(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基材が帯状に連続した基材原反を連続的に搬送しながら、前記基材原反の少なくとも片方の表面上に、連続的に前記薄膜層を形成する工程を有する請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
前記薄膜層を形成する工程が、前記基材原反が巻き掛けられる第1成膜ロールと、前記第1成膜ロールに対向し、前記基材原反が巻き掛けられる第2成膜ロールと、の間に交流電圧を印加することで、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間の空間において生じる、前記薄膜層の形成材料である成膜ガスの放電プラズマを用いたプラズマCVDを用いるものである請求項3に記載の積層体の製造方法。
前記放電プラズマが、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとの間に交流電界を形成するとともに、前記第1成膜ロールと前記第2成膜ロールとが対向する空間に膨らんだ無終端のトンネル状の磁場を形成することにより、前記トンネル状の磁場に沿って形成される第1の放電プラズマと、前記トンネル状の磁場の周囲に形成される第2の放電プラズマと、を有し、
前記薄膜層を形成する工程は、前記第1の放電プラズマと前記第2の放電プラズマとに重なるように前記基材原反を搬送することで行う請求項4に記載の積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、
図1〜4を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る積層体の製造方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0020】
[積層体]
図1は、本実施形態の積層体の製造方法において製造される積層体の一例について示す模式図である。積層体1は、積層フィルム2と、積層フィルム2の一面側に形成された接着層6と、を有している。
【0021】
(積層フィルム)
本実施形態の積層体1において、積層フィルム2は、基材3と、基材3と接着層6との間に挟まれて形成された薄膜層4と、基材3の薄膜層4が設けられた面とは反対側の面に設けられたカール抑制層5と、を有している。
【0022】
(基材)
基材3の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル樹脂;アセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルサルファイド(PES)が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。透明性、耐熱性、線膨張性等の必要な特性に合わせて、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選ばれることが好ましく、PET、PEN、環状ポリオレフィンがより好ましい。また、樹脂を含む複合材料としては、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサンなどのシリコーン樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性が高く、線膨張率が小さいという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板が好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本実施形態の積層体1においては、基材3の形成材料としてPENを用いる。
【0023】
基材3の厚みは、積層フィルムを製造する際の安定性等を考慮して適宜設定されるが、真空中においても基材3の搬送が容易であることから、5μm〜500μmであることが好ましい。さらに、本実施形態の製造方法で用いる積層フィルムでは、薄膜層4の形成時に、後述するように基材3を通して放電を行うことから、基材3の厚みは50μm〜200μmであることがより好ましく、50μm〜100μmであることが特に好ましい。
【0024】
なお、基材3は、形成する薄膜層4との密着性の観点から、その表面を清浄するための表面活性処理を施してもよい。このような表面活性処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理が挙げられる。
【0025】
(薄膜層)
薄膜層4は、基材3の表面に設けられ、ガスバリア性を担保している。薄膜層4は、複数の層が積層してなるものであり、少なくとも1層がケイ素、酸素および水素を含んでいる。
【0026】
図2は、薄膜層4を示す模式図である。図に示す薄膜層4は、後述する成膜ガスの完全酸化反応によって形成されるSiO
2を多く含む第1層4a、不完全酸化反応によって生じるSiO
xC
yを多く含む第2層4bを含み、第1層4aと第2層4bとが交互に積層された3層構造となっている。また、薄膜層4を構成する層のうちの少なくとも1層は窒素、アルミニウム、チタンを更に含有していてもよい。
【0027】
ただし、図は膜組成に分布があることを模式的に示したものであり、実際には第1層4aと第2層4bとの間は明確に界面が生じているものではなく、組成が連続的に変化している。図では、薄膜層4が3層構造であることとして示しているが、更に複数層が積層していることとしてもよい。薄膜層4が3層より多くの層で構成されている場合、積層方向の両端には第1層4aが形成され、第2層4bは、隣り合う第1層4aに挟持される構成となる。
【0028】
(カール抑制層)
カール抑制層5は、積層フィルム2全体のカール(反り)を抑制するために設けられる。カール抑制層5の形成材料としては、上述の薄膜層4と同じものを採用することができる。また、カール抑制層5の厚みについても、上述の薄膜層4と同じであるとすることができる。
薄膜層4とカール抑制層5とは、同じ形成材料、同じ層構造、同じ厚みとすることが好ましい。
なお、カール抑制層5は形成しないこととしてもよい。
【0029】
(接着層)
接着層6は、積層体1を他の部材に接着させる機能を有している。接着層6の形成材料としては、通常知られたものを用いることができ、例えば、熱硬化性樹脂組成物や光硬化性樹脂組成物を用いることができる。
【0030】
接着層6は、構成する樹脂組成物に重合性官能基が残存しており、積層体1を他の部材に密着させた後に接着層6を構成する樹脂組成物を更に重合させることにより、強固な接着を実現する構成としてもよい。
【0031】
また、接着層6は、熱硬化性樹脂組成物や光硬化性樹脂組成物を材料として用い、事後的にエネルギーを供給することで樹脂を高分子化し硬化させる構成としてもよく、感圧型接着剤(Pressure Sensitive Adhesive、PSA)と呼ばれる、押圧により対象物に貼着される構成としてもよい。
【0032】
感圧型接着剤としては、「常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着材に接着する物質」(JIS K6800)である粘着剤を用いてもよく、「特定成分を保護被膜(マイクロカプセル)に内容し、適当な手段(圧力、熱など)によって被膜を破壊するまでは安定性を保持できる接着剤」(JIS K6800)であるカプセル型接着剤を用いてもよい。
【0033】
接着層6の厚みとしては、100μm以下とすることができる。また、接着層6の厚みが10μm未満となると、耐衝撃性の低下や、皺が発生しやすくなることが想定されるため、10μm以上であると好ましい。
【0034】
接着層6は、図に示すように1層で構成されていてもよく、いわゆる両面テープのように基材となるフィルムの両面に接着層が設けられることにより、両面で接着可能な積層構造を有することとしてもよい。
【0035】
