(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6342860
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌とその利用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20180604BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20180604BHJP
A61K 39/02 20060101ALI20180604BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20180604BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20180604BHJP
【FI】
C12N1/21ZNA
C12N15/00 A
A61K39/02
A61P31/04 171
A61P31/04
A61K35/74 A
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-169017(P2015-169017)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-42124(P2017-42124A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年5月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、農林水産省、優れたワクチン開発のための技術開発委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02080
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】下地 善弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】江口 正浩
(72)【発明者】
【氏名】白岩 和真
【審査官】
川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−151084(JP,A)
【文献】
特開2012−34652(JP,A)
【文献】
特開2011−155950(JP,A)
【文献】
Yohsuke Ogawa et al.,Journal of Bacteriology ,2011年 6月,Vol.193, No.12,p.2959-2971
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの活性が低下または失活されていることを特徴とするCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌。
【請求項2】
CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子が遺伝子破壊されていることにより、前記遺伝子の機能が低下または欠損されている請求項1に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌。
【請求項3】
CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子をコードする塩基配列を構成する少なくとも1つ以上の塩基が置換または欠失している請求項1または2に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌。
【請求項4】
CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌(NITE P−02080)である請求項1〜3のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌。
【請求項5】
非ヒトの哺乳動物における豚丹毒菌に関連する疾患の治療または予防に使用するためのワクチン組成物であって、
請求項1〜4のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌を含むことを特徴とするワクチン組成物。
【請求項6】
非ヒトの哺乳動物における疾患の治療または予防のための医薬組成物を製造するための、請求項1〜4のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用。
【請求項7】
前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌がワクチンベクターである請求項6に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用。
【請求項8】
前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌が、豚丹毒菌以外の外来異種抗原を発現するよう形質転換されている請求項7に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌に関する。詳しくは、本発明は、CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌ならびに豚の感染予防用ワクチンとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
豚丹毒は豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ菌 Erysipelothrix rhusiopathiae)の感染によって起こる人畜共通感染症である。前記豚丹毒菌は、豚、イノシシのほか、ヒトを含む哺乳類、鳥類に感染することが確認されている。中でも、名称のとおり、豚の疾病を引き起こす細菌として有名で、豚丹毒は世界中の養豚地帯で発生している。豚丹毒の経過は甚急性で致死率も高く、慢性経過をとった場合は関節炎を惹起し、保菌豚となることがある。出荷豚がと畜検査で陽性となった場合、その個体は全廃棄となり経済損失は極めて大きい。また、豚丹毒菌がヒトに感染した場合、敗血症や関節炎を発症させることも知られており、豚丹毒菌は、家畜衛生のみならず、公衆衛生面からも重要な細菌と位置づけられている。
【0003】
