特許第6343804号(P6343804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6343804二枚貝浮遊幼生飼料としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成方法および飼育方法
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  • 特許6343804-二枚貝浮遊幼生飼料としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成方法および飼育方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343804
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】二枚貝浮遊幼生飼料としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成方法および飼育方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/54 20170101AFI20180611BHJP
   A23K 20/10 20160101ALI20180611BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20180611BHJP
   A23K 40/30 20160101ALI20180611BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20180611BHJP
【FI】
   A01K61/54
   A23K20/10
   A23K20/147
   A23K40/30 Z
   A23K50/80
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-20161(P2014-20161)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-146749(P2015-146749A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514031891
【氏名又は名称】株式会社二枚貝養殖研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100090088
【弁理士】
【氏名又は名称】原崎 正
(72)【発明者】
【氏名】大橋 智志
(72)【発明者】
【氏名】岩永 俊介
(72)【発明者】
【氏名】大迫 一史
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹里
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 浩
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−334317(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/085874(WO,A1)
【文献】 特開平06−237706(JP,A)
【文献】 国際公開第03/005835(WO,A1)
【文献】 特開2006−271208(JP,A)
【文献】 特公昭48−043419(JP,B1)
【文献】 特開2002−199848(JP,A)
【文献】 特表2007−525161(JP,A)
【文献】 特開2002−262781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00 − 63/10
A23K 10/00 − 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タウリン−ツェイン含水エチルアルコール溶液を、エチルアルコール溶液の溶媒を蒸発させて、固化した後に、介類浮遊幼生が経口摂取可能な10μm以下の大きさに微細化して、水溶性機能成分のタウリンを難水溶性タンパク質のツェインで包埋したことを特徴とする二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法
【請求項2】
請求項1に記載した方法で作成した飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の飼育方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二枚貝浮遊幼生の飼育において成長・生残に有効なアミノ酸であるタウリンを二枚貝餌料として利用するための二枚貝浮遊幼生飼料としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の作成方法および飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二枚貝浮遊幼生飼育は二枚貝種苗を生産する上で必ず実施しなければならない工程であり、これまでの技術開発によって多くの食用有用貝類(マガキ、シカメガキ、イワガキ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ、マベ、イガイ、ムラサキイガイ、アカガイ、ホタテガイ、イタヤガイ、クマサルボウガイ、バカガイ、トリガイ、ハマグリ、アサリ等)の種苗生産技術が開発されている。世界的に食料自給の面から、種苗生産技術の開発が急務になっている。
しかし、従来の方法による浮遊幼生飼育では成長停滞や大量斃死の発生を回避できない事例が種によって、あるいは飼育時期や場所の差によって存在し、普遍的で安定的した種苗生産が可能にはなっていない。特にタイラギ浮遊幼生は、これまでに開発された飼育技術では安定して稚貝に変態するまでの飼育を維持することが困難な種類である。
タイラギの種苗生産研究が始まってから(非特許文献1)34年をかけて最初の人工生産稚貝の飼育事例が報告されている(非特許文献2)。しかも、その後15年間に着底稚貝までの飼育に成功した事例はわずかで、世界的に7例、日本国内でも6例に留まり(非特許文献3-5)、生産困難あるいは不可能な種類とされている(非特許文献6-16)。タイラギ浮遊幼生に発生する生産不良の現象は、他の貝種において発生する現象と類似する。すなわち成長が停滞して減耗し、最終的に全数が斃死して稚貝への変態期に至らない。他の貝種における生産不良も同様の現象を呈するが、一部は生残して稚貝への変態期に至る点が異なる。従って、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の生産不良現象を改善する技術は、他の貝種(マガキ、シカメガキ、イワガキ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ、マベ、イガイ、ムラサキイガイ、アカガイ、ホタテガイ、イタヤガイ、クマサルボウガイ、バカガイ、トリガイ、ハマグリ、アサリ等)においても生産不良を改善する新たな有効手段となるため、本発明では、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生においても効果を奏する稚貝への変態期に導く飼育技術を課題とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4963295号
【特許文献2】特許第4734989号
【特許文献3】特許第4734990号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】吉田裕(1964)貝類種苗学.北隆館,東京,p128-132.
