(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸に沿った断面において円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具を、前記軸回りに回転して、前記刃部の前記凹曲面により、スパッタリングターゲットのスパッタリング面と側面とのなす角部を、円弧状の目標のR面に近づくように面取りして、前記スパッタリングターゲットを加工する方法であって、
前記軸に沿った断面において、前記刃部の前記凹曲面の両端を、前記スパッタリングターゲットから離れるようにして、前記スパッタリングターゲットの角部を面取りし、
目標のR面の曲率半径Rbの中心点Cbを原点とした座標において、前記刃部の前記凹曲面の曲率半径Raの第1中心点C1の前記目標のR面の曲率半径Rbの中心点Cbからの座標の水平方向と垂直方向のそれぞれのずれをa[mm]としたとき、
R面の切片L[mm]について、
L=Rb−Ra{1−(Rb−a)2/Ra2}1/2−aと表したとき、Rb/2≦L≦Rb、
かつ、前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面と前記スパッタリングターゲットのR面の端部のなす角θ[rad]について、
θ=π/2−cos−1{1−(Rb−a)2/Ra2}1/2と表したとき、0≦θ≦π/6
かつ、前記刃部の凹曲面の端部と前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面の間隔d[mm]について、
d=Ra−Rb+aと表したとき、0.05≦d
を満たすRa、Rb、aを設定して加工する、スパッタリングターゲットの加工方法。
円板状または円筒状のスパッタリングターゲットを中心軸回りに回転させ、断面円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具の前記凹曲面により、回転している前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面と側面とのなす角部を、円弧状の目標のR面に近づくように面取りして、前記スパッタリングターゲットを加工する方法であって、
前記刃部の前記凹曲面の両端を、前記スパッタリングターゲットから離れるようにして、前記スパッタリングターゲットの角部を面取りし、
目標のR面の曲率半径Rbの中心点Cbを原点とした座標において、前記刃部の前記凹曲面の曲率半径Raの第1中心点C1の前記目標のR面の曲率半径Rbの中心点Cbからの座標の水平方向と垂直方向のそれぞれのずれをa[mm]としたとき、
R面の切片L[mm]について、
L=Rb−Ra{1−(Rb−a)2/Ra2}1/2−aと表したとき、Rb/2≦L≦Rb、
かつ、前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面と前記スパッタリングターゲットのR面の端部のなす角θ[rad]について、
θ=π/2−cos−1{1−(Rb−a)2/Ra2}1/2と表したとき、0≦θ≦π/6
かつ、前記刃部の凹曲面の端部と前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面の間隔d[mm]について、
d=Ra−Rb+aと表したとき、0.05≦d
を満たすRa、Rb、aを設定して加工する、スパッタリングターゲットの加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本願発明者は、実際に、前記従来のように機械加工にてスパッタリングターゲットの角部をR面に面取りした。具体的に述べると、軸に沿った断面において円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具を、軸回りに回転して、刃部の凹曲面により、スパッタリングターゲットの角部を、円弧状の目標のR面に面取りした。または、中心軸回りに回転する円板状や円筒状のスパッタリングターゲットの角部を、削り工具の刃部の凹曲面により、円弧状の目標のR面に面取りした。
【0005】
すると、刃物の凹曲面の両端部によりスパッタリングターゲットのR面に傷が付くおそれがあることがわかった。この傷は、スパッタリングする際、つまり、基板とスパッタリングターゲットとの間に高電圧を印加する際、異常放電を引き起こすおそれがある。このため、スパッタリングターゲットの角部の面取りについて、精度よく行う必要がある。
【0006】
さらに、スパッタリングターゲットが例えば2mや3mの長尺体であると、スパッタリングターゲット製品毎に切削加工による加工歪等のバラツキが発生しやすい。そして、刃部の凹曲面の曲率半径を、目標のR面の曲率半径と同じ大きさとし、この刃部の凹曲面によりスパッタリングターゲットの角部を面取りすると、スパッタリングターゲットの製品毎の加工歪などのバラツキに起因して、刃部の凹曲面の両端部が、スパッタリングターゲットに食い込んで、スパッタリングターゲットにより多くの傷が付くこともわかった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、スパッタリングターゲットの角部を傷のないR面に面取りすることができ、かつ、R面を目標のR面に近づけることができるスパッタリングターゲットの加工方法およびスパッタリングターゲット製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のスパッタリングターゲットの加工方法は、
