特許第6344081号(P6344081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6344081非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物、非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜および非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6344081
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物、非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20180611BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20180611BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   H01M10/0566
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-126349(P2014-126349)
(22)【出願日】2014年6月19日
(65)【公開番号】特開2016-4758(P2016-4758A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智一
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−505344(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/123168(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/134501(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の水酸基を有する単量体単位を0.05質量%以上5質量%以下含み、さらに(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含む粒子状重合体を含有する、非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物。
【請求項2】
前記2つ以上の水酸基を有する単量体単位が、2つ以上の水酸基および2つ以上のラジカル重合性不飽和結合を有する単量体由来の単量体単位である、請求項1に記載の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物。
【請求項3】
前記粒子状重合体の電解液膨潤度が、1より大きく3倍以下である、請求項1または2に記載の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物および非導電性粒子を含む、非水系二次電池多孔膜用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の非水系二次電池多孔膜用組成物から形成された、非水系二次電池用多孔膜。
【請求項6】
正極、負極、セパレーター、および電解液を備え、
前記正極、負極、およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に請求項5に記載の非水系二次電池用多孔膜を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物、非水系二次電池多孔膜用組成物、非水系二次電池用多孔膜および非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、「二次電池」と略記する場合がある)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして二次電池は、一般に正極、負極、そして正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレーターなどの電池部材を備えている。また二次電池においては、電極(正極および負極)やセパレーター上に、それらの耐熱性や強度の向上などを目的として、多孔膜を保護層として設けることがある。
【0003】
ここで多孔膜としては、有機粒子や無機粒子などの非導電性粒子を、バインダーで結着して形成したものが挙げられる。このような多孔膜は、通常、非導電性粒子やバインダーなどの多孔膜材料を水などの分散媒に溶解または分散させたスラリー組成物(以下、「多孔膜用組成物」と称することがある)を用意し、この多孔膜用組成物を電極やセパレーターなどの基材上に塗布および乾燥させて形成される。
【0004】
そして、近年、二次電池の更なる高性能化を目的として、多孔膜、より具体的には多孔膜に用いるバインダーの改良が盛んに行われている。例えば特許文献1では、バインダーとして、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位を含み、加えて不飽和カルボン酸単量体単位を特定割合以上で含む共重合体を用いて、ポリオレフィン樹脂製セパレーターの表面に多孔膜を形成する技術が提案されている。そして特許文献1の多孔膜を備えるセパレーターは、熱収縮が抑制され、二次電池に使用した際に正極と負極とが短絡する虞を低減し得ると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−8966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、二次電池に用いられる多孔膜には、上述のように電池部材の耐熱性や強度を確保して短絡を防止するという機能に加え、二次電池に優れた電気的特性(自己放電特性、低温出力特性)を発揮させることが求められる。
しかしながら、上記従来の技術では、バインダーによる多孔膜中への持ち込み水分に何ら着目しておらず、特に、バインダーである共重合体が不飽和カルボン酸単量体単位を多く含む場合などにおいて、親水性のカルボキシル基により多孔膜中への持ち込み水分量が上昇し、二次電池の電気的特性が損なわれる虞があった。
【0007】
また、二次電池の更なる電気的特性の向上のため、多孔膜用のバインダーには、例えば使用中に連続的に大きな振動が与えられることになる電気自動車に搭載した場合など、過酷な使用条件下においても、電解液中において多孔膜中の成分の脱離を十分に防止すること、すなわち、電解液中において多孔膜に十分な耐久性を発揮させることが求められる。
