(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーザプリンタ、複写機等の画像形成装置には電子写真感光体が備えられている。電子写真感光体は、紙等の記録媒体に文字や図形等、表されるべき内容を転写するための部材である。このような電子写真感光体は、アルミニウム等により形成された導電性の円筒形シリンダ状である基体の外周面に感光層が被覆されて構成されている。被覆される感光層は当該電子写真感光体が適用される装置により適宜選択される。
【0003】
電子写真感光体の円筒状である両端には、電子写真感光体を画像形成装置内に保持するとともに、電子写真感光体を円筒軸を中心に回転させることを可能とするフランジが装着される。従って電子写真感光体は、その両端にフランジが装着された感光体ユニットととして画像形成装置内に配置されている。
【0004】
電子写真感光体へのフランジの装着は、円筒状である電子写真感光体の内側にフランジの一部を差し込むことにより行われる。このとき、電子写真感光体の内面には、フランジを挿入して嵌合するための部位として嵌合部が予め設けられている。嵌合部は、電子写真感光体の内面のうちの端部を、内径を拡大するように削り、電子写真感光体の当初からの内面を切り欠いて段差をつけるように加工することにより形成される。そして当該加工した部位(嵌合部)にフランジを差し込む。
【0005】
ここで、フランジは上記したように電子写真感光体に回転力を与える機能を有しており、電子写真感光体の回転精度に大きな影響を与える。また、電子写真感光体の回転は、画像形成装置の性質上、非常に高い精度が要求されており、いわゆる「振れ」で20μm〜100μm以内におさめることが要求される。特に電子写真感光体の外径が大きいほど回転精度を高めることが困難である。従って、電子写真感光体にフランジが精度よく装着されることは非常に重要である。
【0006】
特許文献1には、円筒状導電性基体の端部領域の内径を、その端部へ向けて末広がり状に大きくする工程を含む電子写真感光体の製造方法が開示されている。これによれば、回転精度などが高められて優れた画像品質の電子写真画像が得られる感光体となるとされている。
また、特許文献1では
図3(b)が示され、基体の端部の内径が狭くなることによりフランジが装着できなくなったり、真円度が悪くなるなどの不具合がある旨を挙げ、このような形態は不具合があるものとして記載している(第0050段落)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のように電子写真感光体の端部を加工してここにフランジを挿入しても、電子写真感光体の回転精度が十分でない場合があった。その原因は必ずしも明確ではないが、電子写真感光体の端部の切り込みが上記のように端部に向けて末広がり状に大きくなっていると、挿入自体は容易になるが、挿入後において電子写真感光体とフランジとの位置関係が適切に保持されないことが考えられる。例えばフランジと電子写真感光体との間の一部に隙間等が認められ、フランジが傾いて嵌合されていることがあった。このような隙間はたとえ微小であっても要求される回転精度が非常に高いので、当該精度に影響をおよぼすことがあり、改善する必要があった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、高い回転精度を得ることができる電子写真感光体を提供することを課題とする。また、当該電子写真感光体の端部にフランジが装着された感光体ユニットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は、下記構成により解決される。なおここではわかりやすさのため図面の参照符号を括弧書きで付記するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
請求項1に記載の発明は、円筒形の基体と、基体の外周面に積層された感光層と、を備え、基体には、該基体の円筒状の内面端部に設けられ、切り欠くように内径が拡大された部位である嵌合部(11a)を
基体の両端に有し、嵌合部は、嵌合部全体を通して基体の端面から円筒軸方向の中央に向けて内径が大きくなるような傾斜が設けられ、基体の外径は一定である、電子写真感光体(11)である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子写真感光体(11)において、基体の端面における内径は、基体の嵌合部でない部位の内径と同じである
