(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記極値をとる部分導体は、各層の前記第1部分導体が収容されたスロット端とステータの周方向に隣接する同相もしくは異相の第b(bは2以上の自然数)部分導体、または、当該部分導体に前後して接続される第b−3〜b−1部分導体のいずれか、または、当該部分導体に接続される第b+1〜b+3部分導体のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の多相交流電動機。
複数の相の前記第1部分導体のうちの少なくとも一の相の前記第1部分導体が前記ステータの径方向の一方の端部に配置され、それ以外の相の前記第1部分導体が前記ステータの径方向の他方の端部に配置されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多相交流電動機。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車に用いられる電動機は、環状の固定子鉄心(ステータ)に設けられるスロットに巻線を収容し、ステータから軸方向外部のコイルエンド部に巻線の一部が飛び出した形状をしている。
【0003】
近年、自動車のエンジンルーム内の容積を変えずに電動機を搭載したいという要求から、コイルエンド部も含めた電動機の小型化かつ高出力化が要求されている。このようなニーズに対応するために、コイルエンド部の長さを短縮して隣接する導体間の距離をできるだけ小さくすると、導体間に非常に高い電圧差が生じて部分放電による絶縁性能劣化が生じるという問題がある。
【0004】
部分放電による絶縁性能劣化について、実際の電動機の使用時を例に説明する。実際の電動機使用時には、電気的に直列接続されている同相のコイル同士の間にも電圧降下による電位差が生じる。特に、複数相のコイルがスター結線されて配置されているステータでは、複数相のコイルは中性点で接続されるとともに、各相の入力端子側から電流が入力される。このため、それぞれの入力端子側に近い各相の特定のコイルでは、インバータのスイッチング作用に基づいて、通常の交流電流で駆動する際の電圧よりも高い急峻なサージ電圧の発生により電圧が集中し、特定コイルでの分担電圧が上昇する場合がある。特に、近年ではインバータにおける損失を低減するために、スイッチングの高速化が図られ、このサージ電圧が増大、高周波化する傾向にある。この場合、特定のコイルと、このコイルと別のコイルとが同じスロット内で隣接している場合やコイルエンド部で近接している場合に、前述したサージ電圧の影響により、隣接コイル間の電位差が大きくなり、隣接するコイル間の電位差が部分放電開始電圧(PDIV: Partial Discharge Inception Voltage)を超えた場合に、コイル間で部分放電が生じ、コイル間の絶縁部が劣化する。すなわちコイルの絶縁寿命が短くなる可能性がある。
【0005】
この問題に対し、スロット内に絶縁紙を設けて、絶縁紙により複数のコイル間を仕切ることも考えられる。しかし、このような方法では、スロット内のコイル占積率が低下したり、スロットの長さが長くなったりすることで、電動機のサイズが大きくなる原因となる。また、スロット内に絶縁紙を挿入すると、スロット内でステータの径方向内端部に設けられるスロット先端隙と呼ばれる空間が減少し、銅渦損が増加する可能性もある。この場合、電動機の損失が増大し、電動機を走行用モータ等として使用するハイブリッド車両等の車両の燃費が悪化したり、コイルのうち、スロットの最内周部に配置される部分を含む部分で損失が増大し、コイル温度上昇を招いたりする可能性もある。
【0006】
一方、スロット内要素の周囲に設ける絶縁層の全体を含むすべてのコイルを、従来使用されているものよりも低誘電率の絶縁層により構成することも考えられる。しかし、このような方法では、ステータの製造コストが増加する可能性がある。
【0007】