積層体1の含水率は、積層体1により封止する対象物への影響を抑制するため、0.1質量%以下であることが好ましい。積層体1の含水率は、例えば、積層体1を減圧乾燥、加熱乾燥または減圧加熱乾燥することにより低減することができる。
【0036】
積層体1の含水率は、積層体1から約0.1gの試験片を作製して精秤し、試験片をカールフィッシャー水分計にて150℃に加熱して、生じる水分量を測定することで求めることができる。
本実施形態の製造方法で製造する積層体1は、以上のような構成となっている。
【0037】
[積層体の製造方法]
図3,4は、本実施形態の積層体の製造方法を示す説明図である。本実施形態の積層体の製造方法は、基材に薄膜層を形成する工程と、形成された積層フィルムに接着層を形成する工程とを有している。以下の説明においては、
図1に示したカール抑制層5を設けないものとして説明する。
【0038】
(薄膜層を形成する工程)
図3は、薄膜層を形成する工程を示す説明図であり、薄膜層を形成する工程を実施する成膜装置10の模式図である。
【0039】
図に示す成膜装置10は、巻出しロール11、巻取りロール12、搬送ロール13〜16、成膜ロール17、18、ガス供給管19、プラズマ発生用電源20、電極21、22、成膜ロール17の内部に設置された磁場形成装置23、及び成膜ロール18の内部に設置された磁場形成装置24を備えている。成膜装置10の構成要素のうちで少なくとも成膜ロール17、18、ガス供給管19、及び磁場形成装置23、24は、積層フィルムを製造するときに、図示略の真空チャンバー内に配置される。この真空チャンバーは、図示略の真空ポンプに接続される。真空チャンバーの内部の圧力は、真空ポンプの動作により調整される。
【0040】
この装置を用いると、プラズマ発生用電源20を制御することにより、成膜ロール17と成膜ロール18との間の空間に、ガス供給管19から供給される成膜ガスの放電プラズマを発生させることができ、発生する放電プラズマを用いてプラズマCVD成膜を行うことができる。
【0041】
巻出しロール11には、成膜前の基材原反3Aが巻き取られた状態で設置され、基材原反3Aを長手方向に巻き出しながら供給する。また、基材原反3Aの端部側には巻取りロール12が設けられ、成膜が行われた後の基材原反3Aを牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0042】
基材原反3Aは、帯状を呈し、長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断されることで上述の
図1の基材3となる。基材原反3Aの形成材料としては、上述した基材3の形成材料と同様のものを採用することができる。本実施形態の積層体の製造方法においては、基材原反3Aの形成材料としてPENを用いる。
【0043】
成膜ロール17と成膜ロール18とは、平行に延在して対向配置されている。両ロールは導電性材料で形成され、それぞれ回転しながら基材原反3Aを搬送する。また、成膜ロール17と成膜ロール18とは、相互に絶縁されていると共に、共通するプラズマ発生用電源20に接続されている。プラズマ発生用電源20から印加すると、成膜ロール17と成膜ロール18との間の空間SPに電場が形成される。
【0044】
さらに、成膜ロール17と成膜ロール18は、内部に磁場形成装置23,24が格納されている。磁場形成装置23,24は、空間SPに磁場を形成する部材であり、成膜ロール17および成膜ロール18と共には回転しないようにして格納されている。
【0045】
磁場形成装置23,24は、成膜ロール17、成膜ロール18の延在方向と同方向に延在する中心磁石23a,24aと、中心磁石23a,24aの周囲を囲みながら成膜ロール17、成膜ロール18の延在方向と同方向に延在して配置される円環状の外部磁石23b,24bと、を有している。磁場形成装置23では、中心磁石23aと外部磁石23bとを結ぶ磁力線(磁界)が、無終端のトンネルを形成している。磁場形成装置24においても同様に、中心磁石24aと外部磁石24bとを結ぶ磁力線が、無終端のトンネルを形成している。
【0046】
この磁力線と、成膜ロール17と成膜ロール18との間に形成される電界と、が交叉するマグネトロン放電によって、成膜ガスの放電プラズマが生成される。成膜ガスの放電プラズマを生じさせる。すなわち、詳しくは後述するように、空間SPは、プラズマCVD成膜を行う成膜空間として用いられ、基材原反3Aにおいて成膜ロール17、18に接しない面(成膜面)には、成膜ガスを形成材料とする薄膜層が形成される。
【0047】
空間SPの近傍には、空間SPにプラズマCVDの原料ガスなどの成膜ガスを供給するガス供給管19が設けられている。ガス供給管19は、成膜ロール17及び成膜ロール18の延在方向と同一方向に延在する管状の形状を有しており、複数箇所に設けられた開口部から空間SPに成膜ガスを供給する。図では、ガス供給管19から空間SPに向けて成膜ガスを供給する様子を矢印で示している。
【0048】
原料ガスは、形成するバリア膜の材質に応じて適宜選択して使用することができる。原料ガスとしては、例えばケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性や得られるバリア膜のガスバリア性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、原料ガスとして、上述の有機ケイ素化合物の他にモノシランを含有させ、形成するバリア膜のケイ素源として使用することとしてもよい。
【0049】
成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
【0050】
成膜ガスとしては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、成膜ガスとしては、放電プラズマを発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
【0051】
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、空間SPの圧力が0.1Pa〜50Paであることが好ましい。気相反応を抑制する目的により、プラズマCVDを低圧プラズマCVD法とする場合、通常0.1Pa〜10Paである。また、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1kW〜10kWであることが好ましい。
【0052】
基材原反3Aの搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.1m/min〜100m/minであることが好ましく、0.5m/min〜20m/minであることがより好ましい。ライン速度が下限未満では、基材原反3Aに熱に起因する皺の発生しやすくなる傾向にあり、他方、ライン速度が上限を超えると、形成されるバリア膜の厚みが薄くなる傾向にある。
【0053】
以上のような成膜装置10においては、以下のようにして基材原反3Aに対し成膜が行われる。
【0054】
まず、成膜前に、基材原反3Aから発生するアウトガスが十分に少なくなるように事前の処理を行うとよい。基材原反3Aからのアウトガスの発生量は、基材原反3Aを製造装置に装着し、装置内(チャンバー内)を減圧したときの圧力を用いて判断することができる。例えば、製造装置のチャンバー内の圧力が、1×10
−3Pa以下であれば、基材原反3Aからのアウトガスの発生量が十分に少なくなっているものと判断することができる。
【0055】
基材原反3Aからのアウトガスの発生量を少なくする方法としては、真空乾燥、加熱乾燥、およびこれらの組み合わせによる乾燥、ならびに自然乾燥による乾燥方法が挙げられる。いずれの乾燥方法であっても、ロール状に巻き取った基材原反3Aの内部の乾燥を促進するために、乾燥中にロールの巻き替え(巻出しおよび巻き取り)を繰り返し行い、基材原反3A全体を乾燥環境下に曝すことが好ましい。
【0056】