軸に沿った断面において円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具を、前記軸回りに回転して、前記刃部の前記凹曲面により、スパッタリングターゲットのスパッタリング面と側面とのなす角部を、円弧状の目標のR面に近づくように面取りして、前記スパッタリングターゲットを加工する方法であって、
前記軸に沿った断面において、前記刃部の前記凹曲面の曲率半径Raを、前記目標のR面の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、前記刃部の前記凹曲面の両端を、前記スパッタリングターゲットから離れるようにして、前記スパッタリングターゲットの角部を面取りする。
【0009】
本発明のスパッタリングターゲットの加工方法によれば、軸に沿った断面において、刃部の凹曲面の曲率半径Raを、目標のR面の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、刃部の凹曲面の両端を、スパッタリングターゲットから離れるようにして、スパッタリングターゲットの角部を面取りする。これにより、スパッタリングターゲットの角部を刃部の凹曲面で切削してR面に面取りするとき、R面を目標のR面に近づけることができ、かつ、R面に傷が付くことを防止できる。
【0010】
また、本発明のスパッタリングターゲットの加工方法としては、
円板状または円筒状のスパッタリングターゲットを中心軸回りに回転させ、断面円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具の前記凹曲面により、回転している前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面と側面とのなす角部を、円弧状の目標のR面に近づくように面取りして、前記スパッタリングターゲットを加工する方法であって、
前記刃部の前記凹曲面の曲率半径Raを、前記目標のR面の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、前記刃部の前記凹曲面の両端を、前記スパッタリングターゲットから離れるようにして、前記スパッタリングターゲットの角部を面取りする。
【0011】
本発明のスパッタリングターゲットの加工方法によれば、中心軸回りに回転している円板状または円筒状のスパッタリングターゲットに対し、刃部の凹曲面の曲率半径Raを、目標のR面の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、刃部の凹曲面の両端を、スパッタリングターゲットから離れるようにして、スパッタリングターゲットの角部を面取りする。これにより、円板状または円筒状のスパッタリングターゲットの角部の面取り加工を効率よく行うことができ、かつ、R面に傷が付くことを防止できる。
【0012】
また、スパッタリングターゲットの加工方法の一実施形態では、
前記刃部の前記凹曲面の両端を前記スパッタリングターゲットから離れるようにして、前記スパッタリングターゲットの角部を面取りするときに、目標のRの中心点Cbを原点とした座標において、前記刃部の前記凹曲面の前記曲率半径Raの第1中心点C1の前記目標のR面の中心Cbからの座標の水平方向と垂直方向のそれぞれのずれをa[mm]としたとき、
R面の切片L[mm]について、
L=Rb−Ra{1−(Rb−a)
2/Ra
2}
1/2−aと表したとき、Rb/2≦L≦Rb、
かつ、前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面と前記スパッタリングターゲットのR面の端部のなす角θ[rad]について、
θ=π/2−cos
−1{1−(Rb−a)
2/Ra
2}
1/2と表したとき、0≦θ≦π/6
かつ、前記刃部の凹曲面の端部と前記スパッタリングターゲットのスパッタリング面の間隔d[mm]について、
d=Ra−Rb+aと表したとき、0.05≦d
を満たすRa、Rb、aを設定して加工する。
ここで、aは、Cbを原点とし、C1がCbよりスパッタリングターゲットの内側にある場合は負の値、Cbより外側にある場合は正の値をとる。
【0013】
前記実施形態によれば、Rb/2≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦π/6を満たし、かつ、0.05≦dを満たす。これにより、R面を目標のR面に一層近づけることができ、かつ、R面に傷が付くことを一層防止できる。
【0014】
また、スパッタリングターゲット製品の製造方法の一実施形態では、前記スパッタリングターゲットの加工方法を用いてスパッタリングターゲットを加工して、スパッタリングターゲット製品を製造する。
【0015】