くわえて、多孔膜の形成に用いられる、バインダーを含有してなる多孔膜用組成物は、基材上に多孔膜を形成する際に、例えばグラビア塗工装置で塗布すると、グラビアロールの回転によりせん断力を受ける。このせん断力が原因で、長時間に渡り多孔膜を形成したり、高速成形するためにグラビアロールの回転速度を高めたりすると、多孔膜用組成物中の成分が凝集し、均一な厚みの多孔膜が得難くなるという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない多孔膜を形成可能であり、且つ、多孔膜用組成物のせん断下での安定性を高めることも可能な非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない多孔膜を形成可能であり、且つ、せん断下での安定性に優れる非水系二次電池多孔膜用組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない非水系二次電池用多孔膜、および電気的特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、少なくとも2つの水酸基を有する単量体単位を特定の割合で含む粒子状重合体を含有してなるバインダー組成物を、多孔膜用組成物の調製に用いることで、多孔膜用組成物のせん断下での安定性が確保され、しかも当該多孔膜用組成物から形成される多孔膜が、水分含有量が少なく、かつ電解液中での耐久性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物は、2つ以上の水酸基を有する単量体単位を0.05質量%以上5質量%以下含む粒子状重合体を含有することを特徴とする。このように、複数の水酸基を有する単量体単位を特定の割合で含む粒子状重合体を含有するバインダー組成物を用いれば、せん断下での安定性に優れる多孔膜用組成物を調製することができる。また、当該バインダー組成物を用いて形成される多孔膜は、水分含有量が少なく、かつ電解液中での耐久性に優れる。
【0011】
ここで、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物は、前記2つ以上の水酸基を有する単量体単位が、2つ以上の水酸基および2つ以上のラジカル重合性不飽和結合を有する単量体由来の単量体単位であることが好ましい。2つ以上の水酸基に加えさらに2つ以上のラジカル重合性不飽和結合を有する単量体単位を含む粒子状重合体は、電解液中での強度が高く、また電解液中への溶出が抑制されるため、電解液中での多孔膜の耐久性を更に向上させることができるからである。
【0012】
さらに、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物は、前記粒子状重合体が、さらに(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上95質量%以下含むことが好ましい。上述の範囲内で(メタ)アクリル酸エステル由来の単量体単位を含む粒子状重合体は、柔軟性および接着性がバランスよく確保され、電解液中での多孔膜の耐久性を更に向上させることができるからである。
【0013】
そして、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物は、前記粒子状重合体の電解液膨潤度が、1より大きく3倍以下であることが好ましい。粒子状重合体の電解液膨潤度が上述の範囲内であれば、電解液中での多孔膜の耐久性がさらに向上し、そして、リチウムイオン伝導性も確保されるため、非水系二次電池の低温出力特性などの電気的特性を更に向上させることがとできるからである。
【0014】
また、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、上述の何れかの非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物および非導電性粒子を含むことを特徴とする。上述した何れかのバインダー組成物を含む多孔膜用組成物は、せん断下での安定性に優れており、多孔膜の形成時に凝集し難い。そして、上述した何れかのバインダー組成物を含む多孔膜用組成物を多孔膜の形成に用いることで、水分含有量が低く耐久性に優れる多孔膜が得られる。
【0015】
また、本発明の非水系二次電池用多孔膜は、上述の非水系二次電池多孔膜用組成物から形成されたことを特徴とする。当該多孔膜は、水分含有量が低く電解液中での耐久性に優れる。
【0016】
また、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレーター、および電解液を備え、前記正極、負極、およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に上述の非水系二次電池用多孔膜を備える。当該非水系二次電池は、電気的特性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない多孔膜を形成可能であり、且つ、多孔膜用組成物のせん断下での安定性を高めることも可能な非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない多孔膜を形成可能であり、且つ、せん断下での安定性に優れる非水系二次電池多孔膜用組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、電解液中での耐久性に優れ、水分含有量が少ない非水系二次電池用多孔膜、および電気的特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物は、非水系二次電池多孔膜用組成物を調製する際の材料として用いられる。そして、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、本発明の非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物を用いて調製される。また、本発明の非水系二次電池用多孔膜は、本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物を用いて形成される。加えて、本発明の非水系二次電池は、少なくとも1つの電池部材の表面に、本発明の非水系二次電池用多孔膜を備えるものである。
【0019】
(非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、結着能を有する粒子状重合体および水などの分散媒を含み、そして、任意にその他の成分を含む組成物である。そして当該粒子状重合体は、2つ以上の水酸基を有する単量体単位を0.05質量%以上5質量%以下含むことを特徴とする。
なお、本発明において「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
そして、本発明のバインダー組成物を含む多孔膜用組成物は、せん断下の安定性に優れている。また、本発明の多孔膜用バインダー組成物を用いて形成される多孔膜は、耐久性に優れており、かつ水分含有量が低い。そして当該多孔膜は、非水系二次電池に優れた電気的特性を発揮させることができる。
【0020】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、得られる多孔膜の強度を確保すると共に、多孔膜に含まれる成分が多孔膜から脱離しないように保持する。
ここで、通常、粒子状重合体は水溶性の重合体ではなく、水系媒体中において粒子状で存在しており、その粒子形状を維持したまま多孔膜に含まれる。
そして、粒子状重合体は、2つ以上の水酸基を有する単量体単位を0.05質量%以上5質量%以下含み、任意に(メタ)アクリル酸エステル単量体およびその他の単量体単位を含む。
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。
