(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウム複合金属化合物を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、少なくとも一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在し、水銀圧入法によって得られた細孔分布において、細孔径が10nm以上200nm以下の範囲の細孔表面積が0.4m2/g以上3.0m2/g以下であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
CuKα線を使用した粉末X線回折測定での2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαが500〜850Åである請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
水銀圧入法によって得られた細孔分布において、細孔径が10nm以上200nm以下の範囲の細孔容積が0.01mL/g以上0.06mL/g以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<リチウム二次電池用正極活物質>
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウム複合金属化合物を含み、少なくとも一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在し、水銀圧入法によって得られた細孔分布において、細孔径が10nm以上200nm以下の範囲の細孔表面積が0.4m
2/g以上3.0m
2/g以下であることを特徴とする。
【0010】
(要件1)
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウム複合金属化合物を含む。二次粒子は一次粒子の粒子間隙(空隙)を有し、該粒子間隙は二次粒子全体に分散している。本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、少なくとも一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在する。
少なくとも一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在することで、サイクル後の粒子の割れを大幅に抑制できる。
本実施形態において、リチウム含有タングステン酸化物が一次粒子の粒子間隙に存在していればよく、一次粒子の粒子間隙を埋めるようにリチウム含有タングステン酸化物が存在していてもよく、一次粒子の粒子間隙の、一次粒子表面にリチウム含有タングステン酸化物が存在していてもよい。また、二次粒子の表面にリチウム含有タングステン酸化物が存在していてもよい。
【0011】
さらに、リチウム含有タングステン化合物が、一次粒子粒界に存在することが好ましい。本実施形態において、「一次粒子粒界」とは、一次粒子同士が接触している界面を意味する。
【0012】
リチウム二次電池用正極活物質が(要件1)を満たしているか否かは、例えば、リチウム二次電池用正極活物質を透過型電子顕微鏡で観察することにより、確認できる。
【0013】
(要件2)
・水銀圧入法による細孔分布
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質は、水銀圧入法によって得られた細孔分布において、細孔径が10nm以上200nm以下の範囲の細孔表面積が0.4m
2/g以上3.0m
2/g以下である。
【0014】
本発明の効果をより高める観点から、前記細孔表面積の上限値は2.8m
2/g以下であることがより好ましく、2.5m
2/g以下であることが更に好ましい。前記細孔表面積の下限値は0.5m
2/g以上であることがより好ましく、0.6m
2/g以上であることが更に好ましい。細孔表面積の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0015】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池の出力特性を向上させるという観点においては、細孔径が10nm以上200nmの範囲での細孔容積が0.01mL/g以上0.06mL/g以下であることが好ましい。細孔容積の上限値は、0.059mL/g以下あることがより好ましく、0.058mL/g以下であることが特に好ましい。細孔容積の下限値は、0.012mL/g以上であることがより好ましく、0.015mL/g以上であることが特に好ましい。上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0016】
本実施形態において、リチウム二次電池用正極活物質の細孔表面積と細孔容積は下記のような方法で得ることができる。
【0017】
まず、試料の入った容器内を真空排気した上で、容器内に水銀を満たす。水銀は表面張力が高く、そのままでは試料の表面の細孔には水銀は浸入しないが、水銀に圧力をかけ、徐々に昇圧していくと、径の大きい細孔から順に径の小さい細孔へと、徐々に細孔の中に水銀が浸入していく。圧力を連続的に増加させながら細孔への水銀圧入量を検出していけば、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係から水銀圧入曲線が得られる。ここで、細孔の形状を円筒状と仮定し、水銀に加えられた圧力をP、その細孔径(細孔直径)をD、水銀の表面張力をσ、水銀と試料との接触角をθとすると、細孔径は、下記式(A)で表される。
D=−4σ×cosθ/P ・・・(A)
【0018】
σ、θは定数であるから式(A)より、加えた圧力Pと細孔直径Dの関係が求められ、そのときの水銀浸入体積を測定することにより、細孔表面積と細孔容積を導くことができる。
すなわち水銀に加えた圧力Pと水銀が浸入する細孔の直径Dとの間には相関があることから、得られた水銀圧入曲線に基づいて、試料の細孔半径の大きさとその体積との関係を表す細孔分布曲線を得ることができる。なお、水銀圧入法による細孔径のおおよその測定限界は、下限が約2nm以上、上限が約200μm以下である。水銀圧入法による測定は、水銀ポロシメータ等の装置を用いて行うことができる。水銀ポロシメータの具体例としては、オートポアIII9420(Micromeritics 社製)等が挙げられる。
【0019】
本実施形態において、リチウム複合金属化合物は下記組成式(I)で表されるものが好ましい。
Li[Lix(Ni(1−y−z−w)CoyMnzMw)1−x]O
2 ・・・(I)
(組成式(I)中、−0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0<z≦0.8、0≦w≦0.1、1−y−z−w<1、y+z+w<1、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。)
【0020】
サイクル特性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるxは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本明細書において、「サイクル特性が高い」とは、放電容量維持率が高いことを意味する。
【0021】
また、放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.10以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましく、0.30以上であることがさらに好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるyは0.49以下であることが好ましく、0.48以下であることがより好ましく、0.47以下であることがさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0022】
