特許第6342356号(P6342356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6342356キャリア付銅箔、プリント配線板、積層体、積層板、電子機器及びプリント配線板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342356
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】キャリア付銅箔、プリント配線板、積層体、積層板、電子機器及びプリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20180604BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20180604BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   B32B15/04 Z
   H05K3/38 B
   H05K1/09 A
【請求項の数】51
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-74348(P2015-74348)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-199355(P2015-199355A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-73841(P2014-73841)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-73870(P2014-73870)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮本 宣明
(72)【発明者】
【氏名】本多 美里
(72)【発明者】
【氏名】石井 雅史
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−186782(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/042201(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133638(WO,A1)
【文献】 特開2012−099857(JP,A)
【文献】 特開2001−127429(JP,A)
【文献】 特開2013−001993(JP,A)
【文献】 特開平08−181412(JP,A)
【文献】 特開2015−047795(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0196144(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H05K 1/09
1/16
3/10−3/26
3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、
前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/g以下であるキャリア付銅箔。
【請求項2】
前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が0〜130ppm/gである請求項1に記載のキャリア付銅箔。
【請求項3】
前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が0〜110ppm/gである請求項2に記載のキャリア付銅箔。
【請求項4】
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項5】
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜15個/dm2以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項6】
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜12個/dm2以下である請求項5に記載のキャリア付銅箔。
【請求項7】
キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、
前記中間層が、少なくともCr、Mo、Co、Zn、これらの合金、これらの水和物、これらの酸化物又は有機物からなる群から選択される一種以上を含み、
Crを含む場合は、Crを5μg/dm2以上100μg/dm2以下含有し、
Moを含む場合は、Moを30μg/dm2以上400μg/dm2以下含有し、
Coを含む場合は、Coを20μg/dm2以上600μg/dm2以下含有し、
Znを含む場合は、Znを1μg/dm2以上120μg/dm2以下含有し、
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下であるキャリア付銅箔。
【請求項8】
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜15個/dm2以下である請求項7に記載のキャリア付銅箔。
【請求項9】
前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜12個/dm2以下である請求項8に記載のキャリア付銅箔。
【請求項10】
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜60個/dm2以下である請求項1〜9のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項11】
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜30個/dm2以下である請求項10に記載のキャリア付銅箔。
【請求項12】
キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、
前記中間層が、少なくともCr、Mo、Co、Zn、これらの合金、これらの水和物、これらの酸化物又は有機物からなる群から選択される一種以上を含み、
Crを含む場合は、Crを5μg/dm2以上100μg/dm2以下含有し、
Moを含む場合は、Moを30μg/dm2以上400μg/dm2以下含有し、
Coを含む場合は、Coを20μg/dm2以上600μg/dm2以下含有し、
Znを含む場合は、Znを1μg/dm2以上120μg/dm2以下含有し、
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜60個/dm2以下であるキャリア付銅箔。
【請求項13】
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜50個/dm2以下である請求項1〜12のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項14】
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜40個/dm2以下である請求項13に記載のキャリア付銅箔。
【請求項15】
前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜30個/dm2以下である請求項14に記載のキャリア付銅箔。
【請求項16】
前記中間層が、Cr、Ni、Co、Fe、Mo、Ti、W、P、Cu、Al、Zn、これらの合金、これらの水和物、これらの酸化物、有機物からなる群から選択される一種又は二種以上を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項17】
前記中間層が、Crを含む場合は、Crを5μg/dm2以上100μg/dm2以下含有し、Moを含む場合は、Moを50μg/dm2以上1000μg/dm2以下含有し、Niを含む場合は、Niを100μg/dm2以上40000μg/dm2以下含有し、Coを含む場合は、Coを100μg/dm2以上40000μg/dm2以下含有し、Znを含む場合は、Znを1μg/dm2以上120μg/dm2以下含有する請求項1〜のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項18】
前記中間層が有機物を厚みで25nm以上80nm以下含有する請求項1〜17のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項19】
前記有機物が、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなる有機物である請求項16〜18のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項20】
前記極薄銅層表面または前記キャリアの表面のいずれか一方または両方に粗化処理層を有する請求項1〜19のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項21】
前記粗化処理層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する請求項20に記載のキャリア付銅箔。
【請求項22】
前記防錆層及び前記耐熱層の少なくとも一方が、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛から選択される1つ以上の元素を含む請求項21に記載のキャリア付銅箔。
【請求項23】
前記粗化処理層の上に前記耐熱層を有する請求項21又は22に記載のキャリア付銅箔。
【請求項24】
前記粗化処理層または前記耐熱層の上に前記防錆層を有する請求項21〜23のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項25】
前記防錆層の上に前記クロメート処理層を有する請求項21〜24のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項26】
前記クロメート処理層の上に前記シランカップリング処理層を有する請求項21〜25のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項27】
前記極薄銅層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する請求項1〜19のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項28】
前記極薄銅層上に樹脂層を備える請求項1〜19のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項29】
前記粗化処理層上に樹脂層を備える請求項20に記載のキャリア付銅箔。
【請求項30】
前記耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層の上に樹脂層を備える請求項21〜27のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項31】
前記樹脂層が誘電体を含む請求項28〜30のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔を用いて製造したプリント配線板。
【請求項33】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔を用いて製造した積層板。
【請求項34】
請求項32に記載のプリント配線板を用いて製造した電子機器。
【請求項35】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔を用いて製造した積層体。
【請求項36】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔と樹脂とを含む積層体であって、前記キャリア付銅箔の端面の一部または全部が前記樹脂により覆われている積層体。
【請求項37】
一つの請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔を前記キャリア側又は前記極薄銅層側から、もう一つの請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔の前記キャリア側又は前記極薄銅層側に積層した積層体。
【請求項38】
前記一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面と前記もう一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面とが、必要に応じて接着剤を介して、直接積層させて構成されている請求項37に記載の積層体。
【請求項39】
前記一つのキャリア付銅箔の前記キャリア又は前記極薄銅層と前記もう一つのキャリア付銅箔の前記キャリア又は前記極薄銅層とが接合されている請求項37又は38に記載の積層体。
【請求項40】
請求項37〜39のいずれか一項に記載の積層体であって、前記積層体の端面の一部または全部が樹脂により覆われている積層体。
【請求項41】
請求項37〜40のいずれか一項に記載の積層体を用いたプリント配線板の製造方法。
【請求項42】
請求項35〜40のいずれか一項に記載の積層体に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、
前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記積層体のキャリア付銅箔から前記極薄銅層又は前記キャリアを剥離させる工程
を含むプリント配線板の製造方法。
【請求項43】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板とを積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板とを積層した後に、前記キャリア付銅箔の銅箔キャリアを剥がす工程を経て銅張積層板を形成し、
その後、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法又はモディファイドセミアディティブ法のいずれかの方法によって、回路を形成する工程を含むプリント配線板の製造方法。
【請求項44】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、
前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面に樹脂層を形成する工程、
前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、
前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程
を含むプリント配線板の製造方法。
【請求項45】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、
前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側に樹脂層を形成する工程、
前記樹脂層上に回路を形成する工程、
前記樹脂層上に回路を形成した後に、前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、
