(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記移動開始点から前記進行方向に伸びる直線と前記複数の円とが交差する点を通過する、前記進行方向に直交する直線を前記仮想目標線として設定することを特徴とする請求項2に記載の作業機。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、作業機の一実施形態について、
図1〜
図11に基づいて詳細に説明する。
図1には、一実施形態に係る作業機としての乗用田植機400の全体図が示されている。
【0014】
図1に示すように、乗用田植機400は、移動体としての走行車体10と、走行車体10の後方部に取り付けられる作業機本体としての植付装置100と、を備える。
【0015】
走行車体10には運転席11が設けられ、該運転席11に作業者が搭乗する。走行車体10にはエンジン12が搭載され、該エンジン12を保持する車体フレーム13には、ミッションケース14が設けられている。また、走行車体10においては、フロントアクスルケース15を介して水田走行用前輪16が支持されるとともに、リヤアクスルケース17を介して水田走行用後輪18が支持されている。
【0016】
エンジン12等はボンネット19で覆われ、ミッションケース14等はステップ20aを有する車体カバー20によって覆われている。車体カバー20の上部には、前述した運転席11が取り付けられ、運転席11の前方にハンドル21が設けられている。
【0017】
走行車体10の後方には、トップリンク22及びロワーリンク23を含む昇降リンク機構を介して植付装置100が設けられている。植付装置100は、走行車体10の後部とロワーリンク23との間に設けられた油圧シリンダー(不図示)の伸縮動作により昇降自在とされている。植付装置100は、多条植え用の苗載台24や、複数の植付ユニット200などを備える。
【0018】
苗載台24は、前側が高く後側が低い矩形板状の前傾式の苗載台であり、下部ガイドレール25及び上部ガイドレール26を介して、植付装置100中央及び左右に設けられた植付爪駆動機構部210に対して左右往復摺動自在に支持されている。植付爪駆動機構部210の下方には、中央及び左右の植付用均等フロート27が植付深さ調節部材等を介して支持されている。植付装置100を下ろし、植付用均等フロート27を圃場面に着地させることにより、苗載台24上の苗マットから取り出した苗の植付深さが設定されるようになっている。
【0019】
図2は、本実施形態に係る植付装置100の全体簡略図である。なお、本実施形態では、1つの駆動モータ256を駆動源として植付装置100を駆動する駆動方式を採用している。以下、
図2に基づいて植付装置100について説明する。
【0020】
植付装置100は、複数の植付ユニット200を有する。各植付ユニット200は、植付爪駆動機構部210と、伝達部212と、植付爪221を有する植付爪部220とを備える。各植付爪駆動機構部210は、動力伝達軸252を介して、駆動機構部254及び駆動モータ256に接続されている。動力伝達軸252は、駆動モータ256及び駆動機構部254によって駆動され、伝達部212を介して、植付爪部220を植付装置100の株間方向に直交する方向を軸として回転駆動する。植付爪部220は、所定の回転位相において圃場に物体としての苗を植付ける(配する)作業を実行する作業部として機能する。
【0021】
植付装置100の制御部250には、位置検出部としてのGNSS(Global Navigation Satellite System)ユニット301、不図示の車輪回転センサ、動力伝達軸252に設けられた角度センサ260の信号(情報)が入力される。制御部250は、GNSSユニット301のみ、もしくは、GNSSユニット301と車輪回転センサの情報を基に、目標植付位置に植付が行われるような、駆動機構部254の目標回転位相を決定する。更に、駆動機構部254の実際の回転位相が目標回転位相と一致するように角度センサ260の信号を基に駆動モータ256を角度制御することで、最終的に目標植付位置に苗を植付けるように制御する。
【0022】
なお、図示は省略しているが、動力伝達軸252には、苗載台24の横送り駆動部や縦送り駆動部も機械的に接続されている。また、