【非特許文献2】明楽晴子(1998) タイラギの種苗生産の技術開発について.うみうし通信,18,8-9.
【非特許文献3】川原逸郎・山口忠則・大隈斉・伊藤史郎(2004)タイラギ浮遊幼生の飼育と着底・変態.佐有水研報22,41-46
【非特許文献4】大橋智志・藤井明彦・鬼木浩・大迫一史・前野幸男・吉越一馬(2008)タイラギ浮遊幼生および着底稚貝の飼育(予報).水産増殖,56(2),181-191
【非特許文献5】平成26年1月28日 水産庁プレスリリース「タイラギ稚貝を活用した養殖実証試験の実施について」
【非特許文献6】穐山展志・前川兼佑(1963)タイラギAtrina pectinata japonica (REEVE) その他二枚貝の人工採苗に関する予察的研究.山口内海水試調研業績,13(1),81-91.
【非特許文献7】濱本俊策・大林萬鋪(1984)タイラギの人工採卵と幼生飼育に関する問題点.栽培技研,13(2),13-27.
【非特許文献8】伊東義信・野田進治・伊藤史郎(1986)タイラギ種苗生産試験.昭和55〜58年度佐賀県栽培センター事業報告,28-41.
【非特許文献9】松田正彦・藤井明彦・森 洋治・桐山隆哉(1998) 介類種苗生産技術開発事業,平成9年度長崎県総合水試事業報告書,53-57
【非特許文献10】9.松田正彦・藤井明彦・森 洋治・桐山隆哉(1999) 介類種苗生産技術開発事業,平成10年度長崎県総合水試事業報告書,51-53
【非特許文献11】中川彩子・木藪仁和(2002)浅海増養殖に関する研究,(4)タイラギ種苗生産研究.平成13年度大分県海洋水産研究センター浅海研究所事業報告書,11-12.
【非特許文献12】中川彩子・平川千修(2003)浅海増養殖に関する研究,(3)タイラギ種苗生産研究.平成14年度大分県海洋水産研究センター浅海研究所事業報告書,11-12.
【非特許文献13】中川彩子・平川千修(2004)浅海増養殖に関する研究,(4)タイラギ種苗生産研究.平成15年度大分県海洋水産研究センター事業報告書,205-207.
【非特許文献14】小川浩・井本有治(1995)タイラギ種苗生産試験.平成6年度大分県浅海漁業試験場事業報告書,1-2.
【非特許文献15】小川浩・井本有治(1996)タイラギ種苗生産試験.平成7年度大分県浅海漁業試験場事業報告書,1-2.
【非特許文献16】山賀賢一(2000)タイラギ種苗生産試験.平成11年度香川県水産試験場事業報告,61-62
【非特許文献17】1.押尾明夫,關 哲夫,谷口和也(1995) 二枚貝の餌料となる微小藻類の培養ハンドブック, 水産庁東北水研藻類増殖研資料, 3-8.
【非特許文献18】2.岡内正典(2005)植物プランクトンの増殖力と栄養価の評価について,月刊養殖8,82-85.
【非特許文献19】大橋智志・岩永俊介・大迫一史・吉越一馬 (2007) クマサルボウガイ浮遊幼生の成長、生残に対するマガキ卵磨砕物の添加効果.水産増殖,55: 563-570.
【非特許文献20】陳 昭能,竹内俊郎,高橋隆行,友田 努,小磯雅彦,桑田 博(2004) マダイ仔魚の成長および飢餓耐性に及ぼすタウリン強化ワムシの効果.日水誌, 70, 542-547.