前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程
を含むプリント配線板の製造方法。
【請求項46】
前記樹脂層上に回路を形成する工程が、前記樹脂層上に別のキャリア付銅箔を極薄銅層側又はキャリア側から貼り合わせ、前記樹脂層に貼り合わせたキャリア付銅箔を用いて前記回路を形成する工程である請求項45に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項47】
前記樹脂層上に貼り合わせる別のキャリア付銅箔が、請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔である請求項46に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項48】
前記樹脂層上に回路を形成する工程が、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法又はモディファイドセミアディティブ法のいずれかの方法によって行われる請求項45〜47のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項49】
前記表面に回路を形成するキャリア付銅箔が、当該キャリア付銅箔のキャリア側の表面又は極薄銅層側の表面に基板を有する請求項45〜48のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項50】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面と樹脂基板とを積層する工程、
前記キャリア付銅箔の樹脂基板と積層した側とは反対側の極薄銅層側表面または前記キャリア側表面に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、
前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記キャリア付銅箔から前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程
を含むプリント配線板の製造方法。
【請求項51】
請求項1〜31のいずれか一項に記載のキャリア付銅箔の前記キャリア側表面と樹脂基板とを積層する工程、
前記キャリア付銅箔の樹脂基板と積層した側とは反対側の極薄銅層側表面に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、
前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記キャリア付銅箔から前記キャリアを剥離させる工程
を含むプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア付銅箔、プリント配線板、積層体、積層板、電子機器及びプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着させて積層体(銅張積層板)とした後に、エッチングにより銅箔面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
ファインピッチ化に対応して、最近では厚さ9μm以下、更には厚さ5μm以下の銅箔が要求されているが、このような極薄の銅箔は機械的強度が低くプリント配線板の製造時に破れたり、皺が発生したりしやすいので、厚みのある金属箔をキャリアとして利用し、これに剥離層を介して極薄銅層を電着させたキャリア付銅箔が登場している。極薄銅層の表面を絶縁基板に貼り合わせて熱圧着後、キャリアは剥離層を介して剥離除去される。露出した極薄銅層上にレジストで回路パターンを形成した後に、極薄銅層を硫酸-過酸化水素系のエッチャントでエッチング除去する手法(MSAP:Modified-Semi-Additive-Process)により、微細回路が形成される。
【0004】
ここで、樹脂との接着面となるキャリア付き銅箔の極薄銅層の表面に対しては、主として、極薄銅層と樹脂基材との剥離強度が十分であること、そしてその剥離強度が高温加熱、湿式処理、半田付け、薬品処理等の後でも十分に保持されていることが要求される。極薄銅層と樹脂基材の間の剥離強度を高める方法としては、一般的に、表面のプロファイル(凹凸、粗さ)を大きくした極薄銅層の上に多量の粗化粒子を付着させる方法が代表的である。
【0005】
しかしながら、プリント配線板の中でも特に微細な回路パターンを形成する必要のある半導体パッケージ基板に、このようなプロファイル(凹凸、粗さ)の大きい極薄銅層を使用すると、回路エッチング時に不要な銅粒子が残ってしまい、回路パターン間の絶縁不良等の問題が発生する。
【0006】
このため、WO2004/005588号(特許文献1)では、半導体パッケージ基板をはじめとする微細回路用途のキャリア付銅箔として、極薄銅層の表面に粗化処理を施さないキャリア付銅箔を用いることが試みられている。このような粗化処理を施さない極薄銅層と樹脂との密着性(剥離強度)は、その低いプロファイル(凹凸、粗度、粗さ)の影響で一般的なプリント配線板用銅箔と比較すると低下する傾向がある。そのため、キャリア付銅箔について更なる改善が求められている。
【0007】
そこで、特開2007−007937号公報(特許文献2)及び特開2010−006071号公報(特許文献3)では、キャリア付き極薄銅箔のポリイミド系樹脂基板と接触(接着)する面に、Ni層又は/及びNi合金層を設けること、クロメート層を設けること、Cr層又は/及びCr合金層を設けること、Ni層とクロメート層とを設けること、Ni層とCr層とを設けることが記載されている。これらの表面処理層を設けることにより、ポリイミド系樹脂基板とキャリア付き極薄銅箔との密着強度を粗化処理なし、または粗化処理の程度を低減(微細化)しながら所望の接着強度を得ている。更に、シランカップリング剤で表面処理したり、防錆処理を施したりすることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2004/005588号
【特許文献2】特開2007−007937号公報
【特許文献3】特開2010−006071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キャリア付銅箔の開発においては、これまで極薄銅層と樹脂基材との剥離強度を確保することに重きが置かれていた。そのため、エッチング性に関しては未だ十分な検討がなされておらず、未だ改善の余地が残されている。
【0010】
キャリア付銅箔を極薄銅層側から樹脂へ貼り合わせるときに加熱圧着するが、その際、キャリア/極薄銅層間に発生する水蒸気等の気体によって気泡(フクレ)が発生することがある。このようなフクレが発生すると、回路形成に用いる極薄銅層が陥没し、回路形成性に悪影響を及ぼすという問題が生じる。本発明は、キャリア付銅箔を所定の条件で加熱処理した際に発生するフクレの個数を抑制することで、良好なエッチング性を有するキャリア付銅箔を提供する。または、本発明は、キャリア付銅箔を所定の条件で加熱処理した際に発生する水分量を抑制することで、キャリア/極薄銅層間に発生する水蒸気等の気体によるフクレの発生を抑制し、良好なエッチング性を有するキャリア付銅箔を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の知見を基礎として完成された本発明は一側面において、キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/g以下であるキャリア付銅箔である。
【0012】
本発明のキャリア付銅箔は一実施形態において、前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が0〜130ppm/gである。
【0013】
本発明のキャリア付銅箔は別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が0〜110ppm/gである。
【0014】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下である。
【0015】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜15個/dm2以下である。
【0016】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜12個/dm2以下である。
【0017】
本発明は別の一側面において、キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下であるキャリア付銅箔である。
【0018】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜15個/dm2以下である。
【0019】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜12個/dm2以下である。
【0020】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜60個/dm2以下である。
【0021】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜30個/dm2以下である。
【0022】
本発明は更に別の一側面において、キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備えたキャリア付銅箔であって、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜60個/dm2以下であるキャリア付銅箔である。
【0023】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜50個/dm2以下である。
【0024】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜40個/dm2以下である。
【0025】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記キャリア付銅箔を400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜30個/dm2以下である。
【0026】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記中間層が、Cr、Ni、Co、Fe、Mo、Ti、W、P、Cu、Al、Zn、これらの合金、これらの水和物、これらの酸化物、有機物からなる群から選択される一種又は二種以上を含む。
【0027】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記中間層が、Crを含む場合は、Crを5μg/dm2以上100μg/dm2以下含有し、Moを含む場合は、Moを50μg/dm2以上1000μg/dm2以下含有し、Niを含む場合は、Niを100μg/dm2以上40000μg/dm2以下含有し、Coを含む場合は、Coを100μg/dm2以上40000μg/dm2以下含有し、Znを含む場合は、Znを1μg/dm2以上120μg/dm2以下含有する。
【0028】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記中間層が有機物を厚みで25nm以上80nm以下含有する。
【0029】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記有機物が、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなる有機物である。
【0030】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記極薄銅層表面または前記キャリアの表面のいずれか一方または両方に粗化処理層を有する。
【0031】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記粗化処理層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する。
【0032】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記防錆層及び前記耐熱層の少なくとも一方が、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛から選択される1つ以上の元素を含む。
【0033】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記粗化処理層の上に前記耐熱層を有する。
【0034】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記粗化処理層または前記耐熱層の上に前記防錆層を有する。
【0035】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記防錆層の上に前記クロメート処理層を有する。
【0036】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記クロメート処理層の上に前記シランカップリング処理層を有する。
【0037】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記極薄銅層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を有する。
【0038】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記極薄銅層上に樹脂層を備える。
【0039】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記粗化処理層上に樹脂層を備える。
【0040】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層の上に樹脂層を備える。
【0041】
本発明のキャリア付銅箔は更に別の一実施形態において、前記樹脂層が誘電体を含む。
【0042】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔を用いて製造したプリント配線板である。
【0043】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔を用いて製造した積層板である。
【0044】
本発明は更に別の一側面において、本発明のプリント配線板を用いて製造した電子機器である。
【0045】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔を用いて製造した積層体である。
【0046】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔と樹脂とを含む積層体であって、前記キャリア付銅箔の端面の一部または全部が前記樹脂により覆われている積層体である。
【0047】
本発明は更に別の一側面において、一つの本発明のキャリア付銅箔を前記キャリア側又は前記極薄銅層側から、もう一つの本発明のキャリア付銅箔の前記キャリア側又は前記極薄銅層側に積層した積層体である。
【0048】