また、高い電流レートにおける放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.02以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。また、放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるzは0.38以下であることが好ましく、0.36以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0023】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるwは0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、前記組成式(I)におけるbは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0024】
前記組成式(I)におけるMはFe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の金属を表す。
【0025】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、組成式(I)におけるMは、Ti、B、Mg、Al、W、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点からは、B、Al、Zrからなる群より選択される1種以上の金属であることが好ましい。
【0026】
・結晶子サイズ
本実施形態において、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピークおける結晶子サイズαが500Å〜850Åであることが好ましい。
まず、リチウム二次電池用正極活物質について、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内の回折ピーク(以下、ピークA’と呼ぶこともある)を決定する。
さらに、決定したピークA’の半値幅Aを算出し、Scherrer式 D=Kλ/Bcosθ (D:結晶子サイズ、K:Scherrer定数、B:ピーク線幅)を用いることで結晶子サイズを算出することが出来る。該式により、結晶子サイズを算出することは従来から使用されている手法である(例えば「X線構造解析−原子の配列を決める−」2002年4月30日第3版発行、早稲田嘉夫、松原栄一郎著、参照)。
【0027】
本実施形態において、結晶子サイズαは、550Å以上がより好ましく、570Å以上が特に好ましい。また、820Å以下がより好ましく、800Å以下が特に好ましい。
結晶子サイズαの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0028】
また、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.6±1°の範囲内の回折ピーク(以下、ピークB’と呼ぶこともある)における結晶子サイズβが200Å〜500Åであることが好ましい。
結晶子サイズβの上限値は、490Å以下がより好ましく、480Å以下が特に好ましい。結晶子サイズβの下限値は、250Å以上がより好ましく、300Å以上が特に好ましい。
結晶子サイズβの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0029】
本実施形態において、リチウム含有タングステン酸化物はLi
2WO
4又はLi
4WO
5の少なくとも1種であることが好ましい。
【0030】
リチウム二次電池用正極活物質中に存在するリチウム含有タングステン酸化物の組成は、X線光電子分光(XPS)分析またはX線吸収微細構造(XAFS:X−ray Absorption Fine Structure)解析などで確認することができる。
XPS分析はサンプル表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで、サンプルの構成元素とその電子状態を分析することができる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。XAFS解析は、測定対象に照射する前のX線強度(I
0)と測定対象を透過した後のX線強度(I)の比(I/I
0)を測定、解析することにより、着目する原子の局所構造(例えば、該原子の価数、隣接する原子種、結合性)等の情報を得ることができる。シンクロトロン放射光施設のビームラインを利用することで測定できる。前記のような分析を実施することで、リチウム含有タングステン酸化物の組成分析を行うことができる。
【0031】
(BET比表面積)
本実施形態において、高い電流レートでの放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点からBET比表面積(m
2/g)は、0.1m
2/g以上であることが好ましく、0.3m
2/g以上であることがより好ましく、0.5m
2/g以上であることがさらに好ましい。また、リチウム二次電池用正極活物質の吸湿性を低くする観点から、正極活物質のBET比表面積(m
2/g)は、4.0m
2/g以下であることが好ましく、3.8m
2/g以下であることがより好ましく、3.0m
2/g以下であることがさらに好ましい。
リチウム二次電池用正極活物質のBET比表面積(m
2/g)の上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0032】
(層状構造)
リチウム二次電池用正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、六方晶型の結晶構造又は単斜晶型の結晶構造であることがより好ましい。
【0033】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3
1、P3
2、R3、P−3、R−3、P312、P321、P3
112、P3
121、P3
212、P3
221、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P−31m、P−31c、P−3m1、P−3c1、R−3m、R−3c、P6、P6
1、P6
5、P6
2、P6
4、P6
3、P−6、P6/m、P6
3/m、P622、P6
122、P6
522、P6
222、P6
422、P6
322、P6mm、P6cc、P6
3cm、P6
3mc、P−6m2、P−6c2、P−62m、P−62c、P6/mmm、P6/mcc、P6
3/mcm、P6
3/mmcからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0034】
また、単斜晶型の結晶構造は、P2、P2
1、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2
1/m、C2/m、P2/c、P2
1/c、C2/cからなる群から選ばれるいずれか一つの空間群に帰属される。
【0035】
これらのうち、放電容量が高いリチウム二次電池用正極活物質を得る観点から、結晶構造は、空間群R−3mに帰属される六方晶型の結晶構造、又はC2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造であることが特に好ましい。
【0036】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、ニッケル、コバルト、マンガンを含む複合金属化合物粉末を加熱し、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液を前記複合金属化合物粉末に噴霧し、混合して混合粉末を製造し、その後、前記混合粉末を冷却する噴霧混合工程と、リチウム塩と、前記混合物粉末とを混合し、焼成してリチウム複合金属化合物を製造する工程と、を有する方法により、製造することが好ましい。
リチウム二次電池用正極活物質の製造方法においては、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、B、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む複合金属化合物を調製し、当該複合金属化合物を適当なリチウム塩と焼成することが好ましい。複合金属化合物としては、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物が好ましい。
より詳細には、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、前記噴霧混合工程を有する複合金属化合物の製造工程と、リチウム複合金属化合物の製造工程と、を備える。
以下、リチウム複合金属化合物の製造方法の各工程について説明する。
【0037】
[複合金属化合物の製造工程]