真空乾燥は、耐圧性の真空容器に基材原反3Aを入れ、真空ポンプのような減圧機を用いて真空容器内を排気して真空にすることにより行う。真空乾燥時の真空容器内の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましく、10Pa以下がさらに好ましい。真空容器内の排気は、減圧機を連続的に運転することで連続的に行うこととしてもよく、内圧が一定以上にならないように管理しながら、減圧機を断続的に運転することで断続的に行うこととしてもよい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0057】
加熱乾燥は、基材原反3Aを50℃以上の環境下に曝すことにより行う。加熱温度は、50℃以上200℃以下が好ましく、70℃以上150℃以下がさらに好ましい。200℃を超える温度では、基材原反3Aが変形するおそれがある。また、基材原反3Aからオリゴマー成分が溶出し表面に析出することにより、欠陥が生じるおそれがある。乾燥時間は、加熱温度や用いる加熱手段により適宜選択することができる。
【0058】
加熱手段としては、常圧下で基材原反3Aを50℃以上200℃以下に加熱できるものであれば、特に限られない。通常知られる装置の中では、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置や、加熱ドラムが好ましく用いられる。
【0059】
ここで、赤外線加熱装置とは、赤外線発生手段から赤外線を放射することにより対象物を加熱する装置である。
【0060】
マイクロ波加熱装置とは、マイクロ波発生手段からマイクロ波を照射することにより対象物を加熱する装置である。
【0061】
加熱ドラムとは、ドラム表面を加熱し、対象物をドラム表面に接触させることにより、接触部分から熱伝導により加熱する装置である。
【0062】
自然乾燥は、基材原反3Aを低湿度の雰囲気中に配置し、乾燥ガス(乾燥空気、乾燥窒素)を通風させることで低湿度の雰囲気を維持することにより行う。自然乾燥を行う際には、基材原反3Aを配置する低湿度環境にシリカゲルなどの乾燥剤を一緒に配置することが好ましい。乾燥時間は、少なくとも8時間以上であることが好ましく、1週間以上であることがより好ましく、1ヶ月以上であることがさらに好ましい。
【0063】
これらの乾燥は、基材原反3Aを製造装置に装着する前に別途行ってもよく、基材原反3Aを製造装置に装着した後に、製造装置内で行ってもよい。
基材原反3Aを製造装置に装着した後に乾燥させる方法としては、巻出しロールから基材原反3Aを巻き出し搬送しながら、チャンバー内を減圧することが挙げられる。また、通過させるロールがヒーターを備えるものとし、ロールを加熱することで該ロールを上述の加熱ドラムとして用いて加熱することとしてもよい。
【0064】
基材原反3Aからのアウトガスを少なくする別の方法として、予め基材原反3Aの表面に無機膜を成膜しておくことが挙げられる。無機膜の成膜方法としては、真空蒸着(加熱蒸着)、電子ビーム(Electron Beam、EB)蒸着、スパッタ、イオンプレーティングなどの物理的成膜方法が挙げられる。また、熱CVD、プラズマCVD、大気圧CVDなどの化学的堆積法により無機膜を成膜することとしてもよい。さらに、表面に無機膜を成膜した基材原反3Aを、上述の乾燥方法による乾燥処理を施すことにより、さらにアウトガスの影響を少なくしてもよい。
【0065】
次いで、不図示の真空チャンバー内を減圧環境とし、成膜ロール17,成膜ロール18に印加して空間SPに電界を生じさせる。
【0066】
この際、磁場形成装置23,24では上述した無終端のトンネル状の磁場を形成しているため、成膜ガスを導入することにより、該磁場と空間SPに放出される電子とによって、該トンネルに沿ったドーナツ状の成膜ガスの放電プラズマが形成される。この放電プラズマは、数Pa近傍の低圧力で発生可能であるため、真空チャンバー内の温度を室温近傍とすることが可能になる。
【0067】
一方、磁場形成装置23,24が形成する磁場に高密度で捉えられている電子の温度は高いので、当該電子と成膜ガスとの衝突により生じる放電プラズマが生じる。すなわち、空間SPに形成される磁場と電場により電子が空間SPに閉じ込められることにより、空間SPに高密度の放電プラズマが形成される。より詳しくは、無終端のトンネル状の磁場と重なる空間においては、高密度の(高強度の)放電プラズマが形成され、無終端のトンネル状の磁場とは重ならない空間においては低密度の(低強度の)放電プラズマが形成される。これら放電プラズマの強度は、連続的に変化するものである。
【0068】
放電プラズマが生じると、ラジカルやイオンを多く生成してプラズマ反応が進行し、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスとの反応が生じる。例えば、原料ガスである有機ケイ素化合物と、反応ガスである酸素とが反応し、有機ケイ素化合物の酸化反応が生じる。ここで、高強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが多いため反応が進行しやすく、主として有機ケイ素化合物の完全酸化反応を生じさせることができる。一方、低強度の放電プラズマが形成されている空間では、酸化反応に与えられるエネルギーが少ないため反応が進行しにくく、主として有機ケイ素化合物の不完全酸化反応を生じさせることができる。
【0069】
なお、本明細書において「有機ケイ素化合物の完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物と酸素との反応が進行し、有機ケイ素化合物が二酸化ケイ素(SiO
2)と水と二酸化炭素にまで酸化分解されることを指す。「有機ケイ素化合物の不完全酸化反応」とは、有機ケイ素化合物が完全酸化反応をせず、SiO
2ではなく構造中に炭素を含むSiO
xC
y(0<x<2,0<y<2)が生じる反応となることを指す。
【0070】
上述のように放電プラズマは、成膜ロール17,成膜ロール18の表面にドーナツ状に形成されるため、成膜ロール17、成膜ロール18の表面を搬送される基材原反3Aは、高強度の放電プラズマが形成されている空間と、低強度の放電プラズマが形成されている空間と、を交互に通過することとなる。そのため、成膜ロール17,成膜ロール18の表面を通過する基材原反3Aの表面には、完全酸化反応によって生じるSiO
2と不完全酸化反応によって生じるSiO
xC
yとが、交互に形成される。
【0071】
これらに加えて、高温の2次電子が磁場の作用で基材原反3Aに流れ込むのが防止され、よって、基材原反3Aの温度を低く抑えたままで高い電力の投入が可能となり、高速成膜が達成される。膜の堆積は、主に基材原反3Aの成膜面のみに起こり、成膜ロールは基材原反3Aに覆われて汚れにくいために、長時間の安定成膜ができる。
【0072】
このようにして形成される薄膜層4は、珪素、酸素及び炭素を含有する薄膜層4が、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子数比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子数比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子数比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii)の全てを満たしている。
【0073】
(i)まず、薄膜層4が、珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(1)で表される条件を満たしている。
(酸素の原子数比)>(珪素の原子数比)>(炭素の原子数比)・・・(1)
【0074】
薄膜層4における珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、(i)の条件を満たす場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が十分なものとなる。