【0021】
[2つ以上の水酸基を有する単量体単位]
2つ以上の水酸基を有する単量体単位を形成しうる、2つ以上の水酸基を有する単量体としては、分子中に水酸基を2つ以上有し、さらに他の単量体と共重合可能な少なくとも1つの構造を有する単量体であれば特に限定されない。2つ以上の水酸基を有する単量体を用いて調製され、当該単量体由来の単量体単位を含む粒子状重合体は、1つの水酸基を有する単量体をより多量に用いて調製された粒子状重合体に比して、重合が容易であり、そして多孔膜用組成物のせん断下での安定性および電解液中での多孔膜の耐久性を、バランスよく向上させることができる。
なお、2つ以上の水酸基を有する単量体は一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
そして、粒子状重合体の電解液中での強度を高め、且つ、電解液中への成分の溶出を抑制し、多孔膜の耐久性を更に向上させる観点から、2つ以上の水酸基を有する単量体としては、2つ以上の水酸基および2つ以上のラジカル重合性不飽和結合(ラジカル重合性炭素−炭素二重結合など)を有する単量体が好ましい。
さらに、得られる粒子状重合体の電解液中での強度と重合性を確保する観点からは、複数のグリシジル基を有する化合物とエチレン性不飽和カルボン酸のエポキシエステルが好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、プロピレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物などの、アルキレングリコールジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸のエポキシエステルがより好ましい。同様の観点から、これらの中でもエチレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、プロピレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物が更に好ましい。
【0023】
また、粒子状重合体を用いて得られる多孔膜の水分含有量を減少させる観点からは、2つ以上の水酸基を有する単量体としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル・メタクリル酸付加物などの、複数のグリシジル基を有する化合物とメタクリル酸のエポキシエステル(メタクリル酸付加物)が好ましい。
なお、複数のグリシジル基を有する化合物と(メタ)アクリル酸のエポキシエステルなどの上記化合物は、公知の方法で製造することができる。
【0024】
粒子状重合体における、2つ以上の水酸基を有する単量体単位の含有割合は、0.05質量%以上5質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。2つ以上の水酸基を有する単量体単位の含有割合が0.05質量%未満であるとバインダー組成物中の粒子状重合体の分散性が損なわれ、当該バインダー組成物を含む多孔膜用組成物のせん断下の安定性を確保することができず、加えて多孔膜の強度や二次電池の電気的特性が低下する。一方、2つ以上の水酸基を有する単量体単位の含有割合が5質量%超であると、多孔膜への持ち込み水分量が上昇し、二次電池の自己放電特性などの電気的特性が低下する。さらに、粒子状重合体の安定性が損なわれ、多孔膜用組成物のせん断下の安定性を確保することができない。
【0025】
[(メタ)アクリル酸エステル単量体単位]
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、粒子状重合体の電解液中での膨潤を適度なものとし、電解液中での多孔膜の耐久性や二次電池の電気的特性を向上させる観点からは、2−エチルヘキシルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートが好ましく、多孔膜中の水分含量を低下させ、そしてリチウムイオン二次電池の自己放電特性および低温出力特性を向上させる観点から、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
粒子状重合体における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上、特に好ましくは60質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が50質量%以上であると、粒子状重合体の柔軟性が向上し、95質量%以下であると、粒子状重合体の接着性を確保することができる。したがって、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上述の範囲内にあると、電解液中での多孔膜の強度が更に高まり、リチウムイオン二次電池の電気的特性を更に向上させることができる。
【0027】
[その他の単量体単位]
粒子状重合体は、上述した2つ以上の水酸基を有する単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の他の単量体単位をさらに含んでいてもよい。そのような他の単量体単位としては、特に限定されることなく、芳香族ビニル単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位が挙げられる。
芳香族ビニル単量体単位を形成しうる芳香族ビニル単量体としては、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩(例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムなど)などが挙げられる。
脂肪族共役ジエン単量体単位を形成しうる脂肪族共役ジエン単量体としては、イソプレン、1,3−ブタジエンなどが挙げられる。
これらの中でも、電解液中での粒子状重合体の過度な膨潤を抑制し、電解液中での多孔膜の耐久性を確保する観点からは、芳香族ビニル単量体が好ましく、スチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0028】
粒子状重合体における、上述したその他の単量体単位の含有割合は、特に限定されないが、好ましくは50質量%以下である。そして、粒子状重合体が例えばその他の単量体単位として芳香族ビニル単量体単位を含む場合、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは15質量%以上、特に好ましくは18質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上述の範囲内であると、電解液中での粒子状重合体の過度な膨潤が抑制され、そして2つ以上の水酸基を有する単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位由来の粒子状重合体の性質を十分に発揮させることができる。
【0029】