複合金属化合物の製造工程は、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、B、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む複合金属化合物を調製する工程である。
【0038】
複合金属化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む複合金属水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0039】
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、Ni
xCo
yMn
z(OH)
2(式中、x+y+z=1)で表される複合金属水酸化物を製造する。
【0040】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、上記Ni
xCo
yMn
z(OH)
2の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0041】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものであり、例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0042】
沈殿に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0043】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、Ni
xCo
yMn
z(OH)
2が製造される。反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30〜70℃の範囲内で制御され、反応槽内のpH値は例えばpH9以上pH13以下、好ましくはpH11〜13の範囲内で制御され、反応槽内の物質が適宜撹拌される。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離のためオーバーフローさせるタイプのものである。
【0044】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、下記工程で最終的に得られるリチウム金属複合酸化物の上記要件に示す細孔径、平均二次粒子径等の各種物性を制御することができる。とりわけ、所望とする細孔径、細孔表面積、細孔容積、結晶子サイズを実現するためには、上記の条件の制御に加えて、各種気体、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の酸化性ガス、あるいはそれらの混合ガスによるバブリングを併用しても良い。気体以外に酸化状態を促すものとして、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン、オゾンなどを使用することができる。気体以外に還元状態を促すものとして、シュウ酸、ギ酸などの有機酸、亜硫酸塩、ヒドラジンなどを使用することができる。
【0045】
例えば、反応槽内の反応pHを高くすると、金属複合化合物の一次粒子径は小さくなり、BET比表面積が高い金属複合化合物が得られやすい。一方、反応pHを低くすると、BET比表面積が低い金属複合化合物が得られやすい。また、反応槽内の酸化状態を高くすると、空隙を多く有する金属複合酸化物が得られやすい。一方、酸化状態を低くすると、緻密な金属酸化物が得られやすい。
【0046】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガンを含む複合金属化合物としてのニッケルコバルトマンガン水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄しても良い。なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製しても良い。
【0047】
・噴霧混合工程
噴霧混合工程では、上記工程で得たニッケル、コバルト、マンガンを含む複合金属化合物粉末を加熱し、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液を前記複合金属化合物粉末に噴霧し、混合して混合粉末を製造する。その後、前記混合粉末を冷却する。
【0048】
噴霧混合工程では、タングステン化合物をアルカリ溶液に溶解する。溶解方法は特に限定されず、例えば、撹拌装置付きの反応槽を用いて、溶液を撹拌しながらタングステン化合物を添加して溶解すればよい。タングステンの異物の発生を抑制する観点から、タングステン化合物は、アルカリ溶液に完全に溶解させ、均一に分散させることが好ましい。
【0049】
次に、上記工程で得たニッケル、コバルト、マンガンを含む複合金属化合物粉末を加熱し、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液を前記複合金属化合物粉末に噴霧し、混合して混合粉末を製造する。
複合金属化合物粉末は、アルカリ溶液が蒸発する温度以上に加熱することが好ましい。
より具体的には、複合金属化合物粉末の温度の下限値は100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましい。複合金属化合物粉末の温度の上限値は特に限定されず、例えば、150℃以下、130℃以下、120℃以下が挙げられる。
上記上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0050】
噴霧混合工程では、加熱した複合金属化合物粉末に、タングステン化合物を溶解させたアルカリ溶液を噴霧し、複合金属化合物とタングステン化合物とを混合する。アルカリ溶液の噴霧時の供給量(L/min)や、吐出圧(MPa)は、用いる加熱噴霧装置の仕様等によって適宜設定される。
一例を上げると、吐出圧力は0.05MPa〜1.0MPaで、10分間〜600分間程度噴霧混合することが好ましい。
【0051】
噴霧混合工程で用いるタングステン化合物は、アルカリ溶液に対して可溶であれば特に限定されず、酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸リチウムを用いることができる。本実施形態においては、中でも、酸化タングステンを用いることが好ましい。
【0052】
噴霧混合工程においては、上記のタングステン化合物をアルカリ溶液に溶解させて用いる。アルカリ溶液に用いるアルカリとしては、アンモニア、水酸化リチウムを用いることができる。本実施形態においては、水酸化リチウムを用いることが好ましい。
【0053】
上記の各条件で噴霧混合した後、室温程度にまで混合粉末を冷却する。
【0054】
噴霧混合工程を有する製造方法により、少なくとも一次粒子の粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在するリチウム二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0055】
[リチウム複合金属化合物を製造する工程]
上記複合金属化合物とタングステン化合物との混合粉末(以下、「混合粉末」と記載する)をリチウム塩と混合する。リチウム塩としては、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム水和物、酸化リチウムのうち何れか一つ、または、二つ以上を混合して使用することができる。
【0056】
混合粉末は、適宜分級を行っても良い。以上のリチウム塩と混合粉末とは、最終目的物の組成比を勘案して用いられる。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該混合粉末は、LiNi
xCo
yMn
zO
2(式中、x+y+z=1)の組成比に対応する割合で用いられる。
また、リチウム塩と当該混合粉末は、リチウム化合物中のリチウムと、ニッケルを含む混合粉末中の金属元素(Me)とのモル比(Li/Me)が1を超える比率となるように混合してもよい。
【0057】
リチウム塩と前記混合粉末の混合物を焼成することによって、少なくとも一次粒子間隙にリチウム含有タングステン酸化物が存在したリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(リチウム複合金属化合物)が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられ、必要ならば複数の加熱工程が実施される。
【0058】