図2の駆動モータ256は、植付装置100側に設けられてもよいし、走行車体10側に設けられてもよい。後者の場合、例えば、動力伝達軸252と、駆動機構部254との間にPTO軸が設けられてもよい。
【0023】
次に、本実施形態の乗用田植機400の動作について説明する。本実施形態では、
図5に示すように、圃場の所定地点(植付作業開始位置)から所定方向(株間方向)に植付装置100を移動させながら苗を植える(1行程目)。そして、
図9に示すように、株間方向への往復移動と方向転換を繰り返しつつ苗を植えることで(2行程目以降)、圃場内に苗を植える。
【0024】
ここで、1行程目においては、制御部250は、植付装置100の植付作業開始位置を中心とした、半径が株間hの整数倍の同心円(
図7の破線円)上に植付作業位置を設定し、同心円を通過するときに植付作業位置に対して苗が植付けられるように植付ユニット200(植付爪部220)の回転を制御する。また、1行程目が終了した時点で、制御部250は、1行程目の植付作業終了位置と植付作業開始位置とを直線で結んだ方向を進行方向(株間方向)として決定する。
【0025】
また、制御部250は、2行程目以降においては、1行程目の植付作業位置を通り、圃場面内において株間方向と直交する方向(条間方向)に仮想的に伸びる直線(所定間隔で配列された仮想目標線)上の位置(
図9の破線上の位置)を植付作業位置と設定し、該植付作業位置(破線上)に対して苗が植付けられるように植付ユニット200(植付爪部220)の回転位相を制御する。
【0026】
この場合、制御部250は、目標位相と実位相との間の位相誤差に応じて、植付ユニット200(植付爪部220)の増速又は減速を制御する。なお、制御部250は、植付ユニット200(植付爪部220)の角度制御(位相制御)を、駆動モータ256を介して実行する。
【0027】
次に、上述した乗用田植機400が条間方向に関する作業位置を揃える動作を実現するための具体的な制御方法について、
図3〜
図11に基づいて詳細に説明する。なお、以下において説明する制御方法、数式等は一例である。すなわち、上述した乗用田植機400による条間方向整列動作を実現する方法としては、その他の制御方法、数式等を採用してもよい。
【0028】
なお、以下の説明においては、「=」は等号、「←」は代入演算子であるものとする。また、計算上の中間変数は等号で結んで表記するものとする。また、以下の説明においては、例えばθ
out=mod(±π,θ
in)と表記される式が、
図3に示すような入力位相θ
inを±πの範囲に収めるモジュロ演算であることを意味するものとする。
【0029】
また、本実施形態では、植付装置100は、1回転で2回の植付を行うこととし、植付1回の周期を植付位相θと定義し、植付時の植付位相θを0と定義するものとする。なお、植付位相は半回転で2π(360°)となる。また、実際に植付ユニット200(植付爪部220)が植付を行う位置は、植付ユニット200(植付爪部220)の回転軸からずれた位置となる。また、GNSSユニット301は、必ずしも植付ユニット200が植付を行う位置に配置できないため、植付を行う位置とGNSSユニット301の位置との距離(植付装置100の進行方向(株間方向)に関する位置関係)をアンテナオフセットL(
図7、
図9参照)として、位相計算時に補正値として使用するものとする。
【0030】
更に、本実施形態において制御に使用する固有のパラメータには、地球の回転楕円体モデル(地球楕円体)における、赤道半径a(=6378137m)と、偏平率f(=1/298.257223563)があるものとする。
【0031】
ここで、本実施形態においては、制御部250は、
図4のフローチャートに沿った処理と、
図6のフローチャートに沿った処理と、
図10のフローチャートに沿った処理を同時並行的に実行する。以下、各処理について説明する。
【0032】
(
図4の処理)
図4の処理は、作業者が作業を開始した直後(1行程目)に、制御部250が実行する処理である。1行程目とは、
図5に示すように、圃場に苗を植える際に、最初に所定方向(株間方向)に移動しながら、苗を植える行程である。
【0033】