なお、粒子状重合体における、上述の2つ以上の水酸基を有する単量体単位以外の親水性基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは5質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満であり、特に好ましくは0質量%である。当該親水性基含有単量体単位の含有割合が5質量%未満であれば、本発明のバインダー組成物を含む多孔膜用組成物は、せん断下の安定性に優れ、また、当該多孔膜用組成物を用いて形成された多孔膜は電解液中での耐久性に優れ、かつ、水分含量が低い。ここで親水性基としては、水酸基、カルボキシル基、リン酸基が挙げられる。
【0030】
[粒子状重合体の調製]
そして、粒子状重合体は、上述した単量体を含む単量体組成物を重合することにより調製される。ここで、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状重合体における単量体単位の含有割合と同様にする。
粒子状重合体の重合様式は、特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。そして、重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などは、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とする。
【0031】
[粒子状重合体の電解液膨潤度]
本発明において、「粒子状重合体の電解液膨潤度」は、粒子状重合体を成形してなるフィルム(バインダーフィルム)を特定の電解液に所定条件で浸漬した場合の浸漬後の重量を浸漬前の重量で除した値(倍)として求めることができ、具体的には、本明細書の実施例に記載の方法を用いてバインダーフィルムを成形し、同実施例に記載の測定方法を用いて測定する。
ここで、粒子状重合体の電解液膨潤度は、好ましくは1倍超であり、好ましくは3倍以下、より好ましくは2.5倍以下、特に好ましくは2倍以下である。粒子状重合体の電解液膨潤度が3倍以下であると、粒子状重合体の電解液への溶出が抑制され、電解液中での多孔膜の耐久性を確保することができ、一方1倍超であることで、二次電池中のリチウムイオン伝導性を確保することができる。
粒子状重合体の電解液膨潤度は、使用する単量体の種類および量を変更することにより調整することができ、例えば、スチレンなどの芳香族ビニル単量体の量を増加させることや、重合温度を上げたり、重合反応時間を長くすることにより重合分子量を大きくすることで電解液膨潤度を低下させることができる。
【0032】
<非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物の調製>
バインダー組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、粒子状重合体の調製を水系媒体中で実施し、粒子状重合体が水分散液として得られる場合には、粒子状重合体の水分散液をそのままバインダー組成物としてもよいし、粒子状重合体の水分散液に、任意のその他の成分を加えてバインダー組成物としてもよい。ここでその他の成分としては、後述する「非水系二次電池多孔膜用組成物」の項で記載するその他の成分が挙げられる。
【0033】
(非水系二次電池多孔膜用組成物)
本発明の非水系二次電池多孔膜用組成物は、上述したバインダー組成物由来の粒子状重合体と、非導電性粒子とが水などの分散媒に分散したスラリー組成物である。
そして、本発明の多孔膜用組成物は、せん断下での安定性に優れる。くわえて、当該多孔膜用組成物を用いて形成される多孔膜は、水分含有量が低く、電解液中での耐久性に優れる。
【0034】
<非導電性粒子>
非導電性粒子は、非導電性を有し、多孔膜用組成物において使用される水などの分散媒および二次電池の電解液に溶解せず、それらの中においても、その形状が維持される粒子である。そして非導電性粒子は、電気化学的にも安定であるため二次電池の使用環境下で、多孔膜中に安定に存在する。多孔膜用組成物が非導電性粒子を含むことで、得られる多孔膜の網目状構造が適度に目詰めされ、リチウムデンドライトなどが多孔膜を貫通するのを防止し、電極の短絡の抑制をより一層確かなものとすることができるからである。非導電性粒子としては、例えば各種の無機粒子や有機粒子を使用することができる。
【0035】
無機粒子としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、BaTiO2、ZrO、アルミナ−シリ力複合酸化物等の酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硼素等の窒化物粒子、シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子、タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子などを挙げることができる。
有機粒子としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、そして、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などを挙げることができる。ここで有機粒子と、上述の粒子状重合体とは、粒子状重合体は結着能を有することに対して、有機粒子が結着能を有さないという点で異なる。
【0036】
これらの中でも、多孔膜の耐久性および当該多孔膜を備える二次電池の電気的特性を向上させる観点からは、非導電性粒子としては無機粒子が好ましく、酸化アルミニウム(アルミナ)がより好ましい。
なお、非導電性粒子の粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている非導電性粒子と同様とすることができる。
【0037】
<非導電性粒子とバインダー組成物の配合比>
多孔膜用組成物中における、非導電性粒子とバインダー組成物の配合比は特に限定されない。例えば、多孔膜用組成物は、非導電性粒子100質量部当たり、粒子状重合体の配合量が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、特に好ましくは3質量部以上、そして、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは18質量部以下、特に好ましくは15質量部以下となる量で、バインダー組成物を含む。粒子状重合体の配合量が非導電性粒子100質量部当たり0.1質量部以上であれば、多孔膜と電池部材との密着性が確保され、電解液中での多孔膜の耐久性を向上させることができ、25質量部以下であれば、粒子状重合体に起因する二次電池への水分の持ち込み量を減少させ、二次電池の電気的特性を向上させることができる。また、多孔膜用組成物のせん断下の安定性も向上させることができる。
【0038】
<その他の成分>
多孔膜用組成物は、上述した成分以外にも、その他の任意の成分を含んでいてもよい。前記任意の成分は、多孔膜を用いた二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。また、前記任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
前記任意の成分としては、例えば、濡れ剤、レベリング剤、電解液分解抑制剤、水溶性重合体など挙げられる。
【0039】
[水溶性重合体]