本発明の積層体は一実施形態において、前記一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面と前記もう一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面とが、必要に応じて接着剤を介して、直接積層させて構成されている。
【0049】
本発明の積層体は別の一実施形態において、前記一つのキャリア付銅箔の前記キャリア又は前記極薄銅層と前記もう一つのキャリア付銅箔の前記キャリア又は前記極薄銅層とが接合されている。
【0050】
本発明の積層体は更に別の一実施形態において、前記積層体の端面の一部または全部が樹脂により覆われている。
【0051】
本発明は更に別の一側面において、本発明の積層体を用いたプリント配線板の製造方法である。
【0052】
本発明は更に別の一側面において、本発明の積層体に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記積層体のキャリア付銅箔から前記極薄銅層又は前記キャリアを剥離させる工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【0053】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、前記キャリア付銅箔と絶縁基板とを積層する工程、前記キャリア付銅箔と絶縁基板とを積層した後に、前記キャリア付銅箔の銅箔キャリアを剥がす工程を経て銅張積層板を形成し、その後、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法又はモディファイドセミアディティブ法のいずれかの方法によって、回路を形成する工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【0054】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面に樹脂層を形成する工程、前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【0055】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側に樹脂層を形成する工程、前記樹脂層上に回路を形成する工程、前記樹脂層上に回路を形成した後に、前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【0056】
本発明のプリント配線板の製造方法は一実施形態において、前記樹脂層上に回路を形成する工程が、前記樹脂層上に別のキャリア付銅箔を極薄銅層側又はキャリア側から貼り合わせ、前記樹脂層に貼り合わせたキャリア付銅箔を用いて前記回路を形成する工程である。
【0057】
本発明のプリント配線板の製造方法は別の一実施形態において、前記樹脂層上に貼り合わせる別のキャリア付銅箔が、本発明のキャリア付銅箔である。
【0058】
本発明のプリント配線板の製造方法は更に別の一実施形態において、前記樹脂層上に回路を形成する工程が、セミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法又はモディファイドセミアディティブ法のいずれかの方法によって行われる。
【0059】
本発明のプリント配線板の製造方法は更に別の一実施形態において、前記表面に回路を形成するキャリア付銅箔が、当該キャリア付銅箔のキャリア側の表面又は極薄銅層側の表面に基板を有する。
【0060】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面と樹脂基板とを積層する工程、前記キャリア付銅箔の樹脂基板と積層した側とは反対側の極薄銅層側表面または前記キャリア側表面に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記キャリア付銅箔から前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【0061】
本発明は更に別の一側面において、本発明のキャリア付銅箔の前記キャリア側表面と樹脂基板とを積層する工程、前記キャリア付銅箔の樹脂基板と積層した側とは反対側の極薄銅層側表面に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記キャリア付銅箔から前記キャリアを剥離させる工程を含むプリント配線板の製造方法である。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、良好なエッチング性を有するキャリア付銅箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】A〜Cは、本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造方法の具体例に係る、回路めっき・レジスト除去までの工程における配線板断面の模式図である。
図2】D〜Fは、本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造方法の具体例に係る、樹脂及び2層目キャリア付銅箔積層からレーザー穴あけまでの工程における配線板断面の模式図である。
図3】G〜Iは、本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造方法の具体例に係る、ビアフィル形成から1層目のキャリア剥離までの工程における配線板断面の模式図である。
図4】J〜Kは、本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造方法の具体例に係る、フラッシュエッチングからバンプ・銅ピラー形成までの工程における配線板断面の模式図である。
図5】実施例における回路パターンの幅方向の横断面の模式図、及び、該模式図を用いたエッチングファクター(EF)の計算方法の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
<キャリア付銅箔>
本発明のキャリア付銅箔は、キャリア、中間層、極薄銅層をこの順に備える。キャリア付銅箔自体の使用方法は当業者に周知であるが、例えば極薄銅層の表面を紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、フッ素樹脂フィルム等の絶縁基板に貼り合わせて熱圧着後にキャリアを剥がし、絶縁基板に接着した極薄銅層を目的とする導体パターンにエッチングし、最終的にプリント配線板を製造することができる。
【0065】
<キャリア>
本発明に用いることのできるキャリアは典型的には金属箔または樹脂フィルムであり、例えば銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔、鉄箔、鉄合金箔、ステンレス箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、絶縁樹脂フィルム、ポリイミドフィルム、LCDフィルムの形態で提供される。
本発明に用いることのできるキャリアは典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で提供される。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。銅箔の材料としてはタフピッチ銅(JIS H3100 合金番号C1100)や無酸素銅(JIS H3100 合金番号C1020またはJIS H3510 合金番号C1011)といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。
また、電解銅箔としては、以下の電解液組成及び製造条件にて作製することができる。
以下の条件で、電解銅箔を製造した場合、銅箔表面のTD(銅箔の製造設備での、銅箔の進行方向に直角の方向(幅方向))のRzが小さく、TDの60度光沢度が高い電解銅箔を得ることが出来る。
<電解液組成>
銅:90〜110g/L
硫酸:90〜110g/L
塩素:50〜100ppm
レベリング剤1(ビス(3スルホプロピル)ジスルフィド):10〜30ppm
レベリング剤2(アミン化合物):10〜30ppm
上記のアミン化合物には以下の化学式のアミン化合物を用いることができる。
なお、本発明に用いられる電解、表面処理又はめっき等に用いられる処理液の残部は特に明記しない限り水である。
【0066】
(上記化学式中、R1及びR2はヒドロキシアルキル基、エーテル基、アリール基、芳香族置換アルキル基、不飽和炭化水素基、アルキル基からなる一群から選ばれるものである。)
【0067】
<製造条件>
電流密度:70〜100A/dm2
電解液温度:50〜60℃
電解液線速:3〜5m/sec
電解時間:0.5〜10分間
なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0068】
本発明に用いることのできるキャリアの厚さについても特に制限はないが、キャリアとしての役目を果たす上で適した厚さに適宜調節すればよく、例えば5μm以上とすることができる。但し、厚すぎると生産コストが高くなるので一般には35μm以下とするのが好ましい。従って、キャリアの厚みは典型的には8〜70μmであり、より典型的には12〜70μmであり、より典型的には18〜35μmである。また、原料コストを低減する観点からはキャリアの厚みは小さいことが好ましい。そのため、キャリアの厚みは、典型的には5μm以上35μm以下であり、好ましくは5μm以上18μm以下であり、好ましくは5μm以上12μm以下であり、好ましくは5μm以上11μm以下であり、好ましくは5μm以上10μm以下である。なお、キャリアの厚みが小さい場合には、キャリアの通箔の際に折れシワが発生しやすい。折れシワの発生を防止するため、例えばキャリア付銅箔製造装置の搬送ロールを平滑にすることや、搬送ロールと、その次の搬送ロールとの距離を短くすることが有効である。なお、プリント配線板の製造方法の一つである埋め込み工法(エンベッティド法(Enbedded Process))にキャリア付銅箔が用いられる場合には、キャリアの剛性が高いことが必要である。そのため、埋め込み工法に用いる場合には、キャリアの厚みは18μm以上300μm以下であることが好ましく、25μm以上150μm以下であることが好ましく、35μm以上100μm以下であることが好ましく、35μm以上70μm以下であることが更により好ましい。
なお、キャリアの極薄銅層を設ける側の表面とは反対側の表面に粗化処理層を設けてもよい。当該粗化処理層を公知の方法を用いて設けてもよく、後述の粗化処理により設けてもよい。キャリアの極薄銅層を設ける側の表面とは反対側の表面に粗化処理層を設けることは、キャリアを当該粗化処理層を有する表面側から樹脂基板などの支持体に積層する際、キャリアと樹脂基板が剥離し難くなるという利点を有する。
【0069】
<中間層>
キャリアの片面又は両面上には中間層を設ける。キャリアと中間層との間に他の層を設けてもよい。本発明で用いる中間層は、キャリア付銅箔が絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離し難い一方で、絶縁基板への積層工程後にはキャリアから極薄銅層が剥離可能となるように構成されている。例えば、本発明のキャリア付銅箔の中間層は、Niの他に、Cr、Co、Fe、Mo、Ti、W、P、Cu、Al、Zn、これらの合金、これらの水和物、これらの酸化物、有機物からなる群から選択される一種又は二種以上を含んでも良い。また、中間層は複数の層であっても良い。
【0070】
また、中間層は、キャリア上にニッケルまたはニッケルを含む合金のいずれか1種の層、及びクロム、クロム合金、クロムの酸化物のいずれか1種以上を含む層がこの順で積層されて構成されているのが好ましい。そして、ニッケルまたはニッケルを含む合金のいずれか1種の層、及び/または、クロム、クロム合金、クロムの酸化物のいずれか1種以上を含む層に亜鉛が含まれているのが好ましい。ここで、ニッケルを含む合金とはニッケルと、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素からなる合金のことをいう。ニッケルを含む合金は3種以上の元素からなる合金でも良い。また、クロム合金とはクロムと、コバルト、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素からなる合金のことをいう。クロム合金は3種以上の元素からなる合金でも良い。また、クロム、クロム合金、クロムの酸化物のいずれか1種以上を含む層はクロメート処理層であってもよい。ここでクロメート処理層とはクロム酸塩または二クロム酸塩を含む液で処理された層のことをいう。クロメート処理層はコバルト、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタン等の金属を含んでもよい。本発明においては、無水クロム酸または二クロム酸カリウム水溶液で処理したクロメート処理層を純クロメート処理層という。また、本発明においては無水クロム酸または二クロム酸カリウムおよび亜鉛を含む処理液で処理したクロメート処理層を亜鉛クロメート処理層という。
【0071】
また、中間層は、キャリア上にニッケル、ニッケル−亜鉛合金、ニッケル−リン合金、ニッケル−コバルト合金のいずれか1種の層、及び亜鉛クロメート処理層、純クロメート処理層、クロムめっき層のいずれか1種の層がこの順で積層されて構成されているのが好ましく、中間層は、キャリア上にニッケル層またはニッケル−亜鉛合金層、及び、亜鉛クロメート処理層がこの順で積層されて構成されている、又は、ニッケル−亜鉛合金層、及び、純クロメート処理層または亜鉛クロメート処理層がこの順で積層されて構成されているのが更に好ましい。ニッケルと銅との接着力はクロムと銅の接着力よりも高いので、極薄銅層を剥離する際に、極薄銅層とクロメート処理層との界面で剥離するようになる。また、中間層のニッケルにはキャリアから銅成分が極薄銅層へと拡散していくのを防ぐバリア効果が期待される。また、中間層にクロムめっきではなくクロメート処理層を形成するのが好ましい。クロムめっきは表面に緻密なクロム酸化物層を形成するため、電気めっきで極薄銅箔を形成する際に電気抵抗が上昇し、ピンホールが発生しやすくなる。クロメート処理層を形成した表面は、クロムめっきとくらべ緻密ではないクロム酸化物層が形成されるため、極薄銅箔を電気めっきで形成する際の抵抗になりにくく、ピンホールを減少させることができる。ここで、クロメート処理層として、亜鉛クロメート処理層を形成することにより、極薄銅箔を電気めっきで形成する際の抵抗が、通常のクロメート処理層より低くなり、よりピンホールの発生を抑制することができる。
キャリアとして電解銅箔を使用する場合には、ピンホールを減少させる観点からシャイニー面に中間層を設けることが好ましい。
【0072】
中間層のうちクロメート処理層は極薄銅層の界面に薄く存在することが、絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離しない一方で、絶縁基板への積層工程後にはキャリアから極薄銅層が剥離可能であるという特性を得る上で好ましい。ニッケル層またはニッケルを含む合金層(例えばニッケル−亜鉛合金層)を設けずにクロメート処理層をキャリアと極薄銅層の境界に存在させた場合は、剥離性はほとんど向上しないし、クロメート処理層がなくニッケル層またはニッケルを含む合金層(例えばニッケル−亜鉛合金層)と極薄銅層を直接積層した場合は、ニッケル層またはニッケルを含む合金層(例えばニッケル−亜鉛合金層)におけるニッケル量に応じて剥離強度が強すぎたり弱すぎたりして適切な剥離強度は得られない。