図4の処理では、まず、ステップS100において、制御部250が、植付作業が開始されるまで待機する。この場合、作業者が運転席11近傍に設けられた所定のボタンを押すなどして、作業を開始することを入力した段階で、制御部250は、ステップS102に移行する。なお、作業者は、植付作業を開始する前に、制御部250に対して、株間hの値(例えば、20cmや30cm)を手動で入力し、設定しているものとする。
【0034】
ステップS102に移行すると、制御部250は、現在位置(植付を開始する位置)(φ,λ)を、
図5に示す植付作業開始位置(原点)(φ
0,λ
0)に設定する。なお、植付作業開始位置(原点)は、植付装置100の移動開始点であるともいえる。また、制御部250は、定数N
0を次式(1)に基づいて、算出するとともに、次式(2)〜(4)に基づいて、3次元直交座標系上の原点(φ
0,λ
0)の座標(X
0,Y
0,Z
0)を算出する。
【0037】
次いで、ステップS104では、制御部250は、1行程目の植付作業が終了するまで待機する。なお、1行程目の植付作業が終了した場合には、作業者が終了した旨を入力するので、入力があった段階で、ステップS106に移行する。
【0038】
次いで、ステップS106では、制御部250は、1行程目における植付装置100の移動方向に基づいて、植付方向(株間方向)を決定する。ここでは、植付を開始した位置が原点のため、
図5に示す東方向座標値eと北方向座標値nに基づいて、次式(5)より原点からの向きψを求め、植付方向(株間方向)とする。なお、iは虚数単位であり、argは偏角である。
【0040】
(
図6の処理)
次に、
図6の処理について説明する。
図6の処理は、GNSSユニット301において位置情報が取得されるたびに制御部250が実行する低速ループ(20Hz程度)の処理である。
【0041】
図6の処理では、まず、ステップS10において、制御部250は、GNSSユニット301から、植付装置100の緯度、経度、速度を取得する。なお、以下においては、植付装置100の現在の緯度をφ、現在の経度をλとし、現在の速さ(絶対値)をv
g、現在の進行方向(東からの反時計回りの角度)をψ
vgと表すものとする。
【0042】
次いで、ステップS12では、制御部250は、緯度と経度を基準点φ
0、λ
0を原点とした地平直交座標系に変換する。具体的には、制御部250は、定数Nを次式(6)に基づいて、算出するとともに、式(7)〜(9)に基づいて、直交座標系上における座標(X,Y,Z)を算出する。そして、制御部250は、座標(X,Y,Z)を用いて、東方向座標値e、北方向座標値nを式(10)、(11)のように表す。
【0046】
次いで、ステップS14では、制御部250は、植え付け方向が決定済みであるか否かを判断する。この場合、
図4のステップS106の処理が既に行われていれば、ステップS14の判断は肯定されるが、ステップS106の処理が未だ行われておらず、ステップS14の判断が否定された場合には、ステップS16に移行する。
【0047】
ステップS16に移行すると、制御部250は、1行程目において、距離と速度を計算する。この場合、制御部250は、距離として、ステップS102で設定した原点(植付開始位置)からの距離r(
図7参照)を求め、速度v
rを現在の速度v
gとする(次式(12),(13)参照)。その後は、ステップS26に移行する。
【0049】
ステップS26に移行すると、制御部250は、仮目標位相を計算する。具体的には、距離rにアンテナ位置の補正をして株間hで除すことで、仮目標位相θ
gを次式(14)のように計算する。なお、次式(14)では、アンテナオフセットをLとしている。なお、仮目標位相は時間分解能が粗いため直接目標値として使うことはできないものである。
【0051】
図8には、ステップS26の計算結果の一例が示されている。この場合、仮目標位相θ
g=0の位置で植付が行われる。なお、1行程目において、θ=0の位置は、
図7において破線にて示す半径が株間hの整数倍の同心円上の点を意味する。
【0052】
次いで、ステップS28では、制御部250が、補正速度を計算する。この場合、制御部250は、後述する高速ループでの目標位相θ
tが、時間分解能の粗い低速ループの仮目標位相θ
