【実施例】
【0019】
図1は、本発明の一実施例としてのゲート駆動装置20の構成の概略を示す構成図である。ゲート駆動装置20は、電源VDCと接地との間に負荷10と共に直列に接続される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor,以下「IGBT」という)12のゲートGを駆動する装置として構成されている。ゲート駆動装置20は、プルアップ回路22と、プルダウン回路24と、信号調製回路30と、同期出力回路42,44と、IGBT12のコレクタ−エミッタ間の電流Icを検出する電流センサ70と、IGBT12のコレクタ−エミッタ(接地)間の電圧Vcを検出する電圧センサ72と、を備えている。なお、負荷10は、リアクトルLと、炭化ケイ素(SiC)により形成されリアクトルLに並列に接続されダイオードD1と、を備えている。負荷10と接地との間には、ダイオードD2がIGBT12に対して並列に接続されている。
【0020】
プルアップ回路22は、電源VDRIVEとIGBT12のゲートGとの間に並列に接続されるPチャネル金属酸化膜半導体(P-Channel Metal-Oxide Semiconductor、以下「PMOS」という)トランジスタP1〜P63を備えている。実施例では、電源VDRIVEには、10Vから18Vの電圧、好ましくは、15Vの電圧が供給されている。
【0021】
プルダウン回路24は、IGBT12のゲートGと接地との間に並列に接続されるNチャネル金属酸化膜半導体(N-Channel Metal-Oxide Semiconductor、以下「NMOS」という)トランジスタN1〜N63を備えている。
【0022】
信号調製回路30は、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタを特定するための6ビットのバイナリ信号BPMOSとNMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタを特定するための6ビットのバイナリ信号BNMOSとを生成するバイナリ信号生成部32と、バイナリ信号BPMOSで特定されたトランジスタがオンするようにPMOSトランジスタP1〜P63の各ゲートに出力するための63ビットのゲート信号NPMOSを生成すると共にバイナリ信号BNMOSで特定されたトランジスタがオンするようにNMOSトランジスタN1〜N63の各ゲートに出力するための63ビットのゲート信号NPMOSを生成するゲート信号生成部34と、を備えている。
【0023】
バイナリ信号生成部32は、クロック信号CKが入力されており、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数を予め定められた回数に亘って変化させるためにクロック信号CKの周期で変化するバイナリ信号BPMOS,BNMOS信号を1セットとしてゲート信号生成部34に出力している。なお、バイナリ信号生成部32には、電源として電源VDRIVEより低い電圧V(例えば、5Vなど)が供給されており、例えば5Vなどが供給されている。したがって、バイナリ信号BPMOS,BNMOSの振幅は5V程度になっている。
【0024】
ゲート信号生成部34は、バイナリ信号BPMOS,BNMOSおよびクロック信号CKの振幅を電源電圧VDRIVまで大きくするレベルシフタ36と、レベルシフタ36からのバイナリ信号BPMOSをサーモメータコードに変換(デコード)してゲート信号NPMOSとして出力するデコーダ38と、レベルシフタ36からのバイナリ信号BNMOSをサーモメータコードに変換(デコード)してゲート信号NNMOSとして出力するデコーダ39と、を備えている。
【0025】
図2は、デコーダ38の構成の一例を示す回路図である。デコーダ38は、6ビットのバイナリ信号を63ビットのサーモ−メータコードに変換するよう構成されており、図示するように、6ビットのバイナリ信号BPMOSの各ビット(図中BX1〜BX6)がそのままもしくは反転して入力される63個のAND回路A1〜A63と、62個のOR回路OR1〜OR62と、を備える。OR回路OR1〜OR61には、対応するAND回路A1〜A61の出力と対応する隣のOR回路OR2〜OR62の出力NX2〜NX63がそれぞれ入力されている。OR回路OR62には、AND回路A62,A63の出力が入力されている。デコーダ38は、OR回路OR1〜OR62の出力NX1〜NX62とAND回路A63の出力NX63を、ゲート信号NPMOSとして出力する。こうした構成により、ゲート信号NPMOSは、サーモメータコード(例えば、図示するようにNX1,NX2が値1でNX3〜NX63が全て値0となる出力)として生成される。デコーダ39は、デコーダ38と同様の構成であり、出力NX1〜NX63をゲート信号NNMOSとして出力する。こうした構成により、ゲート信号NNMOSは、サーモメータコードとして生成される。