【0073】
また、クロメート処理層がキャリアとニッケル層またはニッケルを含む合金層(例えばニッケル−亜鉛合金層)の境界に存在すると、極薄銅層の剥離時に中間層も付随して剥離されてしまう、すなわちキャリアと中間層の間で剥離が生じてしまうので好ましくない。このような状況は、キャリアとの界面にクロメート処理層を設けた場合のみならず、極薄銅層との界面にクロメート処理層を設けたとしてもクロム量が多すぎると生じ得る。これは、銅とニッケルは固溶しやすいので、これらが接触していると相互拡散によって接着力が高くなり剥離しにくくなる一方で、クロムと銅は固溶しにくく、相互拡散が生じにくいので、クロムと銅の界面では接着力が弱く、剥離しやすいことが原因と考えられる。また、中間層のニッケル量が不足している場合、キャリアと極薄銅層の間には微量のクロムしか存在しないので両者が密着して剥がれにくくなる。
【0074】
中間層のニッケル層またはニッケルを含む合金層(例えばニッケル−亜鉛合金層)は、例えば電気めっき、無電解めっき及び浸漬めっきのような湿式めっき、或いはスパッタリング、CVD及びPDVのような乾式めっきにより形成することができる。コストの観点から電気めっきが好ましい。なお、キャリアが樹脂フィルムの場合には、CVD及びPDVのような乾式めっきまたは無電解めっき及び浸漬めっきのような湿式めっきにより中間層を形成することができる。
また、クロメート処理層は、例えば電解クロメートや浸漬クロメート等で形成することができるが、クロム濃度を高くすることができ、キャリアからの極薄銅層の剥離強度が良好となるため、電解クロメートで形成するのが好ましい。
【0075】
また、中間層におけるニッケルの付着量が100〜40000μg/dm2、クロムの付着量が5〜100μg/dm2、亜鉛の付着量が1〜70μg/dm2であるのが好ましい。このようにニッケル、クロム、亜鉛の付着量を制御することにより、本発明のキャリア付銅箔は、キャリア付銅箔から極薄銅層を剥離した後の極薄銅層の表面のNi量を制御することが可能である。このように剥離後の極薄銅層表面のNi量を制御するためには、中間層のNi付着量を少なくするとともに、Niが極薄銅層側へ拡散するのを抑制する金属種(Cr、Zn)を中間層が含んでいることが好ましい。このような観点から、中間層のNi含有量は、100〜40000μg/dm2であるのが好ましく、200μg/dm2以上20000μg/dm2以下であるのが更に好ましく、500μg/dm2以上10000μg/dm2以下であるのが更に好ましく、700μg/dm2以上5000μg/dm2以下であるのが更に好ましい。また、Crは5〜100μg/dm2含有するのが好ましく、8μg/dm2以上50μg/dm2以下であるのが更に好ましく、10μg/dm2以上40μg/dm2以下であるのが更に好ましく、12μg/dm2以上30μg/dm2以下であるのが更に好ましい。Znは1〜70μg/dm2含有するのが好ましく、3μg/dm2以上30μg/dm2以下であるのが更に好ましく、5μg/dm2以上20μg/dm2以下であるのが更に好ましい。キャリア付銅箔から極薄銅層を剥離した後の極薄銅層の表面のNi量が制御される(例えばNi量が5〜300μg/dm2)と、極薄銅層のエッチング性(溶けやすさや回路形状等)が向上する等の効果がある。なお、上記ニッケルの代わりにコバルトを用いることも可能である。その際のコバルトの付着量はニッケルの付着量と同じとすることができる。
【0076】
本発明のキャリア付銅箔の中間層は、キャリア上にニッケル層、及び、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のいずれかを含む有機物層の順で積層されて構成されており、中間層におけるニッケルの付着量が100〜40000μg/dm2であってもよい。また、本発明のキャリア付銅箔の中間層は、キャリア上に窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のいずれかを含む有機物層、及び、ニッケル層の順で積層されて構成されており、中間層におけるニッケルの付着量が100〜40000μg/dm2であってもよい。上述のように、本発明のキャリア付銅箔は、キャリア付銅箔から極薄銅層を剥離した後の極薄銅層の表面のNi量が制御されているが、このように剥離後の極薄銅層表面のNi量を制御するためには、中間層のNi付着量を少なくするとともに、Niが極薄銅層側へ拡散するのを抑制する窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のいずれかを含む有機物層を中間層が含んでいることが好ましい。このような観点から、中間層のNi含有量は、100〜40000μg/dm2であるのが好ましく、200μg/dm2以上20000μg/dm2以下であるのが更に好ましく、300μg/dm2以上10000μg/dm2以下であるのが更に好ましく、500μg/dm2以上5000μg/dm2以下であるのが更に好ましい。なお、上記ニッケルの代わりにコバルトを用いることも可能である。その際のコバルトの付着量はニッケルの付着量と同じとすることができる。また、当該窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のいずれかを含む有機物としては、BTA(ベンゾトリアゾール)、MBT(メルカプトベンゾチアゾール)等が挙げられる。
【0077】
また、中間層が含有する有機物としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなるものを用いることが好ましい。窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のうち、窒素含有有機化合物は、置換基を有する窒素含有有機化合物を含んでいる。具体的な窒素含有有機化合物としては、置換基を有するトリアゾール化合物である1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等を用いることが好ましい。
硫黄含有有機化合物には、メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールナトリウム、チオシアヌル酸及び2−ベンズイミダゾールチオール等を用いることが好ましい。
カルボン酸としては、特にモノカルボン酸を用いることが好ましく、中でもオレイン酸、リノール酸及びリノレイン酸等を用いることが好ましい。
前述の有機物は厚みで25nm以上80nm以下含有するのが好ましく、30nm以上70nm以下含有するのがより好ましい。中間層は前述の有機物を複数種類(一種以上)含んでもよい。
なお、有機物の厚みは以下のようにして測定することができる。
【0078】
<中間層の有機物厚み>
キャリア付銅箔の極薄銅層をキャリアから剥離した後に、露出した極薄銅層の中間層側の表面と、露出したキャリアの中間層側の表面をXPS測定し、デプスプロファイルを作成する。そして、極薄銅層の中間層側の表面から最初に炭素濃度が3at%以下となった深さをA(nm)とし、キャリアの中間層側の表面から最初に炭素濃度が3at%以下となった深さをB(nm)とし、AとBとの合計を中間層の有機物の厚み(nm)とすることができる。
XPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10-7Pa
・X線:単色AlKαまたは非単色MgKα、エックス線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.8nm/min(SiO2換算)
【0079】
中間層が含有する有機物の使用方法について、以下に、キャリア箔上への中間層の形成方法についても述べつつ説明する。キャリア上への中間層の形成は、上述した有機物を溶媒に溶解させ、その溶媒中にキャリアを浸漬させるか、中間層を形成しようとする面に対するシャワーリング、噴霧法、滴下法及び電着法等を用いて行うことができ、特に限定した手法を採用する必要性はない。このときの溶媒中の有機系剤の濃度は、上述した有機物の全てにおいて、濃度0.01g/L〜30g/L、液温20〜60℃の範囲が好ましい。有機物の濃度は、特に限定されるものではなく、本来濃度が高くとも低くとも問題のないものである。なお、有機物の濃度が高いほど、また、上述した有機物を溶解させた溶媒へのキャリアの接触時間が長いほど、中間層の有機物厚みは大きくなる傾向にある。そして、中間層の有機物厚みが厚い場合、Niの極薄銅層側への拡散を抑制するという、有機物の効果が大きくなる傾向にある。
【0080】
また、中間層は、キャリア上に、ニッケルと、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金とがこの順で積層されて構成されていることが好ましい。ニッケルと銅との接着力は、モリブデンまたはコバルトと銅との接着力よりも高いので、極薄銅層を剥離する際に、極薄銅層とモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金との界面で剥離するようになる。また、中間層のニッケルにはキャリアから銅成分が極薄銅層へと拡散していくのを防ぐバリア効果が期待される。
【0081】
なお、前述のニッケルはニッケルを含む合金であっても良い。ここで、ニッケルを含む合金とはニッケルと、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素からなる合金のことをいう。また、前述のモリブデンはモリブデンを含む合金であっても良い。ここで、モリブデンを含む合金とはモリブデンと、コバルト、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素からなる合金のことをいう。また、前述のコバルトはコバルトを含む合金であっても良い。ここで、コバルトを含む合金とはコバルトと、モリブデン、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素からなる合金のことをいう。
【0082】
モリブデン−コバルト合金はモリブデン、コバルト以外の元素(例えばコバルト、鉄、クロム、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタンからなる群から選択された一種以上の元素)を含んでも良い。
キャリアとして電解銅箔を使用する場合には、ピンホールを減少させる観点からシャイニー面に中間層を設けることが好ましい。
【0083】
中間層のうちモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層は極薄銅層の界面に薄く存在することが、絶縁基板への積層工程前にはキャリアから極薄銅層が剥離しない一方で、絶縁基板への積層工程後にはキャリアから極薄銅層が剥離可能であるという特性を得る上で好ましい。ニッケル層を設けずにモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層をキャリアと極薄銅層の境界に存在させた場合は、剥離性はほとんど向上しない場合があり、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層がなくニッケル層と極薄銅層を直接積層した場合はニッケル層におけるニッケル量に応じて剥離強度が強すぎたり弱すぎたりして適切な剥離強度は得られない場合がある。
【0084】
また、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層がキャリアとニッケル層の境界に存在すると、極薄銅層の剥離時に中間層も付随して剥離されてしまう場合がある、すなわちキャリアと中間層の間で剥離が生じてしまうので好ましくない場合がある。このような状況は、キャリアとの界面にモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層を設けた場合のみならず、極薄銅層との界面にモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層を設けたとしてもモリブデン量またはコバルト量が多すぎると生じ得る。これは、銅とニッケルとは固溶しやすいので、これらが接触していると相互拡散によって接着力が高くなり剥離しにくくなる一方で、モリブデンまたはコバルトと銅とは固溶しにくく、相互拡散が生じにくいので、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層と銅との界面では接着力が弱く、剥離しやすいことが原因と考えられる。また、中間層のニッケル量が不足している場合、キャリアと極薄銅層の間には微量のモリブデンまたはコバルトしか存在しないので両者が密着して剥がれにくくなる場合がある。
【0085】
中間層のニッケル及びコバルトまたはモリブデン−コバルト合金は、例えば電気めっき、無電解めっき及び浸漬めっきのような湿式めっき、或いはスパッタリング、CVD及びPDVのような乾式めっきにより形成することができる。また、モリブデンはCVD及びPDVのような乾式めっきのみにより形成することができる。コストの観点から電気めっきが好ましい。
【0086】
中間層において、ニッケルの付着量は100〜40000μg/dm2であり、モリブデンの付着量は10〜1000μg/dm2であり、コバルトの付着量は10〜1000μg/dm2であるのが好ましい。上述のように、本発明のキャリア付銅箔は、キャリア付銅箔から極薄銅層を剥離した後の極薄銅層の表面のNi量が制御されているが、このように剥離後の極薄銅層表面のNi量を制御するためには、中間層のNi付着量を少なくするとともに、Niが極薄銅層側へ拡散するのを抑制する金属種(Co、Mo)を中間層が含んでいることが好ましい。このような観点から、ニッケル付着量は100〜40000μg/dm2とすることが好ましく、200〜20000μg/dm2とすることが好ましく、300〜15000μg/dm2とすることがより好ましく、300〜10000μg/dm2とすることがより好ましい。中間層にモリブデンが含まれる場合には、モリブデン付着量は10〜1000μg/dm2とすることが好ましく、モリブデン付着量は20〜600μg/dm2とすることが好ましく、30〜400μg/dm2とすることがより好ましい。中間層にコバルトが含まれる場合には、コバルト付着量は10〜1000μg/dm2とすることが好ましく、コバルト付着量は20〜600μg/dm2とすることが好ましく、30〜400μg/dm2とすることがより好ましい。
【0087】
なお、上述のように中間層は、キャリア上に、ニッケルと、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金とがこの順で積層した場合には、モリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層を設けるためのめっき処理での電流密度を低くし、キャリアの搬送速度を遅くするとモリブデンまたはコバルトまたはモリブデン−コバルト合金層の密度が高くなる傾向にある。モリブデン及び/またはコバルトを含む層の密度が高くなると、ニッケル層のニッケルが拡散し難くなり、剥離後の極薄銅層表面のNi量を制御することができる。
【0088】
中間層を片面にのみ設ける場合、キャリアの反対面にはNiめっき層などの防錆層を設けることが好ましい。なお、中間層をクロメート処理や亜鉛クロメート処理やめっき処理で設けた場合には、クロムや亜鉛など、付着した金属の一部は水和物や酸化物となっている場合があると考えられる。