上述のその他の成分の中でも、多孔膜用組成物は、水溶性重合体を含むことが好ましい。水系のスラリー組成物である多孔膜用組成物が水溶性重合体を含むことで、多孔膜用組成物を増粘させて塗布し易い粘度に調整することができる。加えて、水溶性重合体は結着性および耐電解液性を備えているため、二次電池中において、粒子状重合体による多孔膜中の各成分同士の結着および多孔膜と電池部材の密着を補助する役割を果たすことができる。よって、水溶性重合体を用いることで、電解液中での多孔膜の耐久性を更に向上させることができる。
ここで、本発明においてある物質が「水溶性」であるとは、25℃において、その物質0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0質量%未満であることをいう。なお、水のpHによって溶解性が変わる物質については、少なくともいずれかのpHにおいて上述した「水溶性」に該当するのであれば、その物質は「水溶性」であるとする。
そして水溶性重合体としては、例えば、天然高分子、半合成高分子及び合成高分子を挙げることができる。
【0040】
[天然高分子]
天然高分子としては、例えば、植物または動物由来の多糖類および蛋白質、並びにこれらの微生物等による発酵処理物、これらの熱処理物が挙げられる。
そしてこれらの天然高分子は、植物系天然高分子、動物系天然高分子および微生物産出天然高分子等に分類することができる。
植物系天然高分子としては、例えば、アラビアガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアガム、キャロブガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、カンナン、クインスシード(マルメロ)、アルケコロイド(ガッソウエキス)、澱粉(コメ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦等に由来するもの)、グリチルリチンが挙げられる。動物系天然高分子としては、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチンが挙げられる。微生物産生天然高分子としては、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、ブルランが挙げられる。
【0041】
[半合成高分子]
半合成高分子としては、セルロース系半合成高分子が挙げられる。そしてセルロース系半合成高分子は、ノニオン性セルロース系半合成高分子、アニオン性セルロース系半合成高分子およびカチオン性セルロース系半合成高分子に分類することができる。
【0042】
ノニオン性セルロース系半合成高分子としては、例えば、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、マイクロクリスタリンセルロース、等のアルキルセルロース類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アルキルヒドロキシエチルセルロース、ノノキシニルヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース類が挙げられる。
【0043】
アニオン性セルロース系半合成高分子としては、上記のノニオン性セルロース系半合成高分子を各種誘導基により置換した置換体およびその塩(ナトリウム塩、アンモニウム塩など)が挙げられる。具体的には、セルロース硫酸ナトリウム、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びそれらの塩が挙げられる。
【0044】
カチオン性セルロース系半合成高分子としては、例えば、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)が挙げられる。
【0045】
[合成高分子]
合成系高分子としては、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールとの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸もしくはフマル酸と酢酸ビニルとの共重合体の完全または部分ケン化物、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸、エチレン−ビニルアルコール共重合体、酢酸ビニル重合体、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体などが挙げられる。
【0046】
そしてこれらの水溶性重合体の中でも、多孔膜に耐熱性を付与しポリプロピレンなどの有機セパレーターの熱収縮を抑制する観点からは、カルボキシルメチルセルロースおよびその塩、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体が好ましい。さらに、二次電池への持ち込み水分量を減少させ、電気的特性を向上させる観点からは、カルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体が特に好ましい。
なお、多孔膜用組成物中の水溶性重合体の配合量は、非導電性粒子100質量部当たり、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。水溶性重合体の配合量が上述の範囲内であることで、多孔膜用組成物に適度な粘度が付与され、また、得られる多孔膜の耐久性を向上させることができる。
【0047】
<非水系二次電池多孔膜用組成物の調製>
多孔膜用組成物の調製方法は、特に限定はされないが、通常は、上述した多孔膜用バインダー組成物と、非導電性粒子と、水と、必要に応じて用いられる任意の成分とを混合して得られる。混合方法は特に制限されないが、各成分を効率よく分散させるべく、混合装置として分散機を用いて混合を行う。
分散機は、上記成分を均一に分散および混合できる装置が好ましい。例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。なかでも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0048】
そして、多孔膜用組成物の固形分濃度は、通常、多孔膜を製造する際に作業性を損なわない範囲の粘度を多孔膜用組成物が有する範囲で任意に設定すればよい。具体的には、多孔膜用組成物の固形分濃度は、通常10〜50質量%とすることができる。
【0049】
(非水系二次電池用多孔膜)
上述した二次電池多孔膜用組成物を、例えば適切な基材の表面に塗布することで塗膜を形成し、形成した塗膜を乾燥することにより、基材上に非水系二次電池用多孔膜を形成することができる。この多孔膜は、水分含有量が低く、且つ、電解液の中での耐久性に優れ、当該多孔膜を備える非水系二次電池は、自己放電特性や低温出力特性などの電気的特性に優れる。
【0050】
ここで、多孔膜用組成物を塗布する基材は、多孔膜用組成物の塗膜を形成する対象となる部材である。基材に制限は無く、例えば離型基材の表面に多孔膜用組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して多孔膜を形成し、多孔膜から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように離型基材から剥がされた多孔膜を自立膜として二次電池に用いることもできる。
