(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブッシュ(402)の前記当接部は、相対的に剛性の低い低剛性部(47)によって構成され、前記離間部は、相対的に剛性の高い高剛性部(48)によって構成されることを特徴とする請求項2に記載の回転装置。
前記ハウジングと前記ブッシュとの間に、前記ブッシュの径外方向への弾性変形を許容しつつ、前記ハウジングと前記ブッシュとの間を気密にシールするシール部材(30)を更に備え、
互いに対向する前記回転体の外周壁又は前記ブッシュの内周壁に、軸方向の一側と他側とを回転軸に対し傾斜する方向に連通するスパイラル溝(57、58)が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転装置。
二つの前記保持部は、前記スパイラル溝の傾斜方向が互いに対称である二つの前記スパイラル保持部によって構成されていることを特徴とする請求項6に記載の回転装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2の軸受装置は、温度変化による膨張に対して回転体とハウジング等の固定部との微小隙間を維持するものである。しかし、遠心力や振動による膨張、摩耗等によって径寸法が変化したときには微小隙間を適正に維持することができない。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、回転中の温度変化、遠心力、振動等の外乱による膨張や摩耗による同軸度や径寸法の変化に対し、微小隙間を適正に維持する回転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転装置は、筒状のハウジングと、ハウジングの内側に設けられ、回転軸を中心として回転可能な回転体と、ブッシュとを備える。
ブッシュは、周方向の一箇所が切断され、ハウジングと回転体との間に径方向に弾性変形可能に装着される環体を有する。ブッシュは、回転体の停止時に、内周壁の一部が回転体の外周壁に当接する。また、回転体の回転時に、ハウジングに対する回転が抑制されつつ、回転体の外周壁と非接触となるように内周壁が拡径可能である。
【0006】
ここで、「弾性変形」とは、主に装着後の使用時における変形を意味し、例えば組付時の多少の塑性変形は許容される。また、「回転体の回転時」とは、回転体の回転に伴って周りに動圧が発生する程度の回転速度での回転時を意味する。すなわち、動圧を発生させないレベルの低回転時を積極的に含まない。さらに、「ブッシュは、ハウジングに対する回転が抑制される」とは、ブッシュの回転がほぼ完全に禁止される場合と、回転体の回転速度に対し十分に遅い速度でのブッシュの回転が許容される場合とを含む。
【0007】
本発明のブッシュは、環体の周方向の一箇所が切断されており、径方向に弾性変形可能である。この弾性変形により、ブッシュは、回転体の停止時に回転体の外周壁に対し径内方向の締付力を付与するため、ブッシュと回転体との同軸度が確保される。
また、回転体の回転時には、ブッシュと回転体との間に形成されるくさび形空間に動圧が発生する。この動圧による「くさび効果」によって内周壁が拡径し、回転体の外周部と非接触部となる。
これにより、回転中の温度変化に加え、遠心力や振動等の外乱による膨張や摩耗によって同軸度や径寸法が変動する場合においても、微小隙間を適正に維持することができる。
ここで、「微小隙間」とは、回転装置の軸受の技術分野における常識的な隙間、例えば数μm〜20μm程度の隙間を意味する。
【0008】
本発明は、以下のような複数の態様で具現化される。
本発明の第一の態様では、回転体は円筒状であり、ブッシュは、回転体に装着された静止状態での径方向断面において、「内周壁の曲率半径が相対的に大きく回転体の外周壁に当接する当接部」、及び、「内周壁の曲率半径が相対的に小さく回転体の外周壁から離間する離間部」が周方向に交互に配置されている。
以下、「静止状態」とは、回転体が停止しており、ブッシュが動圧を受けない状態をいう。例えば、回転装置が車両に搭載された場合、車両自体の走行とは関係なく、回転体が非回転状態であれば回転装置は「静止」している。また、「相対的に」とは、「対照的に定義される二つの部分を比較した場合に」の意味である。上記の例では、当接部の内周壁の曲率半径は、離間部の内周壁の曲率半径よりも大きい。