前記実施形態によれば、前記スパッタリングターゲットの加工方法を用いてスパッタリングターゲット製品を製造するので、品質の向上したスパッタリングターゲット製品を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスパッタリングターゲットの加工方法およびスパッタリングターゲット製品の製造方法によれば、スパッタリングターゲットの角部を刃部の凹曲面で切削してR面に面取りするとき、R面を目標のR面に近づけることができ、かつ、R面に傷が付くことを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明のスパッタリングターゲットの加工方法の第1実施形態を示す斜視図である。
図2は、スパッタリングターゲットの加工方法の一実施形態を示す断面図である。
図1と
図2に示すように、スパッタリングターゲットの加工方法では、削り工具10を用いて、スパッタリングターゲット1のスパッタリング面2と側面3とのなす角部4をR面5に面取りする。
【0020】
スパッタリングターゲット1は、長尺の板状に形成されている。スパッタリング面2は、短辺方向と長辺方向で構成される上面から構成される。側面3は、スパッタリング面2と厚み方向で構成される面から構成される。角部4は、スパッタリング面2と側面3とのなす辺から構成される。なお、スパッタリングターゲット1は、円板状に形成されていてもよく、このとき、スパッタリング面2は、円形の上面から構成され、側面3は、円形の上面と円形の下面との間の周面から構成される。
【0021】
スパッタリングターゲット1のスパッタリング面2は、スパッタリングによりプラズマ化(またはイオン化)した不活性ガスを受ける。不活性ガスが衝突されたスパッタリング面2からは、スパッタリングターゲット1中に含まれるターゲット原子が叩き出される。その叩き出された原子は、スパッタリング面2に対向して配置される基板上に、堆積され、この基板上に薄膜が形成される。
【0022】
スパッタリングターゲット1は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、インジウム(In)等の金属およびそれらの合金からなる群から選択される材料から作製することができる。スパッタリングターゲット1を構成する材料は、これらに限定されるものではない。例えば、電極や配線材料用のスパッタリングターゲット1の材料としては、Alが好ましく、例えば純度が99.99%以上、より好ましくは99.999%以上のAlを使用することが特に好ましい。高純度Alは、高電気伝導性であるため、電極や配線材料用のターゲット材1の材料として好適であり、Alの純度が高くなる程、材質上軟らかく変形し易いため、高純度Alを材料としたターゲット材の製造に本発明の加工方法が好適に用いることができる。
【0023】
削り工具10としては、例えば、エンドミル、ラジアスカッター、Rカッター等が挙げられ、削り工具10を設置する加工装置では、スパッタリングターゲット1を固定し、回転する削り工具10が移動して、スパッタリングターゲット1の角部を面取り加工する。このタイプの加工装置としては、例えば、フライス盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等が挙げられる。
【0024】
フライス盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等の加工装置に用いる削り工具10は、軸11a回りに回転可能な軸部11と、軸部11の先端に設けられた刃部12とを有する。刃部12の中心軸は、軸部11の軸11aと一致する。刃部12は軸11a周りに対し、2個、3個と独立して存在しても良いし、連続的に存在しても良い。また、刃部12は軸部11に一体形成されていても良いし、交換可能なチップの形で形成されても良い。削り工具10は、軸11aがスパッタリングターゲット1の厚み方向に一致するように、スパッタリングターゲット1に対して配置される。そして、削り工具10は、軸11a回りに回転しながらスパッタリングターゲット1のスパッタリング面2の周囲方向(角部4の延在方向)に移動して、削り工具10の刃部12が、スパッタリングターゲット1の角部4を切削していく。これにより、角部4が、R面5に面取りされる。
【0025】
図3は、
図2の拡大断面図である。
図3に示すように、刃部12の外周面は、軸11aに沿った断面において、後端から先端に延在する円弧状の凹曲面20を含む。凹曲面20は、軸11aを中心軸として形成され、2個、3個と独立して存在しても良いし、連続的に存在しても良い。また、刃部12は軸部11に一体形成されていても良いし、交換可能なチップの形で形成されても良い。凹曲面20は、真円の1/4の円弧面である。凹曲面20は、先端側の第1端21と後端側の第2端22とを含む。先端側とは、スパッタリングターゲット1の側面3側を加工する側をいい、後端側とは、スパッタリングターゲット1のスパッタリング面2側を加工する側をいう。
【0026】
さらに、刃部12の外周面は、軸11aと平行な側面30を含む。刃部12は、軸11aと交差する先端面31を含む。凹曲面20の第1端21は、先端面31に接続される。凹曲面20の第2端22は、側面30に接続される。
