特許第6342202号(P6342202)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342202
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】熱硬化性芳香族ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20180604BHJP
   C08K 5/3415 20060101ALI20180604BHJP
   C08G 65/40 20060101ALI20180604BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K5/3415
   C08G65/40
   C08G63/60
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-76518(P2014-76518)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196803(P2015-196803A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】中谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝利
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−095258(JP,A)
【文献】 特開2008−088407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08G 63/60
C08G 65/40
C08K 5/3415
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記芳香族ポリエステル(A)と下記架橋性化合物(B)を含み、前記芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が前記架橋性化合物(B)の硬化温度よりも30℃以上低いことを特徴とする熱硬化性芳香族ポリエステル組成物。
芳香族ポリエステル(A):分子鎖末端に水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種の基又は構造を有する芳香族ポリエステル
架橋性化合物(B):水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、又は共役ジエン構造と反応する官能基であって、芳香族ポリエステル(A)が有する基又は構造と反応する官能基、並びに熱重合性官能基を分子内に有する架橋性化合物であり、下記式(1)で表される化合物
【化1】
[式(1)中のR1は、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜15のアリーレン基、又はこれらが2以上、連結基を介して、又は介することなく結合した基を表す]
【請求項2】
前記芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が40〜200℃である請求項1に記載の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物。
【請求項3】
前記架橋性化合物(B)の硬化温度が70〜250℃である請求項1又は2に記載の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステル(A)の平均重合度が3〜30である請求項1〜の何れか1項に記載の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物。
【請求項5】
前記架橋性化合物(B)の配合量が、前記芳香族ポリエステル(A)100重量部に対して、10〜300重量部である請求項1〜のいずれか1項に記載の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルに代表される液晶ポリマーは、耐熱性、成形性、耐薬品性、機械強度等の各種特性に優れるため、電気・電子部品、自動車部品等の様々な用途に使用されている。近年、特に、加熱により硬化させることによって非常に高い耐熱性を有する硬化物を形成できる熱硬化性液晶ポリマー材料に注目が集められている。
【0003】
液晶ポリエステルの製造方法としては、モノマーをアセチル化及び脱アセチル化を伴う、エステル交換反応による方法が知られている。また、熱硬化性液晶ポリエステルの製造方法として、液晶ポリエステルに熱硬化剤などの硬化剤を加えて、溶融混合する方法が知られている。半導体の封止技術として、トランスファー成形が知られている。
【0004】
熱硬化性液晶ポリマー材料としては、例えば、主鎖サーモトロピック液晶エステル等の液晶オリゴマーをフェニルアセチレン、フェニルマレイミド、ナジイミド反応性末端基でエンドキャップした材料が知られている(特許文献1〜3参照)。また、主鎖に一つ以上の可溶性構造単位を有し且つ主鎖の末端の一つ以上に熱硬化性基を有する熱硬化性液晶オリゴマーと特定のフッ素化合物とを反応させて得られる材料(特許文献4参照)、上記熱硬化性液晶オリゴマーとアルコキシド金属化合物で表面を置換したナノ充填剤とを反応させて得られる材料が知られている(特許文献5参照)。
【0005】
熱硬化性液晶ポリマー材料としては、例えば、液晶ポリマーの末端にスペーサー単位を介して架橋性基が結合した材料も知られている(特許文献6参照)。また、液晶ポリエステルの両末端に、無置換又は置換マレイミド、無置換又は置換ナジイミド、エチニル、ベンゾシクロブテンなどのラジカル重合性基を有する材料も知られている(特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−509190号公報
【特許文献2】米国特許第6939940号明細書
【特許文献3】米国特許第7507784号明細書
【特許文献4】特開2011−111619号公報
【特許文献5】特開2011−084707号公報
【特許文献6】特表2002−521354号公報
【特許文献7】米国特許第5114612号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
芳香族ポリエステルは、熱可塑性樹脂であり、成形温度以上の温度にさらされる用途では、変形するため使用できない。そのため、芳香族ポリエステルに架橋性を有する熱硬化性官能基を導入し、熱硬化性樹脂とする必要がある。上記のような架橋性基を有する熱硬化性芳香族ポリエステルを得る方法としては、溶液法が用いられることが多く、一般的に生産性が悪い。生産性良く熱硬化性芳香族ポリエステルを得るためには、芳香族ポリエステルと架橋性基を有する化合物を芳香族ポリエステルの融点以上の温度にて長時間加熱、混練する方法(溶融混合)が採られている。しかしながら、芳香族ポリエステルは、一般的に融点が非常に高く(例えば、280℃以上)、溶融混合時に架橋反応の進行により粘度が上昇し、トランスファー成形等の成形が困難となる場合がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、比較的低温(例えば、200℃以下)にて、芳香族ポリエステルを溶融混合でき、溶融混合時に架橋反応の進行により粘度が上昇せず、トランスファー成形等の成形性に優れた熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、芳香族ポリエステルの軟化温度が架橋性基を有する化合物の硬化温度よりも30℃以上低い、特定の芳香族ポリエステルを用いることにより、架橋反応が進行しない比較的低い温度領域(例えば、100〜200℃)で混練し、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を得ることできることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記芳香族ポリエステル(A)と下記架橋性化合物(B)を含み、前記芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が前記架橋性化合物(B)の硬化温度よりも30℃以上低いことを特徴とする熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
芳香族ポリエステル(A):分子鎖末端に水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種の基又は構造を有する芳香族ポリエステル
架橋性化合物(B):水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、又は共役ジエン構造と反応する官能基であって、芳香族ポリエステル(A)が有する基又は構造と反応する官能基、並びに熱重合性官能基を分子内に有する架橋性化合物
【0011】
さらに、本発明は、前記芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が40〜200℃である前記の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、前記架橋性化合物(B)の硬化温度が70〜250℃である前記の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、前記架橋性化合物(B)がマレイミド誘導体である前記の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記芳香族ポリエステル(A)の平均重合度が3〜30である前記の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、前記架橋性化合物(B)の配合量が、前記芳香族ポリエステル(A)100重量部に対して、10〜300重量部である前記の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、上記構成を有するため、加熱混練時に架橋反応の進行により粘度が上昇せず、トランスファー成形等の成形性に優れた熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を得ることができる。また、芳香族ポリエステルを必須の構成要素として含むため、得られる硬化物は、加工性、寸法安定性、低線膨張、高熱伝導、低吸湿性及び誘電特性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[熱硬化性芳香族ポリエステル組成物]