gと一致するように補正速度ω
cを介してPI制御でフィードバックする。
【0053】
具体的には、制御部250は、目標位相θ
tと仮目標位相θ
gの誤差を計算して±πの範囲にして、次式(15)のように、目標位相誤差θ
geとする。
【0055】
また、制御部250は、目標位相誤差の積分値θ
gi(を次式(16)のように計算する(Δt
Lは低速ループの実行周期)。
【0057】
そして、制御部250は、高速ループで使用する補正速度ω
cを次式(17)のように計算する。すなわち、ゲインk
p1、k
i1によるPI制御を実行する。
【0059】
以上のようにして、ステップS28の処理が終了すると、
図6の全処理を終了する。
【0060】
一方、ステップS14の判断が肯定された場合、すなわち、
図9に示すように、2行程目以降である場合(既に株間方向が決定している場合)には、ステップS18に移行し、制御部250は、位置と速度を植え付け座標系に変換する。具体的には、制御部250は、地平直交座標での位置(e,n)を植付方向ψだけ回転させて、次式(18),(19)のように、植付座標系(直交方向座標値x,植付方向座標値y)に変換する。なお、直交方向座標値xについては、以降において使用しない値である。
【0062】
次いで、ステップS20では、制御部250は、距離と速度を計算する。この場合、制御部250は、現在の速さv
g、現在の進行方向ψ
vg、設定植付方向ψから植付座標系での速度v
x,v
yを次式(20),(21)より算出する。
【0064】
そして、制御部250は、速度の進行方向成分v
rをv
yとする(v
r←v
y)とともに、距離rをyとする(r←y)。
【0065】
次いで、ステップS22では、制御部250は、現在、復路であるか否かを判断する。なお、制御部250は、往路か復路かを、一定時間以上正方向(+y方向)に移動しているか負方向(−y方向)に移動しているかに基づいて判断する。このステップS22の判断が否定された場合、すなわち、往路である場合には、ステップS26に移行する。一方、ステップS22の判断が肯定された場合には、制御部250は、ステップS24において距離と速度を反転した後、ステップS26に移行する。なお、距離と速度の反転は、次式(22)、(23)のように表すことができる。
r←−r …(22)
v
r←−v
r …(23)
【0066】
以降は、ステップS26、S28を上述したのと同様に実行する。なお、2行程目以降において、
図8のθ=0の位置(植付位置)は、
図9において破線にて示す直線上の点を意味する。なお、
図9の破線は、1行程目の植付作業位置(進行方向と交差する同心円上の点)を通り、圃場面内において株間方向と直交する方向(条間方向)に伸びる直線であるといえる。
【0067】
(
図10の処理)
次に、
図10の処理について、説明する。なお、
図10の制御は、高速ループ(1kHz程度)にて呼び出されて実行される処理である。本処理は、低速ループの処理(
図6の処理)からのフィードバックによって時間分解能の高い目標位相を生成し、それを基に実際の位相を制御する処理である。
【0068】
図10の処理では、まずステップS40において、制御部250が、目標位相を計算する。具体的には、制御部250は、次のような処理を実行する。
【0069】
(1) 制御部250は、速度v
rと株間hから仮目標速度ω
vを次式(24)に基づいて計算する。
【0071】
なお、植付装置100は、通常は株間方向に沿って移動しているため、車輪走行速度を検出し、該車輪走行速度を、GNSSユニット301から算出した速度v
rの代わりに用いることとしてもよい。
【0072】
(2) 次いで、制御部250は、仮目標速度ω
vと低速ループの処理(
図6)で決定した補正速度ω
cの和を算出し、次式(25)のように、目標速度ω
tとする。
ω
t=ω
v+ω
c …(25)
【0073】
(3) 次いで、制御部250は、次式(26)のように、目標速度ω
tを積分して目標位相θ
tとする(Δt
Hは高速ループの実行周期)。
θ
t←θ
t+ω
tΔt
H …(26)
【0074】
この処理では、補正速度ω
cを介して低速ループ(
図6)からのフィードバックがかかっているため、GNSSユニット301の検出結果から計算した仮目標位相θ