【0089】
本発明のキャリア付銅箔は、一側面において、500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/g以下となるように制御されている。キャリア付銅箔を加熱すると、キャリア/極薄銅層間に発生する水蒸気等の気体によって気泡(フクレ)が発生することがある。このようなフクレが発生すると、回路形成に用いる極薄銅層が陥没し、回路形成性に悪影響を及ぼすという問題が生じる。これに対し、上述のように所定の熱処理後の水分の発生が抑制されたキャリア付銅箔とすることで、フクレの発生を良好に抑制することができ、極薄銅層の回路形成性が良好となる。キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/gを超えると、キャリア/極薄銅層間のフクレの個数が30個/dm2以上となり、極薄銅層をエッチングして、L/S=30μm/30μmよりも微細な配線、例えばL/S=25μm/25μmの微細な配線、例えばL/S=20μm/20μmの微細な配線、例えばL/S=15μm/15μmの微細な配線を形成することが困難となる。
【0090】
本発明のキャリア付銅箔は、500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が0〜130ppm/gとなるように制御されているのが好ましく、0〜110ppm/gとなるように制御されているのがより好ましく、0〜90ppm/gとなるように制御されているのが更により好ましく、0〜70ppm/gとなるように制御されているのが更により好ましい。
【0091】
本発明のキャリア付銅箔は、別の一側面において、キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下となるように制御されている。キャリア付銅箔を加熱すると、キャリア/極薄銅層間に発生する水蒸気等の気体によって気泡(フクレ)が発生することがある。このようなフクレが発生すると、回路形成に用いる極薄銅層が陥没し、回路形成性に悪影響を及ぼすという問題が生じる。これに対し、本発明のキャリア付銅箔はフクレの発生が良好に抑制されており、極薄銅層の回路形成性が良好となる。キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2を超えると、極薄銅層をエッチングして、L/S=30μm/30μmよりも微細な配線、例えばL/S=25μm/25μmの微細な配線、例えばL/S=20μm/20μmの微細な配線、例えばL/S=15μm/15μmの微細な配線を形成することが困難となる。なお、上記「220℃で4時間加熱」は、キャリア付銅箔を絶縁基板に貼り合わせて熱圧着する場合の典型的な加熱条件を示している。
【0092】
本発明のキャリア付銅箔は、220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが0〜15個/dm2以下となるように制御されているのが好ましく、0〜12個/dm2となるように制御されているのがより好ましく、0〜9個/dm2となるように制御されているのが更により好ましく、0〜5個/dm2となるように制御されているのが更により好ましい。
【0093】
また、本発明のキャリア付銅箔は、さらに厳しい加熱条件である400℃で10分間加熱したときに発生するフクレが0〜60個/dm2以下となるように制御されているのが更により好ましく、0〜50個/dm2となるように制御されているのがより好ましく、0〜40個/dm2となるように制御されているのが更により好ましく、0〜30個/dm2となるように制御されているのが更により好ましい。
【0094】
上述のような加熱の際の水分発生量が制御された、或いは、フクレの個数が制御されたキャリア付銅箔を作製するためには、以下に示す製造時の制御が重要となる。
【0095】
〔中間層形成のためのめっき条件〕
以下のめっき条件に基づいて中間層の形成を行うことで、上述のような加熱の際の水分発生量が制御された、或いは、フクレの個数が制御されたキャリア付銅箔を作製することができる。
(1)前処理
前処理として、脱脂及び酸洗を行うことで、後続のめっき処理を効果的に行うことができる。
(脱脂)
脱脂をすることで、被めっき面が清浄され、表面濡れ性が向上するため、後続の酸洗を効果的に行うことができる。
・基本処理:水酸化ナトリウム水溶液(1〜100g/L)にキャリアを浸漬する。
・界面活性剤:水酸化ナトリウム水溶液には、界面活性剤を適量入れると表面張力が下がり、より効果的で好ましい。
・電解脱脂:以下のいずれかの電解を併用するとより効果的に脱脂を行うことができる。
(a)陰極脱脂のみ(10A/dm2程度)
(b)陽極脱脂のみ(5A/dm2程度)
(c)陰極脱脂→陽極脱脂
(d)陰極脱脂→陽極脱脂→陰極脱脂
【0096】
(酸洗)
上述の脱脂の後、酸洗をすることで、キャリアが銅箔である場合には表面の酸化銅等を除去することができ、活性な銅表面を露出させることができる。このため、後続のニッケルめっきを効果的に行うことができる。
・基本処理:硫酸(50mL/L)にキャリアを浸漬する。
・酸化剤:硫酸に過硫酸塩、過酸化水素等の酸化剤を含有させることが好ましい。酸化剤を含有させることで、キャリア表面を若干削って活性な表面を露出させることができる。
【0097】
(2)ニッケルめっきまたはコバルトめっき
前処理の後、続いてニッケルめっきまたはコバルトめっきを行う。この際、緻密で均一、且つ、欠陥の無いめっきに仕上げることが重要である。ニッケルめっきまたはコバルトめっきとしては、以下の条件にて行う。
・めっき液
ニッケルまたはコバルト:20〜200g/L
ホウ酸:5〜60g/L
液温:40〜65℃
pH:1.5〜5.0、好ましくは、2.0〜3.0。pHは低めにして段階的にめっき処理することで、水素ガスが発生して陰極表面が還元雰囲気になる。このため、酸化物、水酸化物、水和物等の水分発生の原因要素の発生を抑制することができる。
電流密度:0.5〜20A/dm2、好ましくは、2〜8A/dm2。低電流密度で処理する方が、ヤケめっきとなり難く、欠陥が少なく緻密なめっきとなるため好ましい。
・攪拌(液循環量)
100〜1000L/分。液循環量が多い方が、発生する水素ガスのガス離れが良くなり、ピンホール等の欠陥が少なくなる。また、拡散層厚みを小さくする効果が有り、水酸化物等の水分発生の原因要素の発生を抑制することができる。
・搬送速度
2〜30m/分、好ましくは、5〜10m/分。搬送速度が遅い方が、平滑で緻密なNi層が形成される。
・添加剤
添加剤に以下の一次光沢剤及び二次光沢剤を使用するのが好ましい。これにより、結晶が平滑で緻密となる。このため、めっきに発生する欠陥が減少し、水分の取り込みが減少する。
(一次光沢剤)
1−5ナフタレン・ジスルフォン酸ナトリウム:2〜10g/L、1−3−6ナフタレン・トリスルフォン酸ナトリウム:10〜30g/L、パラトルエンスルフォン・アミド:0.5〜4g/L、サッカリンナトリウム:0.5〜5g/Lのいずれか1種。
(二次光沢剤)
ホルマリン:0.5〜5g/L、ゼラチン:0.005〜0.5g/L、チオ尿素:0.05〜1.0g/L、プロパルギルアルコール:0.01〜0.3g/L、1−4ブチンジオール:0.05〜0.5g/L、エチレンシアンヒドリン:0.05〜0.5g/Lのいずれか1種。
【0098】
ニッケルめっきなどの金属メッキの後、続いて以下の条件にて(3)クロメート処理を行うかまたは、以下の条件にて(4)有機物による処理を行う。
(3)クロメート処理
・処理液
クロム:0.5〜6.0g/L
亜鉛:0.1〜2.0g/L
pH:2.5〜5.0
液温:25〜60℃
電流密度:0.1〜4A/dm2
また、クロメート処理の処理液にはその他の元素が含まれても良い。
(4)有機物による処理
・処理液
有機物:0.1〜20g/L
pH:2〜5
液温:20〜40℃
浸漬時間:5〜30秒
有機物は上述の有機物、例えば窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸のいずれかを含む有機物が好ましい。
【0099】
〔中間層形成後、極薄銅層形成までに行う処理〕
中間層形成後、極薄銅層形成までに、さらに以下の加熱処理及び/又は還元処理を行うことが好ましい。このような処理を行うことで、上述のような加熱の際の水分発生量が制御されたキャリア付銅箔を作製することができる。
(5)加熱処理
クロメート処理または有機物による処理の後、銅めっき前に以下の条件で加熱処理を行うことで水分を除去する。
・例えば、インライン処理にて100〜200℃、このましくは180℃程度で1分間の加熱。さらに、IRヒータを使用した加熱も併用すればより効果的である。また、水素ガスを通しながら加熱すれば、還元効果も有り、さらに効果的である。
(6)還元処理
以下の条件で還元剤を用いて後処理することでO(酸素)を減らすことができる。
・例えば、還元剤である蟻酸(0.1〜100g/L)を使用して浸漬処理を行う。
【0100】
<極薄銅層>
中間層の上には極薄銅層を設ける。中間層と極薄銅層との間には他の層を設けてもよい。極薄銅層は、硫酸銅、ピロリン酸銅、スルファミン酸銅、シアン化銅等の電解浴を利用した電気めっきにより形成することができ、高電流密度での銅層形成が可能であることから硫酸銅浴が好ましい。極薄銅層の厚みは特に制限はないが、一般的にはキャリアよりも薄く、例えば12μm以下である。典型的には0.5〜12μmであり、より典型的には1〜5μmであり、更により典型的には1.5〜5μmであり、更により典型的には2〜5μmである。なお、極薄銅層はキャリアの両面に設けてもよい。
【0101】
本発明のキャリア付銅箔を用いて積層体(銅張積層体等)を作製することができる。当該積層体としては、例えば、「極薄銅層/中間層/キャリア/樹脂又はプリプレグ」の順に積層された構成であってもよく、「キャリア/中間層/極薄銅層/樹脂又はプリプレグ」の順に積層された構成であってもよく、「極薄銅層/中間層/キャリア/樹脂又はプリプレグ/キャリア/中間層/極薄銅層」の順に積層された構成であってもよく、「キャリア/中間層/極薄銅層/樹脂又はプリプレグ/極薄銅層/中間層/キャリア」の順に積層された構成であってもよい。前記樹脂又はプリプレグは後述する樹脂層であってもよく、後述する樹脂層に用いる樹脂、樹脂硬化剤、化合物、硬化促進剤、誘電体、反応触媒、架橋剤、ポリマー、プリプレグ、骨格材等を含んでもよい。なお、キャリア付銅箔は平面視したときに樹脂又はプリプレグより小さくてもよい。
【0102】
<粗化処理及びその他の表面処理>
極薄銅層の表面またはキャリアの表面のいずれか一方または両方には、例えば絶縁基板との密着性を良好にすること等のために粗化処理を施すことで粗化処理層を設けてもよい。粗化処理は、例えば、銅又は銅合金で粗化粒子を形成することにより行うことができる。粗化処理は微細なものであっても良い。粗化処理層は、銅、ニッケル、コバルト、リン、タングステン、ヒ素、モリブデン、クロム及び亜鉛からなる群から選択されたいずれかの単体又はいずれか1種以上を含む合金からなる層などであってもよい。また、銅又は銅合金で粗化粒子を形成した後、更にニッケル、コバルト、銅、亜鉛の単体または合金等で二次粒子や三次粒子を設ける粗化処理を行うこともできる。その後に、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛の単体または合金等で耐熱層および/または防錆層を形成しても良く、更にその表面にクロメート処理、シランカップリング処理などの処理を施してもよい。または粗化処理を行わずに、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛の単体または合金等で耐熱層および/又は防錆層を形成し、さらにその表面にクロメート処理、シランカップリング処理などの処理を施してもよい。すなわち、粗化処理層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を形成してもよく、極薄銅層の表面に、耐熱層、防錆層、クロメート処理層及びシランカップリング処理層からなる群から選択された1種以上の層を形成してもよい。なお、上述の耐熱層、防錆層、クロメート処理層、シランカップリング処理層はそれぞれ複数の層で形成されてもよい(例えば2層以上、3層以上など)。
ここでクロメート処理層とは無水クロム酸、クロム酸、二クロム酸、クロム酸塩または二クロム酸塩を含む液で処理された層のことをいう。クロメート処理層はコバルト、鉄、ニッケル、モリブデン、亜鉛、タンタル、銅、アルミニウム、リン、タングステン、錫、砒素およびチタン等の元素(金属、合金、酸化物、窒化物、硫化物等どのような形態でもよい)を含んでもよい。クロメート処理層の具体例としては、無水クロム酸または二クロム酸カリウム水溶液で処理したクロメート処理層や、無水クロム酸または二クロム酸カリウムおよび亜鉛を含む処理液で処理したクロメート処理層等が挙げられる。
【0103】
耐熱層、防錆層としては公知の耐熱層、防錆層を用いることが出来る。例えば、耐熱層および/または防錆層はニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄、タンタルの群から選ばれる1種以上の元素を含む層であってもよく、ニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄、タンタルの群から選ばれる1種以上の元素からなる金属層または合金層であってもよい。また、耐熱層および/または防錆層はニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄、タンタルの群から選ばれる1種以上の元素を含む酸化物、窒化物、珪化物を含んでもよい。また、耐熱層および/または防錆層はニッケル−亜鉛合金を含む層であってもよい。また、耐熱層および/または防錆層はニッケル−亜鉛合金層であってもよい。前記ニッケル−亜鉛合金層は、不可避不純物を除き、ニッケルを50wt%〜99wt%、亜鉛を50wt%〜1wt%含有するものであってもよい。前記ニッケル−亜鉛合金層の亜鉛及びニッケルの合計付着量が5〜1000mg/m2、好ましくは10〜500mg/m2、好ましくは20〜100mg/m2であってもよい。また、前記ニッケル−亜鉛合金を含む層または前記ニッケル−亜鉛合金層のニッケルの付着量と亜鉛の付着量との比(=ニッケルの付着量/亜鉛の付着量)が1.5〜10であることが好ましい。また、前記ニッケル−亜鉛合金を含む層または前記ニッケル−亜鉛合金層のニッケルの付着量は0.5mg/m2〜500mg/m2であることが好ましく、1mg/m2〜50mg/m2であることがより好ましい。耐熱層および/または防錆層がニッケル−亜鉛合金を含む層である場合、銅箔と樹脂基板との密着性が向上する。
【0104】
例えば耐熱層および/または防錆層は、付着量が1mg/m2〜100mg/m2、好ましくは5mg/m2〜50mg/m2のニッケルまたはニッケル合金層と、付着量が1mg/m2〜80mg/m2、好ましくは5mg/m2〜40mg/m2のスズ層とを順次積層したものであってもよく、前記ニッケル合金層はニッケル−モリブデン、ニッケル−亜鉛、ニッケル−モリブデン−コバルトのいずれか一種により構成されてもよい。また、耐熱層および/または防錆層は、ニッケルまたはニッケル合金とスズとの合計付着量が2mg/m2〜150mg/m2であることが好ましく、10mg/m2〜70mg/m2であることがより好ましい。また、耐熱層および/または防錆層は、[ニッケルまたはニッケル合金中のニッケル付着量]/[スズ付着量]=0.25〜10であることが好ましく、0.33〜3であることがより好ましい。当該耐熱層および/または防錆層を用いるとキャリア付銅箔をプリント配線板に加工して以降の回路の引き剥がし強さ、当該引き剥がし強さの耐薬品性劣化率等が良好になる。