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、下記芳香族ポリエステル(A)と下記架橋性化合物(B)を含み、前記芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が前記架橋性化合物(B)の硬化温度よりも30℃以上低いことを特徴とする。なお、本発明における芳香族ポリエステル(A)の軟化温度とは、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)を混練して組成物を作製できる温度を意味し、例えば、ホットステージを取り付けた偏光顕微鏡を用いて実施例記載の方法で測定することができる。また、架橋性化合物(B)の硬化温度とは、DSC測定による発熱ピーク温度のことである。
芳香族ポリエステル(A):分子鎖末端に水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種の基又は構造を有する芳香族ポリエステル
架橋性化合物(B):水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、又は共役ジエン構造と反応する官能基であって、芳香族ポリエステル(A)が有する基又は構造と反応する官能基、並びに熱重合性官能基を分子内に有する架橋性化合物
【0018】
[芳香族ポリエステル(A)]
本発明における芳香族ポリエステル(A)は、上述のように、分子鎖末端に水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種の基又は構造(「反応性官能基(a)」と称する場合がある)を有する芳香族ポリエステルである。なお、芳香族ポリエステル(A)は、ポリエステル構造を有する重合体(ポリマー又はオリゴマー)であって、その溶融体(例えば、450℃以下における溶融体)が光学的異方性を示す液晶ポリエステル(サーモトロピック液晶ポリマー)である場合が多い。
【0019】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に水酸基を有する場合、特に限定されないが、分子鎖の一方の末端(片末端)のみに水酸基を有していてもよいし、分子鎖の両方の末端(両末端)に水酸基を有していてもよい。また、芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端以外の部分に水酸基を有するものであってもよい。
【0020】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有する水酸基は、フェノール性水酸基であってもよいし、アルコール性水酸基であってもよい。中でも、硬化物の耐熱性の観点で、芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有する水酸基は、フェノール性水酸基であることが好ましい。なお、本明細書における「フェノール性水酸基」には、置換又は無置換ベンゼン環に結合した水酸基に加え、その他の芳香族環(ナフタレン環、アントラセン環など)に結合した水酸基も含まれるものとする。
【0021】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端にアシルオキシ基を有する場合、特に限定されないが、分子鎖の一方の末端(片末端)のみにアシルオキシ基を有していてもよいし、分子鎖の両方の末端(両末端)にアシルオキシ基を有していてもよい。また、芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端以外の部分にアシルオキシ基を有するものであってもよい。
【0022】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有するアシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基(アセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基などが挙げられる。中でも、使用する原料の汎用性と反応性の観点で、芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有するアシルオキシ基は、アセトキシ基であることが好ましい。
【0023】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に芳香族環式基を有する場合、特に限定されないが、分子鎖の一方の末端(片末端)のみに芳香族環式基を有していてもよいし、分子鎖の両方の末端(両末端)に芳香族環式基を有していてもよい。また、芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端以外の部分に芳香族環式基を有するものであってもよい。なお、芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有する芳香族環式基には、環1個あたり1以上の置換基が結合していてもよい。上記置換基としては、公知乃至慣用の置換基が挙げられ、特に限定されないが、例えば、後述の芳香族ヒドロキシカルボン酸が有していてもよい置換基として例示したものなどが挙げられる。
【0024】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端にフェノール性水酸基を有する場合、該芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端に水酸基を有する芳香族ポリエステルでもあるし、分子鎖末端に芳香族環を有する芳香族ポリエステルでもある。
【0025】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に共役ジエン構造を有する場合、特に限定されないが、分子鎖の一方の末端(片末端)のみに共役ジエン構造を有していてもよいし、分子鎖の両方の末端(両末端)に共役ジエン構造を有していてもよい。また、芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端以外の部分に共役ジエン構造を有するものであってもよい。
【0026】
芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有する共役ジエン構造としては、例えば、鎖状共役ジエン構造、環状共役ジエン構造などが挙げられる。上記鎖状共役ジエン構造としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどに由来する構造などが挙げられる。上記環状共役ジエン構造としては、例えば、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、フラン及びその誘導体、チオフェン及びその誘導体などに由来する構造などが挙げられる。
【0027】
芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端に、水酸基、アシルオキシ基、芳香族環、及び共役ジエン構造からなる群より選択された2種以上を有するものであってもよい。例えば、芳香族ポリエステル(A)は、分子鎖末端に水酸基とアシルオキシ基の両方を有するものであってもよく、具体的には、分子鎖の一方の末端に水酸基を有し、他方の末端にアシルオキシ基を有するものであってもよい。
【0028】
芳香族ポリエステル(A)における分子鎖末端の末端基全体に対して、水酸基の割合が5〜100%、アシルオキシ基の割合が0〜90%、水酸基及びアシルオキシ基以外の基の割合が0〜90%であることが好ましく、水酸基の割合が10〜90%、アシルオキシ基の割合が10〜90%、水酸基及びアシルオキシ基以外の基の割合が0〜80%であることがより好ましい。
【0029】
芳香族ポリエステル(A)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールからなる群より選択された少なくとも1種の芳香族化合物由来の構成単位(繰り返し構成単位)を少なくとも含む芳香族ポリエステルであることが好ましい。
【0030】
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4'−ヒドロキシ[1,1'−ビフェニル]−4−カルボン酸、及びこれらの誘導体などが挙げられる。上記誘導体としては、例えば、上記芳香族ヒドロキシカルボン酸の芳香環(芳香族環)に、炭素数0〜20(好ましくは炭素数0〜10)の置換基が置換した化合物等が挙げられる。上記置換基としては、例えば、アルキル基[例えば、メチル基、エチル基など];アルケニル基[例えば、ビニル基、アリル基など];アルキニル基[例えば、エチニル基、プロピニル基など];ハロゲン原子[例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など];ヒドロキシル基;アルコキシ基[例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等のC1-6アルコキシ基(好ましくはC1-4アルコキシ基)など];アルケニルオキシ基[例えば、アリルオキシ基等のC2-6アルケニルオキシ基(好ましくはC2-4アルケニルオキシ基)など];アリールオキシ基[例えば、フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいC6-14アリールオキシ基など];アラルキルオキシ基[例えば、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のC7-18アラルキルオキシ基など];アシルオキシ基[例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のC1-12アシルオキシ基など];メルカプト基;アルキルチオ基[例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等のC1-6アルキルチオ基(好ましくはC1-4アルキルチオ基)など];アルケニルチオ基[例えば、アリールチオ基等のC2-6アルケニルチオ基(好ましくはC2-4アルケニルチオ基)など];アリールチオ基[例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基、ナフチルチオ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいC6-14アリールチオ基など];アラルキルチオ基[例えば、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等のC7-18アラルキルチオ基など];カルボキシル基;アルコキシカルボニル基[例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のC1-6アルコキシ−カルボニル基など];アリールオキシカルボニル基[例えば、フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のC6-14アリールオキシ−カルボニル基など];アラルキルオキシカルボニル基[例えば、ベンジルオキシカルボニル基などのC7-18アラルキルオキシ−カルボニル基など];アミノ基;モノ又はジアルキルアミノ基[例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノ又はジ−C1-6アルキルアミノ基など];モノ又はジフェニルアミノ基[例えば、フェニルアミノ基など];アシルアミノ基[例えば、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のC1-11アシルアミノ基など];エポキシ基含有基[例えば、グリシジル基、グリシジルオキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基など];オキセタニル基含有基[例えば、エチルオキセタニルオキシ基など];アシル基[例えば、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基など];オキソ基;イソシアネート基;これらの2以上が必要に応じてC1-6アルキレン基を介して結合した基などが挙げられる。なお、芳香族ポリエステル(A)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0031】