【0026】
同期出力回路42は、63ビットのゲート信号NPMOSとクロック信号CKとを入力しクロック信号CKに同期した信号を出力するフリップフロップ50と、フリップフロップ50からの信号を増幅してPMOSトランジスタP1〜P63の各ゲートにクロック信号CKと同期する63ビットのゲート信号GPMOSを出力するプレドライバ52と、を備えている。プレドライバ52は、電源VDRIVEと、電源VDIVEより電圧Vd(例えば、1.2Vから5V、実施例では1.8V)だけ低い電圧が供給される電源VPD_PMOSと、の間に接続されている。これは、PMOSトランジスタP1〜P63の全てがオンしたときにプルアップ回路22に流れる電流が大きくなりすぎないよう調整するためである。こうして出力されるゲート信号GPMOSは、PMOSトランジスタP1〜P63のうちバイナリ信号BPMOSで特定されたトランジスタをオンしその他のトランジスタをオフする信号パターンとして生成されている。
【0027】
同期出力回路44は、同期出力回路42と同様の構成であり、ゲート信号NNMOSとクロック信号CKとが入力されるフリップフロップ54と、フリップフロップ54からの信号を増幅してNMOSトランジスタN1〜N63の各ゲートにクロック信号CKと同期する63ビットのゲート信号GNMOSを出力するプレドライバ56と、を備えている。プレドライバ56は、電圧Vdが供給される電源VPD_NMOSと接地との間に接続されており、NMOSトランジスタN1〜N63の全てがオンしたときにプルダウン回路24に流れる電流が大きくなりすぎないように調整している。こうして出力されるゲート信号GNMOSは、NMOSトランジスタN1〜N63のうちバイナリ信号BNMOSで特定されたトランジスタをオンしその他のトランジスタをオフする信号パターンとして生成されている。
【0028】
こうして構成されたゲート駆動装置20では、プルアップ回路22のPMOSトランジスタP1〜P63は、63ビットのゲート信号GPMOSで個別にオンまたはオフにされる。プルアップ回路22は、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数に応じたゲート電流をIGBT12のゲートに供給する。プルダウン回路24のNMOSトランジスタN1〜N63は、63ビットのゲート信号GNMOSで個別にオンまたはオフされる。プルダウン回路24は、NMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタの個数に応じたゲート電流をIGBT12のゲートに供給する。したがって、プルダウン回路24のNMOSトランジスタN1〜N63全てがオフとなりプルアップ回路22のPMOSトランジスタP1〜P63の少なくとも1つがオンとなるように調製したバイナリ信号BPNMOS,BNMOSをゲート信号生成部34に入力することにより、プルアップ回路22でIGBT12のゲート電圧を引き上げて(プルアップして)、IGBT12をオンすることができる。プルアップ回路22のPMOSトランジスタP1〜P63全てがオフとなりプルダウン回路24のNMOSトランジスタN1〜N63の少なくとも1つオンとなるように調製したバイナリ信号BPNMOS,BNMOSをゲート信号生成部34に入力することにより、プルダウン回路24でIGBT12のゲート電圧を引き下げて(プルダウンして)、IGBT12のオフすることができる。
【0029】
次に、こうして構成されたゲート駆動装置20の動作、特に、IGBT12をスイッチングする際の動作について説明する。最初に、IGBT12をオンする際の動作について説明し、次に、IGBT12をオフする際の動作について説明する。
図3は、IGBT12をオンする際のクロック信号CKと、バイナリ信号BPMOSと、ゲート信号NPMOSと、オンするPMOSトランジスタの個数Nponと、IGBTのゲート電圧Vgと、の時間変化の一例を示すタイミングチャートである。ここでは、説明のため、クロック信号CKは、IGBT12の立ち上がる時間として予め定めた立ち上がり時間Trで4回立ち上がる周波数、例えば、20MHz,25MHz,30MHzの信号としているが、時間Trで6回以上立ち上る周波数でもよく、9回立ち上がる周波数とするのが好ましい。立ち上がり時間Trは、IGBT12の特性に基づいて、ゲート電圧Vgを立ち上げ始めてから電流Icが負荷10に流れる負荷電流ILに落ち着くまでの時間として予め定められたものでよく、例えば、時間t1〜t5の時間としてもよい。ここで、バイナリ信号生成部32から出力されるバイナリ信号BPMOSは、立ち上がり時間Trの間に、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数を63個,20個,40個,63個と示すように4回に亘って信号のパターンが変化するものとしている。なお、IGBT12をオンする際には、バイナリ信号BNMOSは、NMOSトランジスタN1〜N63が全てオフとなるように調製されている。