【0105】
なお、シランカップリング処理層を設けるために用いられるシランカップリング剤には公知のシランカップリング剤を用いてよく、例えばアミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤を用いてよい。また、シランカップリング剤にはビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いてもよい。
【0106】
前記シランカップリング処理層は、エポキシ系シラン、アミノ系シラン、メタクリロキシ系シラン、メルカプト系シランなどのシランカップリング剤などを使用して形成してもよい。なお、このようなシランカップリング剤は、2種以上混合して使用してもよい。中でも、アミノ系シランカップリング剤又はエポキシ系シランカップリング剤を用いて形成したものであることが好ましい。
【0107】
ここで言うアミノ系シランカップリング剤とは、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル−3−アミノプロピル)トリス(2−エチルヘキソキシ)シラン、6−(アミノヘキシルアミノプロピル)トリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−(1−アミノプロポキシ)−3,3−ジメチル−1−プロペニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ω−アミノウンデシルトリメトキシシラン、3−(2−N−ベンジルアミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、(N,N−ジエチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、(N,N−ジメチル−3−アミノプロピル)トリメトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−(N−スチリルメチル−2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択されるものであってもよい。
【0108】
シランカップリング処理層は、ケイ素原子換算で、0.05mg/m2〜200mg/m2、好ましくは0.15mg/m2〜20mg/m2、好ましくは0.3mg/m2〜2.0mg/m2の範囲で設けられていることが望ましい。前述の範囲の場合、基材と表面処理銅箔との密着性をより向上させることが出来る。
【0109】
また、極薄銅層、粗化処理層、耐熱層、防錆層、シランカップリング処理層またはクロメート処理層の表面に、国際公開番号WO2008/053878、特開2008−111169号、特許第5024930号、国際公開番号WO2006/028207、特許第4828427号、国際公開番号WO2006/134868、特許第5046927号、国際公開番号WO2007/105635、特許第5180815号、特開2013−19056号に記載の表面処理を行うことができる。
【0110】
また、本発明のキャリア付銅箔は前記極薄銅層上、あるいは前記粗化処理層上、あるいは前記耐熱層、防錆層、あるいはクロメート処理層、あるいはシランカップリング処理層の上に樹脂層を備えても良い。前記樹脂層は絶縁樹脂層であってもよい。
【0111】
前記樹脂層は接着剤であってもよく、接着用の半硬化状態(Bステージ状態)の絶縁樹脂層であってもよい。半硬化状態(Bステージ状態)とは、その表面に指で触れても粘着感はなく、該絶縁樹脂層を重ね合わせて保管することができ、更に加熱処理を受けると硬化反応が起こる状態のことを含む。
【0112】
また前記樹脂層は熱硬化性樹脂を含んでもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。また、前記樹脂層は熱可塑性樹脂を含んでもよい。その種類は格別限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、多官能性シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ゴム変成エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、カルボキシル基変性アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ビスマレイミドトリアジン樹脂、熱硬化性ポリフェニレンオキサイド樹脂、シアネートエステル系樹脂、多価カルボン酸の無水物などを含む樹脂を好適なものとしてあげることができる。
【0113】
前記樹脂層は公知の樹脂、樹脂硬化剤、化合物、硬化促進剤、誘電体(無機化合物及び/または有機化合物を含む誘電体、金属酸化物を含む誘電体等どのような誘電体を用いてもよい)、反応触媒、架橋剤、ポリマー、プリプレグ、骨格材等を含んでよい。また、前記樹脂層は例えば国際公開番号WO2008/004399号、国際公開番号WO2008/053878、国際公開番号WO2009/084533、特開平11−5828号、特開平11−140281号、特許第3184485号、国際公開番号WO97/02728、特許第3676375号、特開2000−43188号、特許第3612594号、特開2002−179772号、特開2002−359444号、特開2003−304068号、特許第3992225、特開2003−249739号、特許第4136509号、特開2004−82687号、特許第4025177号、特開2004−349654号、特許第4286060号、特開2005−262506号、特許第4570070号、特開2005−53218号、特許第3949676号、特許第4178415号、国際公開番号WO2004/005588、特開2006−257153号、特開2007−326923号、特開2008−111169号、特許第5024930号、国際公開番号WO2006/028207、特許第4828427号、特開2009−67029号、国際公開番号WO2006/134868、特許第5046927号、特開2009−173017号、国際公開番号WO2007/105635、特許第5180815号、国際公開番号WO2008/114858、国際公開番号WO2009/008471、特開2011−14727号、国際公開番号WO2009/001850、国際公開番号WO2009/145179、国際公開番号WO2011/068157、特開2013−19056号に記載されている物質(樹脂、樹脂硬化剤、化合物、硬化促進剤、誘電体、反応触媒、架橋剤、ポリマー、プリプレグ、骨格材等)および/または樹脂層の形成方法、形成装置を用いて形成してもよい。
【0114】
これらの樹脂を例えばメチルエチルケトン(MEK)、トルエンなどの溶剤に溶解して樹脂液とし、これを前記極薄銅層上、あるいは前記耐熱層、防錆層、あるいは前記クロメート皮膜層、あるいは前記シランカップリング剤層の上に、例えばロールコータ法などによって塗布し、ついで必要に応じて加熱乾燥して溶剤を除去しBステージ状態にする。乾燥には例えば熱風乾燥炉を用いればよく、乾燥温度は100〜250℃、好ましくは130〜200℃であればよい。
【0115】
前記樹脂層を備えたキャリア付銅箔(樹脂付きキャリア付銅箔)は、その樹脂層を基材に重ね合わせたのち全体を熱圧着して該樹脂層を熱硬化せしめ、ついでキャリアを剥離して極薄銅層を表出せしめ(当然に表出するのは該極薄銅層の中間層側の表面である)、そこに所定の配線パターンを形成するという態様で使用される。
【0116】
この樹脂付きキャリア付銅箔を使用すると、多層プリント配線基板の製造時におけるプリプレグ材の使用枚数を減らすことができる。しかも、樹脂層の厚みを層間絶縁が確保できるような厚みにしたり、プリプレグ材を全く使用していなくても銅張り積層板を製造することができる。またこのとき、基材の表面に絶縁樹脂をアンダーコートして表面の平滑性を更に改善することもできる。
【0117】
なお、プリプレグ材を使用しない場合には、プリプレグ材の材料コストが節約され、また積層工程も簡略になるので経済的に有利となり、しかも、プリプレグ材の厚み分だけ製造される多層プリント配線基板の厚みは薄くなり、1層の厚みが100μm以下である極薄の多層プリント配線基板を製造することができるという利点がある。
【0118】
この樹脂層の厚みは0.1〜80μmであることが好ましい。樹脂層の厚みが0.1μmより薄くなると、接着力が低下し、プリプレグ材を介在させることなくこの樹脂付きキャリア付銅箔を内層材を備えた基材に積層したときに、内層材の回路との間の層間絶縁を確保することが困難になる場合がある。
【0119】
一方、樹脂層の厚みを80μmより厚くすると、1回の塗布工程で目的厚みの樹脂層を形成することが困難となり、余分な材料費と工数がかかるため経済的に不利となる。更には、形成された樹脂層はその可撓性が劣るので、ハンドリング時にクラックなどが発生しやすくなり、また内層材との熱圧着時に過剰な樹脂流れが起こって円滑な積層が困難になる場合がある。
【0120】
更に、この樹脂付きキャリア付銅箔のもう一つの製品形態としては、前記極薄銅層上、あるいは前記耐熱層、防錆層、あるいは前記クロメート処理層、あるいは前記シランカップリング処理層の上に樹脂層で被覆し、半硬化状態とした後、ついでキャリアを剥離して、キャリアが存在しない樹脂付き銅箔の形で製造することも可能である。
【0121】
以下に、本発明に係るキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造工程の例を幾つか示す。
【0122】
本発明に係るプリント配線板の製造方法の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、前記キャリア付銅箔と絶縁基板を極薄銅層側が絶縁基板と対向するように積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程を経て銅張積層板を形成し、その後、セミアディティブ法、モディファイドセミアディティブ法、パートリーアディティブ法及びサブトラクティブ法の何れかの方法によって、回路を形成する工程を含む。絶縁基板は内層回路入りのものとすることも可能である。
【0123】
本発明において、セミアディティブ法とは、絶縁基板又は銅箔シード層上に薄い無電解めっきを行い、パターンを形成後、電気めっき及びエッチングを用いて導体パターンを形成する方法を指す。
【0124】
従って、セミアディティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法によりすべて除去する工程、
前記極薄銅層をエッチングにより除去することにより露出した前記樹脂にスルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域についてデスミア処理を行う工程、
前記樹脂および前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域について無電解めっき層を設ける工程、
前記無電解めっき層の上にめっきレジストを設ける工程、
前記めっきレジストに対して露光し、その後、回路が形成される領域のめっきレジストを除去する工程、
前記めっきレジストが除去された前記回路が形成される領域に、電解めっき層を設ける工程、
前記めっきレジストを除去する工程、
前記回路が形成される領域以外の領域にある無電解めっき層をフラッシュエッチングなどにより除去する工程、
を含む。
【0125】
セミアディティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の別の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法によりすべて除去する工程、
前記極薄銅層をエッチングにより除去することにより露出した前記樹脂の表面について無電解めっき層を設ける工程、
前記無電解めっき層の上にめっきレジストを設ける工程、
前記めっきレジストに対して露光し、その後、回路が形成される領域のめっきレジストを除去する工程、
前記めっきレジストが除去された前記回路が形成される領域に、電解めっき層を設ける工程、
前記めっきレジストを除去する工程、
前記回路が形成される領域以外の領域にある無電解めっき層及び極薄銅層をフラッシュエッチングなどにより除去する工程、
を含む。
【0126】
本発明において、モディファイドセミアディティブ法とは、絶縁層上に金属箔を積層し、めっきレジストにより非回路形成部を保護し、電解めっきにより回路形成部の銅厚付けを行った後、レジストを除去し、前記回路形成部以外の金属箔を(フラッシュ)エッチングで除去することにより、絶縁層上に回路を形成する方法を指す。
【0127】
従って、モディファイドセミアディティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層と絶縁基板にスルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域についてデスミア処理を行う工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域について無電解めっき層を設ける工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層表面にめっきレジストを設ける工程、
前記めっきレジストを設けた後に、電解めっきにより回路を形成する工程、
前記めっきレジストを除去する工程、
前記めっきレジストを除去することにより露出した極薄銅層をフラッシュエッチングにより除去する工程、
を含む。
【0128】
モディファイドセミアディティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の別の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層の上にめっきレジストを設ける工程、
前記めっきレジストに対して露光し、その後、回路が形成される領域のめっきレジストを除去する工程、
前記めっきレジストが除去された前記回路が形成される領域に、電解めっき層を設ける工程、
前記めっきレジストを除去する工程、
前記回路が形成される領域以外の領域にある無電解めっき層及び極薄銅層をフラッシュエッチングなどにより除去する工程、
を含む。
【0129】
本発明において、パートリーアディティブ法とは、導体層を設けてなる基板、必要に応じてスルーホールやバイアホール用の孔を穿けてなる基板上に触媒核を付与し、エッチングして導体回路を形成し、必要に応じてソルダレジストまたはメッキレジストを設けた後に、前記導体回路上、スルーホールやバイアホールなどに無電解めっき処理によって厚付けを行うことにより、プリント配線板を製造する方法を指す。
【0130】
従って、パートリーアディティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層と絶縁基板にスルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域についてデスミア処理を行う工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域について触媒核を付与する工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層表面にエッチングレジストを設ける工程、