そこで、これらの問題を解決するため、例えば、特許文献1には、各相のコイルを形成する複数の部分コイルのうち、電位の高い入出力端子側に接続されるコイルのスロット内導体部を、各相スロット群のうち周方向端位置以外のスロットに収容することで、同相スロット内では同相の入出力端子側コイルと電位の低い中性点側コイルが隣接し、スロット外部では異なる相の電位の高い入力端子側コイルと電位の低い中性点側コイルが隣接するようなスロットへのコイル収容方法を実施することで同相コイル間および他相コイル間同士の電位差を小さくし、絶縁性能を向上させる技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、第1誘電率を有する第1絶縁被膜を含むコイルを収容する基準スロットと、最も電位が高くなる入力端子側コイルに第1誘電率よりも低い第2誘電率を有する被膜を設けて基準スロットとは別のスロットに収容することで、コイル間の電圧を低減する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年は、前述のようにインバータの損失を低減するために、スイッチングの高速化が図られ、サージ電圧の増加や高周波化する傾向にある。
【0011】
一般に、インバータサージ電圧は、商用周波数の正弦波電圧に比較すると波形に含まれる高調波成分が数十MHzの広帯域に亘ると言われている。このような高調波を含むサージが印加された場合、コイル内の電圧分布は商用周波数やインバータのキャリア周波数の数10kHzの周波数の電圧が印加された場合よりも複雑なものとなる。このため、単純に最も電位が高い入力端子側コイルと最も電位が低い中性点電位のコイルを隣接して電圧を低減する特許文献1の構成では、高周波のサージが印加された場合のコイルのスロット収容方法として最適とは言えず、部分的に導体間で高い電圧差を生じてしまう。また、特許文献2の構成では被膜材料がコイルの一部で異なることにより、製造方法の複雑化や低誘電率被膜を要するためコスト増加といった問題が生じる。
【0012】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、インバータスイッチングの高速化に伴う高周波化に起因する高調波を含むインバータサージが入力端子に印加された場合においても、高周波におけるコイル内の電位分布の特徴を活かし、占積率を下げることなく、同相間コイルまたは異相間コイルの電圧を低減し、部分放電を抑制することができ、製造が容易かつ低コストの多相交流電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、各相の巻線を分布巻きするとともにY結線したステータを備え、インバータによって駆動される多相交流電動機において、各相の巻線は入力端子に接続される入力側部分導体である第1部分導体と、中性点に接続される最終部分導体である第n(nは2以上の自然数)部分導体と、前記第1部分導体および前記第n部分導体の間に接続される中間部分導体である第2〜第n−1部分導体とを有し、各相の前記第1部分導体に対して前記ステータ内において隣接して配置される部分導体
の少なくとも一部、または、前記第1部分導体が前記スロットから外部に伸出するコイルエンド部に隣接して配置されるコイルエンド部を有する部分導体
の少なくとも一部は、以下の(1)〜(
2)のいずれかに記載の部分導体に該当する、(1)前記インバータからの交流電圧が印加された場合に、前記中間部分導体のうち、
ロータ内の永久磁石による磁束密度に起因して電圧が極値をとる同相または異相の第a(aは2以上の自然数)部分導体(2)前記極値をとる中間部分導体に接続される同相もしくは異相の第a−3〜第a−1部分導体のいずれかまたは同相もしくは異相の第a+1〜第a+3部分導体のいずれ
かことを特徴とする
このような構成によれば、インバータスイッチングの高速化に伴う高周波化に起因する高調波を含むインバータサージが入力端子に印加された場合においても、高周波におけるコイル内の電位分布の特徴を活かし、占積率を下げることなく、同相間コイルまたは異相間コイルの電圧を低減し、部分放電を抑制することができ、製造が容易かつ低コストの多相交流電動機を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、各相の前記第2部分導体または前記第3部分導体に対して前記ステータ内において隣接して配置される部分導体
の少なくとも一部、または、前記第
2部分導体または前記第3部分導体が前記スロットから外部に伸出するコイルエンド部に隣接して配置されるコイルエンド部を有する部分導体
の少なくとも一部は、前記(1)〜(
2)のいずれかに記載の部分導体に該当することを特徴とする。
このような構成によれば、第1部分導体に次いで電圧が高い第2部分導体および第3部分導体についても部分放電を抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、前記極値をとる部分導体は、各層の前記第1部分導体が収容されたスロット端とステータの周方向に隣接する同相もしくは異相の第b(bは2以上の自然数)部分導体、または、当該部分導体に前後して接続される第b−3〜b−1部分導体のいずれか、または、当該部分導体に接続される第b+1〜b+3部分導体のいずれかであることを特徴とする。