【0030】
ゲート信号生成部34にバイナリ信号BPMOSが入力されると、ゲート信号生成部34は、変化するバイナリ信号BPMOSを1回の変化毎に順次ゲート信号NPMOSに変換して同期出力回路42に出力する。同期出力回路42は、クロック信号CKに同期させてゲート信号NPMOSを順次増幅してゲート信号GPMOSとして順次プルアップ回路22のPMOSトランジスタP1〜P63のゲートに出力し、PMOSトランジスタP1〜P63を個別にオンまたはオフにする。これにより、
図3に示すように、オンするPMOSトランジスタP1〜P63の個数Nponは、クロック信号CKに同期して63個,20個,40個のパターンで変化し、IGBT12のゲート電圧Vgが立ち上がる。IGBT12のゲート電圧Vgの波形は、IGBT12のゲート電圧Vgが立ち上がる間にオンするPMOSトランジスタの個数の変化のパターンやクロック信号CKの周波数を変更することにより変更できる。このように、実施例のゲート駆動装置20では、バイナリ信号BPMOSやクロック信号CKを変更することにより、IGBT12をオンする際のゲート電圧Vgの波形を細やかに制御することができる。
【0031】
ここで、PMOSトランジスタP1〜P63のオンオフの状態を立ち上がり時間Trで9回に亘って変化させる際のバイナリ信号BPMOSの生成について説明する。バイナリ信号生成部32は、最初に、予め記憶しているバイナリ信号BPMOSのセットをゲート信号生成部34に出力する。
図4に、予め記憶しているバイナリ信号BPMOSのセットをゲート信号生成部34に出力したときのIGBT12のゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電流Ic,ゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電圧Vc,個数Nponの時間変化の一例を示す。バイナリ信号BPMOSは、立ち上がり時間TrでPMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数が30個、50個、20個、25個、60個、10個、30個、50個、63個と変化するように立ち上がり時間Trで9回に亘って変化するように予め設定されている。バイナリ信号BPMOSを入力されたゲート信号生成部34は、バイナリ信号BPMOSをゲート信号NPMOSに変換して同期出力回路42に出力する。同期出力回路42は、クロック信号CKに同期して順次NMOS信号をPMOSトランジスタP1〜P63の各ゲートに出力し、図示するように、立ち上がり時間Trで回に亘ってPMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数Nponを変化させる。これにより、IGBT12のゲート電圧Vgがバイナリ信号BPMOSのパターンに応じた波形で立ち上がる。
【0032】
バイナリ信号生成部32は、バイナリ信号BPMOSのセットをゲート信号生成部34に出力している間に電流センサ70により検出された電流Icと電圧センサ72により検出された電圧Vcとに基づいて、電流Icのオーバーシュート量Inと、IGBT12がオンするときの電力損失Elossとを演算する。
図5は、IGBT12がオンするときの電流Icと、負荷10に流れる負荷電流ILと,電圧Vcの時間変化の一例を示す説明図である。オーバーシュート量Inは、図示するように、電流Icの最大値から負荷10に流れる負荷電流ILを減じた値である。電力損失Elossは、立ち上がり時間Trにおける電流Icと電圧Vcとの積の時間積分値である。そして、オーバーシュート量Inと電力損失Elossとを用いて次式(3)により評価関数fpobjを演算する。式(3)中、「a」は、重み付け定数であり、実施例では、0.6に設定される。
【0033】
【数1】
【0034】
続いて、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数Nponを変化させるパターンが変更されるようにバイナリ信号BPMOSを変更して、ゲート信号生成部34に出力する。これにより、PMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数を変化させるパターンが変更され、ゲート電圧Vgの波形が変化する。このとき、上述した評価関数fpobjを演算し、先に演算した評価関数fpobjと比較する。そして、評価関数fpobjが小さいほうのバイナリ信号BPMOSのパターンを低損失バイナリ信号パターンPlowとして記憶する。こうして、評価関数fpobjがより小さいバイナリ信号BPMOSのパターンを探索する。