前記豚丹毒の予防にはワクチンが有効で、現在、豚丹毒菌小金井65−0.15株が使用されている。この株はアクリフラビンを含む培地で継代を重ねることで得られた弱毒株であるが、この弱毒化の機構は不明である。
一方、食肉検査所において、豚丹毒として廃棄される豚の関節からは、豚丹毒菌小金井65−0.15株が分離される事例が多く報告されている。豚丹毒菌小金井65−0.15株の弱毒化の機構は、前記のとおり不明であるため、強毒株復帰への懸念がある。事実、本発明者らは、野外臨床分離菌の解析を基に、豚丹毒菌小金井65−0.15株の強毒化に関わると考えられる病原性復帰変異が起こることを明らかにしている(非特許文献1、2)。
【0004】
したがって、豚丹毒菌小金井65−0.15株にかわる、より安全なワクチン用株が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】下地ら、「豚丹毒菌生ワクチン Koganei 65-0.15株の弱毒化機構の解析」、第157回日本獣医学会抄録 379頁
【非特許文献2】小川ら、「豚丹毒菌生ワクチン Koganei 65-0.15株の強毒化に関わる遺伝子の同定」、第88回日本細菌学会総会抄録、173頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非ヒト動物における豚丹毒菌の感染を効果的に防御でき、しかも安全性の高い新規な豚丹毒菌、および該豚丹毒菌を用いたワクチン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、長年、豚丹毒菌の感染と発病機構について研究をしているが、豚丹毒菌の病原因子として莢膜に着目して検討を進めたところ、前記莢膜の発現に影響を与える遺伝子を初めて同定した。そして、前記遺伝子を欠損させることで、公知の豚丹毒菌ワクチンである豚丹毒菌小金井65−0.15株よりも弱毒化した安全な株を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの活性が低下または失活されていることを特徴とするCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌、
〔2〕CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子が遺伝子破壊されていることにより、前記遺伝子の機能を低下または欠損された前記〔1〕に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌、
〔3〕CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子をコードする塩基配列を構成する少なくとも1つ以上の塩基が置換または欠失している前記〔1〕または〔2〕に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌、
〔4〕CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌ER432株(NITE P−02080)である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌、
〔5〕非ヒトの哺乳動物における豚丹毒菌に関連する疾患の治療または予防に使用するためのワクチン組成物であって、
前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌を含むことを特徴とするワクチン組成物、
〔6〕非ヒトの哺乳動物における疾患の治療または予防のための医薬組成物を製造するための、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用、
〔7〕前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌がワクチンベクターである前記〔6〕に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用
〔8〕前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌が、豚丹毒菌以外の外来異種抗原を発現するよう形質転換されている前記〔7〕に記載のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌の使用
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌は、公知の豚丹毒菌小金井65−0.15株に比べて、より弱毒化された株であるだけでなく、その弱毒化の機構が明らかであり、しかもPCR法等で野外株と容易に識別できる遺伝子マーカーを持つことから、安全性に優れたワクチン用株として使用することができる。
また、外来異種抗原を発現させたワクチンベクターとしても使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ欠損豚丹毒菌(以下、本発明の豚丹毒菌という)は、CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの活性を低下または失活させた豚丹毒菌である。
【0011】
前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼは、豚丹毒菌において、その病原因子である莢膜の発現に関わる酵素であり、「ENZYME: 2.7.8.12」として、例えば、豚丹毒菌藤沢株(Erysipelothrix rhusiopathiae str. Fujisawa)のゲノムDNAにおいて、471205番目〜472350番目の塩基配列にコードされている。前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼをコードする遺伝子とは、生命システム情報統合データベースであるKEGG(Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes)において、「ERH_0432」として公開されている1146個の塩基からなる遺伝子を指す。
【0012】
本発明の豚丹毒菌は、親株となる豚丹毒菌において、前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼをコードする遺伝子の機能が欠損されていることによって、菌体内におけるCDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの酵素活性が、前記親株に比べて低下しているものまたは前記酵素活性が完全に失活している形質転換株をいう。
