【0017】
以下本発明を実施するための形態を説明する。
本発明に係る二枚貝浮遊幼生飼料は、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋したものからなる。
水溶性機能成分を効果的に経口で摂取させる目的を達成するために、二枚貝類浮遊幼生の健康に影響を及ぼさない難水溶性の材質に包埋する方法を検討した。包埋基質については二枚貝浮遊幼生の健康に影響を及ぼさない難水溶性タンパク質を用いて水溶性機能成分を包埋する方法を発案した。本発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、特に、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性の機能成分を難水溶性タンパク質に包埋したものである。
また、難水溶性タンパク質としては、例えばトウモロコシ由来の植物タンパク質であるツェインを選択した。本発明は生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性の機能成分を難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋したことにある。
次に、水溶性機能成分の検討を行ない、ほとんど生産が不可能なタイラギの産卵期中の受精卵の機能成分のうち、アミノ酸の動向を検討した。その結果遊離アミノ酸のひとつである例えばタウリンが産卵盛期に増加することを見出した(
図1)。この特性に着目し、水溶性機能成分として例えばタウリンを、効果的に生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生やほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に供給することを選択した。
本発明は、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生に、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性機能成分が例えばタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋したものである。
なお、水溶性機能成分としてタウリン以外についても適用を妨げるものではない。同様に、難水溶性タンパク質としてツェイン以外についても適用を妨げるものではない。
【0018】
水溶性機能成分が例えばタウリンを効果的に経口で摂取させる目的を達成するために、発明者は貝類浮遊幼生の消化管上皮細胞による飲細胞作用に期待した餌料に効果があることが確認されていることに着目し(非特許文献20,21)、二枚貝類浮遊幼生飼料として水溶性機能成分が例えばタウリンであり、かつ難水溶性タンパク質である例えばツェインに包埋した二枚貝浮遊幼生飼料を、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が摂餌および消化管上皮細胞による飲細胞作用が期待できる大きさに微粉末化して飼育試験を行った。この結果、種苗生産成功率を向上させる効果の内容を見出すに至った。
そこで、二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法においては、水溶性機能成分が例えばタウリンを難水溶性タンパク質の例えばツェインに包埋し、なおかつ経口摂取可能な形状に加工したのである。
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は難水溶性の植物たんぱく質であるツェインが含水エチルアルコールに溶解する特徴を利用し、含水エチルアルコールータウリン溶液を用いた。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は難水溶性の植物たんぱく質であるツェインが含水エチルアルコールに溶解することを利用し、含水エチルアルコールータウリン溶液にツェインを溶解することで、ツェインとタウリンを混合したものである。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は含水エチルアルコールータウリン溶液にツェインを溶解してツェインとタウリンを混合した含水エチルアルコールにツェイン-タウリン混合物の溶媒を蒸発させることで、ツェインを固化させその内部にタウリンを包埋することもできる。
本発明の作成方法の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物は含水エチルアルコールに溶解したツェイン-タウリン混合物の溶媒を蒸発させることで得られるタウリンを包埋させたツェイン固化物を、粉砕機、スプレードライあるいは湿式微粒化装置等を用いて、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生が摂餌可能なサイズに粉砕して与えることも可能である。
本発明の二枚貝浮遊幼生飼料の作成方法をさらに具体的に説明すると次のような方法である。
即ち、本発明を利用するためには純水に結晶タウリンを最大で2%混合撹拌して溶解させた後、エチルアルコールを加えて含水エタノール溶液に調整する。これにツェイン粉末をタウリン粉末と同量混合し撹拌して溶解させる。調整したタウリン-ツェイン含水エチルアルコール溶液を、乾留装置あるいは加温して溶媒を蒸発させることで固化させた後に粉砕機で粉砕するか、スプレードライ装置で固化させるか、あるいは粗粒子に粉砕した後に湿式微粒化装置を用いて粉砕するかのいずれかの方法を使い10ミクロン以下のサイズに微細化する。保存は冷蔵(4℃以下)が望ましい。
【実施例】
【0020】
実施例1〜実施例3では、二枚貝浮遊幼生の中では前述したように最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生について調べた。タイラギ浮遊幼生で実験したのは、最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生で生産(飼育)できる場合には、他の二枚貝浮遊幼生に容易に適用可能なためである。
これに対して、実施例4では、本願発明の二枚貝浮遊幼生飼料として、水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが必要不可欠であることを裏付けるための実験である。
即ち、実施例4の実験では水溶性機能成分として効能が高いと考えられるタウリンを使用し、その一方でこのタウリンを難水溶性タンパク質で包埋しない場合である。また実験にはタイラギ浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が容易なマガキ浮遊幼生を用いた。