gと一致しつつ時間分解能の高い位相情報を得ることができる。なお、
図11には、仮目標位相θ
gと、目標位相θ
tの関係が示されている。
【0075】
次いで、ステップS42では、制御部250は、植付作業中か否かを判断する。このステップS42の判断が肯定された場合には、制御部250は、ステップS44に移行する。一方、ステップS42の判断が否定された場合には、制御部250は、ステップS46に移行する。
【0076】
ステップS44では、制御部250は、位相制御を実行する。この場合、制御部250は、決定した目標位相θ
tに植付装置100の植付ユニット200の実際の位相θ(角度センサ260から入力される)が追従するように以下のようにして、PID制御する。
【0077】
まず、制御部250は、速度偏差ω
e、角度偏差θ
e、角度偏差の積分値θ
eiを、次式(27)〜(29)に基づいて算出する。なお、ωは植付爪駆動機構部210の実際の角速度で、角度センサ260から入力される(角度センサからωが直接得られない場合は、θを微分して求める)。
ω
e=ω
t−ω …(27)
θ
e=mod(±π,θ
t−θ) …(28)
θ
ei←θ
ei+θ
eΔt
H …(29)
【0078】
次いで、制御部250は、各偏差に基づいて、次式(30)のように、PID制御(ゲインk
d2、k
p2、k
i2)で制御量uを決定して制御を行う。なお、
図2に示すように位相制御を1つの駆動モータ256で行う場合、uを電圧または電流として実際に出力して制御する。
u←k
d2ω
e+k
p2θ
e+k
i2θ
ei …(30)
【0079】
この場合、ステップS44が実行される時点で、植付装置100が1行程目を実行している場合には、
図7に示すように、制御部250は、植付装置100の植付作業開始位置を中心とした、半径が株間hの整数倍の同心円(
図7の破線円)上に植付作業位置を設定し、植付作業位置に対して苗が植付けられるように植付ユニット200の回転を制御していることになる。一方、ステップS44が実行される時点で、植付装置100が2行程目以降を実行している場合には、制御部250は、1行程目の植付作業位置を通り、圃場面内において株間方向と直交する方向(条間方向)に伸びる直線上の位置(
図9の破線上の位置)を植付作業位置と設定し、該植付作業位置に対して苗が植付けられるように植付ユニット200の回転位相を制御していることになる。
【0080】
図10に戻り、ステップS42の判断が否定されて、ステップS46に移行すると、制御部250は、植付ユニット200を停止する。
【0081】
植付装置100で苗の植付け作業を行う場合、植付爪部220が苗かき取り位置で停止すると苗載台24の苗を押すなどして好ましくない。同様に、植付爪部220が植付位置にあると植付爪部220が圃場面上を引きずるため好ましくない。そこで、制御部250は、植付爪部220がかき取り位置と植付位置の中間の安全な位置で停止するように、植付ユニット200を制御する。
【0082】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、乗用田植機400は、駆動モータ256の回転駆動力により回転駆動され、所定の回転位相において圃場に苗を植える作業を行う植付爪部220を有する植付装置100と、植付装置100の位置を検出するGNSSユニット301と、植付装置100の植付方向に沿って圃場面上に所定間隔で仮想的に配列された、条間方向に伸びる複数の直線(植付作業位置)において植付作業が行われるように、GNSSユニット301の検出結果と植付爪部220の回転位相とに基づいて駆動モータ256を制御する制御部250と、を備えている。これにより、
図9のように乗用田植機400(植付装置100)が株間方向に往復移動しつつ苗を植える場合において、条間方向に関して苗を揃えて植え付けることが可能となる。この場合、GNSSユニット301の検出結果を利用することで、圃場を走行する乗用田植機400の車輪が空転したり滑ったりするような場合であっても、精度良く苗を条間方向にそろえて植付けることが可能となる。また、条間方向に揃えて苗を植付けることで、機械除草機を条間方向に沿って移動させて除草することができるようになるため、株間における高い除草効果が期待できる。