【0075】
(ii)次に、このような薄膜層4は、炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有するものである。
【0076】
このような薄膜層4においては、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0077】
なお、本実施形態において極値とは、薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離に対する元素の原子数比の極大値又は極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、薄膜層4の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子数比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子数比の値よりも、該点から薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子数比(原子組成百分率)の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本実施形態において極小値とは、薄膜層4の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子数比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子数比の値よりも、該点から薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子数比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
【0078】
(iii)更に、このような薄膜層4は、炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上である。
【0079】
このような薄膜層4においては、炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
【0080】
本実施形態においては、薄膜層4の酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0081】
また、本実施形態においては、薄膜層4の酸素分布曲線における酸素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。絶対値が下限未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
【0082】
本実施形態においては、薄膜層4の珪素分布曲線における珪素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0083】
また、本実施形態においては、薄膜層4の膜厚方向における該層の表面からの距離と珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子数比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子数比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。絶対値が上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
【0084】
ここで、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子数比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層4の膜厚方向における薄膜層4の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層4の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar
+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO
2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
【0085】
また、本実施形態においては、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する薄膜層4を形成するという観点から、薄膜層4が膜面方向(薄膜層4の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、薄膜層4が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層4の膜面の任意の2箇所の測定箇所について酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0086】
さらに、本実施形態においては、炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。
本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子数比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される薄膜層4の膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子数比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
|dC/dx|≦ 0.01 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
【0087】
本実施形態の方法により製造されるガスバリア性積層フィルムは、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層4を少なくとも1層備えるが、そのような条件を満たす層を2層以上を備えていてもよい。さらに、このような薄膜層4を2層以上備える場合には、複数の薄膜層4の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、このような薄膜層4を2層以上備える場合には、このような薄膜層4は基材の一方の表面上に形成されていてもよく、基材の両方の表面上に形成されていてもよい。また、このような複数の薄膜層4としては、ガスバリア性を必ずしも有しない薄膜層4を含んでいてもよい。
【0088】
また、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(1)で表される条件を満たす場合には、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子数比率は、25at%以上45at%以下であることが好ましく、30at%以上40at%以下であることがより好ましい。また、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子数比率は、33at%以上67at%以下であることが好ましく、45at%以上67at%以下であることがより好ましい。さらに、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子数比率は、3at%以上33at%以下であることが好ましく、3at%以上25at%以下であることがより好ましい。
【0089】