上記芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、[1,1'−ビフェニル]−4,4'−ジカルボン酸、4,4'−オキシビス(安息香酸)、4,4'−チオビス(安息香酸)、4−[2−(4−カルボキシフェノキシ)エトキシ]安息香酸、及びこれらの誘導体などが挙げられる。上記誘導体としては、例えば、上記芳香族ジカルボン酸の芳香環に、炭素数0〜20(好ましくは炭素数0〜10)の置換基が置換した化合物などが挙げられる。上記置換基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様のものが例示される。なお、芳香族ポリエステル(A)は、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0032】
上記芳香族ジオールとしては、例えば、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、レゾルシノール、2,6−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、[1,1'−ビフェニル]−4,4'−ジオール、4,4'−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、(フェニルスルホニル)ベンゼン、[1,1'−ビフェニル]−2,5−ジオール、及びこれらの誘導体などが挙げられる。上記誘導体としては、例えば、上記芳香族ジオールの芳香環に、炭素数0〜20(好ましくは炭素数0〜10)の置換基が置換した化合物などが挙げられる。上記置換基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様のものが例示される。なお、芳香族ポリエステル(A)は、芳香族ジオール由来の構成単位の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0033】
芳香族ポリエステル(A)が、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールからなる群より選択された少なくとも1種の芳香族化合物由来の構成単位Uを含む芳香族ポリエステルであって、前記構成単位Uの、芳香族ポリエステル骨格を構成する全構成単位に対する割合(前記構成単位が2種以上の場合は、それらの総量の割合)は、60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。特に、芳香族ポリエステル(A)が実質的に上述の芳香族化合物(芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール)由来の構成単位のみからなることが好ましい。割合が上記範囲であると、導入される他の単量体由来の構成単位により、芳香族ポリエステル(A)が化学的な変化を受けにくく、硬化物の耐熱性や耐湿性(耐加水分解性)の低下が起きにくい。
【0034】
芳香族ポリエステル(A)は、上述の構成単位(芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構成単位、芳香族ジカルボン酸由来の構成単位、芳香族ジオール由来の構成単位)以外の構成単位(「その他の構成単位」と称する場合がある)を有していてもよく、上記その他の構成単位としては、例えば、芳香族ジアミン由来の構成単位、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族アミド由来の構成単位などが挙げられる。
【0035】
上記芳香族ジアミンとしては、例えば、1,4−ベンゼンジアミン、1,3−ベンゼンジアミン、4−メチル−1,3−ベンゼンジアミン、4−(4−アミノベンジル)フェニルアミン、4−(4−アミノフェノキシ)フェニルアミン、3−(4−アミノフェノキシ)フェニルアミン、4'−アミノ−3,3'−ジメチル[1,1'−ビフェニル]−4−イルアミン、4'−アミノ−3,3'−ビス(トリフルオロメチル)[1,1'−ビフェニル]−4−イルアミン、4−アミノ−N−(4−アミノフェニル)ベンズアミド、4−[(4−アミノフェニル)スルホニル]フェニルアミン、ビス(4−アミノフェニル)メタノン、及びこれらの誘導体などが挙げられる。上記誘導体としては、例えば、上記芳香族ジアミンの芳香環に、炭素数0〜20(好ましくは炭素数0〜10)の置換基が置換した化合物などが挙げられる。上記置換基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様のものが例示される。なお、芳香族ポリエステル(A)は、芳香族ジアミン由来の構成単位の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0036】
上記フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族アミドとしては、例えば、4−アミノフェノール、4−アセトアミドフェノール、3−アミノフェノール、3−アセトアミドフェノール、6−アミノ−2−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、4'−ヒドロキシ−[1,1'−ビフェニル]−4−アミン、4−アミノ−4'−ヒドロキシジフェニルメタン、及びこれらの誘導体などが挙げられる。上記誘導体としては、例えば、上記フェノール性水酸基を有する芳香族アミンの芳香環に、炭素数0〜20(好ましくは炭素数0〜10)の置換基が置換した化合物などが挙げられる。上記置換基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様のものが例示される。なお、芳香族ポリエステル(A)は、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族アミド由来の構成単位の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0037】
上述の芳香族化合物(芳香族ジアミン、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族アミド)の、芳香族ポリエステル(A)を構成する全構成単位に対する割合(前記構成単位が2種以上の場合は、それらの総量の割合)は、特に限定されないが、30重量%以下(例えば、0〜30重量%)が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下がさらに好ましい。上記割合が30重量%以下であると、硬化物の耐吸湿性(耐加水分解性)が低下しにくい。
【0038】
芳香族ポリエステル(A)は、上述の芳香族化合物(単量体)を公知乃至慣用の方法により重合することにより製造でき、その製造方法は特に限定されない。具体的には、例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミン等のヒドロキシル基やアミノ基を有する芳香族化合物を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化し、得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸などのカルボキシル基を有する芳香族化合物とを反応(エステル交換反応、アミド交換反応)させることにより製造できる。より具体的には、例えば、特開2007−119610号公報に記載の方法などにより製造できる。また、芳香族ポリエステル(A)としては、市販品を使用することもできる。
【0039】
分子鎖末端に水酸基を有する芳香族ポリエステル(A)を生成させる方法としては、例えば、水酸基が過剰となるように単量体組成を制御する方法(例えば、単量体成分として芳香族ジオールを過剰に使用する方法など)などが挙げられる。具体的には、芳香族ポリエステル(A)を製造する際に使用する芳香族ポリエステル(A)を構成する単量体における、水酸基と該水酸基と縮合反応する官能基(カルボキシル基、カルボキシル基より誘導される基(エステル基、酸無水物基、酸ハロゲン化物基など)、アミノ基など)との割合は、特に限定されないが、水酸基と縮合反応する官能基1モルに対して、水酸基は1.02モル以上(例えば、1.02〜100モル)が好ましく、1.05モル以上がより好ましく、1.10モル以上がさらに好ましい。水酸基が1.02モル以上であると、分子量が高くなりすぎず、熱硬化反応に要する時間を抑えることができる。より具体的には、芳香族ポリエステル(A)を構成する単量体の全量(100モル%)に対する芳香族ジオールの割合は、特に限定されないが、3〜25モル%が好ましく、4〜25モル%がより好ましい。
【0040】
また、分子鎖末端にアシルオキシ基を有する芳香族ポリエステル(A)を生成させる方法としては、例えば、分子鎖末端に水酸基を有する芳香族ポリエステル(A)の当該水酸基を公知乃至慣用のアシル化剤(例えば、無水酢酸等の脂肪酸無水物、酸ハロゲン化物など)を用いてアシル化する方法などが挙げられる。
【0041】
分子鎖末端に芳香族環式基を有する芳香族ポリエステル(A)を生成させる方法としては、例えば、単量体として実質的に芳香族化合物(例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールなど)のみを使用する方法や、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの反応性官能基を分子鎖末端に有する芳香族ポリエステルの末端の当該反応性官能基に対して、芳香族化合物を反応(例えば、付加反応)させて分子鎖末端に芳香族環を形成する方法などが挙げられる。
【0042】