図6は、評価関数fpobjがより小さいバイナリ信号BPMOSのパターンを探索している様子を模式的に示す説明図である。図示するように、評価関数fpobjの値は、探索を進める毎に点PF1から点PF2,点PF3と移動していく。そして、評価関数fpobjが最小となったときに探索を終了し、そのときの低損失バイナリ信号パターンPlowをバイナリ信号BPMOSのパターンとする。
図7は、低損失バイナリ信号パターンPlowをバイナリ信号BPMOSのパターンとしたときのIGBT12のゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電流Ic,ゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電圧Vc,個数Nponの時間変化の一例を示す。バイナリ信号生成部32は、こうして生成するパターンのバイナリ信号BPMOSを順次出力する。こうしてバイナリ信号BPMOSを生成することにより、IGBT12の電力損失Elossの抑制とオーバーシュート量Inの抑制とを両立させることができる。これにより、IGBT12をオンする際のスイッチング損失の増加を抑制することができる。
【0035】
次に、IGBT12をオフする際の動作について説明する。
図8は、IGBT12をオフする際のクロック信号CKと、バイナリ信号BNMOSと、ゲート信号NNMOSと、オンするNMOSトランジスタの個数Nnonと、IGBTのゲート電圧Vgと、の時間変化の一例を示すタイミングチャートである。ここでは、説明のため、クロック信号CKは、IGBT12の立ち下がる時間として予め定めた立ち下がり時間Tfで4回立ち上がる周波数、例えば、20MHz,25MHz,30MHzの信号としているが、立ち下がり時間Tfで5回以上立ち上る周波数でもよく、9回立ち上がる周波数とするのが好ましい。立ち上がり時間Tfは、IGBT12の特性に基づいて、ゲート電圧Vgを立ち上げ始めてからIGBT12のコレクタ−エミッタ間の電圧Vc(IGBT12と負荷10との接続点の電圧)が落ち着くまでの時間として予め定められたものでよく、例えば、時間t1〜t5の時間としてもよい。ここで、バイナリ信号生成部32から出力されるバイナリ信号BNMOSは、立ち下がり時間Tfの間に、NMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタの個数を63個,20個,40個,63個と示すように4回に亘って信号のパターンが変化するものとしている。なお、IGBT12をオフする際には、バイナリ信号BNMOSは、PMOSトランジスタP1〜P63が全てオフとなるように調製されている。なお、クロック信号CKは、IGBT12の立ち下がり時間Tfでの立ち下がり回数に拘わらず、IGBT12をオンする際に用いたものをそのまま用いてもよい。この場合、予め立ち下がり時間Tfの間でクロック信号CKが立ち上がる回数を記憶しておき、この回数で信号のパターンを変化させればよい
【0036】
ゲート信号生成部34にバイナリ信号BNMOSが入力されると、ゲート信号生成部34,同期出力回路44は、IGBT12をオンするときの動作と同様に、クロック信号CKに同期させてゲート信号NNMOSを順次増幅してゲート信号GNMOSとして順次プルダウン回路24のNMOSトランジスタN1〜N63のゲートに出力し、NMOSトランジスタN1〜N63を個別にオンまたはオフにする。これにより、
図8に示すように、オンするNMOSトランジスタN1〜N63の個数Nnonは、クロック信号CKに同期して63個,20個,40個のパターンで変化し、IGBT12のゲート電圧Vgが立ち下がる。IGBT12のゲート電圧Vgの波形は、IGBT12のゲート電圧Vgが立ち下がる間にオンするPMOSトランジスタの個数の変化のパターンやクロック信号CKの周波数を変更することにより変更できる。このように、実施例のゲート駆動装置20では、バイナリ信号BNMOSやクロック信号CKを変更することにより、IGBT12をオンする際のゲート電圧Vgの波形を細やかに制御することができる。
【0037】
ここで、NMOSトランジスタN1〜N63のオンオフの状態を立ち上がり時間Trで5回に亘って変化させる際のバイナリ信号BNMOSの生成について説明する。バイナリ信号生成部32は、最初に、予め記憶しているバイナリ信号BNMOSのセットをゲート信号生成部34に出力する。