さらに、珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、珪素の原子数比、酸素の原子数比及び炭素の原子数比が、該層の膜厚の90%以上の領域において式(2)で表される条件を満たす場合には、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子数比率は、25at%以上45at%以下であることが好ましく、30at%以上40at%以下であることがより好ましい。また、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子数比率は、1at%以上33at%以下であることが好ましく、10at%以上27at%以下であることがより好ましい。さらに、薄膜層4中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子数比率は、33at%以上66at%以下であることが好ましく、40at%以上57at%以下であることがより好ましい。
【0090】
また、薄膜層4の厚みは、5nm以上3000nm以下の範囲であることが好ましく、10nm以上2000nm以下の範囲であることより好ましく、100nm以上1000nm以下の範囲であることが特に好ましい。薄膜層4の厚みが下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0091】
また、本実施形態のガスバリア性積層フィルムが複数の薄膜層4を備える場合には、それらの薄膜層4の厚みの合計値は、通常10nm以上10000nm以下の範囲であり、10nm以上5000nm以下の範囲であることが好ましく、100nm以上3000nm以下の範囲であることより好ましく、200nm以上2000nm以下の範囲であることが特に好ましい。薄膜層4の厚みの合計値が下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
【0092】
このような薄膜層4を形成するには、成膜ガスに含まれる原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層4が得られなくなってしまう。
【0093】
以下、成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:(CH
3)
6Si
2O:)と反応ガスとしての酸素(O
2)を含有するものを用い、ケイ素−酸素系の薄膜層を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスの好適な比率等についてより詳細に説明する。
【0094】
原料ガスとしてのHMDSOと、反応ガスとしての酸素とを含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜層を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)に記載のような反応が起こり、二酸化ケイ素が製造される。
[化1]
(CH
3)
6Si
2O+12O
2→6CO
2+9H
2O+2SiO
2 …(1)
【0095】
このような反応においては、HMDSO1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、HMDSO1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層4を形成することができなくなってしまう。そのため、本実施形態の薄膜層4を形成する際には、上記(1)式の反応が完全に進行してしまわないように、HMDSO1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくする必要がある。
【0096】
なお、成膜装置10の真空チャンバー内の反応では、原料のHMDSOと反応ガスの酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のHMDSOのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のHMDSOのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。
【0097】
このような比でHMDSO及び酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったHMDSO中の炭素原子や水素原子が薄膜層4中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす薄膜層4を形成することが可能となって、得られるガスバリア性積層フィルムに優れたバリア性及び耐屈曲性を発揮させることが可能となる。
【0098】
なお、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子が薄膜層4中に過剰に取り込まれるため、この場合はバリア膜の透明性が低下する。このようなガスバリア性フィルムは有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のHMDSOのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、HMDSOのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
【0099】
このように、有機ケイ素化合物が完全酸化するか否かは、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの混合比の他に、成膜ロール17,成膜ロール18に印加する印加電圧によっても制御することができる。
【0100】
このような放電プラズマを用いたプラズマCVD法により、成膜ロール17,成膜ロール18に巻き掛けた基材原反3Aの表面に対して連続的に薄膜層4の形成を行うことができる。
【0101】
カール抑制層5を形成する場合、薄膜層4の形成後に、基材原反3Aの薄膜層4を形成した面とは反対側の面に対して成膜する。カール抑制層5は、薄膜層4を形成した条件と同条件にて成膜することで、薄膜層4と同じ組成、同じ層構造、同じ層厚とすることが可能である。もちろんカール抑制層5の形成条件を薄膜層4の形成条件と異ならせることで、カール抑制層5の組成、層構造、層厚を薄膜層4とは異ならせることとしても構わない。
【0102】
これにより、積層フィルムが帯状に連続した積層フィルム原反2Aを製造することができる。積層フィルム原反2Aは、長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断されることで積層フィルム2となる。
【0103】
(接着層を形成する工程)
図4は、接着層を形成する工程を示す説明図であり、接着層を形成する工程を実施する製造装置100の模式図である。
【0104】
図に示す製造装置100は、第1巻出しロール110、巻取りロール120、第2巻出しロール130、貼合ロール140、表面処理装置150を備えている。
【0105】
第1巻出しロール110には、薄膜層を外側に向けた状態で積層フィルム原反2Aが巻き取られた状態で設置され、積層フィルム原反2Aを長手方向に巻き出しながら供給する。
【0106】
巻取りロール120は、積層フィルム原反2Aの端部側に設けられ、接着層が形成された後の積層フィルム原反2A(後述する積層体原反1A)を牽引しながら巻き取り、ロール状に収容する。
【0107】
第2巻出しロール130には、帯状の接着フィルム8Aが巻き取られた状態で設置され、接着フィルム8Aを長手方向に巻き出しながら供給する。接着フィルム8Aは、帯状のセパレータフィルム7Aの一面に帯状に接着層6Aが設けられたものであり、接着層6Aを外側に向けた状態で第2巻出しロール130に巻き取られている。
【0108】
接着層6Aは、本発明における「接着層原反」に該当する。接着層6Aの形成材料としては、上述した接着層6の形成材料と同様のものを採用することができる。
【0109】