しかし、多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点からは、基材として電池部材を用いることが好ましい。このような電池部材の具体例としては、セパレーターおよび電極などが挙げられる。セパレーターおよび電極上に設けられた多孔膜は、これらの耐熱性や強度などを向上させる保護層として好適に使用することができる。
【0051】
<セパレーター>
セパレーターとしては、特に限定されないが、有機セパレーターなどの既知のセパレーターが挙げられる。ここで有機セパレーターは、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレーターの例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。なお、有機セパレーターの厚さは、任意の厚さとすることができ、通常0.5μm以上、好ましくは5μm以上であり、通常40μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0052】
<電極>
電極(正極および負極)としては、特に限定されないが、集電体上に電極合材層が形成された電極が挙げられる。
集電体、電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用バインダー(正極合材層用バインダー、負極合材層用バインダー)、並びに集電体上への電極合材層の形成方法は、既知のものを用いることができ、例えば特開2013−145763号公報に記載のものを挙げられる。
【0053】
<非水系二次電池用多孔膜の形成方法>
上述したセパレーター、電極などの電池部材上に多孔膜を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)多孔膜用組成物を電池部材の表面(電極の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)多孔膜用組成物に電池部材を浸漬後、これを乾燥する方法;
3)多孔膜用組成物を、離型基材上に塗布、乾燥して多孔膜を製造し、得られた多孔膜を電池部材の表面に転写する方法;
これらの中でも、前記1)の方法が、多孔膜の膜厚制御をしやすいことから特に好ましい。該1)の方法は、詳細には、多孔膜用組成物を電池部材上に塗布する工程(塗布工程)、電池部材上に塗布された多孔膜用組成物を乾燥させて多孔膜を形成する工程(多孔膜形成工程)を備える。
【0054】
塗布工程において、多孔膜用組成物を電池部材上に塗布する方法は、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。なかでも、均一な多孔膜が得られる点で、グラビア法が好ましい。
また多孔膜形成工程において、電池部材上の多孔膜用組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥条件は特に限定されないが、乾燥温度は好ましくは50〜150℃で、乾燥時間は好ましくは5〜30分である。
【0055】
なお、正極、負極、およびセパレーターは、本発明の効果を著しく損なわない限り、これら電池部材および上述した本発明の多孔膜以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、必要に応じて、電池部材と本発明の多孔膜との間に他の層を設けてもよい。この場合、本発明の多孔膜は電池部材の表面に間接的に設けられることになる。また、本発明の多孔膜の表面に、更に別の層を設けてもよい。
【0056】
なお、基材上に形成された多孔膜の厚みは、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である。多孔膜の厚みが0.01μm以上であることで、多孔膜の強度を十分に確保することができ、20μm以下であることで、電解液の拡散性を確保し該多孔膜を用いた二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
【0057】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレーター、および電解液を備え、前記正極、負極、およびセパレーターからなる群から選択される少なくとも1つの電池部材の表面に上述の非水系二次電池用多孔膜を備える。
本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用多孔膜を備えているので、自己放電特性や低温出力特性などの電気的特性に優れる。
【0058】
<正極、負極、セパレーター、および多孔膜>
正極、負極、セパレーター、および多孔膜は、「非水系二次電池用多孔膜」の項で挙げたものと同様のものを用いることができ、多孔膜を正極、負極、セパレーターの表面に設ける方法も、これらの項で挙げた手法を採用することができる。
【0059】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C49SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO22NLi、(C25SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0060】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0061】
<非水系二次電池の製造方法>
非水系二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造し得る。なお、正極、負極、セパレーターのうち、少なくとも一つの部材を多孔膜付きの部材とする。ここで、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。
実施例および比較例において、粒子状重合体の電解液膨潤度は以下の方法を用いて測定した。そして多孔膜用組成物のせん断下での安定性、電解液中での多孔膜の耐久性、多孔膜の水分含有量、並びに非水系二次電池の自己放電特性および低温出力特性は、以下の方法により評価した。
【0063】
<粒子状重合体の電解液膨潤度>
非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物(粒子状重合体の水分散液)を、電解銅箔(古河電工製NC−WS(登録商標))に対してテーブルコーターを用いて塗布し、50℃で20分、120℃で20分、熱風乾燥器で乾燥させ、1cm×1cmのバインダーフィルム(厚さ500μm)を作製し、重量M0を測定した。その後、得られたフィルムを電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)に60℃、72時間浸漬した。浸漬後のフィルムの表面の電解液をふき取り重量M1を測定した。そして、下記式に従って、電解液膨潤度を算出した。
電解液膨潤度=M1/M0
<多孔膜用組成物のせん断下での安定性>