前記エッチングレジストに対して露光し、回路パターンを形成する工程、
前記極薄銅層および前記触媒核を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法により除去して、回路を形成する工程、
前記エッチングレジストを除去する工程、
前記極薄銅層および前記触媒核を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法により除去して露出した前記絶縁基板表面に、ソルダレジストまたはメッキレジストを設ける工程、
前記ソルダレジストまたはメッキレジストが設けられていない領域に無電解めっき層を設ける工程、
を含む。
【0131】
本発明において、サブトラクティブ法とは、銅張積層板上の銅箔の不要部分を、エッチングなどによって、選択的に除去して、導体パターンを形成する方法を指す。
【0132】
従って、サブトラクティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層と絶縁基板にスルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域についてデスミア処理を行う工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域について無電解めっき層を設ける工程、
前記無電解めっき層の表面に、電解めっき層を設ける工程、
前記電解めっき層または/および前記極薄銅層の表面にエッチングレジストを設ける工程、
前記エッチングレジストに対して露光し、回路パターンを形成する工程、
前記極薄銅層および前記無電解めっき層および前記電解めっき層を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法により除去して、回路を形成する工程、
前記エッチングレジストを除去する工程、
を含む。
【0133】
サブトラクティブ法を用いた本発明に係るプリント配線板の製造方法の別の一実施形態においては、本発明に係るキャリア付銅箔と絶縁基板とを準備する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層する工程、
前記キャリア付銅箔と絶縁基板を積層した後に、前記キャリア付銅箔のキャリアを剥がす工程、
前記キャリアを剥がして露出した極薄銅層と絶縁基板にスルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域についてデスミア処理を行う工程、
前記スルーホールまたは/およびブラインドビアを含む領域について無電解めっき層を設ける工程、
前記無電解めっき層の表面にマスクを形成する工程、
マスクが形成されいない前記無電解めっき層の表面に電解めっき層を設ける工程、
前記電解めっき層または/および前記極薄銅層の表面にエッチングレジストを設ける工程、
前記エッチングレジストに対して露光し、回路パターンを形成する工程、
前記極薄銅層および前記無電解めっき層を酸などの腐食溶液を用いたエッチングやプラズマなどの方法により除去して、回路を形成する工程、
前記エッチングレジストを除去する工程、
を含む。
【0134】
スルーホールまたは/およびブラインドビアを設ける工程、及びその後のデスミア工程は行わなくてもよい。
【0135】
本発明のプリント配線板の製造方法は、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面に樹脂層を形成する工程、前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程
を含んでもよい。また、本発明のプリント配線板の製造方法は、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側又は前記キャリア側表面に回路を形成する工程、前記回路が埋没するように前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側に樹脂層を形成する工程、前記樹脂層上に回路を形成する工程、前記樹脂層上に回路を形成した後に、前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させる工程、及び、前記キャリア又は前記極薄銅層を剥離させた後に、前記極薄銅層又は前記キャリアを除去することで、前記極薄銅層側表面又は前記キャリア側表面に形成した、前記樹脂層に埋没している回路を露出させる工程を含んでもよい。また、前記樹脂層上に回路を形成する工程が、前記樹脂層上に別のキャリア付銅箔を極薄銅層側又はキャリア側から貼り合わせ、前記樹脂層に貼り合わせたキャリア付銅箔を用いて前記回路を形成する工程であってもよい。また、前記樹脂層上に貼り合わせる別のキャリア付銅箔が、本発明のキャリア付銅箔であってもよい。
【0136】
ここで、本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板の製造方法の具体例を図面を用いて詳細に説明する。なお、ここでは極薄銅層表面に粗化処理層が形成されたキャリア付銅箔を例にして説明しているが、粗化処理層は形成されていなくてもよい。
まず、図1−Aに示すように、表面に粗化処理層が形成された極薄銅層を有するキャリア付銅箔(1層目)を準備する。
次に、図1−Bに示すように、極薄銅層の粗化処理層上にレジストを塗布し、露光・現像を行い、レジストを所定の形状にエッチングする。
次に、図1−Cに示すように、回路用のめっきを形成した後、レジストを除去することで、所定の形状の回路めっきを形成する。
次に、図2−Dに示すように、回路めっきを覆うように(回路めっきが埋没するように)極薄銅層上に埋め込み樹脂を設けて樹脂層を積層し、続いて別のキャリア付銅箔(2層目)を極薄銅層側から接着させる。
次に、図2−Eに示すように、2層目のキャリア付銅箔からキャリアを剥がす。
次に、図2−Fに示すように、樹脂層の所定位置にレーザー穴あけを行い、回路めっきを露出させてブラインドビアを形成する。
次に、図3−Gに示すように、ブラインドビアに銅を埋め込みビアフィルを形成する。
次に、図3−Hに示すように、ビアフィル上に、上記図1−B及び図1−Cのようにして回路めっきを形成する。
次に、図3−Iに示すように、1層目のキャリア付銅箔からキャリアを剥がす。
次に、図4−Jに示すように、フラッシュエッチングにより両表面の極薄銅層を除去し、樹脂層内の回路めっきの表面を露出させる。
次に、図4−Kに示すように、樹脂層内の回路めっき上にバンプを形成し、当該はんだ上に銅ピラーを形成する。このようにして本発明のキャリア付銅箔を用いたプリント配線板を作製する。
【0137】
上記別のキャリア付銅箔(2層目)は、本発明のキャリア付銅箔を用いてもよく、従来のキャリア付銅箔を用いてもよく、さらに通常の銅箔を用いてもよい。また、図3−Hに示される2層目の回路上に、さらに回路を1層或いは複数層形成してもよく、それらの回路形成をセミアディティブ法、サブトラクティブ法、パートリーアディティブ法又はモディファイドセミアディティブ法のいずれかの方法によって行ってもよい。
【0138】
また、前記1層目に用いられるキャリア付銅箔は、当該キャリア付銅箔のキャリア側表面に基板を有してもよい。当該基板を有することで1層目に用いられるキャリア付銅箔は支持され、しわが入りにくくなるため、生産性が向上するという利点がある。なお、前記基板には、前記1層目に用いられるキャリア付銅箔を支持する効果を有するものであれば、全ての基板を用いることが出来る。例えば前記基板として本願明細書に記載のキャリア、プリプレグ、樹脂層や公知のキャリア、プリプレグ、樹脂層、金属板、金属箔、無機化合物の板、無機化合物の箔、有機化合物の板、有機化合物の箔を用いることができる。
【0139】
キャリア側表面に基板を形成するタイミングについては特に制限はないが、キャリアを剥離する前に形成することが必要である。特に、前記キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面に樹脂層を形成する工程の前に形成することが好ましく、キャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面に回路を形成する工程の前に形成することがより好ましい。
【0140】
なお、埋め込み樹脂(レジン)には公知の樹脂、プリプレグを用いることができる。例えば、BT(ビスマレイミドトリアジン)レジンやBTレジンを含浸させたガラス布であるプリプレグ、味の素ファインテクノ株式会社製ABFフィルムやABFを用いることができる。また、前記埋め込み樹脂は熱硬化性樹脂を含んでもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。また、前記埋め込み樹脂は熱可塑性樹脂を含んでもよい。前記埋め込み樹脂の種類は格別限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、多官能性シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ブロック共重合ポリイミド樹脂、ブロック共重合ポリイミド樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルスルホン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ゴム変成エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、カルボキシル基変性アクリロニトリル-ブタジエン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ビスマレイミドトリアジン樹脂、熱硬化性ポリフェニレンオキサイド樹脂、シアネートエステル系樹脂、多価カルボン酸の無水物などを含む樹脂や、紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム、フッ素樹脂フィルムなどを好適なものとしてあげることができる。また、前記埋め込み樹脂(レジン)には本明細書に記載の樹脂層および/または樹脂および/またはプリプレグを使用することができる。
【0141】
更に、本発明のプリント配線板に電子部品類を搭載することで、プリント回路板が完成する。本発明において、「プリント配線板」にはこのように電子部品類が搭載されたプリント配線板およびプリント回路板およびプリント基板も含まれることとする。
また、当該プリント配線板を用いて電子機器を作製してもよく、当該電子部品類が搭載されたプリント回路板を用いて電子機器を作製してもよく、当該電子部品類が搭載されたプリント基板を用いて電子機器を作製してもよい。
【0142】
また、本発明のプリント配線板の製造方法は、本発明のキャリア付銅箔の前記極薄銅層側表面または前記キャリア側表面と樹脂基板とを積層する工程、前記樹脂基板と積層した極薄銅層側表面または前記キャリア側表面とは反対側のキャリア付銅箔の表面に、樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、前記樹脂層及び回路の2層を形成した後に、前記キャリア付銅箔から前記キャリアまたは前記極薄銅層を剥離させる工程を含むプリント配線板の製造方法(コアレス工法)であってもよい。当該コアレス工法について、具体的な例としては、まず、本発明のキャリア付銅箔の極薄銅層側表面またはキャリア側表面と樹脂基板とを積層する。その後、樹脂基板と積層した極薄銅層側表面または前記キャリア側表面とは反対側のキャリア付銅箔の表面に樹脂層を形成する。キャリア側表面又は極薄銅層側表面に形成した樹脂層には、さらに別のキャリア付銅箔をキャリア側又は極薄銅層側から積層してもよい。この場合、樹脂基板を中心として当該樹脂基板の両表面側に、キャリア/中間層/極薄銅層の順あるいは極薄銅層/中間層/キャリアの順でキャリア付銅箔が積層された構成となっている。両端の極薄銅層あるいはキャリアの露出した表面には、別の樹脂層を設け、さらに銅層又は金属層を設けた後、当該銅層又は金属層を加工することで回路を形成してもよい。さらに、別の樹脂層を当該回路上に、当該回路を埋め込むように設けても良い。また、このような回路及び樹脂層の形成を1回以上行ってもよい(ビルドアップ工法)。そして、このようにして形成した積層体(以下、積層体Bとも言う)について、それぞれのキャリア付銅箔の極薄銅層またはキャリアをキャリアまたは極薄銅層から剥離させてコアレス基板を作製することができる。なお、前述のコアレス基板の作製には、2つのキャリア付銅箔を用いて、後述する極薄銅層/中間層/キャリア/キャリア/中間層/極薄銅層の構成を有する積層体や、キャリア/中間層/極薄銅層/極薄銅層/中間層/キャリアの構成を有する積層体や、キャリア/中間層/極薄銅層/キャリア/中間層/極薄銅層の構成を有する積層体を作製し、当該積層体を中心に用いることもできる。これら積層体(以下、積層体Aとも言う)の両側の極薄銅層またはキャリアの表面に樹脂層及び回路の2層を1回以上設け、樹脂層及び回路の2層を1回以上設けた後に、それぞれのキャリア付銅箔の極薄銅層またはキャリアをキャリアまたは極薄銅層から剥離させてコアレス基板を作製することができる。前述の積層体は、極薄銅層の表面、キャリアの表面、キャリアとキャリアとの間、極薄銅層と極薄銅層との間、極薄銅層とキャリアとの間には他の層を有してもよい。なお、本明細書において「極薄銅層の表面」、「極薄銅層側表面」、「キャリアの表面」、「キャリア側表面」、「積層体の表面」は、極薄銅層、キャリア、積層体が、極薄銅層表面、キャリア表面、積層体表面に他の層を有する場合には、当該他の層の表面(最表面)を含む概念とする。また、積層体は極薄銅層/中間層/キャリア/キャリア/中間層/極薄銅層の構成を有することが好ましい。当該積層体を用いてコアレス基板を作製した際、コアレス基板側に極薄銅層が配置されるため、モディファイドセミアディティブ法を用いてコアレス基板上に回路を形成しやすくなるためである。また、極薄銅層の厚みは薄いため、当該極薄銅層の除去がしやすく、極薄銅層の除去後にセミアディティブ法を用いて、コアレス基板上に回路を形成しやすくなるためである。
なお、本明細書において、「積層体A」または「積層体B」と特に記載していない「積層体」は、少なくとも積層体A及び積層体Bを含む積層体を示す。
【0143】
