【文献】
Sadao Adachi and Toru Takahashi,"Direct synthesis and properties of K2SiF6:Mn4+ phosphor by wet chemical etching of Si wafer",JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,2008年 7月18日,Vol.104,p.023512-1〜023512-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素源が、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコン、結晶性二酸化ケイ素および非晶質二酸化ケイ素からなる群から選択される、請求項3または4に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための蛍光体および発光装置を示すものであり、本発明は以下の例示に限定されない。
【0012】
また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、記載した実施形態に特定するものではない。特に実施形態に記載されている構成部品の大きさ、材質、形状、その配置等は本発明の範囲を限定する趣旨ではなく、説明例に過ぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等においても説明を明確にするため誇張していることがある。さらに、同一の名称、符号については同一、もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を省略する。本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して、同一の部材で複数の要素を兼用してもよく、逆に同一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することも可能である。
【0013】
本発明者らは、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体について鋭意検討および研究を重ねた結果、蛍光体のラマンスペクトルによって、結晶中の各結合に帰属するピークの強度と、蛍光体の発光特性とに相関関係があることを見出した。特に、マンガン付活されたケイフッ化カリウムからなる蛍光体に含まれるSi−F結合に帰属されるピークの強度とMn−F結合に帰属されるピークの強度の比が特定の範囲にあるときに、優れた発光特性が得られることを見出した。
【0014】
実施形態にかかる赤色発光蛍光体は、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体である。ここで主としてケイフッ化カリウムからなる蛍光体とは、蛍光体の基本的な結晶構造がケイフッ化カリウムであり、結晶を構成する元素の一部が他の元素で置換されたものをいう。実施形態にかかる蛍光体の組成は下記式(A)式で表わされる。
K
a(Si
1−x,Mn
x)F
b (A)
式中
1.5≦a≦2.5、好ましくは1.8≦a≦2.2、
5.5≦b≦6.5、好ましくは5.7≦b≦6.2かつ
0<x≦0.06、好ましくは0.01≦x≦0.05
である。
【0015】
実施形態にかかる蛍光体は、付活剤としてマンガンを含有するものである。マンガンが含有されていない場合(x=0)には紫外から青色領域に発光ピークを有する光で励起しても発光を確認することはできない。したがって、前記式(A)におけるxは0より大きいことが必要である。また、マンガンの含有量が多くなると発光効率が改良される傾向にあり、0.01以上であることが好ましい。また、赤色発光の蛍光体を得るためにはマンガンの価数は+4価であることが好ましい。
【0016】
しかし、マンガンの含有量が多すぎる場合には、濃度消光現象が生じて、蛍光体の発光強度が弱くなる傾向にある。こうした不都合を避けるために、マンガンの含有量(x)は一般に0.06以下であり、0.05以下であることが好ましい。
【0017】
蛍光体全体に対する各元素の含有量を分析するには、例えば以下のような方法が挙げられる。K、Si、Mnなどの金属元素は、合成された蛍光体をアルカリ融解し、例えばIRIS Advantage型ICP発光分光分析装置(商品名、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)によりICP発光分光法にて分析することができる。また、非金属元素Fは合成された蛍光体を熱加水分解により分離し、例えばDX−120型イオンクロマトグラフ分析装置(商品名、日本ダイオネクス株式会社製)により分析することができる。また、Fの分析は上述した金属元素と同様にアルカリ融解した後に、イオンクロマトグラフ法にて分析を行うことも可能である。
【0018】