上記混合粉末と、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、600℃以上1100℃以下であることが好ましく、750℃以上1050℃以下であることがより好ましく、800℃以上1025℃以下がさらに好ましい。
【0059】
焼成時間は、3時間〜50時間が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、Liの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、仮焼成を行うことも有効である。この様な仮焼成の温度は、300〜850℃の範囲で、1〜10時間行うことが好ましい。焼成雰囲気、焼成温度、焼成時間を適宜調整することにより、結晶子サイズを上記所望の範囲に制御できる。なかでも焼成雰囲気と焼成温度を調整することにより制御することが好ましく、一例をあげると、焼成温度を上記下限値以上とすることにより、規則正しい結晶を持ったリチウム複合金属化合物が得られやすく、結晶子サイズを上記所望の範囲に制御できる。
【0060】
焼成によって得たリチウム複合金属化合物は、粉砕後に適宜分級され、リチウム二次電池に適用可能な正極活物質とされる。
【0061】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0062】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0063】
図1は、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0064】
まず、
図1(a)に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0065】
次いで、
図1(b)に示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0066】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0067】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0068】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0069】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0070】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0071】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0072】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。
この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。
)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0073】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0074】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0075】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0076】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0077】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
【0078】
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0079】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0080】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0081】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2、SiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2、TiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5、VO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3、FeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2、SnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3、WO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li
4Ti
5O
12、LiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0082】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2、TiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2、VSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2、FeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3、MoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2、SnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se
5S
3、SeS
2、SeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0083】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N、Li
3−xA
xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0084】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0085】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0086】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu
2Sb、La
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0087】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0088】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0089】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0090】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0091】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0092】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0093】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0094】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0095】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0096】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(COCF
3)、Li(C
4F
9SO
3)、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2およびLiC(SO
2CF
3)