このような構成によれば、部分導体のスロットへの配置を容易に行うことができる。
【0016】
また、本発明は、複数の相の前記第1部分導体のうちの少なくとも一の相の前記第1部分導体が前記ステータの径方向の一方の端部に配置され、それ以外の相の前記第1部分導体が前記ステータの径方向の他方の端部に配置されることを特徴とする。
このような構成によれば、部分導体のスロットへの配置を容易に行うことができる。
【0017】
また、本発明は、前記各相の巻線の前記ステータの周方向に対する巻方向が全て同方向であることを特徴とする。
このような構成によれば、部分導体のスロットへの配置を容易に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、前記各相の巻線の前記ステータの周方向に対する巻方向の少なくとも1つが逆方向であることを特徴とする。
このような構成によれば、部分導体のスロットへの配置を容易に行うことができる。
【0019】
また、本発明は、前記第1部分導体が前記スロットから外部に伸出するコイルエンド部に隣接して配置されるコイルエンド部を有する部分導体
の少なくとも一部は、以下の(1)〜(
2)のいずれかに記載の部分導体に該当する、(1)各層の前記第1部分導体が収容されたスロット端とステータの周方向に隣接する同相もしくは異相の第b(bは2以上の自然数)部分導体(2)前記第b部分導体に前後して接続される第b−1部分導体もしくは第b+1部分導体のいずれ
かであることを特徴とする。
このような構成によれば、部分導体のスロットへの配置を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インバータスイッチングの高速化に伴う高周波化に起因する高調波を含むインバータサージが入力端子に印加された場合においても、高周波におけるコイル内の電位分布の特徴を活かし、占積率を下げることなく、同相間コイルまたは異相間コイルの電圧を低減し、部分放電を抑制することができ、製造が容易かつ低コストの多相交流電動機を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
(A)本発明の実施形態の説明
図1は、本発明の実施形態に係る多相交流電動機の構成例を示す図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る多相交流電動機10は、概略円筒形状に形成された固定子(ステータ)20と、このステータ20内に回転自在に収納されて軸心に一致する回転軸11に固設されている回転子(ロータ)15とを備えており、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車において、内燃機関と同様の駆動源として、あるいは車輪ホイール内への搭載に好適な性能を有している。
【0024】
図1および
図2に示すように、ステータ20には、ロータ15の外周面にギャップgを介して内周面側を対面させるように軸心の法線方向に延在する複数本のティース17が形成されたステータ部材16によって構成されている。ティース17間にはスロット18が形成され、内部に対面収納されているロータ15を回転駆動させる磁束を発生するための3相巻線を構成する部分導体19が分布巻によって巻きつけられている。ロータ15は、回転軸11の周囲にロータ部材12,13が配置され、ロータ部材13内に永久磁石14が埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)構造を有している。
【0025】
ティース17間の空間は、部分導体19を通して巻き掛けることにより巻線(コイル)を形成するためのスロット18を構成しており、本実施形態では8組(1対で1磁極)の永久磁石14側にそれぞれ6本のティース17が対面するように構成されている。つまり、一対の永久磁石14が構成する1磁極に6つのスロット18が対応するように構築されている。
図1および
図2に示す多相交流電動機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石14のN極とS極の表裏を交互にした8極48スロットで分布巻きされた3相のIPM電動機であり、各スロットにはステータ20の径方向に積層して巻線を構成する部分導体19を収容する12層の収容数を備えている。なお、磁極の数やスロット数、各スロットに設けられた巻線の部分導体を収容するステータ径方向に積層された収容数は、電動機により異なるため