セパレータフィルム7Aは、接着層6Aの一面に剥離可能に貼着されている。接着フィルム8Aからセパレータフィルム7Aを剥離することで接着層6Aが露出し、接着可能となる。
【0110】
貼合ロール140は、一対のロール141およびロール142を有している。貼合ロール140では、一対のロールの間隙に対して同方向から積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとを侵入させ、一対のロール間に積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとを挟持して加圧することで、両者を貼合し積層体原反1Aを形成している。詳しくは、貼合ロール140では、積層フィルム原反2Aの薄膜層と、接着フィルム8Aの接着層6Aとを対向させた状態で両者を貼合し積層体原反1Aを形成する。積層体原反1Aは、長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断されることで、本実施形態の積層体の製造方法の目的物である積層体1となる。
【0111】
本実施形態の積層体の製造方法においては、積層フィルム原反2Aに対し長手方向に単位断面積当たり0.5N/mm
2以上50N/mm
2未満の張力を加えた状態で、積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとを貼合し、積層フィルム原反2Aの一方の面に接着層を形成する。製造装置100においては、第1巻出しロール110と貼合ロール140との間における積層フィルム原反2Aの張力が上記範囲となっている。
【0112】
積層フィルム原反2Aに上述の張力を加えておくことで、第1巻出しロール110においてロール状に巻き取っていた積層フィルム原反2Aが湾曲していたとしても、接着フィルム8Aと良好に貼合可能となり、外観不良が生じにくくなる。
【0113】
また、積層フィルム原反2Aに加える張力が0.5N/mm
2以上であると、積層体原反1Aに皺が形成されにくく、外観不良が生じにくい。また、積層フィルム原反2Aに加える張力が50N/mm
2未満であると、製造される積層体1に対して衝撃を加えた場合でも薄膜層が破損しにくく、ガスバリア性を維持しやすい。
【0114】
また、本実施形態の積層体の製造方法においては、接着フィルム8Aに対し長手方向に単位断面積当たり0.01N/mm
2以上5N/mm
2未満の張力を加えた状態で、積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとを貼合し、積層フィルム原反2Aの一方の面に接着層を形成することが好ましく、加える張力が単位断面積当たり0.1N/mm
2以上0.5N/mm
2未満であればより好ましい。製造装置100においては、第2巻出しロール130と貼合ロール140との間における接着フィルム8Aの張力が上記範囲となっている。
【0115】
接着フィルム8Aに加える張力が0.01N/mm
2以上であると、積層体原反1Aに皺が形成されにくく、外観不良が生じにくい。また、接着フィルム8Aに加える張力が5N/mm
2未満であると、接着フィルム8Aが延伸されて変形するおそれが低く、設計通りの積層体1を製造しやすい。
【0116】
積層フィルム原反2Aに加える張力は、第1巻出しロール110の巻出し速度(回転速度)と、貼合ロール140の回転速度と、を調整することで制御可能である。また、接着フィルム8Aに加える張力は、第2巻出しロール130の巻出し速度(回転速度)と、貼合ロール140の回転速度と、を調整することで制御可能である。貼合ロール140の回転速度を調整すると、積層フィルム原反2Aに加える張力と接着フィルム8Aに加える張力との両方に影響を及ぼすため、個別に張力を制御する場合には、第1巻出しロール110や第2巻出しロール130の回転速度を調整するほうがよい。
【0117】
貼合ロール140は、一対のロール141,142を加熱する構成を有することとしてもよい。このような構成の貼合ロール140では、積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとを加熱することにより、積層フィルム原反2Aおよび接着フィルム8Aを柔らかくしながら貼合することができるため、両者の対向面(貼合面)の接触面積を増加させることが可能となり、密着性が向上する効果が期待できる。また、接着層6Aの形成材料が熱硬化性樹脂である場合、硬化が促進する。
【0118】
加熱温度は、積層フィルム原反2Aを構成する樹脂と、接着フィルム8Aを構成する樹脂との少なくとも一方のガラス転移温度(Tg)を超える温度であるとよい。このような温度であれば、積層フィルム原反2Aまたは接着フィルム8Aが熱変形可能となり、上述の密着性向上の効果が期待できる。
【0119】
貼合時の圧力は、例えば0.1MPa以上0.5MPa以下で制御することが好ましい。
【0120】
表面処理装置150は、第1巻出しロール110と貼合ロール140との間の、積層フィルム原反2Aの搬送経路上に配置されている。表面処理装置150は、積層フィルム原反2Aにおける接着フィルム8Aとの対向面である薄膜層の表面を処理可能な位置に配置されている。表面処理装置150は、薄膜層の表面に対し、プラズマ処理、UVオゾン処理、コロナ処理等を施す。これにより、薄膜層の表面では、不純物が除去され、水酸基等の極性基量が増加するため、積層フィルム原反2Aと接着フィルム8Aとの密着性の向上(剥離強度の向上)を図ることができる。
【0121】
その他、製造装置100は、接着フィルム8Aの保護フィルムを巻き取る巻取りロールや、各フィルムを搬送する際に用いる搬送ロールなど、公知の構成を有することとしてもよい。
【0122】
以上のようにして製造した積層体原反1Aから、例えば、巻取りロール120から巻き出しながら、長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断されることで、接着層6にセパレータフィルムが貼着された積層体1が得られる。
本実施形態の積層体の製造方法は、以上のような構成となっている。
【0123】
以上のような構成の積層体の製造方法によれば、ガスバリア性を有する薄膜層の破損や、外観不良の発生を抑制することが可能な積層体の製造方法を提供することができる。
【0124】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態に係る積層体の製造方法の説明図である。本実施形態の積層体の製造方法は、第1実施形態の積層体の製造方法と一部共通しており、接着層を形成する工程が異なっている。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0125】
(接着層を形成する工程)
図5は、本実施形態における接着層を形成する工程を示す説明図であり、接着層を形成する工程を実施する製造装置200の模式図である。
【0126】
図に示す製造装置200は、第1巻出しロール110、巻取りロール120、表面処理装置150、塗布装置160、硬化装置170を備えている。
【0127】
塗布装置160は、表面処理装置150と巻取りロール120との間の、積層フィルム原反2Aの搬送経路上に配置されている。塗布装置160は、積層フィルム原反2Aにおける接着フィルム8Aとの対向面である薄膜層の表面に、液状を呈する接着層の前駆体の組成物を塗布する。
【0128】
塗布装置は、前駆体の組成物を貯留する不図示のタンクと、積層フィルム原反2Aに対向し前駆体の組成物を吐出する塗布部と、タンクと塗布部とを接続する配管に設けられた不図示の送液ポンプと、を有する。
図5においては、符号160を付して塗布部のみ示している。
【0129】
塗布部としては、液状の前駆体の組成物を塗布することができる通常知られた構成を用いることができ、たとえば、ディスペンサー、ダイコーター、バーコーター、スリットコーター、スプレー塗布装置または印刷機を採用することができる。
【0130】