3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0097】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0098】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0099】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF
6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0100】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4、Li
2S−GeS
2−P
2S
5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0101】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0102】
以上のような構成の正極活物質は、上述した本実施形態のリチウム複合金属化合物を用いているため、正極活物質を用いたリチウム二次電池の寿命を延ばすことができる。
【0103】
また、以上のような構成の正極は、上述した本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質を有するため、リチウム二次電池の寿命を延ばすことができる。
【0104】
さらに、以上のような構成のリチウム二次電池は、上述した正極を有するため、従来よりも寿命の長いリチウム二次電池となる。
【実施例】
【0105】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0106】
本実施例においては、リチウム二次電池用正極活物質の評価を、次のようにして行った。
【0107】
[リチウム含有タングステン酸化物の存在の観察]
リチウム含有タングステン酸化物の存在箇所は以下の手法で確認した。リチウム二次電池用正極活物質を集束イオンビーム加工装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、FB2200)で加工し、透過型電子顕微鏡(TEM)で二次粒子の断面観察が可能な状態とした。その後、前記二次粒子の断面をTEM観察(日本電子株式会社製、JEM−2100F)し、二次粒子表面や、二次粒子内に存在する一次粒子の粒子間隙を複数の箇所に渡ってエネルギー分散型X線分析(EDX、日本電子株式会社製、Centurio)で元素分析した。EDXでタングステンが検出された場所をリチウム含有タングステン酸化物の存在箇所とした。
【0108】
[BET比表面積測定]
リチウム二次電池用正極活物質粉末1gを窒素雰囲気中、150℃で15分間乾燥させた後、マウンテック社製Macsorb(登録商標)を用いて測定した。
【0109】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、レーザー回折粒度分布計(株式会社堀場製作所製、LA−950)を用い、リチウム二次電池用正極活物質粉末又は複合金属化合物粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液50mlに投入し、該粉末を分散させた分散液を得た。得られた分散液について粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、50%累積時の微小粒子側から見た粒子径(D
50)の値を、リチウム二次電池用正極活物質の平均粒子径とした。
【0110】
[結晶子サイズの測定]
リチウム金属複合酸化物の粉末X線回折測定は、X線回折装置(PANalytical社製、X’Prt PRO)を用いて行った。得られたリチウム金属複合酸化物を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。粉末X線回折パターン総合解析ソフトウェアJADE5を用い、該粉末X線回折図形からピークA’に対応するピークの半値幅およびピークB’に対応するピークの半値幅を得て、Scherrer式により、結晶子径を算出した。
ピークA’: 2θ=18.7±1°
ピークB’: 2θ=44.6±1°
【0111】
[リチウム二次電池用正極活物質の水銀圧入法による細孔分布測定]
前処理としてリチウム金属複合酸化物を120℃、4時間、恒温乾燥した。オートポアIII9420(Micromeritics 社製)を用いて、下記の測定条件にて細孔分布測定を実施した。なお水銀の表面張力は480dynes/cm、水銀と試料の接触角は140°とした。
【0112】
測定条件
測定温度 : 25℃
測定圧力 : 1.07psia〜59256.3psia
【0113】
[リチウム含有タングステン酸化物の組成分析]
リチウム含有タングステン酸化物の組成分析はXAFS解析を利用した。作製したリチウム含有タングステン酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質をビームライン(測定装置)に導入し、以下の条件でタングステン原子のXAFS測定、解析を実施した。また、リチウム含有タングステン酸化物の標準試料(Li
2WO
4やLi
4WO
5など)のXAFS測定も併せて実施した。
測定装置 :大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 BL−12C 測定吸収端 :W−L3吸収端(10000〜10500eV)
得られたXAFSスペクトルはピーク値からベースライン値を差し引き、正極と標準試料のピーク形状を比較することで、リチウム含有タングステン酸化物の組成分析を実施した。
【0114】
[リチウム二次電池用正極活物質の組成分析]
後述の方法で製造されるリチウム金属複合酸化物粉末の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0115】
[サイクル後の粒子割れの測定]
下記の方法により、リチウム二次電池を作製し、充放電試験後に、粒子の割れの有無を観察した。粒子の割れの有無の確認は以下の手法で行った。充放電試験後のリチウム二次電池をグローブボックス中で解体し、正極を取り出した。該正極をイオンミリング装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000)で加工し、電極の合材層に含まれる正極活物質の断面を得た。次に走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)を用いて、前記加工によって得た正極活物質の断面を二次電子像で観察した。一次粒子間の接合部分に亀裂が生じている粒子の有無を確認した。
比較例1〜5の粒子断面を基準とし、比較例よりも粒子の割れが多く確認されたものを「粒子割れあり」とした。
【0116】
〔リチウム二次電池の作製〕
・リチウム二次電池用正極の作製
後述する製造方法で得られるリチウム二次電池用正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、リチウム二次電池用正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N−メチル−2−ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0117】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得た。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cm
2とした。
【0118】
・リチウム二次電池用負極の作製
次に、負極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製MAGD)と、バインダーとしてCMC(第一工業薬製株式会社製)とSBR(日本エイアンドエル株式会社製)とを、負極活物質:CMC:SRR=98:1:1(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の負極合剤を調製した。負極合剤の調製時には、溶媒としてイオン交換水を用いた。
【0119】
得られた負極合剤を、集電体となる厚さ12μmのCu箔に塗布して100℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用負極を得た。このリチウム二次電池用負極の電極面積は1.77cm
2とした。
【0120】
・リチウム二次電池(コイン型フルセル)の作製
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