図1および
図2に示すものに限定されるものではない。
【0026】
また、本実施形態ではステータ20のティース17に分布巻きされ、48個のスロット18に収容される巻線はそれぞれU相、V相、W相の3相からなり、中性点でスター結線されている。各相の巻線はそれぞれ複数の部分導体19からなり、スロット18から延出された部分導体の端末部が隣接する部分導体の端末部と接合されて構成されるセグメントコイルから成る。また、この巻線は入力端子側に接続された入力側部分導体である各第1部分導体と、中性点に接続され最終部分導体である各第n部分導体(nは2以上の自然数)と、第1部分導体と第n部分導体との間に直列に接続された複数の中間部分導体である各第2部分導体〜第n−1部分導体を含む。
【0027】
図3は、
図1に示すスロット18に収容される部分導体19の態様を示す図である。
図3の横方向の番号1〜48は、スロット18のそれぞれに対して付与されたスロット番号であり、
図1に示すスロット18の反時計回りに1〜48スロットとされている。また、縦方向に示す番号12〜1は、スロット18内において、ロータ15側を1とし、スロット18の最奥部を12とする層番号である。なお、
図3では、視認性を向上するために、第1〜第24スロットと、第25〜第48スロットの2つに分割して示している。また、表の要素として格納されているU、V、Wとそれに続く1〜48の数字は、U、V、W相の部分導体を示している。例えば、U相は、1〜16の部分導体によって構成され、第1スロット第12層に収容されるU1を入力側部分導体とし、第7スロット第11層(U1)、・・・、第19スロット第1層(U1)、第13スロット第12層(U2)、・・・、第10スロット第1層(U16)を介して中性点に接続される。V相は、17〜31の部分導体によって構成され、第5スロット第12層に収容されるV17を入力側部分導体とし、第11スロット第11層(V17)、・・・、第23スロット第1層(V17)、第17スロット第12層(V18)、・・・、第14スロット第1層(V32)を介して中性点に接続される。W相は、32〜48の部分導体によって構成され、第9スロット第12層に収容されるW33を入力側部分導体とし、第15スロット第11層(W33)、・・・、第27スロット第1層(W33)、第21スロット第12層(W34)、・・・、第18スロット第1層(W48)を介して中性点に接続される。
【0028】
なお、以下では、解析で使用した電動機の全体構造を、
図4に示す1/4モデル(すなわちスロット数12、n=48)とした場合を例に挙げて説明する。
図4の例では、
図1に示す全体モデルを1/4に分割したモデルとなっている。なお、
図4に示すように、スロット18は、反時計方向に第1〜第12スロットとされ、また、スロット18に収容される部分導体19は、ロータ15側が第1層とされ、スロット18の最奥部が第12層とされている。
【0029】
図5は、従来の方法によって、
図4の1/4モデルのスロット18に対して収容される部分導体19の態様を示す図である。
図5において、1行目の番号1〜12は、スロット番号であり、どのスロットに該当するかを示す番号であり、
図5の左側から順に第1〜第12スロットとしている。また、1列目の番号1〜12は層番号であり、スロット18内に収容される部分導体がステータ20の径方向に積層される多数の収容部の内、どの収容部に収容されるかを示す番号であり、ステータ20の径方向の最も内側の収容部を第1層とし、ステータ20の径方向の最も外側の収容部を第12層としている。また、U1〜U48はU相巻線の部分導体を入力端子側に接続される入力側部分導体U1から順に示し、U1に直列接続されている中間部分導体U2〜U47、および、中性点に接続される最終部分導体であるU48を示すと同時にそれらの部分導体が収容される位置を示している。同様にV1〜V48およびW1〜W48はそれぞれV相およびW相の入力側部分導体、中間部分導体、最終部分導体とその収容位置を表している。
【0030】