なお、実施形態による蛍光体は、化学量論的には酸素を含まないものである。しかしながら、蛍光体の合成プロセス中、または合成後の蛍光体表面の分解等により、酸素が不可避的に蛍光体中に混入してしまうことがある。蛍光体中の酸素の含有量はゼロであることが望ましいが、[酸素含有量]/[(フッ素含有量)+(酸素含有量)]の値が0.05より小さい範囲であれば、発光効率が大きく損なわれることがないので好ましい。
【0019】
また、実施形態による蛍光体はNa、Rb、Csなどのアルカリ金属元素やTi、Ge、Snなどその他の元素を少量含有してもよい。これら元素が少量含有される場合であっても蛍光体は類似の発光スペクトルを示し、所望の効果を達成することができる。ただし、蛍光体の安定性、蛍光体合成時の反応性などの観点から、これらの元素の含有量は少ないことが好ましい。また、これらの元素を含む蛍光体を合成しようとすると、合成手順を変更する必要がある場合もあり、製造コストを抑制するために、式(A)に含まれる金属元素以外の金属元素を用いないことが好ましい。
【0020】
実施形態による式(A)の蛍光体組成は、蛍光体を融解、または分解して分析することにより求めることができる。本発明者等の検討によれば、実施形態による蛍光体には、蛍光体内部に存在し、フッ素と結合して発光に寄与するマンガンと、蛍光体表面などで酸素と結合した形態で存在し、発光を阻害するマンガンとが存在することを見出した。つまり、ICP発光分光分析では蛍光体に含まれるMnの総量を測定することは可能であるが、その総量には発光を阻害するMnも含まれているという不都合が生じることになる。なお、ここで蛍光体の「表面」とは、現実の表面からXPS分析により検出可能な深さまでの範囲を含み、「内部」とはそれよりも内側の部分をいう。
【0021】
フッ素と結合したマンガンはラマンスペクトル測定により検出することができる。ラマンスペクトル測定はサンプルに光を照射して散乱する光を測定することにより、サンプル固有の分子構造や結晶構造を調べる方法である。具体的には、蛍光体に光を照射して、その散乱光を測定する。この散乱光には、レイリー散乱光のほかに、結晶構造中に存在する各種の原子結合に対応して、照射された光とは波長が異なったラマン散乱光が含まれる。そのため、散乱光を分析することで、サンプルとなる蛍光体に含まれるSi−F結合やMn−F結合に帰属されるピークをそれぞれ検出することが可能である。
【0022】
具体的には、ラマンスペクトル測定は、LabRAM HR−PL装置(商品名、ホリバ・ジョバンイボン社製)等によって測定することができる。測定条件は、測定対象とする蛍光体の種類や粒子形状などによって変動し得るが、例えば以下の条件で測定することができる。
分析手法:後方散乱ラマンスペクトル測定、スリット幅:100μm、
光源:半導体レーザー(785nm)、光学系:顕微(体物100倍)、
ビーム径:1μm、光源出力:15mW
検出器:CCDマルチチャンネル
積算時間:120秒、積算回数:3回
試料条件:室温、大気中
【0023】
実施形態による蛍光体をラマンスペクトル測定すると、Si−F結合(SiF
62−)に起因した3種類のピークと、Mn−F結合(MnF
62−)に起因した3種類のピークが確認される。
図1に実施形態による蛍光体のラマンスペクトルとそのピークの帰属を示す。
【0024】
本発明者等は、組成が式(A)で表わされる蛍光体のうち、上記ラマンスペクトルで検出されたピークのうち、ラマンシフトが650±10cm
−1の範囲に現れるSi−F結合に対応するピークの強度(I
0)に対する、ラマンシフトが600±10cm
−1の範囲に現れるMn−F結合に対応するピークの強度(I
1)の比(I
1/I
0)が0.09以上0.22以下である蛍光体は外部量子効率及び内部量子効率が高くなることを見出した。具体的には、実施形態による蛍光体においては、内部量子効率は80%以上となる。
【0025】
非特許文献1によると、ラマンシフトが650±10cm
−1の範囲、およびに600±10cm
−1の範囲現れるピークは、それぞれSi−F結合及びMn−F結合の伸縮振動であるA1gモードに帰属されている。すなわちこれらの2つのピークは同じ振動モードであるため、ピーク強度を比較することによって、Si−F結合とMn−F結合との存在比に対応し、大きいほどF原子と結合したMn原子が多いと考えることができる。以下、このピーク強度比をR
A1gという。
【0026】
非特許文献1では、480±10cm−1の範囲に現れるSi−F結合に帰属されるピーク、及び520±10cm−1の範囲に現れるMn−F結合に帰属されるピークは共にEgモードに帰属し、410±10cm−1の範囲に現れるSi−F結合に帰属されるピーク及び310±10cm−1の範囲に現れるMn−F結合に帰属されるピークは共にF2g(T2g)モードに帰属されている。これらEgモード、及びF2g(T2g)モードに帰属されるピーク強度から求められる比率R
EgおよびR
F2gについて評価したところ、
それぞれ、0.75〜1.5、および0.31〜0.61の範囲である蛍光体は、外部量子効率及び内部量子効率が高い傾向が見出された。なお、Mn−F結合に対応するピークの強度がゼロの場合は、蛍光体中にMn−F結合が存在しないこととなり、Mnによる付活効果が認められず、蛍光体の発光を確認することができなくなる。