【非特許文献21】陳 昭能,竹内俊郎,高橋隆行,友田 努,小磯雅彦,桑田 博(2005) ヒラメ仔魚の成長に及ぼすタウリン強化ワムシの効果.日水誌, 71, 342-347.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生産不良への対策は、飼料からの解決方法として栄養の強化や有効成分の補給を行なう方法がある。これまでに検討されているのは、餌料となる微細藻類の含有有効成分(不飽和高度脂肪酸、アミノ酸構成)の分析結果に基づく餌料藻類種の検討、あるいは餌料藻類の生産方法による有効成分の強化(非特許文献17,18)、および初期浮遊幼生の卵黄栄養の直接補給(特許文献3,4、非特許文献19)などがある。
しかし、これらの改良を行なっても十分な効果を得られない事例や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の事例では、現存の栄養強化技術の効果は限界があると考えられた。さらに、魚類飼育技術の応用として、ビタミン類(ビタミンC、B1,B6、B12等)の補給などが考えられた。これらの機能成分は水溶性であるため飼育水に溶解する。タイラギ浮遊幼生を用いて直接投与を検討したが効果を得られなかった(実施例4)。
【0006】
この発明は、上記のような課題に鑑み、その課題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の孵化から着底期までの浮遊幼生の正常な成長を補完し、大量斃死や成長停滞を軽減することで種苗生産数の向上を実現させる二枚貝浮遊幼生飼料の作成方および飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の飼育方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を達成するために、請求項1の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法は、タウリン−ツェイン含水エチルアルコール溶液を、エチルアルコール溶液の溶媒を蒸発させて、固化した後に、介類浮遊幼生が経口摂取可能な10μm以下の大きさに微細化して、水溶性機能成分のタウリンを難水溶性タンパク質のツェインで包埋したことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の飼育方法は、請求項1に記載した方法で作成した飼料を用いて二枚貝浮遊幼生を飼育する方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法によれば、実施例1〜実施例3及び実施例4の実験結果から分かるように、単独では有効に働かない水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが、如何に必要不可欠であるかを明らかにでき、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋したことを特徴とする本願発明が、二枚貝浮遊幼生飼料として有効であることを明白にすることができた。これにより、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の孵化から着底期までの浮遊幼生の正常な成長を補完し、大量斃死や成長停滞を軽減することで種苗生産数の向上を実現させることができる。
また、水溶性機能成分がタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質がツェインであるときには、実施例1〜実施例3から、二枚貝浮遊幼生飼料として有効であることを明らかにできた。
【0014】
また、請求項1の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法によれば、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生やほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が、摂餌および消化管上皮細胞による飲細胞作用が期待できる大きさに微粉末化することができる。
【0015】
請求項2の発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の飼育方法によれば、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の稚貝への変態率の向上を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明を実施するための形態を示すタイラギ受精卵中の遊離アミノ酸組成の推移図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を実施するための形態を説明する。
本発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋したものからなる。
水溶性機能成分を効果的に経口で摂取させる目的を達成するために、二枚貝類浮遊幼生の健康に影響を及ぼさない難水溶性の材質に包埋する方法を検討した。包埋基質については二枚貝浮遊幼生の健康に影響を及ぼさない難水溶性タンパク質を用いて水溶性機能成分を包埋する方法を発案した。本発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、特に、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性の機能成分を難水溶性タンパク質に包埋したものである。
また、難水溶性タンパク質としては、例えばトウモロコシ由来の植物タンパク質であるツェインを選択した。本発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性の機能成分を難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋したことにある。
次に、水溶性機能成分の検討を行ない、ほとんど生産が不可能なタイラギの産卵期中の受精卵の機能成分のうち、アミノ酸の動向を検討した。その結果遊離アミノ酸のひとつである例えばタウリンが産卵盛期に増加することを見出した(図1)。この特性に着目し、水溶性機能成分として例えばタウリンを、効果的に生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生やほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に供給することを選択した。