【0009】
この構成では、ブッシュの当接部は、相対的に剛性の低い低剛性部によって構成され、離間部は、相対的に剛性の高い高剛性部によって構成されるようにすることが好ましい。言い換えれば、低剛性部は、高剛性部に比べて剛性が低い。例えば、相対的に厚みが薄い部分で低剛性部を構成し、相対的に厚みが厚い部分で高剛性部を構成する。これにより、ブッシュ単体での内周壁を真円状に形成することができるため、加工が容易となる。
【0010】
本発明の第二の態様では、ブッシュは単体の状態で環体が円環状であり、回転体は、ブッシュが装着された静止状態での径方向断面において、「半径が相対的に長くブッシュの内周壁に当接される長径部」、及び、「半径が相対的に短くブッシュの内周壁から離間する短径部」が周方向に交互に配置されている。つまり、長径部の半径は、短径部の半径よりも長い。
【0011】
さらに本発明の第三の態様では、ハウジングとブッシュとの間に、ブッシュの径外方向への弾性変形を許容しつつ、ハウジングとブッシュとの間を気密にシールするシール部材を更に備える。また、互いに対向する回転体の外周壁又はブッシュの内周壁に、軸方向の一側と他側とを回転軸に対し傾斜する方向に連通するスパイラル溝が形成されている。
この構成では、回転体の回転時、スパイラル溝に沿って軸方向の一方向への空気の流れが生じる。したがって、例えば、空気の下流側から上流側への異物の流入等を防止することができる。
【0012】
この態様での好ましい回転装置は、ハウジングの内部における軸方向の二箇所で回転体を保持する二つの保持部を備える。この二つの保持部のうち少なくとも一つは、互いに対向する回転体の外周壁又はブッシュの内周壁にスパイラル溝が形成された「スパイラル保持部」によって構成されている。
より好ましくは、二つの保持部は、スパイラル溝の傾斜方向が互いに対称である二つのスパイラル保持部によって構成されている。また、一つの保持部がスパイラル保持部以外の保持部である場合、その保持部は、ハウジングと回転体との間を気密にシールするものであることが好ましい。
【0013】
この構成では、回転体の回転時、回転方向とスパイラル溝の傾斜方向との関係により、二つの保持部によって区画されたハウジング内部の空間から外部に空気を吸い出して減圧し、或いは、ハウジング内部の空間に外部から空気を送り込んで増圧することができる。
例えば、回転体の回転時に内部空間が減圧されるように回転方向とスパイラル溝の傾斜方向とを設定した場合には、回転体が高速で回転するとき周りの空間が減圧されるため、周りの空気との摩擦による損失を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の複数の実施形態による回転装置を図面に基づいて説明する。各実施形態の図面は模式的なものであり、現実の製品の寸法比率によらず、特徴部分を誇張して示している。また、特徴部分以外の構成について、部材同士の接合等に関する図示を適宜省略する。また、複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態による回転装置について、
図1〜
図3を参照して説明する。
最初に、回転装置全体の軸方向断面を
図1に示す。
図1は、第1〜第3実施形態に共通する図であり、実施形態毎に固有の符号を付した部材については各実施形態の符号を列記している。列記した3桁符号において3桁目の数字が実施形態の番号に対応する。
共通部分の説明では、代表として、3桁符号の3桁目の数字が「1」である第1実施形態の符号を用いて説明する。
図1に示すように、回転装置101は、主に、筒状のハウジング20と、ハウジング20の内側に設けられ、軸Oを中心として回転可能な回転体501と、ブッシュ401とを備える。仮に回転装置101が車両に搭載された場合、車両自体の走行とは関係なく、回転体501が非回転状態であれば回転装置101は「静止」しているとみなす。
【0017】
回転体501は、軸方向の中央部に大径部51を有し、軸方向の両端部に軸部521を有する。以下、
図1の左側の端部を「A端」、
図1の右側の端部を「B端」という。
ハウジング20は、回転体501の大径部51の外側に外筒部21を有し、A端側及びB端側の軸部521の外側にそれぞれブッシュ収容部22を有する。
ブッシュ401は、A端側及びB端側の軸部521の外周にそれぞれ装着される。