分子鎖末端に共役ジエン構造を有する芳香族ポリエステル(A)を生成させる方法としては、例えば、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの反応性官能基を末端に有する芳香族ポリエステルの当該反応性官能基に対して、共役ジエン構造を有し、かつ上記反応性官能基に反応(例えば、付加反応)させることが可能な化合物(例えば、(1−メチル−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)メタノールなど)を反応させる方法などが挙げられる。
【0043】
芳香族ポリエステル(A)の平均重合度は、特に限定されないが、3〜30が好ましく、3〜25がより好ましく、3〜20がさらに好ましい。平均重合度が上記範囲であると、軟化温度を適度に調整しやすくなる。なお、芳香族ポリエステル(A)の平均重合度は、例えば、特開平5−271394号公報に記載のアミン分解HPLC法により求めることができる。
【0044】
芳香族ポリエステル(A)の分子量は、特に制限されないが、500〜20000であることが好ましく、500〜10000がより好ましく、500〜5000がさらに好ましい。分子量が、上記範囲であると、硬化反応性が低下しにくく、軟化温度を適度に調整しやすくなる。なお、芳香族ポリエステル(A)の分子量は、例えば、GPC測定により求めることができる。
【0045】
芳香族ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、30〜150℃が好ましく、40〜120℃がより好ましく、50〜100℃がさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲であると、硬化物の耐熱性に劣りにくく、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の溶融混合を比較的低温(例えば、200℃以下)で実施することができる。なお、芳香族ポリエステル(A)のガラス転移温度は、例えば、DSC、TGA等の熱分析や動的粘弾性測定により測定できる。
【0046】
芳香族ポリエステル(A)の融点(Tm)は、明確に測定可能な融点としてあってもなくてもよく、特に限定されないが、250℃以下(例えば、80〜250℃)が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましく、180℃以下が特に好ましい。融点が250℃以下であると、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の溶融混合を比較的低温(例えば、200℃以下)で実施することができ、架橋反応による急激な粘度低下を起こしにくい。なお、芳香族ポリエステル(A)の融点は、例えば、DSC、TGA等の熱分析や動的粘弾性測定により測定できる。
【0047】
芳香族ポリエステル(A)の軟化温度は、特に限定されないが、40〜200℃が好ましく、50〜180℃がより好ましく、80〜160℃がさらに好ましい。軟化温度が上記範囲であると、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の溶融混合を比較的低温(例えば、200℃以下)で実施することができ、溶融混合時に架橋性化合物(B)の架橋反応が起こりにくい。なお、芳香族ポリエステル(A)の軟化温度とは、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)を混練して組成物を作製できる温度であり、例えば、ホットステージを取り付けた偏光顕微鏡を用いて実施例記載の方法で測定することができる。
【0048】
芳香族ポリエステル(A)の軟化温度は、芳香族ポリエステルの組成や重合度を変更することにより制御できる。芳香族ポリエステルの組成としては、上記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールのうち、芳香族ジオールの割合が高くなると軟化温度が低くなり、芳香族ジカルボン酸の割合が高くなると軟化温度が高くなる傾向がある。また、芳香族ポリエステル骨格中において、ナフタレンやアントラセンなどの多環式芳香族環の割合が多くなると、軟化温度が高くなる傾向がある。芳香族ポリエステルの重合度としては、重合度が増すにつれて軟化温度が高くなる傾向があり、例えば、5量体の場合の軟化温度は、90〜100℃であり、10量体の場合の軟化温度は、140〜150℃であり、20量体の場合の軟化温度は、170〜180℃である。
【0049】
[架橋性化合物(B)]
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を構成する架橋性化合物(B)は、熱硬化剤として働き、上述のように、分子内(一分子中)に、芳香族ポリエステル(A)が分子鎖末端に有する反応性官能基(a)(水酸基、アシルオキシ基、芳香族環式基、及び共役ジエン構造からなる群より選択された少なくとも1種)と反応する官能基(「反応性官能基(b)」と称する場合がある)と、熱重合性官能基(熱硬化性官能基)とを少なくとも有する化合物である。
【0050】
上記反応官能性基(b)としては、芳香族ポリエステル(A)の反応性官能基(a)と反応し得る官能基であればよく、特に限定されないが、上記反応が進行する温度の観点で、例えば、α,β−不飽和カルボニル基(例えば、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するケトン基、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するエステル基、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するアミド基、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するイミド基など);エポキシ基;マレイミド基;エステル基;酸無水物基(例えば、マレイン酸無水物基など);カルボキシル基、酸クロライドなどが挙げられる。なお、架橋性化合物(B)は、上記反応性官能基(b)の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0051】
なお、上記で例示した反応性官能基(b)のうち、α,β−不飽和カルボニル基、エポキシ基、マレイミド基、エステル基、酸無水物基、カルボキシル基は、水酸基と反応する反応性官能基(対水酸基反応性官能基)である。また、上記で例示した反応性官能基(b)のうち、カルボキシル基は、アシルオキシ基と反応する反応性官能基(対アシルオキシ基反応性官能基)である。さらに、上記で例示した反応性官能基(b)のうち、マレイミド基、酸無水物基(特に、マレイン酸無水物基)は、芳香族環と反応(環化付加反応)する反応性官能基、及び/又は、共役ジエン構造と反応(環化付加反応)する反応性官能基である。
【0052】
架橋性化合物(B)における反応性官能基(b)の数は、1個以上であればよく、特に限定されないが、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましい。
【0053】
上記熱重合性官能基としては、加熱により重合し得る官能基であればよく、特に限定されないが、重合反応が進行する温度の観点で、例えば、マレイミド基、ナジイミド基、フタルイミド基、シアネート基、ニトリル基、フタロニトリル基、スチリル基、エチニル基、プロパルギルエーテル基、ベンゾシクロブテン基、ビフェニレン基、エポキシ基、ベンゾオキサジン基、イソシアネート基、ベンゾピラン基、3−フェニルマレイミド基、フェニルエチニル基、及びこれらの置換体又は誘導体などが挙げられる。なお、上記置換体又は誘導体としては、上記熱重合性官能基に置換基(例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基等)が結合した熱重合性官能基などが挙げられる。中でも、構造の一部又は全部が上記反応性官能基(b)としても機能する点で、マレイミド基が好ましい。なお、架橋性化合物(B)は、上記熱重合性官能基の1種を有するものであってもよいし、2種以上を有するものであってもよい。
【0054】
架橋性化合物(B)における熱重合性官能基の数は、1個以上であればよく、特に限定されないが、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましい。
【0055】
なお、架橋性化合物(B)は、反応性官能基(b)を1個以上と熱重合性官能基を1個以上有する必要がある。例えば、架橋性化合物(B)が反応性官能基(b)としても熱重合性官能基としても機能するマレイミド基を有する場合には、マレイミド基を2個以上有する必要がある。当該マレイミド基におけるα炭素−β炭素二重結合は、芳香族ポリエステル(A)の水酸基、芳香族環式基、又は共役ジエン構造と反応することにより消失し、もはや熱重合性官能基としては機能できなくなるためである。
【0056】
架橋性化合物(B)としては、例えば、分子内に1以上の反応性官能基(b)と1以上の熱重合性官能基とを有し、かつ炭素数が100以下(好ましくは10〜50)の化合物が挙げられる。このような架橋性化合物(B)としては、例えば、炭化水素基、複素環式基、又はこれらの2以上が連結基(1以上の原子を有する2価の基)の1以上を介して結合した基により形成された化合物等が挙げられる。上記炭化水素基、複素環式基、これらの2以上が連結基の1以上を介して結合した基としては、例えば、下記式(i)中のX1、X2として例示した基(有機基)などが挙げられる。
【0057】
具体的には、架橋性化合物(B)としては、下記式(i)で表される化合物(α,β−不飽和カルボニル基(不飽和基が二重結合の場合)及び熱重合性官能基を有する化合物)が挙げられる。
【化1】
【0058】
上記式(i)中のX1、X2は、同一又は異なって有機基を示す。上記有機基としては、特に限定されないが、置換又は無置換の炭化水素基、置換又は無置換の複素環式基、これらの基の2以上が1以上の連結基を介して結合した基などが挙げられる。
【0059】
上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基が挙げられる。上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びこれらに対応する2価以上の基が挙げられる。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基などのC1-20アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基)などが挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基などのC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、さらに好ましくはC2-4アルケニル基)などが挙げられる。上記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などのC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、さらに好ましくはC2-4アルキニル基)などが挙げられる。