【0083】
また、本実施形態によると、1行程目(圃場面上に
図9において破線で示す植付作業位置が設定されていない場合)において、制御部250は、植付装置100の植付作業開始位置を中心とし、半径が株間hの整数倍に設定された複数の円の周上において苗の植付が行われるように、駆動モータ256を制御する。これにより、1行程目であっても、適切な位置に苗を植付けることが可能である。
【0084】
また、本実施形態では、制御部250は、1行程目が終了した際に、植付作業開始位置から株間方向に伸びる直線と複数の同心円とが交差する点を通過する、株間方向に直交する直線上の位置を植付作業位置とする。これにより、2行程目以降における条間方向の植付位置を、1行程目の植付位置と合わせることが可能となる。
【0085】
また、本実施形態では、制御部250は、GNSSユニット301と植付爪部220との距離(アンテナオフセットL)を考慮するので、精度良く条間方向に関する苗の植付位置を揃えることが可能となる。
【0086】
また、本実施形態では、乗用田植機400は、株間方向に往復移動しながら苗の植付作業を行うが、制御部250は、往路と復路において制御を異ならせる(S22、S24)ので、精度良く条間方向に関する苗の植付位置を揃えることが可能となる。
【0087】
(変形例1)
上記実施形態では、駆動モータ256の駆動力を用いて植付装置100を駆動する場合について説明したが、これに限らず、例えば、走行車体10のエンジン12の駆動力を用いて植付装置100を駆動するようにしてもよい。例えば、
図12に示すように、植付装置100は、エンジン動力入力部270と、無段変速機272と、を備え、動力伝達軸252を介して植付爪駆動機構部210がエンジン12の駆動力により回転駆動されるようにしてもよい。
【0088】
図12の構成によれば、無段変速機272のエンジン動力入力部270には走行車体10の水田走行用前輪16及び水田走行用後輪18の回転と連動した動力が入力される。そして、制御部250は、GNSSユニット301のみ、もしくは、GNSSユニット301と、不図示の車輪回転センサの入力信号(入力情報)に基づいて、目標植付位置に植付が行われるような、植付爪駆動機構部210の目標回転位相を決定する。更に、制御部250は、角度センサ260から入力された、植付爪駆動機構部210の実際の回転位相θが目標回転位相と一致するように、無段変速機272に設けられた変速率設定モータ230を角度制御して無段変速機272の変速率を調節することで、最終的に目標植付位置に苗を植付けるように制御する。
【0089】
ここで、無段変速機272を用いる場合、制御部250は、速度偏差ω
e、角度偏差θ
e、角度偏差の積分値θ
eiを、次式(27’)〜(29’)に基づいて算出する。なお、ωは植付爪駆動機構部210の実際の角速度で、角度センサ260から入力される(角度センサからωが直接得られない場合は、θを微分して求める)。
ω
e=ω
t−ω …(27’)
θ
e=mod(±π,θ
t−θ) …(28’)
θ
ei←θ
ei+v
rθ
eΔt
H …(29’)
【0090】
なお、本変形例1では、式(29’)のように、積分時に速度v
rを乗じることとしている。ここで、植付爪部220の回転位相は走行車体10の水田走行用前輪16及び水田走行用後輪18の回転に機械的に連動するため、走行車体10の停止時には変速率を変化させても植付位相を調整することができない。このため、上式(29’)のようにすることで、速度が遅くなるほど目標変速率の変化を小さくする(停止時には積分されないようにする)。
【0091】
次いで、制御部250は、各偏差に基づいて、次式(30’)のように、PID制御(ゲインk
d2、k
p2、k
i2)で制御量uを決定する。なお、制御量uは、変形例1においては、無段変速機272を制御する制御部250の目標変速率として使用し、2段階の制御を行う。
u←k
d2ω
e+k
p2θ
e+k
i2θ
ei …(30’)
【0092】
そして、制御部250は、決定した目標変速率uに実際の変速率gが追従するようにPID制御する。実際の変速率gは、角度センサ271から求める。まず、制御部250は、偏差g