A端及びB端のさらに軸方向外側、すなわちブッシュ収容部22よりも大径部51から遠い側には、一般的なベアリング等のラジアル軸受が設けられる。また、ラジアル軸受の径方向サイズに応じ、適宜、回転体501又はハウジング20に段差が設けられる場合がある。これらの構成は周知事項であるため、図示を省略する。
なお、作図上、回転体501は「軸」とみなし、断面として表さない。また、後述するブッシュ401の係止爪49は「リブ」とみなし、やはり断面として表さない。
【0018】
この回転装置101は、例えばモータ、発電機等の回転電機に適用される。その中でも例えば永久磁石型のブラシレスモータを想定すると、回転体501の大径部51は、外周に永久磁石が取り付けられたロータに該当し、ハウジング20の外筒部21は、巻線が巻回されたステータに該当する。また、回転体501の軸部521は、ロータの軸孔に挿通されたシャフトに該当する。
このように、現実の製品では、ハウジング20や回転体501が巻線や永久磁石を含む構成や、複数の部品から組み立てられる構成もあり得る。しかし、
図1では、そのような付帯構成を一切省略し、ハウジング20及び回転体501を一体物として表示する。
【0019】
上記の前提の下、ハウジング20は、外筒部21、ブッシュ収容部22、内側拘束壁23及び外側拘束壁24等を有し、回転装置101の外郭を構成する。内側拘束壁23及び外側拘束壁24は、ブッシュ収容部22に収容されたブッシュ401の軸方向位置を拘束する。
回転体501は、回転軸Oを中心として、A端側から視たA視方向で反時計回り(CCW)、B端側から視たB視方向で時計回り(CW)に回転する。ただし、第1〜第3実施形態では回転方向はどちらでもよく、正転逆転を随時切り替えてもよい。
【0020】
ところで、一般にラジアル軸受としてベアリングを用いた回転装置においては、回転体の回転中に温度変化等の外乱が生じたとき、回転体と固定部(例えばハウジング)との同軸度や隙間を適切に維持することが課題となる。
この課題に対し、例えば特許文献1(特開2007−198606号方向)、特許文献2(特開2012−52624号公報)には、回転体及び固定部の線膨張係数を好ましい値に設定し、温度変化による膨張に対して微小隙間を維持する技術が開示されている。
【0021】
しかし、特許文献1、2の従来技術では、遠心力や振動による膨張、摩耗等によって径寸法が変化したときには微小隙間を適正に維持することができない。そこで、本発明の実施形態による回転装置は、ラジアル軸受とは別に、「径方向に弾性変形可能なブッシュ」を採用する。これにより、回転中の温度変化に加え、遠心力や振動等の外乱による膨張や摩耗によって同軸度や径寸法が変動する場合においても、微小隙間を適正に維持することを目的とする。
【0022】
続いて、第1実施形態のブッシュ401、及び、ブッシュ401が装着される回転体501の軸部521の構成について、B視方向の径方向断面図である
図2、
図3を参照して詳しく説明する。
第1実施形態の回転装置101は、軸部521が円筒状である回転体501と、回転体501の軸部521に装着された状態での内周壁441の形状に特徴を有するブッシュ401とを含む。回転体501の軸部521は、例えば鉄等の金属で形成されている。ブッシュ401は、例えば銅等の耐摩耗性の金属で形成されている。
回転体501の軸部521は、径方向断面が真円に形成されている。以下、「真円」とは、通常の加工技術分野の技術常識において、全方向での直径が一定であると判断される精度の円形状を意味する。例えば、真円度が数μm以下の円を「真円」という。つまり、直径の方向によるnmオーダーのばらつきは無視する。
【0023】
常温時において、ブッシュ401の最小内径は、回転体501の軸部521の外径dsよりもわずかに小さく設定されている。以下の寸法関係の説明では、特に断らない限り、熱膨張時又は熱収縮時を考慮せず、常温時について言及するものとする。
ブッシュ401は、環体411の周方向の一箇所が切断部42で切断されており、弾性変形可能である。言い換えれば、環体411は「C字状」を呈しており、外力の付与及び解除に伴って可逆的に変形可能である。そのため、軸部521の外周壁531に装着したとき、ブッシュ401は、内周壁441の最小内径が軸部521の外径以上となるように弾性変形して装着される。
【0024】
第1実施形態では、ブッシュ401の単体での形状については規定せず、あくまで、回転体501の軸部521に装着された静止状態での径方向断面形状について規定する。