【0027】
軸11a周りに対し設置される刃物の数は2〜4個が好ましく、適用できる加工条件としては、回転数100〜10000rpm、工具送り速度100〜3000mm/minに設定することが好ましい。
【0028】
次に、スパッタリングターゲット1を加工する方法について説明する。
【0029】
図3に示すように、削り工具10を、軸11a回りに回転して、刃部12の凹曲面20により、スパッタリングターゲット1の角部を、円弧状の目標のR面105に近づくように面取りして、R面5を形成し、スパッタリングターゲット1を加工する。ここで、目標のR面105を、
図3中、二点鎖線にて示す。目標のR面105の曲率半径Rbは、予め定められた値である。
【0030】
ここで、軸11aに沿った断面において、刃部12の凹曲面20の曲率半径Raを、スパッタリングターゲット1の目標のR面105の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、刃部12の凹曲面20の両端21,22を、スパッタリングターゲット1から離れるようにして、スパッタリングターゲット1の角部を面取りする。これにより、スパッタリングターゲット1のR面5の曲率半径は、刃部12の凹曲面20の曲率半径Raと同じになる。凹曲面20の両端21,22とスパッタリングターゲット1との間に、隙間dが生じる。なお、凹曲面20の両端21,22のそれぞれとスパッタリングターゲット1との間の隙間dを異ならせてもよい。
【0031】
具体的に述べると、刃部12の凹曲面20の両端21,22をスパッタリングターゲット1から離れるようにして、スパッタリングターゲット1の角部を面取りするときの、刃部12の凹曲面20の半径Raの中心点を、第1中心点C1とする。このときの刃部12の凹曲面20の位置は、
図3中、実線で示す位置にある。
目標のRの中心点を中心点Cbとする。また、刃部12の凹曲面20が目標のRの両端部を通るように、スパッタリングターゲット1の角部を面取りするときの、刃部12の凹曲面20の曲率半径Raの中心点を、第2中心点C2とする。このときの刃部12の凹曲面20の位置は、
図3中、点線で示す位置にある。
そして、第1中心点C1を第2中心点C2よりもスパッタリングターゲット1の角部側にずらす。つまり、目標のRの中心点Cbを原点とした座標において、第2中心点C2を第1中心点C1に移す際の、第1中心点C1の目標のRの中心点Cbからの座標の水平方向と垂直方向のそれぞれのずれをa[mm]としたとき、
R面の切片L[mm]について、L=Rb−Ra{1−(Rb−a)
2/Ra
2}
1/2−aと表せ、Rb/2≦L≦Rb
を満たす。例えば、Ra=3.5mm、Rb=3mm、a=−0.4mmであるとき、Rb/2=1.5mm、L=2.6mm、Rb=3mmとなり、Rb/2≦L≦Rbを満たす。
【0032】
スパッタリングターゲット1のスパッタリング面2とスパッタリングターゲット1のR面5の端部のなす角θ[rad]について、
θ=π/2−cos
−1{1−(Rb−a)
2/Ra
2}
1/2と表せ、0≦θ≦π/6を満たす。例えば、Ra=3.5mm、Rb=3mm、a=−0.4mmであるとき、θ=0.24rad、π/6=0.52となり、0≦θ≦π/6を満たす。
刃部12の凹曲面20の端部22(角部)とスパッタリングターゲット1のスパッタリング面2の間隔d[mm]について、
d=Ra−Rb+aと表せ、0.05≦dを満たす。例えば、Ra=3.5mm、Rb=3mm、a=−0.4mmのとき、d=0.1mmとなり、0.05≦dを満たす。
ここで、aは、Cbを原点とし、C1がCbよりスパッタリングターゲットの内側にある場合は負の値、Cbより外側にある場合は正の値をとる。
【0033】
前記スパッタリングターゲット1の加工方法によれば、軸11aに沿った断面において、刃部12の凹曲面20の曲率半径Raを、目標のR面105の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、刃部12の凹曲面20の両端21,22を、スパッタリングターゲット1から離れるようにして、スパッタリングターゲット1の角部4を面取りする。これにより、スパッタリングターゲット1の角部4を刃部12の凹曲面20で切削してR面5に面取りするとき、R面5を目標のR面105に近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことを防止できる。
【0034】
前記スパッタリングターゲット1の加工方法によれば、Rb/2≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦π/6を満たし、かつ、0.05≦dを満たす。これにより、R面5を目標のR面105に一層近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことを一層防止できる。