【0013】
前記親株として用いる豚丹毒菌は、前記CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼをコードする遺伝子(以下、CGPTase遺伝子ともいう)を有するものであればよく、例えば、圃場、食肉検査所などの野外より分離された豚丹毒菌および市販されている豚丹毒菌のいずれでもよいが、特に限定はない。
【0014】
前記CGPTase遺伝子の機能を欠損させる方法としては、遺伝子組換法による遺伝子破壊、突然変異法による機能欠損の誘導などが挙げられる。例えば、操作性がよく、CGPTase遺伝子の機能を欠損させる効率がよい観点から、インフレーム・デリーション法を用いて、CGPTase遺伝子であるERH_0432遺伝子の上下流域の遺伝子をERH_0432遺伝子を除去した形で繋ぎ合わせたり、ERH_0432遺伝子の一部を除いて繋ぎ合わせたりして、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内に導入して、前記豚丹毒菌が有する染色体と前記遺伝子断片とをホモロガス・リコンビネーションで置き換える方法などが挙げられる。
なお、前記インフレーム・デリーション法、豚丹毒菌の菌体内に外来遺伝子を導入する方法、豚丹毒菌の菌体内で染色体と外来遺伝子とをホモロガス・リコンビネーションさせる方法などについては、公知の方法に従えばよい。
【0015】
前記遺伝子組換法による遺伝子破壊には、公知の方法を用いることができる。例えば、CGPTase遺伝子の断片もしくはその上流・下流の領域とマーカー遺伝子とを組み合わせたDNA断片をベクターに組み込み、プロトプラスト−PEG法やエレクトロポレーション法などによってベクターを親株の豚丹毒菌に取り込ませ、相同組換えによって当該DNA断片を親株の豚丹毒菌のゲノム中に導入する方法などを挙げられる。DNA断片を親株の豚丹毒菌細胞中に取り込ませる他の方法としては、パーティクルガン法、アグロバクテリウム法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。
【0016】
遺伝子組換法によって所期の遺伝子が豚丹毒菌に導入されたことを確認する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法等を用いて、目的とする遺伝子座がマーカーによって置換されていることを確認する必要がある。また、所期の遺伝子を導入する際に、親株として栄養要求性の突然変異株を、マーカー遺伝子として当該栄養要求性を補償するような機能を持つ遺伝子を用い、形質転換後に栄養要求性培地上で正常に生育した株を選抜する方法なども挙げられる。
【0017】
また、前記変異導入法としては、公知の処理方法を用いることができ、紫外線、イオンビーム、放射線等を照射させる物理的方法、エチルメタンスルホネート、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、アクリジン色素等の変異剤を用いる化学的方法がある。特に好ましくは、イオンビーム、紫外線を照射させる方法を挙げることができる。
【0018】
前記のような遺伝子破壊法、または変異導入法によってCGPTase遺伝子の機能が欠損し、CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの酵素活性が低下されている株または前記酵素活性が完全に失活されている株をスクリーニングする方法としては、選抜した候補株からゲノムDNAを抽出し、シークエンス解析で確認する方法などを挙げることができる。他の方法としては、コロニーハイブリダイゼーション法等を利用することができる。
【0019】
前記CGPTase遺伝子の機能が欠損している豚丹毒菌は、その酵素活性が失活していると判定する。なお、CGPTase遺伝子の機能が欠損していることの確認は、シークエンス等の公知の方法で行うことができる。具体的には、本発明においてCGPTaseをコードする塩基配列を構成する少なくとも1つ以上の塩基が置換または欠失していれば酵素活性を失活しているとする。置換または欠失されている塩基の数については、CGPTaseの酵素活性に影響を与えればよく、特に限定はない。例えば、後述の実施例のように、CGPTase遺伝子をコードする塩基配列を上流側、中央部、下流側に区別し、上流側と下流側とをつなぎ合わせることが挙げられるし、上流側、中央部、下流側のいずれかの領域の塩基配列を削除するだけでもよい。
【0020】
前記のようにして得られる本発明の豚丹毒菌は、ワクチンに使用される公知の豚丹毒菌小金井65−0.15株と比べて、より弱毒化された株であり、かつ、CGPTase遺伝子の機能を欠損させるという弱毒化の機構が明らかであり、しかも遺伝子マーカーとして前記CGPTase遺伝子を用い、PCR法等でCGPTase遺伝子が増幅されるか否かで、野外株と容易に識別できることから、安全性に優れたワクチンとして使用することができる。
なお、PCT法などでCGPTase遺伝子を増幅する手法については、使用する装置のマニュアルに従って行えばよく、特に限定はない。
【0021】
本発明の豚丹毒菌は、非ヒトの哺乳動物における豚丹毒菌に関連する疾患の治療または予防に使用するためのワクチン組成物に使用することができる。
【0022】
前記ワクチン組成物では、本発明の豚丹毒菌を生ワクチンとして使用する。
【0023】
本発明のワクチン組成物は、非ヒトの哺乳動物に投与することを目的とする。非ヒトの哺乳動物としては、ブタ、イノシシのほか、ニワトリ、七面鳥、イルカなどが挙げられるが特に限定はない。
【0024】
本発明のワクチン組成物の非ヒトの哺乳動物への投与は、例えば、皮下、皮内、鼻腔内的、経気管支的又は経口的に当業者に公知の方法により行いうる。
【0025】
また、前記ワクチン組成物は、本発明の豚丹毒菌と、溶媒とを含んでいればよい。
前記溶媒としては、水、生理食塩水、溶解液、グリコール、ポリグリコール、プロピレングリコール、ポリグリコールエーテル、DMSO、各種液体培地などが挙げられる。
また、必要に応じて、ラクトース、グルタメート、油性物質(鉱油、植物油、動物油)またはワックスを含んでもよい。
また、経口投与については、マンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、グルコース、スクロースおよび炭酸マグネシウムのような固体担体を用いてもよい。
前記成分の含有量としては、特に限定はない。
【0026】