ブッシュ401は、回転体501の軸部521に装着された静止状態での径方向断面において、「内周壁441の曲率半径が相対的に大きく軸部521の外周壁531に当接する当接部45」、及び、「内周壁441の曲率半径が相対的に小さく軸部521の外周壁531から離間する離間部46」が周方向に交互に配置されている。
【0025】
図2、
図3の例では、当接部45及び離間部46は、周方向に各三箇所、交互に配置されている。また、当接部45と離間部46とは曲率半径が連続的に変化しており、明確な境界が存在するわけではない。
なお、
図2、
図3では、当接部45と離間部46とを明確に差別化するように誇張して図示しているが、現実の製品では、当接部45と離間部46との曲率半径の差はわずかである。したがって、ブッシュ401の内周壁441の形状について、少なくとも肉眼では真円との区別は困難である。
【0026】
また、環体411の外周壁431には、径外方向に突出する係止爪49が設けられている。係止爪49は、ハウジング20のブッシュ収容部22に形成された嵌合溝29に係止される。したがって、ブッシュ401は、静止したハウジング20のブッシュ収容部22に対し回転がほぼ完全に禁止され、ハウジング20と共に静止部材とみなされる。
【0027】
図2に示す回転体501の停止時、軸部521の外周壁531とブッシュ401の当接部45における内周壁441との当接部位では、ブッシュ401から軸部521の外周壁531に対し径内方向への締付力Ftが付与される。また、この当接部位の周方向両側において、くさび形空間7が形成される。
ブッシュ401の外周壁431とブッシュ収容部22の内周壁25との間には、ブッシュ401の径外方向への弾性変形を阻害しない十分な隙間δ0が確保されている。
【0028】
図3に示す回転体501の回転時、ブッシュ401は、係止爪49が嵌合溝29に係止されているため、軸部521の回転に伴う「連れ回り」が防止される。軸部521の回転により、くさび形空間7に空気Aが流れ込み、発生した動圧による力が締付力Ftを上回ると、「くさび効果」によって環体411が外周壁531から浮上する。このとき、ブッシュ401は、切断部42の幅が広がり、内周壁441が拡径するように弾性変形する。その結果、軸部521の外周壁531とブッシュ401の当接部45における内周壁441との間に非接触部8が形成される。
参考までに、現実の製品での非接触部8の間隔δ1は、例えば数μm程度、すなわち、10μm以下である。また、軸部521の外周壁531とブッシュ401の離間部46における内周壁441との微小隙間δ2は、例えば10〜数十μm程度である。
【0029】
以上のように、第1実施形態の回転装置101によると、切断部42を有するブッシュ401は、径方向に弾性変形可能である。この弾性変形により、ブッシュ401は、回転体501の停止時に、内周壁441の一部が回転体501の軸部521の外周壁531に当接し、外周壁531に対し径内方向への締付力Ftを付与する。これにより、ブッシュ401と軸部521との同軸度が確保される。
【0030】
また、回転体501の回転時には、ブッシュ401と軸部521との間に形成されるくさび形空間7に動圧が発生する。この動圧による「くさび効果」によって環体411が外周壁531から浮上し、内周壁441が拡径するように弾性変形する。その結果、内周壁441は、軸部521の外周壁431と非接触となる。
これにより、回転中の温度変化に加え、遠心力や振動等の外乱による膨張や摩耗によって同軸度や隙間が変動する場合においても、微小隙間を適正に維持することができる。
【0031】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による回転装置について、
図4〜
図6を参照して説明する。第2実施形態の回転装置102は、第1実施形態のブッシュ401の技術的思想を基礎としつつ、現実的に製作が容易なブッシュ402を提示するものである。第2実施形態の回転体501の構成は、第1実施形態の回転体501と実質的に同一である。
図4に、回転体501の軸部521へ装着される前の単体でのブッシュ402の構成を示す。単体のブッシュ402は、内周壁442が真円状に、すなわち内径Dbが一定に形成されている。
【0032】
環体412は、周方向の一箇所が切断部42で切断されている。なお、第1実施形態の