「リチウム二次電池用正極の作製」で作製したリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上に積層フィルムセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置いた。ここに電解液を300μl注入した。電解液は、エチレンカーボネート(以下、ECと称することがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCと称することがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCと称することがある。)の16:10:74(体積比)混合液にビニレンカーボネート(以下、VCと称することがある。)を1体積%加え、そこにLiPF
6を1.3mol/lとなるように溶解したもの(以下、LiPF
6/EC+DMC+EMCと表すことがある。)を用
いた。
次に、「リチウム二次電池用負極の作製」で作製したリチウム二次電池用負極を積層フィルムセパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池(コイン型フルセルR2032。以下、「フルセル」と称することがある。
)を作製した。
【0121】
・放電試験
「リチウム二次電池(コイン型フルセル)の作製」で作製したフルセルを用いて、以下に示す条件で初回充放電試験を実施した。
<充放電試験条件>
試験温度:25℃
充電最大電圧4.2V、充電時間6時間、充電電流0.2CA、定電流定電圧充電
放電最小電圧2.7V、放電時間5時間、放電電流0.2CA、定電流放電
<サイクル試験条件1>
上記コイン型フルセルを用いて、60℃環境下にて下記条件のサイクル試験500サイクルを実施した。
充電電圧4.1V、充電電流2.0CA、定電流充電
放電電圧3.0V、放電電流2.0CA、定電流放電
<サイクル試験条件2>
上記コイン型フルセルを用いて、45℃環境下にて下記条件のサイクル試験200サイクルを実施した。
充電電圧4.35V、充電電流0.5CA、定電流定電圧充電
放電電圧2.5V、放電電流1.0CA、定電流放電
【0122】
<比較例1>
≪リチウム二次電池用正極活物質1の製造≫
[複合金属化合物の製造工程]
攪拌機およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを12.6に、液温を30℃に保持した。
【0123】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が55:21:24となるように混合し混合原料液を調整した。
【0124】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が8.3%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが12.6になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物1を得た。
【0125】
ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物1と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.08となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下、760℃で5時間の一次焼成を行い、その後、大気雰囲気下、850℃で10時間の二次焼成して、目的のリチウム二次電池用正極活物質1を得た。このリチウム二次電池用正極活物質1のBET比表面積は、2.0m
2/gであり、D
50は4.5μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは830Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは517Åであり、α/βは1.61であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0.035mL/gであり、累積細孔表面積は1.515m
2/gであった。
【0126】
≪リチウム二次電池用正極活物質1の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質1の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.04、y=0.21、z=0.24、w=0、であった。
【0127】
得られたリチウム二次電池用正極活物質1をサイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質1の粒子の割れを観察した結果、粒子内部に粒子の割れが観察された。
【0128】
<比較例2>
≪リチウム二次電池用正極活物質2の製造≫
[複合金属化合物の製造工程]
攪拌機およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを13.0に、液温を30℃に保持した。
【0129】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が55:21:24となるように混合し混合原料液を調整した。
【0130】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が0%となるように窒素ガスを反応槽内に連続通気させた。
反応槽内の溶液のpHが13.0になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物2を得た。
【0131】
ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物2と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.06となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下、760℃で5時間の一次焼成を行い、その後、大気雰囲気下、850℃で10時間の二次焼成して、目的のリチウム二次電池用正極活物質2を得た。このリチウム二次電池用正極活物質2のBET比表面積は、0.7m
2/gであり、D
50は6.9μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは752Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは438Åであり、α/βは1.72であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0mL/gであり、累積細孔表面積は0.005m
2/gであった。
【0132】
≪リチウム二次電池用正極活物質2の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質2の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.21、z=0.24、w=0、であった。
【0133】
得られたリチウム二次電池用正極活物質2をサイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質2の粒子の割れを観察した結果、粒子内部に粒子の割れが観察された。
【0134】
<比較例3>
≪リチウム二次電池用正極活物質3の製造≫
次に、比較例2と同様にして得たニッケルコバルトマンガン複合金属化合物2と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.06となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下、760℃で5時間の一次焼成を行い、得られた1次焼成粉と酸化タングステン粉末をニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計に対するタングステン原子の原子比が0.5mol%となるように混合し、混合粉末3を得た。
【0135】
混合粉末3を、850℃で10時間の二次焼成して、目的のリチウム二次電池用正極活物質3を得た。このリチウム二次電池用正極活物質3のBET比表面積は、0.7m
2/gであり、D