【0027】
組成が式(A)で表わされる蛍光体中のMnの総量は上述した通り、ICP発光分光法にて定量的に求めることが可能であるが、主としてケイフッ素化カリウムからなる蛍光体の一般的な合成方法では、蛍光体表面などに酸素と結合したMn、すなわちMnO
xを含有することが多く、ICP発光分光法にて発光に関連するMnのみを検出することは困難である。一方、ラマンスペクトルでは定量的にMn量を求めることができないが、発光に直接関連するMn−F結合をSi−F結合の強度比として求めることができる。
【0028】
ここで外部量子効率ηとは以下で規定する吸収率αと内部量子効率η’を乗じて算出した値である。
【数1】
式中
E(λ):蛍光体へ照射した励起光源の全スペクトル(フォトン数換算)
R(λ):蛍光体の励起光源反射光スペクトル(フォトン数換算)
P(λ):蛍光体の発光スペクトル(フォトン数換算)
である。
【0029】
つまり外部量子効率(η)は(I)×(II)によって算出可能である。
【0030】
外部量子効率、内部量子効率、吸収率は例えばC9920−02G型絶対PL量子収率測定装置(商品名、浜松ホトニクス株式会社製)により測定することができる。上記発光特性を測定する際の励起光としてはピーク波長が440〜460nm付近、半値幅5〜15nmの青色光を使用することができる。
【0031】
ラマンスペクトルから求められたR
A1gと内部量子効率との関係、およびR
A1gと外部量子効率との関係は
図2および3に示す通りである(詳細後述)。R
A1gが0.09以上0.22以下の範囲で、内部量子効率、外部量子効率ともに良好であることが分かる。
【0032】
実施形態にかかる蛍光体は、任意の方法で製造することができるが、具体的には以下の方法により製造することができる。。
【0033】
まず、反応溶液として過マンガン酸カリウムおよびフッ化水素を含有する水溶液を準備する。そして、この反応溶液をケイ素源に接触させることで、そのケイ素源の表面において反応が進行して蛍光体が形成される。本発明において、この反応溶液は、過マンガン酸カリウムに対するフッ化水素のモル比(以下r
H/Kという)は87以上127以下であり、90以上、および/または120以下であることが好ましい。また、反応溶液中のフッ化水素の濃度[HF]が27質量%以上40質量%以下であることが好ましく、28質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。反応溶液における過マンガン酸カリウムに対するフッ化水素の比およびフッ化水素の濃度がこの範囲にあることで、内部量子効率の高い蛍光体が得られる。
【0034】
反応溶液における過マンガン酸カリウムに対するフッ化水素の比r
H/Kおよびフッ化水素の濃度がこの範囲にある場合に内部量子効率が良好な蛍光体が得られる明確な理由は良く分かっていないが、現在のところ以下のように考えられている。
【0035】
本発明の一実施態様にかかる蛍光体はK
aSiF
b母体中のSi位置の一部をMnが置換している結晶構造を有している。過マンガン酸カリウムおよびフッ化水素を含む反応溶液にケイ素源を浸漬することにより蛍光体を合成する方法では、ケイ素源が過マンガン酸カリウムによって酸化されてシリカに転換され、そのシリカがHFによりフッ素化され、さらにイオン交換反応によってK
aSiF
b母体が生成する。一方、過マンガン酸カリウムはケイ素源を酸化した後、4価のMnとなり、K
aSiF
b母体中に取り込まれる。この反応過程中でシリカからK
aSiF
bが生成される反応は非常に早い。一方、4価のMnの生成反応はK
aSiF
bの生成速度に比べて遅い。
【0036】
ここで、K
aSiF
bの生成速度は反応溶液中のプロトン[H
+]濃度と[K
+]濃度の比に依存する。つまり、HF濃度が高くなるとシリカの溶解速度が促進され、K
aSiF
bの生成反応は早くなる。一方、Mnの価数変化の速度は変化しないため、HFの濃度が高すぎるとK
aSiF
b母体中に取り込まれるMn量が少なくなる。その結果蛍光体中のSi−F結合に対するMn−F結合の割合が減少すると考えられる。また、KMnO
4の濃度が高すぎると、Mn−F結合の割合が多いとMn同士が相互作用し、濃度消光と呼ばれる効率低下を引き起こすこともある。このため、反応溶液における過マンガン酸カリウムに対するフッ化水素の比およびフッ化水素の濃度が特定の範囲にあることが必要となる。
【0037】
また、反応溶液中に含まれるHFの濃度が高いと、K
aSiF
bの生成が促進されるので好ましいが過度に高いと、反応溶液中の[K+]濃度割合が減少するため、イオン交換反応が進みにくくなり、蛍光体の収量が著しく減少すると考えられる。
【0038】