本発明は、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性機能成分が例えばタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋したものである。
なお、水溶性機能成分としてタウリン以外についても適用を妨げるものではない。同様に、難水溶性タンパク質としてツェイン以外についても適用を妨げるものではない。
【0018】
水溶性機能成分が例えばタウリンを効果的に経口で摂取させる目的を達成するために、発明者は貝類浮遊幼生の消化管上皮細胞による飲細胞作用に期待した餌料に効果があることが確認されていることに着目し(非特許文献20,21)、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性機能成分が例えばタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋した二枚貝浮遊幼生飼料を、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が摂餌および消化管上皮細胞による飲細胞作用が期待できる大きさに微粉末化して飼育試験を行った。この結果、種苗生産成功率を向上させる効果の内容を見出すに至った。
そこで、二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法においては、水溶性機能成分が例えばタウリンを難水溶性タンパク質の例えばツェインに包埋し、なおかつ経口摂取可能な形状に加工したのである。
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は難水溶性の植物たんぱく質であるツェインが含水エチルアルコールに溶解する特徴を利用し、含水エチルアルコールータウリン溶液を用いた。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は難水溶性の植物たんぱく質であるツェインが含水エチルアルコールに溶解することを利用し、含水エチルアルコールータウリン溶液にツェインを溶解することで、ツェインとタウリンを混合したものである。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は含水エチルアルコールータウリン溶液にツェインを溶解してツェインとタウリンを混合した含水エチルアルコールにツェイン-タウリン混合物の溶媒を蒸発させることで、ツェインを固化させその内部にタウリンを包埋することもできる。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は含水エチルアルコールに溶解したツェイン-タウリン混合物の溶媒を蒸発させることで得られるタウリンを包埋させたツェイン固化物を、粉砕機、スプレードライあるいは湿式微粒化装置等を用いて、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が摂餌可能なサイズに粉砕して与えることも可能である。
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法をさらに具体的に説明すると次のような方法である。
即ち、本発明を利用するためには純水に結晶タウリンを最大で2%混合撹拌して溶解させた後、エチルアルコールを加えて含水エタノール溶液に調整する。これにツェイン粉末をタウリン粉末と同量混合し撹拌して溶解させる。調整したタウリン-ツェイン含水エチルアルコール溶液を、乾留装置あるいは加温して溶媒を蒸発させることで固化させた後に粉砕機で粉砕するか、スプレードライ装置で固化させるか、あるいは粗粒子に粉砕した後に湿式微粒化装置を用いて粉砕するかのいずれかの方法を使い10ミクロン以下のサイズに微細化する。保存は冷蔵(4℃以下)が望ましい。
【0019】
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料を用いた二枚貝浮遊幼生の飼育方法においては、水溶性機能成分が例えばタウリンを包埋させた難水溶性タンパク質である例えばツェイン固化物を、粉砕機、スプレードライあるいは湿式微粒化装置等を用いて貝類浮遊幼生が摂餌可能なサイズに粉砕した後、粉砕後の例えばツェイン包埋タウリン微細粉砕物を、二枚貝浮遊幼生飼育水中に餌料として適量添加する。また、二枚貝浮遊幼生飼育水中に孵化から着底期まで添加する。
即ち、得られた微細化した例えばツェイン包埋タウリン微細粉砕物は必要量を計量して、二枚貝類浮遊幼生に他の生物餌料とともに給餌する。他の餌料藻類の給餌は一般的な飼育方法に準じて良い。
本発明の飼育方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物の添加による二枚貝浮遊幼生飼育技術は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の稚貝への変態率の向上を実現させる(表1,2,3)。
【実施例】
【0020】
実施例1〜実施例3では、二枚貝浮遊幼生の中では前述したように最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生について調べた。タイラギ浮遊幼生で実験したのは、最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生で生産(飼育)できる場合には、他の二枚貝浮遊幼生に容易に適用可能なためである。
これに対して、実施例4では、本願発明の二枚貝浮遊幼生飼料として、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが必要不可欠であることを裏付けるための実験である。
即ち、実施例4の実験では水溶性機能成分として効能が高いと考えられるタウリンを使用し、その一方でこのタウリンを難水溶性タンパク質で包埋しない場合である。また実験にはタイラギ浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が容易なマガキ浮遊幼生を用いた。
実施例4の実験結果から明白なように、遙かに生産(飼育)が容易なマガキ浮遊幼生であっても、水溶性機能成分の中では効能が高いと考えられるタウリンを使用しても難水溶性タンパク質で包埋しない場合には、目立った効果が生じていない。
これに対して、マガキ浮遊幼生をはじめ他の二枚貝浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が困難なタイラギ浮遊幼生であっても、実施例1〜実施例3及び実施例4の実験結果から分かるように、単独では有効に働かない水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが、如何に必要不可欠であるかを明らかにでき、本願発明が二枚貝浮遊幼生飼料として有効であることが立証された。