図2、
図3では切断部42が回転軸Oからの放射方向に沿っているのに対し、第2実施形態の
図4では切断部42が回転軸Oからの放射方向に対し傾いている。このように、切断部42の方向は問わない。
ブッシュ402の環体412は、相対的に厚みt1が薄く剛性の低い低剛性部47と、相対的に厚みt2が厚く剛性の高い高剛性部48とが周方向に交互に配置されている。
図4の例では、中心角θ1の低剛性部47と中心角θ2の高剛性部48とが、周方向に各三箇所、交互に配置されている。外周壁432の一つの高剛性部48には係止爪49が設けられている。
【0033】
図5、
図6は、それぞれ第1実施形態の
図2、
図3に対応する。ブッシュ402の単体での内径Dbは、回転体501の軸部521の外径dsよりもわずかに小さく設定されている。
図5に示すように、ブッシュ402を軸部521の外周壁531に装着したとき、ブッシュ402は、内周壁442の内径が軸部521の外径ds以上となるように弾性変形して装着される。
【0034】
図5に示す軸部521への装着状態において、ブッシュ402の低剛性部47は優先的に変形し、軸部521の外周壁531に当接する「当接部」を構成する。一方、高剛性部48は変形が抑制され、軸部521の外周壁531から離間する「離間部」を構成する。ここで、
図2、
図3と同様に、
図5、
図6においても、低剛性部47と高剛性部48との差別化のためブッシュ402の変形を誇張して図示している。現実には、ブッシュ402は、
図4の形状からわずかに変形するのみで
図5に示す状態となる。
【0035】
以下、回転体501の停止時(
図5)及び回転時(
図6)におけるブッシュ402の作用効果は、第1実施形態と同様である。
このように、第2実施形態のブッシュ402は、単体での内周壁442が真円状に形成されるため、製作や寸法管理が容易となる。
【0036】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態による回転装置について、
図7、
図8を参照して説明する。
第3実施形態の回転装置103は、単体の状態で環体413が円環状であるブッシュ403と、外周壁533の形状に特徴を有する回転体503とを含む。
ブッシュ403の環体413は、単体で内周壁443が真円状に製作されている。環体413は、周方向の一箇所が切断部42で切断されており、弾性変形可能である。また、環体413の外周壁433には、径外方向に突出する係止爪49が設けられている。
【0037】
回転体503の軸部523は、「半径が相対的に長い長径部55」及び「半径が相対的に短い短径部56」が周方向に交互に配置されている。長径部55の半径は、ブッシュ403単体での内周壁443の半径よりもわずかに大きく設定されており、短径部56の半径は、ブッシュ403単体での内周壁443の半径に対し同等以下に設定されている。ブッシュ403が装着された静止状態での径方向断面において、長径部55は、ブッシュ403の内周壁443に当接され、短径部56は、ブッシュの内周壁443から離間する。
【0038】
図7、
図8の例では、長径部55及び短径部56は、周方向に各三箇所、交互に配置されている。また、長径部55と短径部56とは半径が連続的に変化しており、明確な境界が存在するわけではない。
なお、
図7、
図8では、長径部55と短径部56とを明確に差別化するように誇張して図示しているが、現実の製品での長径部55と短径部56との半径の差はわずかである。したがって、軸部523の外周壁533の形状について、少なくとも肉眼では真円との区別は困難である。
【0039】
図7に示す回転体503の停止時、軸部523の長径部55における外周壁533とブッシュ403の内周壁443との当接部位では、ブッシュ403から軸部523の外周壁533に対し径内方向への締付力Ftが付与される。また、この当接部位の周方向両側において、くさび形空間7が形成される。
【0040】
図8に示す回転体503の回転時、ブッシュ403は、係止爪49が嵌合溝29に係止されているため、軸部523の回転に伴う「連れ回り」が防止される。軸部523の回転により、くさび形空間7に空気Aが流れ込み、発生した動圧による力が締付力Ftを上回ると、「くさび効果」によって環体413が外周壁533から浮上する。このとき、ブッシュ403は、切断部42の幅が広がり、内周壁443が拡径するように弾性変形する。その結果、軸部523の長径部55における外周壁533とブッシュ403の内周壁443との間に非接触部8が形成される。