【0060】
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基などのC3-12のシクロアルキル基及び対応する2価以上の基;シクロヘキセニル基などのC3-12のシクロアルケニル基及び対応する2価以上の基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基、及びこれらに対応する2価以上の基などのC4-15の架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
【0061】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14アリール基(特に、C6-10アリール基)及び対応する2価以上の基などが挙げられる。
【0062】
また、上記炭化水素基としては、例えば、シクロへキシルメチル基、メチルシクロヘキシル基、及びこれらに対応する2価以上の基などの脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基;ベンジル基、フェネチル基等のC7-18アラルキル基(特に、C7-10アラルキル基)、シンナミル基等のC6-10アリール−C2-6アルケニル基、トリル基等のC1-4アルキル置換アリール基、スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基、及びこれらに対応する2価以上の基などの脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基などが挙げられる。上記炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様の基が挙げられる。
【0063】
上記複素環式基としては、例えば、ピリジル基、フリル基、チエニル基、及びこれらに対応する2価以上の基などが挙げられる。上記複素環式基が有していてもよい置換基としては、例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様の基が挙げられる。
【0064】
上記炭化水素基としては、例えば、2以上の炭化水素基が1以上の連結基[1以上の原子を有する2価の基;例えば、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、−NR−(Rは水酸基又はアルキル基を示す)、イミド結合、これらの2以上が結合した基など]で連結された基なども挙げられる。また、上記複素環式基としては、2以上の複素環式基が直接結合した基なども挙げられる。また、上記有機基(X1、X2)は、上記炭化水素基の1以上と上記複素環式基の1以上とが、直接及び/又は1以上の連結基を介して結合した基であってもよい。
【0065】
上記式(i)中のX1、X2は、互いに結合して式中に示される3つの炭素原子とともに環を形成していてもよい。具体的には、X1及びX2と式中に示される3つの炭素原子とで形成される環構造としては、例えば、シクロアルケノン環、シクロアルケンジオン環、フランジオン環(マレイン酸無水物環)、ピロールジオン環(マレイミド環)、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するラクトン環、カルボニル炭素のα位とβ位の間に炭素−炭素不飽和結合を有するラクタム環などが挙げられる。
【0066】
上記式(i)中のR1、R2は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基などの炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基などが挙げられる。上記アルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸における置換基と同様の基(但し、アルキル基は除く)が挙げられる。
【0067】
上記式(i)中のY1、Y2は、同一又は異なって、熱重合性官能基を示す。上記熱重合性官能基としては、上述の熱重合性官能基が例示される。また、上記式(i)中のn1、n2は、同一又は異なって、0以上の整数を示す。但し、n1とn2の合計(n1+n2)は1以上の整数を示す(即ち、上記式(i)で表される化合物は、分子内に1以上の熱重合性官能基を有する)。n1とn2の合計としては、例えば、1〜10の整数(より好ましくは1〜5の整数)が好ましい。また、Y1、Y2のX1、X2に対する結合位置は、特に限定されない。なお、n1(又はn2)が2以上の整数である場合、複数のY1(又はY2)は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0068】
また、架橋性化合物(B)としては、下記式(ii)で表される化合物(α,β−不飽和カルボニル基(不飽和基が三重結合の場合)及び熱重合性官能基を有する化合物)が挙げられる。
【化2】
【0069】
上記式(ii)中のX3、X4は、同一又は異なって有機基を示す。上記有機基としては、式(i)中のX1、X2として例示したものと同様の有機基が挙げられる。また、上記式(i)中のX1、X2と同様に、上記式(ii)中のX3、X4は、互いに結合して式中に示される3つの炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【0070】
上記式(ii)中のY3、Y4は、同一又は異なって、熱重合性官能基を示す。上記熱重合性官能基としては、上述の熱重合性官能基が例示される。また、上記式(ii)中のn3、n4は、同一又は異なって、0以上の整数を示す。但し、n3とn4の合計(n3+n4)は1以上の整数を示す(即ち、上記式(ii)で表される化合物は、分子内に1以上の熱重合性官能基を有する)。n3とn4の合計としては、例えば、1〜10の整数(より好ましくは1〜5の整数)が好ましい。また、Y3、Y4のX3、X4に対する結合位置は、特に限定されない。なお、n3(又はn4)が2以上の整数である場合、複数のY3(又はY4)は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0071】
また、架橋性化合物(B)としては、下記式(iii)で表される化合物(熱重合性官能基を有するカルボン酸又はその誘導体)が挙げられる。
【化3】
【0072】
上記式(iii)中のRaは、水酸基(−OH)、アルコキシ基、ハロゲン原子、又はアシルオキシ基を示す。上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1〜20のアルコキシ基、及びその誘導体などが挙げられる。上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。上記アシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、下記式で表される基などが挙げられる。なお、下記式におけるX5、Y5、n5は、上記式(iii)におけるものと同じである。
【化4】
【0073】
上記式(iii)中のX5は有機基を示す。上記有機基としては、式(i)中のX1、X2として例示したものと同様の有機基が挙げられる。上記式(iii)中のY5は熱重合性官能基を示す。上記熱重合性官能基としては、上述の熱重合性官能基が例示される。また、上記式(iii)中のn5は1以上の整数を示す。n5としては、例えば、1〜10の整数(より好ましくは1〜5の整数)が好ましい。また、Y5のX5に対する結合位置は、特に限定されない。なお、n5が2以上の整数である場合、複数のY5は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0074】
また、架橋性化合物(B)としては、下記式(iv)で表される化合物(熱重合性官能基を有するエポキシ化合物)が挙げられる。
【化5】
【0075】
上記式(iv)中のX6は有機基を示す。上記有機基としては、式(i)中のX1、X2として例示したものと同様の有機基が挙げられる。上記式(iv)中のY6は熱重合性官能基を示す。上記熱重合性官能基としては、上述の熱重合性官能基が例示される。また、上記式(iv)中のn6は1以上の整数を示す。n6としては、例えば、1〜10の整数(より好ましくは1〜5の整数)が好ましい。また、Y6のX6に対する結合位置は、特に限定されない。なお、n6が2以上の整数である場合、複数のY6は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0076】
上記式(iv)中のR3〜R5は、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよいアルキル基を示す。上記置換基を有していてもよいアルキル基としては、上記式(i)中のR1、R2として例示したものと同様の基が挙げられる。
【0077】
架橋性化合物(B)としては、特に制限されないが、マレイミド誘導体が好ましい。
【0078】
上記マレイミド誘導体としては、例えば、炭素数が100以下(好ましくは10〜50)の化合物が挙げられる。中でも、マレイミド誘導体としては、特に制限されないが、芳香族ポリエステル(A)との相溶性の点から、下記式(1)で表される化合物である化合物が好ましい。
【化6】
[式(1)中のR1は、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、炭素数3〜8のシクロアルキレン基、炭素数6〜15のアリーレン基又はこれらが2以上、連結基を介して、又は介することなく結合した基を表す]
【0079】
上記連結基としては、特に限定されないが、エーテル結合(−O−)、チオエーテル結合(−S−)、スルホニル結合(−SO2−)、アミド結合(−NHCO−)、エステル結合(−COO−)、アシル結合(−CO−)などが挙げられる。前記式(1)中のアルキレン基は、炭素数が1〜12が好ましく、炭素数が2〜8がより好ましい。前記式(1)中のシクロアルキレン基は、炭素数4〜6が好ましい。前記式(1)中のアリーレン基は、炭素数6(フェニレン基)が好ましい。
【0080】