。
【0013】
請求項3に記載の発明は、円筒形の基体と、基体の外周面に積層された感光層と、基体の端部に配置されるフランジ(12)と、を備え、基体には、該基体の円筒状の内面端部に設けられ、切り欠くように内径が拡大された部位である嵌合部(11a)を
基体の両端に有し、嵌合部は、基体の端面から円筒軸方向の中央に向けて内径が大きくなるような傾斜が設けられた部位を含み、基体の外径は一定であり、フランジは嵌合部に傾斜が設けられた部位と重なるように挿入されて基体に配置される、感光体ユニット(10)である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、振れが抑制され、高い回転精度を得ることができる。そしてこれにより画像形成装置に配置したときには、高い精度の画像が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。なお、説明に用いる図面ではわかりやすさのため各部形状を誇張して表している。
【0017】
図1は1つの実施形態を説明する図で、感光体ユニット10を含む画像形成装置の内部構造を概念的に表した図である。画像形成装置としては、例えばレーザプリンタ、複写機、ファクシミリ等を挙げることができる。
【0018】
画像形成装置は、感光体ユニット10(
図2参照)、帯電ローラ1、現像ローラ2、規制部材3、転写手段4、及びクリーニングブレード5を有している。紙等の媒体が
図1にIで示した線に沿って移動することにより、当該媒体に画像が形成される。以下に各構成について説明する。
【0019】
感光体ユニット10には、その外周面に、紙等の記録媒体に転写すべき文字や図形等が形成される。
図2には、感光体ユニット10の斜視図を示した。また、
図3には、
図2にIII−IIIで示した線に沿った断面図を示し、
図4には
図3の一方の端部に注目して分解した図を示した。
【0020】
図2〜
図4からわかるように感光体ユニット10は、電子写真感光体11、及びフランジ12を備えている。
【0021】
電子写真感光体11は、円筒形である基体の外周面に感光層を被覆した部材である。基体はアルミニウム等の導電性材料が円筒形に形成されたものである。基体の外周面に形成される感光層は特に限定されることはなく、その目的に応じて公知のものを適用することができる。
【0022】
図3、
図4からわかるように、電子写真感光体11には、基体の円筒状である内面のうち、その両端には内径が拡大されるように切り欠きが形成された嵌合部11aが設けられている。嵌合部11aは電子写真感光体11の基体の端面から基体の軸方向中央に向けて内径が大きくなるように傾斜したテーパ状となる部位を含んでいる。従って当該傾斜した部位において、
図4に示したように、基体の端面における内径をD
1、該端面より基体の軸方向中央側に位置する部位の内径をD
2としたとき、D
1<D
2となる。ここで、基体のうち嵌合部でない部位の内径をD
3としたとき、D
1≧D
3である。
【0023】
また、嵌合部11aの軸方向の長さをL
1としたとき(
図4参照)、フランジ12が嵌合される部位の端部(
図3、
図4にIIで示した部位)より基体の軸方向中央側のL
1>L
2となる位置L
2における基体の内径をD
4としたとき、D
4−D
1としては、製品としての機能上の理由から、上限は、通常1mm以下、好ましくは0.1mm以下、更に好ましくは0.03mm以下である。一方、振れ抑制の観点から、D
4−D
1の下限は、通常0mmより大きく、好ましくは0.0005mm以上、更に好ましくは0.005mm以上である。また、テーパー角度(傾斜角度、基体の軸線方向に対する傾斜角のうち小さい方の角度、
図4のθ)としては、振れ抑制の観点から、下限は、通常0°より大きく、好ましくは0.010°以上、更に好ましくは、0.140°以上である。製品としての機能上の理由から、テーパ角度の上限は、通常30.00°以下、好ましくは10.00°以下、更に好ましくは、7.130°以下である。
【0024】
ここで、
図3、
図4では誇張して表しているのでD
1、D
2、D
4の差も大きく表されているが、実際にはこれらの差は上記のように非常に小さいものである。
【0025】
また、
図4にL
1で示した嵌合部11aの軸方向長さは、フランジ12を適切に取り付けることができればよい。従って、L