このように、第3実施形態の回転装置103は、上記第1、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。また、ブッシュ403の加工が容易となる。
【0041】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態による回転装置について、
図9〜
図12を参照して説明する。ここで、
図9は、第1実施形態の
図1に対応し、
図11、
図12は、第1実施形態の
図2、
図3に対応する。
図9は、回転体の回転方向の図示についても
図1を援用する。第1〜第3実施形態では回転方向を考慮する必要が無いのに対し、第4実施形態では回転方向の考慮を要する。
【0042】
図9に示すように、第4実施形態の回転装置104は、ハウジング20のブッシュ収容部22とブッシュ401の外周壁431との間にシール部材30を備える点、及び、回転体504の軸部524に、スパイラル溝57、58が形成される点が第1実施形態と異なる。ここで例示する第4実施形態のブッシュ401の構成は、第1実施形態のブッシュ401と実質的に同一である。
シール部材30は、ブッシュ401の弾性変形を許容しつつ、ハウジング20のブッシュ収容部22とブッシュ401の外周壁431との間を気密にシールする。シール部材30は、例えばシリコン樹脂等の弾性体で形成される。
【0043】
スパイラル溝57、58は、軸方向の一側と他側とを回転軸Oに対して傾斜する方向に連通する。詳しくは、スパイラル溝57、58は、回転体504の大径部51から端部に向かって回転方向側に傾くように傾斜している。すなわち、A端側のスパイラル溝57とB端側のスパイラル溝58とは傾斜方向が互いに対称である。
図9、
図10では、スパイラル溝57、58の部分に水平方向の細線を付す。
【0044】
また、スパイラル溝57、58が形成された回転体504の軸部524と、軸部524に対向するブッシュ401とを合わせて「スパイラル保持部67、68」という。回転装置104において、二つのスパイラル保持部67、68は、ハウジング20の内部における軸方向の二箇所で、回転体504を保持する「二つの保持部」を構成する。なお、第1実施形態の説明で述べた通り、スパイラル保持部67、68のさらに軸方向外側には一般的なラジアル軸受が設けられる。
ハウジング20の内部空間9は、二つのスパイラル保持部67、68によって外部と区画される。また、ブッシュ収容部22とブッシュ401の外周壁431との間がシール部材30によって気密にシールされているため、スパイラル保持部67、68の軸方向の両側を連通する経路は、スパイラル溝57、58のみとなる。
【0045】
続いて
図10〜
図12では、二つのスパイラル保持部67、68を代表し、スパイラル保持部68について説明する。スパイラル溝57、58の傾斜方向が対称であることを除き、二つのスパイラル保持部67、68の構成は実質的に同一である。
図11に示す回転体504の停止時、及び、
図12に示す回転体504の回転時における回転装置104の作用効果は、基本的に第1実施形態と同様である。回転体504の停止時には、ブッシュ401の当接部45が軸部524の外周壁534に当接し、回転体504の回転時には、「くさび効果」によって内周壁441が拡径し、軸部524の外周壁534との間に非接触部8が形成される。
【0046】
それに加え、第4実施形態の回転装置104では、
図10に示すように、回転体504の回転に伴って溝に沿った空気の流れVが生じる。
図9に示す回転体504の回転方向とスパイラル溝57、58の傾斜方向との組合せでは、空気の流れVは、回転体504の大径部51から端部に向かう方向に、すなわち、内部空間9から外部に空気を吸い出す方向に生じる。スパイラル保持部67ではA端に向かって、スパイラル保持部68ではB端に向かって、空気の流れVが生じる。
【0047】
その結果、ハウジング20の外筒部21と回転体504の大径部51との間の内部空間9は減圧される。これにより、回転体504が高速で回転するとき周りの空間が減圧されるため、周りの空気との摩擦による損失を低減することができる。
一方、