本発明のワクチン組成物の投与量は、非ヒトの哺乳動物の体重や齢、投与方法、使用目的等により変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0027】
本発明のワクチン組成物による作用には、豚丹毒菌種の感染経験の無い動物への予防的な投与によって、感染症の発症を阻害する作用が含まれる。
【0028】
また、本発明の豚丹毒菌は、前記ワクチン組成物に加えて、治療または予防目的の疾患に対する有効成分を含有することで豚丹毒菌だけでなく、他の疾患の治療または予防するための医薬組成物を作製することができる。
前記有効成分としては、本発明の豚丹毒菌に悪影響を与えるものでなければよく、特に限定はない。
【0029】
また、本発明の豚丹毒菌には、豚丹毒菌以外の外来異種抗原などを組み込んで発現させることでワクチンベクターとして使用することもできる。
【0030】
前記外来異種抗原を本発明の豚丹毒菌で発現させる手段としては、例えば、特開2002−119285号公報に記載の方法に準じて、所望の外来異種抗原をコードする遺伝子を豚丹毒菌のSpaA.1遺伝子の中央部に挟むようにして設計したキメラ遺伝子を作製し、このキメラ遺伝子を本発明の豚丹毒菌に形質転換する方法が挙げられる。
前記外来異種抗原としては、例えば、マイコプラズマ・ハイオニューモニエのP97抗原
などが挙げられるが、特に限定はない。
【0031】
以上のようにして得られる本発明の豚丹毒菌は、常法の培養手段を用いることで、低コストで簡易に増殖させることができる。また、本発明の豚丹毒菌は非ヒトの哺乳動物に投与されると、前記動物体内の各部に定着し、その各部に導入された各種感染防御抗原を投与することができる。
さらに、本発明の豚丹毒菌は、生きている限り、定着している前記動物体内に感染防御抗原を供給し続けることが可能であるため、一度、豚丹毒菌を投与すれば所望の効果が奏される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例において本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0033】
(実施例1)CGPTase遺伝子欠損豚丹毒菌ER432株(NITE P−02080)の作製
CGPTase遺伝子であるERH_0432遺伝子上下流域の遺伝子を、インフレーム・デリーション法によって、ERH_0432遺伝子を除去した形でつなぎ合わせ、得られた遺伝子断片を豚丹毒菌の菌体内にエレクトロポレーション法を用いて導入することにより、豚丹毒菌の染色体とその遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株を作製した。
インフレーム・デリーション法は、具体的には、Appl Environ Microbiol. 2004, 70(11):6887-6891 に記載の手順に基づいておこなった。
なお、遺伝子断片は、ERH_0432遺伝子の上下流域の断片をそれぞれPCR法により増幅し、それらを結合させた形の遺伝子断片をさらにテンプレートとしてPCRを行うことにより得た。なお、PCRの条件は、添付のマニュアルに従った。
豚丹毒菌としては、豚丹毒菌Fujisawa株を用いた。
得られた遺伝子断片は、ERH_0432遺伝子の5’側に36塩基、3’側に18塩基のみを残した、ERH_0432遺伝子1146塩基中、合計1092塩基が欠損された配列番号1で示される54塩基のものであった。
また、前記遺伝子断片がホモロガス・リコンビネーションで置き換わった株の確認は、ERH_0432遺伝子の上下流に設計したプライマーを用いてPCRを行い、その遺伝子断片の配列をシークエンスにより確認することで行った。
【0034】
得られたER432株について、シークエンスにより遺伝子配列を確認したところ、親株であるFujisawa株ではCGPTase遺伝子を有していたのに対して、ER432株では、前記配列番号1で示されるように、CGPTase遺伝子が欠損していることを確認した。
したがって、ER432株は、CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼ遺伝子が遺伝子破壊されていることにより、前記遺伝子の機能が欠損されて、CDP−グリセロールグリセロフォスフォトランスフェラーゼの活性を失活した豚丹毒菌であることがわかった。
なお、前記シークエンスには、Applied Biosystems 社製「3130xl Genetic Analyzer」を用いた。
【0035】
なお、豚丹毒菌(エリシペロスリクス・ルシオパシエ)である前記ER432株は、本件出願人が、平成27年7月8日付けにて独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物センターに寄託し、受託番号「NITE P-02080」が付されている。
【0036】
(試験例1)安全性試験
実施例1で得られたER432株および小金井65−0.15株をそれぞれ、4匹の無菌豚に3×10
9CFUの量に調整して皮下接種した。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す結果より、小金井65−0.15株を接種した豚はすべて死亡したのに対して、ER432株を接種した豚はすべて生残し、1頭が元気消失を示した他は無症状であった。
これらの結果から、ER432株は、小金井65−0.15株と比べて、極めて弱毒化されていることがわかる。
【0039】
(試験例2)ワクチン試験
実施例1で得られたER432株および小金井65−0.15株をそれぞれ、3匹のSPF豚に10
10CFUの量に調整して、ミルクと混合して経口投与した。また、ミルクのみを与えた豚2頭は対照コントロールとした。その後、前記経口投与の最終日から16日後、10
8CFU菌量の豚丹毒菌強毒株で攻撃した。その結果を表2に示す。なお、豚丹毒菌強毒株としては、豚丹毒菌Fujisawa株を用いた。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示す結果より、小金井65−0.15株と同様に、ER432株を摂取した豚はすべて生残した。なお、ER432株を投与した豚の2頭で一過性の発赤が接種場所に認められたが、小金井65−0.15株を投与した豚と同様にすべて生存した。
これらの結果から、ER432株は、安全性および防御誘導能に優れた株であることがわかる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]