多孔膜用組成物を、グラビアロール(線数95)を用いて、搬送速度10m/min、グラビア回転比100%の条件で、セパレーター(ポリエチレン製)上に塗布し、塗布後のセパレーターを切り出し、単位面積当たりの塗布量M0(mg/cm2)を算出した。また、塗布の1時間後、同様に塗布量M1(mg/cm2)を算出した。そして、ΔM=(|M0−M1|)/M0×100(%)の式を用いて塗布量変化率ΔM(%)を算出し、下記のように評価した。この値が小さいほど、多孔膜用組成物のせん断下での安定性が高いことを示す。
A:塗布量変化率ΔMが5%未満
B:塗布量変化率ΔMが5%以上10%未満
C:塗布量変化率ΔMが10%以上20%未満
D:塗布量変化率ΔMが20%以上
<電解液中での多孔膜の耐久性>
多孔膜付きセパレーターを5cm×5cmに切り出しその重量を測定し、セパレーターの重量を差し引いて多孔膜の重量M0を算出した。続いて切り出した多孔膜付きセパレーターを、60℃の電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)中に浸漬し、10分間、30kHzの超音波振動を与えた。その後多孔膜付きセパレーターを取出し、60℃の雰囲気下で10時間乾燥し、乾燥後の多孔膜の重量M1を重量M0と同様にして算出した。そしてΔM={(M0−M1)/M0}×100の式を用いて振動脱落率ΔM(%)を算出し、下記のように評価した。この値が小さいほど、多孔膜が電解液中での耐久性に優れることを示す。
A:振動脱落率ΔMが20%未満
B:振動脱落率ΔMが20%以上40%未満
C:振動脱落率ΔMが40%以上60%未満
D:振動脱落率ΔMが60%以上
<多孔膜の水分含有量>
多孔膜付きセパレーターを10cm×10cmに切り出し、試験片とした。この試験片を温度25℃、湿度50%で24時間放置し、その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により試験片の水分含有量W(ppm)を測定した。この値が小さいほど、多孔膜中の水分含有量が少なく、二次電池への持ち込み水分量が少ないことを示す。
A:水分含有量Wが500ppm以下
B:水分含有量Wが500ppm超600ppm以下
C:水分含有量Wが600ppm超700ppm以下
D:水分含有量Wが700ppm超
<自己放電特性>
作製した二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で4.35V、0.1Cの充電、2.75V、0.1Cの放電にて充放電の操作を行った。その後、4.35V、0.1Cで充電し、そのまま60℃で168時間(7日間)放置し、その後25℃でセル電圧V1(V)を測定した。電圧降下ΔV(mV)をΔV={4.35−V1}×1000の式を用いて算出し、下記のように評価した。この値が小さいほど自己放電特性(寿命特性)に優れていることを示す。
A:電圧降下ΔVが200mV以下
B:電圧降下ΔVが200mV超400mV以下
C:電圧降下ΔVが400mV超600mV以下
D:電圧降下ΔVが600mV超
<低温出力特性>
作製した二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、0.1C、5時間の充電の操作を行い、その時の電圧V0(V)を測定した。その後、−10℃環境下で、1Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧V2(V)を測定した。電圧変化ΔV(mV)をΔV={V0−V2}×1000の式を用いて算出し、下記のように評価した。この値が小さいほど低温出力特性に優れることを示す。
A:電圧変化ΔVが500mV以下
B:電圧変化ΔVが500mV超700mV以下
C:電圧変化ΔVが700mV超900mV以下
D:電圧変化ΔVが900mV超
【0064】
(実施例1)
<非水系二次電池多孔膜用バインダー組成物の調製>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「エマール(登録商標)2F」)0.15部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、そして2つ以上の水酸基を有する単量体として下記式(I)のエチレングリコールジグリシジルエーテル・メタクリル酸付加物(共栄社化学社製、「エポキシエステル40EM」、エポキシエステル1)1.5部、(メタ)アクリル酸エステル単量体として2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)78.5部、芳香族ビニル単量体としてスチレン(ST)20部を混合して単量体組成物を得た。
【0065】
【化1】
【0066】
この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状重合体を含む水分散液(バインダー組成物)を製造した。
得られた粒子状重合体の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
<非水系二次電池多孔膜用組成物の調製>
非導電性粒子としてのアルミナフィラー(日本軽金属社製、「LS256」)100部に対して、粒子状重合体を含むバインダー組成物を固形分相当で6部、増粘剤としてカルボン酸基が導入されたアクリルアミド重合体(荒川化学社製、「ポリストロン(登録商標)117」)6部、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコ社製、「サンノプコ(登録商標)SNウェット366」)0.2部を混合し、多孔膜用組成物を調製した。
得られた多孔膜用組成物を用いて、せん断下における安定性を評価した。
【0068】
<多孔膜および多孔膜付きセパレーターの製造>
ポリエチレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、「2500」、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、上述のようにして得られた多孔膜用組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させた。これにより、多孔膜付きセパレーター(厚み27μm)を得た。
得られた多孔膜付きセパレーターを用いて、電解液中での多孔膜の耐久性および多孔膜の水分含有量を評価した。
【0069】
<負極の製造>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33部、イタコン酸3.5部、ST63.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極合材層用バインダー(SBR)を含む混合物を得た。上記負極合材層用バインダーを含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合材層用バインダーを含む水分散液を得た。