e、偏差の積分値g
eiを、次式(31)、(32)より求める。
g
e=(g−u) …(31)
g
ei←g
ei+g
eΔt
H …(32)
【0093】
更に、制御部250は、前回の偏差g
epと今回の偏差g
eとから、次式(33)、(34)より偏差の微分値g
edを求める。
g
ed=(g
e−g
ep)/Δt
H …(33)
g
ep←g
e …(34)
【0094】
そして、制御部250は、各偏差に基づいて、次式(35)より、PID制御(ゲインk
d3、k
p3、k
i3)で制御量u
2を決定する。この場合、制御部250は、制御量u
2を、変速率設定モータ230の電圧又は電流制御の目標値とする。
u
2←k
d3g
ed+k
p3g
e+k
i3g
ei …(35)
【0095】
このようにすることで、実際の変速率が目標変速率に追従するように制御されるため、植付爪部220の位相が目標位相に追従するように制御されることとなり、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0096】
なお、
図12においては図示を省略しているが、無段変速機272と角度センサ260の間には、植付クラッチが設けられている。ただし、無段変速機272として、HST(油圧機械式無段変速機:Hydraulic Static Transmission)など、変速比0を実現できる装置を採用する場合には、植付クラッチを設けなくてよい。
【0097】
(変形例2)
なお、上記実施形態では、例えば、
図13に示すように、複数の駆動モータ211を駆動源として、植付装置100を駆動するようにしてもよい。この場合、植付爪駆動機構部210それぞれに駆動モータ211を接続し、各駆動モータ211に対応して制御部302を設け、メイン制御部280の指示の下、各制御部302が各駆動モータ211を制御するようにすればよい。制御の方法については、上記実施形態と同様である。なお、
図13の例では、植付爪駆動機構部210それぞれに、角度センサ260を設けている。
【0098】
なお、上記実施形態においては、作業機が乗用田植機400である場合について説明したが、これに限られるものではない。作業機は、例えば、野菜苗移植機や、種子や種芋を圃場に播く水稲直播機や各種播種機、その他の挿し穂や挿し木などの作業を行う機械など、圃場の所定の位置に対象物を配置する装置であってもよい。なお、水稲直播機や各種播種機等、停止すると危険な位置がない場合、
図10のステップS46の処理において、即座に停止してもよい。
【0099】
なお、上記実施形態では、1行程目を実行する前に、株間方向や植付作業位置(
図9の破線)を予め設定してもよい。この場合、作業者が株間方向に沿って乗用田植機400を移動させることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0100】
なお、上記実施形態では、
図7等を用いて説明したように、1行程目においても苗の植付作業を行う場合について説明したが、これに限らず、1行程目においては、苗の植付作業を行わなくてもよい。この場合、1行程目は、主に進行方向(株間方向)を決定するための行程となる。
【0101】
なお、上記実施形態では、
図2に示すように角度センサ260を動力伝達軸252に設けて、駆動モータ256の制御に用いる場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、駆動モータ256の回転制御は、永久磁石同期モータの制御方式であるセンサレスベクトル制御で推定した信号や、ホールセンサによって検出された信号に応じた制御を用いることとしてもよい。この手法で求まるのは相対角度となるため、動力伝達軸252の角度原点の検出が必要となる。このため、角度センサ260の代わりに原点センサを配置するか、植付ユニット200などの機械的な特性を利用して原点を決定する。植付ユニットの特性としては、逆転させると一定の角度以上回転しない特性や、正転させると一定の角度で急激に負荷が減少する特性などが利用できる。なお、
図12の実施形態でも同様の手法が使用できる。
【0102】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。