(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6345056
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】ブレード用治具
(51)【国際特許分類】
B24B 45/00 20060101AFI20180611BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
B24B45/00 A
B24B27/06 M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-190363(P2014-190363)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-60003(P2016-60003A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(72)【発明者】
【氏名】大和 愛実
(72)【発明者】
【氏名】田中 万平
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−284774(JP,A)
【文献】
特開昭59−110564(JP,A)
【文献】
特開2013−056395(JP,A)
【文献】
特開平11−340169(JP,A)
【文献】
特許第5014892(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−51/00
H01L21/301;21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルの先端に固定されボス部を有するブレードマウントに、該ボス部が挿入される装着穴と前面と背面とを有する環状の円形基台と、該円形基台の周縁から外周へ突出した環状の切刃とを備えた切削ブレードを装着するためのブレード用治具であって、
前端に開口部を有する有底筒体と、
後端側に円筒部を有し、先端側に該切削ブレードの該ボス部と同径のロッド部を有し、該有底筒体の該開口部を介して該後端側が該有底筒体内に挿入されたロッド部材と、
該有底筒体と該ロッド部材の該ロッド部との間に介装され、該ロッド部材を該有底筒体から突出する方向に付勢する付勢手段と、
該切削ブレードの装着作業時に、該切削ブレードの該円形基台の該前面に対面して形成された流体噴出口と、該切削ブレードの該円形基台との間で所定の隙間を形成する突き当て部とを有し、該有底筒体の該開口部を囲繞するように該有底筒体に固定されたフランジ部と、
該流体噴出口に接続された流体供給路を開閉する開閉手段と、
を具備したことを特徴とするブレード用治具。
【請求項2】
該突き当て部は、該ロッド部材が該切削ブレードの該装着穴に挿入される位置に該切削ブレードを位置づけ、
該フランジ部で該切削ブレードを保持する際は、該ロッド部材の先端を退避させつつ該突き当て部に該切削ブレードが突き当たる位置に位置合わせした後、該流体噴出口から該切削ブレードに向けて流体を噴出させて該フランジ部で該切削ブレードを吸引し、吸引した該切削ブレードの該装着穴を介して該ロッド部材を突出させることを特徴とする請求項1記載のブレード用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削ブレードをスピンドルに装着するためのブレード用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置等の切削装置は、一般に、半導体ウェーハ等の被加工物を保持するチャックテーブルと、切削用の切削ブレードが装着された切削ユニットとを備えており、高速回転する切削ブレードを被加工物に切り込ませながら双方を相対移動させることによって、被加工物を切削加工する。
【0003】
切削装置は、スピンドルの先端に固定されたブレードマウントに薄い切刃を有する切削ブレードを装着して、半導体ウェーハ等の被加工物を切削加工する。ところが、このような切削ブレードは、消耗又は破損により、或いは被加工物の種類や切削加工の内容等に応じて適宜交換する必要がある。
【0004】
現在、ダイシング装置で最も広く使用されている切削ブレードはハブブレードと呼ばれ、円形ハブを有する円形基台の外周にニッケル母材中にダイアモンド砥粒が分散された切刃を電着して構成されている。
【0005】
ハブブレードは、20〜30μm程度の厚さしかない非常にもろい切削ブレードを直接手で持つと、簡単に切削ブレードが破損してしまう恐れがあるため、持ち手となる円形ハブを有する基台の外周に切刃を電着して構成したものである。
【0006】
ところが、この持ち手となる基台自体も、指が掛かる円形ハブの部分が狭かったり、切刃と近い位置に指を置く必要があったりするため、誤って指で切刃を破損したり或いは誤って切刃で指を切ったりする危険性がある。また、円形ハブのエッジ部分がシャープな形状であるため、指で円形ハブを強くつかむと指を切ってしまう危険性もある。
【0007】
このような状況に鑑みて、いくつかのブレード交換治具が提案されている。例えば、特許第5014892号公報には、切削ブレードの円形基台を容易に把持することのできるブレード交換治具が開示されている。これにより、薄くて鋭利な円形基台を作業者が確実に且つ容易に把持することが可能となり、交換作業を効率的に実施できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5014892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ブレード交換治具を使用しても、切削ブレードを装着するブレードマウントのボス部に対し切削ブレードの円形基台を垂直に維持しながら装着するのは困難であり、従来のブレード交換治具ではこの課題は解決されていなかった。