図5に示す従来の例では、第1スロット第12層にU相の入力側部分導体U1が収容され、同様に第5スロット第12層にV相の入力側部分導体V1が収容され、第9スロット第12層にW相の入力側部分導体W1が収容されている。また、第10スロット第1層にU層の最終部分導体U48が収容され、第2スロット第1層にV層の最終部分導体W48が収容され、第6スロット第1層にW層の最終部分導体W48が収容されている。そして部分導体U48,V48,W48はエンドコイル部において中性点接続されている。また、第1スロット第12層に収容された入力側接続部分導体U1に連なる中間部分導体U2が1磁極ピッチ(6スロット)離れ、1つ内層側の第7スロット第11層に収容され、続く中間部分導体U3は第1スロットに戻り、1つ内層側の第1スロット第10層に収容される。このように、中間部分導体は最外層12層から最内層1層に向かい、1磁極ピッチ離れた2つの収容部を交互に順次収容される。そして、最内層まで収容された中間部分導体U12に連なる中間部分導体U13は、再度最外層12層に戻り、かつ入力側部分導体U1から中間部分導体U2へのステータ20の周方向の巻き方向と同方向に1スロットずれた第2スロット第12層に収容され、以後、同様に規則的に中間導体が各収容部に収容され、最終部分導体であるU48が第10スロット第1層に収容される。V相、W相についても同様の方法で規則的に巻かれ、各部分導体が各収容部に収容される。
【0031】
図5に示す方法で巻かれた従来の巻線について、入力側部分導体から最終部分導体までの電位分布を解析した結果と実測した結果を
図6に示す。解析および実測の周波数は電動機の定常運転時の周波数を想定した1kHzと、インバータの高速スイッチングによる数MHzの高調波を含むサージ電圧が入力端子に印加された場合を想定して10MHzで実施した。また、参考として10kHzと1MHzの解析結果も示す。電位分布の実測には8極48スロットの電動機を使用し、1/4モデルと等価なスロット収容部に収容された部分導体と中性点に電圧測定プローブを接続し、入力端子と中性点に所定の周波数で交流電圧を印加して電位測定を行った。
【0032】
解析には磁界解析を使用して1/4モデルで所定の周波数の電位分布の解析を実施した。
図6に示す解析と実測の結果は各相の位相がそれぞれU相90°,V相330°,W相210°の場合のU相の結果である。
図6の横軸は各部分導体U1〜U48を示し、縦軸には各部分導体の入力側電位を入力電位との比で表している。1kHzの場合、解析および実測値ともに入力側部分導体(U1)から最終部分導体(U48)にかけて単調に減少している。一方、10MHzの場合は単調な減少傾向は見られず、U13,U25,U37において極値を有する電位分布が生じている。この極値が生じている位置は、ステータ20の径方向の最外層である第12層の収容位置にあたる。
【0033】
この電位分布に極値が生じる理由を調査するため、磁束密度分布について解析した結果を
図7と
図8に示す。
図7および
図8の磁束密度分布の解析結果から、各スロット内において、内層側、特に、最内層で外層側に比べ磁束密度が高く、この傾向は1kHzよりも10MHzの方が顕著である。これはロータ15に埋め込まれた永久磁石14の影響であると考えられ、1kHzおよび10MHzともに永久磁石14が対向していないスロット18内では磁束密度がほぼ均一であることからも明らかである。また、10MHzの場合、1kHzよりも高周波化し、単位時間当たりの磁束の変化が増し、発生する逆起電力が増加するので磁束密度分布が顕著になっていると考えられる。この磁束密度分布の解析結果から、
図6の10MHzの電位分布の結果において、最内層に配置される部分導体U13,U25,U37において電位分布が極値を取る原因が、高周波化による逆起電力の増加によるものと考えられる。
【0034】
近年では、効率改善のためにインバータのスイッチングが高周波化される傾向にあるので、数MHzの高調波を含むサージ電圧が入力端子に印加された場合、
図6に示すように電動機の定常状態の1kHzにおける単調減少する電位分布では無く、
図6に示す10MHzの様な特定の位置で極値を取る電位分布が巻線内に生じることが予想される。また、
図6から、kHzオーダの周波数では、入力側端子から中性点に向かって単調に減少する電位分布となるが、MHzオーダの高周波数では、前述のような特定の位置で極値を取る電位分布を生じる傾向があることが測定から分かった。
【0035】