このようにして製造された蛍光体粒子の表面に、例えば防湿やデバイス作製時の塗付性向上のため、コーティング処理により表層を形成させることもできる。この表層を構成する材料としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、テトラエトキシシラン(TEOS)、シリカ、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、カルシウムポリフォスフェート、シリコーンオイル、およびシリコーングリースから選択される少なくとも一種からなるものを挙げることができる。ケイ酸亜鉛およびケイ酸アルミニウムは、例えばZnO・cSiO
2(1≦c≦4)、及びAl
2O
3・dSiO
2(1≦d≦10)でそれぞれ表わされる。表層は蛍光体粒子表面が完全に覆われている必要はなく、粒子表面の一部が露出していてもよい。蛍光体粒子の表面の一部に、上述したような材質からなる表層が存在していれば、表面全体が完全に被覆されていなくてもその効果が得られる。表層は、その分散液または溶液の中に蛍光体粒子を所定時間浸漬した後、加熱等により乾燥させることによって配置される。蛍光体としての本来の機能を損なうことなく、表層の効果を得るために、表層は、蛍光体粒子の0.1〜5%の体積割合で存在することが好ましい。
【0039】
また、実施形態による蛍光体は使用する発光装置への塗布方法に応じて分級することもできる。青色領域に発光ピークを有する励起光を使用した通常の白色LEDなどでは、一般的に1〜50μmに分級された蛍光体粒子を用いることが好ましい。分級後の蛍光体の粒径が過度に小さいと、発光強度が低下してしまうことがある。また、粒径が過度に大きいとLEDに塗布する際、蛍光体層塗布装置に蛍光体が目詰まりし作業効率や歩留りの低下、出来上がった発光装置の色ムラの原因となることがある。
【0040】
本発明の実施形態にかかる蛍光体は、青色の波長領域に発光ピークを有する発光素子と組み合わせて、実施形態にかかるLED発光装置を得ることができる。実施形態にかかるLED発光装置は、従来のK
2SiF
6:Mn赤色蛍光体を用いたLED発光装置より、発光強度が高い。
【0041】
実施形態に係る蛍光体は紫外から青色領域に発光ピークを有する励起光源にて励起可能である。この蛍光体を発酵装置に用いる場合には、
図5に示された実施形態による蛍光体の励起スペクトルからわかるように、440nm以上470nm以下の波長領域に発光ピークを有する発光素子を励起光源として利用することが望ましい。上述の波長範囲外に発光ピークを有する発光素子を用いることは、発光効率の観点からは好ましくない。発光素子としては、LEDチップやレーザーダイオードなどの固体光源素子を使用できる。
【0042】
実施形態にかかる蛍光体は、赤色の発光をする蛍光体である。したがって、緑色発光蛍光体および黄色発光蛍光体と組み合わせて用いることにより、白色発光装置を得ることができる。使用する蛍光体は発光装置の目的に合わせて任意に選択することができる。例えば、色温度が低い白色発光装置を提供する際には、実施形態による蛍光体と黄色発光蛍光体と組み合わせることにより、効率と演色性を両立した発光装置を提供することができる。
【0043】
緑色発光蛍光体および黄色発光蛍光体は、520nm以上570nm以下の波長領域に主発光ピークを有する蛍光体ということができる。このような蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca,Ba)
2SiO
4:Eu、Ca
3(Sc,Mg)
2Si
3O
12:Ce等のケイ酸塩蛍光体、(Y,Gd)
3(Al,Ga)
5O
12:Ce、(Ca,Sr,Ba)Ga
2S
4:Eu等の硫化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Eu、(Ca,Sr)−αSiAlON等のアルカリ土類酸窒化物蛍光体などが挙げられる。なお、主発光ピークとは、発光スペクトルのピーク強度が最も大きくなる波長のことであり、例示された蛍光体の発光ピークは、これまで文献などで報告されている。なお、蛍光体作製時の少量の元素添加やわずかな組成変動により、10nm程度の発光ピークの変化が認められることがあるが、そのような蛍光体も前記の例示された蛍光体に包含されるものとする。
【0044】
また、実施形態による蛍光体を用いた発光装置には、上記以外の、青緑色発光蛍光体、橙色発光蛍光体、赤色発光蛍光体も用途に応じて使用することができる。
【0045】
橙色発光蛍光体、赤色発光蛍光体としては(Sr,Ca,Ba)
2SiO
4:Eu等のケイ酸塩蛍光体、Li(Eu,Sm)W
2O
8等のタングステン酸塩蛍光体、(La,Gd,Y)
2O
2S:Eu等の酸硫化物蛍光体、(Ca,Sr,Ba)S:Eu等の硫化物蛍光体、(Sr,Ba,Ca)
2Si
5N
8:Eu、(Sr,Ca)AlSiN
3:Eu等の窒化物蛍光体などが挙げられる。実施形態による蛍光体に更にこれらの蛍光体を組み合わせて使用することにより、効率だけでなく、照明用途での演色性や、バックライト用途での色域を更に改善することができる。ただし、使用する蛍光体の数が多すぎると、蛍光体同士が吸収、発光をする再吸収現象や蛍光体の発光が再度蛍光体に照射され、散乱現象が生じて、発光装置の効率が低下する。
【0046】