【0010】
切削ブレードをブレードマウントのボス部に斜めに装着してしまうと、所謂噛んだ状態となってしまい、所定の位置まで切削ブレードを挿入できなかったり、ボス部に傷が付き噛んだ状態が発生し易くなってしまうという課題があった。
【0011】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削ブレードを保持してブレードマウントに対して垂直な状態を維持しつつ装着することが可能なブレード用治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、スピンドルの先端に固定されボス部を有するブレードマウントに、該ボス部が挿入される装着穴と前面と背面とを有する環状の円形基台と、該円形基台の周縁から外周へ突出した環状の切刃とを備えた切削ブレードを装着するためのブレード用治具であって、前端に開口部を有する有底筒体と、後端側に円筒部を有し、先端側に該切削ブレードの該ボス部と同径のロッド部を有し、該有底筒体の該開口部を介して該後端側が該有底筒体内に挿入されたロッド部材と、該有底筒体と該ロッド部材の該ロッド部との間に介装され、該ロッド部材を該有底筒体から突出する方向に付勢する付勢手段と、該切削ブレードの装着作業時に、該切削ブレードの該円形基台の該前面に対面して形成された流体噴出口と、該切削ブレードの該円形基台との間で所定の隙間を形成する突き当て部とを有し、該有底筒体の該開口部を囲繞するように該有底筒体に固定されたフランジ部と、該流体噴出口に接続された流体供給路を開閉する開閉手段と、を具備したことを特徴とするブレード用治具が提供される。
【0013】
好ましくは、該突き当て部は、該ロッド部材が該切削ブレードの該装着穴に挿入される位置に該切削ブレードを位置づけ、該フランジ部で該切削ブレードを保持する際は、該ロッド部材の先端を退避させつつ該突き当て部に該切削ブレードが突き当たる位置に位置合わせした後、該流体噴出口から該切削ブレードに向けて流体を噴出させて該フランジ部で該切削ブレードを吸引し、吸引した該切削ブレードの該嵌合穴を介して該ロッド部材を突出させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のブレード用治具によると、流体噴出口から流体を噴出するだけで容易に切削ブレードを保持することができ、ロッド部を切削ブレードの嵌合穴に挿入してブレードマウントのボス部に連結した状態でロッド部を通して切削ブレードを移動させることで、容易に切削ブレードをブレードマウントへ垂直な状態を維持しつつ装着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明実施形態に係るブレード用治具の縦断面図である。
【
図3】
図3(A)はブレードマウントのボス部とロッド部の先端を連結した状態の縦断面図、
図3(B)は流体の噴出を中止した状態の縦断面図である。
【
図4】
図4(A)は流体を噴出させて切削ブレードを流体の圧力で押しつつロッド部材を退避位置に押し込んだ状態の縦断面図、
図4(B)はブレードマウントのボス部に噴出した流体の圧力で切削ブレードを押し込んだ状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1を参照すると、切削ユニット2の分解斜視図が示されている。切削ユニット2は、スピンドルハウジング4中に回転可能に収容され、図示しないモータにより回転駆動されるスピンドル6を含んでいる。スピンドル6の先端部にはねじ穴8が形成されている。
【0017】
10はブレードマウントであり、ボス部12とボス部12と一体的に形成されたフランジ部14を有している。ボス部12の先端部には雄ねじ16が形成されている。ブレードマウント10は更に挿入穴17を有している。
【0018】
ねじ18をブレードマウント10の挿入穴17を介してスピンドル6の先端に形成されたねじ穴8に螺合して締め付けることにより、ブレードマウント10はスピンドル6の先端部に固定される。
【0019】
20はハブブレード(切削ブレード)であり、ハブブレード20は、一側面に円形ハブ24を有する円形基台22の他側面側外周にニッケル母材中にダイアモンド砥粒が分散されて電着された切刃(電着砥石)26を有している。
【0020】
円形基台22はブレードマウント10のボス部12が嵌合する嵌合穴28を有している。ハブブレード20は円形ハブ24の表面である前面24aと前面24aの反対側の背面を有している。
【0021】
ハブブレード20の装着穴28をスピンドル6の先端部に固定されたブレードマウント10のボス部12に嵌合し、押さえナット30をボス部12の雄ねじ16に螺合して締め付けることにより、ハブブレード20はブレードマウント10のフランジ部14と前フランジとして作用する押さえナット30により挟持されて、スピンドル6の先端部に取り付けられる。
【0022】
図2を参照すると、作業テーブル60上に載置されたハブブレード20を吸引保持している状態の本発明実施形態に係るブレード用治具32の縦断面図が示されている。ブレード用治具32は、前端に開口部34aを有する有底筒体34と、開口部34aを通して有底筒体34中に挿入された、後端側に一体的に連結された円筒部38を有するロッド部材36とを含んでいる。
【0023】
ロッド部材36の先端側の小径部36aはブレードマウント10のボス部12と同一直径に形成されている。ロッド部材36は円筒部38と連結される側に大径部36bを有しており、小径部36aと大径部36bは拡径部36cにより連結されている。
【0024】
有底筒体34とロッド部材36の大径部36bとの間にはコイルばね40が介装されており、このコイルばね40によりロッド部材36は有底筒体34から突出する方向に付勢されている。ロッド部材36の小径部36aの先端(
図2で下端)にはマグネット39が配設されている。