本願発明者は、高周波のサージ電圧が印加された場合の電圧分布を基に、他相間あるいは同相間の巻線間に生じる電圧を低減し、部分放電を抑制する構造について検討した。前述したように、入力される周波数がMHzオーダの高周波になると、ステータ20の径方向の最も内側のスロット端に収容されている部分導体の電位が極値を取るような電位分布となる。特に、入力側部分導体(U相の場合U1)とステータ20の周方向に隣接する中間部分導体(U相の場合U13)は中性点電位付近まで電位が低下する傾向にある。つまり、入力側部分導体(U相の場合U1)と、ステータ20の周方向に隣接する中間部分導体(U相の場合U13)は他相との電位差が小さくなる傾向にある。また、その部分導体(U相の場合U13)に連なる部分導体(U相の場合U10〜U16等)も比較的、中性点電位に近く、他相との電位差が小さくなると考えられる。また、高周波においても中性点側に接続される中間コイルである最終部分導体(U相の場合U48)とそれに連なる中間部分導体(U相の場合U45,U46,U47等)も他相との電位差を小さくできる。
【0036】
以上のような、高周波における電位分布特性を利用し、入力側部分導体と、この入力側部分導体とステータ20の周方向に隣接して配置される中間部分導体、あるいはその部分導体に連なる中間部分導体、あるいは中性点側部分導体、あるいは中性点側部分導体に連なる部分導体とを隣接させて巻線の各部分導体を収容することで、他相との電圧差を低減し、部分放電を抑制する本実施形態に係る巻線の導体収容方法を
図9に示す。本実施形態では、8極48スロットの1/4モデルの場合、U相の入力側部分導体U1は第1スロット第12層に収容され、V相の入力側部分導体V1は第8スロット第12層に収容され、W相の入力側部分導体W1は第3スロット第1層に収容される。また、中性点に接続されるU相の最終部分導体U48は第10スロット第1層に収容され、V相の最終部分導体V48は第11スロット第1層に収容され、W相の最終部分導体W48は第12スロット第12層に収容され、U48,V48,W48はコイルエンド部にて中性点に接続される。
【0037】
また、第1スロット第12層に収容された入力側部分導体U1に連なる中間部分導体U2は、1磁極ピッチ(6スロット)離れ、1つ内層側の第7スロット第11層に収容され、次に続く中間導体U3は第1スロットに戻り、1つ内層側の第1スロット第10層に収容される。このように、中間部分導体は最外層である第12層から最内層である第1層に向かい、1磁極ピッチ離れた2つの収容部に交互に順次収容される。そして、最内層まで収容された中間部分導体U12に連なる中間部分導体U13は、再度最外層である第12層に戻り、かつ入力側部分導体U1から中間部分導体U2へのステータ20の周方向の巻き方向と同方向に1スロットずれた第2スロット第12層に収容され、以後、同様に規則的に中間部分導体が各収容部に収容され、最終部分導体であるU48が第10スロット第1層に収容される。V相についてもU相の部分導体と同様に規則的に1磁極ピッチ毎に2つのスロットを交互にステータ20の径方向の最外層側から最内層側へと順次収容されるが、異なる点は、U相が第1スロットから第4スロットのステータ20の周方向へ巻かれるのに対し、V相は第8スロットから第5スロットのステータ周方向へ巻かれ、部分導体が収容されている。また、W相についてもU相とW相と同様の方法で規則的に、各部分導体が各収容部に収容されているが、異なる点はU相、V相の入力側部分導体がステータ20の径方向の最外周側である第12層から最内周側である第1層に向かって1磁極ピッチ離れた2つのスロット間を順次、収容されるのに対し、W相の入力側部分導体はステータ20の径方向の最内周側である第1層から収容され、第3スロットから第6スロットのステータ周方向へと1磁極離れた2スロット間を順次、最内層側から最外層側へと巻かれ収容される。
【0038】
本実施形態では、
図9に示す態様で部分導体を収容するようにしたので、一般に、最も高電位になる入力側部分導体(U1,V1,W1)とスロット内で隣接する部分導体、または、スロット18外のコイルエンド部においてステータ20の径方向もしくは周方向に隣接する部分導体との電位差を小さくし、部分放電を抑制することができる。
【0039】
より詳細には、本実施形態では、入力側部分導体U1,V1,W1にスロット18内またはスロット18外においてコイルエンドにより隣接する部分導体として、
図6に示す極値を有する部分導体(例えば、部分導体U13,U37,V13,V37,W13,W37)、または、これら極値を有する部分導体に前後して接続される部分導体(例えば、部分導体U10〜U12,U14〜U16,V10〜V12,V14〜V16,W10〜W12,W14〜W16)、または、出力側部分導体U48,V48,W48、または、出力側部分導体に接続される部分導体(例えば、U45〜U47,V45〜V47,W45〜W47)を配置するようにした。これにより、最も電圧が高い入力側部分導体V1,U1,W1とスロット18内またはスロット18外において隣接する部分導体との電位差を抑制することができる。