図4には、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0047】
図示する発光装置は、発光装置はリード100およびリード101とステム102、半導体発光素子103、反射面104、蛍光体層105を有する。底面中央部には、半導体発光素子103がAgペースト等によりマウントされている。半導体発光素子103としては、紫外発光を行なうもの、あるいは可視領域の発光を行なうものを用いることができる。例えば、GaAs系、GaN系等の半導体発光ダイオード等を用いることが可能である。なお、リード100およびリード101の配置は、適宜変更することができる。
【0048】
発光装置の凹部内には、蛍光体層105が配置される。この蛍光体層105は、実施形態にかかる蛍光体を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成することができる。蛍光体は、有機材料である樹脂や無機材料であるガラスなど種々のバインダーによって、付着させることができる。
【0049】
有機材料のバインダーとしては、上述したシリコーン樹脂の他にエポキシ樹脂、アクリル樹脂など耐光性に優れた透明樹脂が適している。無機材料のバインダーとしてはアルカリ土類ホウ酸塩等を使用した低融点ガラス等、粒径の大きな蛍光体を付着させるために超微粒子のシリカ、アルミナ等、沈殿法により得られるアルカリ土類リン酸塩等が適している。これらのバインダーは、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、蛍光体層に使用される蛍光体には、必要に応じて表面にコーティング処理を施すことができる。この表面コーティングにより、蛍光体が熱、湿度、紫外線等の外的要因から劣化が防止される。さらに、蛍光体の分散性を調整することが可能となり、蛍光体層の設計を容易に行なうことができる。
【0050】
半導体発光素子103としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤの断線や剥離、ワイヤによる光吸収等のワイヤに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、半導体発光素子103にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤにより他方のリードに接続することができる。半導体発光素子103のサイズ、凹部の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0051】
図5には、砲弾型の発光装置の例を示す。半導体発光素子51は、リード50’にマウント材52を介して実装され、プレディップ材54で覆われる。ワイヤ53により、リード50が半導体発光素子51に接続され、キャスティング材55で封入されている。プレディップ材54中には、実施形態にかかる蛍光体が含有される。
上述したように、実施形態にかかる発光装置、例えば白色LEDは一般照明等だけでなく、カラーフィルターなどのフィルターと発光装置を組み合わせて使用される発光デバイス、例えば液晶用バックライト用の光源等としても最適である。具体的には、液晶のバックライト光源や青色発光層を使用した無機エレクトロルミネッセンス装置の赤色発光材料としても使用することができる。
【0052】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
[実施例1〜3]
原料として、市販のSi単結晶を準備した。また、KMnO
4粉末10.8g、HF水溶液(49質量%)250ml、および純水150mlを十分混合し反応溶液とした。この反応溶液における過マンガン酸カリウムに対するフッ化水素のモル比は103であり、フッ化水素の濃度[HF]は31.5質量%である上記反応溶液中に室温(20℃)でSi単結晶を40分間反応させた。この際、反応溶液が均一になるようにゆっくり撹拌して反応させた。この結果、Si単結晶の表面に蛍光体が形成され、成長して大きくなった蛍光体粒子はSi単結晶表面から剥離して、容器底部に堆積した。
【0054】
得られた蛍光体のラマンスペクトルを測定し、R
A1gを算出した。さらに内部量子効率および外部量子効率を、C9920−02G型絶対PL量子収率測定装置(商品名、浜松ホトニクス株式会社製)により測定した。
【0055】
原料の配合比を変更して、実施例2および3、ならびに比較例1および2の蛍光体を調製し、同様にR
A1g、内部量子効率、および外部量子効率を求めた。得られた結果は表1、
図2および3に示す通りであった。
【0056】
【表1】
【0057】
[実施例4〜6および比較例3〜6]
KMnO
4粉末とHF水溶液とを用い、それらの配合比を変更して表2に示される反応溶液を調製し、それを用いて実施例1と同様の方法で蛍光体を調製した。得られた蛍光体の内部量子効率、外部量子効率、および蛍光体の収率も表2に合わせて示す。また、[HF]濃度に対する、吸収率、内部量子効率、および外部量子効率の変化、ならびに[HF]濃度に対する蛍光体収量の関係を
図6および7に示す。
【0058】
【表2】