図9に、予め記憶しているバイナリ信号BNMOSのセットをゲート信号生成部34に出力したときのIGBT12のゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電流Ic,ゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電圧Vc,個数Nnonの時間変化の一例を示す。バイナリ信号BNMOSは、立ち下がり時間TrでPMOSトランジスタP1〜P63のうちオンするトランジスタの個数が63個、63個、63個、63個、63個と変化するように、立ち下がり時間Tfで5回に亘って変化するように(63個で一定となるように)予め設定されている。バイナリ信号BNMOSを入力されたゲート信号生成部34は、バイナリ信号BNMOSをゲート信号NNMOSに変換して同期出力回路44に出力する。同期出力回路44は、クロック信号CKに同期して順次NNOS信号をNMOSトランジスタN1〜N63の各ゲートに出力し、図示するように、立ち下がり時間TfでNMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタの個数Nponを変化させる(実施例では、個数Nponを一定にしている)。これにより、IGBT12のゲート電圧Vgがバイナリ信号BNMOSのパターンに応じた波形で立ち上がる。
【0038】
バイナリ信号生成部32は、バイナリ信号BNMOSのセットをゲート信号生成部34に出力している間に電流センサ70により検出された電流Icと電圧センサ72により検出された電圧Vcとに基づいて、電圧Vcのオーバーシュート量Vnと、IGBT12がオフするときの電力損失E’lossとを演算する。
図10は、IGBT12がオフするときの電流Icと、負荷10に流れる負荷電流ILと,電圧Vcの時間変化の一例を示す説明図である。オーバーシュート量IVは、図示するように、電圧Vcの最大値から電圧Vcが落ち着いたときの値VLを減じた値である。電力損失E’lossは、立ち下がり時間Tfにおける電流Icと電圧Vcとの積の時間積分値である。そして、オーバーシュート量Vnと電力損失E’lossとを用いて次式(4)により評価関数fnobjを演算する。式(4)中、V'nとE'lossは評価演算のために規格化した値であり、V'n=(Vn-Vn,min)/(Vn,max-Vn,min)、E'loss=(Eloss-Eloss,min)/(Eloss,max-Eloss,min)である。実施例ではVn,min=50、Vn,max=166、Eloss,min=0.003021、Eloss,max=0.0149に設定される。
【0039】
【数2】
【0040】
続いて、NMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタの個数Nnonを変化させるパターンが変更されるようにバイナリ信号BNMOSを変更して、ゲート信号生成部34に出力する。これにより、NMOSトランジスタN1〜N63のうちオンするトランジスタの個数を変化させるパターンが変更され、ゲート電圧Vgの波形が変化する。このとき、上述した評価関数fnobjを演算し、先に演算した評価関数fnobjと比較する。そして、上述した評価関数fpobjの探索と同様な方法で、評価関数fnobjを探索する。
図11は、評価関数fnobjがより小さいバイナリ信号BNMOSのパターンを探索している様子を模式的に示す説明図である。なお、実線は、個数Nonを一定値とした場合の評価関数fnobjの変化を示している。評価関数fnobjの値は、探索を進める毎に点NF1から点NF2,点NF3と移動していく。
図12は、低損失バイナリ信号パターンNlowをバイナリ信号BNMOSのパターンとしたときのIGBT12のゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電流Ic,ゲート電圧Vg,コレクタ−エミッタ間の電圧Vc,個数Nnonの時間変化の一例を示す。バイナリ信号生成部32は、こうして生成するパターンのバイナリ信号BNMOSを順次出力する。こうしてバイナリ信号BNMOSを生成することにより、IGBT12の電力損失E’lossの抑制とオーバーシュート量Vnの抑制とを両立させることができる。これにより、IGBT12をオフする際のスイッチング損失の増加を抑制することができる。
【0041】
以上説明した実施例のゲート駆動装置20では、IGBT12をオンするときには、信号調製回路30は、プルアップ回路22のPMOSトランジスタP1〜P63のオンオフ状態を立ち上がり時間Trで複数回に亘って変化させるためのゲート信号NPMOSを生成し、同期出力回路42に入力する。生成したゲート信号NPMOS信号とクロック信号CKとを入力された同期出力回路42は、クロック信号CKに同期させてゲート信号NPMOSを順次増幅してPMOSトランジスタP1〜P63の各ゲートに出力し、クロック信号CKに同期してPMOSトランジスタP1〜P63を順次オンオフする。そして、IGBT12をオフするときには、信号調製回路30は、プルダウン回路24のNMOSトランジスタN1〜N63のオンオフ状態を立ち下がり時間Tfで複数回に亘って変化させるためのゲート信号NNMOSを生成し、同期出力回路44に入力する。生成したゲート信号NNMOS信号とクロック信号CKとを入力された同期出力回路44は、クロック信号CKに同期させてゲート信号NNMOSを順次増幅してNMOSトランジスタN1〜N63の各ゲートに出力し、クロック信号CKに同期してNMOSトランジスタN1〜N63を順次オンオフする。信号調製回路30は、IGBT12の電力損失と立ち上がり時間Trにおけるオーバーシュート量In,立ち下がり時間Tfにオーバーシュート量Vnが小さくなるように、ゲート信号NPMOS,NNMOSを調製しているから、IGBT12のスイッチング損失を抑制できる。