更に、より好ましい範囲としては、2Rb/3≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦11π/90を満たし、かつ、0.1≦dを満たす。これにより、R面5を目標のR面105により一層近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことをより一層防止できる。
【0035】
要するに、凹曲面20における両端21,22を除く領域にて、スパッタリングターゲット1の角部4を切削することができて、R面5の表面を滑らかにできる。特に、R面5のスパッタリング面2側に傷が付くことを防止できるため、スパッタリングする際、つまり、基板とスパッタリングターゲット1との間に高電圧を印加する際、異常放電を引き起こすことを防止できる。このように、スパッタリングターゲット1の分野では、他の分野に比べて、面取りを厳密に行う必要があり、本発明は、スパッタリングターゲット1の特有の問題を解決することができる。
【0036】
さらに、スパッタリングターゲット1が、例えば2mや3mの長尺体であって、スパッタリングターゲット1に製品毎のバラツキが発生しても、刃部12の凹曲面20の両端21,22が、スパッタリングターゲット1に食い込むことを回避できる。
第1実施形態では、削り工具10を、軸11aがスパッタリングターゲット1の厚み方向に一致するように、スパッタリングターゲット1に対して配置させたが、軸11aをスパッタリング面2と平行となるように配置させ、スパッタリングターゲット1の長辺方向(角部4の延在方向)に移動させ、削り工具10の刃部12が、スパッタリングターゲット1の角部4を切削させてもよい。
【0037】
(第2実施形態)
図4は、本発明のスパッタリングターゲットの加工方法の第2実施形態を示す斜視図である。第2実施形態において、第1実施形態と同一の符号は、第1実施形態と同じ構成であるため、その説明を省略する。
【0038】
第1実施形態では、スパッタリングターゲットを固定し、回転する削り工具により、スパッタリングターゲットの角部を面取り加工するフライス盤、NCフライス盤、マシニングセンタ等の加工装置を例として説明したが、第2実施形態では、円板状または円筒状のスパッタリングターゲットを中心軸まわりに回転させて、削り工具の刃部を回転させずに、スパッタリングターゲットの角部を面取り加工する。
【0039】
図4に示すように、円板状のスパッタリングターゲット1Aを加工装置の回転部7に取り付け、回転部7を回転して、スパッタリングターゲット1Aを中心軸1a回りに回転させる。スパッタリングターゲット1Aを中心軸1aとは、スパッタリング面2に対して垂直に交差し、かつ、スパッタリング面2の中心を通過する直線である。面取り加工する加工装置としては、旋盤、NC旋盤等を用いることができる。
【0040】
その後、削り工具10の刃部12の凹曲面20により、回転しているスパッタリングターゲット1Aのスパッタリング面2と側面3とのなす角部4を、目標のR面に近づくように面取りする。具体的な面取り方法は、第1実施形態と同じである。削り工具10の刃部12の形状は、第1実施形態のフライス盤等の加工装置に用いる削り工具と同じ形状とすることができる。
【0041】
このように、スパッタリングターゲット1Aが円板状であるとき、旋盤、NC旋盤等の加工装置を用いることにより、効率よく加工することができ、かつ、R面へ傷が付くのを防止することができる。面取り加工時における、スパッタリングターゲット1Aの中心軸1a回りの回転数や削り工具10の刃部の送り速度は、スパッタリングターゲット1Aの材質に応じて適宜調整すればよく、通常、回転数は、5〜1000rpm、工具送り速度は、1mm/回転以下とすればよい。
【0042】
なお、円筒状のスパッタリングターゲットについても、円板状のスパッタリングターゲットと同様に加工することができる。つまり、円筒状のスパッタリングターゲットを中心軸回りに回転させて、削り工具により、スパッタリングターゲットの角部を面取り加工する。円筒状のスパッタリングターゲットでは、スパッタリング面は、円筒材の外周面から構成され、側面は、円筒材の厚み方向の面から構成される。円筒状のターゲットの中心軸とは、外周面と平行、かつ、側面の中心を通過する直線である。
円板状または円筒状のスパッタリングターゲットの面取り加工を行う際、削り工具の接近、接触の仕方は、削り工具の軸部が、スパッタリング面に対し垂直になるようにしても良いし、側面に対して垂直となるようにしてもよい。スパッタリングターゲットの形状や加工装置の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
(第3実施形態)
次に、スパッタリングターゲット製品の製造方法について説明する。第1実施形態または第2実施形態のスパッタリングターゲットの加工方法を用いてスパッタリングターゲットを加工して、スパッタリングターゲット製品を製造する。
【0044】
具体的に述べると、ターゲット材料を、例えば溶解や鋳造によって、直方体形状や円柱形状に形成した後、圧延加工や鍛造加工、押出加工などの塑性加工によって、板状や円筒状のスパッタリングターゲットを得る。その後、スパッタリングターゲットを前記加工方法により加工する。加工された板状のスパッタリングターゲットをバッキングプレートに接合して、スパッタリングターゲット製品を製造する。
