の固有抵抗に変化が生じた場合であっても、高い出力電力を維持することができる。また、逆回復損失の増大による機器の損傷を防ぐこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る制御方法を実施するための誘導加熱装置の一例である。
図2】電力変換手段における出力電流と出力電圧の波形を示すグラフである。
図3】サイリスタに流れる逆回復時の電圧と電流の様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の誘導加熱装置の制御方法に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0012】
まず、本実施形態に係る制御方法を適用する誘導加熱装置の一例について、図1を参照して説明する。図1に示す誘導加熱装置10は、電力変換手段12と、加熱コイル26、及び制御部28を基本として構成されている。
【0013】
電力変換手段12は、3相交流電源14に接続された順変換部16(コンバータ)と、順変換部16の出力側に配置される逆変換部18(インバータ)を基本とし、逆変換部18は、加熱コイル26との間に並列コンデンサ20を配置して、並列共振回路を構成している。順変換部16は、スイッチング素子にサイリスタ16aを採用している。逆変換部18は、電流型のインバータであり、スイッチング素子に、抵抗18cとコンデンサ18dから成るスナバとサイリスタ18a1(18a2,18b1,18b2)を並列接続したものを採用している。順変換部16と逆変換部18との間には、DCL22(DCリアクトル:平滑コイル)を設けている。また、逆変換部18と並列コンデンサ20との間には、Lcm24が設けられている。なお、逆変換部18では、サイリスタの代わりに、IGBTとダイオードを直列接続したものを採用しても良い。
図1では、加熱コイルと被加熱物をインダクタンスLと等価並列抵抗Rpにより表現している。
【0014】
制御部28は、順変換位相制御部30と逆変換位相制御部32、および損失計算部34を基本として構成されている。順変換位相制御部30は、順変換部16の順変換位相制御角αを制御し、出力電圧の調整を行うための制御信号を出力する部位である。順変換位相制御部30の出力側には、パルス生成部36が設けられ、順変換位相制御部30からの出力信号に基づいて、順変換点弧パルスを生成し、順変換部16へと出力する。順変換位相制御部30には、電力変換手段12から出力される出力電流Iivの電圧(出力電圧Vmfと称す)の指令値(Vmf指令値)を定める信号や、出力電圧Vmfと出力電流Iivとの位相角制御用の設定値を定める信号、出力電圧Vmfのフィードバック信号、および順変換部16の出力電流Idcのフィードバック信号などが入力され、これらの信号に基づいて、順変換位相制御角αが導きだされ、パルス生成部36へと出力される。なお、順変換位相制御部30からは、後述する逆変換位相制御部32に対し、順変換位相制御角αを定める信号が出力される。ここで、順変換位相角制御角αを求める信号の出力経路には、順変換位相制御のための信号によるループと逆変換位相制御のための信号によるループとの制御干渉を防ぐために遅延回路38が設けられている。
【0015】
逆変換位相制御部32は、位相角制御用設定値、順変換位相制御角α、順変換部16の出力電流Idcのフィードバック、出力電圧Vmfのフィードバック、サイリスタ18bの損失許容値、およびサイリスタ18bの損失計算値等の各種入力信号に基づいて、逆変換点弧各λや、逆変換位相角θ(λ≒θ)を求め、パルス生成部40へと出力する。パルス生成部40は、逆変換位相制御部32からの出力信号を受け、逆変換部18に対して逆変換点弧パルスを出力する。
【0016】
損失計算部34は、逆変換部18におけるスイッチング素子を構成するサイリスタ18a1〜18b2の損失を求める役割を担う。ここで、サイリスタ18a1〜18b2の損失は、サイリスタ18a1〜18b2に対する通電損失(順方向損失)と、逆回復損失(スイッチング損失)の和によって求められる。損失計算部34には、サイリスタ18a1〜18b2の損失を算出するためのマイクロコンピュータが備えられている。算出された損失値は、位相角制御部32に出力される。
【0017】
上記のような構成の誘導加熱装置10をビレットヒータに適用した場合、被加熱部材であるビレットの材質や形態(直径)の変化により、コイルの等価抵抗(等価並列抵抗Rp)が変化する。例えば、ビレットの直径を変化させる場合、太材に比べて細材を加熱する際には、等価並列抵抗Rpが大きくなる。ここで、加熱コイル26に投入される電力Wは、数式1で求めることができる。
【数1】
・・・(1)
【0018】
数式1から理解できるように、等価並列抵抗Rpが増大した場合には、加熱コイル26に投入される電力Wの値が小さくなる。ここで、出力電圧Vmfが定格電圧よりも低い場合には、出力電圧Vmfを上昇させることで電力Wの向上を図ることができる。しかし、電流型インバータの場合、出力電圧Vmfが定格電圧に至っていない場合であっても、出力電流Iivが定格値に達してしまっている場合には、出力電圧Vmfを上昇させることができない。