1は後述するフランジ側嵌合部12aの軸方向長さよりも大きければよい。
【0026】
一方、電子写真感光体11の基体の外径は、上記基体内側における嵌合部11aの切欠きにかかわらず一定であることが好ましい。
【0027】
基体は、切削加工、押し出し加工、引き抜き加工等により円筒を形成し、円筒の内側端部を切削加工により削り出すことで嵌合部11aを形成することにより製造できる。そして基体の外周面に感光層を塗布する等して積層して電子写真感光体11を作製することが可能である。
【0028】
フランジ12は、樹脂やアルミニウム等の金属により形成された略円盤状の部材で、電子写真感光体11の上記嵌合部11aに嵌合される部材である。フランジ12は、フランジ側嵌合部12aと、軸12cが形成された軸部12bとを有している。
【0029】
フランジ側嵌合部12aは上記したように、電子写真感光体11の嵌合部11aに挿入される部位である。ただし、当該フランジ側嵌合部12aが電子写真感光体11の嵌合部11aに嵌合されることにより、フランジ12が電子写真感光体11の端部に保持されるので、その装着に際しては負荷をかけた押し込みによりおこなわれることが好ましい。従って、
図4にD
0で示したフランジ側嵌合部12aの外径は、電子写真感光体11の嵌合部11aのうち、端面の内径であるD
1と同じ又はD
1より大きいことが好ましい。すなわち、D
0≧D
1が好ましい。
【0030】
軸部12bは、基体の内径より大きく形成され、基体の端部に引っ掛かるように配置されるとともに、軸12cが具備されている部位である。軸12cが画像形成装置の回転軸に連結され、回転駆動力を受けてフランジ12及び該フランジ12が嵌合されている電子写真感光体11が回転する。
【0031】
上記した電子写真感光体11の嵌合部11aにフランジ12のフランジ側嵌合部12aを嵌入するようにして嵌合することにより感光体ユニット10が作製される。
本発明では上記したように嵌合部11aの切り欠きが基体の軸方向端部から中央に向けて内径が拡大されるように形成されおり、ここにフランジが嵌合されていることで、電子写真感光体とフランジとの間に隙間ができる等の不具合が生じなくなった。そしてこれによって振れを減少させることができ、高い回転精度を有する電子写真感光体、感光体ユニットとすることができた。
特にその性質上、外径が大きく、軸方向に長い電子写真感光体になるほど回転精度を高めることが困難となるが、本発明によれば、このような電子写真感光体の回転精度も向上させることができ、顕著な効果を奏する。
【0032】
本実施形態では、
図4に表れているように嵌合部11aの軸方向の全長に亘って切り欠きが傾斜するように形成されている。しかしがなら、これに限定されることはなく、嵌合部のうち端面から一定の区間で内径が拡大するような傾斜した切り欠きを有していればよい。例を
図5に示した。
図5は
図4と同じ視点で電子写真感光体11’を見た図である。電子写真感光体11’の嵌合部11’aは、電子写真感光体11’の端面から軸方向中央に向けて一定の区間で内径が拡大するような傾斜を有しているが、それより軸方向中央側では一定の内径とされている。本発明はこのような電子写真感光体であってもよい。
【0033】
図1に戻って、画像形成装置の構造について説明を続ける。画像形成装置には、上記のように感光体ユニット10の他、帯電ローラ1、現像ローラ2、規制部材3、転写手段4、及びクリーニングブレード5があり、それぞれは次のようなものである。
【0034】
帯電ローラ1は、画像形成装置からの電圧印加により電子写真感光体11を帯電させる。これは、当該帯電ローラ1が電子写真感光体11に追随して回転し、電子写真感光体11の外周面に接触することにより行われる。
現像ローラ2は、電子写真感光体11に現像剤を供給するローラである。そして、当該現像ローラ2により、電子写真感光体11に形成された静電潜像が現像される。なお現像ローラ2には、固定磁石が内蔵されている。
規制部材3は、上記した現像ローラ2の外周面に付着する現像剤の量を調整するとともに、現像剤自体に摩擦帯電電荷を付与する部材である。
転写手段4は、電子写真感光体11に形成された像を紙等の記録媒体に転写するためのローラである。
クリーニングブレード5は、電子写真感光体11の外周面に接触してその先端により転写後に残存した現像剤を除去するブレードである。
【0035】