前駆体の組成物としては、硬化性樹脂、光重合開始剤、必要に応じて溶媒や粘度調製剤等を含む組成物(光硬化性組成物)であってもよく、光重合開始剤の代わりに熱分解型の重合開始剤を含む組成物(熱硬化性組成物)であってもよい。本実施形態では、光硬化性組成物を用いることとする。
【0131】
塗布装置160による前駆体の組成物の塗布量と、第1巻出しロール110および巻取りロール120による積層フィルム原反2Aの搬送速度と、を調整することにより、積層フィルム原反2Aの表面に形成する前駆体の組成物の塗膜60の厚みを制御することができる。
【0132】
硬化装置170は、塗膜60の硬化を促進させる機能を有する。本実施形態においては、前駆体の組成物として光硬化性組成物を用いることとしているため、硬化装置170として、例えば紫外線などの光を照射可能な光源を用いる。硬化装置170では、塗膜60に対して紫外線を照射し、紫外線を照射された塗膜60では光重合反応により重合反応が促進されて硬化し、接着層6Aが形成される。なお、塗布装置160が塗布する前駆体の組成物が、熱硬化性組成物である場合には、硬化装置170として、赤外線照射装置やヒーターなどの熱源を用いる。
【0133】
本実施形態の積層体の製造方法においては、積層フィルム原反2Aに対し長手方向に単位断面積当たり0.5N/mm
2以上50N/mm
2未満の張力を加えた状態で、積層フィルム原反2Aの表面に塗膜60を形成し、積層フィルム原反2Aの一方の面に接着層を形成する。製造装置100においては、第1巻出しロール110と巻取りロール120との間における積層フィルム原反2Aの張力が上記範囲となっている。
【0134】
積層フィルム原反2Aに加える張力が0.5N/mm
2以上であると、形成される塗膜60の膜厚にムラが生じにくいため、積層体原反1Aに皺が形成されにくく、外観不良が生じにくい。また、積層フィルム原反2Aに加える張力が50N/mm
2未満であると、製造される積層体1に対して衝撃を加えた場合でも薄膜層が破損しにくく、ガスバリア性を維持しやすい。
【0135】
以上のようにして製造した積層体原反1Aから、例えば、巻取りロール120から巻き出しながら、長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断されることで、積層体1を得ることができる。
本実施形態の積層体の製造方法は、以上のような構成となっている。
【0136】
以上のような構成の積層体の製造方法によれば、ガスバリア性を有する薄膜層の破損や、外観不良の発生を抑制することが可能な積層体の製造方法を提供することができる。
【0137】
(変形例)
図6は、上記実施形態の変形例を示す説明図であり、第1実施形態の
図4に対応する図である。
図6に示す製造装置300は、第1巻出しロール110、第2巻出しロール130、貼合ロール140、表面処理装置150、搬送ロール180、切断装置190を備えている。
【0138】
搬送ロール180は、積層フィルム原反2A(積層体原反1A)の搬送経路上であって、貼合ロール140の下流側に配置されている。搬送ロール180は、一対のロール181およびロール182を有しており、一対のロール181、182の間に積層体原反1Aを挟持して下流側に搬送する。
【0139】
切断装置190は、積層フィルム原反2A(積層体原反1A)の搬送経路上であって、搬送ロール180の下流側に配置されている。切断装置190は、搬送されてきた積層体原反1Aを、積層体原反1Aの長手方向と交差する方向で所定の長さ毎に切断し、連続的に積層体1を製造する。
【0140】
以上のような製造装置300を用いた積層体の製造方法では、切断装置190を用いて積層体原反1Aを切断し積層体1を製造する工程を実施することで、
図4に示す巻取りロール120に積層体原反1Aを巻き取ることなく、連続的に積層体1を製造することができる。
【0141】
なお、第2実施形態の
図5に示す製造装置200において、巻取りロール120に代えて、硬化装置170の下流側に上述の搬送ロール180と切断装置190とを配置した製造装置としてもよい。このような製造装置を用いた積層体の製造方法でも、連続的に積層体1を製造することができる。
【0142】
[有機EL装置]
図7は、本実施形態の積層体の製造方法により製造された積層体を用いた、有機EL装置の模式図である。
【0143】
図に示す有機EL装置1000は、基板1100と、基板1100上に設けられた有機EL素子1200と、基板1100および有機EL素子1200上に設けられた積層体1と、を有している。積層体1は、上述の積層体の製造方法により製造されたものを用いる。
【0144】
基板1100は、有機EL素子1200が基板1100側から光を取り出すボトムエミッション型の構成の場合、光透過性を有するものを用いる。また、有機EL素子1200が基板1100側とは反対側から光を取り出すトップエミッション型の構成の場合、基板1100は、光透過性有していてもよく、不透明なものであってもよい。
【0145】
不透明な基板の形成材料としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、樹脂材料等を挙げることができる。また、金属板の表面を絶縁処理したような基板も用いることができる。光透過性を有する基板の形成材料としては、ガラス、石英などの無機物、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの樹脂材料を挙げることができる。これらのうち、基板の形成材料が樹脂材料である場合には、適宜ガスバリア処理を施したものが好ましい。
【0146】
基板1100は、可撓性を有するものであってもよく、可撓性を有さないものであってもよい。
【0147】
有機EL素子1200は、陽極1210と、陰極1220と、陽極1210および陰極1220に挟持された有機発光層1230と、を有している。
【0148】
陽極1210は、インジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、スズ酸化物等、通常知られた形成材料で形成されている。
【0149】
陰極1220は、陽極1210よりも仕事関数が小さい(例えば5eV未満)材質で形成されている。陰極1220の形成材料としては、例えばカルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム金属、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体等が挙げられる。有機EL素子1200がトップエミッション型の構成の場合、陰極1220の厚みや材料を選択することで、陰極1220に光透過性を持たせる。
【0150】
有機発光層1230は、有機EL素子の形成材料として通常知られた発光材料を用いることができる。有機発光層1230の形成材料は、低分子化合物であってもよく、高分子化合物であってもよい。
【0151】
積層体1は、接着層6を有機EL素子1200に向けて基板1100および有機EL素子1200に接着され、積層体1と基板1100とで囲まれた空間内に有機EL素子1200を封止している。なお、図では、一方向の断面視野しか示していないが、有機EL素子1200、全方位で積層体1と基板1100とに囲まれている。
【0152】
このような構成の有機EL装置1000においては、上述の積層体1を用いて有機EL素子1200を封止しているため、ガスバリア性を有する薄膜層が破損しにくく、信頼性が高いものとなる。また、用いる積層体1において外観不良の発生が抑制されているため外観がよいものとなる。さらに、有機EL装置1000がトップエミッション型の有機EL素子1200を備える場合には、発光光が積層体1を介して外部に射出されるが、積層体1において、接着層6の皺の形成が抑制されているため、発光光が屈折・散乱することなく、効果的に外部に射出されることとなり好ましい。
【0153】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0154】