【0019】
これに対し、以下のようなパワーマッチング制御を行うことにより、出力電流Iivを変化させることなく、出力電圧Vmfを増大させ、出力電力Wの増分を図ることができる。
【0020】
以下、上記のような構成の誘導加熱装置によるパワーマッチング制御について説明する。なお、電力変換手段12からの出力電流Iivと出力電圧Vmfとの関係を図2に示す。
【0021】
まず、電力変換手段12における順変換部16と逆変換部18に電力が供給された後、制御部28は逆変換部18に対し、電力変換手段12の出力電流Iivと出力電圧Vmfの位相角θが、予め定められた位相角θ0となるように制御する制御信号を出力するフィードバック制御を行う。また、このフィードバック制御と共に、制御部28は順変換部16に対し、出力電圧Vmfが予め定められた指令電圧(Vmf指令値)と一致するように、順変換制御角αを制御する制御信号を出力するフィードバック制御を行う。
【0022】
順変換部16の出力電圧Vdcと電力変換手段12の出力電圧Vmfは、Vmf=Vdc/(0.9×COSθ)の関係にある。このため、出力電圧VmfをVmf指令値に一致させるための順変換制御角αは、数式2に基づいて求めることができる。
【数2】
・・・(2)
ここで、Vinは、順変換部16へ入力される3相交流電源14からの電圧である(順変換位相制御ループ)。
【0023】
順変換位相制御ループにより求められる順変換制御角αは、パルス生成部36に入力されると共に、遅延回路38を介して逆変換位相制御部32に入力される。逆変換位相制御部32では、入力された順変換制御角αと、予め定められた制御角基準値α0とを比較し、順変換制御角αが、制御角基準値α0に一致するようにフィードバック制御する。
【0024】
具体的には、順変換制御角αが、制御角基準値α0よりも小さい場合には、出力電流Iivと出力電圧Vmfの位相角θを増大させる制御信号をパルス生成部40に出力する。一方、順変換制御角αが、制御角基準値α0よりも大きい場合には、位相角θを減少させる制御信号をパルス生成部40に出力するというものである。ここで、位相角θの変更制御は、出力電流Iivの周波数を制御することにより実施することができる(逆変換位相制御ループ)。
【0025】
逆変換位相制御ループにおいて、位相角θを増大させた場合、サイリスタ18a1,18a2あるいはサイリスタ18b1,18b2に流れる逆方向電流(リカバリー電流Ir)の電圧(逆バイアス電圧Vr)が大きくなる。このため、逆バイアス電圧Vrとリカバリー電流Irにより求められるサイリスタ18a1〜18b2の逆回復損失が大きくなる。よって、本実施形態では、逆変換位相制御ループ中における逆変換部18のサイリスタ18a1〜18b2の逆回復損失を計算する。そして、サイリスタ18a1〜18b2に対する通電電流値(出力電流Idc)とサイリスタ18a1〜18b2の抵抗値に基づいて算出される通電損失と、前述の逆回復損失との和により求められるサイリスタ18a1〜18b2の損失の値が、予め定められた許容値に達した場合に、逆変換位相制御ループにおいて、位相角θを増大させる信号の出力を停止させる。
【0026】
本実施形態で定義・監視する逆回復損失は、損失計算部34に設けられたマイクロコンピュータにより算出される。マイクロコンピュータには、例えば、逆バイアス電圧Vrの値に基づく比例値として逆回復損失を求める対象表やグラフが記憶されており、逆バイアス電圧Vrを算出することで、逆回復損失を求めることができる。
【0027】
サイリスタ18a1,18a2を通っていた電流が、サイリスタ18b1,18b2のゲートONにより転流する。サイリスタに逆方向の電流(リカバリー電流Ir)が流れる。(図3参照)。このリカバリー電流Irが流れた際に生じる電圧が逆バイアス電圧Vrである。ここで、転流余裕角をq(図2参照)、リカバリー係数をkとすると、電圧Vswと、逆バイアス電圧Vrは、それぞれ数式3、4により求めることができる。
【数3】
・・・(3)
【数4】
・・・(4)
【0028】
数式2〜4を参照すると、位相角θが大きくなると、出力電圧Vmfが大きくなり、逆バイアス電圧Vrも大きくなることがわかる。
【0029】
このように、実施形態に係る制御方法を採用した場合、被加熱部材の固有抵抗に変化が生じた場合であっても、高い出力電力を維持することができる。
【符号の説明】
【0030】
10………誘導加熱装置、12………電力変換手段、14………三層交流電源、16………順変換部、16a………サイリスタ、18………逆変換部、18a1〜18b2………サイリスタ、18c………抵抗、18d………コンデンサ、20………並列コンデンサ、22………DCL、24………Lcm、26………加熱コイル、28………制御部、30………電圧制御部、32………位相角制御部、34………損失計算部、36………パルス生成部、38………遅延回路、40………パルス生成部。
図1
図2
図3