上記マレイミド誘導体としては、具体的には、1分子中に芳香環(フェニレン基)を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物として、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−マレイミド(4−フェノキシフェニル)]スルホン、1,1'−[1,4−フェニレンビス(オキシ−4,1−フェニレン)]ビスマレイミド、1,1'−[スルホニルビス(4,1−フェニレンオキシ−3,1−フェニレン)]ビスマレイミド、ビス[4−(3−マレイミドフェノキシ)フェニル]ケトン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,1’−[オキシビス(4,1−フェニレンチオ−4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1'−[(2,2',3,3',5,5',6,6'−オクタフルオロ[1,1'−ビフェニル]−4,4'−ジイル)ビス(オキシ−3,1−フェニレン)]ビスマレイミドなどが挙げられる。中でも、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−マレイミド(4−フェノキシフェニル)]スルホン、1,3−ビス(4−マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンが好ましい。
【0081】
上記マレイミド誘導体としては、具体的には、1分子中に芳香環(フェニレン基)を2個含む芳香族ビスマレイミド化合物としては、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−ビフェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(スルホニルジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(オキシジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、N,N’−(3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニリレン)ビスマレイミド、N,N’−(ベンジリデンジ−p−フェニレン)ビスマレイミド、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’−ベンゾフェノンビスマレイミド、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、1,1’−[1,4−ブタンジイルビス(オキシ−p−フェニレン)]ビスマレイミドなどが挙げられる。中でも、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフィドビスマレイミド、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミドが好ましい。
【0082】
上記マレイミド誘導体としては、具体的には、1分子中に芳香環(フェニレン基)を1個含む芳香族ビスマレイミド化合物としては、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、1,3−フェニレンビスマレイミド、1,4−フェニレンビスマレイミド、1,2−フェニレンビスマレイミド、ナフタレン−1,5−ジマレイミド、4−クロロ−1,3-フェニレンビスマレイミドなどが挙げられる。
【0083】
上記マレイミド誘導体としては、具体的には、脂肪族ビスマレイミド化合物として、1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、1,6−ビスマレイミド−(2,4,4−トリメチル)ヘキサン、N,N’−デカメチレンビスマレイミド、N,N’−デカメチレンビスマレイミド、N,N’−オクタメチレンビスマレイミド、N,N’−ヘプタメチレンビスマレイミド、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’−ペンタメチレンビスマレイミド、N,N’−テトラメチレンビスマレイミド、N,N’−トリメチレンビスマレイミド、N,N’−エチレンビスマレイミド、N,N’−(オキシジメチレン)ビスマレイミド、1,13−ビスマレイミド−4,7,10−トリオキサトリデカン、1,11−ビス(マレイミド)−3,6,9−トリオキサウンデカンなどが挙げられる。中でも、下記式(ii)で表される化合物である1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサン、N,N’−ヘキサメチレンビスマレイミドが好ましい。
【0084】
また、上記以外にも下記式(2)で表される化合物であるポリフェニルメタンマレイミドが挙げられる。これらのマレイミド誘導体は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0085】
上記マレイミド誘導体は、市販品を用いることができ、商品名「BMI−2000」、商品名「BMI−2300」、商品名「BMI−TMH」、(以上、大和化成(株)社製)、商品名「BMI−3000」、商品名「BMI−689」、商品名「BMI−1500」、(以上、エア・ブラウン(株)社製)が挙げられる。
【0086】
特に、融点が低く、芳香族ポリエステル(A)と低温で溶融混合しやすい点から、下記式(2)で表される化合物であるポリフェニルメタンマレイミド、下記式(3)で表される化合物である1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンが好ましい。
【化7】
[上記式(2)中のnは、0〜10の整数を表す]
【化8】
【0087】
上記式(2)におけるnは、溶融流動性の点で0〜5の整数が好ましい。nの値が異なるマレイミド誘導体を用いてもよく、nの値に分布をもつマレイミド誘導体を用いてもよい。
【0088】
上記マレイミド誘導体の分子量は、特に制限されないが、200〜10000が好ましく、200〜8000がより好ましく、250〜6000がさらに好ましい。分子量が上記範囲であると、芳香族ポリエステル(A)と低温で溶融混合しやすく、均一に混合しやすい。
【0089】
上記マレイミド誘導体の融点(Tm)は、200℃以下(例えば、60〜200℃)が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましい。融点が200℃以下であると、架橋反応が進行しない温度領域で溶融混合することができ、均一な組成物が得られる。なお、上記融点は、DSC測定の吸熱ピーク温度を示す。
【0090】
上記マレイミド誘導体の発熱開始温度は、特に制限されないが、250℃以下(例えば、90〜250℃)が好ましく、230℃以下がより好ましく、210℃以下がさらに好ましい。発熱開始温度が250℃以下であると、芳香族ポリエステル(A)と溶融混合し得られた熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の発熱開始温度が比較的低く、硬化させる温度(硬化温度)が高くなり過ぎない。なお、上記発熱開始温度は、DSC測定にて、曲線がベースラインから立ち上がり始める温度を示す。
【0091】
上記マレイミド誘導体の硬化温度は、特に制限されないが、70〜250℃が好ましく、80〜240℃がより好ましく、90〜230℃がさらに好ましい。マレイミド誘導体の硬化温度が上記範囲であると、溶融混合時に架橋反応による粘度上昇を起こしにくい。なお、マレイミド誘導体の硬化温度は、DSC測定の発熱ピーク温度より測定できる。
【0092】
上記マレイミド誘導体の硬化温度は、1分子中に芳香環を3個以上含む芳香族ビスマレイミド化合物として、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンの場合、240℃であり、芳香環を2個含む芳香族ビスマレイミド化合物として、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミドの場合、202℃であり、芳香環を1個含む芳香族ビスマレイミド化合物として、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミドの場合、210℃であり、また、上記式(2)で表される化合物であるポリフェニルメタンマレイミドの場合、226℃であり、上記式(3)で表される化合物である1,6−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)ヘキサンの場合、285℃である。
【0093】
上記マレイミド誘導体を含め、架橋性化合物(B)の硬化温度は、分子内で芳香環式基の割合が高くなると高くなる傾向があり、特にナフタレンやアントラセンなどの多環式芳香族環の割合が多くなると硬化温度は高くなりやすい。また、分子中でアルキル基などの脂肪族炭化水素鎖の割合が高くなると硬化温度は低くなる傾向があり、特に炭素数6以上の長鎖脂肪族炭化水素鎖の割合が高くなると硬化温度は低くなりやすく、上記式(3)のような長鎖脂肪族鎖を有する化合物では、硬化温度が高くなる傾向がある。
【0094】
上記マレイミド誘導体の配合量(配合割合)は、特に限定されないが、芳香族ポリエステル(A)100重量部に対して、10〜300重量部が好ましく、10〜250重量部がより好ましく、20〜200重量部がさらに好ましい。マレイミド誘導体の配合量が上記範囲であると、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の硬化性が低下しにくく、組成物中に架橋性化合物(B)が多量に残存しすぎることがなく、硬化物の物性に悪影響が及びにくい。
【0095】
架橋性化合物(B)の硬化温度は、特に制限されないが、70〜250℃が好ましく、80〜240℃がより好ましく、90〜230℃がさらに好ましい。架橋性化合物(B)の硬化温度が上記範囲であると、溶融混合時に架橋反応による粘度上昇を起こしにくい。なお、架橋性化合物(B)の硬化温度は、DSC(示差走査熱量分析装置、「DSC6200」、セイコーインスツル(株)製)にて、20℃/分の昇温条件(窒素気流下)での発熱ピークトップ温度より測定できる。
【0096】
特に、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が、架橋性化合物(B)の硬化温度よりも30℃以上低いことを特徴とする。上記軟化温度が硬化温度より、40℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましい。上記軟化温度が硬化温度より30℃以上低いため、溶融混合時に架橋反応による粘度上昇を起こしにくい。上記軟化温度と硬化温度の差は、特に制限されないが、芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が140〜150℃であり、架橋性化合物(B)の硬化温度200〜250℃であることから生じることが好ましい。
【0097】
芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の配合量(配合割合)は、芳香族ポリエステル(A)や架橋性化合物(B)の種類等により異なり、特に限定されない。架橋性化合物(B)の配合量は、芳香族ポリエステル(A)100重量部に対して、10〜300重量部が好ましく、15〜250重量部がより好ましく、20〜200重量部がさらに好ましい。架橋性化合物(B)の配合量が上記範囲であると、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の硬化性が低下しにくく、組成物中に架橋性化合物(B)が多量に残存しすぎることがなく、硬化物の物性に悪影響が及びにくい。
【0098】
[添加剤]
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、芳香族ポリエステル(A)の濃度を下げて、組成物調整時における硬化反応を抑制するため、また、硬化物の性能を目的(用途)に応じて調整するため、無機フィラーなどの添加剤を含有する。中でも、添加剤としては、無機フィラーが好ましく用いられる。
【0099】
上記無機フィラーとしては、公知乃至慣用の無機フィラーを使用することができ、特に限定されないが、例えば、シリカ(例えば、天然シリカ、合成シリカなど)、酸化アルミニウム(例えば、α−アルミナなど)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素などの窒化物;水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物;マイカ、タルク、カオリン、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ウォラストナイト、セピオライト、ゾノライト、ゼオライト、ハイドロタルサイト、フライアッシュ、脱水汚泥、ガラスビーズ、ガラスファイバー、ケイ藻土、ケイ砂、カーボンブラック、センダスト、アルニコ磁石、各種フェライト等の磁性粉、水和石膏、ミョウバン、三酸化アンチモン、マグネシウムオキシサルフェイト、シリコンカーバイド、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、燐酸マグネシウム、銅、鉄などが挙げられる。上記無機フィラーは、中実構造、中空構造、多孔質構造等のいずれの構造を有していてもよい。また、上記無機フィラーは、例えば、オルガノハロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物などの周知の表面処理剤により表面処理されたものであってもよい。なお、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の製造方法において無機フィラーは、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。中でも、特に、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を半導体封止材用に使用する場合には、シリカ(シリカフィラー)等を使用することが好ましく、硬化物の熱伝導性や放熱特性を調整する場合には、アルミナ(アルミナ微粒子)等を使用することが好ましい。
【0100】
上記無機フィラーの含有量は、特に限定されないが、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を構成する芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の合計量(総量)100重量部に対して、0〜500重量部が好ましく、より好ましくは0〜300重量部である。
【0101】
上記無機フィラー以外の添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ジアミノ化合物[例えば、ジアミノジフェニルメタンなど]、ジアリル化合物[ジアリルビスフェノールAなど]、トリアジン類[例えば、1,3,5−トリ−2−プロペニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2−メチル−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンなど]などが挙げられる。
【0102】
上記無機フィラー以外の添加剤としては、他にも本発明の効果を損なわない範囲で、公知乃至慣用の添加剤を使用でき、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等の有機樹脂;溶剤;安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など);難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など);難燃助剤;補強材;核剤;カップリング剤;滑剤;ワックス;可塑剤;離型剤;耐衝撃性改良剤;色相改良剤;流動性改良剤;着色剤(染料、顔料など);分散剤;消泡剤;脱泡剤;抗菌剤;防腐剤;粘度調整剤;増粘剤などが使用できる。なお、上記添加剤は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0103】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、硬化反応を促進し、制御するための添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ジアミノ化合物[例えば、ジアミノジフェニルメタンなど]、ジアリル化合物[ジアリルビスフェノールAなど]、トリアジン類[例えば、1,3,5−トリ−2−プロペニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2−メチル−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンなど]などが挙げられる。なお、上記添加剤は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0104】
上記(無機フィラー以外の)添加剤の含有量(配合量)は、特に限定されないが、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の合計量100重量部に対して、0〜30重量部が好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。
【0105】
上記添加剤(無機フィラーを含む)は、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を調製する際(芳香族ポリエステル(A)及び架橋性化合物(B)を溶融混合する際)にともに配合することもできるし、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物をいったん調製した後に配合することもできる。
【0106】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)を含む限り特に制限されないが、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)、その他添加剤を加えて溶融混合することが好ましい。
【0107】
芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)と溶融混合する際の混合温度は、芳香族ポリエステル(A)及び架橋性化合物(B)を溶融させることができる温度(特に、芳香族ポリエステル(A)の融点以上)であればよく、特に限定されないが、200℃以下(例えば、80〜200℃)が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましい。溶融混合の温度が200℃以下であると、架橋性化合物(B)に由来する熱重合性官能基の重合反応を抑制でき、粘度の急激な上昇を抑えることができる。なお、溶融混合する際の温度は、溶融混合する間一定となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変動するように制御することもできる。
【0108】
芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)と溶融混合する時間は、特に限定されないが、3〜600分が好ましく、より好ましくは4〜400分であり、さらに好ましくは5〜200分である。溶融混合の時間が上記範囲であると、硬化物の生産性が低下せず、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)の反応を進行させることができる。
【0109】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の溶融粘度(初期複素粘度)は、200℃以下(例えば、180℃)において、1000Pa・s以下が好ましく、500Pa・s以下がより好ましく、200Pa・s以下がさらに好ましく、100Pa・s以下が特に好ましい。初期複素粘度が、1000Pa・s以下であると、トランスファー成形等の成形がしやすくなる。なお、溶融粘度(初期複素粘度)は、レオメーター(粘弾性測定装置)(商品名「MCR−302」、アントンパール社製)を用いて測定できる。
【0110】
上記溶融混合は、公知乃至慣用の装置(溶融混合装置)を使用して実施することができる。上記溶融混合装置としては、特に限定されないが、一軸押出機、二軸押出機などの押出機;パドルミキサー、高速流動式ミキサー、リボンミキサー、バンバリーミキサー、ハーケミキサー、スタティックミキサーなどのミキサー;ニーダーなどが挙げられる。
【0111】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、硬化物としたときにより高い性能(耐熱性や機械特性など)が得られる点で、芳香族ポリエステル(A)の分子鎖末端の反応性官能基(a)と、架橋性化合物(B)の反応性官能基(b)とが溶融混合時に反応することにより形成される付加物を組成物の一部として含むことが好ましい。上記付加物は、芳香族ポリエステル(A)の1以上と架橋性化合物(B)の1以上とが上述の反応(例えば、付加反応)により結合したものである。
【0112】
上述のように本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、芳香族ポリエステル(A)の軟化温度が、架橋性化合物(B)の硬化温度よりも30℃以上低いため、架橋性化合物(B)の架橋反応が進行しない温度で、芳香族ポリエステル(A)と架橋性化合物(B)を溶融混合することができる。そのため、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、粘度上昇を抑えることができ、トランスファー成形などの成形性に優れる。
【0113】
[硬化物]
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を加熱によって硬化させる(硬化反応を進行させる)ことにより、硬化物(「本発明の硬化物」と称する場合がある)が得られる。加熱によって主に化合物(B)に起因する熱重合性官能基同士の反応(重合反応)が進行し、硬化物が形成される。加熱の手段としては、公知乃至慣用の手段を利用することができ、特に限定されない。