実施例4の実験結果から明白なように、遙かに生産(飼育)が容易なマガキ浮遊幼生であっても、水溶性機能成分の中では効能が高いと考えられるタウリンを使用しても難水溶性タンパク質で包埋しない場合には、目立った効果が生じていない。
これに対して、マガキ浮遊幼生をはじめ他の二枚貝浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が困難なタイラギ浮遊幼生であっても、実施例1〜実施例3及び実施例4の実験結果から分かるように、単独では有効に働かない水溶性機能成分を難水溶性タンパク質で包埋することが、如何に必要不可欠であるかを明らかにでき、本願発明が二枚貝浮遊幼生飼料として有効であることが立証された。
また、生産不良を呈する二枚貝類浮遊幼生や、ほとんど生産が不可能なタイラギ浮遊幼生の飼育において本願発明の一例であるツェイン包埋タウリン微細粉砕物の添加は有効であると考えられる。
以下に、実施例1〜実施例4について、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定したものではない。
【0021】
〔実施例1〕
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の飼育初期における添加効果を調べた。
実験は2013年7月29日から8月27日の29日間行った。実験開始時の飼育密度は2.7〜7.7個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた。餌料藻は
C. calcitrans,
P. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区1,2はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を日齢1から14までの間飼育水に対して10mg/t(タウリン含有量で5mg/t)添加した。対照区1,2はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条件を同一とした。給餌量は
C. calcitransは20,000細胞/ml・日、
P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで25.8〜31.4℃とした。換水は20%量を毎日サイホンで交換し、全量換水を3-4日毎に実施した。着底は日齢29から始まり日齢37まで継続した。
実験区1,2では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対照区では対照区2の1槽であった(表1)。また着底数は、実験区346個に対して対照区は57個で、孵化幼生からの生残率比でも実験区は対照区の8.8倍の稚貝が得られた。
【0022】
【表1】
【0023】
〔実施例2〕
二枚貝浮遊幼生の中では最も生産(飼育)が困難とされるタイラギ浮遊幼生の種苗生産数の向上を目的として、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物の飼育初期における添加効果を調べた。
実験は2013年8月15日から9月13日の29日間行った。実験開始時の飼育密度は3〜10.1個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽2槽を用いた。餌料藻は
C. calcitrans,
P. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区ではツェイン包埋タウリン微細粉砕物を日齢19から日齢29までの10日間飼育水に対して10mg/t(タウリン含有量で5mg/t)を添加する実験区を設定した。対照区はツェイン包埋タウリン微細粉砕物を除く餌料条件は同一とした。給餌量は
C. calcitransは5,000〜20,000細胞/ml・日、
P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで25.8〜31.4℃とした。換水は20%量を毎日サイホンで交換し、全量換水を3-6日毎に実施した。着底は日齢から始まり日齢40まで継続した。
実験区では2槽ともに着底稚貝が得られたが、対照区では着底稚貝は得られなかった(表2)。
【0024】
【表2】
【0025】
〔実施例3〕
これまでの過去の飼育試験結果との比較を表3に示す。2006年から2013年までにのべ53回の種苗生産試験を実施したが、本願発明の二枚貝浮遊幼生飼料の添加を行わずに着底稚貝を得られたのは5回で成功率は9.4%であったが、本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物を用いた種苗生産試験では6回中4回で着底稚貝が得られた。なお、国内では50年以上タイラギ種苗生産の技術開発が行われているが、これまでの着底稚貝が得られた事例の総数は、50年以上の間で本事例を含めてわずか12例であり、さらに着底稚貝が孵化から30日以内で得られた事例は本願発明の一例としてのツェイン包埋タウリン微細粉砕物を用いた種苗生産試験の4回を含めた発明者の実施した事例7例のみで、他の成功事例では50日以上の飼育を要している。
【0026】
【表3】
【0027】
〔実施例4〕
水溶性機能成分の一例としてのタウリンを飼育水に水溶させて供給する方法の効果を、タイラギ浮遊幼生に比べて遙かに生産(飼育)が容易なマガキ初期浮遊幼生を用いて調べた。実験は2013年4月16日から4月22日の7日間行った。実験開始時の飼育密度は4個体/mlとし、実験区、対照区ともに飼育水槽は500リットル円形水槽を用いた。餌料藻は
C. calcitrans,
P. lutheriを用いた。また補助餌料としてマガキ卵磨砕物(乾燥重量で10mg/ml)を用いた。実験区はタウリンを日齢1から7までの間、飼育水に対して2,000mg/t(2ppm)の濃度となるように水溶させて添加した。対照区はタウリン添加を除いて餌料条件を同一とした。給餌量は
C. calcitransは20,000細胞/ml・日、
P. lutheri は2,000〜8,000細胞/ml・日を給餌し、補助餌料の卵磨砕物は乾燥重量で10-20mg/ml・日を給餌した。水温はウォーターバスで20〜21℃とした。換水は100%量を毎日サイホンで交換した。
実験終了時の生残率は対照区が100%であったのに対して実験区では10%と低かった。殻長は対照区では平均87.5μm、最大殻長100μmであったのに対して実験区は平均殻長81.2μm、最大殻長85μmと低く、成長が阻害されている可能性が示唆された(表4)。
【0028】
【表4】