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:15.6μm)100部、水溶性重合体としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙社製、「MAC350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1部、およびイオン交換水を混合して固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間さらに混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度を62%に調製した後、25℃で15分間さらに混合した。上記混合液に、上記の負極合材層用バインダーを固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い二次電池負極用スラリー組成物を得た。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た(片面負極)。
また、前記プレス前の負極原反の裏面に同様の塗布を実施し、両面に負極合材層を形成し、ロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが各80μmのプレス後の負極を得た(両面負極)。
【0070】
<正極の製造>
正極活物質としての体積平均粒子径12μmのLiCoO2を100部、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、「HS−100」)を2部、正極合材層用バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製、「#7208」)を固形分相当で2部と、N−メチルピロリドンとを混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーで混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、プレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが80μmのプレス後正極を得た(片面正極)。
また、前記プレス前の正極原反の裏面に同様の塗布を実施し、両面に正極合材層を形成し、ロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが各80μmのプレス後の正極を得た(両面正極)。
【0071】
<リチウムイオン二次電池の製造>
上記で得られた片面正極を5cm×15cmに切り出し、その上(合材層側)に、6cm×16cmに切り出した多孔膜付きセパレーターを、多孔膜が片面正極と対向するように配置し、そして、当該多孔膜付きセパレーターの有機セパレーターの上に、5.5cm×15.5cmに切り出した両面負極を配置し、積層体Aを得た。この積層体Aの両面負極側に、6cm×16cmに切り出した多孔膜付きセパレーターを、有機セパレーターが両面負極と対向するように配置した。そして、当該多孔膜付きセパレーターの多孔膜の上に、5cm×15cmに切り出した両面正極を重ね、次いで、その上に6cm×16cmに切り出した多孔膜付きセパレーターを、多孔膜が両面正極と対向するように配置した。最後に、その上に5.5cm×5.5cmに切り出した片面負極を、負極合材層が多孔膜付きセパレーターの有機セパレーターと対向するように積層し、積層体Bを得た。この積層体Bを、電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、150℃のヒートシールをしてアルミ包材外装を閉口したのちに、得られた電池外装体を100℃、2分間、100Kgfで平板プレスし、1000mAhの積層型リチウムイオン二次電池を製造した。
得られたリチウムイオン二次電池を用いて、自己放電特性、低温出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2、3)
多孔膜用のバインダー組成物の調製時に、エポキシエステル1およびSTの使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例4、5)
多孔膜用のバインダー組成物の調製時に、2つ以上の水酸基を有する単量体としてのエポキシエステル1に替えてそれぞれ下記式(II)のプロピレングリコールジグリシジルエーテル・アクリル酸付加物(共栄社化学社製、「エポキシエステル70PA」、エポキシエステル2)、下記式(III)のトリプロピレングリコールジグリシジルエーテル・アクリル酸付加物(共栄社化学社製、「エポキシエステル200PA」、エポキシエステル3)を使用した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0074】
【化2】
【0075】
【化3】
【0076】
(実施例6、7)
多孔膜用のバインダー組成物の調製時に、2−EHAおよびSTの使用量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例8、9)
多孔膜用のバインダー組成物の調製時に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2−EHAに替えてそれぞれブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA)を使用した以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例1、2)
多孔膜用のバインダー組成物の調製時に、エポキシエステル1、EAおよびSTの使用量を表1のように変更した以外(比較例1においてはエポキシエステル1の使用量0)は、実施例9と同様にして、バインダー組成物、多孔膜用組成物、多孔膜付きセパレーター、負極、正極、およびリチウムイオン二次電池を製造し、同様の項目について評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の実施例1〜9、比較例1、2より、2つ以上の水酸基を有する単量体単位を特定の割合で含有する粒子状重合体を用いた実施例1〜9は、多孔膜用組成物がせん断下での安定性に優れ、そして多孔膜が電解液中での耐久性に優れ且つ水分含有量も少ないことがわかる。加えて、実施例1〜9は、リチウムイオン二次電池の自己放電特性および低温出力特性に優れることがわかる。
また、表1の実施例1〜5より、2つ以上の水酸基を有する単量体単位の含有割合、種類を変更することで、多孔膜の水分含有量を低下させ、そしてリチウムイオン二次電池の自己放電特性を向上させ得ることがわかる。
そして、表1の実施例1、6〜9より、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合、種類を変更することで、多孔膜の水分含有量を低下させ、多孔膜の電解液中での耐久性並びにリチウムイオン二次電池の自己放電特性および低温出力特性を向上させ得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、耐久性に優れる多孔膜を形成可能であり、且つ、多孔膜用組成物のせん断下での安定性を高めることも可能な非水系二次電池多孔膜用バインダーを提供することができる。
また、本発明によれば、せん断下での安定性に優れており、且つ、耐久性に優れる多孔膜を形成可能な非水系二次電池多孔膜用組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、耐久性に優れる非水系二次電池用多孔膜、および当該非水系二次電池用多孔膜を備える非水系二次電池を提供することができる。