【0045】
なお、前記加工方法による加工後および/または接合後のスパッタリングターゲットの表面を必要に応じて仕上げ加工しても良い。また、バッキングプレートを省略して、加工されたスパッタリングターゲットのみでスパッタリングターゲット製品を製造してもよい。また、接合後のスパッタリングターゲットに前記スパッタリングターゲットの加工方法を用いてスパッタリングターゲット製品を製造しても良い。また、円筒状のスパッタリングターゲットの場合、その端部のいずれか一方またはその両方に装置設置用のアダプターを溶接し取り付けてもよい。
【0046】
バッキングプレートは、導電性の材料から構成され、金属またはその合金などからなる。金属としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン等がある。スパッタリングターゲットとバッキングプレートの接合には、例えば、はんだが用いられる。はんだの材料としては、例えば、インジウム、スズ、亜鉛、鉛などの金属またはその合金などがある。
【0047】
したがって、スパッタリングターゲット製品の製造方法では、前記加工方法を用いているので、品質の向上したスパッタリングターゲット製品を得ることができる。
【0048】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
【0049】
(実施例1)
次に、スパッタリングターゲットの加工方法の実施例1を説明する。表1に実施例1を示す。表1では、削り工具10の半径Ra[mm]と、第1中心点C1の目標Rの中心点Cbからのずれa[mm]、第1中心点C1の第2中心点C2からのずれb[mm]を変化させたときの、切片L[mm]、R面5の角度θ[rad]、および、隙間d[mm]の関係を示す。ここで、bは、C2を原点とし、C1がC2よりスパッタリングターゲットの内側にある場合は負の値、C2より外側にある場合は正の値をとる。
【0051】
Raを、3mm、3.25mm、3.5mm、3.75mm、4mm、4.25mm、4.5mmと変化させる。Rbを3mmとする。また、各Raにおける第2中心点C2を基準に、bを、0mm、0.1mm、0.2mm、0.3mmと変化させる。
【0052】
切片L、R面の角度θ、隙間dについて、
図5のスパッタリングターゲット1の拡大図を用いて、説明する。
【0053】
目標のR面105を、二点鎖線にて示す。目標のR面105が対角線上の頂点と交差する円弧となる一辺Rbの正方形100を、点線にて示す。正方形100の四辺のうちのスパッタリングターゲット1の外側に位置する第1辺101は、スパッタリング面2に接する。
【0054】
切片L、角度θについて説明する。第1辺101においてR面5の外側に位置する部分の長さを、切片Lとする。第1辺101においてR面5の外側に位置する部分と、R面5との間の成す角度を、R面の角度θとする。
【0055】
隙間dについて説明する。
図3に示すように、凹曲面20の両端21,22とスパッタリングターゲット1の間の距離を、隙間dとする。
【0056】
表1をもとに表2から表4を作成した。表2は、Raおよびbと切片Lとの関係を示し、表3は、RaおよびbとR面の角度θとの関係を示し、表4は、Raおよびbと隙間dとの関係を示す。
【0060】
表2から表4において、枠に囲まれた範囲が、凹曲面20の両端21,22とスパッタリングターゲット1の間の距離を確保しつつ、R面5を目標のR面105に近づけることができた範囲である。
表2と表3において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したLとθの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、それらの好ましい範囲である。
表4において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したdの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、その好ましい範囲である。さらに、2点鎖線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての規定範囲が重なる範囲であり、点線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての好ましい範囲が重なる範囲である。
【0061】
表4に示すように、Ra=3、b=0のとき、間隔d=0.00となっており、刃部12の凹曲面20の両端21,22が、スパッタリングターゲット1に接する状態であるが、加工処理時のスパッタリングターゲット1の材質の歪みや刃部12の振れ等の僅かなバラツキにより、刃部12の凹曲面20の両端21,22が食い込んでスパッタリングターゲット1に傷が付く可能性が極めて高いことが判った。そのため、間隔dを0.05以上と設定することにより、材質の撓みや刃部12の振れが生じても、刃物12が両端21、22がスパッタリングターゲット1への接触や食い込みを抑え、傷が付くことを防ぐことができる。
【0062】