【0040】
なお、
図9の例では、入力側部分導体U1に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体としては部分導体U13,V14,W48を配置し、入力側部分導体V1に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体としては部分導体U14,V13,W12を配置し、入力側部分導体W1に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体としては部分導体U35,V12,W13を配置している。
【0041】
また、
図9の例では、入力側部分導体U1に接続される部分導体U2に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U14,V13,V15,W47を配置し、部分導体U2に接続される部分導体U3に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U15,V14,V16,W46を配置している。同様に、入力側部分導体V1に接続される部分導体V2に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U13,U15,V14,W11を配置し、部分導体V2に接続される部分導体V3に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U14,U16,V15,W10を配置している。同様に、入力側部分導体W1に接続される部分導体W2に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U34,U36,V11,W14を配置し、部分導体W2に接続される部分導体W3に対してスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として部分導体U33,U35,V10,W15を配置している。
【0042】
このように、入力側部分導体U1,V1,W1およびこれらに接続される部分導体U2,U3,V2,V3,W2,W3が、スロット18内またはスロット18外において隣接する部分導体として(1)
図6に示す極値を有する部分導体U13,U37,V13,V37,W13,W37、(2)これらに前後して接続される部分導体U10〜U12,U14〜U16,V10〜V12,V14〜V16,W10〜W12,W14〜W16、(3)出力側部分導体U48,V48,W48、(4)出力側部分導体に接続される部分導体U45〜U47,V45〜V47,W45〜W47を選択するようにした。極値を有する部分導体は、
図6に示すように中性点電位に近いことから、入力側部分導体U1,V1,W1およびこれらに接続される部分導体U2,U3,V2,V3,W2,W3との間の電位差を小さくすることができる。
【0043】
図10および
図11は本発明の実施形態の効果を説明するための図である。より詳細には、
図10は、
図5に示す部分導体の収容方法における隣接する部分導体間の電位差を示し、
図11は、
図9に示す部分導体の収容方法における隣接する部分導体間の電位差を示している。
図10および
図11では、3相巻線の各相の入力端子に印加されるサージが1200V、周波数10MHz、U相の位相が30°,60°,90°,120°の場合に関して計算した結果である。なお、これらの図において、縦軸は相間の電圧を示し、横軸は対象となる隣接導体を示している。例えば、
図10の左端の棒グラフは、U相の位相が30°,60°,90°,120°の場合における部分導体U1と部分導体U13の間の電位差を示している。
図10と
図11の比較から、
図5に示す従来のスロット収容方法では入力側部分導体の最大相間電圧がU相の位相120°の場合のW相の入力側部分導体W1とU相の部分導体U26との相間電圧で1815Vであるのに対し、
図9に示す本実形態のスロット収容方法では、入力側部分導体の最大相間電圧がU相の位相120°の場合のU相の入力側部分導体U1とV相の部分導体V14との相間電圧で1446Vとなっている。この結果から、