ここでは、画像形成装置に備えられる主要なローラ及びブレードについて説明したが、ここに具備される部材はこれに限定されるものではなく、その他画像形成装置に通常に備えられる部材、部位、及び現像剤等が具備されていることが好ましい。
【0036】
次に画像形成装置の動作について説明する。画像形成装置を作動させる際には、上記した感光体ユニット10の軸12cを画像形成装置に設けられた回転軸に連結し、必要に応じて回転させる。上記した帯電ローラ1、現像ローラ2、転写手段4等も必要に応じて回転するように装着されている。これにより感光体ユニット10が回転し、電子写真感光体11が帯電ローラ1により帯電される。
【0037】
感光体ユニット10が回転している状態で、各種光学部材を用いて画像情報に対応したレーザ光を電子写真感光体11に照射し、当該画像情報に基づいた静電潜像を得る。この潜像は現像ローラ2により現像される。
【0038】
一方、紙等の記録媒体は、画像形成装置の他の部位にセットされ、該画像形成装置に設けられた送り出しローラ、搬送ローラ等により転写位置に搬送され、
図1の線Iに沿って移動する。転写位置には転写手段4が配置されており、記録媒体の通過に伴い転写手段4に電圧が印加されて電子写真感光体11から記録媒体に像が転写される。その後、記録媒体に熱及び圧力が加えられることにより当該像が記録媒体に定着する。そして排出ロール等により画像形成装置本体から像が形成された記録媒体が排出される。
【0039】
画像形成装置の動作からも、電子写真感光体11の回転精度が形成される画像に大きな影響を及ぼすことがわかる。本発明によれば、上記したように電子写真感光体の回転精度を向上させることができ、形成される画像の質も向上する。
【実施例】
【0040】
以下実施例で本発明をさらに説明する。ただし本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例では、電子写真感光体の内面端部に切り込みを形成した試験体を製作し、フランジを嵌合して振れの試験をおこなった。試験体としては、本発明の実施例である実施例1、従来の例である比較例1、比較例2の3種類を準備した。なお、本実施例では感光層は影響しないことから基体のみによる試験とした。
【0042】
<共通の条件>
3種類の試験体に共通する仕様は次の通りである。
基体の材質:アルミニウム
フランジの材質:アルミニウム
【0043】
<実施例1の条件>
実施例1における嵌合部の形状を
図6に示した。実施例1では基体の端面から軸方向中央に向けて内径が拡大するような切り欠きを具備している。具体的には次の通りである。
・嵌合部の軸方向長さL
a1:12mm
・最端部から10mm地点における最端部との内径差D
b−D
a:0.015mm
・テーパー角α:0.09°
・試験体数:174本
【0044】
<比較例1の条件>
比較例1における嵌合部の図示は省略するが、次のような形態である。すなわち、比較例1では基体の端面から軸方向中央に向けて内径が一定である切り欠きを具備している。具体的には次の通りである。
・嵌合部の軸方向長さL
a2:12mm
・最端部から5mm地点における最端部との内径差:0.00mm
・テーパー角:0.00°
・試験体数:308本
【0045】
<比較例2の条件>
比較例2における嵌合部の図示は省略するが、次のような形態である。すなわち、比較例2では基体の端面から軸方向中央に向けて内径が縮小する切り欠きを具備している。具体的には次の通りである。
・嵌合部の軸方向長さL
a2:12mm
・最端部から10mm地点における最端部との内径差:−0.015mm
・テーパー角:0.09°
・試験体数:692本
【0046】
<振れ試験>
振れ試験は、上記実施例1、比較例2、比較例3にかかる試験体を軸を中心に回転させ、これをデジタル寸法測定器を用いて寸法測定することにより行った。
【0047】
<評価>
上記した実施例1、比較例1、比較例2の全数について振れ試験をおこなった。ここで振れが20μm以上となったものを不具合品、振れが20μmより小さいものを良品とした。表1に結果を示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1からもわかるように、実施例1、すなわち基体の嵌合部の切り欠きを端部から軸方向中央に向けて内径が拡大するように設け、ここにフランジを嵌合させることで振れ(回転精度)が向上した。