したがって、表1から表4に示すように、Rb/2≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦π/6を満たし、かつ、0.05≦dを満たすとき、R面5を目標のR面105に近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことを防止できる。
【0063】
(実施例2)
次に、スパッタリングターゲットの加工方法の実施例2を説明する。実施例2は、実施例1と比べて、Ra,Rbの値が相違する。Raを、2mm、2.25mm、2.5mm、2.75mm、3mm、3.25mm、3.5mmと変化させる。Rbを2mmとする。
【0064】
表5は、Raおよびbと切片Lとの関係を示し、表6は、RaおよびbとR面の角度θとの関係を示し、表7は、Raおよびbと隙間dとの関係を示す。
【0068】
したがって、表5から表7に示すように、Rb/2≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦π/6を満たし、かつ、0.05≦dを満たすとき、R面5を目標のR面105に近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことを防止できる。
表5と表6において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したLとθの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、それらの好ましい範囲である。
表7において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したdの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、その好ましい範囲である。さらに、2点鎖線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての規定範囲が重なる範囲であり、点線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての好ましい範囲が重なる範囲である。
【0069】
(実施例3)
次に、スパッタリングターゲットの加工方法の実施例3を説明する。実施例3は、実施例1と比べて、Ra,Rbの値が相違する。Raを、4mm、4.25mm、4.5mm、4.75mm、5mm、5.25mm、5.5mmと変化させる。Rbを4mmとする。
【0070】
表8は、Raおよびbと切片Lとの関係を示し、表9は、RaおよびbとR面の角度θとの関係を示し、表10は、Raおよびbと隙間dとの関係を示す。
【0074】
したがって、表8から表10に示すように、Rb/2≦L≦Rbを満たし、かつ、0≦θ≦π/6を満たし、かつ、0.05≦dを満たすとき、R面5を目標のR面105に近づけることができ、かつ、R面5に傷が付くことを防止できる。
表8と表9において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したLとθの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、それらの好ましい範囲である。
表10において、実線で囲んだ領域が、本願実施形態で規定したdの範囲であり、1点鎖線で囲んだ領域が、その好ましい範囲である。さらに、2点鎖線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての規定範囲が重なる範囲であり、点線で囲んだ領域が、d、θ、Lの全ての好ましい範囲が重なる範囲である。
【0075】
(実験例)
次に、本願実施例の実験データについて説明する。純度99.999%の高純度Al製の圧延板を準備した。門型マシニングセンタに表面加工用のカッター、側面加工用のエンドミルを設置して切削加工を行ない、長辺が2300mmであり、短辺が190mmであるスパッタリングターゲット材を得た。そして、門型マシニングセンタにR加工用の切削工具(Rカッター)を固定して、回転数8000rpm、工具送り速度1000mm/minの加工条件でスパッタリングターゲット材の角部の加工を行ない、スパッタリングターゲットを得た。その際に、Ra=3.25、Rb=3、a=0.009(b=0.25)を設定して加工を行なった際、刃物の角部によるスパッタリングターゲットへの傷付き不良率は、0%だった。また、Ra=3.5、Rb=3、a=−0.369(b=0.1)を設定して加工を行なった際、刃物の角部によるスパッタリングターゲットへの傷付き不良率は0%だった。
【解決手段】軸に沿った断面において円弧状の凹曲面を含む刃部を有する削り工具を、軸回りに回転して、刃部の凹曲面により、スパッタリングターゲットのスパッタリング面と側面とのなす角部を、円弧状の目標のR面に近づくように面取りして、スパッタリングターゲットを加工する方法であって、軸に沿った断面において、刃部の凹曲面の曲率半径Raを、目標のR面の曲率半径Rbよりも大きくし、かつ、刃部の凹曲面の両端を、スパッタリングターゲットから離れるようにして、スパッタリングターゲットの角部を面取りする。