なお、上述のコアレス基板の製造方法において、キャリア付銅箔または積層体(積層体A)の端面の一部または全部を樹脂で覆うことにより、ビルドアップ工法でプリント配線板を製造する際に、中間層または積層体を構成する1つのキャリア付銅箔ともう1つのキャリア付銅箔の間のへの薬液の染み込みを防止することができ、薬液の染み込みによる極薄銅層とキャリアの分離やキャリア付銅箔の腐食を防止することができ、歩留りを向上させることができる。ここで用いる「キャリア付銅箔の端面の一部または全部を覆う樹脂」または「積層体の端面の一部または全部を覆う樹脂」としては、樹脂層に用いることができる樹脂を使用することができる。また、上述のコアレス基板の製造方法において、キャリア付銅箔または積層体において平面視したときにキャリア付銅箔または積層体の積層部分(キャリアと極薄銅層との積層部分、または、1つのキャリア付銅箔ともう1つのキャリア付銅箔との積層部分)の外周の少なくとも一部が樹脂又はプリプレグで覆ってもよい。また、上述のコアレス基板の製造方法で形成する積層体(積層体A)は、一対のキャリア付銅箔を互いに分離可能に接触させて構成されていてもよい。また、当該キャリア付銅箔において平面視したときにキャリア付銅箔または積層体の積層部分(キャリアと極薄銅層との積層部分、または、1つのキャリア付銅箔ともう1つのキャリア付銅箔との積層部分)の外周の全体にわたって樹脂又はプリプレグで覆われてなるものであってもよい。このような構成とすることにより、キャリア付銅箔または積層体を平面視したときに、キャリア付銅箔または積層体の積層部分が樹脂又はプリプレグにより覆われ、他の部材がこの部分の側方向、すなわち積層方向に対して横からの方向から当たることを防ぐことができるようになり、結果としてハンドリング中のキャリアと極薄銅層またはキャリア付銅箔同士の剥がれを少なくすることができる。また、キャリア付銅箔または積層体の積層部分の外周を露出しないように樹脂又はプリプレグで覆うことにより、前述したような薬液処理工程におけるこの積層部分の界面への薬液の浸入を防ぐことができ、キャリア付銅箔の腐食や侵食を防ぐことができる。なお、積層体の一対のキャリア付銅箔から一つのキャリア付銅箔を分離する際、またはキャリア付銅箔のキャリアと銅箔(極薄銅層)を分離する際には、樹脂又はプリプレグで覆われているキャリア付銅箔又は積層体の積層部分(キャリアと極薄銅層との積層部分、または、1つのキャリア付銅箔ともう1つのキャリア付銅箔との積層部分)を切断等により除去する必要がある。
【0144】
本発明のキャリア付銅箔をキャリア側又は極薄銅層側から、もう一つの本発明のキャリア付銅箔のキャリア側または極薄銅層側に積層して積層体を構成してもよい。また、前記一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面と前記もう一つのキャリア付銅箔の前記キャリア側表面又は前記極薄銅層側表面とが、必要に応じて接着剤を介して、直接積層させて得られた積層体であってもよい。また、前記一つのキャリア付銅箔のキャリア又は極薄銅層と、前記もう一つのキャリア付銅箔のキャリア又は極薄銅層とが接合されていてもよい。ここで、当該「接合」は、キャリア又は極薄銅層が表面処理層を有する場合は、当該表面処理層を介して互いに接合されている態様も含む。また、当該積層体の端面の一部または全部が樹脂により覆われていてもよい。
【0145】
キャリア同士の積層は、単に重ね合わせる他、例えば以下の方法で行うことができる。
(a)冶金的接合方法:融接(アーク溶接、TIG(タングステン・イナート・ガス)溶接、MIG(メタル・イナート・ガス)溶接、抵抗溶接、シーム溶接、スポット溶接)、圧接(超音波溶接、摩擦撹拌溶接)、ろう接;
(b)機械的接合方法:かしめ、リベットによる接合(セルフピアッシングリベットによる接合、リベットによる接合)、ステッチャー;
(c)物理的接合方法:接着剤、(両面)粘着テープ
【0146】
一方のキャリアの一部または全部と他方のキャリアの一部または全部とを、上記接合方法を用いて接合することにより、一方のキャリアと他方のキャリアを積層し、キャリア同士を分離可能に接触させて構成される積層体を製造することができる。一方のキャリアと他方のキャリアとが弱く接合されて、一方のキャリアと他方のキャリアとが積層されている場合には、一方のキャリアと他方のキャリアとの接合部を除去しないでも、一方のキャリアと他方のキャリアとは分離可能である。また、一方のキャリアと他方のキャリアとが強く接合されている場合には、一方のキャリアと他方のキャリアとが接合されている箇所を切断や化学研磨(エッチング等)、機械研磨等により除去することにより、一方のキャリアと他方のキャリアを分離することができる。
【0147】
また、このように構成した積層体に樹脂層と回路との2層を、少なくとも1回設ける工程、及び、前記樹脂層及び回路の2層を少なくとも1回形成した後に、前記積層体のキャリア付銅箔から前記極薄銅層又はキャリアを剥離させる工程を実施することでプリント配線板を作製することができる。なお、当該積層体の一方または両方の表面に、樹脂層と回路との2層を設けてもよい。
【実施例】
【0148】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。
【0149】
1.キャリア付銅箔の製造
銅箔キャリアとして、厚さ35μmの長尺の電解銅箔(JX日鉱日石金属社製JTC)及び厚さ33μmの圧延銅箔(JX日鉱日石金属社製C1100)を用意した。この銅箔の光沢面(シャイニー面)に対して、以下の条件でロール・トウ・ロール型の連続めっきラインで金属めっきとしてニッケル(Ni)めっきまたはコバルト(Co)めっきを行いその後、クロメート処理又は有機物による処理としてBTA処理を行うことにより中間層を形成した。なお、表1の「脱脂」、「酸洗」は、ニッケル(Ni)めっきの前処理として、それぞれ以下の条件により、キャリアのニッケルめっきまたはコバルトめっきされる側の表面に対して行ったことを示す。さらに、表1の「光沢剤」は以下のニッケル(Ni)めっき処理においてめっき液に光沢剤(一次光沢剤及び二次光沢剤)が含まれていることを示す。また、実施例1、3、5、9、11については、クロメート処理後に加熱処理を行った。このときの加熱温度(乾燥温度)を表1に示す。なお、キャリアの表面を脱脂、酸洗の順に処理した。当該脱脂条件及び酸洗条件を以下に示す。
〔脱脂〕
以下の脱脂処理液を用いて、以下の条件で電解脱脂を行った。
・脱脂処理液:水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度70g/L)
・電解脱脂:以下の条件で、陰極電解脱脂を行い、その後、陽極電解脱脂を行い、その後再度陰極電解脱脂を行った。
陰極(電解)脱脂(電流密度10A/dm2):20秒
陽極(電解)脱脂(電流密度5A/dm2):20秒
陰極(電解)脱脂(電流密度10A/dm2):20秒
〔酸洗〕
・酸洗処理液:硫酸水溶液(硫酸濃度:50mL/L)
浸漬時間:20秒
【0150】
〔ニッケル(Ni)めっき〕
・めっき液
ニッケル:20〜200g/L
ホウ酸:5〜60g/L
液温:40〜65℃
pH:1.5〜5.0
・電流密度:0.5〜20A/dm2
・通電時間:1〜20秒
・攪拌(液循環量):100〜1000L/分
・搬送速度:2〜30m/分
・添加剤:一次光沢剤(サッカリンナトリウム:0.5〜5g/L)、二次光沢剤(チオ尿素:0.05〜1g/L)
【0151】
〔コバルト(Co)めっき〕
・めっき液
コバルト:20〜200g/L
ホウ酸:5〜60g/L
液温:40〜65℃
pH:1.5〜5.0
・電流密度:0.5〜20A/dm2
・通電時間:1〜20秒
・攪拌(液循環量):100〜1000L/分
・搬送速度:2〜30m/分
・添加剤:一次光沢剤(サッカリンナトリウム:0.5〜5g/L)、二次光沢剤(チオ尿素:0.05〜1g/L)
【0152】
〔クロメート処理〕
・処理液
クロム:0.5〜6.0g/L
亜鉛:0.1〜2.0g/L
液温:25〜60℃
pH:2.5〜5.0
・電流密度:0.1〜4A/dm2
・通電時間:1〜30秒
【0153】
〔BTA処理〕
・BTA処理:ベンゾトリアゾールを用いた防錆処理
・処理液
ベンゾトリアゾール:0.1〜20g/L
pH:2〜5
液温:20〜40℃
浸漬時間:5〜30秒
【0154】
引き続き、ロール・トウ・ロール型の連続めっきライン上で、中間層の上に表1に記載の厚さの極薄銅層を以下の条件で電気めっきすることにより形成し、キャリア付銅箔を作製した。
・極薄銅層
銅濃度:90〜120g/L
2SO4濃度:20〜120g/L
電解液温度:20〜80℃
電流密度:10〜70A/dm2
めっき液線流速:1.0m/s
【0155】
これらの実施例、および比較例については、全て極薄銅層の表面に以下の粗化処理、防錆処理、クロメート処理、及び、シランカップリング処理をこの順に行った。
【0156】
・粗化処理
Cu:10〜20g/L
Co:5〜15g/L
Ni:5〜15g/L
pH:1〜4
温度:40〜50℃
電流密度Dk :40〜50A/dm2
時間:0.5秒〜2秒
Cu付着量:15〜40mg/dm2
Co付着量:100〜3000μg/dm2
Ni付着量:100〜1000μg/dm2
【0157】
・防錆処理
Zn:0〜20g/L
Ni:0〜5g/L
pH:3.5
温度:40℃
電流密度Dk :0〜1.7A/dm2
時間:1秒
Zn付着量:5〜250μg/dm2
Ni付着量:5〜300μg/dm2
・防錆処理
Zn:10g/L
Ni:35g/L
pH:3.5
温度:40℃
電流密度Dk :0.5A/dm2
時間:46秒
Zn付着量:150〜1500μg/dm2
Ni付着量:300〜2600μg/dm2
【0158】
・クロメート処理
処理液組成:
2Cr27
(Na2Cr27或いはCrO3):2〜10g/L
NaOH或いはKOH:10〜50g/L
ZnO或いはZnSO47H2O:0.05〜10g/L
pH:7〜13
浴温:20〜80℃
電流密度:0.05〜5A/dm2
時間:5〜30秒
Cr付着量:10〜150μg/dm2
【0159】
・シランカップリング処理
ビニルトリエトキシシラン水溶液
(ビニルトリエトキシシラン濃度:0.1〜1.4wt%)
pH:4〜5
時間:5〜30秒
【0160】
2.キャリア付銅箔の評価
上述のようにして作製した実施例及び比較例の各サンプルについて、各種評価を下記の通り行った。
【0161】
・中間層の金属付着量
ニッケル付着量およびコバルト付着量はサンプルを濃度20質量%の硝酸で溶解してSII社製のICP発光分光分析装置(型式:SPS3100)を用いてICP発光分析によって測定し、亜鉛、クロム付着量はサンプルを濃度7質量%の塩酸にて溶解して、VARIAN社製の原子吸光分光光度計(型式:AA240FS)を用いて原子吸光法により定量分析を行うことで測定した。なお、前記ニッケル、コバルト、亜鉛、クロム付着量の測定は以下のようにして行った。まず、キャリア付銅箔から極薄銅層を剥離した後、極薄銅層の中間層側の表面付近のみを溶解して(極薄銅層の厚みが1.4μm以上である場合には極薄銅層の中間層側の表面から0.5μm厚みのみ溶解する、極薄銅層の厚みが1.4μm未満の場合には極薄銅層の中間層側の表面から極薄銅層厚みの20%のみ溶解する。)、極薄銅層の中間層側の表面の付着量を測定する。また、極薄銅層を剥離した後に、キャリアの中間層側の表面付近のみを溶解して(表面から0.5μm厚みのみ溶解する)、キャリアの中間層側の表面の付着量を測定する。そして、極薄銅層の中間層側の表面の付着量とキャリアの中間層側の表面の付着量とを合計した値を、中間層の金属付着量とした。
【0162】
・エッチング性
キャリア付銅箔をBT樹脂基板、またはFR−4基板に貼り付けて220℃で2時間加熱圧着し、その後、220℃で4時間の熱処理を行った。続いて、極薄銅層を銅箔キャリアから剥がした。続いて、基板上の極薄銅層表面に、感光性レジストを塗布した後、露光、現像工程により50本のL/S=10μm/10μm幅のレジストパターンを形成し、銅層の不要部分を除去するエッチング処理を以下のスプレーエッチング条件にて行った。
(スプレーエッチング条件)
エッチング液:塩化第二鉄水溶液(ボーメ度:40度)
液温:60℃
スプレー圧:2.0MPa
エッチングを続け、回路トップ幅が4μmになるまでの時間を測定し、さらにそのときの回路ボトム幅(底辺Xの長さ)及びエッチングファクターを評価した。エッチングファクターは、末広がりにエッチングされた場合(ダレが発生した場合)、回路が垂直にエッチングされたと仮定した場合の、銅箔上面からの垂線と樹脂基板との交点からのダレの長さの距離をaとした場合において、このaと銅箔の厚さbとの比:b/aを示すものであり、この数値が大きいほど、傾斜角は大きくなり、エッチング残渣が残らず、ダレが小さくなることを意味する。図5に、回路パターンの幅方向の横断面の模式図と、該模式図を用いたエッチングファクターの計算方法の概略とを示す。このaは回路上方からのSEM観察により測定し、エッチングファクター(EF=b/a)を算出した。なお、b=(X(μm)−4(μm))/2で計算した。このエッチングファクターを用いることにより、エッチング性の良否を簡単に判定できる。本発明では、エッチングファクターが2.5以上をエッチング性が良好であるとし、2.5未満或いは算出不可(底辺部分において隣接する回路間がショートする場合を含む)をエッチング異常と判定し、1dm2あたりのエッチング異常数を評価した。
【0163】
・銅以外の元素による被覆率
キャリア付銅箔について、キャリア/極薄銅層間で剥離し、キャリア側を硫化アンモニウム水溶液に浸漬した。硫化アンモニウムはCuを黒く変色させる性質があり、銅キャリア基材の、NiめっきやCoめっきなどの銅以外の金属による金属めっき、あるいは、クロメート処理層、有機物層等の層で覆われていない部分のみが黒く変色する。
・硫化アンモニウム水溶液
硫化アンモニウム:5〜20vol%
液温:20〜30℃
浸漬時間:30秒〜2分
その後、キャリア剥離層側をスキャナーに取り込み、その画像を「2階調化」で白黒に加工した。画像の白と黒の「しきい値」を70(白:0、黒:255)に設定し、白い部分の面積率を銅以外の元素による被覆率と定義した。
【0164】
・水分発生量(キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量)
アルゴンガスで置換したグローブボックス内で、キャリア付き銅箔をφ9〜20mmの大きさに切り抜き、キャリア付銅箔のキャリアから極薄銅層を剥離した。剥離後、キャリアと極薄銅層とを、同時に電子科学株式会社製昇温脱離ガス分析装置(TDS1200)のチャンバー内に導入した。このときのチャンバー内の真空度は2.0×10-7Pa以下であり、チャンバー内温度は30〜60℃である。続いて、500℃まで30℃/分の速度で昇温し、そのときに発生する水分量A(質量(g))を測定した。水分量は、キャリア付銅箔1g当たりの水分発生量(質量(g))(ppm)として以下の式を用いて算出した。
水分発生量(キャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量)(ppm/g)=水分発生量A(質量(g))/測定したキャリア付銅箔のサンプルの質量(g)×106
【0165】
・フクレの個数
キャリア付銅箔を220℃の大気加熱炉内で4時間加熱した。加熱後、光学顕微鏡で1dm2あたりのフクレの個数を目視でカウントした。また、キャリア付銅箔を400℃の大気加熱炉内で10分間加熱した。加熱後、光学顕微鏡で1dm2あたりのフクレの個数を目視でカウントした。
上記の試験条件及び試験結果を表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
(評価結果)
実施例1〜12は、いずれもキャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/g以下であり、フクレの発生及びエッチング発生率が良好に抑制された。
また、 実施例1〜12は、いずれも、キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2以下であり、水分の発生及びエッチング発生率が良好に抑制された。
比較例1〜3は、いずれもキャリア付銅箔を500℃まで30℃/分で加熱したときに発生する水分量が160ppm/gを超えており、フクレの発生が多く、エッチング発生率が不良であった。
また、比較例1〜3は、いずれも、キャリア付銅箔を220℃で4時間加熱したときに発生するフクレが20個/dm2を超えており、水分の発生が多く、エッチング発生率が不良であった。
図1
図2
図3
図4
図5