図9に示すスパイラル溝57、58の傾斜方向で回転体504の回転方向を逆にすれば、外部から空気を内部空間9に送り込み、内部空間9を増圧させることができる。また、同じ傾斜方向のスパイラル溝が形成されたスパイラル保持部を直列に配置すれば、空気を圧送するポンプ機能を生成することができる。
【0048】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態の回転体501、503、504は、軸方向の中央部に大径部51を有しているが、他の実施形態では回転体の軸方向断面形状は問わない。例えば、回転体は単一径であってもよく、その場合、「回転体=軸部」として扱うことができる。これに対応して、ハウジングの軸方向断面形状も適宜変更可能である。
(イ)上記実施形態では、ブッシュ401、402、403の環体411、412、413における切断部42の周方向の位置は、係止爪49の反対側に設定されているが、他の実施形態では、別の位置に切断部42を設定してもよい。
【0049】
(ウ)上記実施形態では、ブッシュ401、402、403の外周壁431、432、433に設けられた係止爪49がハウジング20の嵌合溝29に係止し、回転体501、503、504の回転時におけるブッシュ401、402、403の回転が抑制される。これに対し他の実施形態では、例えば回転体側に係止爪を設けブッシュ側に溝を設けるなどの別の構成により、ブッシュの回転を抑制してもよい。
【0050】
また、ブッシュの回転を完全に禁止する、すなわち回転速度をゼロにするのでなく、回転体の回転速度に対し十分に遅い速度でのブッシュの回転を許容するようにしてもよい。例えば、ハウジングとブッシュとの間にOリングを装着し、Oリングとブッシュとの間の摩擦がブッシュと回転体との間の摩擦よりも十分に大きい構成としてもよい。この構成では、回転体の回転に伴うブッシュの「連れ回り」がわずかに発生する可能性がある。しかし、本発明の作用効果の発現に影響を及ぼさないレベルであれば何ら問題はない。
【0051】
(エ)上記第1実施形態の
図2、
図3、第2実施形態の
図5、
図6では、ブッシュ401、402の当接部45及び離間部46が周方向に各三箇所、交互に配置されているが、当接部45及び離間部46の箇所数は、三箇所に限らず、四箇所以上としてもよい。
また、上記第3実施形態の
図7、
図8では、回転体503の長径部55及び短径部56が周方向に各三箇所、交互に配置されているが、長径部55及び短径部56の箇所数も、三箇所に限らず、四箇所以上としてもよい。
【0052】
(オ)上記第2実施形態では、環状体412の厚みがt1である低剛性部47と、厚みがt2(>t1)である高剛性部48とを周方向に二段階に設けている。他の実施形態では、厚みの異なる部位を周方向に三段階以上に設けてもよく、周方向に厚みを徐変させるようにしてもよい。また、厚みを変更する以外に、剛性の異なる材質同士を接続したり、局所的な熱処理等を行ったりすることにより、周方向に剛性分布を生成してもよい。剛性分布をどのように生成するかに関わらず、ブッシュを回転体に装着した状態で、結果的に「当接部」となる部位が「低剛性部」に該当し、結果的に「離間部」となる部位が「高剛性部」に該当する。
【0053】
(カ)上記第4実施形態のスパイラル保持部67、68では、回転体504の軸部524の外周壁534にスパイラル溝57、58が形成されている。他の実施形態では、ブッシュの内周壁にスパイラル溝を形成してもよい。その形態でも、第4実施形態と同様に、軸方向の一方向への空気の流れを生じる作用効果が得られる。
また、ブッシュの構成として、第1実施形態のブッシュ401に代えて、第2、第3実施形態のブッシュ402、403を採用してもよい。
【0054】
(キ)上記第4実施形態において、例えば
図9のA端側の保持部としてスパイラル保持部67を廃止し、気密性を有する一般的なラジアル軸受のみを用いてもよい。その場合、
図9のB端側のスパイラル保持部68のみの作用効果によりハウジング20の内部空間9を減圧することができる。
また、スパイラル保持部を単独で用いてもよい。これにより一方向への空気の流れが生じるため、例えば、空気の下流側から上流側への異物の流入等を防止することができる。
【0055】
(ク)本発明の回転装置は、回転電機に限らず、フライホイールその他のあらゆる回転装置に適用可能である。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。