例えば、上記実施形態においては、積層フィルム原反2Aや接着フィルム8Aに対し、長手方向に張力を加えた状態で、接着層を形成する工程を実施することとしているが、量力を加える方向はこれに限らない。長手方向に加えて、積層フィルム原反2Aや接着フィルム8Aを短手方向に広げるように張力を加えながら、すなわち各フィルムに二軸方向に張力を加えながら接着層を形成する工程を実施することとしてもよい。
【実施例】
【0155】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0156】
[積層フィルム]
以下の実施例および比較例では、下記方法により製造した積層フィルムを用いた。
【0157】
上述の
図3に示す製造装置を用いて積層フィルムを製造した。
二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム社製、PQDA5、厚み100μm、幅700mm)を基材として用い、これを真空チャンバー内の送り出しロールに装着した。真空チャンバー内を1×10
−3Pa以下にした後、基材を0.5m/分の一定速度で搬送させながら基材上に薄膜層の成膜を行った。基材に用いた二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムは片面に易接着処理(プライマー処理)を施した非対称構造をしており、易接着処理が施されていない面へ薄膜層の成膜を行った。薄膜層を形成させるために用いたプラズマCVD装置においては、一対の電極間でプラズマを発生させて、前記電極表面に密接しながら基材が搬送され、基材上に薄膜層が形成される。また、前記の一対の電極は、磁束密度が電極および基材表面で高くなるように電極内部に磁石が配置されており、プラズマ発生時に電極及び基材上でプラズマが高密度に拘束される。
【0158】
薄膜層の成膜にあたっては、成膜ゾーンとなる電極間の空間に向けてヘキサメチルジシロキサンガスを100sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute、0℃、1気圧基準)、酸素ガスを900sccm導入し、電極ロール間に1.6kW、周波数70kHzの交流電力を供給し、放電してプラズマを発生させた。次いで、真空チャンバー内の排気口周辺における圧力が1Paになるように排気量を調節した後、プラズマCVD法により搬送基材上に薄膜層を形成した。この工程を4回繰り返した。
【0159】
積層フィルムの薄膜層の膜厚は、積層フィルムについて、小坂研究所製サーフコーダET200を用いて、無成膜部と成膜部の段差測定を行って求めた。得られた積層フィルムの薄膜層の膜厚は、700nmであった。
【0160】
積層フィルムの全光線透過率は、スガ試験機社製の直読ヘーズコンピュータ(型式HGM−2DP)によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、積層フィルムをサンプルホルダーにセットして測定を行って求めた。得られた積層フィルムの全光線透過率は87%であった。
【0161】
積層フィルムの水蒸気透過度は、温度40℃、湿度90%RHの条件において、カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって測定して求めた。得られた積層フィルムの水蒸気透過度は2×10
−5g/m
2/dayであった。
【0162】
得られた積層フィルムは、薄膜層の膜厚方向における90%以上の領域において、原子数比が大きい方から酸素、珪素、炭素の順となっており、また膜厚方向の炭素分布曲線の極値を10以上有し、さらに炭素分布曲線における炭素の原子数比の最大値および最小値の差の絶対値が15at%以上であった。
【0163】
また、得られた積層フィルムにおいて、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、得られた珪素原子、窒素原子、酸素原子及び炭素原子の分布曲線を求めた。
図8は、製造例1で得られた積層フィルム1における薄膜層の珪素分布曲線、酸素分布曲線、窒素分布曲線および炭素分布曲線を示すグラフである。
<XPSデプスプロファイル測定>
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
+)
エッチングレート(SiO
2熱酸化膜換算値):0.05nm/秒
エッチング間隔(SiO
2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
【0164】
[実施例1]
上記積層フィルム、および透明両面粘着テープ(リンテック社製、TL−430S−06、30μm厚)にそれぞれ下記張力を加えた状態で、ロールを用いて貼合し、実施例1の積層体を製造した。その際、積層フィルムの薄膜層側に透明両面粘着テープを貼合した。
なお、透明両面粘着テープは、上述した実施形態における「接着フィルム8A」に該当し、透明両面粘着テープの接着層は、上述した実施形態における「接着層6A]「接着層6」に該当する。
【0165】
(貼合条件)
積層フィルムの単位断面積当たりの張力:39N/mm
2
透明粘着両面テープの単位断面積当たりの張力:0.1N/mm
2
【0166】
[実施例2]
貼合条件を下記条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の積層体を製造した。
【0167】
(貼合条件)
積層フィルムの単位断面積当たりの張力:0.5N/mm
2
透明粘着両面テープの単位断面積当たりの張力:0.1N/mm
2
【0168】
[比較例1]
貼合条件を下記条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の積層体を製造した。
【0169】
(貼合条件)
積層フィルムの単位断面積当たりの張力:62.5N/mm
2
透明粘着両面テープの単位断面積当たりの張力:0.1N/mm
2
【0170】
[比較例2]
貼合条件を下記条件に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の積層体を製造した。
【0171】
(貼合条件)
積層フィルムの単位断面積当たりの張力:無し
透明粘着両面テープの単位断面積当たりの張力:0.1N/mm
2
【0172】
得られた積層体について、下記の方法で評価を行った。
【0173】
(評価1:外観観察)
得られた積層体の外観について、目視評価した。
【0174】
(評価2:耐衝撃性試験)
得られた積層体から、2cm角に切出して試験片を作製した。試験片について、積層フィルム側が下、透明両面粘着テープ側が上となるようにして試験台に載置し、積層体の上方10nmの位置から、鉄球(直径:1インチ(2.54cm)、重さ:68g)を落下させて衝撃を加えた。
【0175】
落球後の積層体について、顕微鏡(株式会社ハイロックス社製、DIGITAL MICROSCOPE KH7700)を用いて210倍の倍率で観察し、1.8mm×1.4mmの視野範囲に存在する薄膜層のクラックの数を計測した。
【0176】
評価結果を下記表1に示す。表1においては、皺およびクラックの両方が無いものを良品として「○」で示し、皺およびクラックのうちどちらか一方でも有するものを不良品として「×」で示している。また、表1では、用いた透明両面粘着テープを、単に「粘着テープ」として示している。
【0177】
【表1】
【0178】
評価の結果、実施例1,2の積層体では、貼合後に皺が無く、耐衝撃試験後の薄膜層には、観察視野中にクラックが存在しなかった。
【0179】
一方、比較例1の積層体では、貼合後に皺が無かったものの、耐衝撃試験後の薄膜層には、観察視野中にクラックが14本存在していた。
【0180】
また、比較例2の積層体では、耐衝撃試験後の薄膜層には、観察視野中にクラックは存在しなかったものの、透明両面着テープに皺が形成されていた。
【0181】
以上の結果から、本発明が有用であることが分かった。