【0025】
有底筒体34には、有底筒体34の開口部34aを囲繞するようにねじ44によりフランジ部42が取り付けられている。フランジ部42は、作業テーブル60上に載置されたハブブレード20の前面24aに対面した流体噴出口48を有している。
【0026】
流体噴出口48は、フランジ部42に形成された流体供給路46、有底筒体34に形成された流体供給路50及び流体供給路50に接続されたチューブ等の流体供給路52を介して圧縮エア源54に接続されている。流体供給路52には、流体供給路52を開閉する電磁弁等の開閉手段56が介装されている。
【0027】
フランジ部40の前面(
図2で下面)にはハブブレード20の円形ハブ24を収容可能な大きさの円形凹部57が形成されている。円形凹部57の外周の一部にはハブブレード20の円形ハブ24との間で僅かな隙間を形成する突き当て部58が形成されている。
【0028】
以下、このように構成されたブレード用治具32を使用してのハブブレード20のブレードマウント10への装着作業について説明する。まず、
図2に示すように、ハブブレード20を切刃26側を下にして作業テーブル60上に載置する。
【0029】
次いで、ブレード用治具32の小径部36aをハブブレード20の嵌合穴28中に挿入して、ブレード用治具32を作業テーブル60上に載置する。この時、ハブブレード20の円形ハブ24がフランジ部42の突き当て部58に当接するようにブレード用治具32を作業テーブル60上に載置すると、ハブブレード20の円形ハブ24とフランジ部42の円形凹部57の底面との間に僅かな隙間が形成される。この時、ロッド部材36が矢印A方向に移動して有底筒体34内に挿入されるのを許容するようにコイルばね40の付勢力が設定されている。
【0030】
開閉手段56を開けて流体供給路52を圧縮エア源54に接続すると、フランジ部42の流体噴出口48は圧縮エア源54に接続され、フランジ部42の流体噴出口48から圧縮エアが噴出される。
【0031】
この圧縮エアがハブブレード20の前面24aとフランジ部42に形成された凹部57の底面との間の僅かな隙間を通過することにより、ベルヌーイ効果によりハブブレード20はブレード用治具32のフランジ部42に吸引保持される。
【0032】
フランジ部42でハブブレード20を吸引保持した状態で、
図3(A)に示すように、ロッド部材36の小径部36aの先端をブレードマウント10のボス部12の先端に当接させる。
【0033】
ブレードマウント10のボス部12の先端には傾斜面19を有る凹部が形成されており、ロッド部材36の小径部36aの先端には少なくとも一対の位置決め突起41が形成されているため、位置決め突起41が傾斜面19に当接するようにロッド部材36の小径部36aを位置づけると、ロッド部材36の小径部36aはブレードマウント10のボス部12に対して位置決めされたことになり、マグネット39がブレードマウント10のボス部12に磁気的に吸着されて、ロッド部材36の小径部36aはブレードマウント10のボス部12に対して連結される。
【0034】
この状態で、
図3(B)に示すように、開閉手段56を閉じて流体噴出口48からの圧縮エアの噴出を停止すると、コイルばね40が伸長してフランジ部42の突き当て部58とハブブレード20の前面24aとの間に距離S1が空くようにハブブレード20とフランジ部42とが離間する。この距離S1はフランジ部42の流体噴出口48から圧縮エアを噴出した際にベルヌーイ効果が発生しない十分大きな距離である。
【0035】
次いで、
図4(A)に示すように、流体噴出口48から圧縮エア55を噴出しながらハブブレード20を圧縮エア55の圧力で押しつつ有底筒体34を矢印Y1方向に移動して、ロッド部材36をコイルばね40の付勢力に抗して退避位置に押し込み、ハブブレード20の装着穴28をブレーマウント10のボス部12に嵌合する。
【0036】
流体噴出口48から圧縮エア55を更に噴出して、
図4(B)に示すように、ハブブレード20をブレードマウント10のボス部12に対して滑らせて押し込みフランジ部14に当接させる。
【0037】
尚、
図4(A)に示す状態で流体噴出口48からの圧縮エア55の噴射を停止し、ブレード用治具32をY1方向に移動してフランジ部46でハブブレード20をいっぱいに押し込むようにしても良い。
【0038】
図4(B)に示す状態から流体噴出口48からの圧縮エア55の噴出を停止し、ブレード用治具32をブレードマウント10から引き離した後、押さえナット30をボス部12の雄ねじ16に螺合して締め付けることにより、ハブブレード20はブレードマウント10のフランジ部14と前フランジとして作用する押さえナット30により挟持されて、スピンドル6の先端部に取り付けられる。
【0039】
上述した実施形態のブレード用治具32は、流体噴出口48から圧縮エアを噴出するだけで容易に切削ブレード20を吸引保持することができ、切削ブレードの嵌合穴にロッド部材36の小径部36aを挿入し、ブレードマウントのボス部に連結したロッド部材36の小径部36aを通して切削ブレード20を移動させることで、切削ブレード20を垂直な状態を維持しつつ容易にブレードマウント10のボス部12に装着することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
6 スピンドル
10 ブレードマウント
12 ボス部
14 フランジ部
20 ハブブレード(切削ブレード)
22 円形基台
24 円形ハブ
24a 前面
26 切刃
28 装着穴
30 押さえナット
32 ブレード用治具
34 有底筒体
36 ロッド部材
36a 小径部
36b 大径部
36c 拡径部
38 円筒部
40 コイルばね
42 フランジ部
46,50,52 流体供給路
48 流体噴出口
54 圧縮エア源
56 開閉手段
57 円形凹部
58 突き当て部
60 作業テーブル