【0114】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を硬化させる際の加熱温度(硬化温度)は、特に限定されないが、70〜250℃が好ましく、100〜250℃がより好ましく、150〜250℃がさらに好ましい。硬化温度が上記範囲であると、生産性が低下せず、硬化反応の進行が十分に進行し、物性の良い硬化物が得られる。なお、硬化温度は、硬化させる間一定となるように制御することもできるし、段階的又は連続的に変動するように制御することもできる。
【0115】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を硬化させる際の加熱時間(硬化時間)は、特に限定されないが、3〜600分が好ましく、5〜480分がより好ましく、5〜360分がさらに好ましい。硬化時間が上記範囲であると、硬化物の生産性が低下せず、硬化反応が十分に進行し、硬化物の物性が低下しにくい。
【0116】
本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の硬化は、常圧下で行うこともできるし、減圧下又は加圧下で行うこともできる。また、上記硬化は、一段階で行うこともできるし、二段階以上の多段階に分けて行うこともできる。
【0117】
本発明の硬化物の、昇温速度10℃/分(空気中)で測定される5%重量減少温度(Td5)は、特に限定されないが、350℃以上(例えば、350〜500℃)が好ましく、380℃以上がより好ましく、400℃以上がさらに好ましい。5%重量減少温度が350℃未満であると、用途によっては耐熱性が不十分となる場合がある。上記5%重量減少温度は、例えば、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定)などにより測定できる。
【0118】
本発明の硬化物の空気中における熱分解反応の活性化エネルギーは、特に限定されないが、150kJ/mol以上(例えば、150〜350kJ/mol)が好ましく、180kJ/mol以上がより好ましく、200kJ/mol以上がさらに好ましい。上記活性化エネルギーが150kJ/mol未満であると、用途によっては耐熱性が不十分となる場合がある。なお、上記活性化エネルギーは、例えば、小沢法により算出することができる。小沢法とは、3種類以上の昇温速度でTG測定(熱重量測定)を行い、得られた熱重量減少のデータから熱分解反応の活性化エネルギーを算出する方法である。
【0119】
本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を硬化させることにより得られる硬化物であるため、優れた耐熱性を有し、また、優れた加工性、寸法安定性、低線膨張、高熱伝導性、低吸湿性、誘電特性を有する。さらに、本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性芳香族ポリエステル組成物を250℃以下の比較的低温で加熱することによって得られるため、生産性にも優れる。
【0120】
本発明の硬化物は、各種部材や各種構造材等の種々の用途に使用することができる。特に、上述の各種特性に優れるため、フィルム、プリプレグ、プリント配線板、半導体封止材などの用途に好ましく使用できる。即ち、本発明の熱硬化芳香族ポリエステル組成物は、特に、フィルム用熱硬化性組成物、プリプレグ用熱硬化性組成物、プリント配線板用熱硬化性組成物、半導体封止材用熱硬化性組成物などとして好ましく使用することができる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0122】
合成例1
[芳香族ポリエステルE(10量体)の合成]
コンデンサーと攪拌機を取り付けた500mLのフラスコに、4−ヒドロキシ安息香酸94.3g(0.682mol)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸102.7g(0.546mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル25.4g(0.136mol)、無水酢酸156.3g(1.53mol)、及び酢酸カリウム10.0mg(0.10mol)を入れ、窒素雰囲気下で140℃まで徐々に温度を上げた後、温度を維持しながら3時間反応させてアセチル化反応を完結させた。次いで、0.8℃/分の速度で340℃まで昇温しながら酢酸及び未反応の無水酢酸を留去した。その後、フラスコ内を徐々に1Torrまで減圧して揮発成分を留去することで、芳香族ユニット(芳香族化合物に由来する構成単位)のみからなる分子鎖の両末端に水酸基を有する芳香族ポリエステルEを得た。得られた芳香族ポリエステルEの熱分析結果[ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)]及び軟化温度は、表1に示す通りであった。なお、得られた芳香族ポリエステルEは、芳香族ポリエステルEの末端数の算出、及びGPC測定の結果、単量体の10量体であると見積もられた。
【0123】
合成例2
[芳香族ポリエステルF(5量体)の合成]
4−ヒドロキシ安息香酸の使用量を81.4g(0.589mol)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の使用量を88.9g(0.472mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの使用量を49.4g(0.265mol)、無水酢酸の使用量を165.8g(1.62mol)、酢酸カリウムの使用量を10.0mg(0.10mol)としたこと以外は合成例1と同様の操作を行い、芳香族ユニット(芳香族化合物に由来する構成単位)のみからなる分子鎖の両末端に水酸基を有する芳香族ポリエステルFを得た。得られた芳香族ポリエステルFの熱分析結果及び軟化温度は、表1に示す通りであった。なお、得られた芳香族ポリエステルFは、芳香族ポリエステルFの末端数の算出、及びGPC測定の結果、単量体の5量体であると見積もられた。
【0124】
合成例3
[芳香族ポリエステルG(20量体)の合成]
表1に示すように、4−ヒドロキシ安息香酸の使用量を100.9g(0.731mol)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の使用量を110.0g(0.585mol)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルの使用量を12.9g(0.069mol)、無水酢酸の使用量を151.4g(1.48mol)、酢酸カリウムの使用量を10.0mg(0.10mol)としたこと以外は合成例1と同様の操作を行い、芳香族ユニット(芳香族化合物に由来する構成単位)のみからなる分子鎖の両末端に水酸基を有する芳香族ポリエステルGを得た。得られた芳香族ポリエステルGの熱分析結果及び軟化温度は、表1に示す通りであった。なお、得られた芳香族ポリエステルGは、芳香族ポリエステルGの末端数の算出、及びGPC測定の結果、単量体の20量体であると見積もられた。
【0125】
合成例4
[芳香族ポリエステルH(100量体)の合成]
表1に示すように、4−ヒドロキシ安息香酸の使用量を106.5g(0.771mol)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の使用量を118.7g(0.631mol)、無水酢酸の使用量を146.0g(1.43mol)、酢酸カリウムの使用量を10.0mg(0.10mol)としたこと以外は合成例1と同様の操作を行い、芳香族ユニット(芳香族化合物に由来する構成単位)のみからなる分子鎖の両末端に水酸基を有する芳香族ポリエステルHを得た。得られた芳香族ポリエステルHの熱分析結果及び軟化温度は、表1に示す通りであった。なお、得られた芳香族ポリエステルHは、芳香族ポリエステルHの末端数の算出、及びGPC測定の結果、単量体の100量体であると見積もられた。
【表1】
【0126】
表1における略語の意味は、以下の通りである。
HBA : 4−ヒドロキシ安息香酸
HNA : 6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸
BP : 4,4'−ジヒドロキシビフェニル
【0127】
[熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の製造]
実施例1
合成例1で得られた芳香族ポリエステルE29.1gを150℃で溶融させ、マレイミド誘導体として、ポリフェニルメタンマレイミド(商品名「BMI−2300」大和化成(株)製)43.8gと1時間溶融混合し、溶融物(熱硬化性芳香族ポリエステル組成物)を得た。
【0128】
実施例2
合成例3で合成した芳香族ポリエステルG44.0gを170℃で溶融させ、マレイミド誘導体として、ポリフェニルメタンマレイミド(商品名「BMI−2300」大和化成(株)製)30.5gと1時間溶融混合し、溶融物(熱硬化性芳香族ポリエステル組成物)を得た。
【0129】
比較例1
芳香族ポリエステルH44.0gを265℃で溶融させ、マレイミド誘導体として、ポリフェニルメタンマレイミド(商品名「BMI−2300」大和化成(株)製)30.1gと1時間溶融混合し、溶融物(熱硬化性芳香族ポリエステル組成物)を得た。得られた溶融物は不均一で、マレイミド誘導体の単独硬化が顕著に進んだものであった。
【0130】
[軟化温度]
ホットステージ(商品名「METTLER TOLEDO FP82HT」、メトラー・トレド社製)を取り付けた偏光顕微鏡(商品名「Leica DM4000B」、Leica社製)を用い、乾燥させた紛体の試料(10mg)をスライドガラス2枚に挟んで、ホットステージ上に置き10℃/minで昇温した。試料をクロスニコルで観察し、暗視野に光が見えた温度(液晶性が発現した温度)を軟化温度とした。
【0131】
[初期複素粘度]
レオメーター(粘弾性測定装置)(商品名「MCR−302」、アントンパール社製)を用い、試料を昇温温度20℃/分で加熱しながら溶融させ、溶融後、粘度が最低となったときの粘度[Pa・s]を測定した。
【0132】
[硬化物の5%重量減少温度(Td5)]
上記実施例にて得られた硬化物の5%重量減少温度(Td5)は、TG/DTA(「TG/DTA6300」、セイコーインスツル(株)製)にて、10℃/分の昇温条件(窒素雰囲気中)で測定した。
【0133】
【表2】
【0134】
表2に示すように、実施例で得られた熱硬化性芳香族ポリエステル組成物は、比較的低い温度で溶融混合することができ、初期複素粘度が小さく、熱硬化性芳香族ポリエステル組成物の粘度上昇を抑制することができた。なおかつ得られた硬化物は、5%重量減少温度が高く、非常に優れた耐熱性を有していた。