また、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の飼育において本願発明の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物の添加は有効であると考えられる。
以下に、実施例1〜実施例4について、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定したものではない。
【0021】
〔実施例1〕
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の飼育初期における添加効果を調べた。
実験は2013年7月29日から8月27日の29日間行った。実験開始時の飼育密度は2.7〜7.7個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた。餌料藻はC. calcitransP. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区1,2はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を日齢1から14までの間飼育水に対して10mg/t(タウリン含有量で5mg/t)添加した。対照区1,2はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条件を同一とした。給餌量はC. calcitransは20,000細胞/ml・日、P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで25.8〜31.4℃とした。換水は20%量を毎日サイホンで交換し、全量換水を3-4日毎に実施した。着底は日齢29から始まり日齢37まで継続した。
実験区1,2では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対照区では対照区2の1槽であった(表1)。また着底数は、実験区346個に対して対照区は57個で、孵化幼生からの生残率比でも実験区は対照区の8.8倍の稚貝が得られた。
【0022】
【表1】
【0023】
〔実施例2〕
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の飼育初期における添加効果を調べた。
実験は2013年8月15日から9月13日の29日間行った。実験開始時の飼育密度は3〜10.1個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた。餌料藻はC. calcitransP. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区ではツェイン包埋タウリン微細粉砕物を日齢19から日齢29までの10日間飼育水に対して10mg/t(タウリン含有量で5mg/t)を添加する実験区を設定した。対照区はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条件は同一とした。給餌量はC. calcitransは5,000〜20,000細胞/ml・日、P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで25.8〜31.4℃とした。換水は20%量を毎日サイホンで交換し、全量換水を3-6日毎に実施した。着底は日齢から始まり日齢40まで継続した。
実験区では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対照区では着底稚貝は得られなかった(表2)。
【0024】
【表2】
【0025】
〔実施例3〕
これまでの過去の飼育試験結果との比較を表3に示す。2006年から2013年までにのべ53回の種苗生産試験を実施したが、本願発明の二枚貝浮遊幼生飼料の添加を行わずに着底稚貝を得られたのは5回で成功率は9.4%であったが、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物を用いた種苗生産試験では6回中4回で着底稚貝が得られた。なお、国内では50年以上タイラギ種苗生産の技術開発が行われているが、これまでの着底稚貝が得られた事例の総数は、50年以上の間で本事例を含めてわずか12例であり、さらに着底稚貝が孵化から30日以内で得られた事例は本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物を用いた種苗生産試験の4回を含めた発明者の実施した事例7例のみで、他の成功事例では50日以上の飼育を要している。
【0026】
【表3】
【0027】
〔実施例4〕
水溶性機能成分の一例としてのタウリンを飼育水に水溶させて供給する方法の効果を、タイラギ浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が容易なマガキ初期浮遊幼生を用いて調べた。実験は2013年4月16日から4月22日の7日間行った。実験開始時の飼育密度は4個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽を用いた。餌料藻はC. calcitransP. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区はタウリンを日齢1から7までの間、飼育水に対して2,000mg/t(2ppm)の濃度となるように水溶させて添加した。対照区はタウリン添加を除いて餌料条件を同一とした。給餌量はC. calcitransは20,000細胞/ml・日、P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで20〜21℃とした。換水は100%量を毎日サイホンで交換した。
実験終了時の生残率は対照区が100%であったのに対して実験区では10%と低かった。殻長は対照区では平均87.5μm、最大殻長100μmであったのに対して実験区は平均殻長81.2μm、最大殻長85μmと低く、成長が阻害されている可能性が示唆された(表4)。
【0028】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、他の食用二枚貝種(マガキ、シカメガキ、イワガキ、アコヤガイ、クロチョウガイ、シロチョウガイ、マベ、イガイ、ムラサキイガイ、アカガイ、ホタテガイ、イタヤガイ、クマサルボウガイ、バカガイ、トリガイ、ハマグリ、アサリ等)の生産不良を呈する浮遊幼生にも応用可能で、これらの安定生産を可能とし、特に、水産業における増養殖分野(養殖業および栽培漁業)において貢献度が高い。
図1