【0042】
実施例のゲート駆動装置20では、バイナリ信号生成部32は、評価関数fpobjが最小となるようにバイナリ信号BPMOSを生成しているが、電力損失Elossを所定損失以下とし、オーバーシュート量Inを所定量以下となるようにバイナリ信号BPMOSを生成してもよく、好ましくは、電力損失Elossを最小値とし、オーバーシュート量Inを最小値となるようにバイナリ信号BPMOSを生成すればよい。
【0043】
実施例のゲート駆動装置20では、バイナリ信号生成部32は、評価関数fnobjが最小となるようにバイナリ信号BNMOSを生成しているが、電力損失E’lossを所定損失以下とし、オーバーシュート量Vnを所定量以下となるようにバイナリ信号BNMOSを生成してもよく、好ましくは、電力損失E’lossを最小値とし、オーバーシュート量Vnを最小値となるようにバイナリ信号BNMOSを生成すればよい。
【0044】
実施例のゲート駆動装置20では、バイナリ信号生成部32で6ビットのバイナリ信号BPMOSを生成し、ゲート信号生成部34で6ビットのバイナリ信号BPMOSを63ビットのゲート信号NPMOSに変換しているが、バイナリ信号生成部32で生成するバイナリ信号BPMOSは6ビットに限定されるものではなく、例えば、バイナリ信号BPMOSをLビット(Lは、値1以上の整数)としてもよい。この場合、ゲート信号生成部34は、Lビットのバイナリ信号BPMOSを(2
L−1)ビットのゲート信号NPMOSに変換して出力するよう構成すればよい。また、バイナリ信号BPMOSと同様に、バイナリ信号生成部32で生成するバイナリ信号BNMOSは6ビットに限定されるものではなく、例えば、バイナリ信号BNMOSをJビット(Jは、値1以上の整数)としてもよい。この場合、ゲート信号生成部34は、Jビットのバイナリ信号BNMOSを(2
j−1)ビットのゲート信号NNMOSに変換して出力するよう構成すればよい。
【0045】
実施例のゲート駆動装置20では、信号調製回路30はバイナリ信号生成部32を備えているが、バイナリ信号生成部32を備えていないものとしてもよい。この場合、外部の信号生成器で生成されたバイナリ信号BPMOS,BNMOSをレベルシフタ36に入力すればよい。また、信号調製回路30自体を備えていないものとしてもよい。この場合、外部の信号生成器で生成されゲート信号NPMOS,NNMOSとクロック信号CKとを同期出力回路42,44に入力すればよい。
【0046】
実施例のゲート駆動装置20では、プルアップ回路22は63個のPMOSトランジスタP1〜P63を備え、プルダウン回路24は63個のNMOSトランジスタN1〜N63を備えるものとしたが、プルアップ回路22,プルダウン回路24のそれぞれが備えるPMOSトランジスタ,NMOSトランジスタの個数は適宜変更してもよく、プルアップ回路22のPMOSトランジスタの個数とプルダウン回路24のNMOSトランジスタの個数とは互いに異なる個数としてもよい。この場合、バイナリ信号BPMOS,BNMOS,ゲート信号NPMOS,NNMOS,GPMOS,GNMOSのビット数はプルアップ回路22,プルダウン回路24のそれぞれが備えるPMOSトランジスタ、NSMOトランジスタの個数に応じて適宜設定すればよい。
【0047】
実施例のゲート駆動装置20では、プルアップ回路22は63個のPMOSトランジスタP1〜P63を備え、プルダウン回路24は63個のNMOSトランジスタN1〜N63を備えるものとしている。プルダウン回路24を1個のNMOSトランジスタを備えるものとして、IGBT12をオフするときに、ゲート電圧Vgの電圧波形を立ち下がり時間Tfにおいて複数回変化させないものとしてもよいし、プルアップ回路22を1個のPMOSトランジスタを備えるものとして、IGBT12をオンするときに、ゲート電圧Vgの電圧波形を立ち上がり時間Trにおいて複数回変化させないものとしてもよい。
【0048】
実施例では、ゲート駆動装置20でIGBT12のゲートGを駆動しているが、駆動する対象としてはIGBT12とは異なるパワートランジスタ、例えば、パワーMOSFETなどとしても構わない。
【0049】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。