50は6.4μmであった。さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは752Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは425Åであり、α/βは1.71であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0mL/gであり、累積細孔表面積は0.308m
2/gであった。
【0136】
≪リチウム二次電池用正極活物質3の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質3を透過型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム含有タングステン酸化物は二次粒子内部の一次粒子間隙には存在せず、二次粒子の表面のみを被覆していた。
さらに、リチウム二次電池用正極活物質3の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.03、y=0.21、z=0.24、w=0、であった。
また、リチウム二次電池用正極活物質3に含まれるタングステン含有量は、遷移金属の全モル量に対して0.5mol%であった。
【0137】
得られたリチウム二次電池用正極活物質3をサイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質3の粒子の割れを観察した結果、粒子内部に粒子の割れが観察された。
【0138】
<実施例1>
≪リチウム二次電池用正極活物質4の製造≫
・噴霧混合工程
比較例1と同様にして得たニッケルコバルトマンガン複合金属化合物1を105℃に加熱し、混合しながら、水酸化リチウム水溶液に酸化タングステンを溶解させたアルカリ溶液を1時間噴霧した。この時、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計に対するタングステン原子の原子比が0.5mol%となるようにアルカリ溶液中のタングステン濃度を調整した。その後冷却し、混合粉末4を得た。この時の噴霧条件は下記の通りである。
{噴霧条件}
ノズル径:45μm
吐出圧 :0.6MPaG
流量 :1.9L/h
ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物粉末量:4100g
アルカリ溶液量:1850g
【0139】
[リチウム複合金属酸化物4の製造工程]
混合粉末4と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.13となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下760℃で5時間の一次焼成を行い、さらに、大気雰囲気下850℃で10時間の二次焼成をして、目的のリチウム二次電池用正極活物質4を得た。このリチウム二次電池用正極活物質4のBET比表面積は、2.5m
2/gであり、D
50は3.6μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは746Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは469Åであり、α/βは1.59であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0.055mL/gであり、累積細孔表面積は1.281m
2/gであった。
【0140】
≪リチウム二次電池用正極活物質4の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質4を透過型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム含有タングステン酸化物が二次粒子内部の一次粒子間隙、及び、二次粒子の表面に存在していることが確認できた。
さらに、リチウム二次電池用正極活物質4の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、y=0.21、z=0.24、w=0であった。
また、リチウム二次電池用正極活物質4に含まれるタングステン含有量は、遷移金属の全モル量に対して0.5mol%であった。
【0141】
得られたリチウム二次電池用正極活物質4を、XAFSにて測定したところリチウム二次電池用正極活物質に含まれるリチウム含有タングステン酸化物の主成分はLi
4WO
5であった。
【0142】
サイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質4の粒子の割れを観察した結果、粒子の割れは確認できず、比較例1、2,3に対して大幅に改善された。
【0143】
<比較例4>
≪リチウム二次電池用正極活物質5の製造≫
[複合金属化合物の製造工程]
攪拌機およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを11.7に、液温を50℃に保持した。
【0144】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が32:33:36となるように混合し混合原料液を調整した。
【0145】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が3.3%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを反応槽内に連続通気させた。反応槽内の溶液のpHが11.7になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物5を得た。
【0146】
ニッケルコバルトマンガン複合金属化合物5と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.13となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下、760℃で5時間の一次焼成を行い、その後、大気雰囲気下、850℃で10時間の二次焼成して、目的のリチウム二次電池用正極活物質5を得た。このリチウム二次電池用正極活物質5のBET比表面積は、2.4m
2/gであり、D
50は4.0μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは830Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは508Åであり、α/βは1.63であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での積細孔容積は0.039mL/gであり、累積細孔表面積は0.822m
2/gであった。
【0147】
≪リチウム二次電池用正極活物質5の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質5の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.06、y=0.33、z=0.36、w=0、であった。
【0148】
得られたリチウム二次電池用正極活物質5をサイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質5の粒子の割れを観察した結果、粒子内部に粒子の割れが観察された。
【0149】
<実施例2>
≪リチウム二次電池用正極活物質6の製造≫
・噴霧混合工程
比較例4で得たニッケルコバルトマンガン複合金属化合物5を105℃に加熱し、混合しながら、水酸化リチウム水溶液に酸化タングステンを溶解させたアルカリ溶液を0.5時間噴霧した。この時、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計に対するタングステン原子の原子比が0.5mol%となるようにアルカリ溶液中のタングステン濃度を調整した。その後冷却し、混合粉末6を得た。この時の噴霧条件は下記の通りである。
{噴霧条件}
ノズル径:45μm
吐出圧 :0.6MPaG
流量 :1.9L/h
ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物粉末量:4100g
アルカリ溶液量:950g
【0150】
[リチウム複合金属酸化物の製造工程]
混合粉末6と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn)=1.11となるように秤量して混合した後、大気雰囲気下690℃で5時間の一次焼成をし、さらに、大気雰囲気下950℃で6時間の二次焼成をして、目的のリチウム二次電池用正極活物質6を得た。このリチウム二次電池用正極活物質6のBET比表面積は、2.4m