図12に示すように、本実施形態では従来例と比較して、最大相間電圧を約20%低減できることがわかる。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態によれば電位が高い入力側部分導体U1,V1,W1にスロット18内またはスロット18外で隣接する部分導体として、(1)極値を有する部分導体、(2)極値を有する部分導体に前後して接続される部分導体、(3)出力側部分導体、(4)出力側部分導体に接続される部分導体のいずれかを配置するようにしたので、入力側部分導体U1,V1,W1と、隣接する部分導体との間の電位差を低減することができる。また、入力側部分導体U1,V1,W1に接続される部分導体U2〜U3,U2〜V3,W2〜W3に隣接する部分導体としても同様の部分導体を配置するようにしたので、部分導体U2〜U3,U2〜V3,W2〜W3とこれらに隣接する部分導体の間の電位差を低減することができる。これにより、効果的に部分放電を抑制することができる。また、インバータスイッチングの高速化に伴う高周波化に起因する高調波を含むインバータサージが入力端子に印加された場合においても、占積率を下げることなく、同相間コイルまたは異相間コイルの電圧を低減し、部分放電を抑制することができ、製造を容易にするとともに、コストを低減することができる。
【0045】
(D)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の実施形態では、スロット数を48とし、層数を12としたが、これ以外の数に設定可能であることはいうまでもない。
【0046】
また、
図9に示す部分導体の配置は一例であって、これ以外の配置になるようにしてもよいことはいうまでもない。例えば、
図9の例では、V相のみがステータ20の逆方向に巻回されるようにしたが、V相以外を逆方向に巻回するようにしたり、あるいは、全ての相を同方向に巻回したりするようにしてもよい。また、
図9の例では、W相のみ第1層に入力側部分導体W1を配置するようにしたが、W相以外の入力側部分導体を第1層に配置したり、全ての相の入力側部分導体を第1層または第12層に配置したり、あるいは、いずれか1層の入力側部分導体を第12層に配置するようにしてもよい。
【0047】
また、以上の実施形態では、10MHzの高周波電力を印加した場合における極値を用いて部分導体の配置を決定するようにしたが、本発明は10MHzに限定されるものではなく、インバータのスイッチング周波数に応じた極値を求め、求めた極値に応じて部分導体の配置を決定すればよい。
【0048】
また、以上の実施形態では、最終部分導体である部分導体U48,V48,W48または最終部分導体よりも前段に接続される部分導体U45〜U47,V45〜V47,W45〜W47も入力側部分導体U1,V1,W1または入力側部分導体に接続される部分導体U2〜U3,V2〜V3,W2〜W3に隣接して配置するようにしたが、場合によっては最終部分導体である部分導体U48,V48,W48または最終部分導体よりも前段に接続される部分導体U45〜U47,V45〜V47,W45〜W47については隣接して配置する対象から除外するようにしてもよい。すなわち、本発明の技術思想は、高周波電圧を印加した場合に、
図6に示すように中性点電圧に近い極値を有する部分導体が存在するので、これらの部分導体またはこれらの部分導体に接続される部分導体を、入力側部分導体または入力側部分導体に接続される部分導体に隣接して配置することで、部分放電を抑制するものである。このため、最終部分導体である部分導体または最終部分導体よりも前段に接続される部分導体については、必ずしも隣接配置する対象とする必要はないが、対象とすることを除外するものでもない。電動機の種類に応じて、最適な配置となるように設定すればよい。
【0049】
また、以上の実施形態では、極値を有する各相の部分導体を第a部分導体とした場合に、第a−3〜第a+3の範囲に該当する各相の部分導体を、各相の第1〜第3部分導体に隣接して配置するようにした。これは、第a+4および第a−4部分導体が、10MHzにおいて入力側部分導体に対して約75%程度の電位となっており(
図6)、配置を考慮しなくても20%以上の減衰が得られることから、第a−3〜第a+3の範囲としている。しかしながら、用途または周波数によっては、これよりも狭い範囲(例えば、第a−2〜第a+2の範囲の部分導体または第a−1〜第a+1の範囲)の部分導体を用いるようにしてもよい。もちろん、隣接する対象となる第1〜第3部分導体についても同様で、用途によってはこれよりも狭い範囲(例えば、第1〜第2部分導体または第1部分導体のみ)を対象とするようにしてもよい。