2/gであり、D
50は3.4μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは797Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは467Åであり、α/βは1.71であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0.037mL/gであり、累積細孔表面積は0.955m
2/gであった。
【0151】
≪リチウム二次電池用正極活物質6の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質6を透過型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム含有タングステン酸化物が二次粒子内部の一次粒子間隙、及び、二次粒子の表面に存在していることが確認できた。
さらに、リチウム二次電池用正極活物質6の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.05、y=0.33、z=0.35、w=0、であった。
また、リチウム二次電池用正極活物質2に含まれるタングステン含有量は、遷移金属の全モル量に対して0.5mol%であった。
得られたリチウム二次電池用正極活物質6を、XAFSにて測定したところリチウム二次電池用正極活物質に含まれるリチウム含有タングステン酸化物の主成分はLi
4WO
5であった。
【0152】
サイクル試験条件1でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質6の粒子の割れを観察した結果、粒子の割れは確認できず、比較例4に対して大幅に改善された。
【0153】
<比較例5>
≪リチウム二次電池用正極活物質7の製造≫
[複合金属化合物の製造工程]
攪拌機およびオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを12.1に、液温を60℃に保持した。
【0154】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が87.5:9.5:2となるように混合し混合原料液を調整した。
【0155】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と10.8質量%の硫酸アルミ水溶液、硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、酸素濃度が5.0%となるように窒素ガスに空気を混合して得た酸素含有ガスを反応槽内に連続通気させた。硫酸アルミ水溶液はニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子とアルミニウム原子との原子比が87.5:9.5:2:1となるように流量を調整した。反応槽内の溶液のpHが12.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合水酸化物粒子を得て、水酸化ナトリウム溶液で洗浄した後、遠心分離機で脱水、単離し、105℃で乾燥することにより、ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合金属化合物7を得た。
【0156】
[リチウム複合金属酸化物の製造工程]
ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合金属化合物7と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn+Al)=1.01となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下、770℃で5時間の一次焼成を行い、その後、酸素雰囲気下、770℃で5時間の二次焼成して、目的のリチウム二次電池用正極活物質7を得た。このリチウム二次電池用正極活物質7のBET比表面積は、0.2m
2/gであり、D
50は12.3μmであった。さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは875Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは466Åであり、α/βは1.88であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0mL/gであり、累積細孔表面積は0.281m
2/gであった。
【0157】
≪リチウム二次電池用正極活物質7の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質7の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.005、y=0.1、z=0.02、w=0.01、であった。
【0158】
得られたリチウム二次電池用正極活物質7をサイクル試験条件2でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質7の粒子の割れを観察した結果、粒子内部に粒子の割れが観察された。
【0159】
<実施例3>
≪リチウム二次電池用正極活物質8の製造≫
・噴霧混合工程
比較例5と同様にして得た複ニッケルコバルトマンガンアルミニウム複合金属化合物7を105℃に加熱し、混合しながら、水酸化リチウム水溶液に酸化タングステンを溶解させたアルカリ溶液を2.5時間噴霧した。この時、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子の合計に対するタングステン原子の原子比が0.5mol%となるようにアルカリ溶液中のタングステン濃度を調整した。その後冷却し、混合粉末8を得た。この時の噴霧条件は下記の通りである。
{噴霧条件}
ノズル径:45μm
吐出圧 :0.6MPaG
流量 :1.9L/h
ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物粉末量:9000g
アルカリ溶液量:4700g
【0160】
[リチウム複合金属酸化物の製造工程]
混合粉末8と、炭酸リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co+Mn+Al)=1.01となるように秤量して混合した後、酸素雰囲気下、770℃で5時間の一次焼成を行い、その後、酸素雰囲気下、770℃で5時間の二次焼成し、目的のリチウム二次電池用正極活物質8を得た。このリチウム二次電池用正極活物質8のBET比表面積は、0.8m
2/gであり、D
50は9.7μmであった。
さらに、ピークA’に相当する結晶子サイズαは601Åであり、ピークB’に相当する結晶子サイズβは394Åであり、α/βは1.53であった。
また、細孔径10nm〜200nmの範囲での累積細孔容積は0.019mL/gであり、累積細孔表面積は1.191m
2/gであった。
【0161】
≪リチウム二次電池用正極活物質8の評価≫
得られたリチウム二次電池用正極活物質8を透過型電子顕微鏡で観察したところ、リチウム含有タングステン酸化物が一次粒子間隙と、一次粒子の粒界、及び、二次粒子の表面に存在していることが確認できた。
さらに、リチウム二次電池用正極活物質8の組成分析を行い、組成式(I)に対応させたところ、x=0.005、y=0.1、z=0.02、w=0.03、であった。
また、リチウム二次電池用正極活物質8に含まれるタングステン含有量は、遷移金属の全モル量に対して0.5mol%であった。
得られたリチウム二次電池用正極活物質8を、XAFSにて測定したところリチウム二次電池用正極活物質に含まれるリチウム含有タングステン酸化物の主成分はLi
4WO
5であった。
【0162】
サイクル試験条件2でのサイクル試験した後、リチウム二次電池用正極活物質8の粒子の割れを観察した結果、粒子の割れは確認できず、比較例5に対して大幅に改善された。
下記表1に、実施例1〜3、比較例1〜5の結果をまとめて記載する。
【0163】
【表1】
【0164】
図2に実施例1のリチウム二次電池用正極活物質の粒子断面のSEM写真を示す。また、
図3に比較例1のリチウム二次電池用正極活物質の粒子断面のSEM写真を示す。
図2、
図3に示すとおり、本発明を適用した実施例は、粒子割れが確認されなかった。これに対し、本発明を適用しない比較例は、
図3の矢印で示す箇所に、粒子割れが確認された。